説明

転炉装入量決定方法

【課題】 受鋼後の取鍋のフリーボードに基づいて該取鍋の次回使用時における転炉への鉄源総装入量を求めるにあたり、取鍋のフリーボードを自動的に、且つ短時間で正確に測定することで、フリーボードを測定することによる生産性の低下を招くことなく、転炉への適切な鉄源総装入量を算出することのできる転炉装入量決定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の転炉装入量決定方法は、転炉から出鋼される溶鋼3を受鋼した後、次工程に搬送するまでの取鍋1の動線上に非接触型の距離測定器4を設置し、該距離測定器を用いて前記取鍋の側壁上端部から該取鍋内の溶鋼湯面までの距離、即ちフリーボードLを自動的に測定し、測定したフリーボードに基づいて、該取鍋を受鋼用取鍋として次回に使用する転炉脱炭精錬における転炉への鉄源総装入量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉に装入される鉄源、具体的には溶銑と鉄スクラップとの総装入量を決定する転炉装入量決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所における製鋼工場の転炉では、高炉で溶製された溶銑と鉄スクラップとを鉄源(「主原料」ともいう)として装入し、この鉄源に酸素ガスを用いた脱炭精錬を施して溶鋼を溶製している。転炉への鉄源の総装入量は、一般的に、連続鋳造工程で必要とする鋳片量を確保するべく、転炉での歩留りに基づいて決定されている。
【0003】
ところで、転炉から出鋼される溶鋼を受鋼し、受鋼した溶鋼を連続鋳造工程に搬送するための取鍋(「鋳込鍋」ともいう)は、その製鋼工場においては同一形状であるが、取鍋の底部或いは側壁に地金が付着した場合には、この取鍋の溶鋼収容量が減少し、転炉で溶製した溶鋼を収容しきれない場合が発生する。このような場合は、出鋼時に取鍋から溶鋼がオーバーフローする、或いは、取鍋に収容できなくなって転炉内に残留した溶鋼は脱炭精錬後の転炉からのスラグ排出の際にスラグとともに排出されてしまうことから、溶鋼の歩留り低下という問題をもたらす。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1には、「使用する取鍋の至近の使用実績(出鋼秤量値、フリーボード値、鍋回数、空鍋重量)を検索する使用実績検索ステップと、検索した使用実績に基づいて前記取鍋の今回の受鋼可能Max量を算出するMAX量算出ステップと、算出した今回の受鋼可能Max量を設備制約などの制約に合致するように調整するMAX量調整ステップと、調整した今回の受鋼可能Max量に鋼種毎に分類された転炉鉄歩留係数を乗じて転炉装入総量を決定する装入総量決定ステップと、決定した転炉装入総量に基づいて、転炉熱余裕状況、所定目標成分、スクラップ使用予定実績、鋼種制約に合わせて溶銑量と鉄スクラップ量との配合を求める決定ステップと、を有する転炉装入量決定方法」が提案されている。
【0005】
特許文献1によれば、使用する取鍋の受鋼可能量が精度良く推定でき、且つ転炉装入量の決定精度を高めることができるので、転炉からの出鋼時に溶鋼が取鍋に収容しきれないというトラブルが未然に防止され、歩留り向上及び生産性向上が実現されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−52083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、フリーボード(取鍋内溶鋼湯面から取鍋側壁上端までの距離=取鍋の上部側空間部長さ)を正確に測定することが最重要因子となる。しかしながら、特許文献1は、「2次精錬炉では、鋳込鍋縁と溶鋼面との距離(以下、フリーボードと称する)を測定する」と記載するだけで、具体的な測定方法を記載していない。但し、その発明の概略工程を示す特許文献1の図2を参照すると、距離測定用の測定棒を取鍋内の溶鋼湯面に浸漬してフリーボードを測定していることが伺える。
【0008】
