説明

軟骨細胞破壊抑制剤

【課題】 過酸化水素による軟骨細胞の死滅(細胞死)を最小限に食い止め、その細胞の絶対数を高いレベルで維持し得る化合物(軟骨細胞破壊抑制剤)を提供すること。
【解決手段】 2−メトキシ−4−メチルフェノール、2−メトキシ−4−エチルフェノール、及び2−エトキシ−4−メチルフェノールからなる群より選択された少なくとも1種の軟骨細胞破壊抑制剤。
【効果】 体内で産生される過酸化水素によって誘導される軟骨細胞の細胞死(軟骨細胞数の減少)を最小限に食い止めることができるので、結果的に慢性関節リウマチや変形性関節症などの軟骨細胞破壊性(軟骨細胞分化障害性)疾患を予防あるいは治療することができ、また、別のメカニズムを持つ他の薬剤と併用することにより、より一層軟骨細胞の数を維持することができ、当該疾患を効果的に予防あるいは治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨細胞破壊抑制剤に関し、詳しくは慢性関節リウマチや変形性関節症などの軟骨細胞破壊性(軟骨細胞分化障害性)の疾患の予防または治療に用いる軟骨細胞破壊抑制剤(以下、単に「抑制剤」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の高齢化に伴い、変形性関節症や慢性関節リウマチなどの軟骨障害疾患の患者は増加の一途をたどり、この領域における更なる技術開発が望まれている。
【0003】
従来の技術としては、例えば、細胞成長因子とヒスタチンを組み合わせて軟骨細胞の増殖促進をねらった技術が開示されている(特許文献1)。しかしながら、安全性、安定性に鑑み、臨床的応用は確率されていない。
【特許文献1】特開平7−258110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軟骨細胞の分化の途中あるいは分化後においてその細胞数が、体内で産生された過酸化水素(H)により減少すると言われている。すなわち、体内で産生された過酸化水素に軟骨細胞が曝露されると、その細胞は障害を受け、細胞死の方向に誘導される。本発明者はこの軟骨細胞の細胞死に着目した。すなわち、過酸化水素による軟骨細胞の死滅(細胞死)を最小限に食い止め、その細胞の絶対数を高いレベルで維持することによって慢性関節リウマチや変形性関節症などの軟骨細胞破壊性(軟骨細胞分化障害性)疾患を予防あるいは治療することが効果的であろうと考え、そのような作用を持つ(過酸化水素に曝露されても軟骨細胞の細胞死を回避(予防)し得るような)化合物を種々試みた。いくつかの試行錯誤を重ねた結果、本発明者はついにある種の化合物が軟骨細胞の死滅を抑制することを突き止め、そして本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の抑制剤は、下記の一般式(I)で示される化合物あるいはその塩を含有してなることを特徴とする。
【化2】

【0006】
[但し、上記一般式(I)におけるRはメチル基またはエチル基、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基であって、RとRは同一であっても異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、過酸化水素(H)によって誘導される軟骨細胞の細胞死(軟骨細胞数の減少)を最小限に食い止めることができるので、全体的には軟骨細胞優勢となり、結果的に慢性関節リウマチや変形性関節症などの軟骨細胞破壊性(軟骨細胞分化障害性)疾患を予防あるいは治療することができる。また、別のメカニズムを持つ他の薬剤と併用することにより、より一層軟骨細胞の優勢が図られ、効果的に当該疾患を予防あるいは治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
軟骨細胞破壊抑制剤
前述したように、本発明の抑制剤は、下記の一般式(I)で示される化合物あるいはその塩を含有してなるものである。
【化3】

