説明

軸不斉フタロシアニン系化合物二量体およびその製造方法並びに中間体

【課題】基質に対する結合の立体特異性に優れ、不斉認識能に優れる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体およびその製造方法並びに中間体を提供する。
【解決手段】2個のフタロシアニン系化合物を直結し、この結合まわりの回転を立体的に抑制することで、かかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を、軸不斉のキラル発色団とするとともに、色素分子間の距離を小さくすることができる。かかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、フタロニトリル系化合物二量体またはジイミノイソインドリン系化合物二量体を中間体として用い、環化工程を経て製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体およびその製造方法並びに中間体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鏡像異性体の関係にある化合物は光の偏光面を回転させる旋光性を示すことから光学活性物質と呼ばれる。生体分子の大部分が光学活性物質であり、その立体配置は生理活性と深く関連していることから、光学活性物質は有機化学の分野において重要性が高く盛んに研究されてきた。とりわけ光学活性物質の選択的合成、光学分割、及び、絶対配置の決定は、生命の起源に繋がる普遍的な研究課題である。
【0003】
有機合成分野において、頻繁に利用される不斉源の一つとして、ビアリール類の軸不斉配位子が知られている。中でも2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治教授らによって開発された軸不斉配位子2,2´−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1´−ビナフチル(BINAP)や、その基本骨格である1,1´−ビ−2−ナフトール(BINOL)等のナフタレン環を1位で直結した化合物群が代表例である。例えば、図3に示すBINOLでは、二つの芳香環をつなぐ結合まわりのオルト位に置換基が結合した場合、この結合まわりの回転は抑制される。その結果、鏡像関係にある二つの鏡像異性体(アトロプ異性体)を分離することができる。このように結合軸の自由回転が立体障害等により抑制されるために光学活性が生じる軸不斉配位子は、不斉炭素をもたないにもかかわらず光学活性物質となる。
【0004】
上記ビアリール類に化学修飾を施すことで、機能性軸不斉分子を誘導することができる。今日までに、ビアリール類に化学修飾を施した金属配位子や、色素分子を導入した軸不斉分子の合成が多数報告されており、ポルフィリン亜鉛錯体、ホウ素ジピリン錯体、サレンコバルト錯体等の金属二核錯体について、不斉認識試薬または不斉触媒等としての検討が行われている。
【0005】
かかる軸不斉の位置に固定された金属二核錯体は、協同的な配位結合による強い結合定数によって基質である二座配位子と特異的に結合することができる。このとき軸不斉金属錯体二量体は特徴的な挙動を示す。すなわち二つの芳香環をつなぐ結合まわりの回転によって基質に対して誘導適合することにより、二つの芳香環のなす二面角が変化する。さらに二座配位子がアミノ酸誘導体のような不斉分子の場合、絶対配置による結合定数の違いから、原理的に当該不斉分子の絶対配置の識別が可能である。すなわち、ビアリール類に結合した大きなモル吸光係数を有する発色団は、二つの発色団同士の励起子カップリングによって大きな分裂型のCotton効果を示す。このCotton効果は、二つの芳香環のなす二面角に依存するため、吸収スペクトルや蛍光スペクトルの変化を検出することにより、基質を検出することができる。このように軸不斉二核金属錯体分子は、とりわけ不斉認識あるいは不斉触媒としての応用利用の可能性がある。
【0006】
ところで、フタロシアニンは18π電子系の巨大π平面芳香族分子であり、生体機能の鍵化合物として精力的に検討されているポルフィリンの類縁体である。生体内の電子移動反応を支配するクロロフィル、ヘムなどを構成する基本骨格はポルフィリンであることから、フタロシアニンは、生体機能関連物質としての可能性をもっていると同時に、化学的に最も安定な化合物の一つとして知られ、工業的、実用的に非常に有用な化合物である。
【0007】
すなわち、フタロシアニン配位子は、ほとんどの典型金属を配位可能であり、このため非常に広汎な機能性色素として利用されている。例えば、堅牢な青色顔料、インクジェットプリターのトナー、ボールペンのインク等の身近な用途に利用されている他、有機半導体として電子写真やコピー機の電荷発生剤や電荷輸送剤等に使用されたり、バルクヘテロ接合型の色素増感太陽電池における増感剤として使用されている。また、情報記録材料としては、高速書き込み型のCD−Rとして実用化されている。さらに、二層型あるいは三層型構造のランタノイド系の金属錯体はエレクトロクロミック材料としての応用が検討されている。また、増感剤としては前述の色素増感型太陽電池のほか、一重項酸素の発生剤としても有用であり、消臭剤として実用化されているほか、光線力学療法など先端医用材料としても検討が進められている。このようにフタロシアニン配位子は、用途に応じて中心金属を選択することで、機能性色素として幅広い分野における応用が見込まれる。
【0008】
したがって、光学活性なフタロシアニンを得ることができれば、種々の金属原子を導入することにより、非常に多様な用途への応用が可能であると考えられる。
【0009】
光学活性なフタロシアニンとしては、フタロシアニンの4個のベンゼン核に、R´CONH−、または、R´NHCO−(R´はキラルな有機置換基を示す)なる2級アミドが各1個ずつ結合している光学活性フタロシアニンが開示されている(例えば、特許文献1等参照)。また、2回実効対称性以下の対称性を有する、二つの置換フタロシアニネート・イオンが希土類(III)イオンを挟む形で配位した錯体が報告されている(例えば、特許文献2等参照)。
【0010】
さらに、BINOLを不斉源として用いた光学活性なフタロシアニンについても、これまでにいくつかの報告がある。例えば、図4の(a)に示すように、BINOLをフタロシアニンの周辺置換基として導入したものや、図4の(b)に示すように、軸配位子としてBINOLを導入したものが報告されている(例えば、非特許文献1等参照)。あるいは、図4の(c)に示すように、BINOLにフタロシアニンを導入し、軸不斉分子とすることが報告されている(例えば、非特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−247970号公報(1994年9月6日公開)
【特許文献2】特開平6−157535号公報(1994年6月3日公開)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】N. Kobayashi, Coord. Chem. Rev. 2001, 219-221, 99-123
【非特許文献2】V. N. Nemykin, A. Y. Koposov, R. I. Subbotin, S. Sharma, Tetrahedron Lett. 2007, 48, 5425-5428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、光学活性なフタロシアニンについての報告例は多数存在するが、例えば上記特許文献1、2および非特許文献1、2に記載の光学活性なフタロシアニンは、フタロシアニン環自身が軸不斉であるようなフタロシアニン系化合物二量体ではない。フタロシアニン環自身が軸不斉であるようなフタロシアニン系二量体であって、二つのフタロシアニン環、すなわち、二つの色素分子を不斉な位置に固定する結合の二面角が色素分子の配向と連動している軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は知られていない。
【0014】
なお、非特許文献2に記載の光学活性なフタロシアニンは、2分子のフタロシアニンをBINOLに結合させた二量体であるため、BINOLに結合した二つの発色団同士の励起子カップリングによって分裂型のCotton効果を示す。しかし、かかるフタロシアニンの二量体は、二つの色素分子をBINOLによって架橋する構造であるため、必然的に二つの色素分子間の距離が大きくなる。また、BINOLとフタロシアニンとの間のエーテル結合により自由度が存在する。このような構造上の柔軟性のため、二つの色素分子を不斉な位置に固定するBINOLのナフタレン環同士を繋ぐ1,1´−結合の二面角が必ずしも色素分子の配向と連動しているとは限らない。このため、二つの発色団同士の電子的相互作用が小さく、基質である不斉分子に対する吸収スペクトルや蛍光スペクトルの変化を大きな変化として検出することが困難である。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、二つの色素分子を不斉な位置に固定する結合の二面角が色素分子の配向と連動し、それにより基質に対する結合の立体特異性に優れ、不斉認識能に優れる新規な軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、上記課題を解決するために、下記一般式(1)または(2)
【0017】
【化1】

