説明

軌道構造

【課題】踏切等において、レールが敷設された軌道用基礎の凹部内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込むことによる怪我や前記凹部内に木の枝等の障害物が入り込むことによる列車の走行妨害等の事故を未然に防止でき、また、列車走行時のレールの振動による騒音を一層軽減することができ、しかも、レール交換やボルトの締め増しが容易に行え、さらに、短時間施工に適している。
【解決手段】軌道用基礎1に形成された凹部2内にレール3を敷設したものからなる軌道構造において、レール3は、凹部2内にレール締結手段5を介して固定され、レール3が敷設された凹部2内には、樹脂からなる閉塞材9が入れられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道構造、特に、踏切等において、レールが敷設された軌道用基礎の凹部内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込むことによる怪我や前記凹部内に木の枝等の障害物が入り込むことによる列車の走行妨害等の事故を未然に防止でき、また、列車走行時のレールの振動による騒音を一層軽減することができ、しかも、レール交換やボルトの締め増しが容易に行え、さらに、短時間施工が可能である軌道構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
踏切等の軌道構造は、軌道用基礎に形成された凹部内にレールが敷設されているものからなるが、この一例(以下、この軌道構造を従来軌道構造Aという)を、図面を参照しながら説明する。
【0003】
図4は、従来軌道構造Aを示す断面図である。
【0004】
図4において、1は、コンクリート舗装等からなる軌道用基礎であり、軌道用基礎1の上面には、凹部2が形成され、凹部2内の中央部にレール3が敷かれている。レール3は、タイプレート11上にゴム板等からなる軌道パッド5を介してレール締結手段12により締結されている。軌道パッド5は、レール3の高さ調整機能、車輪(W)によるレール3の振動の吸収機能、および、車輪(W)の荷重分散機能等を有している。タイプレート11は、コイルばね13を介してボルト14およびナット15により凹部2内に固定されている。レール締結手段12は、Vばね16、クリップ17、ボルト18およびナット19からなり、クリップ17をレール3の底部3Aとタイプレート11とにあてがいVばね16を介してボルト18に螺合するナット19を締め付けることによって、レール3をタイプレート11上に軌道パッド5を介して締結する。凹部2の軌道内空間は、ゴムシュート20により塞がれ、凹部2の軌道外空間は、ゴム製の緩衝材21により塞がれている。なお、凹部2の軌道内空間および軌道外空間は、アスファルトにより塞がれている場合もある。
【0005】
上記従来軌道構造Aによれば、レール3は、レール締結手段12により強固に軌道用基礎1に締結されるが、部品数が多いのでレール3の締結に多大な費用と時間と労力を必要とする。しかも、レール3の大分部は露出しているので腐食しやすい。さらに、レール3からの騒音が多い。
【0006】
特許文献1(特許第3824948号公報)には、以下に示すような軌道構造が開示されている。以下、この軌道構造を従来軌道構造Bといい、図面を参照しながら説明する。
【0007】
図5は、従来軌道構造Bを示す断面図である。
【0008】
図5に示すように、従来軌道構造Bは、コンクリート舗装等からなる軌道用基礎1の上面に形成した凹部2内にレール3を敷設するために、レール3を収容した凹部2内にポリウレタン樹脂22を充填し、硬化させたものである。なお、図中、5は、ゴム板等からなる軌道パッド、23は、ポリウレタン樹脂22に埋め込まれたパイプであり、パイプ23内に信号ケーブル等を通すことができるようになっている。
【0009】
上記従来軌道構造Bによれば、レール3を収容した凹部2内にポリウレタン樹脂22を充填し、硬化させることによって、レール3が凹部2内に強固に固定されるので、従来軌道構造Aのようなレール締結手段が不要となる。従って、レール3の敷設作業が容易となる。しかも、一旦、ポリウレタン樹脂22が硬化すれば、レール3の位置ずれ等が生じないので、保守点検が容易となる。
【0010】
【特許文献1】特許第3824948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来軌道構造Bによれば、レール3を収容した軌道用基礎1の凹部2内にポリウレタン樹脂4が充填されているが、この目的は、あくまで機械的なレール締結手段を使用することなくレール3を凹部2内に強固に固定することにあり、しかも、以下のような問題がある。
【0012】
(1)レール3を強固に固定するためには、ポリウレタン樹脂22を軌道用基礎1の凹部2全体に隙間なく充填する必要があるが、細部にまで樹脂が行き渡らないことがあり、この場合には、レール3とポリウレタン樹脂22との間に隙間があき、レール3を強固に固定することができないばかりか、振動による騒音の原因となる。
【0013】
(2)レール3の交換時には、ポリウレタン樹脂22を凹部2内から完全に取り除く必要があるが、この除去作業に多大な時間と労力を要する。
【0014】
(3)長期間の使用によりレール3とポリウレタン樹脂22との間に隙間が生じた場合には、その部分のポリウレタン樹脂22を取り除き、改めてポリウレタン樹脂22を流し込む必要があるが、これに多大な時間と労力を要する。
【0015】
(4)凹部2およびレール3とポリウレタン樹脂22との接着強度を増すためには、プライマーを凹部2内に散布する必要があり、この作業に時間と労力を要する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本願発明者等は、従来軌道構造Bの有する上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下のような知見を得た。
