説明

転写箔およびその転写物

【課題】液晶の様な、分子配向を起因とする破断抵抗異方性を示す材料を含む転写箔において、剥離時にかかる抵抗を低減し、転写欠けやバリを軽減し、作業性が安定した転写箔およびその転写物を提供する。
【解決手段】破断抵抗に異方性を生じる液晶層の輪郭部(破断させる部分)をポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相とすることにより、剥離時にかかる抵抗を低減し、転写欠けやバリを軽減し、作業性が安定した転写箔およびその転写物が提供可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配向させた液晶層を有する転写箔およびその転写物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード、パスポート等の認証媒体並びに商品券、株券等の有価証券媒体等は、偽造が困難であることが望まれ、従来からその偽造を抑止すべく、偽造が困難なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、上記の様な認証媒体及び有価証券媒体以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されており、同様な偽造防止を適用する機会が増えている。
【0004】
偽造防止技術は、オバート技術とコバート技術とに分類することができる。オバート技術は、一般のユーザが物品への適用を容易に認識することができ且つ容易に真偽判定をすることができる偽造防止技術である。代表的なオバート技術では、ホログラム等の回折構造、Optically Variable Ink(OVI)等の多層干渉膜を利用したものがある。
【0005】
一方、コバート技術は、物品への適用が一般のユーザに分かりにくく、物品への適用を知っている特定の者のみが真偽判定できることを狙った偽造防止技術である。代表的なコバート技術には、蛍光印刷又は万線モアレを利用したものが挙げられる。また、特許文献1には、反射層と光配向膜と光硬化型液晶層の組み合わせにより、潜像を出現させるコバート技術が紹介されている。
【0006】
この技術を転写箔として用いる場合には、基材の上に剥離保護層、分子配向層、接着層の順に形成する。転写箔は、薄膜として被転写体に転写されるため、再剥離しようとすると崩れるという特性があり、これにより貼り替えができず、セキュリティ性が高く、頻繁に利用されている。
【特許文献1】特開平8−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
転写箔は、ストライプ状にロール転写するか、スポット上にホットスタンピングするのが一般的である。しかしながら、スポットで転写される場合には、剥離時にスタンパーの輪郭形状に剥離保護層から接着層までが破断するが、剥がし始めでは、剥離抵抗と破断抵抗が同時にかかり、接着層の接着力が及ばずに転写欠けを起こすことがあり、剥がし終わりでは、破断抵抗が剥離抵抗を上回り、バリが発生することがあった。また、転写機内で、剥離時に大きな抵抗がかかると、被転写体の破れ、箔の蛇行等の問題が起こることがある。
【0008】
特に、上述した様に液晶の様な配向性樹脂を用いる場合には、破断抵抗に異方性が発生するため、上記の様な問題がおきやすく、またその配向方向に注意する必要があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、分子配向を起因とする破断抵抗異方性を示す材料を含む転写箔において、剥離時にかかる抵抗を低減し、転写欠けやバリを軽減し、作業性が安定した転写箔およびその転写物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、基材、剥離保護層、液晶層及び接着層をこの順に積層してなり、該液晶層は、液晶が少なくとも1方向に配向されている転写部と、該転写部の外周を縁取る輪郭部とを有し、該輪郭部は、液晶がポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成されていることを特徴とする転写箔とした。
【0011】
また本発明は、前記転写部の液晶が2方向以上に配向されていることを特徴とする転写箔とした。
【0012】
また本発明は、前記液晶層と前記接着層の間に、さらに反射層を有してなる転写箔とした。
【0013】
また本発明は、前記反射層が回折構造を有することを特徴とする転写箔とした。
【0014】
また本発明は、前記反射層がパターンで設けられていることを特徴とする転写箔とした。
【0015】
