説明

軟質ポリウレタン発泡体の製造方法

【課題】機械的物性を維持しつつ、優れた通気性を発揮することができる軟質ポリウレタン発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】軟質ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒、発泡剤及び補助発泡剤を含有する軟質ポリウレタン発泡体の原料を反応及び発泡させることにより製造される。その場合、補助発泡剤として液化炭酸ガスが、ポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部用いられる。また、触媒として金属触媒が用いられ、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部に設定される。さらに、イソシアネート指数が90〜108に設定される。前記触媒としては、泡化触媒であるアミン触媒が好ましい。該アミン触媒は、ゲル化触媒定数に対する泡化触媒定数の比が10×10−1〜40×10−1であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い通気性が要求される用途、例えばごみ取りフィルター、空調シート等を形成するための材料として使用される軟質ポリウレタン発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スラブ発泡法により製造される軟質ポリウレタン発泡体は連続気泡構造を有しており、ゴムスポンジやポリエチレン発泡体のような独立気泡構造を有する発泡体に比べて良好な通気性を発揮することができる。しかしながら、各種のごみ取りフィルター、自動車のシートクッションにエアコンを組み込んだ空調シート等の用途を考えた場合、空調機器への負荷を低減させるために、より高い通気性が求められる。従来、そのような高い通気性を有するポリウレタン発泡体を得る方法は、主に2つに分けられる。
【0003】
第1の方法は、ポリウレタン発泡体の製造後に後処理を施すものである。後処理としては、加熱処理、オゾン処理、アルカリ処理等の処理を行う方法、酸素及び水素を発泡体中に注入し、燃焼エネルギーによりセル膜を除去する方法などが挙げられる。この第1の方法は、発泡体のセル膜を完全に除去することができ、高い通気性が得られるが、発泡体自体の劣化を引き起こす場合があり、発泡体の耐久性が悪くなると共に、後処理のための大掛かりな設備を必要とし、生産効率が悪いという問題があった。
【0004】
そこで第2の方法はそのような後処理によらない方法で、ポリオール中にシリカゾルを混合する方法、ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールとを混合する方法、特殊ジオールを多量に用いる方法(例えば、特許文献1を参照)、さらに補助発泡剤として液化炭酸ガスを用いる方法(例えば、特許文献2を参照)などが挙げられる。特許文献2に記載されている方法は、補助発泡剤として液化炭酸ガスを用いると共に、イソシアネートインデックスを110〜120に設定するものである。
【特許文献1】特開平7−2970号公報(第2頁及び第5頁)
【特許文献2】特開2006−131755号公報(第2頁、第6頁及び第9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載されているような後処理によらない方法では、特殊ジオールを多量に用いるため、発泡安定性が阻害され、発泡体の破裂や崩壊が生じて良好な発泡体が得られない場合があると共に、特に量産スケールでの発泡の場合、発泡にばらつきが生じてセル膜が残りやすい傾向があり、得られる発泡体の通気性が低下する。また、特許文献2に記載の方法では、イソシアネートインデックスが高く設定されていることから、発泡体の架橋密度が高くなり、セル膜が形成されやすくなり、得られる発泡体の通気性が低下する。この場合、イソシアネートインデックスを単に下げると、発泡体の架橋密度が低下し、発泡体の硬さ、圧縮残留ひずみ等の機械的物性が悪化する。従って、発泡体の機械的物性を維持しつつ、通気性を向上させる方法が求められている。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、機械的物性を維持しつつ、優れた通気性を発揮することができる軟質ポリウレタン発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の軟質ポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)の製造方法は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒、発泡剤及び補助発泡剤を含有する発泡体の原料を反応及び発泡させて軟質ポリウレタン発泡体を製造する方法である。この場合、前記補助発泡剤として液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部用いると共に、触媒として金属触媒を用い、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部であり、かつ前記原料中の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したイソシアネート指数が90〜108に設定される。
