説明

軸受用スペーサ

【課題】相手部材との摺動抵抗を低減させることにより軸受回転時におけるトルク損失を低減させることを可能にする軽量でかつ低コストの軸受用スペーサを提供する。
【解決手段】円環状を成して対向配置された一対のフランジ部14,16と、これらのフランジ部相互間に亘って連続して延在し、かつ周方向に沿って所定間隔で配列された複数の柱部18と、一対のフランジ部と複数の柱部とで囲まれた部位に、周方向に沿って所定間隔で構成された複数の開口ポケット20とを備え、軸受相互間に組み込んだ状態において、その外表面が相手部材としての軸受構成に接触して相対的に摺動する軸受用スペーサ4であって、各フランジ部及び各柱部の双方、或いは、いずれか一方の外表面を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成に接触する当該スペーサの外表面の面積を小さくし、相手部材との摺動抵抗を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手部材との摺動抵抗を低減させることにより軸受回転時におけるトルク損失を低減させることを可能にする軽量でかつ低コストの軸受用スペーサを実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車のオートマチックトランスミッション(AT)や各種減速機構をはじめ部材相互が相対回転する部分には、主にラジアル荷重を支えて回転する各種のラジアルころ軸受が適用されている(特許文献1参照)。一例として図12(a)には、一対のラジアルころ軸受2相互間に軸受用スペーサ4を組み込んだ遊星歯車回転支持装置が示されている。
【0003】
遊星歯車回転支持装置は、太陽歯車(図示しない)を中心として、当該太陽歯車と噛み合いながら回転しつつ公転する遊星歯車6を回転可能に支持するための装置である。遊星歯車6は、中空円筒状を成しており、円柱状に形成された支持軸8の外周に沿って同心円状に配置構成されている。遊星歯車6と支持軸8との間には、その軸方向(遊星歯車6の回転軸Axに沿う方向)両側に、周方向に沿って複数の転動体(ころ)10が組み込まれており、双方の各転動体(ころ)10は、保持器12によってそれぞれ回転自在に保持されている。
【0004】
この場合、遊星歯車6と支持軸8との間には、例えば遊星歯車6を外輪、支持軸8を内輪とすると、一対の保持器12で保持された複数の転動体(ころ)10が外内輪6,8間に組み込まれた一対のラジアルころ軸受2が構成されている。そして、スペーサ4は、遊星歯車6と支持軸8との間において、一対のラジアルころ軸受2相互間(具体的には、一対の保持器12相互間)に、相手部材(例えば、遊星歯車6、一対の保持器12)に対して接触(摺接)した状態で組み込まれている。
【0005】
図12(b)に示すように、スペーサ4は、円環状を成して対向配置された一対のフランジ部14,16と、これらのフランジ部14,16相互間に亘って連続して延在し、かつ周方向に沿って所定間隔で配列された複数の柱部18とを備えており、一対のフランジ部14,16と複数の柱部18とで囲まれた部位には、周方向に沿って所定間隔(例えば、等間隔)で複数の開口ポケット20が構成されている。
【0006】
このようなスペーサ4は、軸受回転中において、その外表面が相手部材としての軸受構成に接触(摺接)して相対的に摺動する。具体的には、各フランジ部14,16の外径面14f,16f、各柱部18の外径面18fが、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車6)に接触(摺接)して相対的に摺動すると共に、各柱部18とは反対側の各フランジ部14,16の側周面14t,16tが、相手部材としての軸受構成(例えば、一対の保持器12)に接触(摺接)して相対的に摺動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−101725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記した特許文献1の軸受を含めた各種軸受(例えば、図12(a)参照)において、一対のラジアルころ軸受2相互間(一対の保持器12相互間)に組み込まれるスペーサ4に複数の開口ポケット20を構成することで、当該スペーサ4自体の軽量化を図ると共に、例えば当該開口ポケット20の数量分だけスペーサ4に要する材料の削減等によって当該スペーサ4の低コスト化を図ることができる。
【0009】
しかしながら、上記した各種軸受(例えば、図12(a)参照)では、軸受回転中にトルク損失が生ずることが知られている。ここで、トルク損失を引き起こす要因の割合としては、保持器12と転動体(ころ)10との転がり抵抗が60%、保持器12及びスペーサ4と潤滑剤との攪拌抵抗が20%、保持器12と相手部材(例えば、スペーサ4、外内輪6,8)との摺動(摩擦)抵抗が20%程度と考えられている。
【0010】
そこで、相手部材との摺動抵抗を低減させることにより軸受回転時におけるトルク損失を低減させることを可能にする軽量でかつ低コストの軸受用スペーサの開発が要望されている。具体的には、相手部材(例えば、遊星歯車6、一対の保持器12)に接触(摺接)するスペーサ4の接触(摺接)面積を小さくすることで、当該スペーサ4と相手部材との間の摺動抵抗(摩擦抵抗とも言う)を軽減し、かかる抵抗によるトルク損失を引き起こす要因の割合を軽減することが要望されている。
