説明

転落防止装置及び浮体構造物用タンク

【課題】設備コストを低減することができるとともに、作業者の安全性を向上させることができる、転落防止装置及び浮体構造物用タンクを提供する。
【解決手段】壁面部Wに隣接した通路Pに沿って設置され、壁面部Wに固定されるレール部材2と、レール部材2に摺動可能に配置されるとともに命綱Lが係止されるガイド部材3と、を有し、レール部材2は、移動用の手摺として兼用可能に構成されている。また、レール部材2は、複数のガイド部材3L,3Rが相対する場合に一方のガイド部材3Rを迂回させるバイパス部21を有している。バイパス部21は、例えば、レール部材2の一部から分岐してレール部材2の他部に接続されるバイパス経路やレール部材2の一部から分岐した袋小路により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者や通行者が通路から転落することを防止する転落防止装置及び浮体構造物用タンクに関し、特に、壁面に沿って配置された通路に適した転落防止装置及び浮体構造物用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
バルクキャリア(ばら積船)タンカー(液体貨物船)、FPSO(Floating Production, Storage and Offloading system:浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)、FSO(Floating Storage and Offloading system:浮体式海洋石油・ガス貯蔵積出設備)等の浮体構造物には、複数のタンクが船体上に配置されている。これらのタンクは、ドック入渠時や停泊時だけでなく、洋上において船体揺動時にタンク内を点検しなければならない場合もある。かかる点検に備えて、タンクの内壁に配置された水平桁の開放側の端部に、一条の手摺と、複数条の転落防止用横木と、これらをフェンス状に配置するための一定間隔で設けられる縦支柱(例えば高さ1m強の支柱)と、出入口を構成する扉と、を備えた固定式の手摺を設置したり、水平桁のフェイスプレート等を利用して前記固定式手摺と同様の構成を有する仮設の手摺を設置したりして、作業者の転落防止を図っていた。また、タンクの高さは、20m以上になることもあり、タンク内の点検作業は高所作業となることが多く、作業者は、命綱を手摺に掛けて作業及び移動するようにしている。
【0003】
このように、手摺に沿って移動可能な転落防止装置には、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されたものが既に提案されている。特許文献1に記載された転落防止装置は、枠組足場を下方から上方に向けて順次組み付ける際に、順次上方に盛替えながら建枠に設置する先行手摺において、左右一対の縦支柱と、各縦支柱の上端部に回転自在に架設した横支柱と、を備え、横支柱を親綱用の支柱として利用しながら横支柱に命綱を結合したガイドをスライド自在に挿入したものである。
【0004】
また、特許文献2に記載された転落防止装置は、プラットフォームの床面上に固定されたレール部材と、レール部材に摺動自在に係合する係合部材と、作業者が着用する安全ベルトに接続した命綱の一端を係止するために係合部材に固定された係止部と、を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−207225号公報
【特許文献2】実開平6−16394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タンク内における水平桁に固定式の手摺を設置した場合には、設備コストが高い、貨物の運動によって手摺が損傷を受けやすい、という問題があった。また、タンク内における水平桁に仮設の手摺を設置した場合には、手摺の設置及び撤去に工数を要し、点検コストが増大し、点検期間が長くなってしまう、という問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載されたように、手摺の横支柱に命綱を係止する場合には、横支柱を支持する縦支柱の部分を通過する際に、命綱を手摺から一旦外して掛け替える必要があり、一時的に命綱を着用できなくなってしまう、という問題があった。また、複数の作業者が、同じ手摺に命綱を係止している場合にも、命綱を掛け替えなければすれ違うことができず、一時的に命綱が着用できなくなってしまう、という問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されたように、命綱をレール部材に沿って移動可能に構成した場合には、縦支柱を横切る必要はないものの、動揺する浮体構造物内の広い範囲を移動するような場合には、作業者の移動時に身体を支えるための手摺装置を設置する必要があった。