説明

軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法及び造粒物

【課題】軟質ポリオレフィン系樹脂を効率的に造粒する方法を提供する。
【解決手段】重合後の脱揮工程により溶融した状態の軟質ポリオレフィン系樹脂を、樹脂の融点(Tm−D)±50℃の温度範囲に冷却する工程と、冷却した樹脂を、水中造粒法にて造粒する工程とを含み、水中造粒法における冷却水の温度が30℃以下であり、この冷却水に融着防止剤を添加する軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法に関する。さらに詳しくは、軟質ポリオレフィン系樹脂のべとつきを低減し、造粒物のブロッキングを防止できる造粒方法に関する。さらに、造粒後の、造粒物同士の再融着を防止できる造粒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質ポリオレフィン系樹脂は、環境負荷の大きい軟質塩化ビニル樹脂の代替品として、フィルム等の原料に広く使用されている。
軟質ポリオレフィン系樹脂は、その性質上、低分子量成分を多く含むことから、その造粒物の表面が粘着性を示すことがある。このため、重合した軟質ポリオレフィン樹脂を、製品として取り扱いやすいサイズに造粒する際、造粒物同士が粘着し塊を形成(ブロッキング)しやすいという問題がある。また、造粒後も、造粒物同士の再融着が発生しやすいという問題があった。
【0003】
軟質ポリオレフィンの造粒方法としては、例えば、樹脂を、下向きの複数個の出口を有する押出ダイから、下方の冷却水槽に向けて押出し、ダイ出口の下面で回転式カッターにより切断してペレットとし、この切断した直後のペレットに対して、下方より離型剤含有冷却水を散水する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この方法は、特定の樹脂組成物を使用する必要や、造粒物表面に離型剤を塗布する必要があった。また、造粒後の冷却過程において、ペレットが水面に浮くため、冷却効率が低かった。
【0004】
本発明者らは、軟質ポリオレフィン系樹脂を加熱溶融した後、その融点以下まで冷却しながら、撹拌・混練した後に造粒することで、得られる造粒物の粘着性を低減できることを見出し、特許出願を行っている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−88839号公報
【特許文献2】特開2005−179556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法では、重合後の樹脂を冷却した後に、再度、加熱溶融していたため、生産性が悪く、さらに改善の余地があった。また、樹脂の溶融後、冷却しながら撹拌、混練するために、混練機等の高価な設備が必要であった。さらに、造粒法によっては、冷却水槽にてペレットが浮いてしまうため、冷却効率が低かった。このため、造粒物の生産性向上の要請から、さらなる改善が求められていた。
本発明は、上記課題に鑑み、軟質ポリオレフィン系樹脂を効率的に造粒する方法を提供することを目的とする。
本発明はさらに、造粒後も、造粒物同士の再融着が発生しない、効率的な造粒方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究した結果、重合し脱揮した後の、溶融状態の軟質ポリオレフィン系樹脂を一定温度に冷却し、その後、水中造粒法にて造粒することにより、樹脂の粘着性を低減し、また、樹脂を造粒後の工程(脱水工程)に移送する際にも冷却できるため、冷却効率を向上できることを見出した。
さらに、造粒工程で得られた軟質ポリオレフィン系樹脂を特定温度範囲で特定時間滞留処理することにより、造粒物同士の再融着を抑制できることも見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法及び造粒物が提供される。
1.重合後の脱揮工程により溶融した状態の軟質ポリオレフィン系樹脂を、樹脂の融点(Tm−D)±50℃の温度範囲に冷却する工程と、前記冷却した樹脂を、水中造粒法にて造粒する工程とを含み、前記水中造粒法における冷却水の温度が30℃以下であり、この冷却水に融着防止剤を添加する軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
2.前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、炭素数3〜20のα−オレフィンを、メタロセン触媒を使用して重合したものである上記1に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
3.前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、下記(1)〜(3)の特性を有するポリプロピレンである上記1又は2に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
(1) 融点(Tm−D)が20〜120℃
(2) 結晶化時間が3分以上
(3) PP立体規則性指数[mm]が50〜90mol%
4.前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、下記(4)の特性を有する1−ブテン重合体である上記1又は2に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