【0011】
本発明は、このような要望に応えるためになされており、その目的は、相手部材との摺動抵抗を低減させることにより軸受回転時におけるトルク損失を低減させることを可能にする軽量でかつ低コストの軸受用スペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明は、円環状を成して対向配置された一対のフランジ部と、これらのフランジ部相互間に亘って連続して延在し、かつ周方向に沿って所定間隔で配列された複数の柱部と、一対のフランジ部と複数の柱部とで囲まれた部位に、周方向に沿って所定間隔で構成された複数の開口ポケットとを備え、軸受相互間に組み込んだ状態において、その外表面が相手部材としての軸受構成に接触して相対的に摺動する軸受用スペーサであって、各フランジ部及び各柱部の双方、或いは、いずれか一方の外表面を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成に接触する当該スペーサの外表面の面積を小さくし、相手部材との摺動抵抗を低減させる。
本発明において、各柱部は、周方向に沿って互いに平行に、或いは、傾斜して配列構成されている。
本発明において、各柱部には、その周方向に沿った周方向幅が各開口ポケットの周方向に沿った開口幅よりも小さくなるように、当該柱部を周方向に沿って部分的或いは全体的に窪ませて形成した凹部が構成されている。
本発明において、各フランジ部には、その周方向に沿って連続的或いは断続的に窪ませて形成した凹部が構成されている。
本発明において、各柱部は、その外表面の全体を各フランジ部の外表面よりも窪ませて構成されている。
本発明において、各柱部は、一対のフランジ部相互間に周方向に亘って配置され、かつ周方向に沿って隣り合う柱部相互間に介在させた連結部材によって、相互に連結されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、相手部材との摺動抵抗を低減させることにより軸受回転時におけるトルク損失を低減させることを可能にする軽量でかつ低コストの軸受用スペーサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対する柱部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図2】本発明の第2実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対する柱部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図3】本発明の第3実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対する柱部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図4】本発明の第4実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対する柱部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図5】本発明の第5実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対するフランジ部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図6】本発明の第6実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対するフランジ部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図7】本発明の第7実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対するフランジ部の接触面積を小さくした構成)を示す斜視図。
【図8】本発明の第8実施形態に係る軸受用スペーサの構成(開口ポケットを広げた構成)を示す斜視図。
【図9】本発明の第9実施形態に係る軸受用スペーサの構成(柱部相互を連結部材で連結した構成)を示す斜視図。
【図10】本発明の第10実施形態に係る軸受用スペーサの構成(各柱部を傾斜させた構成)を示す斜視図。
【図11】(a)は、本発明の第11実施形態に係る軸受用スペーサの構成(相手部材に対して柱部を非接触とした構成)を示す斜視図、(b)は、同図(a)に示された軸受用スペーサを一部拡大して示す断面図。
【図12】(a)は、一対のラジアルころ軸受相互間(一対の保持器相互間)に、従来の軸受用スペーサが組み込まれた構成例を示す断面図、(b)は、従来の軸受用スペーサの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る軸受用スペーサについて参照して説明する。なお、後述する各実施形態に係る軸受用スペーサの使用態様としては、例えば図12(a)に示すように、当該スペーサ4が、一対のラジアルころ軸受2相互間(具体的には、一対の保持器12相互間)に、相手部材(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に対して接触(摺接)した状態で組み込まれる場合を想定する。
【0016】