【0017】
(a)レール締結手段によってレールを固定し、軌道用基礎の凹部内に列車の車輪に支障を来たさないレベルにまで樹脂等の閉塞材を入れて、凹部を閉塞すれば、凹部内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込んだり、木の枝等の障害物が入り込むことがなくなり、しかも、列車走行時のレールの振動は、閉塞材に吸収されるので、軌道パッドとの相乗効果により騒音が一層低減する。
【0018】
(b)レール締結手段によってレールを締結することにより、樹脂等の閉塞材が硬化する前であっても、列車の走行は可能であり、短時間施工に適している。
【0019】
(c)レール締結手段を使用するので、軌道用基礎の凹部内に入れる閉塞材には、レールの固定機能は必要とされず、単に、歩行者の足、自転車等の車輪、あるいは、木の枝等の障害物が凹部内に入り込むことを防止する機能を有していれば良い。従って、閉塞材に高い強度は必要なく、安価な材料を使用することができる。
【0020】
(d)閉塞材とレール締結手段とが直接接触しないように、閉塞材とレール締結手段とを保護手段により分離すれば、レール交換時等において、閉塞材を凹部から容易に取り除くことができる。
【0021】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであり、踏切等において、レールが敷設された軌道用基礎の凹部内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込むことによる怪我や前記凹部内に木の枝等の障害物が入り込むことによる列車の走行妨害等の事故を未然に防止でき、また、列車走行時のレールの振動による騒音を一層軽減することができ、しかも、レール交換やレール締結手段のボルトの締め増しが容易に行え、さらに、短時間施工が可能である軌道構造を提供することを目的とするものである。
【0022】
この発明は、上述の目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0023】
請求項1記載の発明は、軌道用基礎に形成された凹部内にレールを敷設したものからなる軌道構造において、前記レールは、前記凹部内にレール締結手段を介して固定され、前記レールが敷設された前記凹部内には、閉塞材が入れられていることに特徴を有するものである。
【0024】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記閉塞材は、樹脂からなることに特徴を有するものである。
【0025】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記閉塞材は、樹脂と前記樹脂以外の閉塞材とからなることに特徴を有するものである。
【0026】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、前記樹脂は、ポリウレタン樹脂以外の樹脂からなることに特徴を有するものである。
【0027】
請求項5記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記閉塞材は、弾性体からなることに特徴を有するものである。
【0028】
請求項6記載の発明は、請求項1から5の何れか1つに記載の発明において、前記レール締結手段の上部は、保護手段により覆われていることに特徴を有するものである。
【0029】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記保護手段は、シート状であることに特徴を有するものである。
【0030】
請求項8記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記保護手段は、粒状または塊状であることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、踏切等において、レールが敷設された軌道用基礎の凹部内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込むことによる怪我や前記凹部内に木の枝等の障害物が入り込むことによる列車の走行妨害等の事故を未然に防止でき、また、列車走行時のレールの振動による騒音を一層軽減することができ、しかも、レール交換やボルトの締め増し等が容易に行え、しかも、レールは、レール締結手段により締結されているので、樹脂等の閉塞材が硬化する前であっても、列車の走行は可能であり、短時間施工に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、この発明の軌道構造の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0033】
図1は、この発明の軌道構造を示す断面図である。
【0034】
図1において、1は、コンクリート舗装等からなる軌道用基礎であり、軌道用基礎1の上面には、凹部2が形成され、凹部2内の中央部には、レール3がレール締結手段4を介して敷設されている。レール3の底部3Aの下には、接着剤により接着されたゴム板等からなる軌道パッド5が敷かれている。軌道パッド5は、レール3の高さ調整機能、車輪(W)によるレール3の振動の吸収機能、および、車輪(W)の荷重分散機能等を有している。レール締結手段4は、板ばね6、ボルト7、ばね受台8とからなっている。板ばね6は、レール3の底部3Aとばね受台8との間に差し渡され、軌道用基礎1にねじ込まれるボルト7によってレール3を軌道用基礎1に固定する。ばね受台8は、板ばね6の一端を支承すると共に、レール3の左右方向の位置調整機能を有している。
【0035】
このように、軌道用基礎1の凹部2内にレール3が敷設された軌道構造は、踏切あるいは路面電車等に適用される。
【0036】
