説明

軸受用ころ付き保持器

【課題】内輪もしくは外輪を抜いたときに、第1環状部からころが落下しない軸受用ころ付き保持器を提供する。
【解決手段】互いに向かい合う位置に配置された第1環状部30および第2環状部35と、第1環状部30の円周方向に間隔を空けて複数配置され、第1環状部30および第2環状部35を互いに連結する軸部20と、これら軸部20に回転可能に支持されたころ50とからなる軸受用ころ付き保持器において、第2環状部35は、円周方向に間隔を空けて複数配置された環状片36、37からなり、第1環状部30、軸部20および環状片36、37は、帯状鋼板から一体的に形成され、第2環状部35は、軸部20に対し環状片36、37を折り曲げ、隣り合う環状片36、37同士を互いに連結したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用ころ付き保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のころ軸受用溶接保持器は、例えば図7に示すものがある(特許文献1)。100は帯状鋼板、101はポケット孔、102はポケット孔101の円周方向両側の柱部、106、107はポケット孔101の軸方向両側の第1環状部および第2環状部、108、109は溶接部、110、111は溶接ビードである。
【0003】
前記ころ軸受用溶接保持器は、幅が一定で所定の長さに切断した帯状鋼板100を環状に丸めて作られる。ころ軸受用溶接保持器は、周方向に複数の転動体収納用のポケット孔101を有し、複数のポケット孔101のうち、一つのポケット孔101を構成する箇所で第1環状部106および第2環状部107の両端部を突合せ溶接し、両端部間に溶接部108、109が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4525247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ころ軸受用溶接保持器および円筒ころを内輪および外輪間に挿入し、外輪に対し内輪を回転させると、円周方向に分断させようとする力が、ころ軸受用溶接保持器に作用する。第1環状部106および第2環状部107に比べて溶接部108、109の方が強度的に弱く、溶接部108、109の溶接欠陥を目視で確認しにくい。もし溶接欠陥があると、溶接部108、109で分断し、かかる状態で、内輪を抜くと、溶接部108、109を有するポケット孔101から円筒ころが落下する問題があった。本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、内輪もしくは外輪を抜いたときに、第1環状部からころが落下しない軸受用ころ付き保持器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、互いに向かい合う位置に配置された第1環状部および第2環状部と、前記第1環状部の円周方向に間隔を空けて複数配置され、前記第1環状部および前記第2環状部を互いに連結する軸部と、これら軸部に回転可能に支持されたころとからなる軸受用ころ付き保持器において、前記第2環状部は、円周方向に間隔を空けて複数配置された環状片からなり、前記第1環状部、前記軸部および前記環状片は、帯状鋼板から一体的に形成され、前記第2環状部は、前記軸部に対し前記環状片を折り曲げ、隣り合う環状片同士を互いに連結したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1環状部、軸部および環状片は帯状鋼板から一体的に形成され、軸部にころが支持され、第1環状部、軸部および環状片の状態を目視で確認して不良品を事前に排除できるので、内輪もしくは外輪を抜いたとき、第1環状部からころが落下しない軸受用ころ付き保持器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態における軸受用ころ付き保持器の左側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における軸受用ころ付き保持器の右側面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における軸受用ころ付き保持器の展開平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における軸受用ころ付き保持器のプレス加工直後の状態図である。
【図5】本発明の第2の実施形態における軸受用ころ付き保持器の左側面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における軸受用ころ付き保持器の展開平面図である。
【図7】従来のころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施形態について、図1ないし図4を参酌しつつ説明する。図1は軸受用ころ付き保持器の左側面図であり、図2は軸受用ころ付き保持器の右側面図であり、図3は軸受用ころ付き保持器の展開平面図であり、図4は軸受用ころ付き保持器のプレス加工直後の状態図である。
【0010】
図1ないし図3において、10は軸受用ころ付き保持器全体を示す。軸受用ころ付き保持器10は、リング状の第1環状部30と、8角形状の第2環状部35と、第1環状部30および第2環状部35を互いに連結する軸部20と、軸部20に回転可能に支持された円筒ころ50とからなる。
【0011】
図2および図3において、第1環状部30は、帯状鋼板からプレスの打ち抜き加工によって断面四角形状の棒材が形成され、この棒材をリング状に折り曲げ加工し、棒材の両端部を溶接で連結したものである。このようにして第1環状部30の両端部間には溶接部31が形成されている。
【0012】
図1および図3において、第2環状部35は、第1環状部30に対し向かい合う位置に配置される。第2環状部35は、帯状鋼板からプレスの打ち抜き加工によって断面四角形状の棒材が形成され、この棒材を長手方向にかつ帯状鋼板の板厚方向に切断することによって枝分かれした2つの棒材となり、2つの棒材を切断面と反対側へ折り曲げ、隣合う棒材同士を溶接で連結したものである。2つの棒材は、環状片36、37であり、環状片36の一端および環状片37の一端間には溶接部38が形成されている。
