説明

転写箔

【課題】主に紙に転写するための転写層を備えた転写箔において、従来の転写箔には無い、古びてかすれたような風合い、質感を得られる転写箔を提供することを目的とする。
【解決手段】基材と転写層とを備え、前記転写層は前記基材上に少なくとも剥離層、蒸着層、接着層を備え、剥離層に剥離層主成分とは別種の樹脂(以下添加剤)を含有することを特徴とする転写箔とする。添加剤の含有量は、剥離層樹脂中の質量%で0.5%から25%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離層、蒸着層、接着層を備えた転写箔に関するものであり、特に金属感を備えた図柄や文字を印刷物などに熱転写する、いわゆる箔押しに用いられる転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
箔押しは、各種印刷物、書籍類やパッケージ等で広く利用されている。特に光沢のある金属蒸着層を有する転写箔を用いた箔押しは、通常の印刷では真似できない表現が可能であるので、主に各種印刷物への高級感の付与に役立っている。
【0003】
箔押しに用いる転写箔の製造に当たっては、平滑性、均一性の管理が重要視されている。ムラやヌケは、不良とみなされるため、白化や転写不良の発生を防止する方法が多数提案されている。しかし、このムラやヌケは、効果的に使えば、通常の転写箔とは一味違った風合いの質感を持った表現にもなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
箔押しは、転写箔の平滑性、均一性を活かした使用方法が一般的である。このような使用方法は、高級感や統一感を出す一方で、変化に乏しく面白みに欠けるという一面を持ち合わせる。これは、転写箔の応用範囲を狭める一因になっていると言える。既存のイメージに囚われない発想の転換により、転写箔の応用範囲は大いに広がると考えられる。
【0005】
したがって本発明は、上記の課題を解決するため、不均一な転写結果による、古びてかすれたような風合い、質感を得ることのできる転写箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る転写箔は、基材と転写層とを備え、前記転写層は、前記基材上に少なくとも剥離層、蒸着層、接着層を備えており、剥離層に剥離層主成分とは別種の樹脂(以下、「添加剤」)を、剥離層樹脂中の質量%で0.5質量%以上25質量%以下の割合で含有していることを特徴とする転写箔である。
本発明に係る被転写物は、上記転写箔を被転写体に転写することによって得られた被転写物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る転写箔では、剥離層に添加剤を加えることを特徴とする。この添加剤により、基材フィルムと剥離層、剥離層と蒸着層の密着性が向上し、剥離面の不均一な転写結果が得られる。これにより、通常の転写箔では出すことのできない独特の古びてかすれたような風合い、質感を得ることが可能となる。ここでいう不均一な転写結果とは、図2に示したように、被転写物の最表面が一様でない状態をいう。
この不均一な転写結果を効果的に得るためには、添加剤を剥離層樹脂中の質量%で0.5質量%以上25質量%以下の割合で含有していることが必要であり、この範囲を外れると均一な転写または転写不足の状態となり、期待した質感を得ることが出来なくなってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明品を模式的に表した断面略図である。
【図2】本発明の転写箔を用いた被転写物を模式的に表した断面略図である。
【図3】従来の転写箔を用いた被転写物を模式的に表した断面略図である。
【図4】本発明の転写結果例である。
【図5】従来の転写箔の転写結果例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を援用して本発明の実施形態の一例を説明する。
図1は、本発明の転写箔の一例を模式的に示す断面略図である。本発明の転写箔は、基材1と転写層5とを備えている。転写層5は、少なくとも剥離層2、蒸着層3、接着層4を備えた構成からなり、剥離層2が基材1に接するように積層されている。
【0010】
基材1としては、シート状、フィルム状の可撓性を備えたものがよく、表面平滑性、寸法安定性、耐熱性、加工性、経済性、強靭性等の点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが最も好ましい。基材の厚みとしては、12μm以上20μm以下が好ましい。この範囲より薄いと強度不足という問題が生じ、厚いと熱伝導性の悪化や、コスト面での問題がある。特に12μm程度が好ましい。
【0011】
剥離層2は、基材と転写層間のスムーズな剥離を本来の目的としている。ただし、本発明においては、逆に基材と転写層間の密着性を上げることにより、独特な風合い、質感を得るための重要な層となる。剥離層の材料としては、従来の転写箔同様に、例えばアクリル系樹脂等を好ましく用いることができる。剥離層は塗布によって設けることが好ましく、剥離層を形成する材料も、溶媒に溶解しての塗布が可能なものが好ましい。剥離層の厚みは、0.5μm以上2μm以下が好ましい。この範囲より薄いと独特な風合い、質感を得るための効果が低下し、厚いと箔切れ性やコスト面での問題がある。
また、基材と転写箔間の密着性を上げるためには、この剥離層に添加剤を加える必要がある。添加剤は、一箇所に固まらないように、全体に分散させる必要がある。添加剤には、例えばポリエステル系樹脂等を用いることができ、剥離層樹脂中の質量で0.5質量%以上25%以下の割合で含有させるのが好ましい。この範囲より少ないと密着性が不足し、目的の風合い、質感が得られず、多いと密着性が強くなりすぎ転写層の大部分が被転写体に転写できなくなる。
本発明品を実際に転写した際、剥離層と基材間の剥離強度は、2N/cm以上であることが好ましい。ここでいう剥離強度とは、本発明品の転写箔を被転写体の紙に転写温度105℃で転写し、転写箔と紙とを180°の方向で引っ張り、両者が剥離する強度(N/cm)を測定したものである。
【0012】
蒸着層3は、蒸着によって剥離層上に形成された層である。例えば金属を蒸着して設けた金属蒸着層とすることができ、蒸着可能な金属としては、アルミ、ニッケル、クロム、銀、金等を挙げることができるが、扱いやすさやコスト面からアルミが好ましい。
