転倒ケーソンの復旧方法
【課題】 水中で転倒したケーソンを直立させて所定の基礎マウンドまで搬送する際に、ケーソンに作用する外水圧によりケーソンが破損することを防止できる転倒ケーソンの復旧方法を提供すること。
【解決手段】 転倒したケーソン1内に、第一の浮体51と第二の浮体52とからなる浮体5を設置する。第一の浮体51には水を含む液体が充填され、第二の浮体52には空気を含む気体が充填される。第一の浮体51と第二の浮体52それぞれの大きさやケーソン1内における配設位置は、ケーソン1の吊り上げ時に該ケーソン1に転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されている。ケーソン1の吊り上げ搬送の際には、ケーソン1に作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体52内の空気圧が調整されることにより、ケーソンには破損に至る内部応力が生じないようにした復旧方法である。
【解決手段】 転倒したケーソン1内に、第一の浮体51と第二の浮体52とからなる浮体5を設置する。第一の浮体51には水を含む液体が充填され、第二の浮体52には空気を含む気体が充填される。第一の浮体51と第二の浮体52それぞれの大きさやケーソン1内における配設位置は、ケーソン1の吊り上げ時に該ケーソン1に転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されている。ケーソン1の吊り上げ搬送の際には、ケーソン1に作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体52内の空気圧が調整されることにより、ケーソンには破損に至る内部応力が生じないようにした復旧方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法に係り、特に、ケーソンに外から作用する水圧でケーソンが破損することを防止することのできる転倒ケーソンの復旧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海域に護岸を構築する場合や埋立地を造成する場合、内部に中詰砂が充填されたコンクリート製または鋼製のケーソンが海底地盤上に構築されるのが一般的である。ケーソン設置に際しては、海底地盤上に予め砕石等によるマウンドが造成され、地盤支持力の確保やケーソンの円弧滑り等の防止が図られている。
【0003】
このケーソンは、陸上のドックで構築された後、クレーン船等で設置場所まで曳航され水中に設置されるのが一般的であるが、陸上のドックを不要とすべく、海上にてその構築から設置までを一貫しておこなう方法などもある(特許文献1,2)。
【0004】
ところで、ケーソンを構築する方法や海底地盤上に設置する方法は上記特許文献をはじめとして多岐にわたる一方で、水中に転倒したケーソンを復旧する方法に関する従来技術は皆無に等しい。幾多の大型台風による波浪や海洋型の大型地震による被害が後を絶たない昨今、海域にて設置されているケーソンも例外なく、かかる自然災害の対象となっているのが現状である。波浪や海洋型地震の影響によってケーソンが転倒した場合には、復旧作業が海域にておこなわれることから自然条件の制約を受け、該作業には多くの時間と費用が必要となってくることが多い。
【0005】
水中にてケーソンが転倒する場合、ケーソンには海水の抵抗が作用するために転倒時に受ける損傷が比較的軽微な場合が多く、したがって、改めて基礎マウンド上に載置することによって再利用できる可能性が高い。しかし、内部に中詰砂が充填されたケーソンの重量は極めて大きく、起重機船での吊り上げに際しては予め中詰砂をケーソン内から排除する必要がある。中詰砂を水中で排除するとともにケーソン内部を仮に締め切ることにより、比較的小型の起重機船にて転倒ケーソンを吊り上げることが可能となる。しかし、ケーソンの吊り上げの際に、内部の海水が排除されることによって外水圧と内圧とのバランスが崩れ、ケーソン壁体には外水圧による内部応力(曲げモーメントやせん断力)が生じることとなる。水深が深くなればなるほど内部応力の値も大きくなり、当初からかかる内部応力を想定して設計されていない通常のケーソンは、この内部応力にて破損し、場合によっては再利用ができない状況が招来される。そこで、吊り上げに際し、予めケーソン内部に給気をおこなうことで内圧と外水圧を釣り合わせることが考えられるが、ケーソンが浮上するに従い、内圧は一定でも外水圧が減少することとなり、内外圧の均衡が崩れることでケーソンにはやはり内部応力が生じることとなる。
【0006】
一方、水中に転倒したケーソンの吊り上げ時においては、ケーソンに生じる浮力とケーソン重量との関係から転倒モーメントが生じる可能性が高く、転倒モーメントによって起重機船の揺動が招来され、安定したケーソンの設置が阻害されるといった問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−214419号公報
【特許文献2】特開2001−214454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、転倒したケーソンを吊り上げ、所定の位置に設置するまでの過程において、外水圧の影響によってケーソン壁体に損傷を与えることのない転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。また、転倒によってケーソン壁体にひび割れが生じた場合でも、ケーソンの吊り上げに要する浮力を十分に確保することのできる転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。さらに、転倒したケーソンを水中にて吊り上げた姿勢で搬送する際に、該ケーソンに転倒モーメントが作用し難い転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による転倒ケーソンの復旧方法は、水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、ケーソン内に浮体を設置するとともに該浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整し、ケーソンを所定の位置に載置することを特徴とする。
【0010】
ここで、浮体とは例えばゴム製など適宜の材料からなる袋体のことである。この浮体を所定長さの棒部材に巻きつけておいたり、折り畳んだ状態の浮体を棒部材に仮止めしておき、潜水士によって該浮体はケーソン内に搬送設置される。
【0011】
ケーソン内への浮体の設置に際しては、予めケーソンの上蓋を撤去し、ケーソン内部の中詰砂を撤去しておく。
【0012】
ケーソン内に浮体を設置後、撤去された上蓋箇所に仮蓋を施し、浮体内に空気や窒素ガスなどの気体(流体)を充填していく。例えば仮蓋には水抜き孔が穿設されており、浮体が膨らむにつれて、ケーソン内部に浸入した海水がケーソン外に排除される。なお、浮体には流体を供給するための配管またはホースが装着されており、海上に停泊する起重機船等から流体の供給がおこなわれることになる。