また本発明は、上記転写箔を転写してなる転写物とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したような構成であるから、以下に示す如き効果がある。
【0017】
即ち、本発明によれば、破断抵抗に異方性を生じる液晶層の輪郭部(破断部分)をポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相とすることにより、剥離時にかかる抵抗を低減し、転写欠けやバリを軽減し、作業性が安定した転写箔およびその転写物が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明における転写箔およびその転写物の実施形態例を、図を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明における転写箔の実施形態例を示す図であり、図2は、図1の転写箔のX−X´における断面図である。また図3は、本発明における転写箔の別の実施形態例を示す図であり、図4は、図3の転写箔のY−Y´における断面図である。
【0020】
本発明における転写箔は、基材、剥離保護層、液晶層、接着層がこの順に形成されてなる。
【0021】
基材の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド等の合成樹脂、天然樹脂等を単体若しくは適宜組み合わせた複合体からなるフィルムを用いる事が出来る。
【0022】
剥離保護層としては、上記基材から安定して剥がれるとともに、転写後には最表面に位置する層となるため、使用目的に応じた表面保護性能が必要となる。また、液晶層を視認可能なだけの透明性も必要である。剥離保護層の材料としては、アクリル、スチレン、硝化綿、酢酸セルロース、塩化ゴム等の熱可塑性樹脂、あるいはこの塩化ゴム樹脂とニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリスチレンまあは塩酢ビ樹脂の混合物、又はUV硬化型アクリル、焼付け型メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いる事が出来る。
【0023】
これらの性能を満たす樹脂をグラビアコータ、マイクログラビアコータ、ロールコータ等を用いて、公知のコーティング法により0.1μm〜10μmの厚さで基材上に設ける。耐摩耗性を向上させるため、上記樹脂にポリエチレンワックスやステアリン酸亜鉛等の滑剤を添加しても良い。
【0024】
液晶層の材料としては、メソゲン基の両端にアクリレートを設けた光硬化型液晶モノマー、EB若しくはUVで硬化させた高分子液晶、ポリマー主鎖にメソゲン基を提げた高分子液晶、分子主鎖自体が配向する液晶性高分子を用いる事が出来る。これらの液晶は、塗布後、NI点の少し下の温度で熱処理することにより、配向を促進することが可能である。
【0025】
液晶層は、転写部とこの転写部を縁取った輪郭部とを有する。
【0026】
転写部は、液晶を少なくとも1方向に配向させてなる。これにより、偏光子を通さずに見た場合には透明な層にしか見えないが、偏光子を通して観察した場合に、偏光子の角度により液晶層がそのまま見えたり、背景色が観察されたり、といった変化を示し、真贋判定を行うことが出来るものである。
【0027】
また、転写部は、その液晶を領域ごとに2方向以上に配向させた複屈折性としても良い。これにより、偏光子を通さずに見た場合には透明な層にしか見えないが、偏光子を通して観察した場合、潜像を出現させることが可能となる。
【0028】
輪郭部は、転写部を縁取るように形成されている。輪郭部では、液晶がポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相を形成している。輪郭部の幅は特に限定しないが剥離の際のズレや、箔切れの良さ等を考慮して適宜決定される。
【0029】
ポリドメイン構造とは、液晶が微細な領域でランダムに配向している状態であり、ほぼ液体である。液晶を、配向処理をせずに自然の状態にしておくとポリドメイン構造をとる。本件アイソトロピック相とは、ミクロの領域で等方性を有して配向していない状態であり、非晶性の状態である。
【0030】
本件では、同等の効果が期待できるため、バリとして認識されない微細な幅やサイズで方向を変えて配向処理をしていたとしても、それに沿って配向した液晶層もポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成しても良い。幅やサイズは、1から100μm程度が望ましい。また、その形状は、ストライプ状、市松模様などで設けてもよい。
