説明

転写用原盤及びその製造方法

【課題】凹凸パターンの形状安定性に優れた転写用原盤を得る。
【解決手段】微細な凹凸状パターンが形成された原盤(26)の表面に、密度7.5〜8.9g/cmの導電性膜(Ni膜)による初期層(16)を形成し、その後、電鋳法により金属層(28)を形成する。こうして、少なくとも初期層(16)と金属層(28)の2層を有して一体となった複版(30)を原盤(26)から剥離し、金属層(28)の凹凸面に初期層(16)が積層形成された複版(30)である転写用原盤を得る。磁気転写用マスターディスク、ディスクリート・トラック媒体(DTM)用のモールド、光ディスク用のスタンパーなど様々な転写用原盤に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写用原盤及びその製造方法に係り、特に、ハードディスク装置に用いられる磁気ディスクにフォーマット情報等の磁気情報パターンを磁気転写する際に用いる磁気転写用マスターディスクやディスクリート・トラック媒体(DTM)のモールドなど、表面に微細な凹凸パターンを有する転写用原盤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに使用される磁気ディスク(ハードディスク)は、ドライブに組み込まれる前に、フォーマット情報やアドレス情報が書き込まれるのが一般的である。この書き込みは、磁気ヘッドにより行うこともできるが、これらのフォーマット情報やアドレス情報を担持したマスターディスクより一括転写する方法が効率的であり、好ましい。
【0003】
この磁気転写技術は、マスターディスクと被転写ディスク(スレーブディスク)とを密着させた状態で、片側又は両側に電磁石装置、永久磁石装置等の磁界生成手段を配設して転写用磁界を印加し、マスターディスクの有する情報(たとえばサーボ信号)に対応する磁化パターンの転写を行うものである。
【0004】
このような磁気転写に使用するマスターディスクの一例としては、基板の表面に情報信号に対応する凹凸パターンを形成し、この凹凸パターンの表面に薄膜磁性層を被覆形成してなるものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
このマスターディスクの凹凸パターンは、フォトレジストが塗布されたシリコン(Si)原板を回転させながら情報に応じて変調したレーザー又は電子ビームを照射して描画し、このフォトレジストを現像した凹凸を有する原板の表面にスパッタリング等により導電層を形成し、次いで、この導電層の上にメッキ(電鋳)を行い、金属の型をとった後剥離することで作製してなる金属盤を原盤として、基板表面に凹凸形状を複写している。
【0006】
また、特許文献2には、ナノインプリント等に使用されるモールドの製造に関し、凸部面への付着率が凹部底領域への付着率よりも低い材料をスパッタ法にて凹凸パターン基板に成膜して、凹部に選択的に充填部を形成した後、凸部の面を被覆する被覆膜を形成し、当該被覆膜と充填部とを剥離する方法を提案している。
【特許文献1】特開2006−216181号公報
【特許文献2】特開2007−301732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気転写用マスターディスクにおいては透磁率の高い物質からなる磁性層が必要であり、特許文献1に記載の技術では、磁性層が電鋳を行うための導電層を兼ねていた。
【0008】
しかし、Si原盤の凹凸バターンの微細化が進展すると、透磁率の高い成膜条件と、Si原盤とNi複版とが剥離しやすい成膜条件とを両立させることができず、しばしばNi複版の凸部が欠けてしまうことが問題となっていた。
【0009】
このような課題は、磁気転写用マスターディスクに限らず、表面に微細な凹凸パターンを持つ構造体について共通する課題である。
【0010】
特許文献2では、ニッケル(Ni)を電鋳する工程について記載があるが、剥離性を改善する金属膜の物性等については記載されてない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、微細な凹凸形状を壊すことなく、原盤と複版とが剥離しやすい構成の転写用原盤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記目的を達成するために、転写する情報に対応した凹凸パターンを有する転写用原盤の製造方法であって、反転凹凸パターンを有する反転型原盤の表面に密度8.3〜8.9g/cmのニッケル(Ni)膜による初期層を形成する初期層形成工程と、前記初期層の形成後に、電鋳法により前記反転型原盤の前記初期層に重ねて金属層を形成する電鋳工程と、前記電鋳工程の後、少なくとも前記初期層と前記金属層の2層を有して一体となった複版を前記反転型原盤から剥離し、前記金属層の凹凸面に前記初期層が積層形成された前記複版である転写用原盤を得る剥離工程と、を備えることを特徴とする転写用原盤の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、密度8.3〜8.9g/cmの導電性膜(Ni膜)による初期層が存在することにより、複版(電鋳物)の剥離性が向上し、凸部の欠けが防止され、形状安定性のよい転写用原盤を得ることができる。なお、初期層の上に直接、電鋳によって金属層を形成してもよいし、初期層の上に磁性層などの中間層を形成した後に、金属層を形成してもよい。