(4) PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}が20以下
5.前記造粒工程後、前記軟質ポリオレフィン系樹脂を50℃以下の温度、5分以上24時間以下の時間で滞留処理を行う、上記1〜4のいずれかに記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
6.水槽を用いて前記滞留処理を行う、上記5記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
7.上記1〜6のいずれかに記載の造粒方法によって造粒した軟質ポリオレフィン系樹脂造粒物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法では、脱揮工程の熱を有効利用し、また、冷却効率の高い水中造粒法を使用しているので生産性が高い。また、造粒時の冷却効率が高いため、設備の小型化が図れる。
さらに、本発明の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法によれば、造粒後、造粒物同士の再融着が発生しないことにより、製品の利用価値が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の造粒方法を具体的に説明する。
図1は本発明の造粒方法を説明するためのフロー図である。
原料であるオレフィン単量体は、溶液重合法や気相重合法等、常法により重合され軟質ポリオレフィン系樹脂となる。この樹脂から溶媒や未反応のモノマー成分等を除去するため、加熱、脱揮する。脱揮工程の温度は、通常100℃〜250℃程度であるため、樹脂は溶融状態となっている。本発明では、この溶融状態の樹脂を冷却工程に直接移送する。これにより、樹脂の再加熱工程が不要となるため、生産効率を向上できる。
尚、脱揮工程は通常の溶融槽等の装置にて実施できる。また、溶融樹脂の移送は、ギヤポンプ等の移送手段を用いて、管路を通して行なうことができる。
【0011】
本発明では、溶融状態の軟質ポリオレフィン系樹脂を、樹脂の融点(Tm−D)±50℃の温度範囲に、好ましくは、融点(Tm−D)±20℃の温度範囲に冷却した後に造粒する。これにより、造粒時における樹脂の粘着性を低減できる。従って、造粒時にペレットが粘着し合い、塊を形成することを抑制できる。
尚、本明細書において、樹脂の融点(Tm−D)は、示差走査型熱量計(DSC)を用い、10mgの試料を窒素雰囲気下、10℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの、最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義する。
【0012】
樹脂を冷却する装置としては、ポリマークーラー、ジャケット付混練機、ジャケット付ポリマーミキサー等が使用できる。比較的安価であり、設備コストの低減が図れることからポリマークーラーが好ましい。
【0013】
樹脂の冷却後に、水中造粒を行なう。水中造粒法について、図面を参照しながら説明する。
図2は、水中造粒法を説明するための模式図である。
水中造粒法では、冷却機11にて冷却された樹脂は、冷却機11の先端に取り付けられた、所定形状の穴を1以上有するダイス12を通過した後、カッティングチャンバー13で切断されペレット形状となる。
【0014】
カッティングチャンバー13では、カッター刃が高速で回転し樹脂を切断する。また、チャンバー13内の冷却水は、チャンバー13、脱水機14及び冷却水タンク15を循環しており、切断されたペレットは、循環水流によりチャンバー13から脱水機14に搬送される。そして、脱水機14により、ペレット樹脂と冷却水が分離され、ペレットが回収される。
水中造粒法を採用することにより、冷却水槽のようにペレットが水面に浮くことがなく、切断された樹脂ペレットが水流によって効率よく冷却されるため、冷却設備を小型化できる。
【0015】
本発明では、水中造粒法における冷却水の温度を30℃以下とする。好ましくは、20℃以下であり、さらに好ましくは、15℃以下である。冷却水の温度が30℃より高い場合、造粒時の樹脂の冷却が不十分となるため、ペレット同士が結合し塊状となるおそれがある。
尚、冷却水の温度は、熱媒クーラーや熱媒ヒーター(図示せず)により加温・冷却して調整できる。
【0016】
また、冷却水には融着防止剤を添加する。融着防止剤としては、シリコーン等が使用できる。
融着防止剤の添加量は、使用する融着防止剤の種類により適宜調整するが、例えば、シリコーンを使用した場合には、冷却水に100重量ppm〜5000重量ppm、好ましくは、500重量ppm〜1000重量ppm添加する。
【0017】
カッティングチャンバーにおけるカッター刃の周速は、通常、1〜20m/sとし、1〜10m/sとすることが好ましい。
【0018】
本発明の造粒方法が適用できる軟質ポリオレフィン系樹脂は、特に制限はないが、特に、炭素数3〜20のα−オレフィンを、メタロセン触媒を使用して重合した重合体に好ましく適用できる。メタロセン触媒を使用して重合した重合体は、分子量及び組成分布が均一であることから、結晶核を誘発する成分が著しく少なく、冷却機での冷却時においても流動性を有するためである。
【0019】
炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を挙げることができる。軟質ポリオレフィン系樹脂は、これらα−オレフィンの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。共重合体の場合には、上記のα−オレフィンの他、エチレンを含んでいてもよい。好ましくは、プロピレン系重合体及び1−ブテン系重合体である。
