説明

軸状部材の端部切削工具

【課題】軸状部材の端部処理時間を大幅に短縮でき、しかも軸状部材の端面を凹凸のない綺麗な平坦面に切削処理可能な軸状部材の端部切削工具を提供する。
【解決手段】軸状部材としてのボルトの先端部の中央部を略平坦に切削する内刃チップ36と、ボルトの先端部の外周部を切削により面取りする外刃チップ37と、軸方向の先端部に両チップ36、37を着脱自在に固定するための取付部34、35を設けた工具本体31とを備え、内刃チップ36の切刃36aの回転外周側が回転中心側よりも工具本体31の基部側へ向けて傾斜するように、内刃チップ36を工具本体31の取付部34に固定し、外刃チップ37の切刃37aの回転中心側が回転外周側よりも工具本体31の基部側へ向けて傾斜するように、外刃チップ37を工具本体31の取付部35に固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルシア形ボルトの端部処理に好適に利用可能な軸状部材の端部切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高層ビルなどの鉄骨構造物における鉄骨同士の結合は、鉄骨に形成したボルト孔にボルトを挿通させて、ボルト端部にナットを締結することにより行われている。鉄骨を結合するためのボルトとしては、ボルトの先端近傍部に破断溝を形成し、破断溝よりも先端側のピンテールを保持しながらナットを締め付け可能となし、締め付けトルクが設定トルク以上になったときに、破断溝が破断してピンテールが脱落するように構成した所謂トルシア形ボルトが、締め付け反力をピンテールで受け止めて、ボルトの共回りを防止できるとともに、所望の締め付けトルクを確実に確保できることから広く採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、前記トルシア形ボルトでは、破断溝に沿ってピンテールを破断させることから、ピンテールの破断後のボルトの先端部には破断面が形成され、該破断面に手指が接触すると、怪我をする可能性があること、破断面が防錆処理等の施されていない地肌となるため、破断面からボルトが腐食すること、などの問題がある。また、腐食を防止するため、ピンテールを破断してからボルト端部に、防錆塗料等を塗布することも実施されているが、ボルトの先端部の破断面は粗面であることから、防錆塗料の乗りが悪く、塗膜が剥離し易いという問題があり、防錆効果を長期にわたって十分に確保できないという問題があった。
【0004】
そこで、ボルトの先端部を滑らかな面に研磨したり切削したりする、ボルト端部処理装置(例えば、特許文献2参照。)が提案され、実用化されつつある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−105422号公報
【特許文献2】特開2008−155372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、研磨によりボルト端部を処理する処理装置を用いてボルト端部の処理試験を行なったところ、ボルト1本当たり、30秒〜60秒程度の処理時間を要し、比較的小型な橋梁であっても、数千本ものボルトが使用されることから、研削作業に多大な処理時間を要するという問題があった。
【0007】
また、切削によりボルト端部を処理する処理装置を用いてボルト端部の処理試験を行なったところ、処理時間は大幅に短縮できるが、切削工具として一般的な構成のエンドミルを用いた場合には、切削工具の耐久性を十分に確保できないという問題があった。また、切削工具として工具本体の先端部に切刃チップを着脱自在に固定したエンドミルについても、切削試験を行なったが、切刃チップとして、金属切削に広く用いられている超硬合金からなるチップを採用すると、切削時に切刃チップに衝撃力が作用して、切刃チップが破損することがあった。しかも、一般的な取付位置に切刃チップを固定した場合には、ボルト端面の中央部に微細ではあるが小さな突起が形成されてしまい、該突起によりボルト端面の外観が低下するとともに、防錆塗料の乗りが悪くなって塗膜が剥離し易くなるという別の問題が発生した。
【0008】
本発明の目的は、軸状部材の端部処理時間を大幅に短縮でき、しかも軸状部材の端面を凹凸のない綺麗な平坦面に切削処理可能な軸状部材の端部切削工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る軸状部材の端部切削工具は、軸状部材の端面中央部を略平坦に切削する内刃チップと、前記軸状部材の端面外周部を切削により面取りする外刃チップと、軸方向の先端部に両チップを着脱自在に固定するための取付部を設けた工具本体とを備え、前記内刃チップの切刃の回転外周側が回転中心側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、前記内刃チップを工具本体の取付部に固定し、前記外刃チップの切刃の回転中心側が回転外周側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、前記外刃チップを工具本体の取付部に固定したものである。