【0018】
(一般式(1)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示し、R3/4はそれぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換であり、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
【0019】
【化2】

【0020】
(一般式(2)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示し、R3/4はそれぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換であり、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であることを特徴としている。
【0021】
上記の構成によれば、色素分子を直結し、この結合まわりの回転を立体的に抑制することで、軸不斉のキラル発色団とするとともに、色素間の距離を小さくすることができる。また、二つの色素分子を不斉な位置に固定する結合の二面角を色素分子の配向と連動させることができる。それゆえ、基質に対する結合の立体特異性に優れ、不斉認識能に優れる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を提供することが可能となる。
【0022】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体では、上記一般式(1)及び(2)中、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成していてもよい。
【0023】
このように芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0024】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体では、上記一般式(1)及び(2)中、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4は共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(3)
【0025】
【化3】

【0026】
(式群(3)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有していてもよい。
【0027】
このように芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0028】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、下記一般式(4)
【0029】
【化4】

【0030】
(一般式(4)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有していてもよい。
【0031】
上記一般式(4)中、−C(R5/8)−C(R6/7)−C(R7/6)−C(R8/5)−は、下記式群(5)
【0032】
【化5】

【0033】
で表されるいずれかの構造を有することが好ましい。
【0034】
上記構成により、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の電子密度や吸収波長帯の制御が可能となるというさらなる効果を奏する。
【0035】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、下記一般式(6)
【0036】
【化6】

【0037】
(一般式(6)中、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有していてもよい。
【0038】
上記構成により、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の電子密度や吸収波長帯の制御が可能となるというさらなる効果を奏する。
【0039】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、下記一般式(7)
【0040】
【化7】

【0041】
(一般式(7)中、Rは、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有していてもよい。
【0042】
上記構成により、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の電子密度や吸収波長帯の制御が可能となるというさらなる効果を奏する。
【0043】
本発明に係るビアリール化合物は、上記課題を解決するために、下記一般式(8)または(9)
【0044】
【化8】

【0045】
(一般式(8)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【0046】
【化9】

【0047】
(一般式(9)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であることを特徴としている。
【0048】
上記の構成によれば、かかるビアリール化合物を、フマロニトリル、フタロニトリル等とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0049】
また、上記の構成によれば、かかるビアリール化合物をジイミノイソインドリン系化合物二量体とし、ジイミノイソインドリン系化合物とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0050】
上記ビアリール化合物としては、下記一般式(10)
【0051】
【化10】

【0052】
(一般式(10)中、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物を好適に用いることができる。
【0053】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記課題を解決するために、下記一般式(8)または(9)
【0054】
【化11】

【0055】
(一般式(8)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【0056】
【化12】

【0057】
(一般式(9)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、
下記一般式(14)
【0058】
【化13】

【0059】
(一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。)
で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含むことを特徴としている。
【0060】
上記の構成によれば、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0061】
また、上記一般式(14)中のR、Rを自由に選択することにより、種々の官能基を導入することができる。
【0062】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、上記一般式(14)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成しているものも好適に用いることができる。
【0063】
このように芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0064】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、上記一般式(14)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)
【0065】
【化14】

【0066】
(式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有するものであってもよい。
【0067】
芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0068】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、 上記二価基は、下記式群(5)
【0069】
【化15】

【0070】
で表されるいずれかの構造を有していてもよい。
【0071】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上述した軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法であって、下記一般式(11)または(12)
【0072】
【化16】

【0073】
(一般式(11)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【0074】
【化17】

【0075】
(一般式(12)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、下記一般式(16)
【0076】
【化18】

【0077】
(一般式(16)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。)
で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含むものであってもよい。
【0078】
上記の構成によれば、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0079】
また、上記一般式(16)中のR、Rを自由に選択することにより、種々の官能基を導入することができる。
【0080】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、上記一般式(16)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成しているものも好適に用いることができる。
【0081】
このように芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0082】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、上記一般式(16)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)
【0083】
【化19】

【0084】
(式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有するものであってもよい。
【0085】
芳香環または複素環を選択することで、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また周辺置換基として種々の官能基導入が可能であり、目的に応じた電子供与性、電子吸引性を付与することが可能となる。
【0086】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法では、上記二価基は、下記式群(5)
【0087】
【化20】

【0088】
で表されるいずれかの構造を有していてもよい。
【発明の効果】
【0089】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、以上のように、上記一般式(1)または(2)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体である構成を備えているので、色素分子を直結し、この結合まわりの回転を立体的に抑制することで、軸不斉のキラル発色団とするとともに、色素間の距離を小さくすることができ、且つ、二つの色素分子を不斉な位置に固定する結合の二面角を色素分子の配向と連動させることができる。それゆえ、基質に対する結合の立体特異性に優れ、不斉認識能に優れる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を提供することが可能となる。
【0090】
本発明に係るビアリール化合物は、以上のように、上記一般式(8)または(9)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体である構成を備えているので、かかるビアリール化合物を、フマロニトリル、フタロニトリル等とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0091】
また、かかるビアリール化合物をジイミノイソインドリン系化合物二量体とし、ジイミノイソインドリン系化合物とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0092】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、以上のように、上記一般式(8)または(9)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、上記一般式(14)で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含む構成を備えているので、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。また、上記一般式(14)中のR、Rを自由に選択することにより、種々の官能基を導入することができる。
【0093】
また、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、以上のように、上記一般式(11)または(12)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、上記一般式(16)で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含む構成を備えているので、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。また、上記一般式(16)中のR、Rを自由に選択することにより、種々の官能基を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の光学活性な軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法の一例を示す図である。
【図3】従来技術を示すものであり、BINOLの鏡像異性体を示す図である。
【図4】従来の光学活性なフタロシアニンを示すものであり、(a)はBINOLを周辺置換基として導入したフタロシアニンを示す図であり、(b)は軸配位子としてBINOLを導入したフタロシアニンを示す図であり、(c)はBINOLにフタロシアニンを導入して得られた軸不斉分子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
上記課題を解決するために、本発明では、BINOLを不斉源として導入するのではなく、BINOLを軸不斉分子としている構造原理をフタロシアニン系化合物に応用する。換言すれば、2個のフタロシアニン系化合物を直結し、この結合まわりの回転を立体的に抑制することで、かかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を、軸不斉のキラル発色団とするとともに、色素分子間の距離を小さくし、二つの色素分子を不斉な位置に固定する結合の二面角を色素分子の配向と連動させる。
【0096】
これにより、大きな励起子分裂に起因する円偏光二色性等、分光学性質としての特徴が得られる。さらに、フタロシアニン系化合物という巨大なモル吸光係数をもつ配位子を直結して中心金属を導入すれば、この中心金属の軸配位を利用して、二枚のフタロシアニン系化合物環の二面角を精密に制御することが可能である。それゆえ、基質である不斉分子に対する選択性が向上するとともに、光学的性質のファインチューニングが可能である。さらに、同様の機構により、本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体が不斉場として機能するため、不斉触媒として用いることができる。
【0097】
フタロシアニンは巨大なπ平面のためスタッキング構造が強固であり、フタロシアニン平面同士が重なった構造を形成しやすい。かかるスタッキング構造では最低励起一重項状態が光学的に禁制遷移となるため蛍光は著しく消光する傾向にある。これに対して、フタロシアニン環同士がスリップした配置になるように強制的に配置した二量体においては、最低励起一重項状態が光学的に許容遷移となり強く蛍光発光を示すようになる。本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体においても、フタロシアニン系化合物環同士がスリップして配置するため、強い蛍光発光が期待できる。しかも本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は軸不斉な光学活性分子であるため、その発光は円偏光二色性を帯びると期待される。
【0098】
なお、本発明においてフタロシアニン系化合物とは、フタロシアニン、ナフタロシアニン、テトラアザポルフィリン、および、これらの誘導体を含む趣旨である。
【0099】
以下、本発明について、(I)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体、(II)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の中間体、(III)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法の順に説明する。
【0100】
(I)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、下記一般式(1)または(2)で表される構造を有している。
【0101】
【化21】