【0020】
メタロセン系軟質ポリオレフィン樹脂は、シクロペンタジエニル環を有する周期律表第4属の遷移金属化合物及びメチルアルミノキサンあるいは周期律表第4属の遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物と有機アルミニウム化合物からなるメタロセン系触媒の存在下で、上記のα−オレフィンを重合させることにより製造することができる。
主触媒のシクロペンタジエニル環を有する周期律表第4属の遷移金属化合物としては、シクロアルカジエニル基又はその置換体、具体的には、インデニル基、置換インデニル基及びその部分水素化物からなる群から選ばれた少なくとも2個の基が低級アルキレン基あるいはシリレン基を介して結合した多座配位化合物を配位子とするジルコニウム、チタン、及びハフニウム化合物が挙げられる。
【0021】
例えば、遷移金属化合物は、H.H.Brintzinger et al,J.Organometal.Chem.,288,63(1985)に記載のエチレン−ビス−(インデニル)ジルコニウムジクロリドや、J.Am.Chem.Soc.,109,6544(1987)に記載のエチレン−ビス−(インデニル)ハフニウムジクロリド、H.Yamazaki et al,Chemistry Letters,1853(1989)に記載のジメチルシリルビス(2,4−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリルビス(2,4,5−トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドあるいはこれらの錯体のハフニウムジクロリド等のジルコニウム及びハフニウム化合物の立体硬質(stereorigid)キラル(chiral)化合物がある。
【0022】
具体的に例示すれば、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(5−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(6−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(7−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(4,7−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、エチレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(5−メチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(6−メチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(7−メチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、エチレンビス(4,7−ジメチル−1−インデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(4−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2,4,5−トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2,4,5−トリメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2,4−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2,4−ジメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(3−メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(3−メチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロリド等を挙げることができる。
【0023】
また、(ジメチルシリレン)(ジメチルシリレン)−ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、(エチレン)(エチレン)−ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、(エチレン)(エチレン)−ビス(3−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、(エチレン)(エチレン)−ビス(4,7−ジメチルインデニル)ジルコニウムジクロリド等及びこれらの化合物におけるジルコニウムをハフニウム、又はチタンに置換したものを挙げることができる。
【0024】
助触媒の周期律表第4属の遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物としては、トリフェニルカルビニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのようなテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオン含有化合物や、トリフェニルカルビニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミネートのようなテトラ(ペンタフルオロフェニル)アルミネートアニオン含有化合物が好適に使用される。