【0008】
請求項2の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法は、請求項1に係る発明において、前記触媒としてアミン触媒を用い、該アミン触媒はゲル化触媒定数に対する泡化触媒定数の比が10×10−1〜40×10−1である泡化触媒である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法においては、補助発泡剤として液化炭酸ガスを用いることから、発泡体への溶解性がほとんどなく、樹脂化反応を阻害するおそれがない。さらに、発泡体原料を混合、吐出するときに既に液化炭酸ガスの気化が始まるため、液体状態から発泡する場合に比べて気泡が安定し、セル膜が形成され難く、樹脂化のための金属触媒の使用量を抑えることができる。この液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部という適正量使用することから、発泡を安定した状態で進行させることができ、得られる発泡体の通気性を高めることができる。
【0010】
また、触媒として金属触媒を用い、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部であることから、発泡体の破裂や崩壊を抑制できると共に、セル膜の形成を抑えることができる。かつ、イソシアネート指数を90〜108に設定することで、発泡を円滑に進行させると共に、樹脂化を抑えて架橋密度を抑制することができる。従って、機械的物性を維持しつつ、優れた通気性を発揮することができる軟質ポリウレタン発泡体を製造することができる。
【0011】
請求項2の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法では、触媒としてゲル化触媒定数に対する泡化触媒定数の比が10×10−1〜40×10−1のアミン触媒を使用する。ゲル化触媒定数はポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化(ゲル化)反応の速度を決定する定数を表し、その値が大きくなると発泡体の架橋密度が高くなってセルの連通性が低下し、泡化触媒定数はポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応の速度を決定する定数を表し、その値が大きくなると発泡体のセルの連通性が高められる。従って、その比が上記範囲となるアミン触媒を用いることにより、請求項1に係る発明の効果に加え、発泡体の通気性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒、発泡剤及び補助発泡剤を含有する発泡体の原料を反応及び発泡させて発泡体を製造する方法である。この場合、補助発泡剤として液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部用いる。また、触媒として金属触媒を用い、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部に設定される。さらに、イソシアネート指数が90〜108に設定される。このような条件の下に製造される軟質ポリウレタン発泡体は、所要の機械的物性を保持しつつ、良好な通気性を発揮することができる。
【0013】
次に、前記発泡体の原料について順に説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、それらの変性体、グリセリンにアルキレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の数や水酸基価を変えることができる。
【0014】
ポリオール類の水酸基価は、50〜70(mgKOH/g)であることが好ましい。このような水酸基価を有するポリエーテルポリオールを用いることにより、ポリイソシアネート類との反応性に優れ、適度に架橋された軟質ポリウレタン発泡体を得ることができる。ポリオール類の水酸基価が70(mgKOH/g)を越える場合、架橋密度が高くなり過ぎて発泡体の通気性が低下すると共に、硬度が高くなりやすい。一方、水酸基価が50(mgKOH/g)未満の場合、水酸基価が小さくなり過ぎ、発泡体の架橋密度が低くなって発泡体の強度や硬度が低下する傾向を示す。
【0015】