また、後述する各実施形態の軸受用スペーサは、図12(b)に示された従来の軸受用スペーサ4を基準とし、これに改良を施したものであるため、以下、改良部分の説明にとどめる。この場合、上記した軸受用スペーサ4(図12(b))と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を、後述する各実施形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。
【0017】
なお、後述する各実施形態の基準となる軸受用スペーサ4(図12(b))の諸元の一例として、当該スペーサの大きさを、内径5〜30mm、肉厚0.3〜3.0mm、全幅2〜30mmとし、開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20hを1mm以上、フランジ部14,16の外径面14f,16fの幅14w,16wを1mm以上に設定する場合を想定する。
【0018】
この場合、当該スペーサ4の形成材料としては、例えば、冷間圧延鋼板(SPCC)、超低炭素鋼(AISI−1010)、クロムモリブデン鋼(SCM415)等の未熱処理品、或いは、浸炭又は浸炭窒化の熱処理品などを適用してもよいし、また、軽量化のために、ポリアセタール、ポリアミド樹脂(ナイロン46、ナイロン66)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などを適用してもよい。
【0019】
また、当該スペーサの外表面の粗さとしては、各フランジ部14,16の外径面14f,16f及び側周面14t,16t、並びに、各柱部18の外径面18fを、それぞれ6.3Ra以下に設定する。なお、Raは、中心線平均粗さ、或いは、算術平均粗さを表すパラメータとして規定されている。
【0020】
「第1実施形態」
図1に示すように、第1実施形態に係る軸受用スペーサ4は、周方向に沿って互いに平行に配列された複数の柱部18の外表面(即ち、外径面18f)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0021】
具体的には、各柱部18には、それぞれ、その周方向に沿った周方向幅18wが各開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20wよりも小さくなるように、当該柱部18を周方向に沿って部分的に窪ませて形成した凹部18pが構成されている。この場合、凹部18pは、各柱部18の中央部分を、当該柱部18に沿って長手方向に延長して連続した単一の窪み形状を成して構成されている。
【0022】
ここで、凹部18pの大きさは、例えば柱部18の大きさ、凹部18pを形成した後に残存する柱部18の強度等を考慮して設定されるため、ここでは特に限定しない。また、凹部18pの形状として、図面では一例として台形状に窪ませた凹部18pが示されているが、これに限定されることはなく、例えば円弧状、楕円状、矩形状など任意の形状を適用することができる。また、図面では一例として、各柱部18の周方向両側にそれぞれ凹部18pを形成しているが、いずれか片側にのみ凹部18pを形成してもよい。
【0023】
かかる構成によれば、各柱部18の中央部分の周方向幅18wは、その周方向両側の凹部18pによって、従来のスペーサ4(図12(b))の各柱部18よりも小さくなり、これに対して、各開口ポケット20の開口幅20wは、凹部18pによって各柱部18が窪んだ分だけ、従来のスペーサ4(図12(b))の各開口ポケット20の開口幅20hよりも大きくなる。
【0024】
以上、本実施形態によれば、各柱部18に凹部18pを形成したことにより、その分だけ、当該各柱部18の外径面18fの面積を小さくすることができる。この場合、スペーサ4を一対のラジアルころ軸受2相互間(具体的には、一対の保持器12相互間)に組み込んだ状態において(図12(a))、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触する当該各柱部18の外径面18fの面積を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて更に小さくすることができる。これにより、当該各柱部18の外径面18fと相手部材との摺動抵抗を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に低減させることができる。
【0025】
そうなると、各柱部18の外径面18fの面積を小さくした分だけ、当該スペーサ4の外表面(各フランジ部14,16の外径面14f,16f及び側周面14t,16t、各柱部18の外径面18f)の全体に亘る面積を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて更に小さくすることができる。これにより、相手部材(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に接触(摺接)するスペーサ4の接触(摺接)面積を小さくすることができる。このため、当該スペーサ4と相手部材との間の摺動抵抗(摩擦抵抗)を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に軽減することができ、その結果、かかる抵抗によるトルク損失を引き起こす要因の割合を飛躍的に軽減することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、各柱部18に凹部18pを形成したことにより、当該各柱部18の軽量化を図ることができる。