説明

転換反応ガスの分離回収方法。

【課題】多結晶シリコン製造プロセスから排出される四塩化珪素を水素と反応させて三塩化シランを生成する転換反応プロセスにおいて、この生成ガスから三塩化シランを分離回収した後に六塩化二珪素などを回収する転換反応ガスの分離回収方法を提供する。
【解決手段】四塩化珪素と水素ガスから三塩化シランを生成する転換反応プロセスにおいて、生成ガスを冷却して凝縮液とし、この凝縮液から三塩化シランおよび四塩化珪素を蒸留分離した後に六塩化二珪素を留出回収することを特徴とする転換反応ガスの分離回収方法であり、例えば、凝縮液から三塩化シランを留出させる第1蒸留工程と、第1蒸留工程の残液から四塩化珪素を留出させる第2蒸留工程と、第2蒸留工程の残液から六塩化二珪素を留出させる第3蒸留工程とを有する転換反応ガスの分離回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン製造プロセスから排出される四塩化珪素を水素と反応させて三塩化シランを生成する転換反応プロセスにおいて、転換反応の排出ガスから三塩化シランおよび四塩化珪素を分離回収した後に六塩化二珪素などを回収する転換反応ガスの分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六塩化二珪素は非晶質シリコン薄膜の原料および光ファイバー用ガラスの原料、あるいはジシランの原料として有用である。従来、この六塩化二珪素の製造方法として、シリコン含有合金粉末を塩素化してポリクロロシランの混合ガスとし、これを冷却凝縮し、さらに凝縮して六塩化二珪素を分離し回収する方法(特開昭59−195519号)が知られている。さらに、攪拌混合式横型反応管を用いてフェロシリコンを塩素ガスとを反応させて六塩化二珪素を製造する方法(特開昭60−145908号)等が知られている。
【0003】
従来の上記製造方法は何れも粗シリコン(金属シリコングレード:純度98wt%程度)を原料としており、原料からの汚染が避けられないので高純度品を得るのが難しいと云う問題がある。特にチタンやアルミニウムが混在すると、これらの塩化物(TiCl4、AlCl3)は六塩化二珪素と沸点が近いので蒸留分離するのが困難であり、高純度の六塩化二珪素を得ることができない。
【0004】
このような従来の問題を有しない製造方法として、多結晶シリコンの製造プロセスにおいて副生した高分子塩化珪素化合物(ポリマーと云う)を蒸留して六塩化二珪素を回収することによって、チタンおよびアルミニウムを実質的に含まない高純度の六塩化二珪素を得る製造方法が知られている(国際公開 WO002/012122)。
【特許文献1】特開昭59−195519号公報
【特許文献2】特開昭60−145908号公報
【特許文献3】国際公開 WO002/012122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多結晶シリコンの製造プロセスにおいて副生したポリマーから六塩化二珪素を回収する上記方法では、上記ポリマーの組成が多結晶シリコン製造プロセスの製造条件(プロセス温度・三塩化シラン/水素ガス投入量)に依存しているため、この製造条件が一定しないと六塩化二珪素を安定的に得ることができない云う問題がある。
【0006】
具体的には、一般に多結晶シリコン製造工程はバッチ処理であり、通常3日間から6日間の反応時間を費やし、成長プロセスに合わせて製造条件を調整しているため、反応排ガスの組成は一定ではない。このため、上記ポリマーに含有される六塩化二珪素の含有量は不均一であり、蒸留工程が安定せず、六塩化二珪素を安定的に生産することが困難である。
【0007】
本発明は、六塩化二珪素の製造方法における従来の上記課題を解決したものであり、多結晶シリコン製造プロセスから排出される四塩化珪素を水素と反応させて三塩化シランを生成する転換反応プロセスに注目し、この転換反応プロセスの生成ガスから六塩化二珪素を安定的に回収し、また六塩化二珪素を回収する工程の前段階において四塩化珪素などをも効率よく回収して再利用することができる転換反応ガスの分離回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[12]に示す構成によって上記課題を解決したクロロシランの回収方法に関する。