【0010】
この端部切削工具により軸状部材の端面を切削する際には、工具本体の回転中心を軸状部材と同心状に配置させるとともに、内刃チップ及び外刃チップを工具本体とともに回転させて、内刃チップで軸状部材の端面中央部を略平坦に切削し、外刃チップで軸状部材の端面外周部を切削により面取りすることになる。そして、このように、切削により軸状部材の端面を処理するので、研磨により軸状部材の端面を処理する場合と比較して、処理時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
また、内刃チップの切刃の回転外周側が回転中心側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、内刃チップを工具本体の取付部に固定しているので、軸状部材の端面中央部には内刃チップの切刃の傾斜角度に応じたすり鉢状の凹部が形成され、軸状部材の端面中央部に突起が形成されることが防止される。このため、軸状部材の端面中央部に突起が形成されることによる軸状部材の外観低下や、軸状部材の端面に対する防錆塗料等の塗装不良を効果的に防止できる。しかも、軸状部材の端面中央部にすり鉢状の凹部が形成されるので、軸状部材の端面中央部における防錆塗料等の塗膜が厚くなり、塗装不良を一層効果的に防止できる。但し、内刃チップの切刃の傾斜角度は、0°よりも大きな角度であれば任意の角度に設定できるが、大きすぎると軸状部材の端面に大きな凹部が形成されるので5°以下に設定することが好ましく、例えば0.5°〜1.5°に設定することが好適である。
【0012】
ここで、前記両チップを高速度鋼で構成することが好ましい実施の形態である。このように、両チップを高速度鋼で構成すると、超硬合金と比較して衝撃に強い切刃チップとなるので、可搬式の端部処理装置の切削工具として本発明を好適に利用できる。
【0013】
また、少なくとも内刃チップの切刃を工具本体の半径方向に配置したり、前記両チップの切刃を工具本体の回転中心を挟んでその両側に半径方向に配置したりすることも好ましい実施の形態である。この場合には、軸状部材の端面中央部に突起が形成されることを一層効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る軸状部材の端部切削工具によれば、外刃チップと内刃チップにより軸状部材の端面を切削するので、研磨により軸状部材の端面を処理する場合と比較して、処理時間を大幅に短縮することができる。また、内刃チップの切刃の回転外周側が回転中心側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、内刃チップを工具本体の取付部に固定しているので、軸状部材の端面中央部には内刃チップの切刃の傾斜角度に応じたすり鉢状の凹部が形成され、軸状部材の端面中央部に突起が形成されることが防止される。このため、軸状部材の端面中央部に突起が形成されることによる軸状部材の外観低下や、軸状部材の端面に対する防錆塗料等の塗装不良を効果的に防止できる。しかも、軸状部材の端面中央部にすり鉢状の凹部が形成されるので、軸状部材の端面中央部における防錆塗料等の塗膜が厚くなり、塗装不良を一層効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。尚、本実施の形態は、本発明に係る軸状部材の端部切削工具を、トルシア形ボルトの端部を切削処理するボルト端部処理装置に適用した場合のものである。
【0016】
図1に示すように、ボルト端部処理装置10は、橋梁や高層ビルなどの鉄骨構造物に施工されたボルト1の端部を滑らかな面に加工する可搬式の処理装置本体11と、処理装置本体11で発生した切粉を吸引する可搬式の吸引機45とを備えている。そして、このボルト端部処理装置10により、例えばH型鋼5のフランジ部5aとガセットプレート6とに締結された複数のボルト1の先端部を滑らかな面に順次加工することになる。
【0017】