【0013】
浮体内への気体(流体)の充填に際しては、まず、ケーソンに作用する外水圧の最も大きくなる圧力、すなわち、ケーソン側壁と海底地盤との接触箇所付近の水圧程度となるように浮体内の圧力が調整される。このように、ケーソン側壁の内外圧が同程度となるように浮体内の圧力が調整されることにより、ケーソン側壁には外水圧による過大な内部応力が生じ得ない。
【0014】
次に、仮蓋に設けられた吊りフックに起重機船のブームから延びるワイヤの一端を取り付け、ケーソンを徐々に吊り上げていく。ケーソンが上方へ吊り上げられるにしたがい、該ケーソンに作用する外水圧は徐々に低減していく。ケーソンの内壁面が受ける浮体からの圧力が吊り上げ初期の最大値のままであると、ケーソンの側壁はその内部から過大な圧力を受けることとなり、内部応力が増大してしまう。そこで、ケーソンの吊り上げに応じて、すなわち、ケーソンに作用する外水圧の低減に応じて該ケーソン内の浮体の圧力も低減させていく。これは、ケーソンに予め取り付けられた水圧計の計測結果に基づいて、浮体から気体を除去していき、例えば浮体に予め取り付けられた圧力計の計測値を水圧計の計測値に合わせていく等の方法によっておこなうことができる。
【0015】
ケーソンに作用する外水圧と浮体内の圧力をケーソンの深度に応じて調整しながら所定の基礎マウンドまでケーソンを移動させていき、基礎マウンド上にケーソンを載置する。なお、ケーソン載置に際し、必要に応じて基礎マウンドの補修や整形がおこなわれる。
【0016】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、比較的小規模の起重機船であっても容易にケーソンを吊り上げることが可能となり、さらには、ケーソンを基礎マウンドまで移動させる途中の水圧変動によるケーソンの損傷や破壊といった問題も生じ得ない。
【0017】
また、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態において、前記浮体は第一の浮体と第二の浮体とからなり、第一の浮体には水を含む液体が充填され、第二の浮体には空気を含む気体が充填され、該第一の浮体と該第二の浮体それぞれの大きさやケーソン内における配設位置は、ケーソン吊り上げ時に該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されており、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体内の空気圧が調整されることを特徴とする。
【0018】
第一の浮体と第二の浮体は、分離した形態であっても一体となった形態であってもよい。なお、ここでいう一体となった形態とは、双方の浮体がそれぞれの一部で縫い合わされる等されることによって一体となっている形態を意味している。また、気体が充填される第二の浮体の一側に液体が充填される第一の浮体が配設される実施形態のほか、第二の浮体の両側にそれぞれ第一の浮体が配設される実施形態がある。
【0019】
ここで、第一の浮体、第二の浮体双方の大きさ(流体が充填された際の大きさ)やケーソン内部における双方の配設位置は、ケーソンの吊り上げ時において該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような適宜の大きさおよび配設位置が選択される。
【0020】
この転倒モーメントは、ケーソンに作用する重心と、該重心を通る軸線とケーソンに作用する浮心からの鉛直線との交点(メタセンター)との上下関係によって決定されるもので、重心がメタセンターよりも低い場合、好ましくは1m以上低い場合にはケーソンが安定し、該ケーソンには転倒モーメントは作用しないこととなる。
【0021】
そこで、本発明においては上記転倒モーメントがケーソンに作用しないように第一の浮体、第二の浮体の大きさとケーソン内における双方の位置関係を決定するものである。ケーソンが転倒した状態からケーソンが吊り上げられた状態までを勘案すると、第一の浮体、第二の浮体双方の位置関係は、第二の浮体の両側にそれぞれ第一の浮体が配設される実施形態であることが好ましい。
【0022】
本発明においても、ケーソンの吊り上げ状況(ケーソンの深度)に応じてケーソン内部の浮体の圧力が調整される。本発明においては、空気などの気体が充填される第二の浮体内の圧力を適宜調整することにより、ケーソン内外の圧力調整が図られる。
【0023】
また、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態において、前記第二の浮体内には、気体を該第二の浮体内に供給する給気管と気体を該第二の浮体外へ排気する排気管が装着されており、給気管および排気管を介して気体を第二の浮体内に給排気しながら空気圧の調整がおこなわれることを特徴とする。
【0024】
圧力調整がおこなわれる第二の浮体に予め給気管および排気管が装着されていて、これらの給排気管が起重機船の圧力調整室等に連通した構成とすることにより、精度のよい圧力調整をおこなうことが可能となる。この圧力調整は、ケーソンの浮上に応じて排気管から適宜排気することによっておこなえばよい。なお、排気管の排気口を第二の浮体の下面に合わせて設置しておくことにより、排気口部の外水圧と第二の浮体の内圧を自動調整することも可能となる。
【0025】
さらに、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態は、水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、転倒したケーソンの上蓋前面の土砂を浚渫する第一工程と、上蓋およびケーソン内の中詰砂を撤去する第二工程と、ケーソン内に浮体を設置するとともに仮蓋を設置する第三工程と、浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整しながらケーソンを吊り上げ、ケーソンを所定の位置に載置する第四工程と、仮蓋および浮体を撤去し、中詰砂と上蓋を復旧する第五工程と、からなることを特徴とする。
【0026】
ケーソンが海底地盤上に転倒する際には、ケーソンの一部(上蓋付近)が海底地盤内に埋め込まれてしまうことが往々にしてある。この場合、上蓋の撤去をおこなうために該上蓋前面の海底地盤を浚渫する必要が生じてくる。しかし、海底地盤表面にはヘドロが堆積している場合が多く、かかるヘドロを周囲に拡散させることなく浚渫する必要がある。そこで、第一工程においては、まず、ケーソンの上蓋前面の海底地盤(例えばヘドロ)を水中サンドポンプ等で浚渫し、浚渫土砂から水分を除去した後に処分するものである。例えば、海底地盤上に浚渫土砂を仮置きするための筐体を設置しておき、該筐体内に浚渫土砂を堆積させておき、時間の経過とともに土砂内から水分を浸出させる等の方法がある。
【0027】