また、複数の作業者が、同じ手摺に命綱を係止している場合には、命綱を掛け替えなければすれ違うことができず、一時的に命綱が着用できなくなってしまう、という問題があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、設備コストを低減することができるとともに、作業者の安全性を向上させることができる、転落防止装置及び浮体構造物用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、壁面部に隣接した通路又は作業場に沿って設置される転落防止装置であって、前記壁面部に固定されるレール部材と、該レール部材に摺動可能に配置されるとともに命綱が係止されるガイド部材と、を有し、前記レール部材は、移動用の手摺として兼用可能に構成されている、ことを特徴とする転落防止装置が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、浮体構造物上に貨物を収容可能に形成又は配置される壁面部と、該壁面部に沿って配置される水平桁と、を備える浮体構造物用タンクにおいて、前記壁面部に隣接した前記水平桁に沿って配置される転落防止装置を有し、該転落防止装置は、前記壁面部に固定されるレール部材と、該レール部材に摺動可能に配置されるとともに命綱が係止されるガイド部材と、を有し、前記レール部材は、移動用の手摺として兼用可能に構成されている、ことを特徴とする浮体構造物用タンクが提供される。
【0012】
上述した転落防止装置及び浮体構造物用タンクにおいて、前記レール部材は、複数の前記ガイド部材が相対する場合に一方の前記ガイド部材を迂回又は退避させるバイパス部を有していてもよい。また、前記バイパス部は、前記レール部材の一部から分岐して前記レール部材の他部に接続されるバイパス経路により構成されてもよいし、前記レール部材の一部から分岐した袋小路により構成されてもよい。また、前記レール部材を複数配置し、隣接する前記レール部材を接続する連結経路によって前記バイパス部を構成するようにしてもよい。また、前記バイパス部は、前記レール部材よりも上方に配置されていてもよい。また、前記バイパス部は、前記レール部材よりも下方に配置されており、前記ガイド部材を前記バイパス部に迂回又は退避可能にするゲート部材を有していてもよい。
【0013】
前記レール部材は、例えば、中空部及び該中空部と連通するスリット部を有する中空管により構成され、前記ガイド部材は、例えば、前記中空部に挿入されるアンカー部と前記スリット部に挿通される支持部と前記命綱が係止される係止部とを有する。前記中空管は、作業員が把持可能な外形を有していてもよい。また、前記アンカー部は、前記中空部に内接する車輪を有していてもよいし、前記支持部と自在継手を介して接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明に係る転落防止装置及び浮体構造物用タンクによれば、壁面部にレール部材を固定して摺動可能なガイド部材を配置し、このガイド部材に命綱を係止させるようにするとともに、レール部材を移動用の手摺として兼用可能に構成したことにより、水平桁の端部やフェイスプレートを利用して常設又は仮設の手摺を配置する必要がなく、従来の長い縦支柱や複数条の転落防止用横木を省略することができ、設備コストを低減することができる。また、レール部材が壁面部に固定されていることから、貨物との接触による損傷を低減することができる。また、レール部材を遮る部材(例えば、縦支柱等)を有しないことから、命綱を取り外すことなく、ガイド部材をレール部材に沿って摺動させることができ、作業者の安全性を向上させることができる。
【0015】
特に、レール部材にバイパス部を形成したことにより、同一経路のレール部材に複数の作業者が存在している場合であっても、バイパス部を利用して命綱を取り外すことなくすれ違うことができ、作業効率及び作業者の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態に係る浮体構造物用タンク及び転落防止装置を示す図であり、(a)は浮体構造物用タンクの横断面図、(b)は図1(a)におけるA部拡大図、を示している。
【図2】図1に示した浮体構造物用タンク及び転落防止装置の説明図であり、(a)は浮体構造物用タンクの縦断面図、(b)は図2(a)におけるB部拡大図、を示している。
【図3】図1に示した浮体構造物用タンクの水平断面図である。