【0031】
接着層は、熱をかけたとき粘着性が現れる感熱接着剤を用いる。接着層は、この性能を満たす樹脂をグラビアコータ、マイクログラビアコータ、ロールコータ等を用いて基材に設ける。用いる事が出来る材質としては、アクリル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、エポキシ、EVA等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0032】
また、この転写箔にさらに回折構造を設けても良い。回折構造を設ける場合には、液晶層の上下どちらに設けても良い。回折構造形成層は、過熱した回折構造版を押し付けたときに型取りしやすい材料であり、さらに反射層加工時の熱や、転写時の熱圧で回折構造が崩れにくい材料で設ける。
【0033】
回折構造としては、ホログラム及び回折格子を用いる事が出来る。ホログラムは、光学的な撮影方法により微細な凹凸パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製し、次に、このマスター版から電気メッキ法により凹凸パターンを複製したニッケル製のプレス版を作製し、そして、このプレス版によりホログラムを形成する層上に加熱押圧するという方法により大量複製が可能である。このタイプのホログラムは、レリーフ型ホログラムと称されている。
【0034】
また、回折格子を用いたものは、このような実際のものを撮影するホログラムとは異なり、微小なエリアに複数種類の単純な回折格子を配置して画素とし、グレーティングイメージ、ドットマトリックス(ピクセルグラム)等と呼ばれる画像を表現するものである。このような回折格子を用いた画像は、レリーフ型ホログラムと同様の方法で大量複製が行われる。
【0035】
また、この転写箔にさらに反射層を設けても良い。反射層は、液晶層が有する潜像のための反射層と、回折構造画像のための反射層を兼ねても良いし、別々に設けても良い。
【0036】
反射層は、金属若しくは高屈折率セラミックスを用いる事が出来る。金属としては、Al、Sn、Ag、Cr、Ni、Au等の金属の他にインコネル、青銅、アルミ青銅等の合金も用いる事が出来る。また、セラミックスとしては、TiO、ZnS、Fe等の高屈折率材料を用いる事が出来る。これらの材料を蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等を用いて10nm〜100nm程度でコーティングする。
【0037】
これら反射層を形成する工程は、加工面に対して熱的な負荷をかける。よって、加工を施す表面は、耐熱性が求められるため、不適当な材料が最表面に来ているときには、マイクログラビアやダイレクトグラビア法等のウェットコーティングを用いて、表面を改質した後に反射層を設けることが望ましい。
【0038】
反射層をパターンで設けても良く、反射層のない部分と反射層のある部分によって絵柄を形成しても良い。これには、水洗シーライト加工、エッチング加工、レーザー加工等を用いることができる。
【0039】
水洗シーライト加工は、基材上に水洗インキをあらかじめネガパターンで印刷しておき、反射層を全面に形成し、水洗インキを水で洗い流すと同時に反射層を取り除くことによりパターン状の反射層を形成する方法である。
【0040】
エッチング加工は、反射層を形成し、マスキング剤をポジパターンで印刷し、マスキングされていない部分を腐食液を用いて腐食することにより取り除き、パターン状の反射層を形成する方法である。
【0041】
レーザー加工は、基材上に反射層を形成し、部分的に強いレーザーを当てて除去することによりパターン状の反射層を形成する方法である。用いるレーザーとしては、Nd:YAG、COガスレーザが一般的である。
【0042】
また、前述した接着層に着色することにより、セラミックスの反射層やパターンの反射層を用いた場合には、潜像及び回折構造による画像の視認性を向上させることが可能である。
【0043】
また、この転写箔に、さらに偏光層をいずれかの層間に設けることが出来る。偏光層とは、自然光から特定の偏光成分を分離する能力を持つ層であり、2色性染料を配向させた吸収軸方向の光を透過して偏光を分離する層、コレステリック液晶を配向させ、片側の円偏光を反射させ、もう一方を透過させることにより、偏光を分離する層である。
【0044】
また、配向膜や液晶層から剥離する場合には、剥離保護層を省略して良く、剥離抵抗を調整するために、転写後に基材側に残る離型層をさらに設けても良い。離型層に用いる材料は、メラミンやイソシアネートを硬化剤に用いた熱硬化性樹脂、アクリレートやエポキシ樹脂を用いたUV/EB硬化性樹脂が一般的であり、離型剤としてフッ素系、シリコン系のモノマー、ポリマーが添加される。