発泡体原料には架橋剤を配合することができる。架橋剤はポリイソシアネート類等と反応し、発泡体に架橋構造を形成するもので、例えば水酸基価が250〜650(mgKOH/g)で分子量が150〜500のポリオールが用いられる。係るポリオールとして具体的には、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの架橋剤のうち、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルジオールが好ましい。ポリエーテルジオールを用いることにより、発泡体を形成する重合体の連鎖が直鎖状に延びる構造が形成され、発泡体の柔軟性を良好にすることができる。
【0016】
架橋剤の水酸基価が250(mgKOH/g)未満の場合には、ポリイソシアネート類との架橋反応が不足し、発泡体の架橋密度が小さくなる。650(mgKOH/g)を越える場合には、過度の架橋反応によって発泡体の架橋密度が大きくなり、通気性が低下する。また、架橋剤の分子量が150未満のときには発泡体が硬くなり過ぎて、触感を損ない、500を越えるときには発泡体が軟らかくなり過ぎる傾向を示す。架橋剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり1〜5質量部であることが好ましい。架橋剤の含有量が1質量部未満の場合には、発泡体に十分な架橋構造を形成することができず、発泡体の機械的強度が不足しやすくなる。一方、5質量部を越える場合には、発泡体の架橋構造が密になり過ぎて、通気性に欠ける傾向を示す。
【0017】
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が用いられる。
【0018】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は90〜108に設定される。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基、架橋剤であるポリオールの水酸基及び発泡剤(水)等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。イソシアネート指数が100を越えるということは、イソシアネート基が活性水素基より過剰であることを意味する。イソシアネート指数が90未満の場合には、ポリオール類などに対するポリイソシアネート類の反応が不足し、発泡体の破裂、崩壊が起きやすく、得られる発泡体の架橋密度が低下し、発泡体が軟らかくなって機械的物性が不足する。その一方、イソシアネート指数が108を越える場合には、発泡体の架橋密度が高くなってセルの連通性が悪くなると共に、軟質ポリウレタン発泡体としての軟らかい感触が得られなくなる。
【0019】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応(ウレタン化反応)を促進すると共に、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応などを促進するためのものである。樹脂化反応を選択的に促進する触媒としては特に金属触媒が用いられ、泡化反応を促進するための触媒としては特にアミン触媒が用いられる。金属触媒として具体的には、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルジ酢酸スズ、ジ(2−エチルヘキシル)ジラウリン酸スズ、ジ(2−エチルヘキサン酸)スズ等の有機スズ化合物やジ(2−エチルヘキサン酸)鉛等が挙げられる。これらのうち、オクチル酸スズが、ポリオール類としてポリエーテルポリオールを用いるワンショット法の場合に好ましい。アミン触媒として具体的には、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミンが挙げられる。
【0020】
アミン触媒としては、発泡体の通気性を高めるために、ゲル化触媒定数に対する泡化触媒定数の比(以下、触媒定数比ともいう)が10×10−1〜40×10−1である泡化触媒を用いることが好ましい。ここで、泡化触媒は、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との反応を促進し、炭酸ガスを発生する傾向の強い触媒を意味する。樹脂化触媒は、ポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化(ゲル化)反応を促進し、ウレタン結合を生成する傾向の強い触媒を意味する。
【0021】
ゲル化触媒定数は、ポリオール類とポリイソシアネート類との樹脂化反応の速度を決定する定数であり、その値が大きくなると発泡体の架橋密度が高くなって発泡体の機械的物性が良好になる。具体的には、トリレンジイソシアネートとジエチレングリコールとのゲル化反応の反応定数が用いられる。一方、泡化触媒定数は、ポリイソシアネート類と水との泡化反応の速度を決定する定数であり、その値が大きくなると発泡体のセルの連通性が高められる。具体的には、トリレンジイソシアネートと水との泡化反応の反応定数が用いられる。そのため、触媒定数比は、それら2つの触媒定数のバランスを図るものである。触媒定数比が10×10−1を下回る場合には、泡化反応が不足してセルの連通性が悪くなる傾向を示す。その一方、触媒定数比が40×10−1を上回る場合には、樹脂化反応が不足して発泡体の硬さなどで表される機械的物性が低下する。