【図4】バイパス部の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。
【図5】バイパス部の第四変形例を示す図であり、(a)は閉状態、(b)は開状態、(c)は図5(a)におけるC−C断面図、(d)は図5(c)の変形例、を示している。
【図6】ガイド部材の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る浮体構造物用タンク及び転落防止装置を示す図であり、(a)は浮体構造物用タンクの横断面図、(b)は図1(a)におけるA部拡大図、を示している。図2は、図1に示した浮体構造物用タンク及び転落防止装置の説明図であり、(a)は浮体構造物用タンクの縦断面図、(b)は図2(a)におけるB部拡大図、を示している。図3は、図1に示した浮体構造物用タンクの水平断面図である。
【0018】
本発明の第一実施形態に係る転落防止装置1は、図1〜図3に示したように、壁面部Wに隣接した通路Pに沿って設置され、壁面部Wに固定されるレール部材2と、レール部材2に摺動可能に配置されるとともに命綱Lが係止されるガイド部材3と、を有し、レール部材2は、移動用の手摺として兼用可能に構成されている。また、レール部材2は、複数のガイド部材3L,3Rが相対する場合に一方のガイド部材3Rを迂回させるバイパス部21を有している。
【0019】
前記転落防止装置1は、例えば、図1(a)に示したように、浮体構造物用タンク4に配置される。図示した浮体構造物用タンク4は、自立角型式のLNGタンクである。かかる浮体構造物用タンク4は、浮体構造物5(ここでは、LNGタンカー)上に貨物を収容可能に配置される壁面部Wと、壁面部Wに沿って配置される水平桁41と、を備えている。水平桁41は、図3に示したように、例えば、タンク内の壁面部Wに沿って環状に形成されており、作業者は、タンク内点検のために、水平桁41上を周回する。したがって、水平桁41は、作業者の通路P又は作業場を構成している。なお、壁面部Wに複数の水平桁41が配置されている場合には、点検作業が必要な水平桁41に沿って転落防止装置1を配置するようにすればよい。
【0020】
浮体構造物5は、LNGタンカーに限定されず、貨物を収容可能なタンクを有していればよく、LPGタンカー等の他のタンカー(液体貨物船)であってもよいし、バルクキャリア(ばら積船)であってもよいし、FPSO(洋上浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備)やFSO(洋上浮体式石油・ガス貯蔵積出設備)等であってもよい。なお、浮体構造物用タンク4は、図示した自立角型のものに限定されず、球型や円筒型であってもよい。
【0021】
図1(b)に示したように、前記レール部材2は、中空部2a及び中空部2aと連通するスリット部2bを有する中空管により構成され、ガイド部材3は、中空部2aに挿入されるアンカー部3aとスリット部2bに挿通される支持部3bと命綱Lが係止される係止部3cとを有している。レール部材2を作業員が把持可能な外形を有する中空管により形成することにより、移動用の手摺として兼用可能に構成することもできる。スリット部2bは、例えば、中空部2aに対して略水平方向のタンク内方側に形成されている。
【0022】
また、レール部材2を構成する中空管は支持部2cに接続されており、支持部2cにより壁面部Wに固定されている。壁面部Wは、平面を構成する壁面そのものであってもよいし、壁面に骨材が配置されている場合には骨材を含んでいてもよい。支持部2cは、溶接によって壁面部W(壁面又は骨材)に固定されてもよいし、ボルト等の締結具によって固定されてもよい。なお、支持部2cは、中空管の全長に沿って配置されていてもよいし、適当な間隔を空けて分散して配置されていてもよい。
【0023】
ガイド部材3のアンカー部3aは、中空部2aに挿入されるとともに、スリット部2bから抜け落ちない大きさを有する球形状又は円筒形状のスライダである。アンカー部3aの摺動性を向上させるために、中空部2a、アンカー部3a又はその両方の表面にコーティング層や油膜を形成するようにしてもよい。支持部3bは、スリット部2bに沿って移動する部分であり、最も応力が生じ易い部分である。したがって、支持部3b又はガイド部材3全体を強度部材により形成してもよいし、支持部3bの表面に耐磨耗性のコーティング層を形成するようにしてもよい。係止部3cは、例えば、環状に形成されており、命綱Lの先端に配置されたフックFが着脱可能に係止される。命綱Lは、通路P(水平桁41)上の作業者Mとガイド部材3とを繋ぐ部材であり、例えば、作業者Mの安全ベルト等に接続されている。