このような測定方法は、測定に時間を費やし時間ロスになるのみならず、測定精度が低いという問題がある。つまり、フリーボードを測定することによって生産性が損なわれるのみならず、測定値の誤差が大きく、転炉への鉄源の総装入量が適切に制御できないという問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、受鋼後の取鍋のフリーボードに基づいて該取鍋の次回使用時における転炉への鉄源総装入量を求めるにあたり、取鍋のフリーボードを自動的に、且つ短時間で正確に測定することで、フリーボードを測定することによる生産性の低下を招くことなく、転炉への適切な鉄源総装入量を算出することのできる転炉装入量決定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 転炉から出鋼される溶鋼を受鋼した後、次工程に搬送するまでの取鍋の動線上に非接触型の距離測定器を設置し、該距離測定器を用いて前記取鍋の側壁上端部から該取鍋内の溶鋼湯面までの距離、即ちフリーボードを自動的に測定し、測定したフリーボードに基づいて、該取鍋を受鋼用取鍋として次回に使用する転炉脱炭精錬における転炉への鉄源総装入量を決定することを特徴とする転炉装入量決定方法。
(2) 前記距離測定器がマイクロ波式距離測定器であることを特徴とする、上記(1)に記載の転炉装入量決定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶鋼を受鋼した後の取鍋のフリーボードをこの取鍋の動線上に設置した非接触型の距離測定器を用いて自動的に測定するので、フリーボードの測定に起因して生産性に支障を来たすことはなく、正確且つ迅速にフリーボードを測定することができ、そして、測定したフリーボードから転炉への適切な鉄源総装入量を求めることが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】非接触型の距離測定器によって取鍋のフリーボードを測定する様子を示す概略図である。
【図2】容量が350トンの取鍋における鉄源総装入量と溶鋼湯面位置との関係を模式的に示す図である。
【図3】本発明を適用する前後期間での取鍋使用回収と鉄源総装入量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、溶鋼を収容した取鍋の動線上に設けた非接触型の距離測定器によって取鍋のフリーボードを測定する様子を示す概略図である。図1は、取鍋1の一部を断面で表示している。
【0014】
図1において、溶鋼3を収容した取鍋1が、取鍋搬送用台車2に積載されてRH真空脱ガス設備へ搬入されつつある。この場合、取鍋搬送用台車2はRH真空脱ガス設備の真空槽(図示せず)の直下に至る軌条6を通って移動し、この軌条6の直上のRH真空脱ガス設備作業床5から軌条6の側に張り出して非接触型の距離測定器4が配置されている。この構成により、溶鋼3を収容した取鍋1が取鍋搬送用台車2に積載されてRH真空脱ガス設備へ搬入される際に、その動線上に配置した距離測定器4によって取鍋1のフリーボードが自動的に測定されるようになっている。ここで、取鍋1のフリーボードとは、取鍋1の側壁上端部1aから取鍋内の溶鋼湯面までの距離であり、図1では符号Lで表示している。
【0015】
即ち、取鍋1のRH真空脱ガス設備への移動(紙面の右側方向)に伴って、先ず、取鍋1の側壁上端部1aまでの距離が距離測定器4によって測定され、次いで、取鍋内の溶鋼3の湯面までの距離が距離測定器4によって測定され、取鍋内の溶鋼3の湯面までの距離と取鍋1の側壁上端部1aまでの距離との差が、取鍋1のフリーボード(L)として測定される。測定されたフリーボード(L)は転炉装入量計算機(図示せず)に送信され記憶される。
【0016】