「転写原盤」には、磁気転写用のマスターディスク、ディスクリート・トラック媒体の製造におけるモールド、光ディスク等の製造におけるスタンパーなど、各種の原盤が含まれる。
【0014】
本発明の他の態様に係る転写用原盤の製造方法は、前記初期層の形成後に、前記反転型原盤の前記初期層の表面に磁性を有する主層を形成する主層形成工程において主層形成を行い、前記主層の形成後に、前記電鋳工程において電鋳を行い、前記剥離工程により、前記金属層の凹凸面に前記主層と前記初期層とが積層形成された前記複版である前記転写用原盤を得ることを特徴とする。
【0015】
かかる態様によれば、磁気転写に適した磁性層(主層)の透磁率を維持しつつ、原盤と複版とが剥離しやすい構成の磁気転写用マスターディスクを作製することができる。
【0016】
また、本発明は、転写する情報に対応した凹凸パターンを有する転写用原盤であって、電鋳によって形成された金属盤の凹凸パターン上に、前記電鋳を行うときの導電層となる密度8.3〜8.9g/cmのニッケル(Ni)膜による初期層が積層形成されていることを特徴とする転写用原盤を提供する。
【0017】
本発明の転写用原盤は、電鋳に用いる母型の凹凸形状を正確に現出させたものとなり、高品位の転写を実現できる。
【0018】
なお、本発明において、初期層の膜厚は1〜100nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微細形状の凹凸パターンを精度よく形成できるため、転写特性に優れた転写用原盤を得ることができる。また、本発明に係る転写用原盤を用いることにより、品質の安定した転写を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面にしたがって本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0021】
ここでは転写用原盤の一例として磁気転写用マスターディスクを例に説明する。
【0022】
〔マスターディスクの説明〕
図1は本発明の実施形態に係る磁気転写用マスターディスクの部分拡大斜視図である。図2は磁気転写用マスターディスクの平面図である。なお、各図は説明の便宜上、実際の寸法とは異なる比率で示している。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態に係る磁気転写用マスターディスク(以下「マスターディスク」という)10は、金属製のマスター基板12(「金属層」、「金属盤」に相当)と磁性層14(「主層」に相当)と初期層16とで構成されている。マスター基板12は表面に転写情報に応じた微細な凹凸パターンを有しており、この凹凸面に磁性層14が被覆形成され、該磁性層14の上に更に初期層16が被覆形成されてなる。なお、図には示さないが、初期層16の上に保護層や潤滑層を設ける態様が好ましい。
【0024】
微細な突起状パターンの凸部は、平面視で長方形であり、トラック方向(図中の太矢印方向)の長さbと、半径方向の長さl、並びに突起の高さ(厚さ)mの値は、記録密度や記録信号波形等により設計される。例えば、長さbを80nmに、長さlを200nmにできる。
【0025】
ハードディスク装置に用いる磁気記録媒体のサーボ信号の場合、この微細な突起状パターンは、トラック方向の長さbに比べて半径方向の長さlの方が長く形成される。例えば、半径方向の長さlが0.05〜20μm、トラック方向(円周方向)の長さが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。
【0026】
突起状パターンの深さ(突起の高さm)は、20〜800nmの範囲が好ましく、30〜600nmの範囲がより好ましい。
【0027】
図2に示されるように、マスターディスク10は、中心孔12aを有する円盤状に形成されており、片面の内周部及び外径部を除く円環状領域12bに図1のような凹凸パターンが形成される。
【0028】
なお、マスターディスク10において、マスター基板12がNi等を主体とした強磁性体の場合には、このマスター基板12のみで磁気転写が可能であり、磁性層14は被覆しなくてもよいが、転写特性のよい磁性層14を設けることにより、より良好な磁気転写が行える。
【0029】