【0102】
【化22】

【0103】
上記一般式(1)中、nは0、1または2を示す。また、上記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。上記炭素数1〜12のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基を挙げることができる。これらのアルコキシル基は、直鎖状であっても、枝分かれ状であってもよい。また、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基を挙げることができる。これらのアルコキシカルボニル基は、直鎖状であっても、枝分かれ状であってもよい。中でもRは、H NMRにおける同定の容易さの点で、メトキシ基、メトキシカルボニル基等であることがより好ましい。
【0104】
フタロシアニン系化合物は巨大なπ電子系の平面分子であるので、2個のフタロシアニン系化合物環を直結し、その直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に上記置換基を導入すれば、フタロシアニン系化合物環とβ位の置換基との立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となる。
【0105】
また、一般式(1)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基であればよい。かかるアルキル基としては特に限定されるものではないが、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基であることがより好ましい。かかるアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等を挙げることができる。また、上記芳香族性官能基としては、芳香族炭化水素環または複素環を含む基であれば特に限定されるものではないが、例えば、フェノキシ基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、スチリル基等を挙げることができる。
【0106】
また、一般式(1)中、R3/4はそれぞれ独立して水素原子、または、アルキル基であってもよいし、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成していてもよい。また、当該炭化水素環または複素環は置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
【0107】
また、一般式(1)中、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。かかる金属原子としては、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Th、Pa、U、Np、またはAmを挙げることができる。中でも、不斉識別試薬や光線力学療法の抗癌剤としての利用可能性の観点から、上記金属原子は、ZnまたはMgであることがより好ましい。また、上記金属原子は、不斉触媒としての応用の観点から、Co、Fe、Mn、または、Ruであることがより好ましい。
【0108】
一般式(1)中、R3/4はそれぞれ独立してアルキル基であってもよいが、かかるアルキル基は、例えば炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましい。これらのアルキル基は、直鎖状であっても、枝分かれ状であってもよい。中でも、かかるアルキル基は、メチル基、エチル基等であることがより好ましい。
【0109】
また、上記一般式(2)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。ここで、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体が一般式(2)で表される構造を有する場合、Rは水素原子であってもよい。これは以下に示す理由による。
【0110】
軸不斉フタロシアニン系化合物二量体が軸不斉分子となるためには、上述したように、一般式(1)で表されるような構造において、Rが結合まわりの自由回転を妨げることが必要である。しかし、一般式(2)で表される構造を有する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体では、mが1または2であるために、2個のフタロシアニン系化合物が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位にはベンゼン環が縮合しており、このβ位に結合したプロトンが十分な立体障害を有するため、かかる骨格部分が結合軸まわりの回転障壁となりうる。したがってRは水素原子であってもよい。もちろんRに、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(C等の置換基を導入してもかまわない。
【0111】
なお、上記一般式(2)で表される構造においても、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基については、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体が一般式(1)で表される構造を有する場合と同様である。
【0112】
また、一般式(2)中のR3/4についても、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体が一般式(1)で表される構造を有する場合と同様である。
【0113】
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、(S)または(R)のいずれかの軸不斉を有する光学活性体であってもよいし、ラセミ体であってもよい。図1は、本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の一例を示す。図1中、Rで示される鏡像異性体が(R)の軸不斉を有する光学活性体であり、Sで示される鏡像異性体が(S)の軸不斉を有する光学活性体である。
【0114】
上記一般式(1)および(2)中、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4は、共同で、当該2個の炭素原子と炭化水素環または複素環を形成していてもよいが、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環を形成していることがより好ましい。これにより目的に応じてフタロシアニン環のπ電子系を電子不足性とすることができるのでより好ましい。また、上記芳香族炭化水素環および芳香族複素環は、置換されていてもよいし、無置換であってもよい。
【0115】
上記芳香族炭化水素環としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等を挙げることができる。また、上記芳香族炭化水素環がナフタレンである場合、ナフタレンは、1位および2位でフタロシアニン系化合物骨格に結合していてもよいし、2位および3位でフタロシアニン系化合物骨格に結合していてもよい。また、上記芳香族炭化水素環がアントラセンである場合、アントラセンは、1位および2位でフタロシアニン系化合物骨格に結合していてもよいし、2位および3位でフタロシアニン系化合物骨格に結合していてもよい。上記芳香族複素環としても特に限定されるものではないが、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン等を挙げることができる。これらの芳香族複素環についても、これらのフタロシアニン系化合物骨格への結合位置は特に限定されるものではない。
【0116】
例えば、一例として、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4は共同で下記式群(3)
【0117】
【化23】

【0118】
で表されるいずれかの構造を有する二価基を形成している。
【0119】
上記式群(3)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。
【0120】
上記炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等を挙げることができる。また、上記炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、イソヘキセニル基、ヘプテニル基、イソヘプテニル基、オクテニル基、イソオクテニル基、ノネニル基、イソノネニル基、デセニル基、イソデセニル基等を挙げることができる。また、上記炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基等を挙げることができる。また、上記炭素数1〜12のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ベンジルオキシ基等を挙げることができる。また、上記アリールオキシ基としては、炭素数6〜12のアリールオキシ基であることがより好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。また、上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0121】
上記式群(3)中、−C(R5/8)−C(R6/7)−C(R7/6)−C(R8/5)−で表される二価基は、上述したR5/8、R6/7、R7/6及びR8/5の任意の組み合わせであればよいが、例えば、一例として、下記式群(5)
【0122】
【化24】

【0123】
で表されるいずれかの構造を有するものを挙げることができる。なお、式群(5)中、tBuはtert−ブチル基、nBuは直鎖状ブチル基、Phはフェニル基を示す。
【0124】
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体としては、一例として、下記一般式(4)
【0125】
【化25】