取鍋1のフリーボード(L)を非接触で測定する測定装置としては、レーザー式距離測定器、マイクロ波式距離測定器、渦流式距離測定器などが考えられる。しかしながら、渦流式距離測定器は、遠隔からの測定はできず、測定対象物との距離が200mm程度となるまで測定器を近づける必要があり、取鍋1のフリーボード(L)を測定する機器としては好適ではない。また、レーザー式距離測定器は、数十m離れた遠隔からの測定が可能であるが、測定経路に存在するダストや蒸気の影響を大きく受けることから、高温状態の取鍋1のフリーボード(L)を測定する場合には、測定精度がばらつくという問題がある。これに対して、マイクロ波式距離測定器は、レーザー式距離測定器と同様に、数十m離れた遠隔からの測定が可能であり、且つ、レーザー式距離測定器と同等の測定精度(±10mm程度)を有し、更に、温度、ダスト、蒸気の影響が小さいという特性があり、高温状態の取鍋1のフリーボード(L)を測定する機器として極めて好適である。また、フロート式測定装置でも取鍋1のフリーボード(L)を測定することはできるが、接触式であって設置・測定のための時間を要し、また、使い捨てであるために維持費が高く、迅速且つ安価に測定するという目的は達成できない。
【0017】
つまり、取鍋1のフリーボード(L)を測定するための距離測定器4としては、レーザー式距離測定器或いはマイクロ波式距離測定器が好ましく、特に、マイクロ波式距離測定器が好ましい。
【0018】
取鍋1の側壁には、通常、スラグに対する耐食性に優れる耐火物が施工された層(「スラグライン部」という)が形成されており、一般的に、出鋼後の溶鋼湯面は、このスラグライン部の範囲に保持される。これは、取鍋内の溶鋼3の上には、転炉からの出鋼時に溶鋼3に混入した転炉スラグが存在したり、溶鋼脱硫のために取鍋内に添加した、CaF2を含有する脱硫剤が存在したりすることがあり、これらのスラグは取鍋耐火物を損傷させることから、スラグに対する耐食性に優れるスラグライン部の範囲にスラグ層が入るように溶鋼量を制御している。尚、スラグライン部よりも溶鋼湯面が高くなると、溶鋼3のオーバーフローの懸念が高くなる。
【0019】
従って、取鍋1に最大限の量の溶鋼3が収容された状態は、溶鋼3の上に存在するスラグ層がスラグライン部を超えない範囲で、溶鋼湯面位置がスラグライン部の上部側に位置した状態となる。溶鋼3の上に存在するスラグが少ない場合や、スラグによる耐火物の溶損が少ない場合(例えば生石灰の添加によりスラグが固化したような状態)には、溶鋼湯面位置をスラグライン部の上端部位置と一致させることができる。
【0020】
本発明においては、測定した取鍋1のフリーボード(L)に基づき、この取鍋1を受鋼用取鍋として次回に使用する転炉脱炭精錬における転炉への鉄源総装入量を決定する。この鉄源総装入量の決定方法の例を以下に示す。
【0021】
図2は、容量が350トンの取鍋における鉄源総装入量と溶鋼湯面位置との関係を模式的に示す図であり、図2にはスラグライン部の位置を併せて表示している。尚、図2は、溶鋼湯面高さをGL(グランドレベル)を基準として表示している。
【0022】
取鍋1の上部側においては、その横断面積の鉛直方向の変化は少ないことから、取鍋内の溶鋼湯面高さ(H:mm)は、鉄源総装入量(W:トン)と比例関係があり、下記の(1)式で表される。
H=α×W+β …(1)
但し、(1)式においてαは取鍋の横断面形状によって一義的に定まる定数であり、βは地金付着の有無及び取鍋耐火物の溶損によって定まる変数である。図2に示す350トン容量の取鍋におけるαは、8.4mm/トンと求められる。これは、鉄源総装入量(W)が1トン増加すると、溶鋼湯面高さ(H)が8.4mm上昇するということを表している。
【0023】
図2に示すように、鉄源総装入量(W)が315トンのときに測定される鋼湯面高さ(H)が5720mmとなることから、H=5720mm、W=315トン、α=8.4mm/トンを(1)式に代入すると、β=3074mmが得られる。変数βは取鍋が替わればその値が変化し、同一取鍋であっても一定ではなく、使用回数に応じて変化する。
【0024】
βを3074mmとする(1)式を用いて、溶鋼湯面高さ(H)がスラグライン部の上端部位置(GL+6000mm)と一致するときの鉄源総装入量(W)を逆算することによって、この取鍋の次回使用時の最大鉄源総装入量(W)を求めることができる。図2の場合には、次回使用時の最大鉄源総装入量(W)は348トン(=(6000-3074)/8.4)となる。