【0009】
上記一般式(I)におけるRはメチル基またはエチル基、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基であって、RとRは同一であっても異なっていてもよい。なお、Rは炭素数1〜2であることが、軟骨細胞の死滅を防ぐ能力に優れているという点で好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。またRは炭素数1〜3であることが、軟骨細胞の死滅を防ぐ能力に優れているという点で好ましく、メチル基あるいはエチル基であることがさらに好ましい。また、Rは、3または4の位置に結合していることが、軟骨細胞の死滅を防ぐ能力に優れているという点で好ましく、4の位置に結合していることがさらに好ましい。以下に具体例を挙げるが、この例示でいう「ブチル」は、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチルを総称したものであり、また「プロピル」は、n−プロピル、イソプロピルを総称したものである。すなわち、2−メトキシフェノール(2MP、グアヤコール)、2−メトキシ−3−メチルフェノール、2−メトキシ−3−エチルフェノール、2−メトキシ−3−プロピルフェノール、2−メトキシ−3−ブチルフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、2−メトキシ−4−エチルフェノール、2−メトキシ−4−プロピルフェノール、2−メトキシ−4−ブチルフェノール、2−メトキシ−5−メチルフェノール、2−メトキシ−5−エチルフェノール、2−メトキシ−5−プロピルフェノール、2−メトキシ−5−ブチルフェノール、2−エトキシフェノール、2−エトキシ−3−メチルフェノール、2−エトキシ−3−エチルフェノール、2−エトキシ−3−プロピルフェノール、2−エトキシ−3−ブチルフェノール、2−エトキシ−4−メチルフェノール、2−エトキシ−4−エチルフェノール、2−エトキシ−4−プロピルフェノール、2−エトキシ−4−ブチルフェノール、2−エトキシ−5−メチルフェノール、2−エトキシ−5−エチルフェノール、2−エトキシ−5−プロピルフェノール、2−エトキシ−5−ブチルフェノールなどが挙げられる。中でも、軟骨細胞の死滅を防ぐ能力に優れているという点で、2−メトキシ−4−メチルフェノール(以下、単に「2M4MP」ともいう)、2−メトキシ−4−エチルフェノール(以下、単に「2M4EP」ともいう)、2−エトキシ−4−メチルフェノール(以下、単に「2E4MP」ともいう)、2−エトキシ−4−エチルフェノール(以下、単に「2E4EP」ともいう)が好ましく、その中でも2M4MP、2M4EP、及び2E4MPが最も好ましい。なお、上記一般式(I)で示される化合物は1種類を単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0010】
これら2M4MP、2M4EPはいずれも、木クレオソートの構成成分である(Ogata N., Baba T.Analysis of beechwood creosote by gas chromatographymass spectrometry and high-performance liquid chromatography. Res Commun Chem Pathol Pharmacol 66,411−423(1989),ブナ木クレオソートのガスクロマトグラフィー・質量分析法および高速液体クロマトグラフィー法による分析)。緒方規男(N. Ogata)他著ファーマコロジー(Pharmacology)、46巻、(1993)、第173頁には、クレオソートが腸管運動抑制に基づく止瀉作用を有する旨記載されている。また、医薬品製造指針(日本公定書協会編)1988年版第240頁の胃腸薬製造承認基準において、V欄の止瀉薬の区分中1項の殺菌剤として収載されている。また、伊藤宏著「薬理学」((株)蛍光堂、1983年1月5日改訂第6版発行)第416頁にも、クレオソートは腸内防腐に用いるほか、吸入適応により去痰作用を示す旨記載され、日本薬局方でも、去痰、腸内異常醗酵、食中毒などに用いる旨記載されている。ザ・ユナイテッド・ステーツ・ディスペンサトリー(The United States Dispensatory)、27th ed.(1973)、第355頁にも、クレオソートは、外用として殺菌剤、内用として去痰剤として使用される旨記載されている。
【0011】
塩の形態
また、本発明の抑制剤は、塩基を用いた塩の形態とすることも可能である。用いる塩としては、薬学的に(薬剤学的に)許容し得る塩であれば特に限定するものではなく、例えば、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、リチウムなどの金属塩、アミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン)との塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0012】
軟骨細胞破壊性(軟骨細胞分化障害性)の疾患
本発明の抑制剤を用いる対象疾患名としては、例えば、変形性関節症、慢性または急性の関節リウマチなどが挙げられる。
【0013】
使用量
本発明の抑制剤の投与量(使用量)については、対象となる動物の種類あるいは性別、年齢、症状の程度によって変わるので一概にはいえないが、ヒトにおける経口投与あるいは直腸内投与(坐剤)の場合は、およそのところ1日当たり成人体重1kgに対して0.1〜10mgであり、0.5〜5mgであることが好ましく、また注射剤としての投与の場合には、1日当たり成人体重1kgに対して0.05〜5mgであり、0.25〜2.5mgであることが好ましい。これらの1日量を1回でまたは分2〜分4、あるいはそれ以上の回数に分けて投与することができる。
【0014】
剤型
本発明の抑制剤は、医療用薬剤における一般的な形態で以て使用される。一般的な形態としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤、内服液剤や、注射剤(血管内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与など)、あるいは坐剤などが挙げられる。錠剤、顆粒剤、散剤の形態に調製する際には、従来公知の担体を広く使用でき、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、澱粉、結晶セルロース等の賦形剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等の結合剤、例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等の崩壊剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸などの滑沢剤が使用できる。錠剤には、必要に応じて、通常の剤皮を施すこともでき、例えば、糖衣錠、フィルムコーティング錠等とすることができ、さらに二層錠、多層錠としてもよい。また、顆粒剤や散剤も通常の剤皮を施すことができる。
【0015】
医薬品としてのみならず、本発明の抑制剤は一般の飲食物として摂取することもできる。すなわち、菓子類(クッキー、ビスケット、ケーキ、饅頭、スナック菓子、ガム、キャンデーなど)や飲料水(栄養ドリンク、炭酸飲料水、乳酸飲料水、清涼飲料水など)、インスタント食品(即席麺、即席カレーやシチューなど)、練り食品(ハム、ソーセージ、かまぼこなど)、油脂加工品(バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシングなど)、調味料(ソース、しょう油、塩、コショウなど)、乳製品(ヨーグルト、加工乳など)に含ませて本発明の抑制剤の摂取を図ることもできる。
【実施例】
【0016】
本発明の一実施例を以下に説明するが、本発明はこれによって限定されない。
【0017】
実施例1〜3および比較例1
種々の条件下での軟骨細胞の生存率を検討した。なお、軟骨細胞として、マウス胚細胞由来の軟骨細胞様に分化するATDC5(RIKEN BANK,RBC0565)培養細胞株を用いた。
【0018】
ATDC5を96ウエルプレートに1×10cells/wellの密度で播種し、5%FBS(牛胎子血清)を含むDMEM/F12(ダルベッコ改変MEM)培地を用いて、インキュベーター内で5%炭酸ガス雰囲気下、37℃で2日間培養した。培養後、DMEMで2回洗浄し、細胞を過酸化水素に曝露すべく、90μlの5%FBS−DMEM(インスリン含有)、及び10μlの過酸化水素(最終濃度として1mMとなるように調製)、並びに試験液(グアヤコール(2MP)、2−メトキシ−4−メチルフェノール(2M4MP)、2−メトキシ−4−エチルフェノール(2M4EP))を各ウエルに入れ、4日間37℃で培養した。なお、試験液は、DMEMに溶解した後、フイルターで除菌した。各実験系の構成を下記[表1]にまとめる。
【表1】