〔1〕四塩化珪素と水素ガスから三塩化シランを生成する転換反応の排出ガスを冷却して凝縮液とし、この凝縮液から三塩化シランおよび四塩化珪素を蒸留分離した後に六塩化二珪素を留出回収することを特徴とする転換反応ガスの分離回収方法。
〔2〕転換反応の排出ガスを冷却凝縮して水素ガスを分離する凝縮工程と、この凝縮液から三塩化シランを留出させる第1蒸留工程と、第1蒸留工程の残液から四塩化珪素を留出させる第2蒸留工程と、第2蒸留工程の残液から六塩化二珪素を留出させる第3蒸留工程とを有する上記[1]に記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔3〕三塩化シランの蒸留と四塩化珪素の蒸留が一の蒸留塔で連続して行われる上記[1]に記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔4〕六塩化二珪素の蒸留工程において、初留をカットした後に、六塩化二珪素を主成分とする高温蒸留部分を回収する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔5〕六塩化二珪素の蒸留工程において、初留をカットした後に、四塩化ジシランを主体とする中間留分を回収し、さらに六塩化二珪素を主体とする高温蒸留部分を回収する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔6〕三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、および六塩化二珪素の蒸留工程が各々の蒸留塔によって順に連続して行われる上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔7〕三塩化シランの蒸留工程と四塩化珪素の蒸留工程の間、あるいは四塩化珪素の蒸留工程と六塩化二珪素の蒸留工程との間、あるいは四塩化珪素蒸留工程の中、あるいは六塩化二珪素の蒸留工程の中に塩素導入工程を設けた上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔8〕上記[7]の製造方法において、各々の蒸留工程に塩素を導入して蒸留を進めた後に、蒸留残液に残留した塩素を脱気する転換反応ガスの分離回収方法。
〔9〕上記[7]の製造方法において、不活性ガスを蒸留残液に導入してバブリングすることにより塩素を脱気する転換反応ガスの分離回収方法。
〔10〕三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、六塩化二珪素の蒸留工程の少なくとも何れかの蒸留工程の後に、蒸留残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に残留塩素を脱気し、この残液を次の蒸留工程に導入する上記[7]〜上記[9]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔11〕三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、六塩化二珪素の蒸留工程の少なくとも何れかの蒸留工程の後に、蒸留残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に、この塩素を含有する蒸留残液を次の蒸留工程に導き、蒸留と共に塩素を脱気する上記[7]〜上記[9]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
〔12〕四塩化珪素と水素ガスから三塩化シランを生成する転換反応プロセスにおいて、多結晶シリコン製造プロセスより副生した四塩化珪素を原料ガスとして用いる上記[1]〜上記[11]の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離回収方法は、多結晶シリコンの製造プロセスにおいて副生したポリマーから六塩化二珪素を回収するのではなく、上記製造プロセスの排ガスに含まれる四塩化珪素を原料として三塩化シランを生成させる転換反応プロセスにおいて、転換反応の排出ガスから三塩化シランを分離回収した後に六塩化二珪素を回収する方法である。本発明の分離回収方法によれば、多結晶シリコン製造プロセスの排ガスから六塩化二珪素を回収する方法に比較して、六塩化二珪素の回収率が良く、六塩化二珪素などを安定に蒸留分離することができる。
【0010】