【0126】
で表される構造を有する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を挙げることができる。
【0127】
上記一般式(4)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示し、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。
【0128】
ここで、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、上記式群(3)で説明したとおりである。また、金属原子についても、上記一般式(1)および(2)において説明したとおりである。
【0129】
また、上記一般式(4)中、−C(R5/8)−C(R6/7)−C(R7/6)−C(R8/5)−で表される二価基は、上述したR5/8、R6/7、R7/6及びR8/5の任意の組み合わせであればよいが、例えば、一例として、上記式群(5)で表されるいずれかの構造を有するものを挙げることができる。
【0130】
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体としては、他の一例として、下記一般式(6)
【0131】
【化26】

【0132】
で表される構造を有する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を挙げることができる。一般式(6)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示し、金属原子は、上記一般式(1)および(2)において説明したとおりである。
【0133】
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体としては、さらに他の一例として、下記一般式(7)
【0134】
【化27】

【0135】
で表される構造を有する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を挙げることができる。一般式(7)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖状アルキル基を示し、金属原子は、上記一般式(1)および(2)において説明したとおりである。
【0136】
以上のように、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、誘導適合による基質の絶対配置に対する特異的な認識に適した構造であると考えられる。また酸化反応などを触媒する中心金属の導入により不斉触媒などの配位子としても有望である。
【0137】
(II)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の中間体
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造には、2個のフタロシアニン系化合物環を結合している結合軸とその両端の1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環を形成するビアリール化合物を、中間体として好適に用いることができる。かかるビアリール化合物は新規化合物であり、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の特徴的な部分を構成するものであるので、かかるビアリール化合物も本発明に含まれる。
【0138】
すなわち、本発明にかかるビアリール化合物には、下記一般式(8)または(9)で表される構造を有するフタロニトリル系化合物二量体が含まれる。
【0139】
【化28】

【0140】
【化29】

【0141】
一般式(8)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。
【0142】
ここで、一般式(8)中のRおよびRについては、上記(I)における一般式(1)のところで説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0143】
また、上記一般式(9)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。
【0144】
ここで、上記一般式(9)中のRおよびRについては、上記(I)における一般式(2)のところで説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0145】
上記の構成によれば、かかるフタロニトリル系化合物二量体を、フマロニトリル、フタロニトリル等のフタロニトリル系化合物とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0146】
また、上記の構成によれば、かかるフタロニトリル系化合物二量体をジイミノイソインドリン系化合物二量体に変換し、得られたジイミノイソインドリン系化合物二量体を、ジイミノイソインドリン系化合物とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0147】
上記フタロニトリル系化合物二量体は、(S)または(R)のいずれかの軸不斉を有する光学活性体であってもよいし、ラセミ体であってもよい。
【0148】
上記フタロニトリル系化合物二量体は、上記構造を有するものであれば好適に用いることができるが、例えば、一例として、下記一般式(10)
【0149】
【化30】

【0150】
で表される構造を有するフタロニトリル系化合物二量体を好適に用いることができる。一般式(10)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示す。
【0151】
また、本発明にかかるビアリール化合物には、下記一般式(11)または(12)で表される構造を有するジイミノイソインドリン系化合物二量体も含まれる。
【0152】
【化31】

【0153】
【化32】

【0154】
一般式(11)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。
【0155】
ここで、一般式(11)中のRおよびRについては、上記(I)における一般式(1)のところで説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0156】
また、上記一般式(12)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。
【0157】
ここで、上記一般式(12)中のRおよびRについては、上記(I)における一般式(2)のところで説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0158】
上記の構成によれば、かかるジイミノイソインドリン系化合物二量体を、ジイミノイソインドリン系化合物とともに環化することにより、2個のフタロシアニン系化合物の環が直結している炭素原子の位置(α位)に隣接するβ位(R)に置換基が導入された軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。それゆえ、フタロシアニン系化合物の環およびβ位の置換基の立体障害によって軸不斉分子を得ることが可能となり、好適に本発明の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。
【0159】
上記ジイミノイソインドリン系化合物二量体は、(S)または(R)のいずれかの軸不斉を有する光学活性体であってもよいし、ラセミ体であってもよい。
【0160】
上記ジイミノイソインドリン系化合物二量体は、上記構造を有するものであれば好適に用いることができるが、例えば、一例として、下記一般式(13)
【0161】
【化33】

【0162】
で表される構造を有するジイミノイソインドリン系化合物二量体を好適に用いることができる。一般式(13)中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示す。
【0163】
(III)軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる方法であれば特に限定されるものではない。
【0164】
かかる製造方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
(i)フタロニトリル系化合物二量体を合成しておき、当該フタロニトリル系化合物二量体と、フタロニトリル系化合物とを反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する方法。
(ii)ジイミノイソインドリン系化合物二量体を合成しておき、当該ジイミノイソインドリン系化合物二量体と、ジイミノイソインドリン系化合物とを反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する方法。
(iii)先ずフタロシアニン系化合物環を合成し、得られたフタロシアニン系化合物環を触媒反応等によりクロスカップリングする方法。
(iv)フタル酸二量体または無水フタル酸二量体(あるいはこれらの置換体)を原料として溶融尿素中で反応させる方法。
(v)フタルイミド二量体を原料としてアンモニアを作用させながら合成する方法。
【0165】
上記(iii)の方法では、3位にハロゲン等の反応性官能基、4位に回転障壁となる置換基を導入したフタロシアニン系化合物環を合成して、クロスカップリングする必要がある。
【0166】
上記方法において、中心部の水素原子を金属原子で置換した軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造する場合は、上記(i)〜(v)の反応を、金属または金属塩の存在下で行うか、無金属フタロシアニン系配位子を合成した後に金属導入を行えばよい。
【0167】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記のような方法であればよいが、上記(i)の、フタロニトリル系化合物二量体、すなわち上記(II)のフタロニトリル系化合物二量体を合成しておき、当該フタロニトリル系化合物二量体と、フタロニトリル系化合物とを反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する方法を好適に用いることができる。以下、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法の一例として、上記(i)の方法について説明する。
【0168】
上記(i)の方法では、上記フタロニトリル系化合物を適宜選択することにより、上記一般式(1)および(2)のR3/4に自由に官能基を導入することができる。ここで、本明細書において、フタロニトリル系化合物とは、フマロニトリル、フタロニトリルおよびこれらの置換体をいい、例えば下記一般式(14)
【0169】
【化34】

【0170】
で表される構造を有する化合物を好適に用いることができる。
【0171】
上記一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。ここで、上記アルキル基については、上記(I)における一般式(1)のところで、R3/4でありうるアルキル基として説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0172】
上記一般式(14)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成しているものであってもよい。かかる芳香族炭化水素環および芳香族複素環については、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0173】
上記一般式(14)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)で表されるいずれかの構造を有するものであってもよい。
【0174】
【化35】

【0175】
式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。上記R、R、R及びRについては、上記(I)で説明したR5/8、R6/7、R7/6及びR8/5と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0176】
また、上記一般式群(15)中、−C(R)−C(R)−C(R)−C(R)−で表される二価基のより具体的な例としては、下記式群(5)で表されるいずれかの構造を有するものを好適に用いることができる。
【0177】
【化36】

