説明

軟弱地盤おける建物の基礎構造

【課題】軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じるのを抑制し、不同沈下が生じた場合でも、重量をバランス良く支持しながら建物の傾きを修正できる基礎構造を提供する。
【解決手段】軟弱地盤の上方に建築される建物11に不同沈下が生じた際に、建物11の傾きを修正できるようにした軟弱地盤おける建物11の基礎構造10であって、建物11の基礎地盤の表層部分に設けられる表層改良工法による基盤層12と、基盤層12の中央部分12aを支持して基礎地盤中に設けられる複数の柱状改良工法による支持杭13と、基盤層12の上方に重ねて配置されるべた基礎14とからなり、基盤層12は、支持杭13によって支持される中央部分12aが一段高くなっていて、べた基礎14の中央部分14aが載置されると共に、中央部分12a,14aの周囲の基盤層12とべた基礎14との間の隙間15には、調整砂16が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じた際に、建物の傾きを修正できるようにした軟弱地盤おける建物の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば後背湿地、臨海埋立地、三角州低地、おぼれ谷、海岸砂州等を構成する地盤は、泥炭質の地盤や圧密の進行の遅い地盤等によって形成されていることから、軟弱地盤となっている場合が多い。このような軟弱地盤は、地盤支持力が小さく、また引き続き圧密沈下を生じ易いことから、軟弱地盤の上方に建物を建築する場合には、鋼管杭や摩擦杭等の支持杭を設置する方法や、地盤改良を行う方法等、軟弱地盤対策として種々の工法が採用される(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平7−189249号公報
【特許文献2】特開平7−279184号公報
【特許文献3】特開2004−116156号公報
【特許文献4】特開2000−8398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、軟弱地盤は、その土質や層厚の変化等によってその地盤性状が均一ではなく、建物の建築後に圧密沈下が不均一に進行すると、建物に不同沈下(不等沈下)を生じ易い。また、地盤調査を綿密に行って、建物を建築した後の軟弱地盤の挙動を正確に把握することは経済的にも難しく、不同沈下を予め予測してその沈下量に応じた対策を前もって施すことは事実上困難である。従って、軟弱地盤対策として、建物の基礎部分の構造を不同沈下が生じ難い構造とするだけでなく、不同沈下が生じた際には、その沈下による傾きを事後的に修正できようにする技術の開発が望まれている。
【0004】
また、建物に不同沈下が生じた際に、ジャッキを用いて建物の傾きを修正する技術も開示されているが(例えば、特許文献4参照)、単に建物の沈下した部分をジャッキアップするだけでは、ジャッキによって建物の大きな重量を支持しつつ建物を持ち上げながら傾きを修正する必要があるため、作業が大掛りになると共に、建物全体のバランスをとりながら修正することが困難である。また持ち上げた建物の躯体部分を、基礎や土台と再び一体化する作業に多くの手間がかかり、一体化が不十分であると、安定性が損なわれ、耐震性等に問題を生じる場合もある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じるのを抑制できると共に、建物に不同沈下が生じた場合でも、建物の重量をバランス良く支持しながら傾きを修正することができ、且つ傾きの修正後も建物の安定性を容易に確保することのできる軟弱地盤おける建物の基礎構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じた際に、建物の傾きを修正できるようにした建物の基礎構造であって、前記建物の基礎地盤の表層部分に設けられる基盤層と、該基盤層の中央部分を支持して前記基礎地盤中に設けられる複数の支持杭と、前記基盤層の上方に重ねて配置されるべた基礎とからなり、前記基盤層は、前記支持杭によって支持される中央部分が一段高くなっていて、前記べた基礎の中央部分が載置されると共に、前記中央部分の周囲の前記基盤層と前記べた基礎との間の隙間には、調整砂が充填されている軟弱地盤おける建物の基礎構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0007】