【0022】
触媒定数比が上記範囲にあるアミン触媒として具体的には、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル(触媒定数比=39.0×10−1)、N,N,N´,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン(触媒定数比=37.3×10−1)、N,N,N´−トリメチルアミノエチルエタノールアミン(泡化触媒比=15.0×10−1)、ジメチルアミノエトキシエタノール(泡化触媒比=13.9×10−1)等が挙げられる。
【0023】
前記金属触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部である。金属触媒の含有量が0.05質量部より少ない場合には、樹脂化反応の進行が不足し、発泡体が破裂、崩壊しやすく、得られる発泡体の架橋密度が低下して機械的物性が損なわれる。その一方、0.15質量部より多い場合には、樹脂化反応が過度に進行して発泡体の架橋密度が高く、セル膜が多くなり、セルの連通性が阻害されて通気性が悪化する。また、アミン触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.2〜0.5質量部であることが好ましい。アミン触媒の含有量が0.2質量部より少ない場合には、泡化反応の進行が十分ではなく、得られる発泡体のセルの連通性が低下し、通気性が損なわれる傾向となる。その一方、0.5質量部より多い場合には、泡化反応の進行が過剰になり、発泡体の機械的物性が低下する。
【0024】
発泡剤はポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、水のほか酸アミド等が用いられる。これらの発泡剤のうち、泡化反応の反応性に優れ、取扱性の良好な水が最も好ましい。発泡剤の含有量は、通常より少なくして泡化反応(硬化反応)の進行を抑えるために、ポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部であることが好ましい。発泡剤の含有量が2.0質量部より少ない場合には泡化反応が不十分となり、発泡体にセルの十分な連通構造を形成することができなくなる。一方、発泡剤の含有量が5.0質量部より多い場合には、泡化反応が過剰となり、発泡体の架橋密度が低下して機械的強度が不足しやすい。
【0025】
補助発泡剤は、ポリオール類とポリイソシアネート類とに対して非反応性の液化炭酸ガスであり、発泡体の通気性を良くし、硬度を下げるために用いられる。液化炭酸ガスは、塩化メチレン等の有機溶剤と異なり、発泡体に溶解しないため、樹脂化反応などの反応を阻害せず、反応を円滑に進行させる。そして、発泡体の強度低下や圧縮残留ひずみの悪化を引き起こすことが回避される。液化炭酸ガスを使用することにより、発泡体原料中で液化炭酸ガスが気化し、安定した泡が微細に分散して高粘度のソフトクリーム状に形成され(フロス効果)、その状態から泡化反応が開始されるため、セル膜が形成され難いと考えられる。従って、その状態から泡化反応により発生する炭酸ガスによって、セルが膨張し、セルの連通化が図られるものと推測される。さらに、補助発泡剤は、樹脂化反応、泡化反応などの反応に対して以下に示すような影響を及ぼす。
【0026】
ポリイソシアネート類とポリオール類との反応による樹脂化反応(ウレタン結合の生成反応)は、次の反応式(1)に基づいて進行する。
−R−NCO+R′OH → −R−NH−CO−O−R′ ・・・(1)
また、ポリイソシアネート類と水との反応による泡化反応は次の反応式(2)に従って進行する。
【0027】
−R−NCO+HO → −R−NH+CO ・・・(2)
さらに、反応式(2)で生成したアミン化合物(−R−NH)がポリイソシアネート類と反応し、ウレア(尿素)結合を生成する反応は、次の反応式(3)に従って進行する。
【0028】
−R−NCO+−R−NH → −R−NH−CO−NH−R ・・・(3)
なお、ウレア結合がイソシアネート基と反応し、或いはウレタン結合がイソシアネート基と反応して架橋(硬化)が進行する。
【0029】
補助発泡剤として液化炭酸ガスを使用すると、反応式(2)において炭酸ガス(CO)の濃度が高くなるため、反応の進行が抑制され、アミン化合物(−R−NH)の生成が抑えられる。そのため、反応式(3)において左辺の反応原料が少なくなって反応の進行が規制される。ウレア結合は、ウレタン結合に比べて水素結合による凝集力が強く、その存在により発泡体の硬度が高くなるが、ウレア結合の生成が規制されることで、発泡体の硬度を下げることができる。
【0030】
補助発泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部である。補助発泡剤の含有量が2.0質量部未満のときには補助発泡剤の効果が十分に発揮されず、発泡体のセルの連通化を図ることができなくなる。その一方、5.0質量部を越えるときには過剰な発泡により樹脂骨格の強度が不足し、発泡体の機械的強度が不足する結果を招く。液化炭酸ガスを発泡体原料に供給する場合には、例えばポリオール類に溶解させて供給される。その際には5〜7MPaの圧力及び−12〜−20℃の温度で炭酸ガスが液化状態を保持できる条件にて行われる。