【0178】
例えば、上記フタロニトリル系化合物としてフマロニトリルを用いる場合は、一般式(1)および(2)のR3/4に置換基をもたない軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。また、上記フタロニトリル系化合物として、フタロニトリル誘導体、ジシアノナフタレン誘導体等の芳香族炭化水素環の縮環化合物を選択することにより、ターゲットである軸不斉構造を形成する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また上記フタロニトリル系化合物を適宜選択することにより、周辺置換基として種々の官能基の導入が可能である。これにより、目的に応じた電子供与性、電子吸引性等、官能基導入による分子設計によって、様々な機能創成を行うことができる。
【0179】
<環化工程>
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記一般式(8)または(9)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるフタロニトリル系化合物二量体と、上記一般式(14)で表される構造を有するフタロニトリル系化合物とを反応させる環化工程を含んでいればよい。
【0180】
一例として、下記反応式(17)
【0181】
【化37】

【0182】
に、フタロニトリル系化合物二量体として一般式(8)においてN=0であるフタロニトリル系化合物二量体を用い、これを置換基R、R、R及びRを有するフタロニトリルと反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する場合の反応式を示す。
【0183】
本工程において、中心部の水素原子を金属原子で置換した軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造する場合は、上記環化反応を、金属または金属塩の存在下で行えばよい。ここで用いられる金属としては、上記(I)で例示した金属を用いることができる。また、上記金属塩としても特に限定されるものではないが、例えば、上記金属の酢酸塩、塩化物塩等を好適に用いることができる。
【0184】
このときに用いられる、一般式(8)または(9)で表される構造を有するフタロニトリル系化合物二量体、一般式(14)で表される構造を有するフタロニトリル系化合物、および、金属または金属塩の量は、各化合物の反応性等に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、フタロニトリル系化合物二量体1当量に対して、一般式(14)で表される構造を有する化合物を6当量以上、上記金属または金属塩を2当量以上用いることが好ましい。
【0185】
本工程において用いられる溶媒としては、特にこれに限定されるものではないが、例えば、ジメチルアミノエタノール、キノキサリン等を好適に用いることができる。また、本工程は無溶媒で行ってもよい。
【0186】
また、反応温度は、130〜250℃であることが好ましい。例えば、上記フタロニトリル系化合物二量体、一般式(14)に示された所望のフタロニトリル系化合物、および所望の金属塩を上記溶媒中で加熱還流することで、目的物である軸不斉フタロシアニン系二量体を得ることができる。なお、反応時間は通常0.5時間〜24時間である。
【0187】
また、本工程は、上記一般式(8)または(9)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるフタロニトリル系化合物二量体と、上記一般式(14)で表される構造を有するフタロニトリル系化合物とを出発物質として用い、従来公知の方法を適用することによって好適に行うことができる。例えば白井汪芳、小林長夫編著、「フタロシアニン−化学と機能−」、アイピーシー、p1〜p27に記載の方法、廣橋亮、坂本恵一、奥村映子編著、「機能性色素としてのフタロシアニン 基礎編・応用編」、アイピーシー、p29〜p78に記載の方法を適用して、本工程の環化反応を好適に行うことができる。
【0188】
<フタロニトリル系化合物二量体製造工程>
上記環化工程で用いられる中間体である、フタロニトリル系化合物二量体は、例えば、以下に示すフタロニトリル系化合物二量体製造工程により製造することができる。従って、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、さらに、フタロニトリル系化合物二量体製造工程を含んでいてもよい。
【0189】
上記フタロニトリル系化合物二量体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、ビフェニル誘導体から合成することができ、フタルアミド誘導体二量体を脱水する方法、1,2−ジハロゲン化ベンゼン二量体にシアン化銅を作用させる方法等を好適に用いることができる。
【0190】
上記フタルアミド誘導体二量体の製造方法も特に限定されるものではないが、例えば、フタル酸誘導体二量体から合成することができる。また、フタル酸誘導体二量体はキシレン誘導体二量体を酸化することによって製造することができる。
【0191】
以下に、フタロニトリル系化合物二量体の製造方法の一例として、上記フタロニトリル系化合物二量体をキシレン誘導体二量体から製造する方法を、図2に基づいて説明する。なお、図2に含まれるフタロニトリル系化合物二量体の製造方法は、一例を示すものであり、フタロニトリル系化合物二量体の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0192】
キシレン誘導体二量体1は、例えば、H. Aldert, J. Am. Chem. Soc, 1954, 76, 4983-4988、J. B. Alexander, D. S. La, D. R. Cefalo, A. H. Hoveyda, R. R. Schrock, J. Am. Chem. Soc, 1998, 120, 4041-4042、J. B. Alexander, R. R. Schrock, W. M. Davis, K. C. Hultzsch, A. H. Hoveyda, J. H. Houser, Organometallics, 2000, 19, 3700-3715等に記載の方法を用いて製造することができる。あるいは、このキシレン誘導体二量体1は、STREM社により市販されているので、市販のものを用いてもよい。
【0193】
フタル酸誘導体二量体5は、キシレン誘導体二量体1の芳香環に結合した4つのメチル基の過マンガン酸カリウムによる酸化反応を経由して合成する。この際、芳香環上の水酸基は酸化されやすいことから副反応を起こす恐れが高いため、これを保護することが好ましい。そのためには、キシレン誘導体二量体1のt−Bu基をFriedel−Crafts転移により脱保護し、その後に水酸基を、例えばメチル保護して、キシレン誘導体二量体3を得ることができる。
【0194】
フタル酸誘導体二量体5は、キシレン誘導体二量体3を酸化することによって、好適に製造することができるが、かかる酸化を行う方法も特に限定されるものではなく、キシレン誘導体二量体3のメチル基を過マンガン酸カリウム(KMnO)によって酸化する方法を用いることができる。ここで、KMnOの酸化反応は、中性〜弱塩基性条件、好ましくはpH7で行うことがより好ましい。これにより反応を容易に制御することができる。
【0195】
次にフタル酸誘導体二量体5から、フタルアミド誘導体二量体9を合成する方法も特に限定されるものではないが、例えば、フタル酸誘導体二量体5のカルボン酸部位を求電子反応しやすいカルボン酸クロリドとし、このフタル酸二量体テトラカルボン酸クロリド6の無水1,4−ジオキサン溶液をアンモニア水に滴下することで、フタルアミド誘導体二量体9を得る方法を好適に用いることができる。ここで、フタル酸二量体テトラカルボン酸クロリド6は、例えば、フタル酸誘導体二量体を塩化チオニル中で加熱還流することにより得ることができる。
【0196】
あるいは、フタル酸誘導体二量体5から、フタルアミド誘導体二量体9を合成する方法としては、フタル酸誘導体二量体5を酸二無水物7とし、酸二無水物7をイミド化して、フタルイミド誘導体二量体8とし、このフタルイミド誘導体二量体8を開環して、フタルアミド誘導体二量体9を得る方法も好適に用いることができる。
【0197】
また、フタルアミド誘導体二量体9を脱水してフタロニトリル系化合物二量体10を得る方法も特に限定されるものではないが、例えば、フタルアミド誘導体二量体9を塩化チオニルで処理して脱水する方法を好適に用いることができる。
【0198】
本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法としては、上記(ii)の、ジイミノイソインドリン系化合物二量体を合成しておき、当該ジイミノイソインドリン系化合物二量体と、ジイミノイソインドリン系化合物とを反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する方法も好適に用いることができる。以下、本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法の一例として、上記(ii)の方法について説明する。
【0199】
上記(ii)の方法では、上記ジイミノイソインドリン系化合物を適宜選択することにより、上記一般式(1)および(2)のR3/4に自由に官能基を導入することができる。なお、ここで、ジイミノイソインドリン系化合物とは、ジイミノイソインドリンおよびその置換体であればよく、例えば下記一般式(16)
【0200】
【化38】