次に、第二工程において、ケーソンの上蓋の撤去およびケーソン内の中詰砂の撤去をおこなう。上蓋撤去に際しては、例えば、起重機船から水中に水中バックホーを吊り降ろし、水中バックホーにて上蓋の解体撤去をおこなうことができる。上蓋を撤去した後、中詰砂の撤去に移行する。中詰砂の撤去は、例えば、水中エジェクターポンプ等を潜水士が操作しながら吸出し、吸い出された中詰砂は上記する海底地盤上の筐体や起重機船に送られて処理される。中詰砂が撤去されたケーソン内部は、潜水士によってその損傷の有無や程度が確認される。
【0028】
ケーソン内部が確認された後、例えば、ゴム製の浮体が潜水士によってケーソン内部に搬送設置される。この浮体は、既述する第一の浮体および第二の浮体を組み合わせた実施形態が適用できる。ケーソン内部には隔壁が設けられているのが一般的であるが、その場合は、隔壁で仕切られた部屋ごとに浮体が設置される。浮体が設置された後、例えば鋼製の仮蓋がケミカルアンカー等によってケーソン開口部に取り付けられ、第三工程が終了する。
【0029】
次に、第一の浮体内に水等の液体を充填し、第二の浮体内に空気等の気体を充填していく。空気の充填に際しては、既述するように、ケーソンに作用する外水圧の最も大きくなるケーソン側壁と海底地盤との接触箇所付近の水圧程度となるように浮体内の圧力が調整される。この状態で仮蓋の吊りフックに起重機船のブームから延びるワイヤの一端を取り付け、ケーソンを徐々に吊り上げていく。ケーソンの吊り上げに応じてケーソンに作用する外水圧も低減することから、この外水圧の低減に応じて第二の浮体内の圧力も減圧していきながら、起重機船にてケーソンを所定の基礎マウンド上に搬送設置する(第四工程)。なお、基礎マウンドがケーソンの転倒時に乱されている場合には、ケーソン設置に際してその補修や整形が予めおこなわれる。
【0030】
ケーソンが基礎マウンド上に設置された後、仮蓋を撤去し、内部の浮体を取り出し、中詰砂をケーソン内部に復旧し、上蓋を施工してケーソンの復旧が終了する(第五工程)。
【0031】
本発明によれば、転倒ケーソンを再利用するまでの過程においてケーソンに損傷を与える危険性がなく、しかも海底地盤内にヘドロを拡散させることもなく、極めて効率的なケーソンの復旧施工が可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、ケーソンを転倒した場所から基礎マウンドまで搬送させる過程において、ケーソンの水中深度によって変化する外水圧に応じてケーソン内部の圧力を調整することができるため、ケーソンに過大な水圧が作用する危険性がなく、したがってケーソン搬送時の外水圧によるケーソンの損傷、破損といった問題を解消することができる。また、本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、ケーソン内部に圧力調整用の気体に加えて液体が適宜の位置に充填されているため、ケーソン搬送時に転倒モーメントの発生を防止することができ、施工の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜3は、本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第一工程を順に示した模式図である。図4,5は、第二工程を順に示した模式図である。図6は、浮体の一実施形態を示した斜視図を、図7は、浮体搬送時の浮体の状態を示した斜視図をそれぞれ示している。図8〜12は、第三工程を順に示した模式図である。図13,14は、第四工程を順に示した模式図であり、図15は、第五工程を示した模式図である。なお、図示する浮体は、気体が充填される第二の浮体の両側に液体が充填される第一の浮体が取り付けられた実施形態であるが、かかる実施形態に限定されるものでないことは勿論のことである。また、ケーソンの転倒に際し、上蓋前面の海底地盤の浚渫が必要ない場合にはかかる工程は省略することができる。
【0034】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法について、図1〜15に基づいて説明する。
【0035】
図1〜図3は、第一工程を説明した図である。図1では、基礎マウンド2から海底地盤Gへ転倒した(X方向)ケーソン1の外周面の破損状況を、潜水士船31にロープで繋げられた潜水士aが確認している状況を示している。ここで、ケーソン1は、上蓋11と側壁12、底版14と内部の隔壁13とから構成されるコンクリート製の構造物であり、その内部には中詰砂15が充填されている。図示する転倒状況においては、ケーソン1の一部が海底地盤G内に埋め込まれている。潜水士aの破損状況の確認結果に基づき、ケーソン1の再利用の可否が判断され得る。
【0036】
図2では、潜水士aが上蓋11から側壁12まで貫通するケミカルアンカー91を打設している状況を示している。これは、後述する上蓋前面の海底地盤Gの浚渫施工段階で上蓋11がケーソン1から外れるという危険性を排除するための作業であり、浚渫作業をおこなう潜水士aの安全を確保するためにおこなわれるものである。
【0037】
図3は、上蓋前面の浚渫土G1を水中サンドポンプ42で浚渫している状況を示している。かかる浚渫作業に際しては、予め海底地盤G上に筐体4を設置しておき、水中サンドポンプ42に連通する配管41を筐体4に繋げる。また、一定範囲の浚渫土G1の浚渫をおこなうために、まわりのヘドロが浚渫領域に入り込んでこないような防護壁8を設置する。この防護壁8は、例えば土嚢を積み上げることによって作られる。水中サンドポンプ42で吸い込んだ浚渫土G1は筐体4に搬送され、筐体4内に堆積される。筐体4内で一定時間堆積した浚渫土G1から水分が脱水された後、該浚渫土G1は適宜処分される。なお、筐体4の設置や水中サンドポンプ42の設置は起重機船32を使用しておこなわれる。このように、浚渫土G1を筐体4内で処理することにより、ヘドロの拡散を防止することができる。
【0038】
次に、図4,5に基づいて第二工程を説明する。図4は、上蓋11を水中バックホー33にて解体撤去している状況を示したものである。水中バックホー33の吊り下げや施工途中の垂下は起重機船32にておこなうことができる。
【0039】
上蓋11が解体撤去された後、ケーソン1内の中詰砂15の吸出し作業をおこなう。図5は、潜水士aが図示しない水中エジェクターポンプを使用しながら中詰砂15の吸出しをおこなっている状況を示している。水中エジェクターポンプにはホースまたは配管41が連通しており、吸い出された中詰砂15は筐体4へ送られる。筐体4内に堆積された中詰砂15についても、脱水を経て適宜処分されることになる。なお、脱水された中詰砂15は、復旧施工の最終段階でおこなわれる中詰砂の充填時に再利用できることは勿論のことである。
【0040】
次に、図6に基づいてケーソン1内に設置される浮体5の一実施形態を説明する。浮体5は、空気などの気体が充填される第二の浮体52と、その両側に水などの液体が充填される第一の浮体51,51が繋ぎ合わされて構成される。図6は、第一の浮体51、第二の浮体52それぞれに液体および気体が充填された状況を示している。第一の浮体51、第二の浮体52には、それぞれ給液管53bと排液管54b,給気管53aと排気管54aが接続されている。第一の浮体51、第二の浮体52は、例えばゴム製の袋から製作することができる。