【0024】
バイパス部21は、例えば、図2(a)及び(b)に記載されたように、レール部材2の一部から分岐してレール部材2の他部に接続されるバイパス経路によって構成される。なお、図2(a)及び図3において、説明の便宜上、レール部材2及びバイパス部21を破線により図示している。かかるバイパス部21を構成するバイパス経路は、レール部材2と同じ部材によって形成されスリット部2bと同じ形状のスリット部21bを有する。また、図2(a)に示したように、バイパス部21は、各レール部材2について一定の間隔で複数のバイパス経路が形成される。バイパス部21は、各レール部材2について、作業経路の中間地点の一箇所に配置するようにしてもよいが、作業者Mの鉢合わせする箇所を予測することが困難な場合には適当な間隔で複数のバイパス経路を形成することにより、鉢合わせした箇所の近傍ですれ違い動作を行うことができる。
【0025】
いま、図2(b)に示したように、レール部材2の左側からガイド部材3Lに繋がった作業者Mが移動し、レール部材2の右側からガイド部材3Rに繋がった作業者Mが移動してきた場合を想定する。例えば、ガイド部材3Lに繋がった作業者Mが、レール部材2上をそのまま直進し、ガイド部材3Rに繋がった作業者Mが、バイパス部21に迂回することにより、相対した作業者Mは容易にすれ違うことができ、各自の点検作業を継続することができる。このとき、作業者Mは命綱Lを取り外す必要がなく、作業者Mの安全性を向上させることができる。
【0026】
また、上述したように、壁面部Wに転落防止装置1を常設することにより、通路P(水平桁41)のタンク内側(開放端部側)に手摺を常設又は仮設する必要がなく、設備コストを低減することができる。また、転落防止装置1は壁面部Wに沿って配置されていることから、タンク内側(開放端部側)に手摺を配置した場合と比較して、貨物との衝突による影響を受け難くすることができ、転落防止装置1の損傷を低減することができる。
【0027】
次に、上述したバイパス部21の変形例について、図4及び図5を参照しつつ説明する。ここで、図4は、バイパス部の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。図5は、バイパス部の第四変形例を示す図であり、(a)は閉状態、(b)は開状態、(c)は図5(a)におけるC−C断面図、(d)は図5(c)の変形例、を示している。なお、図2(b)に示した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0028】
図4(a)に示した第一変形例は、バイパス部21をレール部材2の上方側に形成したものである。かかる構成により、直進時にガイド部材3がバイパス部21の出入口に引っ掛かることなく円滑に移動することができる。
【0029】
図4(b)に示した第二変形例は、バイパス部21をレール部材2の一部から分岐した袋小路により構成したものである。いま、図示したように、レール部材2の左側からガイド部材3Lに繋がった作業者Mが移動し、レール部材2の右側からガイド部材3Rに繋がった作業者Mが移動してきた場合を想定する。例えば、ガイド部材3Rに繋がった作業者Mが、バイパス部21に退避し、ガイド部材3Lに繋がった作業者Mが、レール部材2上をそのまま直進することにより、相対した作業者Mは容易にすれ違うことができ、各自の点検作業を継続することができる。このとき、作業者Mは命綱Lを取り外す必要がなく、作業者Mの安全性を向上させることができる。なお、かかる第二変形例において、バイパス部21を構成する袋小路を図4(a)に示した第一変形例と同様に、レール部材2の上方側に形成するようにしてもよい。
【0030】
図4(c)に示した第三変形例は、レール部材2を複数配置し(例えば、第一レール部材22及び第二レール部材23)、隣接するレール部材2(第一レール部材22及び第二レール部材23)を接続する連結経路によってバイパス部21を構成するようにしたものである。このように複数のレール部材2を配置して両者を往来可能な連結経路(バイパス部21)を形成することにより、例えば、第一レール部材22と第二レール部材23との間で任意にガイド部材3L,3Rを移動させることができ、作業者Mが同一のレール部材2上で相対した場合であっても容易にすれ違うことができる。
【0031】
図5(a)〜(d)に示した第四変形例は、バイパス部21がレール部材2よりも下方に配置されており、ガイド部材3をバイパス部21に迂回又は退避可能にするゲート部材24を有するものである。具体的には、ゲート部材24は、例えば、レール部材2のスリット部2bに沿ってスライド可能なスライドゲート24aと、スライドゲート24aの移動を停止させるストッパ24bと、を有する。