【0045】
次に、液晶層に転写部及び輪郭部を作製する方法について説明する。本発明における転写部及び液晶部は、例えば、転写部に配向処理を行い、少なくとも輪郭部には配向処理を行わないことにより作製される。
【0046】
液晶を配向させるには、液晶が配向するように形成した配向膜の上に、液晶をコーティングすることにより、作成可能である。この配向膜を形成するには、例えば光配向法若しくはラビング配向法を用いる事が出来る。
【0047】
光配向法とは、基板上の膜に偏光等の異方性を有する光を照射若しくは非偏光光を斜めから照射し、膜内の分子の再配列や異方的な化学反応を誘起する方法で、膜に異方性を与え、これによって液晶分子が配向することを利用したものである。光配向のメカニズムとしては、アゾベンゼン誘導体の光異性化、桂皮酸エステル、クマリン、カルコンやベンゾフェノン等の誘導体の光二量化や架橋、ポリイミド等の光分解等があげられる。
【0048】
光配向法を用いる場合には、適当な波長帯域の偏光光若しくは斜めからの非偏光光により、少なくとも輪郭部をカバーしたフォトマスクを通してパターン露光する。また、2方向以上に配向させる場合は、さらに少なくとも輪郭部をカバーしたフォトマスクを通して、未露光部を処理するため方向を変えて露光することにより、2方向以上に液晶を配向させる配向膜を形成することが出来る。
【0049】
ラビング法は、基板上にポリマー溶液を塗布して作成した配向膜を布で擦る方法で、擦った方向に配向膜表面の性質が変化し、この方向に液晶分子が並ぶという性質を利用したものである。配向膜には、ポリイミド、PVA等が用いられる。
【0050】
ラビング法を用いる場合には、少なくとも輪郭部にマスクを掛け、基材上に塗布した配向剤を布でラビングする。また、さらに少なくとも輪郭部を含む部分にマスクを掛け、再び方向を変えて布で擦った後、マスクを除去することにより、2方向以上に液晶を配向させる配向膜を形成することが出来る。転写部の輪郭の接線方向に液晶を配向させるには、輪郭に沿ってラビングすることにより可能である。
【0051】
これら配向膜を形成する方法としては、グラビアコーティング法、マイクログラビアコーティング法等の公知の手法を用いる事が出来る。また、液晶層は、光配向方やラビング法により、配向膜自身が複屈折率性を持つもの等も利用でき、作製方法は限定されない。
【0052】
輪郭部の液晶を、ポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成するには、配向膜に配向処理をしない部分を設けるか、若しくはいったん配向処理をした部分を溶剤、インキ若しくは熱等で無効化し、液晶を塗布することにより実現できる。
【0053】
また、全面に配向処理を行い、液晶を塗布後、配向させたい部分を先にUV硬化等で固定し、TNI以上に昇温させることにより未固定部をアイソトロピック相にし、固定することにより実現できる。若しくは、先にTNI以上でアイソトロピック相を固定し、TNI以下に温度を下げて配向させた後に固定しても良い。
【0054】
転写時には、これらポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成された輪郭部を破断することにより、転写時の剥離抵抗が小さくなり作業性の良い転写箔となる。
【0055】
上記の様にして配向させた液晶層は、透明な複屈折性を有する、複屈折性物質である。複屈折性とは、物質の屈折率が光軸方向によって異なる事で、複屈折を持つ物質に光を入射した時、異常光線e(屈折率:n)と常光線o(屈折率:n)の間で位相差を生じる現象である。これら光軸の違いは、偏光フィルムを通さない目視で判別できない。
【0056】
この異常光線と常光線の屈折率の差は、複屈折率Δnと呼ばれ、次の式で表される。
Δn=n−n
【0057】
また、位相差値δは、複屈折性物質を通過する層厚dに比例し、次の式で表される。
δ=Δn・d
即ち、位相差値は膜厚に比例する。更に反射層を用いる場合には、反射前後で2回複屈折性物質を通るため、位相差値が2倍となる。
【0058】
位相差値が透過光の波長λの半分(λ/2)のとき、複屈折性物質の異常光軸と偏光光の偏光面が成す角度がθの時、偏光面を2θ回す性質を持つ。よって、θ=45°の時、偏光面が90°回転する。
【0059】
反射層の上にλ/4の位相差値を持つ位相差子を形成し、偏光フィルムを重ねた場合、偏光フィルムの透過光軸と位相差子の異常光軸がなす角度が45°の時、偏光フィルムを透過した光が、90°回転して偏光フィルムに戻ってくるとき、透過できないため、暗部となる。また、偏光フィルムの透過光軸と位相差子の異常光軸がなす角度が0°の時、偏光フィルムを透過した光が、そのまま戻ってくるため、偏光フィルムが透過できるため、明部となり、偏光フィルムを通したときに潜像が現れる。