【0041】
図7は、潜水士aが浮体5をケーソン1内に搬送設置する際の浮体5の状態を示したものである。浮体5は袋体であることから内部に空気や水が充填されていない場合には扁平に潰された状態となり得る。そこで、搬送時には浮体5を複数に折り畳んでおき、棒材6に巻きつけておく。棒材6には、フローター61,61が取り付けられており、水中にて棒材6と浮体5の全体重量を調整できるようになっている。
【0042】
次に、図8〜12に基づいて第三工程を説明する。図8は、図7の状態の浮体5を潜水士aがケーソン1内に搬送設置している状況を示している。一つの実施例としては、ケーソン1内に滑車92を設置しておき、棒材6の一端に繋げられたロープを滑車92を介して潜水士船31から引っ張ることにより、浮体5をケーソン1内に引き込んでいく。ケーソン1内の各部屋に浮体5,5,…を搬送設置した後、それぞれの棒材6を浮体5から取り外す(図9参照)。
【0043】
浮体5を設置した後、仮蓋の取り付け作業に移行する。図10は、潜水士aが仮蓋設置用のケミカルアンカー91を打設している状況を示したものである。所定本数のケミカルアンカー91,91,…が打設された後、仮蓋7に穿設されたアンカー孔にケミカルアンカー91を貫通させ、ケミカルアンカー91の頭部に座金を嵌め込んでいく。図11は、潜水士aにより、仮蓋7が設置されている状況を示したものである。なお、仮蓋7の引き込みに際しては、チェーンブロック93を使用することができる。仮蓋7の引き込み後、ケミカルアンカー91および座金によって仮蓋7の固定が完了する(図12参照)。
【0044】
次に、図13,14に基づいて第四工程を説明する。図13は、ケーソン1が転倒した状態において、第一の浮体51内に水が充填され、第二の浮体52内に空気が充填されている状況を示している。空気の送り込みは、起重機船32に搭載されたコンプレッサー32aと連通する給気管53aを介しておこなわれる(X方向)。第二の浮体52内の圧力は、海底地盤Gとケーソン1とが接する付近の最大圧力程度に設定される。
【0045】
この状態から起重機船32にてケーソン1が鉛直方向に起こされていく。ケーソン1が起こされていくにしたがいケーソン1に作用する外水圧も徐々に低減していくが、その場合は外水圧の低減に応じて排気管54aから空気が排気されることにより(Y方向)、第二の浮体52内も減圧されていく。
【0046】
起こされたケーソン1は、起重機船32にて吊り上げられた姿勢で基礎マウンド2まで搬送される。この吊り上げ搬送の際には、ケーソン1の位置する水深が変化することに応じて作用する外水圧も変化することになる。そこで、この外水圧の変化に応じて第二の浮体内の圧力を調整させながらケーソン1は搬送される。図14は、ケーソン1に作用する外水圧の変化に応じて第二の浮体52内の圧力が調整されながら搬送されている状況を示している。本発明においては、圧力調整に加えて、第一の浮体51,51内に充填された水の重量およびケーソン1の自重からなる総重量によって決定される重心がメタセンターよりも低いレベルとなるように調整されている。すなわち、重心が常にメタセンター以下となるように調整されているため、ケーソン1搬送時に転倒モーメントが作用することがなく、安全な搬送作業が確保される。
【0047】
図15は、第五工程を示したものである。すなわち、基礎マウンド2上に載置されたケーソン1から仮蓋7および浮体5が撤去され、中詰砂15がケーソン内部に充填された後に上蓋11が設置されることにより、ケーソン1の復旧施工が完了する。なお、浚渫された海底地盤には、埋戻し土G2を施しておくことが好ましい。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第一工程を示した模式図。
【図2】図1に続き、第一工程を示した模式図。
【図3】図2に続き、第一工程を示した模式図。
【図4】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第二工程を示した模式図。
【図5】図4に続き、第二工程を示した模式図。
【図6】浮体の一実施形態を示した斜視図。
【図7】浮体搬送時の浮体の状態を示した斜視図。
【図8】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第三工程を示した模式図。
【図9】図8に続き、第三工程を示した模式図。
【図10】図9に続き、第三工程を示した模式図。
【図11】図10に続き、第三工程を示した模式図。
【図12】図11に続き、第三工程を示した模式図。
【図13】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第四工程を示した模式図。
【図14】図13に続き、第四工程を示した模式図。
【図15】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第五工程を示した模式図。
【符号の説明】
【0050】
1…ケーソン、11…上蓋、15…中詰砂、2…基礎マウンド、31…潜水士船、32…起重機船、33…水中バックホー、4…筐体、41……配管、42…水中サンドポンプ、5…浮体、51…第一の浮体、52…第二の浮体、53a…給気管、54a…排気管、53b…給液管、54b…排液管、6…棒材、61…フローター、7…仮蓋、8…防護壁、91…ケミカルアンカー、92…滑車、93…チェーンブロック、a…潜水士、G…海底地盤、G1…浚渫土、G2…埋戻し土
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法に係り、特に、ケーソンに外から作用する水圧でケーソンが破損することを防止することのできる転倒ケーソンの復旧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海域に護岸を構築する場合や埋立地を造成する場合、内部に中詰砂が充填されたコンクリート製または鋼製のケーソンが海底地盤上に構築されるのが一般的である。ケーソン設置に際しては、海底地盤上に予め砕石等によるマウンドが造成され、地盤支持力の確保やケーソンの円弧滑り等の防止が図られている。
【0003】
このケーソンは、陸上のドックで構築された後、クレーン船等で設置場所まで曳航され水中に設置されるのが一般的であるが、陸上のドックを不要とすべく、海上にてその構築から設置までを一貫しておこなう方法などもある(特許文献1,2)。
【0004】
ところで、ケーソンを構築する方法や海底地盤上に設置する方法は上記特許文献をはじめとして多岐にわたる一方で、水中に転倒したケーソンを復旧する方法に関する従来技術は皆無に等しい。幾多の大型台風による波浪や海洋型の大型地震による被害が後を絶たない昨今、海域にて設置されているケーソンも例外なく、かかる自然災害の対象となっているのが現状である。波浪や海洋型地震の影響によってケーソンが転倒した場合には、復旧作業が海域にておこなわれることから自然条件の制約を受け、該作業には多くの時間と費用が必要となってくることが多い。