【0025】
また、有機アルミニウム化合物としては、少なくとも分子内に1個のAl−C結合を有するものである。かかる有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハライド、ジイソブチルアルミニウムハライド等のジアルキルアルミニウムハライド、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物、テトラエチルジアルモキサン、テトラブチルアルモキサン等のアルキルアルモキサンが例示できる。これらの有機アルミニウム化合物の内、トリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物、アルキルアルモキサンが好ましく、特にトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロリドの混合物及びテトラエチルジアルモキサンが好ましい。有機アルミニウムとしては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が好適に使用される。これらのメタロセン系触媒及び/又は助触媒は担持させて使用してもよく、担体としてはポリスチレン等の有機化合物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物が挙げられる。
【0026】
重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、気相重合法、懸濁重合法等のいずれの方法でもよいし、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、予め少量のα−オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等で予備重合を行ってもよい。重合温度は通常、−50〜250℃、好ましくは、0〜150℃の範囲であり、重合時間は通常、1〜10時間の範囲であり、圧力は通常、常圧〜300kg/cm−Gの範囲である。
【0027】
本発明の造粒方法は、以下の特性を有する軟質ポリプロピレン樹脂に、特に好ましく適用できる。
(1) 融点(Tm−D)が20〜120℃
(2) 結晶化時間が3分以上
(3) PP立体規則性指数[mm]が50〜90mol%
【0028】
融点(Tm−D)が20℃未満では、室温での取扱いが困難である場合があり、120℃を超える場合は、本発明の効果が効率的に得られないおそれがある。融点(Tm−D)は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜90℃である。
【0029】
また、結晶化時間は3分以上であることが好ましい。結晶化時間が3分未満だと結晶化の促進効果が小さいためである。
結晶化時間は、結晶化の促進効果が顕著になることから、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。
尚、結晶化時間は、示差走査型熱量計を用いて、試料を窒素雰囲気下、190℃で3分間溶融状態とした後、液化窒素を導入し急速(約300℃/分)に25℃まで降温後、この温度で保持し、試料温度が25℃になった時点から、結晶化発熱ピークが観測されるまでの時間を意味する。
【0030】
このような軟質ポリプロピレン樹脂は、融点以下に降温しても過冷却状態になり、流動性を失わない(結晶化温度以下になってもなかなか結晶化しない)。このため、融点以下の温度でも冷却機内において流動状態を維持し、冷却機から押出されたところで、はじめて結晶化するので、カッテイングがしやすい状態にできる。
尚、軟質ポリプロピレン樹脂の融点(Tm−D)及び結晶化時間は、後述する立体規則性指数を調整することで制御できる。
【0031】
軟質ポリプロピレン系樹脂のPP立体規則性指数[mm]は、50〜90mol%のポリプロピレンであることが好ましい。
50mol%未満では、べたつきが発生するおそれがあり、90mol%を超えると加工性が低下するおそれがある。好ましくは50〜80mol%であり、より好ましくは60〜80mol%である。
尚、本発明において、PP立体規則性指数[mm]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により報告された「Macromolecules,6925(1973)」で提案された方法に準拠して求めた値を意味する。
【0032】
また、軟質ポリオレフィン系樹脂は、PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}が20以下の1−ブテン重合体であることも好ましい。PB立体規則性指数が20を超えると、柔軟性の低下や加工性の低下が生じる。
尚、1−ブテン重合体は上述したポリプロピレンと同様に以下の(1)及び(2)の特性を有することが好ましい。
(1) 融点(Tm−D)が20〜120℃
(2) 結晶化時間が3分以上
さらに、1−ブテン重合体は、下記(4)の特性を有することが好ましい。
(4) PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}が20以下
【0033】