軌道用基礎1の凹部2内には、列車の車輪(W)に支障を来たさないレベルにまで樹脂製閉塞材9が充填され、レール3が敷設された凹部2を閉塞している。すなわち、閉塞材9は、凹部2の軌間内空間(図1中、左側)には、レール3の腹部3Bまで充填され、凹部2の軌間外空間(図1中、右側)には、レール3の頭部3Cの上面まで充填されている。
【0037】
レール3は、レール締結手段4により軌道用基礎1に固定されるので、閉塞材9には、レール3の固定機能はなくて良く、凹部2を閉塞して、歩行者の足、自転車等の車輪、あるいは、木の枝等の障害物が凹部2内に入り込むことを防止する機能を有していれば良い。
【0038】
従って、閉塞材9を構成する樹脂には、高い強度は要求されないので、樹脂中に気泡や異物が混入していても良いし、砂、砂利、コルク粒、ゴムチップ等の樹脂以外の閉塞材を混入させても良い。樹脂中に樹脂以外の閉塞材を混入させることによって、樹脂の使用量を減少させることができ、特に、コルク粒、ゴムチップを混入させれば、閉塞材9による振動吸収機能が一層増大する。
【0039】
使用する樹脂としては、ポリウレタン、あるいは、ポリウレタン以外の樹脂であっても良く、廃プラスチック等を使用することもできる。
【0040】
閉塞材9には、レール3の固定機能はなくて良いことから、樹脂以外にゴム等の弾性体であっても良く、この場合には、レールの振動吸収効果がさらに高まる。
【0041】
上述のように、凹部2内に樹脂を充填すると、樹脂がレール締結手段4の周囲に入り込むので、レール交換時等における樹脂の除去作業が問題となることがある。この場合には、図2に示すように、レール締結手段4の上部に保護手段10を被せて、樹脂とレール締結手段4とが直接接触しないように、レール締結手段4と樹脂とを分離すれば良い。
【0042】
保護手段10としては、図2に示すように、ビニールシート等のシート状のものの他、図3に示すように、砂、砂利、あるいは、これらの混合物であっても良い。
【0043】
この発明の軌道構造を構築するには、軌道用基礎1の凹部2内にレール3をレール締結手段4により敷設し、その後、凹部2内にポリウレタン等の樹脂を充填して、凹部2を閉塞する。樹脂は、あくまで、凹部2を閉塞するために充填されるものであるので、凹部2やレール3と接着させる必要がない。従って、プライマー散布等の予備処理は不要である。樹脂の充填レベルは、凹部2の軌間内空間(図2および図3中、左側)は、レール3の腹部3Bまでで、凹部2の軌間外空間(図2および図3中、右側)は、レール3の頭部3Cの上面までとする。
【0044】
このように、レール締結手段4によりレール3が固定された軌道用基礎1の凹部2内を樹脂等の閉塞材9により閉塞することによって、凹部2内に歩行者の足や自転車等の車輪が嵌まり込むことによる怪我や凹部2内に木の枝等の障害物が入り込むことによる列車の走行妨害等の事故を未然に防止できる。しかも、軌道パッド4と閉塞材9との相乗効果によって、列車走行時のレールの振動による騒音を一層軽減することができる。
【0045】
また、レール締結手段4の上部に保護手段10を被せて、樹脂等の閉塞材9がレール締結手段4の周囲に入り込まないようにすれば、閉塞材9を容易に除去できるので、レール交換やレール締結手段4のボルト7の締め増し等が容易に行える。
【0046】
しかも、レール3は、レール締結手段4により締結されているので、樹脂等の閉塞材9が硬化する前であっても、列車の走行は可能であり、短時間施工に適している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の軌道構造を示す断面図である。
【図2】この発明の別の軌道構造を示す断面図である。
【図3】この発明のさらに別の軌道構造を示す断面図である。
【図4】従来軌道構造Aを示す断面図である。
【図5】従来軌道構造Bを示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1:軌道用基礎
2:凹部
3:レール
3A:底部
3B:腹部
3C:頭部
4:レール締結手段
5:軌道パッド
6:板ばね
7:ボルト
8:ばね受台
9:閉塞材
10:保護手段
11:タイプレート
12:レール締結手段
13:コイルばね
14:ボルト
15:ナット
16:Vばね
17:クリップ
18:ボルト
19:ナット
20:ゴムシート
21:緩衝材
22:ポリウレタン樹脂
23:パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道用基礎に形成された凹部内にレールを敷設したものからなる軌道構造において、
前記レールは、前記凹部内にレール締結手段を介して固定され、前記レールが敷設された前記凹部内には、閉塞材が入れられていることを特徴とする軌道構造。
【請求項2】
前記閉塞材は、樹脂からなることを特徴とする、請求項1記載の軌道構造。
【請求項3】
前記閉塞材は、樹脂と前記樹脂以外の閉塞材とからなることを特徴とする、請求項1記載の軌道構造。
【請求項4】
前記樹脂は、ポリウレタン樹脂以外の樹脂からなることを特徴とする、請求項2または3記載の軌道構造。
【請求項5】
前記閉塞材は、弾性体からなることを特徴とする、請求項1記載の軌道構造。
【請求項6】
前記レール締結手段の上部は、保護手段により覆われていることを特徴とする、請求項1から5の何れか1つに記載の軌道構造。
【請求項7】
前記保護手段は、シート状であることを特徴とする、請求項6記載の軌道構造。
【請求項8】
前記保護手段は、粒状または塊状であることを特徴とする、請求項6記載の軌道構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−37754(P2010−37754A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199495(P2008−199495)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000230825)日本軌道工業株式会社 (14)