【0005】
水中にてケーソンが転倒する場合、ケーソンには海水の抵抗が作用するために転倒時に受ける損傷が比較的軽微な場合が多く、したがって、改めて基礎マウンド上に載置することによって再利用できる可能性が高い。しかし、内部に中詰砂が充填されたケーソンの重量は極めて大きく、起重機船での吊り上げに際しては予め中詰砂をケーソン内から排除する必要がある。中詰砂を水中で排除するとともにケーソン内部を仮に締め切ることにより、比較的小型の起重機船にて転倒ケーソンを吊り上げることが可能となる。しかし、ケーソンの吊り上げの際に、内部の海水が排除されることによって外水圧と内圧とのバランスが崩れ、ケーソン壁体には外水圧による内部応力(曲げモーメントやせん断力)が生じることとなる。水深が深くなればなるほど内部応力の値も大きくなり、当初からかかる内部応力を想定して設計されていない通常のケーソンは、この内部応力にて破損し、場合によっては再利用ができない状況が招来される。そこで、吊り上げに際し、予めケーソン内部に給気をおこなうことで内圧と外水圧を釣り合わせることが考えられるが、ケーソンが浮上するに従い、内圧は一定でも外水圧が減少することとなり、内外圧の均衡が崩れることでケーソンにはやはり内部応力が生じることとなる。
【0006】
一方、水中に転倒したケーソンの吊り上げ時においては、ケーソンに生じる浮力とケーソン重量との関係から転倒モーメントが生じる可能性が高く、転倒モーメントによって起重機船の揺動が招来され、安定したケーソンの設置が阻害されるといった問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−214419号公報
【特許文献2】特開2001−214454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、転倒したケーソンを吊り上げ、所定の位置に設置するまでの過程において、外水圧の影響によってケーソン壁体に損傷を与えることのない転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。また、転倒によってケーソン壁体にひび割れが生じた場合でも、ケーソンの吊り上げに要する浮力を十分に確保することのできる転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。さらに、転倒したケーソンを水中にて吊り上げた姿勢で搬送する際に、該ケーソンに転倒モーメントが作用し難い転倒ケーソンの復旧方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による転倒ケーソンの復旧方法は、水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、ケーソン内に浮体を設置するとともに該浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整し、ケーソンを所定の位置に載置することを特徴とする。
【0010】
ここで、浮体とは例えばゴム製など適宜の材料からなる袋体のことである。この浮体を所定長さの棒部材に巻きつけておいたり、折り畳んだ状態の浮体を棒部材に仮止めしておき、潜水士によって該浮体はケーソン内に搬送設置される。
【0011】
ケーソン内への浮体の設置に際しては、予めケーソンの上蓋を撤去し、ケーソン内部の中詰砂を撤去しておく。
【0012】
ケーソン内に浮体を設置後、撤去された上蓋箇所に仮蓋を施し、浮体内に空気や窒素ガスなどの気体(流体)を充填していく。例えば仮蓋には水抜き孔が穿設されており、浮体が膨らむにつれて、ケーソン内部に浸入した海水がケーソン外に排除される。なお、浮体には流体を供給するための配管またはホースが装着されており、海上に停泊する起重機船等から流体の供給がおこなわれることになる。
【0013】
浮体内への気体(流体)の充填に際しては、まず、ケーソンに作用する外水圧の最も大きくなる圧力、すなわち、ケーソン側壁と海底地盤との接触箇所付近の水圧程度となるように浮体内の圧力が調整される。このように、ケーソン側壁の内外圧が同程度となるように浮体内の圧力が調整されることにより、ケーソン側壁には外水圧による過大な内部応力が生じ得ない。
【0014】
次に、仮蓋に設けられた吊りフックに起重機船のブームから延びるワイヤの一端を取り付け、ケーソンを徐々に吊り上げていく。ケーソンが上方へ吊り上げられるにしたがい、該ケーソンに作用する外水圧は徐々に低減していく。ケーソンの内壁面が受ける浮体からの圧力が吊り上げ初期の最大値のままであると、ケーソンの側壁はその内部から過大な圧力を受けることとなり、内部応力が増大してしまう。そこで、ケーソンの吊り上げに応じて、すなわち、ケーソンに作用する外水圧の低減に応じて該ケーソン内の浮体の圧力も低減させていく。これは、ケーソンに予め取り付けられた水圧計の計測結果に基づいて、浮体から気体を除去していき、例えば浮体に予め取り付けられた圧力計の計測値を水圧計の計測値に合わせていく等の方法によっておこなうことができる。
【0015】
ケーソンに作用する外水圧と浮体内の圧力をケーソンの深度に応じて調整しながら所定の基礎マウンドまでケーソンを移動させていき、基礎マウンド上にケーソンを載置する。なお、ケーソン載置に際し、必要に応じて基礎マウンドの補修や整形がおこなわれる。
【0016】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、比較的小規模の起重機船であっても容易にケーソンを吊り上げることが可能となり、さらには、ケーソンを基礎マウンドまで移動させる途中の水圧変動によるケーソンの損傷や破壊といった問題も生じ得ない。
【0017】
また、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態において、前記浮体は第一の浮体と第二の浮体とからなり、第一の浮体には水を含む液体が充填され、第二の浮体には空気を含む気体が充填され、該第一の浮体と該第二の浮体それぞれの大きさやケーソン内における配設位置は、ケーソン吊り上げ時に該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されており、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体内の空気圧が調整されることを特徴とする。
【0018】
第一の浮体と第二の浮体は、分離した形態であっても一体となった形態であってもよい。なお、ここでいう一体となった形態とは、双方の浮体がそれぞれの一部で縫い合わされる等されることによって一体となっている形態を意味している。また、気体が充填される第二の浮体の一側に液体が充填される第一の浮体が配設される実施形態のほか、第二の浮体の両側にそれぞれ第一の浮体が配設される実施形態がある。
【0019】