ここで、ボルト端部処理装置10で切削処理するボルト1は、トルシア形ボルトであり、図11(a)に示すように、ボルト1の先端近傍部には破断溝3が形成され、破断溝3よりも先端側にはピンテール4が形成されている。そして、例えばこのボルト1で、H型鋼5のフランジ部5aとガセットプレート6とを結合する際には、図11(a)に示すように、フランジ部5aとガセットプレート6とに形成した取付孔7にボルト1を装着して、ボルト1の先端部にナット2を螺合させ、図示外のシャーレンチのソケットにナット2とピンテール4とをそれぞれ保持させた状態で、図11(b)に示すように、破断溝3に沿ってボルト1が破断するまで、ボルト1をナット2に締め付けて、フランジ部5aとガセットプレートとを結合することになる。このため、このボルト1では、要求トルク以上のトルクで確実にボルト1を締結できるが、施工後のボルト1の先端部1aは、錆び易い破断面で構成されることになる。本発明は、このようなボルト1の先端部1aを、防錆塗料の乗り易い滑らか面に加工するのに好適なものである。但し、一般的な構成のボルトにおいても、その施工後に、このボルト端部処理装置10を用いて、先端部を滑らかな面に切削処理することができるし、ボルト1以外の軸状部材の先端部もこのボルト端部処理装置10で滑らかな面に切削処理することができる。
【0018】
処理装置本体11は、図1〜図6に示すように、作業者が両手で支持しながら操作可能な可搬式のもので、ボルト1に締結したナット2に対して先端部が略隙間なく外嵌可能な外装スリーブ12と、外装スリーブ12に一定の隙間をあけて相対回転自在に内装され、ボルト1の先端部を切削する切削工具13と、切削工具13を回転させる駆動手段14とを備えている。
【0019】
駆動手段14は、ケーシング15内に組み込んだ図示外の電動モータと減速機とを備え、減速機の出力軸16に設けたチャック17に工具を着脱自在に保持させて、押しボタン式の電源スイッチ18で、チャック17を減速回転できるように構成したもので、汎用の電動ドリル等の本体装置で構成されている。但し、駆動手段14としては、汎用の電動ドリル等の本体装置を用いることが、製作コストを安くする上で好ましいが、電動モータによりチャック17を回転駆動できるものであれば、任意の構成のものを採用することができる。
【0020】
外装スリーブ12は、チャック17の先端部に外嵌固定した固定スリーブ20と、固定スリーブ20にベアリング21を介して回転自在で且つ軸方向に移動不能に外装した連結スリーブ22と、基端部を連結スリーブ22の先端部に溶接等により内嵌固定した延長スリーブ23と、延長スリーブ23の先端部に外嵌固定したソケット保持部材24と、ソケット保持部材24に着脱自在に取り付けたソケット25とを備えている。
【0021】
固定スリーブ20は2本の固定ネジ26を用いてチャック17に固定され、固定スリーブ20にはベアリング21が軸方向に移動不能に外嵌固定されている。ソケット25は、シャーレンチ用のソケットで構成され、ソケット25の内周面にはナット2に嵌合する12本の係合溝25aが軸方向に形成されている。ソケット25の外周部にはリング状の鍔部27が外方へ突出状に形成され、鍔部27には周方向に間隔をあけて4つの係合切欠部28が形成されている。ソケット保持部材24の先端部には係合切欠部28に係合する係合突部29が突出状に形成され、ソケット25は、係合切欠部28を係合突部29に係合させて、2本の固定ネジ30を締結することで、ソケット保持部材24に対して相対回転不能に取り付けられている。尚、連結スリーブ22と延長スリーブ23とソケット保持部材24とソケット25とは一体部材で構成することも可能であるが、少なくともソケット25は、嵌合させるナット2の寸法に応じて取替可能に構成するため別部材で構成することが好ましい。また、本実施の形態では、チャック17に対して外装スリーブ12を回転自在に取り付けたが、固定スリーブ20及びベアリング21を省略して、連結スリーブ22の基端部を駆動手段14のケーシング15に固定することも可能である。この場合には、切削工具13による切削反力をケーシング15及び外装スリーブ12を介してナット2で受け止めることができる。但し、本発明は切削工具13の構成に特徴を有するものであり、処理装置本体11の構成としては、前述した以外の構成のものを採用することが可能である。
【0022】
切削工具13について説明すると、図3〜図9に示すように、略円柱状の工具本体31が設けられ、工具本体31の基端部にはチャック17に着脱自在に固定保持される軸部32が一体的に形成されている。工具本体31の途中部と外装スリーブ12間にはベアリング33が設けられ、工具本体31は、ベアリング33を介して外装スリーブ12に回転自在に設けられている。
【0023】