本発明の方法によって得られる六塩化二珪素は、多結晶シリコン製造の転換反応プロセスから分離回収されるので高純度である。また、本発明の製造方法によれば、三塩化シランを分離回収した後に、六塩化二珪素を分離回収するので、転換反応生成ガス全体の利用効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の分離回収方法は、多結晶シリコンの製造プロセスに接続した転換反応プロセスにおいて、転換反応の排出ガスから六塩化二珪素(6CSと略記)などを分離回収する方法である。多結晶シリコンの製造プロセスと転換反応プロセスを図1に示す。
【0012】
図1に示す製造プロセスにおいて、多結晶シリコンは三塩化シラン〔トリクロロシランSiHCl3:TCS〕および水素を原料とし、主に次式(1)に示す水素還元反応、次式(2)に示す熱分解反応によって生成されている。
【0013】
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・(1)
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・(2)
【0014】
多結晶シリコン反応炉10の内部にはシリコン棒が設置されており、炉内の赤熱したシリコン棒(約800℃〜1200℃)の表面に上記反応(1)(2)によって生成したシリコンが析出し、次第に径の太い多結晶シリコン棒に成長する。
【0015】
上記反応炉10から排出されるガスには、未反応の三塩化シラン(TCS)および水素と共に、副生した塩化水素(HCl)、および四塩化珪素(STC)、ジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどのクロロシラン類が含まれる。これらのクロロシラン類を含む排ガスは冷却器11に導かれ、−60℃付近(例えば−65℃〜−55℃)に冷却して凝縮液化される。ここで液化せずにガス状のまま残る水素は分離され、精製工程を経て原料ガスの一部として再び反応炉10に供給され再利用される。
【0016】
冷却器11で液化されたクロロシラン類を含む凝縮液は蒸留工程12に導入され、三塩化シラン(TCS)が蒸留分離され、回収したTCSは多結晶シリコンの製造プロセスに戻して再利用される。
【0017】
次いで、四塩化珪素(STC)が蒸留分離される。この四塩化珪素は水素と共に転換炉13に導入され、次式(3)に示す水素付加の転換反応によって三塩化シラン(TCS)が生成される。このTCSを含む生成ガスは冷却凝縮工程に導入され、分離回収したTCSは多結晶シリコンの製造プロセスに戻され、多結晶シリコンの製造原料として利用される。SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・(3)
【0018】
本発明の分離回収方法は、上記転換反応プロセスにおいて、転換反応の排出ガスを冷却して凝縮液とし、この凝縮液から三塩化シラン(TCS)を蒸留分離した後に、この蒸留残液を利用して六塩化二珪素(6CS)を留出回収することを特徴とする転換反応ガスの分離回収方法である。
【0019】
本発明の分離回収方法の具体例を図2に示す。図2の処理システムにおいて、多結晶シリコン製造プロセスの排ガスから蒸留分離された四塩化珪素は、水素ガスと共に、蒸発器25を経て転換炉20に導入される。転換炉20は約1000℃〜約1300℃の炉内温度に設定され、水素と四塩化珪素(STC)が反応してクロロシラン類が生成する。
【0020】
転換炉20から排出されたガスは、例えば、三塩化シラン(15〜22wt%)、未反応の四塩化珪素(68〜78wt%)、水素ガス(1.5〜2.5wt%)、塩酸ガス(0.5〜1.0wt%)、ジクロロシラン(0.5〜1.0wt%)、六塩化二珪素を含む高分子塩素化合物(1.3〜1.8wt%)の混合ガスである。
【0021】
転換炉20から排出されたガス(温度約600℃〜約1100℃)は冷却器21に導かれ、−70℃付近(例えば−70℃〜−80℃)に冷却される〔凝縮工程〕。ここでガス状のまま残る水素は分離され、水素ガス回収工程を経て精製され、原料ガスの一部として転換炉20に戻して再利用される。
【0022】
凝縮工程において分離した凝縮液には、三塩化シラン、モノクロロシラン、ジクロロシランなどのクロロシラン類、四塩化珪素、その他の塩化珪素化合物からなるポリマーが含まれている。これを第1蒸留分離工程(第1蒸留塔22)に導き、塔頂温度を三塩化シラン(TCS)の蒸留温度に設定し、留出した三塩化シランを回収する。蒸留温度は三塩化シランの沸点以上であって四塩化珪素の沸点未満の温度範囲、例えば0〜0.1MPaの圧力下で33℃〜55℃に設定される。