また、本発明の軟弱地盤おける建物の基礎構造によれば、前記基盤層は、表層改良工法によって形成された面状固結体であり、前記支持杭は、柱状改良工法によって形成された柱状固結体であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明の軟弱地盤おける建物の基礎構造によれば、建物に不同沈下が生じた際に、前記中央部分を支点として高くなった部分の前記基盤層と前記べた基礎との間の調整砂を取り除くと共に、低くなった部分の前記基盤層と前記べた基礎との間に調整砂を加えることにより、建物の傾きを容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟弱地盤おける建物の基礎構造によれば、軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じるのを抑制できると共に、建物に不同沈下が生じた場合でも、建物の重量をバランス良く支持しながら傾きを修正することができ、且つ傾きの修正後も建物の安定性を容易に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1〜図3に示す本発明の好ましい一実施形態に係る軟弱地盤おける建物の基礎構造10は、例えば軟弱地盤の上方に盛土を施して形成された埋立造成地に、建物として例えば住宅建築物11を建築する際に、建築後の住宅建築物11に不同沈下が生じるの抑制すると共に、例えば数ヶ月〜数十年経過して住宅建築物11が不同沈下し、住宅建築物11が相当程度傾いた場合でも、このような傾きを速やかに修正できるようにするために、住宅建築物11の建築時に予め組み込まれて設けられるものである。
【0011】
ここで、軟弱地盤に圧密沈下が生じても、住宅建築物11の基礎地盤が均一に沈下すれば、不同沈下は生じることなく、住宅建築物11の内部での生活に及ぼす影響は少ないものと考えられる。一方、住宅建築物11の基礎地盤が不均一に沈下し、住宅建築物11に不同沈下が生じて例えば6/1000程度の許容範囲の傾きを超えて住宅建築物11が傾いた場合には、例えば住宅建築物11の基礎部分11aに亀裂が生じたり、ドアや窓の開閉が困難になったり、生活感覚に異常を感じたりする障害が発生する。本実施形態の基礎構造10は、住宅建築物11に不等沈下が生じた場合でも、住宅建築物11の傾きを容易にアジャストでき、また傾きの修正後に、安定して躯体部分を支持可能な基礎構造に速やかに復旧できる構成を備えるものである。
【0012】
なお、図1〜図3では、本実施形態の基礎構造10の要部として、住宅建築物11ついては躯体部分を省略して基礎部分11aのみが示されており、また本実施形態の基礎構造10が設置される軟弱地盤の上方に造成された埋立造成地盤は省略して示されている。さらに、本実施形態では、住宅建築物11の基礎部分11aは、略矩形の平面形状を備えるように簡略化して示されている。
【0013】
そして、本実施形態の軟弱地盤おける建物の基礎構造10は、軟弱地盤の上方に建築される住宅建築物11に不同沈下が生じた際に、住宅建築物11の傾きを修正できるようにした基礎構造であって、住宅建築物11の基礎地盤の表層部分に設けられる基盤層12と、この基盤層12の中央部分を支持して基礎地盤中に設けられる複数の支持杭13と、基盤層12の上方に重ねて配置されるべた基礎14とからなり、基盤層12は、支持杭13によって支持される中央部分12aが一段高くなっていて、べた基礎14の中央部分14aが載置されると共に、中央部分12a,14aの周囲の前記基盤層12とべた基礎14との間の隙間15には、調整砂16が充填されている。
【0014】
本実施形態の基礎構造10を構成する基盤層12は、好ましくは表層改良工法(浅層混合処理工法)によって形成された面状固結体として設けられている。表層改良工法は、改良地盤の表層部分の土砂に、例えば石灰、セメント等のセメント系固化材を混合し、例えば30〜50cm程度の層厚毎に攪拌と転厚を繰り返すことによって所望の厚さの地盤改良層を形成する公知の工法である。本実施形態では、基盤層12は、表層改良工法により、例えば住宅建築物11の基礎部分11aよりも一回り大きな矩形平面形状を有し、0.78m程度の厚さを有する面状固結体として形成される。また本実施形態では、面状固結体による矩形形状の基盤層12の中央部分12aは、図4にも示すように、これの周囲の部分よりも例えば100mm程度の高さで一段高くなった段差部となっている。この中央部分12aには、べた基礎14の中央部分14aが載置され、これらの中央部分12a,14aの周囲には、基盤層12とべた基礎14との間に100mm程度の隙間15が保持されることになる(図3参照)。