工具本体31の先端部には、内刃取付部34と外刃取付部35とが軸方向に突出状に形成され、内刃取付部34における工具本体31の回転方向前側の内刃取付面34aには略正方向板状の内刃チップ36が切刃36aを工具本体31の半径方向にして固定され、外刃取付部35における工具本体31の回転方向前側の外刃取付面35aには略正方向板状の外刃チップ37が切刃37aを工具本体31の半径方向にして固定され、内刃チップ36の回転方向前側と外刃チップ37の回転方向前側には切粉を排出するための排出溝31aが形成されている。
【0024】
内刃チップ36の内刃取付部34に対する固定及び外刃チップ37の外刃取付部35に対する固定は、固定ネジ38をチップ36、37の中央部にそれぞれ挿通させて、固定ネジ38を取付部34、35にそれぞれ螺合させるとともに、取付ネジ39により取付部34、35にそれぞれ固定したクランパ40により、チップ36、37をクランパ40と取付面34a、35aとの間にそれぞれ挟持することにより固定されている。ただし、固定ネジ38により取付部34、35に対するチップ36、37の取付強度を十分に確保できる場合には、クランパ40は省略することも可能である。
【0025】
チップ36、37としては、耐衝撃性に優れていることから高速度鋼からなるものが好適で、略正方形板状のチップ36、37の4辺に切刃36a、37aを形成し、4つの切刃36a、37aを順々変更できるように構成したものを好適に採用できる。ただし、チップ36、37としては、高速度鋼以外の素材からなるものや、正方形板状以外の形状からなるものを採用することも可能である。両チップ36、37としては、同一構成のものを採用することもできるし、異種構成のものを採用することもできるが、部品点数を少なくするため、同一構成のものを採用することが好ましい。
【0026】
図8に示すように、両チップ36、37は、切削で使用する切刃36a、37aが工具本体31の回転中心Pを挟んでその両側に、工具本体31の直交方向Dに配置されるように設けられている。ただし、少なくとも内刃チップ36の切刃36aが工具本体31の半径方向に配置されていれば、外刃チップ37の切刃37aは他の方向に配置させることも可能である。
【0027】
図9(a)に示すように、内刃チップ36は、その切刃36aの回転外周側が回転中心P側よりも工具本体31の基部側へ向けて傾斜し、回転中心P側の端部が回転中心Pを挟んで反対側まで多少突出されるように、工具本体31の内刃取付部34に固定されている。工具本体31の回転中心Pとの直交線Lに対する内刃チップ36の切刃36aの傾斜角度αは、0°よりも大きな角度であれば任意の角度に設定できるが、大きすぎるとボルト1の端面に大きな凹部が形成されるので、5°以下に設定することが好ましく、例えば0.5°〜1.5°に設定することが好適である。
【0028】
また、外刃チップ37は、その切刃37aの回転中心P側が回転外周側よりも工具本体31の基部側へ向けて傾斜するように、工具本体31の外刃取付部35に固定されている。工具本体31の回転中心Pとの直交線Lに対する外刃チップ37の切刃37aの傾斜角度βは、0°よりも大きく45°以下に設定することになるが、防錆塗料の乗りを良くするため、5°以上20°以下に設定することが好ましい。両チップ36、37は、切刃36a、37a側とは反対の端面36b、37bを取付面34a、35aにそれぞれ当接させるとともに、該端面36b、37bの下縁を取付部34、35の角部34b、35bにそれぞれ当接させて、取付部34、35に適正な姿勢に位置決めされている。
【0029】
図9(b)に示すように、内刃チップ36の切刃36aの回転軌跡と外刃チップ37の切刃37aの回転軌跡は、ボルト1の端部の外周縁よりもやや内側の交点Aにおいて交叉しており、ボルト1の先端部1aは該交点Aに対応する位置を頂部として環状の緩やかな山形に切削され、ボルト1の中央部側には内刃チップ36により緩やかなすり鉢状の平坦面1Aが形成され、ボルト1の外周部側には外刃チップ37により緩やかな円錐状の面取り面1Bが形成されることになる。
【0030】
尚、図10に示す切削工具13Aのように、工具本体31に代えて、軸方向へ延びるスプライン41を基部に形成した工具本体31Aを用いるとともに、チャック17に代えて、工具本体31Aの基部を保持可能なチャックを設けた駆動手段を用い、工具本体31Aの基部を該チャックに嵌合させて、切削工具13Aをチャックに固定できるように構成した切削工具を採用することもできる。
【0031】
また、切削工具13でボルト1の先端部1aを切削できるように、切削工具13をボルト1の先端部1aに当接させた状態で、ソケット25の先端部とナット2のワッシャ8間に、少なくとも切削に必要な送り量に相当する隙間T(図6参照)が形成されるように、切削工具13は外装スリーブ12内に配置されている。
【0032】