【0031】
整泡剤は、発泡剤によって行われる発泡を円滑に進行させるために必要に応じて用いられる。そのような整泡剤としては、軟質ポリウレタン発泡体を製造する際に通常使用されるものを用いることができる。整泡剤として具体的には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。この整泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜3.0質量部であることが好ましい。この含有量が0.5質量部より少ない場合、発泡体原料の発泡時における整泡作用が十分に発現されず、良好な発泡体を得ることが難しくなる。一方、3.0質量部より多い場合、整泡作用が強く働き、セルの連通性が低下する傾向を示す。
【0032】
発泡体原料には、前記各原料のほか、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、破泡剤(充填剤)等を常法に従って配合することができる。難燃剤としては、ハロゲン化リン酸エステル、縮合リン酸エステル等が用いられる。破泡剤としては、珪藻土、珪酸ジルコニウム、シリカ等が用いられる。
【0033】
次に、前記ポリオール類とポリイソシアネート類との反応は常法に従って行われるが、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類又はポリイソシアネート類を反応させる方法である。ワンショット法はプレポリマー法に比べて製造工程が一工程で済み、製造条件の制約も少ないことから好ましい方法であり、製造コストを低減させることができる。
【0034】
軟質ポリウレタン発泡体としては、スラブ発泡法により得られる軟質スラブポリウレタン発泡体が好ましい。スラブ発泡法は、上記ワンショット法により混合攪拌された反応原料(反応混合液)をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に反応原料が常温、大気圧下で自然発泡し、硬化することで得られる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)し、所定形状に裁断される。その他、モールド成形法、現場施工スプレー成形法等によって軟質ポリウレタン発泡体を得ることもできる。
【0035】
このようにして得られる軟質ポリウレタン発泡体は、通気量が例えば150〜200L/minという高い通気性を有している。しかも、例えば発泡体の硬さが40〜70N、圧縮残留ひずみが1〜2.5%であり、良好な機械的物性を有している。また、発泡体の見掛け密度は15〜30kg/mである。
【0036】
さて、本実施形態の作用について説明すると、軟質ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを、触媒及び発泡剤としての水、補助発泡剤としての液化炭酸ガスの存在下に反応させ、発泡させると共に、硬化させることによって行なわれる。このとき、補助発泡剤として液化炭酸ガスを用いることから、発泡体への溶解性がほとんどなく、樹脂化反応を阻害するおそれがない。さらに、発泡体原料を混合、吐出するときに既に液化炭酸ガスの気化が始まるため、液体状態から発泡する場合に比べて気泡が安定化し、セル膜が形成され難くなり、樹脂化のための金属触媒の使用量を抑えることができる。この液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部という適正量で使用することにより、発泡を安定した状態で進行させることができ、得られる発泡体の通気性を高めることができる。
【0037】
また、触媒として樹脂化のための金属触媒を用い、その含有量をポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部という少量に設定することにより、発泡体の破裂や崩壊を抑制できると共に、セル膜の形成を抑えることができる。さらに、イソシアネート指数を90〜108に設定することにより、発泡を円滑に進行させることができると共に、樹脂化を抑えて架橋密度を抑制することができる。これらの作用が相俟って発泡体の通気性と機械的物性とがバランス良く発現される。
【0038】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法においては、補助発泡剤として液化炭酸ガスを少量用いることから、発泡を安定状態で進行させることができ、発泡体の通気性を高めることができる。また、触媒として金属触媒を少量用いることから、発泡体が良好に形成され、セル膜の形成を抑えることができる。かつ、イソシアネート指数を90〜108に設定することで、発泡を円滑に進行させ、樹脂化を抑えて架橋密度を抑制することができる。従って、機械的物性を維持しつつ、優れた通気性を発揮することができる発泡体を、原料配合の調整により容易に製造することができる。よって、係る軟質ポリウレタン発泡体を、高い通気性が要求されるごみ取りフィルター、空調シート等として好適に利用することができる。