本発明において、PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}は、朝倉らにより報告された「Polymer Journal,16,717(1984)」、J.Randallらにより報告された「Macromol.Chem.Phys.,C29,201(1989)」及びV.Busicoらにより報告された「Macromol.Chem.Phys.,198,1257(1997)」記載の方法に準拠して、メソペンタッド分率(mmmm)及び異常挿入含有量(1,4挿入分率)を求め、PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}を算出する。即ち、13C核磁気共鳴スペクトルを用いてメチレン基、メチン基のシグナルを測定し、ポリ(1−ブテン)分子中のメソペンタッド分率及び異常挿入含有量を求め、PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}を算出する。
【0034】
PP立体規則性指数[mm]及びPB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}は、触媒の種類の調整や、重合工程時に重合温度、モノマー濃度を調整することによって制御できる。
【0035】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒工程後に、軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒物を所定温度にて所定期間滞留させることが好ましい。この工程を設けることにより、造粒後に生じる造粒物同士の再融着を防止することができる。
造粒物を滞留させるための設備としては、一般的な槽、配管等を用いることができる。槽を用いる場合には、槽表面に浮いている造粒物同士の融着を防ぐため、表面積が大きいものが望ましい。また、冷却効果を高めるため、撹拌を実施するのも望ましい。また、ショートパスを防ぐ為、槽を直列に何段も繋ぐことも造粒物の再融着を防止するために有効である。配管を用いる場合には、所定の滞留時間を稼ぐだけの十分な長さを有する配管が望ましい。長い配管が、装置内レイアウト上邪魔になる場合には、配管をコイル状に巻いたり、バンドル状に束ねてもよい。さらに、槽、配管ともに、結晶化が促進される最適温度に調整するため、温度調節機構を備えているものが望ましい。滞留設備としては、コスト等の観点から水槽が好ましい。
造粒物を滞留させるために用いる媒体としては、工業的に取り扱いが容易な水の他に、空気、窒素等の気体を用いることができる。水を用いる場合には、融着防止剤を添加してもよい。
【0036】
滞留時間は、結晶化が十分に進行するのに要する時間として、5分以上24時間以下とすることが望ましい。5分以下では、結晶化が不十分となるおそれがあり、24時間までで、樹脂の結晶化は十分進んでおり、それ以上、滞留時間を長く取ることは、設備が無駄に大きくなるため、コストアップにつながり、望ましくない。
【0037】
滞留処理温度は、例えば、水槽を用いる場合の水の温度は、結晶化が速く進む温度として、0℃以上50℃以下とする。0℃以下では、氷結するため不適当であり、50℃以上では、結晶化速度が遅いため望ましくない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
尚、重合した樹脂の物性は、以下の方法により測定した。
(1)分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
下記の装置及び条件で測定し、質量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnより算出した。
GPC測定装置
カラム:TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C測定条件
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度:145℃
流速:1.0ミリリットル/分
試料濃度:2.2mg/ミリリットル
注入量:160マイクロリットル
検量線:Universal Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0039】
(2)PP立体規則性指数[mm]及びPB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}
上述の方法により測定した。尚、13C核磁気共鳴スペクトルの測定は、下記の装置及び条件にて行った。
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:230mg/ミリリットル
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
【0040】
(3)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm−D)及び結晶化時間
示差走査型熱量計(DSC:パーキン・エルマー社製、DSC−7)を使用して、上述の方法により測定した。
【0041】
製造例
メタロセン触媒[(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライド]の合成