これにより、各柱部18を軽量化した分だけ、当該スペーサ4の自重を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に軽量化することができる。この場合、当該凹部18pの数量分だけスペーサ4全体に要する材料を削減することが可能となり、その結果、当該スペーサ4の低コスト化を図ることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、遊星歯車回転支持装置(図12(a))の稼働中に生じた遠心力によって、一対のラジアルころ軸受2と共にスペーサ4が外方に付勢され、これにより支持軸(内輪)8に曲げ応力が作用した場合でも、当該スペーサ4によって、遊星歯車(外輪)6と支持軸(内輪)8との間隔を一定に維持することができる。このとき、支持軸(内輪)8の曲がりが最も大きくなる中央に組み込まれたスペーサ4には、複数の開口ポケット20が設けられているため、これにより、慣性力が低下して、支持軸(内輪)8の曲がりを効果的に抑制することができる。
【0028】
この場合、スペーサ4自体は、遊星歯車(外輪)6の回転を支持する機能はなく、本来的に大きなラジアル力が付与されないため、軽量化のために、当該各ポケット20や上記した凹部18pを形成しても、一対のラジアルころ軸受2相互間にスペーサ4を組み込んだ遊星歯車回転支持装置の機能や寿命を低下させることはない。
【0029】
「第2実施形態」
図2に示すように、第2実施形態に係る軸受用スペーサ4は、周方向に沿って互いに平行に配列された複数の柱部18の外表面(即ち、外径面18f)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0030】
具体的には、各柱部18には、それぞれ、その周方向に沿った周方向幅18wが各開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20wよりも小さくなるように、当該柱部18を周方向に沿って部分的に窪ませて形成した凹部18pが構成されている。この場合、凹部18pは、各柱部18の長手方向両側部分を、当該柱部18に沿って一部窪ませた形状を成して構成されている。
【0031】
以上、本実施形態によれば、各柱部18の長手方向両側部分の周方向幅18wは、その周方向両側の凹部18pによって、従来のスペーサ4(図12(b))の各柱部18よりも小さくなり、これにより、上記した第1実施形態と同様の効果を実現することができる。なお、これ以外の構成、及び、当該効果については、上記した第1実施形態と同様であるためその説明は省略する。
【0032】
「第3実施形態」
図3に示すように、第3実施形態に係る軸受用スペーサ4は、周方向に沿って互いに平行に配列された複数の柱部18の外表面(即ち、外径面18f)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0033】
具体的には、各柱部18には、それぞれ、その周方向に沿った周方向幅18wが各開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20wよりも小さくなるように、当該柱部18を周方向に沿って部分的に窪ませて形成した凹部18pが構成されている。この場合、凹部18pは、各柱部18の中央部分と長手方向両側部分とを、当該柱部18に沿って一部窪ませた形状を成して構成されている。
【0034】
以上、本実施形態によれば、各柱部18の中央部分及び長手方向両側部分の3箇所の周方向幅18wは、その周方向両側の凹部18pによって、従来のスペーサ4(図12(b))の各柱部18よりも小さくなり、これにより、上記した第1実施形態と同様の効果を実現することができる。なお、これ以外の構成、及び、当該効果については、上記した第1実施形態と同様であるためその説明は省略する。
【0035】
「第4実施形態」
図4に示すように、第4実施形態に係る軸受用スペーサ4は、周方向に沿って互いに平行に配列された複数の柱部18の外表面(即ち、外径面18f)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0036】
具体的には、各柱部18には、それぞれ、その周方向に沿った周方向幅18wが各開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20wよりも小さくなるように、当該柱部18を周方向に沿って部分的に窪ませて形成した凹部18pが構成されている。この場合、凹部18pは、各柱部18の中央部分寄りの長手方向両側部分を、当該柱部18に沿って一部窪ませた形状を成して構成されている。
【0037】
以上、本実施形態によれば、各柱部18の中央部分寄りの長手方向両側部分の2箇所の周方向幅18wは、その周方向両側の凹部18pによって、従来のスペーサ4(図12(b))の各柱部18よりも小さくなり、これにより、上記した第1実施形態と同様の効果を実現することができる。なお、これ以外の構成、及び、当該効果については、上記した第1実施形態と同様であるためその説明は省略する。
【0038】
「第5実施形態」
図5に示すように、第5実施形態に係る軸受用スペーサ4は、一対のフランジ部14,16の外表面(即ち、外径面14f,16f、側周面14t,16t)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0039】