本例のマスターディスク10は、後述するように、転写すべき情報に応じた凹凸パターンが形成された原盤(反転型原盤)に、初期層16と磁性層14を形成し、次いで、Ni電鋳によって所定厚さの金属層(マスター基板12に相当する金属盤)を積層し、初期層16、磁性層14及び金属層(マスター基板12)が一体となった電鋳物の複版を、原盤から剥離した後、外周部分及び中心孔12aの部分が所望のサイズで打ち抜かれて作製されたものである。
【0030】
〔マスターディスクの製造方法の説明〕
次に、マスターディスク10の製造方法を図3に基づいて説明する。先ず、図3(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板20(ガラス板、石英ガラス板でもよい)の上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して(レジスト塗布工程)、レジスト層22を形成し、ベーキング処理(プレベーク)を行う。
【0031】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板20をセットし、原板20を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビーム24を照射し(図3(b))、レジスト層22の略全面に所定のパターン、たとえば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光する(電子線描画工程)。
【0032】
次いで、図3(c)に示されるように、レジスト層22を現像処理し、露光部分を除去して、残ったレジスト層22による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。現像処理の後には、レジスト層22と原板20との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0033】
次いで、図3(d)に示されるように、レジスト層22の開口部23より原板20を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0034】
次いで、図3(e)に示されるように、レジスト層22を除去する。レジスト層22の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸パターンの反転型が形成された原盤26(「反転型原盤」に相当するSi原盤)が作製される。
【0035】
次いで、図3(f)に示されるように、原盤26の凹凸面に均一厚さに導電膜による初期層16を形成する。導電膜の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。本例では初期層16の導電膜として、スパッタ法によりNi膜が形成される。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり導電膜としてふさわしい。
【0036】
初期層16の膜厚は、1〜100nmであり、より好ましくは1〜50nmであり、特に好ましくは2〜20nmである。Niの初期層16が厚くなり過ぎると複版の表面に凹んだ欠陥が発生しやすくなる傾向があるため、必要最小限の厚みにすることが望ましい。
【0037】
また、初期層16を構成するNi膜の密度は、8.3〜8.9g/cmの範囲とする。より好ましくは8.4〜8.9g/cmであり、特に好ましくは8.5〜8.8g/cmである。
【0038】
次いで、図3(g)に示されるように、初期層16の上に磁性膜による磁性層14(主層)を形成する。磁性層14(磁性膜)の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法(無電解メッキを含む)などにより成膜する。磁性層14の磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を用いることができる。
【0039】
特に、FeCo、FeCoNiが好ましく用いることができる。磁性層14の厚さは、50nm〜500nmの範囲が好ましい。
【0040】
次いで、図3(h)に示されるように、この原盤26の表面に形成された初期層16及び磁性層14からなる導電層を陰極として電鋳(電着)を行い、所望の厚さの金属層28(ここでは、Ni電鋳膜)を形成し、図1で説明したマスター基板12に相当する金属板を得る(電鋳工程)。
【0041】
この電鋳工程は、電鋳装置の電解液中に原盤26を浸し、原盤26の導電層(初期層16及び磁性層14)を陰極とし、陽極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、形成される金属板(すなわちマスター基板12)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。
【0042】
そして、上記のようにして電着が終了した後、所定厚の金属層28が積層された原盤26が電鋳装置の電解液から取り出され、剥離槽(図示略)内の純水に浸される。