【0201】
で表される構造を有する化合物を好適に用いることができる。
【0202】
上記一般式(16)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。ここで、上記アルキル基については、上記(I)における一般式(1)のところで、R3/4でありうるアルキル基として説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0203】
上記一般式(16)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成しているものであってもよい。かかる芳香族炭化水素環および芳香族複素環については、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0204】
上記一般式(16)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)で表されるいずれかの構造を有するものであってもよい。
【0205】
【化39】

【0206】
式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。上記R、R、R及びRについては、上記(I)で説明したR5/8、R6/7、R7/6及びR8/5と同様であるのでここでは説明を省略する。
【0207】
また、上記一般式群(15)中、−C(R)−C(R)−C(R)−C(R)−で表される二価基のより具体的な例としては、下記式群(5)で表されるいずれかの構造を有するものを好適に用いることができる。
【0208】
【化40】

【0209】
例えば、上記ジイミノイソインドリン系化合物としてジイミノイソインドリンを用いる場合は、一般式(1)および(2)のR3/4に置換基をもたない軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造することができる。また、上記ジイミノイソインドリン系化合物として、RとRとが共同で環構造を形成しているものを用いる場合は、その環構造を選択することにより、ターゲットである軸不斉構造を形成する軸不斉フタロシアニン系化合物二量体のπ平面を自由に設計することができる。また上記ジイミノイソインドリン系化合物としてジイミノイソインドリンの種々の置換体を用いることにより、周辺置換基として種々の官能基の導入が可能である。これにより、目的に応じた電子供与性、電子吸引性等、官能基導入による分子設計によって、様々な機能創成を行うことができる。
【0210】
<環化工程>
したがって、本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記一般式(11)または(12)で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるジイミノイソインドリン系化合物二量体と、上記一般式(16)で表される構造を有するジイミノイソインドリン系化合物とを反応させる環化工程を含むものであってもよい。
【0211】
一例として、下記反応式(18)
【0212】
【化41】