【0013】
軸部20は、帯状鋼板からプレスの打ち抜き加工および塑性加工によって形成された断面丸形状の棒材である。円筒ころ50は、鉄系の材料からなり、軸方向に貫通した貫通穴51を有する。円筒ころ50の貫通穴51に軸部20が挿通され、軸部20に円筒ころ50が回転可能に支持されている。
【0014】
次に図1ないし図4にもとづいて、軸受用ころ付き保持器10の製造方法を説明する。帯状鋼板11にプレスの打ち抜き加工を施し、軸受用ころ付き保持器10の展開平面を作る。帯状鋼板11の材料としては、例えば、成形性に優れたSPCCのフープ材を用いることができる。
【0015】
軸受用ころ付き保持器10の展開平面を作るのに打ち抜きプレス金型が使用され、打ち抜きプレス金型で帯状鋼板を打ち抜くことによって、断面四角形状で棒状の第1環状部30と、断面四角形状で棒状の軸部20と、断面四角形状で棒状の環状片(枝分かれ前)が、一体形成される。第1環状部30に棒状の軸部30が直角に連結され、棒状の軸部30の延長線上に棒状の環状片(枝分かれ前)がある。
【0016】
続いて、切断プレス金型で断面四角形状で棒状の環状片(枝分かれ前)を長手方向にかつ帯状鋼板の板厚方向に切断する。棒状の環状片(枝分かれ前)が2つに切断され、環状片36、37が形成される(図4)。
【0017】
さらに続いて、塑性プレス金型によって断面四角形状で棒状の軸部20を、断面円形状となるように塑性加工する。次に折り曲げプレス金型によって第1環状部30がリング状となるように折り曲げ加工し、第1環状部30の両端部を溶接によって連結する。第1環状部30の両端部間に溶接部31が形成される。続いて各軸部20に円筒ころ50が挿入され、環状片36、37を切断面と反対側へ折り曲げ、環状片36の一端および環状片37の一端を互いに接近させる。環状片36の一端および環状片37の一端間を溶接によって連結する。環状片36、37の一端間に溶接部38が形成される。このようにして第2環状部35は8角形状に形成される。
【0018】
軸受用ころ付き保持器10は、図略の外輪および内輪間に介挿される。例えば、外輪に対し内輪を回転させると、円筒ころ50は外輪および内輪に対し転動し、軸受用ころ付き保持器10は、内輪と同方向に回転する。円筒ころ50の進み遅れにより、軸受用ころ付き保持器10に円周方向に分断させようとする力が働き、もし外見から分からない溶接不良があると、溶接部31、38で分断する可能性がある。しかしながら、円筒ころ50は、軸部20を介して第1環状部30に支持されているので、外輪もしくは内輪を抜いても、円筒ころ50は第1環状部30から落下しない。第1環状部30に対する軸部20の脱落の可能性は、第1環状部30および軸部20間の不良を目視で確認し、不良品を取り除くことができるので、非常にすくない。また軸部20に対する環状片36、37の脱落の可能性は、軸部20および環状片36、37間の不良を目視で確認し、不良品を取り除くことができるので、非常にすくない。
【0019】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0020】
上述した第1の実施形態は、図1、図3および図4に示すように、環状片36、37を切断面と反対側に折り曲げ、環状片36の一端および環状片37の一端間を溶接によって連結し、8角形状の第2環状部35を形成した。環状片36の一端および環状片37の一端間に溶接部38を形成した。これに対して第2の実施形態は、図5および図6に示すように、環状片36aを図5の時計回り方向へ折り曲げ、環状片36aの根元および環状片36aの一端間を溶接によって連結し、8角形状の第2環状部35aを形成した。環状片36aの根元および環状片36aの一端間に溶接部38aを形成した。第2環状部35を第2環状部35aに変更し、環状片36、37を環状片36aに変更し、溶接部38を溶接部38aに変更した点以外は、同じであるので、第2の実施形態において第1の実施形態と同一番号を付与し、説明を省略する。第1の実施形態で使用した図2は、第2の実施形態の軸受用ころ付き保持器の右側面図としてそのまま流用できる。
【0021】
第1の実施形態が第2環状部35の各辺の中間で軸部20が連結されるのに対し、第2の実施形態が第2環状部35aの各角部で軸部20が連結される点で違いがある。第1の実施形態は、溶接部38が円筒ころ50間に存在するので、溶接しやすいメリットがある。また第1の実施形態は、環状片36、37の長さが短いので帯状鋼板の幅方向の長さを短くできるメリットがある。逆に第2の実施形態は、環状片36aを2つに枝分かれさせる必要がないため、切断プレス金型を不要にできるメリットがある。
【符号の説明】
【0022】
10:軸受用ころ付き保持器、20:軸部、30:第1環状部、35:第2環状部、36:環状片、37:環状片、50:円筒ころ(ころ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに向かい合う位置に配置された第1環状部および第2環状部と、前記第1環状部の円周方向に間隔を空けて複数配置され、前記第1環状部および前記第2環状部を互いに連結する軸部と、これら軸部に回転可能に支持されたころとからなる軸受用ころ付き保持器において、前記第2環状部は、円周方向に間隔を空けて複数配置された環状片からなり、前記1環状部、前記軸部および前記環状片は、帯状鋼板から一体的に形成され、前記軸部に対し前記環状片を折り曲げ、隣り合う環状片同士を互いに連結したことを特徴とする軸受用ころ付き保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104487(P2013−104487A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248556(P2011−248556)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】