【0043】
次いで、剥離槽内において、原盤26から初期層16、磁性層14及び金属層28が一体となった電鋳物(複版30)を剥離し(剥離工程)、図14(i)に示すような、原盤26から反転した凹凸状パターンを有する複版30を得る。
【0044】
初期層16の上に保護層を形成する場合には、複版30を原盤26から剥離した後に、この複版30の内径及び外径を所定のサイズに打抜き加工して得られたマスターディスク10に、カーボン膜をスパッタ法で形成する。
【0045】
このようにして、磁気転写用マスターディスク10が製造される。
【0046】
また、磁気強度を大きくしたい場合には、複版30を原盤26から剥離した後に、この複版30の内径及び外径を所定のサイズに打抜き加工して得られたマスターディスク10に、もう1度磁性層を形成(後載せ)し、その後に保護層を形成する。
【0047】
上記の製造方法によれば、剥離工程における複版30の離型性がよく、凸部のパターン崩れを防止できる。これにより、原盤26の凹凸形状を正確に現出させた磁気転写用マスターディスク10を得ることができ、信号品質の良好な磁気転写が可能となる。
【0048】
また、図1に示したとおり、マスターディスク10における突起状パターンの凸部は、側面視で台形であり、凸部の立ち上がり角度が90°に近づくほど(凸部の側面視形状が矩形に近づくほど)、複版30を原盤26から剥離しにくくなる。
【0049】
本例の製造方法によれば、従来に比べて複版30の剥離性が改善されるため、凸部の形状を矩形に近づけることができ、パターンの高密度化および高精度化を実現できる。
【0050】
また、本例の製造方法によれば、1つの原盤26を繰り返し使用することができ、1の原盤26より複数の複版を作製できる。
【0051】
〔複版における凸部の台形形状の好ましい形態について〕
図4は、Ni複版凸部の台形形状の模式図である。図示のように、凸部の「高さ」と、「半値幅」、台形斜面の「傾斜角」を定義する。半値幅は、半分の高さ位置での凸部幅である。また、ここでは、凸部の台形形状のアスペクト比を「高さ/半値幅」と定義する。
【0052】
本実施形態における複版の高さ・半値幅について好ましい範囲は、高さ:5〜800nm、半値幅:3〜20000nmである。より好ましい範囲は、高さ:10〜600nm、半値幅:7〜5000nmである。特に好ましい範囲は、高さ20〜400nm、半値幅:10〜500nmである。具体的には、例えば、高さ100nmで半値幅40nm〜250nmの複数の凸部パターンが同一の複版内に存在している。
【0053】
本実施形態における複版の高さ・半値幅について好ましい範囲は、高さ:5〜800nm、半値幅:3〜20000nmである。より好ましい範囲は、高さ:10〜600nm、半値幅:7〜5000nmである。特に好ましい範囲は、高さ20〜400nm、半値幅:10〜500nmである。
【0054】
具体的には、例えば、高さ100nmで半値幅40nm〜250nmの複数の凸部パターンが同一の複版内に存在している。
【0055】
アスペクト比について好ましい範囲は、0.05〜50.0である。より好ましい範囲は、0.02〜10.0である。特に好ましい範囲は、0.2〜5.0である。具体的には、例えば、アスペクト比0.5(=100/250)〜2.5(=100/40)の複数の凸部パターンが同一の複版内に存在している。
【0056】
台形斜面の傾斜角について好ましい範囲は、20〜90°である。より好ましい範囲は、30〜89°である。特に好ましい範囲は、40〜88°である。具体的には、例えば、約82°に設計する。
【0057】
なお、厳密な台形ではなく、凸形状のボトム部を裾引き形状(Rをつける)にすると複版の剥離性が一層向上する。
【0058】
複版における凸部パターンの台形形状は、RIE(リアクティブ イオン エッチング)によって実現できる。エッチングレート、エンチングガスの種類、混合比などを変えることで台形の傾斜角を制御する。
【0059】
〔初期層(Ni膜)の膜物性について〕
図3で説明したマスターディスク10の製造工程において、電鋳工程の後に原盤26から複版30を剥がす際の剥離性、すなわち、複版30における凹凸のパターン形成性は、初期層16の膜物性に依存する。
【0060】
図5は、Ni膜の密度とパターン形成性の関係を調べた実験結果である。この実験は、Ni初期層(膜厚=9nm)の上に直接Ni電鋳を行い、得られた複版(「転写用原盤」に相当)についてパターン形成性を評価したものである。つまり、図1,図3で説明した磁性層(主層)14を入れずに、Ni初期層とNi電鋳層によって凹凸パターン構造体を形成し、この「Ni初期層/Ni電鋳層」という層構成でパターン形成性を評価したものである。
【0061】