【0032】
スライドゲート24aは、図5(c)に示したように、例えば、レール部材2の内面に沿って湾曲した曲面部と、スリット部2bから外部に延出された操作部と、を有する。スライドゲート24aは、図5(a)に示したように、バイパス部21のスリット部21bの幅よりも大きい長さに形成される。スライドゲート24aの操作部には、作業員がスライドゲート24aをし易くするように、把手部や摩擦部を配置するようにしてもよい。ストッパ24bは、レール部材2の外面に配置された突起部であり、スライドゲート24aの移動する距離に対応した位置に配置される。
【0033】
かかるゲート部材24を配置することにより、ガイド部材3がレール部材2を直進する場合には、図5(a)に示したように、スライドゲート24aでスリット部21bを塞ぐようにスライドさせることによって、バイパス部21の出入口部21aを閉状態にすることができる。したがって、ガイド部材3は、レール部材2に沿って円滑に直進することができる。
【0034】
また、ガイド部材3がバイパス部21に迂回する場合には、図5(b)に示したように、スライドゲート24aをストッパ24bの位置までスライドさせることによって、バイパス部21の出入口部21aを開状態にすることができる。したがって、ガイド部材3は、バイパス部21に沿って円滑に迂回することができる。なお、バイパス部21に迂回した後は、スライドゲート24aをスライドさせて、図5(a)に示した閉状態にしておくと便利である。
【0035】
また、図5(d)に示したように、レール部材2にスライドゲート24aを収容する収容部24cを形成するようにしてもよい。収容部24cは、スライドゲート24aが移動する距離に応じて形成される。このように、レール部材2に収容部24cを形成することにより、スライドゲート24aをガイド部材3の移動経路から退避させることができ、円滑にガイド部材3をレール部材2に沿って移動させることができる。
【0036】
なお、ゲート部材24は、上述した構成に限定されるものではなく、ストッパ24bを省略してもよいし、収容部24cをスライドゲート24aと略同じ長さに形成してもよいし(スライド時にはスライドゲート24aが収容部24cからはみ出していてもよく、収容部24cの両端部にスロープを形成するようにしてもよい)、スライドゲート24aにスプリングを配置して閉状態を維持するように付勢してもよいし、所定の圧力又は重力が負荷された場合に回動する扉部を出入口部21aに配置した構成であってもよい。
【0037】
また、ゲート部材24は、レール部材2だけに配置されるものではなく、ガイド部材3に配置されるものであってもよい。例えば、ガイド部材3のアンカー部3aの長さを伸縮可能に構成し、レール部材2を直進する際には、アンカー部3aの長さを中空部2aの内径よりも大きくし、バイパス部21に迂回する際には、アンカー部3aの長さを中空部2aの内径よりも小さくなるように変形させるようにしてもよい。
【0038】
次に、ガイド部材3の変形例について、図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、ガイド部材の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。なお、図1(b)に示した第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0039】
図6(a)に示した第一変形例は、アンカー部3aが中空部2aに内接する車輪31を有するものである。このようにアンカー部3aに車輪31を配置することにより、車輪31をレール部材2に沿って転動させることができ、ガイド部材3の移動を補助することができる。
【0040】
図6(b)に示した第二変形例は、アンカー部3aが支持部3bと自在継手3dを介して接続されているものである。自在継手3dには、例えば、ボールジョイントやカルダンジョイント等のユニバーサルジョイントが適用される。かかる構成により、ガイド部材3の移動時において、アンカー部3aに作用する主たる力を回転すべり摩擦力だけにすることができ、ガイド部材3をレール部材2に沿って円滑に移動させることができる。
【0041】