吸引機45は、図1に示すように、外装スリーブ12内の切粉を吸引するもので、キャスターで移動可能なキャニスタータイプの掃除機を採用することも可能であるが、建築現場等においては床面が平坦でなかったり、建築用資材が床面に設置されていたりするので、肩に掛けて或いは背負って使用可能な掃除機で構成することが好ましい。また、集塵方式としては、サイクロンタイプを採用することも可能であるが、金属製の切粉を効率的に吸引できるように、吸引力の高いフィルタータイプの掃除機を採用することが好ましい。
【0033】
吸引機45のホース46は、図2〜図4に示すように、外装スリーブ12の途中部に接続され、吸引機45を作動させることで、外装スリーブ12内の切粉が空気とともに吸引されるように構成されている。外装スリーブ12に対するホース46の接続位置は、切粉を効率的に吸引できるように、切削工具13の先端部付近に設定することが好ましいが、ベアリング33よりも前側であれば任意の位置に設けることができる。本実施の形態では、ナット2に外嵌するソケット25として汎用品を使用できるようにするため、延長スリーブ23の先端近傍部に接続している。また、吸引機45により外装スリーブ12内の切粉を空気とともに吸引することで、ナット2とソケット25間の隙間から外装スリーブ12内に外気が導入されるので、切削時の発熱による切削工具13の温度上昇を抑制して、切削工具13の熱劣化を防止できるので好ましい。但し、吸引機45は必ずしも設ける必要はなく、ボルト1の先端部を切削する毎に、ソケット25側を下側にして、外装スリーブ12内の切粉をゴミ箱等に排出することも可能である。また、ソケット25の下部に切粉排出用の開口を形成するとともに、ソケット25の下側に該開口から排出される切粉を一時的に収納する収納ケースを着脱自在に設けることもできる。
【0034】
ボルト端部処理装置10でボルト1の先端部を切削する際には、先ず、図1に示すように、吸引機45を背負うとともに、処理装置本体11を両手で保持しながら、処理装置本体11に取り付けた外装スリーブ12の先端のソケット25をナット2に外嵌状に差し込んで、切削工具13の軸心をボルト1の軸心に合致させる。このとき、ソケット25は、図6に示すように、切削工具13の先端がボルト1の先端部に当接することから、ナット2の基端部までは差し込むことはできないが、ナット2の軸方向の80〜90%、差し込むことができるので、切削工具13の軸心とボルト1の軸心とを容易に合致させることができる。
【0035】
次に、処理装置本体11の駆動手段14により切削工具13を回転させながら、切削工具13の先端部をボルト1の端部に圧接させて、ボルト1の端部を切削加工することになる。具体的には、内刃チップ36の切刃36aにより、ボルト1の先端部1aの中央部を緩やかなすり鉢状の平坦面1Aに切削するとともに、外刃チップ37の切刃37aにより、ボルト1の先端部1aの外周部を緩やかな円錐状の面取り面1Bに切削することになる。切削工具13による切削は、外装スリーブ12内においてなされ、しかも外装スリーブ12の先端開口部は、ナット2により閉鎖されるので、切削時に発生する切粉は外装スリーブ12内に残留し、外部へ飛散することはない。
【0036】
一方、このボルト1の先端部1aの切削時に、吸引機45を作動させて、切削時に発生する切粉を吸引し、吸引機45の図示外の集塵袋等に集めることになる。外装スリーブ12内の切粉を吸引しているとき、外装スリーブ12内には、ソケット25とナット2間の隙間を通じて外気が導入されることになる。このため、切粉がソケット25とナット2間の隙間から外部へ零れ落ちることが防止されるとともに、外装スリーブ12内に導入される外気により、切削工具13が冷却されて、切削工具13の熱劣化が防止されることになる。吸引機45は、手動操作により必要に応じて作動させることも可能であるし、駆動手段14と連動させて作動させることも可能である。尚、このようにしてボルト1の先端部1aを滑らかな面に順次加工した後、加工面に防錆塗料を塗布する作業を順次行って、ボルト1の腐食を防止することになる。
【0037】