【0019】
その後、培地を同量交換し、細胞増殖/細胞毒性測定用試薬の1つである、Cell Counting Kit-8(同仁化学社製、特許公報第2757348号公報参照)の溶液(2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium monosodium salt (WST-8)5mmol/リットル、1-methoxy phenazine methosulfate(1-methoxy PMS)0.2mmol/リットル、NaClが150mmol/リットル)を各ウエルに10μlずつ添加した。そして、炭酸ガスインキュベーター内で30分呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーを用いて450nm(参照波長650nm)の吸光度を測定した。
【0020】
結果を図1および図2に示す。図2にあっては、過酸化水素無添加群の吸光度を100%とした場合の添加群の吸光度を%値(活性%)として算出した。
【0021】
図から明らかなように、軟骨細胞の細胞死が過酸化水素によってもたらされているが(比較例1)、過酸化水素と2MP、2M4MP、及び2M4EPを併用した系(実施例1〜3)では、軟骨細胞の生存率が上がっていることから過酸化水素の細胞死誘導を2MP、2M4MP、及び2M4EPが阻止したと考えられ、これら化合物には過酸化水素による軟骨細胞の細胞死を防ぐ効果があることがこれにより明かである。特に2M4MP、及び2M4EPは著効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は過酸化水素無添加群(コントロール)、(b)は過酸化水素添加群(比較例1)、(c)は過酸化水素および2MP添加群(実施例1)、(d)は過酸化水素および2M4MP添加群(実施例2)、(e)は過酸化水素および2M4EP添加群(実施例3)の軟骨細胞の状態をそれぞれ示した顕微鏡写真の図である。
【図2】コントロール、比較例1、実施例1、実施例2、及び実施例3の、軟骨細胞の生存率(%)を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で示される化合物あるいはその塩を含有してなることを特徴とする軟骨細胞破壊抑制剤。
【化1】

[但し、上記一般式(I)におけるRはメチル基またはエチル基、Rは水素原子または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基であって、RとRは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記化合物が、2−メトキシ−4−メチルフェノール、2−メトキシ−4−エチルフェノール、及び2−エトキシ−4−メチルフェノールからなる群より選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の軟骨細胞破壊抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−1870(P2006−1870A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178922(P2004−178922)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(391003392)大幸薬品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】