【0023】
蒸留分離した三塩化シラン(TCS)はシリコン製造原料の一部として反応炉10に返送して再利用することができる。なお、排ガスに含まれているモノクロロシラン(沸点約−30℃)やジクロロシラン(沸点約8.2℃)は三塩化シラン(沸点約33℃)より沸点が低く、三塩化シランに先立って留出するので、これを先に回収して三塩化シランと分離することができる。このモノクロロシランやジクロロシランは高純度であるので半導体用のシリコンや非晶質シリコンの原料として用いることができる。一方、四塩化珪素の沸点(約58℃)はこれらのクロロシラン類よりも高いので、第1蒸留工程では塔底より排出される。
【0024】
上記第1蒸留工程(第1蒸留塔22)の蒸留残液を次工程の第2蒸留工程(第2蒸留塔23)に導き、塔頂温度を四塩化珪素(STC)の蒸留温度に設定し、留出した四塩化珪素を回収する。蒸留温度は四塩化珪素の沸点以上であって六塩化二珪素の沸点未満の温度範囲、例えば0〜0.1MPaの圧力下で57〜80℃に設定される。この蒸留工程において、四塩化珪素が留出する一方、高沸分を含むポリマーが液分に残る。回収した四塩化珪素は転換反応プロセスに戻し、転換反応の原料ガスとして再利用することができる。
【0025】
上記第2蒸留工程(第2蒸留塔23)の蒸留残液を第3蒸留工程(第3蒸留塔24)に導き、塔頂温度を六塩化二珪素(Si2Cl6:6CS)の蒸留温度に設定し、留出した六塩化二珪素を回収する。蒸留温度は六塩化二珪素の沸点以上であって高沸分の沸点以下の温度範囲、例えば0〜0.1MPaの圧力下で144〜165℃に設定される。
【0026】
六塩化二珪素の蒸留工程(第3蒸留工程)において、蒸留温度が低い初期の留分には液に残留した四塩化珪素が含まれているので初期留分をカットする。次いで、しだいに蒸留温度が上昇すると四塩化ジシラン(Si2H2Cl4:沸点約135℃〜約140℃)が留出するので、この中間留分をカットするか、あるいは必要に応じこれを分離して回収する。さらに蒸留温度が六塩化二珪素の沸点(沸点約144℃)に達すると純度の高い六塩化二珪素が留出するのでこれを回収する。
【0027】
一例として、135℃未満の初留には四塩化珪素が多く含まれ、135℃〜149℃の中間留分には主として四塩化ジシランが含まれる。これより高温の149℃〜150℃の留分には主に六塩化二珪素が含まれる。150℃を超えると高沸化合物が留出するので、これが留出しないうちに蒸留を止める。蒸留残液には八塩化三珪素や十塩化四珪素などが含まれている。
【0028】
上記製造工程において、四塩化珪素の蒸留分離工程と六塩化二珪素の蒸留回収工程との間に塩素導入工程を設け、四塩化珪素の蒸留分離工程から排出された残液に塩素ガスを加えてポリマー成分の分解、塩素化、脱水素化を進め、これを六塩化二珪素の蒸留工程に導くことによって六塩化二珪素の収率を高めることができる。導入する塩素ガス量は四塩化珪素の蒸留分離工程から排出された液量に対して5%〜10%程度であれば良い。
【0029】
塩素導入工程は、四塩化珪素の蒸留分離工程と六塩化二珪素の蒸留回収工程との間に限らず、トリクロロシランの蒸留工程と四塩化珪素の蒸留工程との間、あるいは四塩化珪素の蒸留工程の中、あるいは六塩化二珪素の蒸留工程の中に設けても良く、何れの場合も蒸留残液に塩素を加えて塩素化を進めることにより、六塩化二珪素の収率を高めることができる。
【0030】
塩素導入工程を設けた場合、蒸留塔に導入した液に塩素が残留していると、蒸留中に残留塩素と蒸留成分が反応して粉末が発生する場合がある。この粉末は蒸留系内に付着してスケールを発生させ、液やガスの流れを悪くしたり、流量計の表示に誤差を生じて蒸留が不安定になる等の悪影響を及ぼす。また、この粉末が留出した六塩化二珪素中に混入して回収した六塩化二珪素の純度を低下させる。
【0031】
そこで、蒸留後の残液に塩素ガスを導入する場合には、残留する塩素を脱気する工程をその後に設けるのが好ましい。塩素ガスの脱気手段としては、塩素を導入した残液に窒素やアルゴン等の不活性ガスを導入してバブリングする方法や、真空加熱する方法などがある。導入する不活性ガスの量は先に導入した塩素ガスの約3倍程度であれば良い。
【0032】