蒸着層の厚みは、350Å以上1000Å以下が好ましい。この範囲より薄いと隠蔽性の不足という問題が生じ、厚いとコスト面での問題がある。
【0013】
接着層4は、転写層と被転写体とを接着する層である。このような接着層の材料としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体/ポリエステル系樹脂等を好ましく用いることができる。接着層は塗布によって設けることが好ましく、接着層を形成する材料も、溶媒に溶解しての塗布が可能なものが好ましい。
接着層の厚みは、0.5μm以上2μm以下が好ましい。この範囲より薄いと十分な接着力が得られないという問題が生じ、厚いと箔切れ性の問題がある。
【0014】
転写層5が転写される被転写体6としては、接着層が付着可能で、転写時の熱に耐えることができれば、平面でも成形体等の立体でもよい。このような被転写体としては、磁器や陶器、ガラス、プラスチック、皮革、フィルム等を挙げることができるが、特に紙が好
ましい。
【0015】
次いで、本発明の転写箔の製造方法の一例を説明する。
まず、基材1として例えば厚み12μmのPETフィルムを用意する。このPETフィルムに、添加剤として例えばポリエステル系樹脂を含有したアクリル系樹脂を塗布乾燥して積層し、剥離層2とする。
次いで、剥離層2上に例えばアルミを真空蒸着によって積層し、蒸着層3とする。
【0016】
次いで、蒸着層3の上に接着層4を形成する。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体/ポリエステル系樹脂を主成分とした塗布液を耐熱層上に塗布乾燥することで、接着層を形成することができる。
以上のようにして、基材1上に剥離層2、蒸着層3、接着層4からなる転写層5を備えた本発明の転写箔10を形成することができる。
【0017】
次いで、本発明の転写箔10(図1)を用い被転写物20(図2)を得る工程について説明する。
上記のようにして製造した転写箔10の転写層5は、被転写体6に接着層4側を密着させ、必要な部分に熱および圧力を加えてから、基材1を剥離することにより、被転写体6に転写することができる。
転写は、例えばナビタス社製転写装置を用い、転写温度は例えば被転写体6が紙である場合、95℃〜135℃で行うことができる。転写温度は被転写体の材質によって選択することができる。
このようにして本発明の被転写物20を得ることができる。
【実施例】
【0018】
<実施例1>
ポリエステル系樹脂からなる添加剤を、剥離層樹脂固形分の質量%で25%となるように添加したアクリル系樹脂からなる剥離層塗布液を、基材であるPETフィルムに塗布乾燥した。次にアルミ蒸着を行い、剥離層上に蒸着層を形成した。蒸着層の上には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体/ポリエステル系樹脂からなる接着層を塗布乾燥した。
完成した転写箔の転写層を、ナビタス社製転写装置を用いて、105℃の転写温度で紙に転写して、本発明の被転写物を得た。
【0019】
<比較例1>
剥離層樹脂に添加剤を添加しない他は実施例1と同様にして、比較のための転写箔を得た。
こうして得られた転写箔の転写層を、実施例1と同様にして、105℃の転写温度で紙に転写して、比較のための被転写物を得た。
【0020】
実施例1による被転写物と、比較例1による被転写物の外観を比較した。その結果、比較例1のものが全面一様に転写されているのに比べ、実施例1による被転写物はムラ、かすれが見られ、従来の転写箔では出せない、古びてかすれたような風合い、質感が得られた。図4に実施例1による被転写物表面を、図5には比較例1による被転写物表面をそれぞれ示した。
実施例1による被転写物において、剥離層2の基材1および蒸着層3に対する密着の程度が異なることによって剥離層2および蒸着層3の転移が異なり、その結果被転写物の表面がかすれたような風合いになる状態を図2に、比較例1による被転写物の状態を図3にそれぞれ模式的な断面図で示した。
【0021】
<実施例2>
ポリエステル系樹脂からなる添加剤を、剥離層樹脂固形分の質量%で0.5%となるように添加したアクリル系樹脂からなる剥離層塗布液を、基材であるPETフィルムに塗布乾燥した。次にアルミ蒸着を行い、剥離層上に蒸着層を形成した。蒸着層の上には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体/ポリエステル系樹脂からなる接着層を塗布乾燥した。
完成した転写箔の転写層を、ナビタス社製転写装置を用いて、105℃の転写温度で紙に転写して、本発明の被転写物を得た。
【0022】
実施例1による被転写物と実施例2による被転写物の外観を比較すると、剥離層中の添加剤含有量の多い実施例1による被転写物の方がムラ、ヌケのより目立つ転写結果となった。これにより、添加剤含有量で転写結果のムラ、ヌケ量が調整できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による転写箔を用いれば、従来の転写箔では出すことのできなかった、独特の古びてかすれたような風合い、質感を持つ被転写物が得られる。これは、各種包装材や書籍等といった主に紙類への装飾性の付加に活用できる。特に、この古びてかすれたような風合いによって、菓子類や酒類の包装材等について、「伝統ある」、「老舗の」といった雰囲気を演出できると考えられる。
【符号の説明】
【0024】
1:基材
2:剥離層
3:蒸着層
4:接着層
5:転写層
6:被転写体
10:転写箔
20:被転写物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と転写層とを備え、前記転写層は、前記基材上に少なくとも剥離層、蒸着層、接着層を備えており、剥離層に剥離層主成分とは別種の樹脂を、剥離層樹脂中の質量%で0.5質量%以上25質量%以下の割合で含有していることを特徴とする転写箔。
【請求項2】
請求項1に記載された転写箔を被転写体に転写することによって得られた被転写物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−183660(P2012−183660A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46649(P2011−46649)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】