このボルト端部処理装置10では、ナット2にソケット25を差し込んで、切削工具13の軸心をボルト1の軸心に合わせた状態で、ボルト1の先端部を切削できるので、ボルト1の先端部1aを円滑に切削することができ、一様な品質の綺麗な加工面を得ることができるとともに、切削工具13がボルト1に対して傾いた状態で圧接されることによる、切削工具13の破損を防止できる。また、外装スリーブ12内においてボルト1の端部を切削するので、切削時に発生する切粉の飛散を防止できる。しかも、吸引機45により、切削時に発生した切粉を吸引するので、切粉を容易に集塵できるとともに、外装スリーブ12内に導入された外気により切削工具13を冷却できるので、切削時における発熱で切削工具13が熱劣化することを防止できる。更に、切削によりボルト1の先端部を加工するので、研磨や研削により加工する場合と比較して、ボルト1の先端部の加工時間を大幅に短縮できる。更にまた、内刃チップ36の切刃36aの回転外周側が回転中心P側よりも工具本体31の基部側へ向けて傾斜するように、内刃チップ36を工具本体31の内刃取付部34に固定しているので、切削した後のボルト1の端面の中央部に突起が形成されることを防止でき、突起が形成されることによる外観低下や防錆塗料の塗装不良などの発生を未然に防止できる。
【0038】
尚、本実施の形態では、ボルト1の端部処理装置10に本発明を適用したが、本発明は、ボルト1以外の軸状部材の端部を切削処理する端部処理装置に適用することもでき、またこの端部処理装置10は、可搬式に構成することも、工場に設置して使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ボルト端部処理装置の説明図
【図2】処理装置本体の側面図
【図3】外装スリーブ及び切削工具の分解斜視図
【図4】外装スリーブ付近における処理装置本体の縦断面図
【図5】切削工具の説明図
【図6】ボルト端部処理装置の使用方法の説明図
【図7】切削工具の斜視図
【図8】切削工具の正面図
【図9】(a)は切削前におけるボルト端部の状態と、ボルト端部と両チップの位置関係を示す説明図、(b)は切削後におけるボルト端部の状態と、ボルト端部と両チップの位置関係を示す説明図
【図10】他の構成の切削工具の斜視図
【図11】(a)(b)はトルシア形ボルトの締結方法の説明図
【符号の説明】
【0040】
1 ボルト 1a 先端部
1A 平坦面 1B 面取り面
2 ナット 3 破断溝
4 ピンテール 5 H型鋼
5a フランジ部 6 ガセットプレート
7 取付孔 8 ワッシャ
10 ボルト端部処理装置 11 処理装置本体
12 外装スリーブ 13 切削工具
14 駆動手段 15 ケーシング
16 出力軸 17 チャック
18 電源スイッチ
20 固定スリーブ 21 ベアリング
22 連結スリーブ 23 延長スリーブ
24 ソケット保持部材 25 ソケット
25a 係合溝 26 固定ネジ
27 鍔部 28 係合切欠部
29 係合突部 30 固定ネジ
31 工具本体 31a 排出溝
32 軸部 33 ベアリング
34 内刃取付部 34a 内刃取付面
34b 角部 35 外刃取付部
35a 外刃取付面 35b 角部
36 内刃チップ 36a 切刃
36b 端面 37 外刃チップ
37a 切刃 37b 端面
38 固定ネジ 39 取付ネジ
40 クランパ
13A 切削工具 31A 工具本体
41 スプライン溝
45 吸引機 46 ホース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状部材の端面中央部を略平坦に切削する内刃チップと、
前記軸状部材の端面外周部を切削により面取りする外刃チップと、
軸方向の先端部に両チップを着脱自在に固定するための取付部を設けた工具本体と、
を備え、
前記内刃チップの切刃の回転外周側が回転中心側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、前記内刃チップを工具本体の取付部に固定し、
前記外刃チップの切刃の回転中心側が回転外周側よりも工具本体の基部側へ向けて傾斜するように、前記外刃チップを工具本体の取付部に固定した、
ことを特徴とする軸状部材の端部切削工具。
【請求項2】
前記両チップが高速度鋼からなる請求項1記載の軸状部材の端部切削工具。
【請求項3】
少なくとも内刃チップの切刃を工具本体の半径方向に配置した請求項1又は2記載の軸状部材の端部切削工具。
【請求項4】
前記両チップの切刃を工具本体の回転中心を挟んでその両側に半径方向に配置した請求項1〜3のいずれか1項記載の軸状部材の端部切削工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−82781(P2010−82781A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257005(P2008−257005)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(398075781)ジロー株式會社 (16)
【出願人】(507129525)太陽精工株式会社 (1)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】