【0213】
に、ジイミノイソインドリン系化合物二量体として一般式(11)においてN=0であるジイミノイソインドリン系化合物二量体を用い、これを置換基R、R、R及びRを有するジイミノイソインドリンと反応させて、軸不斉フタロシアニン系化合物二量体に環化する場合の反応式を示す。
【0214】
本工程において、中心部の水素原子を金属原子で置換した軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を製造する場合は、上記環化反応を、金属または金属塩の存在下で行えばよい。ここで用いられる金属としては、上記(I)で例示した金属を用いることができる。また、上記金属塩としても特に限定されるものではないが、例えば、上記金属の酢酸塩、塩化物塩等を好適に用いることができる。
【0215】
このときに用いられる、一般式(11)または(12)で表される構造を有するジイミノイソインドリン系化合物二量体、一般式(16)で表される構造を有する化合物、および、金属または金属塩の量は、各化合物の反応性等に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、ジイミノイソインドリン系化合物二量体1当量に対して、一般式(16)で表される構造を有する化合物を約6当量用いればよいが、反応性の違いから反応仕込み比としては、6当量以下であることがより好ましい。また、ジイミノイソインドリン系化合物二量体1当量に対して、上記金属または金属塩を2当量以上用いることが好ましい。
【0216】
本工程において用いられる溶媒としては、特にこれに限定されるものではないが、例えば、ジメチルアミノエタノール、キノキサリン等を好適に用いることができる。また、本工程は無溶媒で行ってもよい。
【0217】
また、反応温度は、130〜250℃であることが好ましい。例えば、上記ジイミノイソインドリン系化合物二量体、一般式(16)に示された所望のジイミノイソインドリン系化合物、および所望の金属塩を上記溶媒中で加熱還流することで、目的物である軸不斉フタロシアニン系二量体を得ることができる。なお、反応時間は通常0.5時間〜24時間である。
【0218】
<ジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程>
上記環化工程で用いられる中間体であるジイミノイソインドリン系化合物二量体は、例えば、フタロニトリル系化合物二量体から、以下に示すジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程により製造することができる。従って、上記(ii)の方法による軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、さらに、ジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程を含んでいてもよい。
【0219】
上記ジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程では、例えば、フタロニトリル系化合物二量体をジイミノイソインドリン系化合物二量体に変換する。かかる方法としては、フタロニトリル系化合物二量体を飽和アンモニアメタノール溶液中、MeONaの存在下で加熱する方法等を好適に用いることができる。
【0220】
また、ジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程で用いられる中間体である、フタロニトリル系化合物二量体は、上記フタロニトリル系化合物二量体製造工程により製造することができる。従って、上記(ii)の方法による軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、さらに、フタロニトリル系化合物二量体製造工程を含んでいてもよい。
【0221】
<光学分割工程>
さらに本発明に係る軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法は、上記(i)〜(v)のいずれの方法による場合においても光学分割工程を含みうる。光学分割工程は、ジイミノイソインドリン系化合物二量体製造工程、フタロニトリル系化合物二量体製造工程等のビアリール化合物製造工程において行ってもよいし、ビアリール化合物製造工程で得られたビアリール化合物(ジイミノイソインドリン系化合物二量体またはフタロニトリル系化合物二量体)の段階で行ってもよいし、目的化合物である軸不斉フタロシアニン系化合物二量体とした後に行ってもよい。なかでも、光学分割は、ビアリール化合物製造工程で得られたビアリール化合物の段階、または、目的化合物である軸不斉フタロシアニン系化合物二量体とした後に行うことがより好ましい。これにより、確実に光学活性体としての軸不斉フタロシアニン系化合物二量体を得ることができる。
【0222】
光学分割の方法も、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜用いることができる。例えば、具体的には、ラセミ体を直接光学活性体に分割する方法、ラセミ体に光学活性な試薬を反応させてジアスレテオマーに導き、ジアスレテオマー同士の物理的性質の差を利用して、それぞれのジアスレテオマーに分割し、再び上記試薬を取り除き光学活性体を得る方法等を好適に用いることができる。
【0223】
ラセミ体を直接光学活性体に分割する方法としては、例えば、ラセミ体の飽和溶液に光学活性体の結晶、すなわち結晶の種を加え、結晶化を促して光学活性体を得る方法、光学活性な固定相を用いるカラムクロマトグラフィー等を挙げることができる。
【実施例】
【0224】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0225】
<2,2´−ジヒドロキシ−5,5´,6,6´−テトラメチル−1,1´−ビフェニル(図2中の化合物2、以下単に化合物2と称する。)の合成>
四ッ口フラスコ中で、2,2´−ジヒドロキシ−3,3´−ジt−ブチル−5,5´,6,6´−テトラメチル−1,1´−ビフェニル(図2中の1、以下単に化合物1と称する。)(9.4g、26.5mmol、STREM社製、製品番号08-2045)をベンゼン(150mL)に溶解し、アルゴン雰囲気とした。ニトロメタン(60mL)/ベンゼン(30mL)の混合溶媒に塩化アルミニウム(6g、45mmol)を溶解させ、これを化合物1の溶液に室温で撹拌しながら滴下し30分撹拌した。反応溶液に純水10mLを滴下し、塩化アルミニウムを不活性化した。有機層を分離し、さらに水層をジエチルエーテル(20mL×2)で抽出し、エーテル層を上記有機層と併せた。これを飽和食塩水で分液した後、当該有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。
【0226】
80℃の湯浴中で、生成物に塩化メチレン(90mL)を加えて溶解させ、そこに結晶が生成するまでヘキサン(約100mL)を加えた。この結晶が生成した液を、湯浴から外し、ゆっくり室温に戻しながら一晩静置した。吸引ろ過して析出した白色結晶を回収した。化合物2を白色固体として得た。6g(25mmol、93%)。
H NMR (300 MHz) in CDCl; δ = 1.90 (s, 6H; Me), 2.27 (s, 6H; Me), 4.50 (s, 2H; OH), 6.43 (d, J = 8.3 Hz, 2H; 3-Ph), 7.15 ppm (d, 2H; J = 8.3 Hz, 2H; 4-Ph)。
【0227】
<2,2´−ジメトキシ−5,5´,6,6´−テトラメチル−1,1´−ビフェニル(図2中の化合物3、以下単に化合物3と称する。)の合成>
300mL二口フラスコに上記化合物2(6g、25mmol)、水酸化カリウム(4g、68mmol)、アセトン30mL、および、ヨウ化メチル(35mL、562mmol)を加えて一晩加熱還流を行った。反応液を放冷し、塩化メチレンン(20mL×3)で抽出し、これを飽和食塩水で分液洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。溶媒を減圧留去し、化合物3の粗生成物を白色固体として得た。この白色固体を最小量の塩化メチレン(約10mL)に加温しながら溶解し、得られた溶液にヘキサン(約20mL)を結晶が析出するまで加えた。この結晶が析出した液を、ゆっくりと室温まで放冷し一晩静置した。吸引濾過して析出した結晶を回収し、化合物3を白色固体として得た。4.5g(18mmol、90%)。
H NMR (300 MHz) in CDCl; δ = 1.82 (s, 6H; Me), 2.25 (s, 6H; Me), 3.15 (s, 6H; MeO-), 6.73 (d, J = 8.3 Hz, 2H; 3-Ph), 7.11 ppm (d, J = 8.3 Hz, 2H; 4-Ph)。
13C NMR (75 MHz) in CDCl; δ = 16.29, 19.94, 55.91, 108.17, 126.88, 128.61, 128.97, 136.55, 155.35 ppm。
【0228】
<テトラメチル2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビフェニル−5,5´,6,6´−テトラカルボキシレート(図2中の化合物4、以下化合物4と称する。)の合成>
300mLフラスコ中で化合物3(2g、8.3mmol)をピリジン15mL/水25mLの混合溶媒に分散して脱酸素を行い、アルゴン雰囲気とした。ここに過マンガン酸カリウム(5g、32mmol)を加えて、加熱還流し、30分後および60分後にそれぞれ過マンガン酸カリウム(5g、32mmol)を追加して24時間加熱還流した。24時間後メタノール(50mL)および水(100mL)を加えて過マンガン酸カリウムを不活性化し、生成した褐色沈殿をセライト濾過して除去し、さらに10%KOH(100mL)水溶液およびお湯(100mL)で洗浄した。得られた濾液を減圧濃縮してメタノール150mLに分散し、濃硫酸(5−15mL)を酸性になるまで加えて、この懸濁液を一晩加熱還流した。還流後溶媒を50mL程度まで濃縮して、ゆっくり飽和重曹水に注いで中和し、塩化メチレンで抽出操作を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥して、得られた抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/酢酸エチル5:1、v/v)によって精製した。酸化反応が不十分であるものは再び同様の操作により酸化反応を行った。総量19g(78mmol)の原料から1.2g(2.7mmol)の目的化合物4を白色粉末として得た。H NMR(300MHz,CDCl):δ=3.56(s,6H;PhOCH),3.79(s,6H;PhCOOCH),3.84(s,6H;PhCOOCH),7.00(d,J=8.7Hz,2H;Ph),8.02(d,J=8.7Hz,2H;Ph)ppm。13C NMR(75MHz,CDCl):d=51.98,52.22,56.30,110.94,120.24,122.29,132.30,136.97,161.16,166.09,167.63ppm。
【0229】
<2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビフェニル−5,5´,6,6´−テトラカルボン酸(図2中の化合物5、以下化合物5と称する。)の合成>
テトラエステル体である化合物4(1.2g、2.7mmol)をエタノール(7.5mL)に溶解し、2N水酸化カリウム水溶液(10mL)を加えて48時間加熱還流した。溶媒を減圧留去し、得られた固体を飽和食塩水(5mL)に溶解して、これに濃塩酸(4mL)を加えて強酸性とした。析出した白色沈殿を大過剰の蒸留水で洗浄し乾燥した。白色粉末の目的化合物5を得た(0.63g,1.6mmol;59%)。H NMR(300MHz,DMSO-d):d=3.67(s,6H;PhOCH),7.ll(d,J=8.9Hz,2H;Ph),7.83(d,J=8.9Hz,2H;Ph)ppm。
【0230】
<2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビフェニル−5,5´,6,6´−テトラカルボキサミド(図2中の化合物9、以下化合物9と称する。)の合成>
テトラカルボン酸体である化合物5(0.1g,0.26mmol)を塩化チオニル中に分散し、3時間加熱還流した。未反応の塩化チオニルを留去し、さらにトルエン5mLを加えて共沸させることで塩化チオニルを除いた。得られた酸クロライド6(メタノールと反応して化合物4を生成することをTLCで確認)に、乾燥1,4−ジオキサン(5mL)を加えて溶解させ、これを濃アンモニア水(28%、5mL)に氷浴撹拌下滴下した。滴下終了からさらに2時間室温で撹拌したあと、溶媒を減圧留去した。得られた固体を水で洗浄して目的とする化合物9を得た。白色固体(0.098g、0.25mmol;96%)。
【0231】
<他の方法による化合物9の合成>
上記製造方法と異なる方法により化合物9を合成した。テトラカルボン酸体である化合物5(0.45g、1.2mmol)を無水酢酸(10mL)に分散し20時間加熱還流した。溶媒を減圧留去して2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビフェニル−5,5´,6,6´−テトラカルボン酸二無水物(図2中の化合物7、以下化合物7と称する。)を、白色固体として得た(0.41g、1.2mmol)。NMRにより不純物のピーク等は確認されなかったことから十分な純度であると判断し、次の反応に使用した。H NMR(300MHz,DMSO-d):d=3.87(s,6H;PhOCH),7.74(d,J=8.6Hz,2H;Ph),8.20ppm(d,J=8.6Hz,2H;Ph)。13C NMR(75MHz,DMSO-d):57.28,118.84,122.15,128.21,163.15ppm。
【0232】
化合物7(0.41g、1.15mmol)および尿素(1.0g)を酢酸(10mL)に懸濁して24時間加熱還流した。反応液を飽和重曹水(100mL)に注いで析出した白色沈殿を吸引液過にて回収し、大過剰の水で洗浄した。3,3´−ビス(4−メトキシフタルイミド)(図2中の化合物8、以下化合物8と称する。)を、白色固体として得た(0.25g、0.70mmol;61%)。H NMR(300MHz,DMSO-d):δ=3.78(s,6H;PhOCH),7.47(d,J=8.4Hz,2H;Ph),7.86(d,J=8.4Hz,2H;Ph),11.12ppm(brs,2H;-NH)。13C NMR(75MHz,DMSO-d):56.62,115.40,124.34,132.10,161.69ppm。
【0233】
化合物8(138mg、0.36mmol)をTHF(20mL)に分散し、28%アンモニア水(25mL)を加えて30℃で24時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、白色粉末の化合物9を含む粗生成物を得た。溶解性が低く同定が困難であったが、フタロニトリル系化合物二量体(図2中の化合物10)への変換後のNMRから判断して、少なくとも50%はイミド化されていると判断された。
【0234】
<2,2´−ジメトキシ−1,1´−ビフェニル−5,5´,6,6´−テトラシアニド(図2中の化合物10、以下化合物10と称する。)の合成>
滴下ロートを付けた20mLの二口フラスコ中で、dry-DMF(20mL)を0℃以下に保ちながら塩化チオニル(2mL)をゆっくり滴下した。この溶液に、化合物9(138g、0.36mmol)を加えて、反応液を室温に戻しながら撹拌して、24時間後TLCで反応終了を確認した。
【0235】
反応液を氷水(100mL)にあけ、酢酸エチル(20mL×3)で抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を減圧留去し、白色固体の化合物10を得た(14mg、9%)。H NMR (300 MHz) in CDCl:δ= 3.91 (s, 6H; Me), 7.44 (d, J = 8.4 Hz, 2H; Ph), 8.08 ppm (d, J = 8.4 Hz, 2H; Ph)。
【0236】
<1,1´−ビス{2−メトキシ−9,10,16,17,23,24−ヘキサキス(n−ブトキシ)亜鉛フタロシアニン}(図2中の化合物12)の合成>
化合物10(14mg、40μmol)と4,5-ジブトキシフタロニトリル(220mg、0.8mmol)をN,N−ジメチルアミノエタノール(3.5mL)に溶かし、酢酸亜鉛(46mg、0.21mmol)存在下、17時間加熱還流した。反応溶液を塩化メチレン(100mL)に溶解し、約100mLの1N塩酸、各約50mLの飽和食塩水、飽和重曹水、飽和食塩水で分液洗浄した。分離した有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:クロロホルム/メタノール=10/1、v/v)により、深緑色の固体を得た。上記文献より、化合物10から上記方法により化合物12を得られることはよく知られていることから、得られた深緑色の固体には目的物である化合物12が含まれていると認められる。
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明にかかる軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は軸不斉分子であり、付加価値の高い機能性色素として、広範な関連分野で多様な用途が考えられる。とりわけ、不斉認識試薬、不斉触媒等の不斉合成用途や、有機デバイスへの応用として液晶相へのキラルドーパント、円偏光発光材料、非線形工学材料等に利用することができ非常に有用である。
【0238】
特に本発明に係る軸不斉軸不斉フタロシアニン系化合物二量体は、多様な金属を導入することができるため、非常に広範な用途への応用が可能であると考えられる。
【0239】
それゆえ、本発明は、医薬品製造業、工業薬品製造業、工業用材料製造業等の各種化学工業、さらには医療産業、エレクトロニクス産業等に利用可能であり、しかも非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(2)
【化1】