図6(c)に示した第三変形例は、アンカー部3aが中空部2aに内接するベアリング3eを有するものである。このようにアンカー部3aにベアリング3eを配置することにより、車輪31をレール部材2に沿って滑動させることができ、ガイド部材3の移動を補助することができる。ベアリング3eの配置箇所や個数は、図示したものに限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定することができる。また、第三変形例では、レール部材2を略矩形断面に構成し、アンカー部3aもレール部材2の中空部2aの形状に合わせた略矩形断面に構成している。このように、レール部材2(中空部2a)及びアンカー部3aを矩形に形成しても、摺動(スライド)可能なガイド部材3を配置することができる。また、アンカー部3aが球形の場合であっても、ベアリング3eを配置するようにしてもよい。
【0042】
本発明は上述した実施形態に限定されず、バイパス部21は不要な場合(例えば、複数のレール部材2が並列に配置されている場合、作業者がすれ違う可能性がない場合等)には省略することができる、作業者が一定時間滞在する作業場には本発明に係る転落防止装置1に加えて通常の手摺装置を設置してもよい、上述したバイパス部21の第一変形例〜第四変形例及びガイド部材3の第一変形例〜第三変形例を適宜組み合わせて使用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 転落防止装置
2 レール部材(中空管)
2a 中空部
2b スリット部
2c 支持部
3,3L、3R ガイド部材
3a アンカー部
3b 支持部
3c 係止部
3d 自在継手
3e ベアリング
4 浮体構造物用タンク
21 バイパス部
24 ゲート部材
31 車輪
41 水平桁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面部に隣接した通路又は作業場に沿って設置される転落防止装置であって、
前記壁面部に固定されるレール部材と、該レール部材に摺動可能に配置されるとともに命綱が係止されるガイド部材と、を有し、
前記レール部材は、移動用の手摺として兼用可能に構成されている、ことを特徴とする転落防止装置。
【請求項2】
前記レール部材は、複数の前記ガイド部材が相対する場合に一方の前記ガイド部材を迂回又は退避させるバイパス部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の転落防止装置。
【請求項3】
前記バイパス部は、前記レール部材の一部から分岐して前記レール部材の他部に接続されるバイパス経路又は前記レール部材の一部から分岐した袋小路により構成される、ことを特徴とする請求項2に記載の転落防止装置。
【請求項4】
前記レール部材を複数配置し、隣接する前記レール部材を接続する連結経路によって前記バイパス部を構成する、ことを特徴とする請求項2に記載の転落防止装置。
【請求項5】
前記バイパス部は、前記レール部材よりも上方に配置されている、ことを特徴とする請求項2に記載の転落防止装置。
【請求項6】
前記バイパス部は、前記レール部材よりも下方に配置されており、前記ガイド部材を前記バイパス部に迂回又は退避可能にするゲート部材を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の転落防止装置。
【請求項7】
前記レール部材は、中空部及び該中空部と連通するスリット部を有する中空管により構成され、前記ガイド部材は、前記中空部に挿入されるアンカー部と前記スリット部に挿通される支持部と前記命綱が係止される係止部とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の転落防止装置。
【請求項8】
前記中空管は、作業員が把持可能な外形を有する、ことを特徴とする請求項7に記載の転落防止装置。
【請求項9】
前記アンカー部は、前記中空部に内接する車輪若しくはベアリングを有する又は前記支持部と自在継手を介して接続されている、ことを特徴とする請求項7に記載の転落防止装置。
【請求項10】
浮体構造物上に貨物を収容可能に形成又は配置される壁面部と、該壁面部に沿って配置される水平桁と、を備える浮体構造物用タンクにおいて、
前記壁面部に隣接した前記水平桁に沿って配置される転落防止装置を有し、該転落防止装置は、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の転落防止装置である、ことを特徴とする浮体構造物用タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−5973(P2013−5973A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141763(P2011−141763)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】