具体的には、各フランジ部14,16には、それぞれ、その周方向に沿って連続的に窪ませて形成した凹部14p,16pが構成されている。この場合、凹部14p,16pは、外径面14f,16fから側周面14t,16tに向かうに従って先細り状に傾斜し、かつ周方向に沿って連続した円錐状のテーパ面として構成されている。
【0040】
ここで、凹部14p,16pの大きさ(広さ)は、例えば各フランジ部14,16の大きさ(外径面14f,16f及び側周面14t,16tの広さ)に応じて設定されるため、ここでは特に限定しない。また、凹部14p,16pの傾斜角度は、0°を含めないでそれ以上90°未満の範囲で任意に設定することができる。また、他の構成は、図12(b)に示されたスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。
【0041】
以上、本実施形態によれば、各フランジ部14,16に凹部14p,16pを形成したことにより、その分だけ、当該各フランジ部14,16の外表面(即ち、外径面14f,16f、側周面14t,16t)の面積を、従来のスペーサ4(図12(b))の各フランジ部14,16よりも小さくすることができる。
【0042】
この場合、スペーサ4を一対のラジアルころ軸受2相互間(具体的には、一対の保持器12相互間)に組み込んだ状態において(図12(a))、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触する当該各フランジ部14,16の外径面14f,16fの面積を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて更に小さくすることができると共に、相手部材としての軸受構成(例えば、一対の保持器12)に接触する当該各フランジ部14,16の側周面14t,16tの面積を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて更に小さくすることができる。これにより、当該各フランジ部14,16の外径面14f,16f及び側周面14t,16tと相手部材との摺動抵抗を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に低減させることができる。
【0043】
そうなると、各フランジ部14,16の外径面14f,16f及び側周面14t,16tの面積を小さくした分だけ、当該スペーサ4の外表面(各フランジ部14,16の外径面14f,16f及び側周面14t,16t、各柱部18の外径面18f)の全体に亘る面積を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて更に小さくすることができる。これにより、相手部材(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に接触(摺接)するスペーサ4の接触(摺接)面積を小さくすることができる。このため、当該スペーサ4と相手部材との間の摺動抵抗(摩擦抵抗)を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に軽減することができ、その結果、かかる抵抗によるトルク損失を引き起こす要因の割合を飛躍的に軽減することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、各フランジ部14,16に凹部14p,16pを形成したことにより、当該各フランジ部14,16の軽量化を図ることができる。これにより、各フランジ部14,16を軽量化した分だけ、当該スペーサ4の自重を、従来のスペーサ4(図12(b))に比べて大幅に軽量化することができる。この場合、当該凹部14p,16pの数量分だけスペーサ4全体に要する材料を削減することが可能となり、その結果、当該スペーサ4の低コスト化を図ることができる。
【0045】
なお、他の効果は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、本実施形態の構成(即ち、各フランジ部14,16に凹部14p,16pを形成する構成)を、上記した第1〜4実施形態に適用してもよい。これにより、当該第1〜4実施形態に係る効果と、本実施形態に係る効果とを合わせ持ったスペーサ4を実現することができる。
【0046】
「第6実施形態」
図6に示すように、第6実施形態に係る軸受用スペーサ4は、一対のフランジ部14,16の外表面(即ち、外径面14f,16f、側周面14t,16t)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0047】
具体的には、各フランジ部14,16には、それぞれ、その周方向に沿って断続的に窪ませて形成した凹部14s,16sが構成されている。この場合、凹部14s,16sは、側周面14t,16tから外径面14f,16fに一部入り込むように窪ませた矩形状を成しており、これを周方向に沿って所定間隔で配列して構成されている。
【0048】