(一般式(1)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示し、R3/4はそれぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換であり、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
【化2】

(一般式(2)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示し、R3/4はそれぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換であり、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であることを特徴とする軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項2】
上記一般式(1)及び(2)中、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4と当該2個の炭素原子とで、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項3】
上記一般式(1)及び(2)中、隣り合う2個の炭素原子にそれぞれ結合する2個のR3/4は共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(3)
【化3】

(式群(3)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項4】
下記一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、R5/8、R6/7、R7/6及びR8/5は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示し、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項5】
上記一般式(4)中、−C(R5/8)−C(R6/7)−C(R7/6)−C(R8/5)−は、下記式群(5)
【化5】

で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項4に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項6】
下記一般式(6)
【化6】

(一般式(6)中、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項7】
下記一般式(7)
【化7】

(一般式(7)中、Rは、炭素数1〜6の直鎖状アルキル基を示し、Mは金属原子または2個の水素原子を示す。)
で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体。
【請求項8】
下記一般式(8)または(9)
【化8】

(一般式(8)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【化9】

(一般式(9)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であることを特徴とするビアリール化合物。
【請求項9】
下記一般式(10)
【化10】

(一般式(10)中、Rは、炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であることを特徴とする請求項8に記載のビアリール化合物。
【請求項10】
下記一般式(8)または(9)
【化11】

(一般式(8)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【化12】

(一般式(9)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、
下記一般式(14)
【化13】

(一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。)
で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含むことを特徴とする軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項11】
上記一般式(14)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成していることを特徴とする請求項10に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項12】
上記一般式(14)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)
【化14】

(式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項10または11に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項13】
上記二価基は、下記式群(5)
【化15】

で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項12に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法であって、
下記一般式(11)または(12)
【化16】

(一般式(11)中、nは0、1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
【化17】

(一般式(12)中、mは1または2を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、−SH、または−P(Cを示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、または、芳香族性官能基を示す。)
で表される構造を有し、ラセミ体または光学活性体であるビアリール化合物と、
下記一般式(16)
【化18】

(一般式(16)中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、もしくは、アルキル基であるか、または、R及びRと、当該R及びRとそれぞれ結合する2個の炭素原子とで、炭化水素環または複素環を形成し、当該炭化水素環または複素環は置換または無置換である。)
で表される構造を有する化合物とを反応させる環化工程を含むことを特徴とする軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項15】
上記一般式(16)中、RとRとは共同で、1環式以上3環式以下の芳香族炭化水素環、または、当該芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の少なくとも1個が窒素原子で置換された芳香族複素環であって、置換または無置換の環構造を形成していることを特徴とする請求項14に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項16】
上記一般式(16)中、RとRとは共同で二価基を形成しており、当該二価基は、下記式群(15)
【化19】

(式群(15)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルケニル基、炭素数1〜12の直鎖状または枝分かれ状アルキニル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子を示す。)
で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項14または15に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。
【請求項17】
上記二価基は、下記式群(5)
【化20】

で表されるいずれかの構造を有することを特徴とする請求項16に記載の軸不斉フタロシアニン系化合物二量体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−241157(P2011−241157A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113149(P2010−113149)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】