シュレンク瓶に(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(インデン)のリチウム塩の3.0g(6.97mmol)をTHF50mLに溶解し−78℃に冷却した。ヨードメチルトリメチルシラン2.1mL(14.2mmol)をゆっくりと滴下し室温で12時間攪拌した。溶媒を留去しエーテル50mLを加えて飽和塩化アンモニウム溶液で洗浄した。分液後、有機相を乾燥し溶媒を除去して(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデン)を3.04g(5.88mmol)得た(収率84%)。
【0042】
次に、窒素気流下においてシュレンク瓶に上記で得られた(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデン)を3.04g(5.88mmol)とエーテル50mLを入れる。−78℃に冷却しn−BuLi(ヘキサン溶液1.54M)を7.6mL(11.7mmol)加えた後、室温で12時間攪拌した。溶媒を留去し、得られた固体をヘキサン40mLで洗浄することによりリチウム塩をエーテル付加体として3.06g(5.07mmol)を得た。(収率73%)
H−NMR(90MHz,THF−d)による測定の結果を示す。
δ:0.04(s,18H,トリメチルシリル),0.48(s,12H,ジメチルシリレン),1.10(t,6H,メチル),2.59(s,4H,メチレン),3.38(q,4H,メチレン),6.2−7.7(m,8H,Ar−H)
【0043】
窒素気流下で上記にて得られたリチウム塩をトルエン50mLに溶解した。−78℃に冷却し、ここへ予め−78℃に冷却した四塩化ジルコニウム1.2g(5.1mmol)のトルエン(20mL)懸濁液を滴下した。滴下後、室温で6時間攪拌し、その後、その反応溶液の溶媒を留去した。得られた残渣をジクロロメタンより再結晶化することにより(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドを0.9g(1.33mmol)得た。(収率26%)
H−NMR(90MHz,CDCl)による測定の結果を示す。
δ:0.0(s,18H,トリメチルシリル),1.02,1.12(s,12H,ジメチルシリレン),2.51(dd,4H,メチレン),7.1−7.6(m,8H,Ar−H)
【0044】
実施例1
(1)プロピレンの重合
攪拌機付き、内容積0.20mのステンレス製反応器に、n−ヘプタンを30L/h、トリイソブチルアルミニウム(日本アルキルアルミ社製)を15mmol/h、メチルアルミノキサン(アルベマール社製)を15mmol/h、さらに、製造例で得た(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムクロライドを15μmol/hで連続供給した。重合温度60℃で気相部水素濃度を50mol%、反応器内の全圧を0.7MPaGに保つようプロピレンと水素を連続供給し、ポリプロピレンを重合した。
【0045】
(2)ポリプロピレンの造粒
得られた重合溶液にイルガノックス1010を500重量ppmになるように添加し、内容積3mのステンレス製脱揮槽を用いて、内温150℃で脱溶媒を実施した。
その後、溶融樹脂を移送ポンプにてジャケット付ポリマーミキサー(サタケ社製、L84−VPR−3.7)に移送した。ポリマーミキサーにて樹脂を65℃まで冷却した後、造粒機にて水中造粒した。造粒機は田辺プラスチックス機械社製のPASC−21HSを使用し、冷却水の水温を10℃、カッターの周速を3.8m/sとした。また、冷却水には、シリコーン(信越化学工業社製、X−22−904)を600重量ppmになるように添加した。
【0046】
水中造粒した結果、ポリプロピレンペレットは、造粒工程において、互いに粘着することはなく、塊を形成することはなかった。
尚、得られたメタロセン系ポリプロピレンについて評価したところ、分子量分布(Mw/Mn)は1.8、分子量(Mw)は33,000、PP立体規則性指数[mm]は67mol%、ガラス転移温度(Tg)は−4℃、融点(Tm−D)は70℃であった。また、結晶化時間は6分間であった。
【0047】
比較例1
ポリマーミキサーにて樹脂を冷却せず、その出口におけるポリプレピレン樹脂の温度を150℃とした以外は、実施例1と同様に操作を実施した。
その結果、ポリプロピレンペレットは、造粒工程において、互いにくっつき、造粒工程において、塊に成長した。
【0048】
比較例2
シリコーンを添加しなかった以外は、実施例1と同様に操作を実施した。
その結果、ポリプロピレンペレットは、造粒工程において、互いにくっつき、造粒工程において、塊に成長した。
【0049】
比較例3
冷却水温度を40℃とした以外は、実施例1と同様に操作を実施した。
その結果、ポリプロピレンペレットは、造粒工程において、互いにくっつき、造粒工程において、塊に成長した。
【0050】
実施例2
(1)ブテン−1の重合
攪拌機付き、内容積0.20mのステンレス製反応器に、n−ヘプタンを20L/h、トリイソブチルアルミニウム(日本アルキルアルミ社製)を16mmol/h、メチルアルミノキサン(アルベマール社製)を17mmol/h、さらに、上記製造例で得た(1,2’−ジメチルシリレン)(2,1’−ジメチルシリレン)−ビス(3−トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムクロライドを17μmol/hで連続供給した。重合温度60℃で気相部水素濃度を50mol%、反応器内の全圧を0.7MPaGに保つよう1−ブテンと水素を連続供給し、ポリブテン−1を重合した。
【0051】
(2)ポリブテン−1の造粒
得られた重合溶液にイルガノックス1010を500重量ppmになるように添加し、内容積3mのステンレス製脱揮槽を用いて、内温150℃で脱溶媒を実施した。以下、実施例1と同様にして、ポリブテン−1の造粒を行なった。