塩素導入と残留塩素の脱気は任意の蒸留工程の間、あるいは蒸留工程において行うことができ、また段階的に行っても良い。さらに残留塩素の脱気工程は塩素の導入後に連続して行っても良く、あるいは次の蒸留工程において行っても良い。すなわち、クロロシランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、六塩化二珪素の蒸留工程の少なくとも何れかの蒸留工程の後に、残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に残留塩素を脱気し、この残液を次の蒸留工程に導く。あるいは残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に、この残液を次の蒸留工程に導いて塩素を脱気する。
【0033】
図示する製造工程例では、三塩化シランの第1蒸留工程、四塩化珪素の第2蒸留工程、および六塩化二珪素の第3蒸留工程が個別の蒸留塔22、23、24によって順に連続して行われているが、このような態様に限らず、蒸留温度を制御することによって、例えば、第1蒸留塔22と第2蒸留塔23を同一の蒸留塔で実施し、または、第2蒸留塔23と第3蒸留塔24を同一の蒸留塔で実施しても良く、あるいは、上記各蒸留工程を任意に組み合わせて実施しても良い。また、第3蒸留塔24の六塩化二珪素の蒸留回収工程は回分蒸留に限らず連続蒸留でも良い。
【0034】
三塩化シランの蒸留(第1蒸留工程の蒸留塔22)と四塩化珪素の蒸留(第2蒸留工程の蒸留塔23)を同一の蒸留工程で連続して行った場合には、回収した三塩化シランと四塩化珪素を含む蒸留ガスを再び蒸留塔に導入し、三塩化シランと四塩化珪素を蒸留分離し、三塩化シランを多結晶シリコンの製造原料として利用し、四塩化珪素を転換反応の原料として利用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。表1および表2の結果に示すように、比較例より実施例の六塩化二珪素の回収量が多く、回収率が大幅に向上している。
【0036】
〔実施例1〜4〕
四塩化珪素(90〜120L/min)を蒸発器25でガス化し、水素ガス(30〜50Nm3/min)を混合して、炉内が1000〜1300℃に加熱された転換炉20に投入し、三塩化シランを生成させた。生成したガスは三塩化シラン(15〜22wt%)、未反応の四塩化珪素(68〜78wt%)および水素ガス(1.5〜2.5wt%)、塩酸ガス(0.5〜1.0wt%)、ジクロロシラン(0.5〜1.0wt%)、および六塩化二珪素を含む高分子塩素化合物(1.3〜1.8wt%)の組成比であった。
【0037】
この生成ガスを凝縮工程の冷却器21に導入し、−75℃付近(-70℃〜-80℃)に冷却し、ここでガス状のまま残る水素を分離し、三塩化シランなどのクロルシラン類は液化して凝縮液にした。分離した水素ガスは精製工程に送り、原料ガスの一部として再び転換炉20に戻して再利用した。
【0038】
凝縮液は蒸留分離工程に導き、第1蒸留塔22の塔頂温度を三塩化シランの蒸留温度に設定し、留出した三塩化シランを回収する。蒸留温度は三塩化シランの沸点以上であって四塩化珪素の沸点未満の温度範囲(0〜0.1MPaの圧力下で33〜55℃)に設定した。回収した三塩化シランは多結晶シリコン製造用の原料として再利用した。
【0039】
第1蒸留塔22の蒸留残液を第2蒸留塔23に導き、塔頂温度を四塩化珪素の蒸留温度に設定し、留出した四塩化珪素を回収する。蒸留温度は四塩化珪素の沸点以上であって、六塩化二珪素の沸点未満の温度範囲(0〜0.1MPaの圧力下で57℃〜80℃)に設定した。この蒸留工程において、四塩化珪素が留出する一方、高分子塩化珪素化合物が液分に残る。回収した四塩化珪素は、三塩化シラン転換工程の原料もしくは多結晶シリコン製造プロセスの原料として再利用した。
【0040】
第2蒸留塔23の蒸留残液50kgを抜き取り、第3蒸留塔24に導き、塔頂温度を150℃に設定して蒸留を行った。まず、蒸留温度31℃〜135℃の初留を分離し、さらに135℃〜150℃の留出分(中間留分)を分離した後に、149℃〜150℃の留出部分を回収した。150℃を上回る蒸留成分はカットした。
【0041】
転換炉20に導入した四塩化珪素と水素ガスの流量、六塩化二珪素の回収量および回収率を表1に示す。六塩化二珪素の回収量は149℃〜150℃の留出部分に含まれる量であり、六塩化二珪素の回収率は蒸留残液50kgに対する6CS回収量の比である。