【0039】
・ また、触媒として前記触媒定数比が10×10−1〜40×10−1であるアミン触媒を用いることにより、得られる発泡体の通気性を向上させることができる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜4及び比較例1〜8)
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、補助発泡剤、整泡剤及び触媒を含有する軟質ポリウレタン発泡体の原料を、表1及び表2に示す組成にて調製した。そして、軟質ポリウレタン発泡体の原料を常温で混合し、常法に従って反応及び発泡(スラブ発泡)させることにより軟質ポリウレタン発泡体を製造した。なお、液化炭酸ガスは、6MPaの圧力及び−12℃以下の温度で液化状態を保持し、ポリエーテルポリオールに溶解させて供給した。
【0041】
ここで、比較例1〜3では補助発泡剤としての液化炭酸ガスを使用せず、かつ金属触媒の含有量が過剰である例を示す。比較例4ではイソシアネート指数が過大で、かつ金属触媒の含有量が過剰である例を示す。比較例5では金属触媒の含有量が過剰である例を示し、比較例6では金属触媒の含有量が過少である例を示す。比較例7ではイソシアネート指数が過小で、かつ金属触媒の含有量が過剰である例を示す。比較例8では、補助発泡剤としての液化炭酸ガスを過剰に使用した例を示す。
【0042】
表1及び表2における略号の意味を以下に示す。また、各成分の含有量は、ポリオール類100質量部に対する質量部を表す。
ポリエーテルポリオール:官能基数3のポリエーテルポリオール、水酸基価56.1mgKOH/g、分子量3000
トリレンジイソシアネート:2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%の混合物、日本ポリウレタン工業(株)製、T−80
整泡剤:ジメチルシリコーン、デグサ(株)製、B8050
アミン触媒1:ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、泡化触媒定数/ゲル化触媒定数=39.0×10−1、GE東芝シリコーン(株)製、Niax A-1
アミン触媒2:N,N,N´,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、泡化触媒定数/ゲル化触媒定数=37.3×10−1、花王(株)製、KAO-3
アミン触媒3:N,N,N´−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、泡化触媒定数/ゲル化触媒定数=15.0×10−1、東ソー(株)製、RX5
アミン触媒4:トリエチレンジアミン、泡化触媒定数/ゲル化触媒定数=3.8×10−1、花王(株)製、KAO-10
アミン触媒5:トリエチレンジアミンとプロピレングリコールとの質量比が1:2の混合物、中京油脂(株)製、LV33
金属触媒:オクチル酸第1スズ、城北化学(株)製、MRH110
得られた軟質ポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、圧縮残留ひずみ、通気量及び発泡挙動を下記に示す方法で測定し、それらの結果を表1及び表2に併せて記載した。
【0043】
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222:1999に準拠して測定した。
硬さ(N):JIS K 6400−2:2004に準拠して測定した。
圧縮残留ひずみ(%):JIS K 6400−4:2004に準拠して測定した。
【0044】
通気量(L/min):ASTM D3574に準拠して測定した。
発泡挙動:発泡体原料の発泡時における状態を目視により観察し、破裂(パンク)、崩壊などがなく、発泡が円滑に行われた場合を良好とした。
【0045】
【表1】

表1に示したように、実施例1〜4の軟質ポリウレタン発泡体においては、補助発泡剤として液化炭酸ガス及び金属触媒を所定量用いると共に、イソシアネート指数を所定範囲に設定したことから、発泡状態は良好で、得られた発泡体は十分な通気量を示し、かつ機械的物性も良好であった。
【0046】
【表2】

これに対して、表2に示したように、比較例1〜3では補助発泡剤としての液化炭酸ガスを使用せず、かつ金属触媒の含有量が過剰であったため、発泡体が破裂するか、或いは発泡体の通気量が少ない結果であった。比較例4ではイソシアネート指数が過大で、かつ金属触媒の含有量が過剰であったため、架橋密度が上がって連続気泡構造が形成され難くなったものと考えられ、発泡体の通気量が少ない結果であった。比較例5では金属触媒の含有量が過剰であったため、発泡体の通気量が少ないものであった。比較例6では金属触媒の含有量が過少であり、比較例7ではイソシアネート指数が過小で、かつ金属触媒の含有量が過剰であったため、発泡のバランスが崩れて発泡体が破裂する結果であった。比較例8では、補助発泡剤としての液化炭酸ガスを過剰に使用したため、発泡体が崩壊する結果を招いた。