実験では、Ni初期層の密度を異ならせて、高さ60nmのラインパターン(凸部)を等間隔で17本形成し、良好に形成できたラインパターンの本数を調べた。半値幅26.5nmのラインパターンを形成した場合と、半値幅29.3nmのラインパターンを形成した場合の結果を表1及び図5に示す。また、各実験で得られたラインパターンの様子を図6にまとめた。
【0062】
【表1】

【0063】
Ni膜の膜物性(密度、応力、硬度等)は、Ni初期層の成膜条件(Niスパッタ装置の電力、成膜圧力など)によって変更される。
【0064】
この実験結果からNi初期層の密度は、8.34g/cm以上とすることが望ましい。また、Niのバルク密度は、8.9g/cmであることから、密度の上限は8.9g/cmである。
【0065】
即ち、初期層16を構成するNi膜の密度は、8.3〜8.9g/cmの範囲とする。より好ましくは8.4〜8.9g/cmであり、特に好ましくは8.5〜8.8g/cmである。
【0066】
実験結果が示すように、Ni初期層の密度が高い方が複版のパターン形成性が良好となる。また、パターンの線幅が細くなるほど効果が大きい。
【0067】
初期層の膜物性を様々に変えて実験を行ったところ、剥離性(パターン形成性)が良好なNi膜は、[1]密度が高い(バルク密度に近い)、[2]応力が大きい、[3]硬度が高い、という傾向を示した。
【0068】
また、図1,図3で説明した磁性層(主層)14を付加した構成についても、同様の実験を実施したところ、同様の結果が得られた(図示省略)。すなわち、Ni初期層/FeCo主層/Ni電鋳層の層構成からなる凹凸パターン構造体について、上記同様のパターン形成性を評価した場合にも図5と同様の結果となった。磁性層(主層)14の有無は剥離性(パターン形成性)に対しての寄与が小さく、初期層の膜物性が剥離性(パターン形成性)に大きく寄与していると言える。
【0069】
〔実施例〕
多数の微細な凹凸状パターンが形成されたSi原盤(「反転型原盤」に相当)の表面に、スパッタ法にて密度が8.7g/cmであるNiからなる厚さ9nmの初期層を形成し、次いで、同じくスパッタ法にて、FeCoからなる磁性を有する厚さ60nmの主層を形成した。このNi初期層(9nm)とFeCo主層(60nm)の2層からなる導電層を形成したSi原盤の表面にNiを電鋳することにより、厚さ150μmのNi複版を形成した。この複版をSi原盤から剥離することにより、その表面に凹凸状の反転パターンを有するとともに当該反転パターンの表面に磁性層が形成された反転板である磁気転写用マスターディスクを得る。
【0070】
上条件のNi初期層を用いたことにより、形状安定性の良い(凹凸パターンの崩れの無い)マスターディスクを作製することができた。
【0071】
〔磁気転写方法の説明〕
次に、本実施形態に係る磁気転写用マスターディスク10を用いた磁気転写方法について説明する。ここでは、ハードディスク装置に用いられる垂直磁気記録媒体に対して、サーボ信号等を転写する場合を例示する。
【0072】
図7は、水平着磁方式による磁気転写方法の模式図である。同図において、符号40は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体)である。マスターディスク10は、片面に微細な突起状パターンが形成された転写情報担持面が形成されており、この転写情報担持面の反対側の面(裏面側)は不図示の密着手段に保持されるようになっている。
【0073】
磁気転写時には図7のように、マスターディスク10の転写情報担持面をスレーブディスク40と密着させ、マスターディスク10に対し、面内方向(図7の矢印A方向)の磁界を印加する。この面内磁界の印加により、マスターディスク10の凸部のエッジ部に垂直方向の磁界が発生し、この垂直方向の磁界によって、凸部のエッジ位置に対応した位置のスレーブディスク40の磁性層が垂直方向に磁化される。図7における符号41,42の矢印は磁化の方向を模式的に示したものである。
【0074】
こうして、スレーブディスク40には、マスターディスク10の凹凸パターンを反映した磁気情報が記録される。その後、磁界の印加を解除してスレーブディスク40をマスターディスク10から剥がし、サーボ信号等が記録された垂直磁気記録媒体を得る。
【0075】
図8は、図7で説明した水平着磁方式の磁気転写によってスレーブディスク40に記録された信号の再生(出力)信号の波形例である。図8のように、マスターディスク10の凸部のエッジ(凹凸の境界部)に対応したスレーブディスク40の位置にピークが現れる再生信号が得られる。
【0076】
図9は、垂直着磁方式による磁気転写方法の模式図である。同図において、符号50は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体)である。垂直着磁方式の場合、転写に先立ち予めスレーブディスク50に垂直方向の直流磁界をかけて初期磁化を行い(初期磁化工程)、その後、図9のように、マスターディスク10とスレーブディスク50を密着させ、初期磁化の際とは逆方向の垂直方向磁界(矢印B方向の磁界)を印加する。この磁界の印加により、マスターディスク10の凸部と接触する位置のスレーブディスク50の磁性層が初期磁化と逆向きに磁化される。図9における符号の矢印は磁化の方向を模式的に示したものである。