【0042】
【表1】

【0043】
多結晶シリコン製造プロセスの反応排ガスから六塩化二珪素を回収した比較例を以下に示す。
〔比較例1〜4〕
炉内表面が1000℃〜1100℃に加熱された多結晶シリコン反応炉10に三塩化シラン(20〜35L/min)および水素(25〜55m3/min)を導入し、多結晶シリコンを成長させた。この反応排ガスを冷却器11に導入し、実施例1と同じ条件下で、第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程を実施し、六塩化二珪素を回収した。蒸留分離した六塩化二珪素の回収量および回収率を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
〔実施例5〜8〕
転換炉20から実施例1〜4と同様の生成ガスを得た。この生成ガスを凝縮工程の冷却器21に導入し、−75℃付近(-70℃〜-80℃)に冷却し、ここでガス状のまま残る水素を分離し、三塩化シランなどのクロルシラン類は液化して凝縮液にした。分離した水素ガスは精製工程に送り、原料ガスの一部として再び転換炉20に戻して再利用した。
【0046】
凝縮液を蒸留分離工程に導いた。最初の蒸留工程は蒸留温度を四塩化珪素の沸点以上であって六塩化二珪素の沸点未満の温度(0〜0.1MPaの圧力下で57℃〜80℃)に設定し、三塩化シランと四塩化珪素とを同一の蒸留塔で蒸留回収した。
【0047】
最初の上記蒸留工程の蒸留残液50kgを抜き取り、次の蒸留塔に導き、塔頂温度を150℃に設定して蒸留を行った。まず、蒸留温度31℃〜135℃の初留を分離し、さらに135℃〜150℃の留出分(中間留分)を分離した後に、149℃〜150℃の留出部分を回収した。150℃を上回る蒸留成分はカットした。
【0048】
転換炉20に導入した四塩化珪素と水素ガスの流量、六塩化二珪素の回収量および回収率を表1に示す。六塩化二珪素の回収量は149℃〜150℃の留出部分に含まれる量であり、六塩化二珪素の回収率は蒸留残液50kgに対する6CS回収量の比である。
【0049】
【表3】

【0050】
〔比較例5〜8〕
炉内表面が1000℃〜1100℃に加熱された多結晶シリコン反応炉10に三塩化シラン(20〜35L/min)および水素(25〜55m3/min)を導入し、多結晶シリコンを成長させた。この反応排ガスを冷却器11に導入し、実施例5と同じ条件下で、第1蒸留工程、第2蒸留工程、第3蒸留工程を実施し、六塩化二珪素を回収した。蒸留分離した六塩化二珪素の回収量および回収率を表2に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
〔実施例9〕
第2蒸留塔23の蒸留残液(仕込み液)50kgに塩素ガス(3.2kg)を導入した以外は実施例1と同様にして蒸留を行った。この結果、仕込み液の量に対して64%の六塩化二珪素が回収された。
【0053】
〔実施例10〕
第2蒸留塔23の蒸留残液(仕込み液)50kgに塩素ガス(3.2kg)を導入し、塩素化を進めた後に、窒素ガスを40NL/minの流量で200分間導入してバブリングし(導入量10.0kg)、液中の塩素を除去した。この脱気した溶液を六塩化二珪素の蒸留塔に導き、蒸発時に発生した粉末の個数を測定した。一方、比較として、塩素ガスの導入後に窒素ガスのバグリングを行わない以外は同様にして仕込み液を六塩化二珪素の蒸留工程に導き、蒸発時に発生した粉末個数を測定した。発生した粉末の個数を粒径に区分して表5に示した。なお、粉末の個数はパーテイクルカウンター(リオン株式会社製KL-11A)およびパーティクルセンサ(リオン社製KS−65)を用いて測定した。また、六塩化二珪素の蒸留条件は実施例1と同様である。粉末量は六塩化二珪素の回収量に含まれる量である。
【0054】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】多結晶シリコンの製造プロセスと転換反応プロセスを示す工程図
【図2】本発明に係る分離回収方法の工程図
【符号の説明】
【0056】
10−反応炉、11−冷却器(凝縮工程)、12−蒸留工程、13−転換炉、20−転換炉、21−冷却器、22−第1蒸留塔、23−第2蒸留塔、24−第3蒸留塔、25−蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化珪素と水素ガスから三塩化シランを生成する転換反応の排出ガスを冷却して凝縮液とし、この凝縮液から三塩化シランおよび四塩化珪素を蒸留分離した後に六塩化二珪素を留出回収することを特徴とする転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項2】