【0015】
基盤層14は、基礎地盤に対する広い接地面積によって、住宅建築物11の重量を分散しながら基礎地盤に均等に伝達し、住宅建築物11の沈下や不同沈下を効果的に抑制する機能を備えると共に、後述するように住宅建築物11の傾きを修正するためにべた基礎14をジャッキアップする際には、ジャッキの反力を受ける反力盤としても機能する。また、基盤層14は、地震時に地盤の液状化を抑制する表面拘束効果を発揮することも可能である。なお、基盤層14は、表層改良工法による面状固結体である必要は必ずしもなく、例えばコンクリートを用いて形成したり、鉄板を敷設して設けることもできる。
【0016】
本実施形態では、基盤層12の一段高くなった中央部分12aを下方から支持して基礎地盤中に設けられる支持杭13は、好ましくは柱状改良工法(深浅層混合処理工法)によって形成された柱状固結体として形成されている。柱状改良工法は、攪拌羽根が取り付けられた攪拌ロッドを所定の深さで地中に挿入し、例えばセメント等のセメント系固化材を噴射しつつ攪拌ロッドを回転して、柱状固結体を地中に形成する公知の工法である。本実施形態では、支持杭13は、柱状改良工法によって、例えばφ600、L=5.0mの杭径及び長さで、複数本、基盤層12の中央部分12aの下方の地盤中に築造される。
【0017】
支持杭13を基盤層12の中央部分12a下方の地盤中に設けることにより、軟弱地盤に建築される場合に建物の力が多く配分される住宅建築物11の中央部分を強くすることが可能になると共に、後述のように住宅建築物11の傾きを修正する際に、基盤層12の中央部分12aを下方から強固に支持して、てこの支点としてより効果的に機能させることが可能になる。なお、支持杭13の杭径、長さ、配設密度等は、住宅建築物11の大きさや基礎地盤の性状等に応じて適宜設計されるものである。また、支持杭13は、柱状改良工法によって形成された柱状固結体である必要は必ずしもなく、例えば砂杭や、RC杭、PC杭等であっても良い。支持杭13の施工は、基盤層12の施工に先立って行われることになる。
【0018】
本実施形態では、基盤層12の上方に重ねて配置されるべた基礎14は、コンクリートや鉄筋コンクリートからなり、例えば基盤層12を表層改良工法によって形成し、中央部分12aの周囲に調整砂16を敷均して上面を面一に仕上げた後に、型枠や、必要に応じて鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより、中央部分14aを基盤層12の中央部分12aに密着載置した状態で、容易に形成することができる。これによって、互いに密着する基盤層12とべた基礎14の中央部分12a,14aの周囲には、調整砂16が充填された状態で、基盤層12の上面とべた基礎14の下面との間に100mm程度の厚さの隙間15が保持されることになる。なお、べた基礎14の上面側には、住宅建築物11の躯体部分の間取り形状に合わせて、立上り壁17が立設して設けられる。また、立上り壁17の上面には、例えば土台が設置されると共に、さらに上方に躯体部分が組み立てられて、住宅建築物11が建築されることになる。
【0019】
中央部分12a,14aの周囲の基盤層12とべた基礎14との間の隙間15に充填される調整砂16は、例えば山砂、川砂、海砂等からなり、基盤層12を介在させて埋立造成地盤と分離されていることにより、ドライな状態で充填されることになる。これによって、地震時に地盤の液状化が生じても、この部分に波及しないようになっている。また、後述のように住宅建築物11の傾きを修正する際には、水やエアーを使用して、必要に応じて基盤層12とべた基礎14との間の隙間15から、調整砂16を容易に出し入れすることができるようになっている。なお、調整砂16の出し入れを水を使用して行った場合には、バキュームで水を吸い出したり、熱を与えて乾かすことにより、液状化が及ばないようにドライな状態に復旧させる。
【0020】
そして、上述の構成を備える本実施形態の軟弱地盤おける建物の基礎構造10によれば、軟弱地盤の上方に建築される住宅建築物11に不同沈下が生じるのを抑制できると共に、住宅建築物11に不同沈下が生じた場合でも、住宅建築物11の重量をバランス良く支持しながら傾きを修正することができ、且つ傾きの修正後も住宅建築物11の安定性を容易に確保することができる。
【0021】