【0060】
次に、本発明の転写箔の転写について説明する。
【0061】
転写方法としては、アップダウン方式によるスポット転写若しくはロール転写方式によるストライプ転写方式により被転写媒体に転写箔を転写する。被転写媒体は、紙のほか、樹脂フィルム、金属板、ガラス板等、特に材料を問わず用いる事が出来る。なお、転写箔に反射層若しくは偏光層を設けない場合、被転写媒体側に反射層若しくは変更層を設けておいても良い。
【0062】
図5は、本発明における転写箔の転写を説明する概要図である。本発明の転写箔を転写するには、アップダウン方式の転写機が好適に用いられる。アップダウン方式の転写機は、図5に示すように、台座の上に設置した被転写媒体に、転写箔を接着層側から重ね、過熱したホットスタンプにより加圧することによりホットスタンプの形状に接着層を軟化させ、被転写媒体に接着させた後、被転写媒体に剥離、転写する。
【0063】
剥離は、箔の巻取り側である剥離開始側から剥離し始めるが、この部分では、接着層により被転写媒体に接着した部分を基点に、剥離層から接着層までを破断させる破断抵抗Rと剥離保護層が基材から剥がれる際の剥離抵抗Rとの和が同時にかかる。これが接着力Fを上回ると転写欠けの原因となる。
即ち、
<F−R
であれば、欠けなく転写できる。
【0064】
また、剥離中央では、接着力Fが剥離抵抗Rを上回れば安定に転写できる。
即ち、
>R
であれば良い。
【0065】
さらに、箔の巻き出し側である剥離終了側では、破断抵抗Rが剥離抵抗Rより大きい場合には、ホットスタンプによる転写形状通りに箔が切れず、バリが発生してしまう。
即ち、
<R
であれば、バリが無く転写できる。
【0066】
分子配向性を持つ材料では、一般に配向方向の破断抵抗Rは、分子配向に直行する破断抵抗Rと比べると大きい。これは、配向方向は共有結合により強く結合しているのに対し、分子配向に直行する方向は、ファンデルワールス力により弱く結合しているためである。
【0067】
さらに、ポリドメイン構造部分の破断抵抗R若しくはアイソトロピック相部分の破断抵抗Rは、その規則性も無いためより弱い破断抵抗となる。
即ち、
>R>R≒R
で表される。
【0068】
よって、剥離開始側と剥離終了側の破断抵抗Rは、輪郭接線方向と分子配向方向が成す角度をθとした時と比べてR若しくはRは小さくなる。
即ち、
=RSinθ+RCosθ>R≒R
で表される。
【0069】
このことから、配向した液晶部に比べてポリドメイン構造部分やアイソトロピック相部分は、欠けやバリが起こりにくく、剥離時にかかる抵抗も少ないため、液晶層の転写部を縁取る輪郭部を、ポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成することにより、転写機内での被転写媒体の搬送不良、破れを防ぎ、転写箔の蛇行による位置暴れが改善される。
【0070】
また、転写方法がロール転写の場合でも同様に、転写箔の転写し始め、転写し終わりの部分で、それぞれ欠け、バリが軽減でき、作業性を向上させることが可能となる。
【実施例1】
【0071】
厚さが16μmのPETフィルム基材上に、光配向剤IA−01(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.1μmの厚さでマイクログラビアコーティング法を用いてコーティングし、剥離保護層兼光配向膜として形成した。波長が365nmの直線偏光を用いて、輪郭部にあたる部分を遮蔽したフォトマスクを通して、1J/cmの照度で全面を露光した後、それぞれを偏光の方向を45°回して、輪郭部及び転写部に設けたい絵柄部分をパターンで遮蔽したフォトマスクを通して1J/cmの照度でパターン露光した。このフィルムにUVキュアラブル液晶UCL−008(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.8μmの厚さでマイクログラビアコーティング法を用いて塗布し、熱風で1分間液晶を配向させ、窒素ガス雰囲気下で0.5mJの照度で硬化させ、液晶層を得た。続いて、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体よりなる接着層を2μmの厚さでコーティングし、転写箔を得た。
【実施例2】
【0072】