【0025】
溶鋼湯面高さ(H)とフリーボード(L)との関係は下記の(2)式で表されることから、(2)式を(1)式に代入した(3)式を用いることで、測定したフリーボード(L)から、上記に沿って取鍋1の次回使用時の最大鉄源総装入量(W)を求めることができる。
L=Ho−H …(2)
L=Ho−(α×W+β) …(3)
但し、(2)式及び(3)式においてHoは取鍋1の側壁上端部1aの高さ(mm)である。
【0026】
最大鉄源総装入量(W)の算出は、この取鍋1を使用することが分った時点で、転炉装入量計算機に記憶されたフリーボード(L)のデータを呼び出して算出すればよい。
【0027】
上記説明では、目標とする取鍋内の溶鋼湯面高さ(H)がスラグライン部の上端部位置(GL+6000mm)と一致するときの最大鉄源総装入量(W)を算出しているが、本発明において、目標とする溶鋼湯面高さ(H)はスラグライン部の範囲内であるならばどこの位置であっても構わない。つまり、取鍋内のスラグ量などの操業条件に応じて、目標とする溶鋼湯面高さ(H)を適宜設定し、設定した溶鋼湯面高さ(H)に応じて上記に沿って鉄源総装入量(W)を求めればよい。
【0028】
このように、本発明によれば、溶鋼3を受鋼した後の取鍋1のフリーボードを取鍋1の動線上に設置した非接触型の距離測定器4を用いて自動的に測定するので、フリーボードの測定に起因した生産性の低下は発生せず、正確且つ迅速にフリーボードを測定することができ、測定したフリーボードから転炉への鉄源の適切な総装入量を求めることが実現される。
【実施例1】
【0029】
容量が350トンの取鍋において本発明を実施した。距離測定器としてはマイクロ波式距離測定器を用い、このマイクロ波式距離測定器を図1に示すようにRH真空脱ガス設備の作業床に設置し(マイクロ波式距離測定器と取鍋の上端(側壁上端部1a)との距離は6300mmに設定)、RH真空脱ガス設備に搬入される取鍋のフリーボードを測定し、測定したフリーボードに基づいて、次回使用時の転炉への最大鉄源総装入量(溶鋼湯面がスラグライン部の上端と一致する状態)を求めた。そして、求めた最大鉄源総装入量に基づき転炉装入量を設定し、転炉脱炭精錬を実施した。求めた最大鉄源総装入量の例を表1に示す。尚、表1に示す高さはGLを基準としている。
【0030】
【表1】

【0031】
また、図3には、本発明を適用する前後期間での取鍋使用回収と鉄源総装入量との関係を示す。図3に示すように、本発明を適用することにより、平均しておよそ4〜5トンの鉄源総装入量の増加が得られ、生産性の向上が確認できた。尚、図3に示す比較例とは、本発明の適用以前の操業であり、図3に示す実線は本発明例の直線近似の回帰線で、破線は比較例の直線近似の回帰線である。
【符号の説明】
【0032】
1 取鍋
2 取鍋搬送用台車
3 溶鋼
4 距離測定器
5 RH真空脱ガス設備作業床
6 軌条
L 取鍋のフリーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉から出鋼される溶鋼を受鋼した後、次工程に搬送するまでの取鍋の動線上に非接触型の距離測定器を設置し、該距離測定器を用いて前記取鍋の側壁上端部から該取鍋内の溶鋼湯面までの距離、即ちフリーボードを自動的に測定し、測定したフリーボードに基づいて、該取鍋を受鋼用取鍋として次回に使用する転炉脱炭精錬における転炉への鉄源総装入量を決定することを特徴とする転炉装入量決定方法。
【請求項2】
前記距離測定器がマイクロ波式距離測定器であることを特徴とする、請求項1に記載の転炉装入量決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158806(P2012−158806A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19379(P2011−19379)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】