すなわち、本実施形態によれば、住宅建築物11の基礎地盤の表層部分に設けられる基盤層12によって、住宅建築物11の重量を、分散しながら基礎地盤に広い範囲に亘って均等に伝達することができ、また基盤層12の中央部分12aの下方に設けられた支持杭13が、建物の力が多く配分される中央部分を強固に支持するので、住宅建築物11に沈下や不同沈下が生じるのを効果的に抑制することが可能になる。
【0022】
また、住宅建築物11に不同沈下が生じた際には、例えば基盤層12とべた基礎14との間の隙間15を介して必要箇所にジャッキをセットし、基盤層12とべた基礎14とが密着した中央部分12a,14aにおいて住宅建築物11からの荷重の大部分を支持しながら、ジャッキを伸縮しつつ中央部分12a,14aをてこの支点として、やじろべえ式に傾きを容易に修正することが可能になる。また中央部分12a,14aを支点として高くなった部分の隙間15の調整砂16を取り除くと共に、低くなった部分の隙間15に調整砂16を加えることにより、建物の傾きを調整することが可能になる。これらによって、住宅建築物11の重量をバランス良く支持しながら傾きを修正することが可能になり、傾きの修正後も、基盤層12とべた基礎14との間の隙間15に調整砂16を出し入れして調整砂16が充填された状態を保持することにより、住宅建築物11の安定性を容易に確保することが可能になる。
【0023】
さらに、本実施形態の建物の基礎構造10は、表層改良工法や柱状改良工法等の安価な公知の工法を採用して、経済的に施工することが可能である。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、建物の基礎部分及び基盤層は、略矩形の平面形状を備えている必要は必ずしもなく、建物の間取りに応じて種々の形状の基礎部分や基盤層とすることができる。また、建築される建物は、住宅建築物である必要は必ずしもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の好ましい一実施形態に係る基礎構造の要部を示す略示斜視図である。
【図2】本実施形態の好ましい一実施形態に係る基礎構造の要部を示す略示平面図である。
【図3】本実施形態の好ましい一実施形態に係る基礎構造の要部を示す略示側面図である。
【図4】基盤層の構成を説明する部分斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
10 軟弱地盤おける建物の基礎構造
11 住宅建築物(建物)
11a 住宅建築物の基礎部分
12 基盤層(表層改良工法による面状固結体)
12a 基盤層の中央部分
13 支持杭(柱状改良工法による柱状固結体)
14 べた基礎
14a べた基礎の中央部分
15 基盤層とべた基礎との間の隙間
16 調整砂
17 立上り壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟弱地盤の上方に建築される建物に不同沈下が生じた際に、建物の傾きを修正できるようにした建物の基礎構造であって、
前記建物の基礎地盤の表層部分に設けられる基盤層と、該基盤層の中央部分を支持して前記基礎地盤中に設けられる複数の支持杭と、前記基盤層の上方に重ねて配置されるべた基礎とからなり、
前記基盤層は、前記支持杭によって支持される中央部分が一段高くなっていて、前記べた基礎の中央部分が載置されると共に、前記中央部分の周囲の前記基盤層と前記べた基礎との間の隙間には、調整砂が充填されている軟弱地盤おける建物の基礎構造。
【請求項2】
前記基盤層は、表層改良工法によって形成された面状固結体であり、前記支持杭は、柱状改良工法によって形成された柱状固結体である請求項1に記載の軟弱地盤おける建物の基礎構造。
【請求項3】
建物に不同沈下が生じた際に、前記中央部分を支点として高くなった部分の前記基盤層と前記べた基礎との間の調整砂を取り除くと共に、低くなった部分の前記基盤層と前記べた基礎との間に調整砂を加えることにより、建物の傾きを調整する請求項1又は2に記載の軟弱地盤おける建物の基礎構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−120240(P2007−120240A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316749(P2005−316749)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】