【0077】
こうして、スレーブディスク50には、マスターディスク10の凹凸パターンを反映した磁気情報が記録される。その後、磁界の印加を解除してスレーブディスク50をマスターディスク10から剥がし、サーボ信号等が記録された垂直磁気記録媒体を得る。
【0078】
図10は、図9で説明した垂直磁方式の磁気転写によってスレーブディスク40に記録された信号の再生(出力)信号の波形例である。図10に示すように、マスターディスク10の凸部の中央と凹部の中央に対応したスレーブディスク40の位置にピークが現れる再生信号が得られる。
【0079】
なお、マスターディスク10の凹凸パターンが、図3(i)のポジパターンと逆の凹凸形状のネガパターンの場合であっても、磁気転写の際の初期磁界Hiの方向及び転写用磁界Hdの方向をこれと逆方向にすることによって、同様の磁化パターンが転写記録できる。
【0080】
本発明によるマスターディスク10を用いた磁気転写を行うことにより、信号品質が良好なサーボ信号等が記録された磁気記録媒体を製造することができる。
【0081】
上述の実施形態では、磁気転写用のマスターディスクを例に説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、ディスクリート・トラック媒体(DTM)の製造に用いられるモールド(DTMモールド)、光ディスク等の製造に用いられるスタンパーなど、各種用途の原盤について適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気転写用マスターディスクの部分拡大斜視図
【図2】磁気転写用マスターディスクの平面図
【図3】磁気転写用マスターディスクの作製工程を順に示す断面図
【図4】複版凸部の台形形状の定義に関する説明図
【図5】Ni初期層の密度とパターン形成性の関係を調べた実験結果のグラフ
【図6】Ni初期層の密度とパターン形成性の関係を調べた実験において得られたラインパターンの様子をまとめた図
【図7】水平着磁方式による磁気転写の説明図
【図8】水平着磁方式で磁気転写を行った垂直磁気記録媒体の再生信号波形の例を示す図
【図9】垂直着磁方式による磁気転写の説明図
【図10】垂直着磁方式で磁気転写を行った垂直磁気記録媒体の再生信号波形の例を示す図
【符号の説明】
【0083】
10…マスターディスク、12…マスター基板、14…磁性層、16…初期層、20…原板、22…レジスト層、26…原盤、28…金属層、30…複版、40,50…スレーブディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写する情報に対応した凹凸パターンを有する転写用原盤の製造方法であって、
反転凹凸パターンを有する反転型原盤の表面に密度8.3〜8.9g/cmのニッケル(Ni)膜による初期層を形成する初期層形成工程と、
前記初期層の形成後に、電鋳法により前記反転型原盤の前記初期層に重ねて金属層を形成する電鋳工程と、
前記電鋳工程の後、少なくとも前記初期層と前記金属層の2層を有して一体となった複版を前記反転型原盤から剥離し、前記金属層の凹凸面に前記初期層とが積層形成された前記複版である転写用原盤を得る剥離工程と、
を備えることを特徴とする転写用原盤の製造方法。
【請求項2】
前記初期層の形成後に、前記反転型原盤の前記初期層の表面に磁性を有する主層を形成する主層形成工程において主層形成を行い、
前記主層の形成後に、前記電鋳工程において電鋳を行い、
前記剥離工程により、前記金属層の凹凸面に前記主層と前記初期層とが積層形成された前記複版である前記転写用原盤を得ることを特徴とする請求項1に記載の転写用原盤の製造方法。
【請求項3】
転写する情報に対応した凹凸パターンを有する転写用原盤であって、
電鋳によって形成された金属盤の凹凸パターン上に、前記電鋳を行うときの導電層となる密度8.3〜8.9g/cmのニッケル(Ni)膜による初期層が積層形成されていることを特徴とする転写用原盤。
【請求項4】
前記金属盤の凹凸パターン上に、磁性を有する主層が形成され、該主層の上に、前記初期層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の転写用原盤。
【請求項5】
前記初期層の膜厚は、1〜100nmであることを特徴とする請求項3又は4に記載の転写用原盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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