ここで、第一の浮体、第二の浮体双方の大きさ(流体が充填された際の大きさ)やケーソン内部における双方の配設位置は、ケーソンの吊り上げ時において該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような適宜の大きさおよび配設位置が選択される。
【0020】
この転倒モーメントは、ケーソンに作用する重心と、該重心を通る軸線とケーソンに作用する浮心からの鉛直線との交点(メタセンター)との上下関係によって決定されるもので、重心がメタセンターよりも低い場合、好ましくは1m以上低い場合にはケーソンが安定し、該ケーソンには転倒モーメントは作用しないこととなる。
【0021】
そこで、本発明においては上記転倒モーメントがケーソンに作用しないように第一の浮体、第二の浮体の大きさとケーソン内における双方の位置関係を決定するものである。ケーソンが転倒した状態からケーソンが吊り上げられた状態までを勘案すると、第一の浮体、第二の浮体双方の位置関係は、第二の浮体の両側にそれぞれ第一の浮体が配設される実施形態であることが好ましい。
【0022】
本発明においても、ケーソンの吊り上げ状況(ケーソンの深度)に応じてケーソン内部の浮体の圧力が調整される。本発明においては、空気などの気体が充填される第二の浮体内の圧力を適宜調整することにより、ケーソン内外の圧力調整が図られる。
【0023】
また、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態において、前記第二の浮体内には、気体を該第二の浮体内に供給する給気管と気体を該第二の浮体外へ排気する排気管が装着されており、給気管および排気管を介して気体を第二の浮体内に給排気しながら空気圧の調整がおこなわれることを特徴とする。
【0024】
圧力調整がおこなわれる第二の浮体に予め給気管および排気管が装着されていて、これらの給排気管が起重機船の圧力調整室等に連通した構成とすることにより、精度のよい圧力調整をおこなうことが可能となる。この圧力調整は、ケーソンの浮上に応じて排気管から適宜排気することによっておこなえばよい。なお、排気管の排気口を第二の浮体の下面に合わせて設置しておくことにより、排気口部の外水圧と第二の浮体の内圧を自動調整することも可能となる。
【0025】
さらに、本発明による転倒ケーソンの復旧方法の他の実施形態は、水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、転倒したケーソンの上蓋前面の土砂を浚渫する第一工程と、上蓋およびケーソン内の中詰砂を撤去する第二工程と、ケーソン内に浮体を設置するとともに仮蓋を設置する第三工程と、浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整しながらケーソンを吊り上げ、ケーソンを所定の位置に載置する第四工程と、仮蓋および浮体を撤去し、中詰砂と上蓋を復旧する第五工程と、からなることを特徴とする。
【0026】
ケーソンが海底地盤上に転倒する際には、ケーソンの一部(上蓋付近)が海底地盤内に埋め込まれてしまうことが往々にしてある。この場合、上蓋の撤去をおこなうために該上蓋前面の海底地盤を浚渫する必要が生じてくる。しかし、海底地盤表面にはヘドロが堆積している場合が多く、かかるヘドロを周囲に拡散させることなく浚渫する必要がある。そこで、第一工程においては、まず、ケーソンの上蓋前面の海底地盤(例えばヘドロ)を水中サンドポンプ等で浚渫し、浚渫土砂から水分を除去した後に処分するものである。例えば、海底地盤上に浚渫土砂を仮置きするための筐体を設置しておき、該筐体内に浚渫土砂を堆積させておき、時間の経過とともに土砂内から水分を浸出させる等の方法がある。
【0027】
次に、第二工程において、ケーソンの上蓋の撤去およびケーソン内の中詰砂の撤去をおこなう。上蓋撤去に際しては、例えば、起重機船から水中に水中バックホーを吊り降ろし、水中バックホーにて上蓋の解体撤去をおこなうことができる。上蓋を撤去した後、中詰砂の撤去に移行する。中詰砂の撤去は、例えば、水中エジェクターポンプ等を潜水士が操作しながら吸出し、吸い出された中詰砂は上記する海底地盤上の筐体や起重機船に送られて処理される。中詰砂が撤去されたケーソン内部は、潜水士によってその損傷の有無や程度が確認される。
【0028】
ケーソン内部が確認された後、例えば、ゴム製の浮体が潜水士によってケーソン内部に搬送設置される。この浮体は、既述する第一の浮体および第二の浮体を組み合わせた実施形態が適用できる。ケーソン内部には隔壁が設けられているのが一般的であるが、その場合は、隔壁で仕切られた部屋ごとに浮体が設置される。浮体が設置された後、例えば鋼製の仮蓋がケミカルアンカー等によってケーソン開口部に取り付けられ、第三工程が終了する。
【0029】
次に、第一の浮体内に水等の液体を充填し、第二の浮体内に空気等の気体を充填していく。空気の充填に際しては、既述するように、ケーソンに作用する外水圧の最も大きくなるケーソン側壁と海底地盤との接触箇所付近の水圧程度となるように浮体内の圧力が調整される。この状態で仮蓋の吊りフックに起重機船のブームから延びるワイヤの一端を取り付け、ケーソンを徐々に吊り上げていく。ケーソンの吊り上げに応じてケーソンに作用する外水圧も低減することから、この外水圧の低減に応じて第二の浮体内の圧力も減圧していきながら、起重機船にてケーソンを所定の基礎マウンド上に搬送設置する(第四工程)。なお、基礎マウンドがケーソンの転倒時に乱されている場合には、ケーソン設置に際してその補修や整形が予めおこなわれる。
【0030】
ケーソンが基礎マウンド上に設置された後、仮蓋を撤去し、内部の浮体を取り出し、中詰砂をケーソン内部に復旧し、上蓋を施工してケーソンの復旧が終了する(第五工程)。
【0031】
本発明によれば、転倒ケーソンを再利用するまでの過程においてケーソンに損傷を与える危険性がなく、しかも海底地盤内にヘドロを拡散させることもなく、極めて効率的なケーソンの復旧施工が可能となる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、ケーソンを転倒した場所から基礎マウンドまで搬送させる過程において、ケーソンの水中深度によって変化する外水圧に応じてケーソン内部の圧力を調整することができるため、ケーソンに過大な水圧が作用する危険性がなく、したがってケーソン搬送時の外水圧によるケーソンの損傷、破損といった問題を解消することができる。また、本発明の転倒ケーソンの復旧方法によれば、ケーソン内部に圧力調整用の気体に加えて液体が適宜の位置に充填されているため、ケーソン搬送時に転倒モーメントの発生を防止することができ、施工の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜3は、本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第一工程を順に示した模式図である。図4,5は、第二工程を順に示した模式図である。図6は、浮体の一実施形態を示した斜視図を、図7は、浮体搬送時の浮体の状態を示した斜視図をそれぞれ示している。図8〜12は、第三工程を順に示した模式図である。図13,14は、第四工程を順に示した模式図であり、図15は、第五工程を示した模式図である。なお、図示する浮体は、気体が充填される第二の浮体の両側に液体が充填される第一の浮体が取り付けられた実施形態であるが、かかる実施形態に限定されるものでないことは勿論のことである。また、ケーソンの転倒に際し、上蓋前面の海底地盤の浚渫が必要ない場合にはかかる工程は省略することができる。