転換反応の排出ガスを冷却凝縮して水素ガスを分離する凝縮工程と、この凝縮液から三塩化シランを留出させる第1蒸留工程と、第1蒸留工程の残液から四塩化珪素を留出させる第2蒸留工程と、第2蒸留工程の残液から六塩化二珪素を留出させる第3蒸留工程とを有する請求項1に記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項3】
三塩化シランの蒸留と四塩化珪素の蒸留が一の蒸留塔で連続して行われる請求項1に記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項4】
六塩化二珪素の蒸留工程において、初留をカットした後に、六塩化二珪素を主成分とする高温蒸留部分を回収する請求項1〜請求項3の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項5】
六塩化二珪素の蒸留工程において、初留をカットした後に、四塩化ジシランを主体とする中間留分を回収し、さらに六塩化二珪素を主体とする高温蒸留部分を回収する請求項1〜請求項4の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項6】
三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、および六塩化二珪素の蒸留工程が各々の蒸留塔によって順に連続して行われる請求項1〜請求項5の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項7】
三塩化シランの蒸留工程と四塩化珪素の蒸留工程の間、あるいは四塩化珪素の蒸留工程と六塩化二珪素の蒸留工程との間、あるいは四塩化珪素蒸留工程の中、あるいは六塩化二珪素の蒸留工程の中に塩素導入工程を設けた請求項1〜請求項6の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項8】
請求項7の製造方法において、各々の蒸留工程に塩素を導入して蒸留を進めた後に、蒸留残液に残留した塩素を脱気する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項9】
請求項7の製造方法において、不活性ガスを蒸留残液に導入してバブリングすることにより塩素を脱気する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項10】
三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、六塩化二珪素の蒸留工程の少なくとも何れかの蒸留工程の後に、蒸留残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に残留塩素を脱気し、この残液を次の蒸留工程に導入する請求項7〜請求項9の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項11】
三塩化シランの蒸留工程、四塩化珪素の蒸留工程、六塩化二珪素の蒸留工程の少なくとも何れかの蒸留工程の後に、蒸留残液に塩素を導入して塩素化を進めた後に、この塩素を含有する蒸留残液を次の蒸留工程に導き、蒸留と共に塩素を脱気する請求項7〜請求項9の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。
【請求項12】
四塩化珪素と水素ガスから三塩化シランを生成する転換反応プロセスにおいて、多結晶シリコン製造プロセスより副生した四塩化珪素を原料ガスとして用いる請求項1〜請求項11の何れかに記載する転換反応ガスの分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149502(P2009−149502A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303035(P2008−303035)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】