水中造粒した結果、ポリブテン−1ペレットは、造粒工程において、互いに粘着することはなく、塊を形成することはなかった。
【0052】
尚、得られたメタロセン系ポリブテン−1について評価したところ、分子量分布(Mw/Mn)は1.8、分子量(Mw)は70,000、PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}は8.2、ガラス転移温度(Tg)は−29℃、融点(Tm−D)は71℃であった。また、結晶化時間は30分間以上であった。
【0053】
実施例3
実施例1にて得たペレットを、水温13℃の水槽に受け、40分間滞留させた後、水槽からペレットを取り出し、以下の再融着評価実験を実施した。
断面積60mm×60mm、高さ70mmのセルに、上記水槽から取り出したペレットを入れ、その上面に、330gの蓋をのせ、さらにその上に、5,000gの重りを載せ、50℃一定温度にて90分放置した。
90分後、重りを下ろし、蓋を外し、ペレット同士の再融着状況を目視にて確認した。その結果、ペレット同士の再融着は確認されなかった。
【0054】
比較例4
水槽での滞留時間を3分とした以外は、実施例3と同様の操作を実施した。その結果、ペレット同士の再融着が発生した。
【0055】
比較例5
水槽の水温を80℃とした以外は、実施例3と同様の操作を実施した。その結果、ペレット同士の再融着が発生した。
【0056】
実施例4
実施例2で得たペレットを、水温13℃の水槽に受け、40分間滞留させた後、水槽からペレットを取り出し、以下の再融着評価実験を実施した。
断面積60mm×60mm、高さ70mmのセルに、上記水槽から取り出したペレットを入れ、その上面に、330gの蓋をのせ、さらにその上に、5,000gの重りをのせ、50℃一定温度にて、90分放置した。
90分後、重りを下ろし、蓋を外し、ペレット同士の再融着状況を目視にて確認した。その結果、ペレット同士の再融着は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、脱揮工程の熱を有効利用し、また、冷却効率の高い水中造粒法を使用することで、生産性の高い軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法を提供することができる。
本発明によれば、再融着を生じない、効率的な軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の造粒方法を説明するためのフロー図である。
【図2】水中造粒法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0059】
11 冷却機
12 ダイス
13 カッティングチャンバー
14 脱水機
15 冷却水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合後の脱揮工程により溶融した状態の軟質ポリオレフィン系樹脂を、樹脂の融点(Tm−D)±50℃の温度範囲に冷却する工程と、
前記冷却した樹脂を、水中造粒法にて造粒する工程とを含み、
前記水中造粒法における冷却水の温度が30℃以下であり、この冷却水に融着防止剤を添加する軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
【請求項2】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、炭素数3〜20のα−オレフィンを、メタロセン触媒を使用して重合したものである請求項1に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
【請求項3】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、下記(1)〜(3)の特性を有するポリプロピレンである請求項1又は2に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
(1) 融点(Tm−D)が20〜120℃
(2) 結晶化時間が3分以上
(3) PP立体規則性指数[mm]が50〜90mol%
【請求項4】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂が、下記(4)の特性を有する1−ブテン重合体である請求項1又は2に記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
(4) PB立体規則性指数{(mmmm)/(mmrr+rmmr)}が20以下
【請求項5】
前記造粒工程後、さらに、前記軟質ポリオレフィン系樹脂を50℃以下の温度、5分以上24時間以下の時間で滞留処理を行う、請求項1〜4のいずれかに記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
【請求項6】
水槽を用いて前記滞留処理を行う、請求項6記載の軟質ポリオレフィン系樹脂の造粒方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の造粒方法によって造粒した軟質ポリオレフィン系樹脂造粒物。

【図1】
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【図2】
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