ここで、凹部14s,16sの大きさは、例えばフランジ部14,16の大きさ、凹部14s,16sを形成した後に残存するフランジ部14,16の強度等を考慮して設定されるため、ここでは特に限定しない。また、凹部14s,16sの形状として、図面では一例として矩形状に窪ませた凹部14s,16sが示されているが、これに限定されることはなく、例えば円弧状、楕円状、三角形状など任意の形状を適用することができる。また、図面では一例として、各柱部18の両側位置に整列するように凹部14s,16sを形成しているが、各開口ポケット20の両側位置、或いは、柱部18及び開口ポケット20の双方に重なり合う両側位置に整列するように凹部14s,16sを形成してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、上記した第5実施形態の凹部14p,16pに代えて、凹部14s,16sが構成されており、他の構成は、上記した第5実施形態に係るスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。また、本実施形態の効果についても、上記した第5実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、本実施形態の構成(即ち、各フランジ部14,16に凹部14s,16sを形成する構成)を、上記した第1〜4実施形態に適用してもよい。これにより、当該第1〜4実施形態に係る効果と、本実施形態に係る効果とを合わせ持ったスペーサ4を実現することができる。
【0050】
「第7実施形態」
図7に示すように、第7実施形態に係る軸受用スペーサ4は、一対のフランジ部14,16の外表面(即ち、外径面14f,16f、側周面14t,16t)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6、一対の保持器12)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0051】
具体的には、各フランジ部14,16には、それぞれ、その周方向に沿って断続的に窪ませて形成した凹部14g,16gが構成されている。この場合、凹部14g,16gは、当該各フランジ部14,16を所定間隔で、かつ互い違いに一部切り欠く(切除、除去する)ことで、その切欠部分の側周面14t,16t及び外径面14f,16fを窪ませて構成されている。
【0052】
ここで、周方向に隣り合う開口ポケット20について着目すると、隣り合う一方の開口ポケット20の両側に位置するフランジ部14,16において、例えば片側のフランジ部14の一部を切り欠いて、当該開口ポケット20に連通した1つの凹部14gを形成した場合、隣り合う他方の開口ポケット20の両側に位置するフランジ部14,16においては、例えば上記した凹部14gとは互い違いの位置関係となる反対側のフランジ部16の一部を切り欠いて、当該開口ポケット20に連通した1つの凹部16gを形成する。このような形成手順を繰り返すことで、各フランジ部14,16に沿って互い違いに切り欠かれた凹部14g,16gが構成されている。
【0053】
以上、本実施形態は、上記した第5実施形態の凹部14p,16pに代えて、凹部14g,16gを構成したものであり、他の構成は、上記した第5実施形態に係るスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。また、本実施形態の効果についても、上記した第5実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、本実施形態の構成(即ち、各フランジ部14,16に凹部14g,16gを形成する構成)を、上記した第1〜4実施形態に適用してもよい。これにより、当該第1〜4実施形態に係る効果と、本実施形態に係る効果とを合わせ持ったスペーサ4を実現することができる。
【0054】
「第8実施形態」
図8に示すように、第8実施形態に係る軸受用スペーサ4は、周方向に沿って互いに平行に配列された複数の柱部18の外表面(即ち、外径面18f)を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を小さくして構成されている。
【0055】
具体的には、各柱部18には、それぞれ、その周方向に沿った周方向幅18wが各開口ポケット20の周方向に沿った開口幅20wよりも小さくなるように、当該柱部18を周方向に沿って全体的に窪ませて形成した凹部18pが構成されている。この場合、凹部18pを構成する方法としては、各柱部18の長手方向の全長に亘って全体的に窪ませる方法や、各柱部18を例えば1本置き、或いは、複数本置きに間引き(除去、削除)する方法を適用することができる。
【0056】
以上、本実施形態によれば、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を従来のスペーサ4(図12(b))よりも小さくすることができるため、これにより、上記した第1実施形態と同様の効果を実現することができる。なお、他の構成は、図12(b)に示されたスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。
【0057】
「第9実施形態」
図9に示すように、第9実施形態に係る軸受用スペーサ4において、各柱部18は、一対のフランジ部14,16相互間に周方向に亘って配置され、かつ周方向に沿って隣り合う柱部18相互間に介在させた連結部材22によって、相互に連結されている。なお、各連結部材22は、それぞれ略円弧形状を成しており、各柱部18相互を連結した状態において、その全体の輪郭が各フランジ部14,16と一致或いは同等の円環状となるように構成されている。
【0058】