【0034】
本発明の転倒ケーソンの復旧方法について、図1〜15に基づいて説明する。
【0035】
図1〜図3は、第一工程を説明した図である。図1では、基礎マウンド2から海底地盤Gへ転倒した(X方向)ケーソン1の外周面の破損状況を、潜水士船31にロープで繋げられた潜水士aが確認している状況を示している。ここで、ケーソン1は、上蓋11と側壁12、底版14と内部の隔壁13とから構成されるコンクリート製の構造物であり、その内部には中詰砂15が充填されている。図示する転倒状況においては、ケーソン1の一部が海底地盤G内に埋め込まれている。潜水士aの破損状況の確認結果に基づき、ケーソン1の再利用の可否が判断され得る。
【0036】
図2では、潜水士aが上蓋11から側壁12まで貫通するケミカルアンカー91を打設している状況を示している。これは、後述する上蓋前面の海底地盤Gの浚渫施工段階で上蓋11がケーソン1から外れるという危険性を排除するための作業であり、浚渫作業をおこなう潜水士aの安全を確保するためにおこなわれるものである。
【0037】
図3は、上蓋前面の浚渫土G1を水中サンドポンプ42で浚渫している状況を示している。かかる浚渫作業に際しては、予め海底地盤G上に筐体4を設置しておき、水中サンドポンプ42に連通する配管41を筐体4に繋げる。また、一定範囲の浚渫土G1の浚渫をおこなうために、まわりのヘドロが浚渫領域に入り込んでこないような防護壁8を設置する。この防護壁8は、例えば土嚢を積み上げることによって作られる。水中サンドポンプ42で吸い込んだ浚渫土G1は筐体4に搬送され、筐体4内に堆積される。筐体4内で一定時間堆積した浚渫土G1から水分が脱水された後、該浚渫土G1は適宜処分される。なお、筐体4の設置や水中サンドポンプ42の設置は起重機船32を使用しておこなわれる。このように、浚渫土G1を筐体4内で処理することにより、ヘドロの拡散を防止することができる。
【0038】
次に、図4,5に基づいて第二工程を説明する。図4は、上蓋11を水中バックホー33にて解体撤去している状況を示したものである。水中バックホー33の吊り下げや施工途中の垂下は起重機船32にておこなうことができる。
【0039】
上蓋11が解体撤去された後、ケーソン1内の中詰砂15の吸出し作業をおこなう。図5は、潜水士aが図示しない水中エジェクターポンプを使用しながら中詰砂15の吸出しをおこなっている状況を示している。水中エジェクターポンプにはホースまたは配管41が連通しており、吸い出された中詰砂15は筐体4へ送られる。筐体4内に堆積された中詰砂15についても、脱水を経て適宜処分されることになる。なお、脱水された中詰砂15は、復旧施工の最終段階でおこなわれる中詰砂の充填時に再利用できることは勿論のことである。
【0040】
次に、図6に基づいてケーソン1内に設置される浮体5の一実施形態を説明する。浮体5は、空気などの気体が充填される第二の浮体52と、その両側に水などの液体が充填される第一の浮体51,51が繋ぎ合わされて構成される。図6は、第一の浮体51、第二の浮体52それぞれに液体および気体が充填された状況を示している。第一の浮体51、第二の浮体52には、それぞれ給液管53bと排液管54b,給気管53aと排気管54aが接続されている。第一の浮体51、第二の浮体52は、例えばゴム製の袋から製作することができる。
【0041】
図7は、潜水士aが浮体5をケーソン1内に搬送設置する際の浮体5の状態を示したものである。浮体5は袋体であることから内部に空気や水が充填されていない場合には扁平に潰された状態となり得る。そこで、搬送時には浮体5を複数に折り畳んでおき、棒材6に巻きつけておく。棒材6には、フローター61,61が取り付けられており、水中にて棒材6と浮体5の全体重量を調整できるようになっている。
【0042】
次に、図8〜12に基づいて第三工程を説明する。図8は、図7の状態の浮体5を潜水士aがケーソン1内に搬送設置している状況を示している。一つの実施例としては、ケーソン1内に滑車92を設置しておき、棒材6の一端に繋げられたロープを滑車92を介して潜水士船31から引っ張ることにより、浮体5をケーソン1内に引き込んでいく。ケーソン1内の各部屋に浮体5,5,…を搬送設置した後、それぞれの棒材6を浮体5から取り外す(図9参照)。
【0043】
浮体5を設置した後、仮蓋の取り付け作業に移行する。図10は、潜水士aが仮蓋設置用のケミカルアンカー91を打設している状況を示したものである。所定本数のケミカルアンカー91,91,…が打設された後、仮蓋7に穿設されたアンカー孔にケミカルアンカー91を貫通させ、ケミカルアンカー91の頭部に座金を嵌め込んでいく。図11は、潜水士aにより、仮蓋7が設置されている状況を示したものである。なお、仮蓋7の引き込みに際しては、チェーンブロック93を使用することができる。仮蓋7の引き込み後、ケミカルアンカー91および座金によって仮蓋7の固定が完了する(図12参照)。
【0044】
次に、図13,14に基づいて第四工程を説明する。図13は、ケーソン1が転倒した状態において、第一の浮体51内に水が充填され、第二の浮体52内に空気が充填されている状況を示している。空気の送り込みは、起重機船32に搭載されたコンプレッサー32aと連通する給気管53aを介しておこなわれる(X方向)。第二の浮体52内の圧力は、海底地盤Gとケーソン1とが接する付近の最大圧力程度に設定される。
【0045】
この状態から起重機船32にてケーソン1が鉛直方向に起こされていく。ケーソン1が起こされていくにしたがいケーソン1に作用する外水圧も徐々に低減していくが、その場合は外水圧の低減に応じて排気管54aから空気が排気されることにより(Y方向)、第二の浮体52内も減圧されていく。
【0046】
起こされたケーソン1は、起重機船32にて吊り上げられた姿勢で基礎マウンド2まで搬送される。この吊り上げ搬送の際には、ケーソン1の位置する水深が変化することに応じて作用する外水圧も変化することになる。そこで、この外水圧の変化に応じて第二の浮体内の圧力を調整させながらケーソン1は搬送される。図14は、ケーソン1に作用する外水圧の変化に応じて第二の浮体52内の圧力が調整されながら搬送されている状況を示している。本発明においては、圧力調整に加えて、第一の浮体51,51内に充填された水の重量およびケーソン1の自重からなる総重量によって決定される重心がメタセンターよりも低いレベルとなるように調整されている。すなわち、重心が常にメタセンター以下となるように調整されているため、ケーソン1搬送時に転倒モーメントが作用することがなく、安全な搬送作業が確保される。