【0047】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 触媒として、前記触媒定数比の異なるアミン触媒を複数組合せて使用し、泡化反応を調整することもできる。
【0048】
・ 触媒として、前記触媒定数比が10×10−1〜40×10−1の範囲外の触媒、例えばトリエチルアミン等を併用することもできる。
・ 実施例1〜4において、発泡体原料には、ポリエチレングリコール等の架橋剤を配合し、得られる軟質ポリウレタン発泡体の架橋密度を調整するように構成することもできる。
【0049】
・ 軟質ポリウレタン発泡体を、例えば吸音材、制振材、クッション材等として使用することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0050】
・ 前記軟質ポリウレタン発泡体は、JIS K 7222に準拠して測定される見掛け密度が15〜30(kg/m)であり、ASTM D3574に準拠して測定される通気量が150〜200L/minであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、発泡体は低密度で、高い通気性を発揮することができる。
【0051】
・ 前記軟質ポリウレタン発泡体は、スラブ発泡法により得られるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、通気性の高い連続気泡構造を有する軟質ポリウレタン発泡体を容易に得ることができる。
【0052】
・ 前記ポリオール類は、ポリエーテルポリオールであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、良好な通気性を有する発泡体を容易に製造することができる。
【0053】
・ 前記発泡剤は水であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、発泡剤の取扱性が良好で、泡化反応を速やかに進行させることができる。
【0054】
・ 前記軟質ポリウレタン発泡体の原料には、整泡剤を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。この場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、発泡を円滑に進行させることができ、良好な発泡体を得ることができる。
【0055】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒、発泡剤及び補助発泡剤を含有する軟質ポリウレタン発泡体の原料を反応及び発泡させてなる軟質ポリウレタン発泡体であって、前記補助発泡剤として液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部用いると共に、触媒として金属触媒を用い、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部であり、かつ前記原料中の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したイソシアネート指数が90〜108であることを特徴とする軟質ポリウレタン発泡体。この場合、軟質ポリウレタン発泡体は、機械的物性を維持しつつ、優れた通気性を発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、触媒、発泡剤及び補助発泡剤を含有する軟質ポリウレタン発泡体の原料を反応及び発泡させて軟質ポリウレタン発泡体を製造する方法であって、
前記補助発泡剤として液化炭酸ガスをポリオール類100質量部当たり2.0〜5.0質量部用いると共に、触媒として金属触媒を用い、その含有量がポリオール類100質量部当たり0.05〜0.15質量部であり、かつ前記原料中の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したイソシアネート指数が90〜108であることを特徴とする軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒としてアミン触媒を用い、該アミン触媒はゲル化触媒定数に対する泡化触媒定数の比が10×10−1〜40×10−1である泡化触媒であることを特徴とする請求項1に記載の軟質ポリウレタン発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2008−94944(P2008−94944A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277522(P2006−277522)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】