具体的には、当該連結部材22は、上記した第8実施形態において、各柱部18の長手方向の全長に亘って全体的に窪ませて凹部18pを構成した(即ち、各開口ポケット20の占有面積が拡げられた)スペーサ4の強度を向上させるために設けられている。この場合、当該連結部材22は、周方向に沿って配置させてもよいし、或いは、傾斜させてもよい。要するに、当該連結部材22を柱部18相互間に介在させることでスペーサ4の強度が向上できるように構成されていればよい。なお、他の構成及び効果は、上記した第8実施形態に係るスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。
【0059】
「第10実施形態」
図10に示すように、第10実施形態に係る軸受用スペーサ4において、各柱部18は、周方向に沿って互いに傾斜して配列構成されている。具体的には、上記した第8実施形態において、各柱部18の長手方向の全長に亘って全体的に窪ませて凹部18pを構成したスペーサ4の強度を向上させるために、各柱部18を互いに傾斜させている。なお、他の構成は、上記した第8実施形態に係るスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。
【0060】
以上、本実施形態によれば、各フランジ部14,16と、互いに傾斜した各柱部18とによって、周方向に沿って三角形を基本にして組んだ所謂「トラス構造」を構築することができるため、スペーサ4の強度を格段に向上させることができる。この場合、本実施形態のトラス構造(即ち、各柱部18を周方向に沿って互いに傾斜させた配列構成)を、上記した第1〜4実施形態に適用してもよい。これにより、当該第1〜4実施形態に係る効果と、本実施形態に係る効果とを合わせ持ったスペーサ4を実現することができる。
【0061】
「第11実施形態」
図11(a),(b)に示すように、第11実施形態に係る軸受用スペーサ4において、各柱部18は、その外表面(即ち、外径面18f)の全体を各フランジ部14,16の外表面(即ち、外径面14f,16f)よりも窪ませて構成されている。この場合、各柱部18の肉厚を薄くし、その外径面18fを各フランジ部14,16の外径面14f,16fよりも凹ませることで、各柱部18の外径面18f上にそれぞれ凹部(特に参照符号は付さない)が構成されることになる。
【0062】
以上、本実施形態によれば、各柱部18の外径面18f上にそれぞれ凹部を構成したことにより、相手部材としての軸受構成(例えば、遊星歯車(外輪)6)に接触(摺接)する当該スペーサ4の外表面の面積を従来のスペーサ4(図12(b))よりも小さくすることができるため、これにより、上記した第1実施形態と同様の効果を実現することができる。なお、他の構成は、図12(b)に示されたスペーサ4と同様であるため、その説明は省略する。
【符号の説明】
【0063】
4 スペーサ
14、16 フランジ部
18 柱部
20 開口ポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状を成して対向配置された一対のフランジ部と、
これらのフランジ部相互間に亘って連続して延在し、かつ周方向に沿って所定間隔で配列された複数の柱部と、
一対のフランジ部と複数の柱部とで囲まれた部位に、周方向に沿って所定間隔で構成された複数の開口ポケットとを備え、
軸受相互間に組み込んだ状態において、その外表面が相手部材としての軸受構成に接触して相対的に摺動する軸受用スペーサであって、
各フランジ部及び各柱部の双方、或いは、いずれか一方の外表面を所定範囲で窪ませることにより、相手部材としての軸受構成に接触する当該スペーサの外表面の面積を小さくし、相手部材との摺動抵抗を低減させることを特徴とする請求項1に記載の軸受用スペーサ。
【請求項2】
各柱部は、周方向に沿って互いに平行に、或いは、傾斜して配列構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受用スペーサ。
【請求項3】
各柱部には、その周方向に沿った周方向幅が各開口ポケットの周方向に沿った開口幅よりも小さくなるように、当該柱部を周方向に沿って部分的或いは全体的に窪ませて形成した凹部が構成されていることを特徴とする請求項2に記載の軸受用スペーサ。
【請求項4】
各フランジ部には、その周方向に沿って連続的或いは断続的に窪ませて形成した凹部が構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軸受用スペーサ。
【請求項5】
各柱部は、その外表面の全体を各フランジ部の外表面よりも窪ませて構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受用スペーサ。
【請求項6】
各柱部は、一対のフランジ部相互間に周方向に亘って配置され、かつ周方向に沿って隣り合う柱部相互間に介在させた連結部材によって、相互に連結されていることを特徴とする請求項3に記載の軸受用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−112506(P2012−112506A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264249(P2010−264249)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】