【0047】
図15は、第五工程を示したものである。すなわち、基礎マウンド2上に載置されたケーソン1から仮蓋7および浮体5が撤去され、中詰砂15がケーソン内部に充填された後に上蓋11が設置されることにより、ケーソン1の復旧施工が完了する。なお、浚渫された海底地盤には、埋戻し土G2を施しておくことが好ましい。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第一工程を示した模式図。
【図2】図1に続き、第一工程を示した模式図。
【図3】図2に続き、第一工程を示した模式図。
【図4】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第二工程を示した模式図。
【図5】図4に続き、第二工程を示した模式図。
【図6】浮体の一実施形態を示した斜視図。
【図7】浮体搬送時の浮体の状態を示した斜視図。
【図8】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第三工程を示した模式図。
【図9】図8に続き、第三工程を示した模式図。
【図10】図9に続き、第三工程を示した模式図。
【図11】図10に続き、第三工程を示した模式図。
【図12】図11に続き、第三工程を示した模式図。
【図13】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第四工程を示した模式図。
【図14】図13に続き、第四工程を示した模式図。
【図15】本発明の転倒ケーソンの復旧方法の第五工程を示した模式図。
【符号の説明】
【0050】
1…ケーソン、11…上蓋、15…中詰砂、2…基礎マウンド、31…潜水士船、32…起重機船、33…水中バックホー、4…筐体、41……配管、42…水中サンドポンプ、5…浮体、51…第一の浮体、52…第二の浮体、53a…給気管、54a…排気管、53b…給液管、54b…排液管、6…棒材、61…フローター、7…仮蓋、8…防護壁、91…ケミカルアンカー、92…滑車、93…チェーンブロック、a…潜水士、G…海底地盤、G1…浚渫土、G2…埋戻し土
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、
ケーソン内に浮体を設置するとともに該浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整し、ケーソンを所定の位置に載置することを特徴とする転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項2】
前記浮体は第一の浮体と第二の浮体とからなり、第一の浮体には水を含む液体が充填され、第二の浮体には空気を含む気体が充填され、該第一の浮体と該第二の浮体それぞれの大きさやケーソン内における配設位置は、ケーソン吊り上げ時に該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されており、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体内の空気圧が調整されることを特徴とする請求項1に記載の転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項3】
前記第二の浮体内には、気体を該第二の浮体内に供給する給気管と気体を該第二の浮体外へ排気する排気管が装着されており、給気管および排気管を介して気体を第二の浮体内に給排気しながら空気圧の調整がおこなわれることを特徴とする請求項2に記載の転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項4】
水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、
転倒したケーソンの上蓋前面の土砂を浚渫する第一工程と、上蓋およびケーソン内の中詰砂を撤去する第二工程と、ケーソン内に浮体を設置するとともに仮蓋を設置する第三工程と、浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整しながらケーソンを吊り上げ、ケーソンを所定の位置に載置する第四工程と、仮蓋および浮体を撤去し、中詰砂と上蓋を復旧する第五工程と、からなることを特徴とする転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項1】
水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、
ケーソン内に浮体を設置するとともに該浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整し、ケーソンを所定の位置に載置することを特徴とする転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項2】
前記浮体は第一の浮体と第二の浮体とからなり、第一の浮体には水を含む液体が充填され、第二の浮体には空気を含む気体が充填され、該第一の浮体と該第二の浮体それぞれの大きさやケーソン内における配設位置は、ケーソン吊り上げ時に該ケーソンに転倒モーメントが作用しないような大きさおよび配設位置に調整されており、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて、第二の浮体内の空気圧が調整されることを特徴とする請求項1に記載の転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項3】
前記第二の浮体内には、気体を該第二の浮体内に供給する給気管と気体を該第二の浮体外へ排気する排気管が装着されており、給気管および排気管を介して気体を第二の浮体内に給排気しながら空気圧の調整がおこなわれることを特徴とする請求項2に記載の転倒ケーソンの復旧方法。
【請求項4】
水中に転倒したケーソンを復旧する転倒ケーソンの復旧方法であって、
転倒したケーソンの上蓋前面の土砂を浚渫する第一工程と、上蓋およびケーソン内の中詰砂を撤去する第二工程と、ケーソン内に浮体を設置するとともに仮蓋を設置する第三工程と、浮体内に流体を充填し、ケーソン吊り上げ時のケーソンに作用する水圧の変動に応じて浮体の圧力を調整しながらケーソンを吊り上げ、ケーソンを所定の位置に載置する第四工程と、仮蓋および浮体を撤去し、中詰砂と上蓋を復旧する第五工程と、からなることを特徴とする転倒ケーソンの復旧方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−188863(P2006−188863A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−843(P2005−843)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
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