厚さが16μmのPETフィルム基材上に、光配向剤IA−01(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.1μmの厚さでマイクログラビアコーティング法を用いてコーティングし、剥離保護層兼光配向膜として形成した。波長が365nmの直線偏光を用いて、輪郭部にあたる部分を遮蔽したフォトマスクを通して、1J/cmの照度で全面を露光した後、それぞれを偏光の方向を45°回して、輪郭部及び転写部に設けたい絵柄部分をパターンで遮蔽したフォトマスクを通して1J/cmの照度でパターン露光した。このフィルムにUVキュアラブル液晶UCL−008(大日本インキ化学工業株式会社製)を0.8μmの厚さでマイクログラビアコーティング法を用いて塗布し、熱風で1分間液晶を配向させ、窒素ガス雰囲気下で0.5mJの照度で硬化させ、液晶層を得た。
【0073】
得られた転写箔をそれぞれ被転写用紙に転写機(ギーツ製)を用いて転写形状のホットスタンプを用いて転写部分を転写し、転写物を得た。液晶層の転写部を縁取った輪郭部をポリドメイン構造とした転写箔は、欠け、バリがなく転写できた。
【0074】
さらに、アクリルポリールとイソシアネートからなる回折構造形成層をマイクログラビアコーティング法で塗布し、回折構造を形成した版で過熱エンボスをかけて、回折構造画像を形成した後、アルミニウムを50nmの厚さで蒸着し、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体からなるマスク層をグラビア印刷で1μmの厚さで設けた。
【0075】
続いて、50°、1.5重量%の苛性ソーダ水溶液中で、10秒間エッチングを行い、パターンの反射層を形成し、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体よりなる接着層を2μmの厚さでコーティングし、転写箔を得た。
【0076】
得られた転写箔をそれぞれ被転写用紙に転写機(ギーツ製)を用いて転写形状のホットスタンプを用いて転写部分を転写し、転写物を得た(図6参照)。液晶層の転写部を縁取った輪郭部をポリドメイン構造とした転写箔は、欠け、バリがなく転写できた。転写物の転写部分に偏光子を重ねると、液晶の配向に従った潜像がそれぞれ現れ(図7参照)、偏光子を回転させると45°毎に潜像のポジとネガが反転した。なお、1回目の露光で全面に光を当てた転写箔では、バリが発生し、剥離の重さのため箔が蛇行して転写位置が暴れた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明における転写箔の実施形態例を示す図である。
【図2】図1の転写箔のX−X´における断面図である。
【図3】本発明における転写箔の別の実施形態例を示す図である。
【図4】図1の転写箔のY−Y´における断面図である。
【図5】本発明における転写箔の転写を説明する概要図である。
【図6】本発明における転写物の実施形態例を示す図である。
【図7】図6の転写物に偏光子を重ねたときの見え方を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・転写箔
2・・・基材
3・・・剥離保護層
4・・・液晶層
5・・・接着層
6・・・転写部
7・・・輪郭部
8・・・回折構造形成層
9・・・反射層
10・・・マスク層
11・・・回折構造画像
12・・・被転写媒体
13・・・ホットスタンプ
14・・・台座
15、18・・・破断抵抗
16、19・・・剥離抵抗
17・・・接着力
20・・・転写物
21・・・偏光子
22・・・潜像画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、剥離保護層、液晶層及び接着層をこの順に積層してなり、
該液晶層は、液晶が少なくとも1方向に配向されている転写部と、該転写部の外周を縁取る輪郭部とを有し、
該輪郭部は、液晶がポリドメイン構造若しくはアイソトロピック相で形成されていることを特徴とする転写箔。
【請求項2】
前記転写部の液晶が2方向以上に配向されていることを特徴とする請求項1に記載の転写箔。
【請求項3】
前記液晶層と前記接着層の間に、さらに反射層を有してなる請求項1又は2に記載の転写箔。
【請求項4】
前記反射層が回折構造を有することを特徴とする請求項3に記載の転写箔。
【請求項5】
前記反射層がパターンで設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の転写箔。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の転写箔を転写してなる転写物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate