説明

軸継手及び電動パワーステアリング装置

【課題】トルク伝達効率を改善するとともに、より大きな二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容することのできる軸継手を提供すること。
【解決手段】軸継手24は、軸挿通孔35を有して第2の継体32と併置されることにより当該第2の継体32を挟んで第1の継体31と同軸に配置される第3の継体36を備える。また、第1の継体31及び第3の継体36は、軸方向に突出して第2の継体32に係合する係合突部39,40を備えるとともに、ボール軸受の内輪内に圧入嵌合されることにより、両者間の相対回転及び軸方向移動が規制される。更に、第2の継体32は、第1の継体31及び第3の継体36側に向かって軸方向に突出する係合突部44,45を備える。そして、各係合突部39,44及び各係合突部40,45により周方向に区画された継体間の各空間には、それぞれ、弾性体47が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸継手及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源とする電動パワーステアリング装置(EPS)には、ステアリングシャフトを回転駆動することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与するものがある。そして、このようなEPSの多くは、ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構(ウォーム&ホイール機構)によりモータ回転を減速してステアリングシャフトに伝達する構成となっている。
【0003】
さて、ウォーム&ホイール機構では、その二つのギヤの噛合状態、つまり適切な軸間距離の設定及び維持が極めて重要な要素となる。そこで、従来、上記のようなウォーム&ホイール機構を用いるEPSにおいては、ウォームギヤを付勢してホイールギヤに押し付けることにより、両者間の歯合状態を維持するようにしたものがある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のEPSでは、そのウォーム軸(ウォームギヤの回転軸)とモータ軸(モータの回転軸)との連結に、複数の係合爪を有してトルク伝達可能に係合する一対の継体間に弾性体を介在させた軸継手が用いられている。即ち、このような軸継手を用いることで、その継体間における弾性体の変形に基づき各継体に接続された二軸間の傾動を許容しつつトルク伝達可能に両者を連結することができる。また、ウォーム軸の先端は、径方向移動可能な軸受により支承されている。そして、径方向移動不能に設けられた軸受によりウォーム軸の基端を支承することにより、その支承位置を支点としたモータ軸の軸線に対するウォーム軸の傾動が許容されている。尚、特許文献2には、こうした継体間に弾性体を介在させた軸継手を軸受内に配置する構成が開示されている。
【0005】
更に、ウォーム軸の先端を支承する軸受は、その外周に嵌装された湾曲板バネに保持されるとともに、同湾曲板バネの弾性力により径方向に付勢されている。そして、これにより、ウォーム軸をホイールギヤに近接する方向へ傾動させることによって、そのウォームギヤとホイールギヤとの間の歯合状態を良好に維持することが可能な構成となっている。
【0006】
また、このようにウォームギヤをホイールギヤに押し付けることにより、両者の噛み合い摩擦は大きくなる。しかし、上記のような軸継手を用いることで、各継体に接続されたモータ軸及びウォーム軸は、その継体間に介在された弾性体の変形に基づいて、軸方向の相対移動が許容される。即ち、ウォームギヤ及びホイールギヤの回転に伴いウォーム軸が軸方向に移動することにより、両者間の噛み合い摩擦は低減される。そして、これによりステアリング操作に対する追従性、特に「切り始め」の追従性を改善して、所謂引っ掛かり感のない良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−203154号公報
【特許文献2】実開平7−22831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の軸継手では、各継体に接続された二軸間のトルク伝達も弾性体を介して行われる。即ち、二軸間の十分な傾動量及び移動量を確保するためには、弾性体の変形量を大きく設定することが望ましいが、これにより、トルク伝達効率が低下するとともに、その復元性の低下等といった弾性体の劣化が進みやすいという背反がある。このため、その弾性体の変形量は自ずと限られたものとなり、ギヤ歯の摩耗が進んだ場合には、ウォーム軸の傾動が不足するおそれがある。そして、十分な噛み合い摩擦の低減効果を得るためには、別途、その軸方向移動を吸収する機構を設ける必要があるのが実情であり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、トルク伝達効率を改善するとともに、より大きな二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容することのできる軸継手、及びモータ軸に対するより大きなウォーム軸の傾動及び軸方向移動を許容し得る電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、トルク伝達可能に係合する第1及び第2の継体間に弾性体を介在させることにより各継体に接続される二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容する軸継手であって、軸挿通孔を有して第2の継体と併置されることにより該第2の継体を挟んで第1の継体と同軸配置されるとともに該第1の継体との間の相対回転及び軸方向移動が規制された第3の継体と、前記第1の継体と一体に回転して該第1の継体と前記第2の継体との間の相対回転に基づき前記第2の継体に係合することにより前記第1及び第2の継体を一体に回転させる係合爪と、を備え、前記弾性体は、前記第1の継体と前記第2の継体との間、及び前記第2の継体と前記第3の継体との間の軸方向位置に介在されるとともに、前記第2の継体には、周方向において前記係合爪との間に前記各弾性体を挟む係合突部が形成されること、を要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、第1の継体、第2の継体及び第3の継体間に介在された各弾性体の弾性変形に基づき第1の継体及び第2の継体に接続された二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容しつつ、第1の継体及び第2の継体間の直接的な係合による回転伝達が可能になる。そして、これにより、そのトルク伝達効率を改善することができるとともに、各弾性体の変形量を大きく設定して、より大きな二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容することができるようになる。
【0012】
また、第2の継体の軸方向両側に配置された第1の継体及び第3の継体が当該第2の継体の軸方向における相対移動を制限するストッパとして機能することにより、過度な二軸間の相対移動を抑制することができる。加えて、第2の継体の軸方向両側に配置された弾性体の復元力により、速やかに当該第2の継体を中立位置に復帰させることができる。そして、第1の継体とともに一体回転する係合爪と第2の継体との係合に先立ち、各弾性体が周方向に圧縮されることで、両者が係合する際に生ずる接触音を低減して、高い静粛性を確保することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記係合突部と前記各弾性体との間、及び前記各弾性体と前記係合爪との間に形成される周方向隙間の大きさが、前記係合爪と前記第2の継体との間に形成される周方向隙間の大きさよりも小さいこと、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、各弾性体が圧縮される前に係合爪が第2の継体に接触する状況を低減することができる。
請求項3に記載の発明は、前記係合爪は、前記第1及び第3の継体間において軸方向に延設されるとともに、前記第2の継体には、前記係合爪が挿通される係合孔が形成され、且つ前記係合突部は、前記第1及び第3の継体に向かって軸方向に突設されること、を要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、第1の継体及び第3の継体間における前記第2の継体の軸方向移動が担保されるとともに、前記第2の継体との間の相対回転、及び軸方向の相対移動、並びに両者間における軸線の傾動に対して、各弾性体を弾性変形させることができる。そして、これにより、トルク伝達効率の低下を招くことなく、二軸間における傾動及び軸方向の相対移動を許容することができる。加えて、第2の継体から第1の継体及び第3の継体に向かって軸方向に突設された係合突部が第1の継体及び第3の継体に当接することにより、過度の圧縮による復元性の低下等といった各弾性体の劣化を抑制して、その耐久性を向上させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記第1及び第3の継体に外嵌する嵌合体を備えること、を要旨とする。
上記構成によれば、構成簡素且つ容易に第1の継体及び第3の継体間の相対回転及び軸方向移動を規制することができる。特に、嵌合体として筒体を用いることにより、同嵌合体によって第1の継体、第2の継体及び第3の継体間に配設された各弾性体を脱落させることなく保持することができる。そして、これら各弾性体を非圧縮状態として当該各弾性体と各継体との間に隙間を形成することにより、より大きな二軸間における傾動及び軸方向の相対移動を設定することができるようになる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構によりモータ回転を減速してステリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置において、ウォーム軸とモータ軸とを連結する請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の軸継手と、前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転自在に支承する支承手段と、前記ウォーム軸を前記ホイールギヤに近接する方向に傾動させる付勢手段と、を備えること、を要旨とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構によりモータ回転を減速してステリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置において、ウォーム軸とモータ軸とを連結する請求項4に記載の軸継手と、前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転自在に支承する支承手段と、前記ウォーム軸を前記ホイールギヤに近接する方向に傾動させる付勢手段と、を備えるとともに、 前記嵌合体は、前記ウォーム軸の基端を支承する転がり軸受の内輪であること、を要旨とする。
【0019】
上記各構成によれば、トルク伝達効率を改善しつつ、より大きなウォーム軸の傾動及び軸方向移動を許容することができる。その結果、ギヤ歯の摩耗が進んだ状態においてもウォームギヤ及びホイールギヤ間の歯合状態を良好に維持することができるとともに、両者間の噛み合い摩擦を低減して、より優れた操舵フィーリングを実現することができる。
【0020】
特に、請求項6の発明を適用することで、その軸継手によるウォーム軸の回動中心(傾動支点)をボール軸受による当該ボール軸受の支承点に一致させることができる。その結果、より円滑にウォーム軸を傾動させることができるとともに、併せて、そのトルク伝達効率を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トルク伝達効率を改善するとともに、より大きな二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容することのできる軸継手、及びモータ軸に対するより大きなウォーム軸の傾動及び軸方向移動を許容し得る電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】減速機構の断面図。
【図3】湾曲板バネよるボール軸受の弾性支持構造を示す断面図。
【図4】軸継手の斜視図。
【図5】ボール軸受の内輪に圧入された軸継手の側面図。
【図6】軸継手の分解斜視図。
【図7】軸継手の分解斜視図。
【図8】A−A断面図。
【図9】B−B断面図。
【図10】C−C断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、そのステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる周知の構造を有している。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更されるようになっている。
【0024】
また、本実施形態のEPS1は、モータ10を駆動源として、そのコラムシャフト3aを回転駆動する所謂コラム型のEPSとして構成されている。即ち、本実施形態のEPS1は、減速機構9によりモータ10の回転を減速してステアリングシャフト3(コラムシャフト3a)に伝達する。そして、これにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0025】
詳述すると、本実施形態のEPS1では、その減速機構9として、モータ駆動により回転するウォームギヤ12とステアリングシャフト3(コラムシャフト3a)に設けられたホイールギヤ13とを歯合してなる周知のウォーム&ホイール機構が採用されている。
【0026】
図2に示すように、ステアリングシャフト3(コラムシャフト3a)が貫設されたハウジング14において、ホイールギヤ13は、ステアリングシャフト3の径方向外側に略円形の広がりを有するホイール収容室15に収容されている。また、このホイール収容室15の径方向外側(同図中、上側)には、同ホイール収容室15に開口する開口部16を有して当該ホイール収容室15の接線方向(同図中、左右方向)に延びるウォーム収容室17が形成されている。そして、ウォームギヤ12は、長手方向に沿ってウォーム収容室17内に収容されることにより、上記開口部16からウォーム収容室17側に臨むホイール歯13aに対して、そのウォーム歯12aが歯合する構成となっている。
【0027】
また、ウォーム収容室17は、ハウジング14の一端面(同図中、右側の端面14a)に開口するとともに、その開口部には、駆動源であるモータ10の取付部20が形成されている。そして、同モータ10は、軸方向端面10aをウォーム収容室17内に挿入する態様で取付部20に取着されることにより、そのモータ軸21が上記ウォームギヤ12の回転軸、即ちウォーム軸22に連結されるようになっている。
【0028】
さらに詳述すると、ウォームギヤ12は、そのウォーム軸22の基端22a(同図中、右側の端部)側が、軸継手24を介して傾動可能且つトルク伝達可能にモータ軸21に連結されている。また、本実施形態では、この軸継手24の外周には、ハウジング14に固定されたボール軸受25の内輪25aが嵌合されている。そして、ウォーム軸22の基端22aは、このボール軸受25により回転自在に支承されている。
【0029】
また、ウォーム軸22の先端22bは、ボール軸受26により回転自在に支承されるとともに、同ボール軸受26は、その外周に嵌装された湾曲板バネ27により径方向移動可能に弾性支持されている。
【0030】
即ち、図3に示すように、本実施形態では、ボール軸受26の外輪26aを巻回して交差する湾曲板バネ27の端部27a,27bが圧縮状態でウォーム収容室17の上壁面17aに当接することにより、同ボール軸受26を径方向(同図中、下側)に押圧しつつ弾力的に支持する周知の支持構造が採用されている。尚、このような湾曲板バネを用いた弾性支持構造についての詳細は、例えば、特許文献1の記載を参照されたい。
【0031】
図2に示すように、本実施形態では、このようにボール軸受26を弾性支持することにより、その基端22aの支承位置、即ちボール軸受25内に配置された軸継手24を支点としたモータ軸21の軸線に対するウォーム軸22の傾動が許容されている。更に、その湾曲板バネ27の弾性力に基づきボール軸受26を押圧する。そして、このボール軸受26により支承されたウォーム軸22の先端22bをホイールギヤ13に近接する方向(同図中、下側)に付勢して、同ウォーム軸22をホイールギヤ13側に傾動させることにより、そのウォームギヤ12とホイールギヤ13との間の歯合状態を安定的に維持することが可能となっている。
【0032】
また、本実施形態では、湾曲板バネ27の端部27a,27bが上壁面17aに沿って摺動し、及び当該湾曲板バネ27の撓むことにより、ウォーム軸22の軸方向移動が許容されている。そして、ウォームギヤ12及びホイールギヤ13が回転する際、そのウォーム軸22の軸方向移動に基づいて、両ギヤ間の噛み合い摩擦を低減することにより、そのステアリング操作に対する追従性の向上を図る構成になっている。
【0033】
(軸継手)
次に、モータ軸及びウォーム軸間を連結する本実施形態の軸継手について説明する。
図4〜図7に示すように、本実施形態の軸継手24は、モータ軸21の先端に接続されて同モータ軸21とともに一体回転する第1の継体31と、ウォーム軸22の基端22aに接続されて同ウォーム軸22とともに一体回転する第2の継体32とを備えている。本実施形態では、これら第1の継体31及び第2の継体32は、それぞれ、そのモータ軸21及びウォーム軸22との接続部を中心とする略円盤状に形成されている。そして、これら第1の継体31及び第2の継体32は、それぞれ、そのモータ軸21及びウォーム軸22に接続されていない側の面(対向面33,34)を向かい合わせるように略同軸に配置されるようになっている。
【0034】
また、本実施形態の軸継手24は、ウォーム軸22が挿通される軸挿通孔35を有して第2の継体32と併置されることにより当該第2の継体32を挟んで第1の継体31と同軸に配置される第3の継体36を備えている。本実施形態では、この第3の継体36は、上記第1の継体31と同一の直径を有した略円盤状に形成されている(図5中、直径R1)。そして、その中心部分には、同第3の継体36を厚み方向(軸方向)に貫通することにより上記軸挿通孔35を構成する円孔37が形成されている。
【0035】
更に、第1の継体31において第2の継体32側に位置する対向面33、及び第3の継体36において第2の継体32側に位置する対向面38には、それぞれ、その周縁部から第2の継体32側に向かって軸方向に突出する係合突部39,40が形成されている。具体的には、これらの係合突部39,40は、各対向面33,38の径方向内側から外側に向かって幅広となる断面略楔形を有した同一の形状となっている。そして、第1の継体31の対向面33、及び第3の継体36の対向面38には、均等角度間隔(180°間隔)で、それぞれ、二つの係合突部39,40が形成されている。
【0036】
また、第2の継体32には、その周縁に均等角度間隔(180°間隔)で二つ、楔形の切欠き41を形成することにより上記各係合突部39,40に対応する係合孔42が設けられている。そして、本実施形態では、その第2の継体32に形成された各係合孔42内に第1の継体31及び第3の継体36の各係合突部39,40が挿入されるとともに、当該各係合突部39,40の先端が互いに当接された状態で、これら第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36が組み付けられる構成となっている。
【0037】
また、第2の継体32において第1の継体31側に位置する対向面34及び第3の継体36側に位置する対向面43には、それぞれ、その周縁部から第1の継体31及び第3の継体36側に向かって軸方向に突出する係合突部44,45が形成されている。具体的には、これらの係合突部44,45は、第1の継体31及び第3の継体36に形成された上記各係合突部39,40と同様に楔形の断面形状を有して、それぞれ上記各係合孔42を構成する各切欠き41から周方向に90°離間した位置に二つずつ形成されている。そして、各係合突部39,44及び各係合突部40,45により周方向に略均等角度間隔(90°間隔)で区画された第1の継体31及び第2の継体32間、並びに第2の継体32及び第3の継体36間の各空間には、それぞれ、弾性体47が配設されている。
【0038】
本実施形態では、各弾性体47は、略扇形に形成されるとともに、当該各弾性体47を挟んで軸方向に位置する各対向面33,34及び各対向面38,43との間、並びに同各弾性体47を挟んで周方向に位置する各係合突部39,44及び各係合突部40,45との間において、非圧縮状態で配設される。
【0039】
そして、本実施形態の軸継手24は、これらの各弾性体47、並びに上記第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36を組み付けた状態で、上記のように同軸継手24を介してウォーム軸22の基端22aを支承するボール軸受25の内輪25a内に圧入される構成となっている。
【0040】
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態の軸継手24は、ボール軸受25の内輪25a内に圧入されることにより、上記第1の継体31及び第3の継体36の外周に同内輪25aが嵌合される。そして、これにより、第1の継体31及び第3の継体36は、その各係合突部39,40の周方向位置を一致させた状態で、両者間の相対回転及び軸方向移動が規制されるようになっている。
【0041】
また、本実施形態では、第2の継体32の直径R2を上記第1の継体31及び第3の継体36の直径R1よりも小径とすることにより、上記ボール軸受25の内輪25aとの間に径方向隙間が形成されるようになっている。更に、第3の継体36に形成された軸挿通孔35と当該軸挿通孔35に挿通されるウォーム軸22(の基端22a)との間にも同様に径方向隙間が設定されている。そして、上記のように軸方向に延設された各係合突部44,45を含む第2の継体32の軸方向長さ(厚み)L1は、第1の継体31の対向面33と第3の継体36の対向面38との間の軸方向距離L0よりも短く設定されている。
【0042】
更に、図8〜図10に示すように、各係合孔42と当該各係合孔42内に挿入された各係合突部39,40との間に形成される周方向隙間は、各弾性体47と周方向において当該各弾性体47を挟む各係合突部39,44及び各係合突部40,45との間に形成される周方向隙間よりも大きく設定されている。
【0043】
尚、「各係合孔42と各係合突部39,40との間の周方向隙間の大きさ」の最大値は、図8に示すように、各係合突部39,40の周方向両側面とこれに対向する各係合孔42の壁面との各距離D1,D2の和である(D1+D2)。そして、「各弾性体47と各係合突部39,44及び各係合突部40,45との間の周方向隙間」の最大値は、図9及び図10に示すように、各弾性体47の周方向両側面とこれに対向する各係合突部39,44及び各係合突部40,45の各距離D3,D4の和である(D3+D4)。
【0044】
そして、本実施形態の軸継手24は、以上の構成により、そのトルク伝達効率を低下させることなく、モータ軸21に対して、より大きくウォーム軸22を傾動及び軸方向移動させることが可能となっている。
【0045】
次に、上記のように構成された本実施形態の軸継手の作用について説明する。
本実施形態の軸継手24では、嵌合体としてのボール軸受25の内輪25aにより第1の継体31及び第3の継体36間の相対回転及び軸方向移動が規制されることで、第3の継体36は、その各係合突部40の周方向位置を第1の継体31側の各係合突部39と一致させた状態で、同第1の継体31と一体に回転する。即ち、本実施形態では、これら第1の継体31の各係合突部39及び第3の継体36の各係合突部40により、係合爪48が形成されている。そして、第2の継体32に設けられた各係合孔42内に位置する各係合爪48が第1の継体31及び第2の継体32間の相対回転に基づき各係合孔42と係合することにより、第1の継体31と第2の継体32とが一体に回転する。
【0046】
ここで、本実施形態では、各弾性体47と周方向において当該各弾性体47を挟む各係合突部39,44及び各係合突部40,45との間の周方向隙間(D3+D4)の方が、第1の継体31及び第3の継体36に設けられた各係合突部39,40により構成される係合爪48と各係合孔42との間の周方向隙間(D1+D2)よりも小さい。従って、第1の継体31と第2の継体32との間の相対回転に基づいて、先ず、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間に介在された各弾性体47が、それぞれ、その周方向に位置する各係合突部39,44及び各係合突部40,45により圧縮される。そして、これらの各弾性体47が弾性変形し、第2の継体32に設けられた各係合孔42と第1の継体31とともに一体回転する各係合爪48とが係合することにより、第1の継体31に接続されたモータ軸21の回転が第2の継体32に接続されたウォーム軸22に伝達される。
【0047】
また、第2の継体32と当該第2の継体32の径方向外側に配置されたボール軸受25の内輪25aとの間、及び第3の継体36に形成された軸挿通孔35と当該軸挿通孔35に挿通されるウォーム軸22との間には径方向の隙間が設定されている。従って、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間で各弾性体47が弾性変形することにより、嵌合体としてのボール軸受25の内輪25aの軸線、即ちモータ軸21に対するウォーム軸22の傾動が許容される。
【0048】
更に、各係合突部44,45を含む第2の継体32の軸方向長さ(厚み)L1は、第1の継体31の対向面33と第3の継体36の対向面38との間の軸方向距離L0よりも短く設定されていることから、第2の継体32は、第1の継体31と第3の継体36との間で軸方向移動することが可能である。従って、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間で各弾性体47が弾性変形することにより、モータ軸21に対するウォーム軸22の軸方向移動が許容される。そして、第1の継体31の対向面33及び第3の継体36の対向面38が、それぞれ、各弾性体47を介して第2の継体32の相対的な軸方向移動を制限する規制面49として機能するようになっている。
【0049】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記構成によれば、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間に介在された各弾性体47の弾性変形に基づきモータ軸21に対するウォーム軸22の傾動及び軸方向移動を許容しつつ、第1の継体31及び第2の継体32間の直接的な係合による回転伝達が可能になる。そして、これにより、モータ軸21及びウォーム軸22間のトルク伝達効率を改善することができるとともに、各弾性体47の変形量を大きく設定して、より大きなウォーム軸の傾動及び軸方向移動を許容することができるようになる。その結果、ギヤ歯の摩耗が進んだ状態においてもウォームギヤ12及びホイールギヤ13間の歯合状態を良好に維持することができるとともに、両者間の噛み合い摩擦を低減して、より優れた操舵フィーリングを実現することができる。
【0050】
また、第1の継体31及び第3の継体36がウォーム軸22の軸方向移動を制限するストッパとして機能することにより、同ウォーム軸22の過度な軸方向移動を抑制することができる。加えて、第2の継体32の軸方向両側に配置された弾性体47の復元力により、速やかに当該第2の継体32(及びウォーム軸22)を中立位置に復帰させることができる。更に、第2の継体32から第1の継体31及び第3の継体36に向かって軸方向に突設された係合突部44,45が、第1の継体31及び第3の継体36に当接することにより、過度の圧縮による復元性の低下等といった各弾性体47の劣化を抑制して、その耐久性を向上させることができる。そして、第1の継体31とともに一体回転する各係合爪48と第2の継体32(の係合孔42)との係合に先立ち、先ず各弾性体47が周方向に圧縮されることで、両者が係合する際に生ずる接触音を低減して、高い静粛性を確保することができる。
【0051】
(2)また、軸継手24は、同軸継手24を介してウォーム軸22の基端22aを支承するボール軸受25の内輪25a内に圧入嵌合される。即ち、このような嵌合体を用いることで、構成簡素且つ容易に第1の継体31及び第3の継体36間の相対回転及び軸方向移動を規制することができる。更に、その嵌合体がボール軸受25の内輪25aのような筒体であることにより、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間に非圧縮状態で配設された各弾性体47を脱落させることなく保持することができる。そして、その軸継手24によるウォーム軸22の回動中心(傾動支点)をボール軸受25による支承点に一致させることによって、より円滑にウォーム軸22を傾動させることができるとともに、併せて、そのトルク伝達効率を更に向上させることができる。
【0052】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構によりモータ回転を減速してステリングシャフトに伝達する構成であれば、例えば、ピニオンシャフトに対してアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPS等に適用してもよい。
【0053】
・また、EPS以外の用途に用いられる軸継手に具体化してもよい。
・上記実施形態では、第1の継体31にモータ軸21が接続され、第2の継体32にウォーム軸22が接続されることとしたが、第1の継体31にウォーム軸22が接続され、第2の継体32にモータ軸21が接続される構成であってもよい。
【0054】
・上記実施形態では、第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36は、略円盤状であるとしたが、その形状は、必ずしもこれに限るものではない。
・上記実施形態では、第1の継体31及び第3の継体36に設けられた各係合突部39,40が係合爪48を構成することとした。しかし、これに限らず、第1の継体31とともに一体回転して第2の継体32に係合可能であればよい。即ち、例えば、第1の継体31又は第3の継体36の何れか一方から軸方向に係合爪が延設される構成であってもよい。そして、第1の継体31及び第3の継体36に対して嵌合体が外嵌される構成であれば、その嵌合体に係合爪を形成する等としてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、第2の継体32の周縁に形成された楔形の切欠き41が係合孔42を構成することとしたが、貫通孔を係合孔としてもよい。そして、その形状、数については、適宜変更してもよい。
【0056】
・また、係合爪48(各係合突部39,40)の形状、数についても同様に、適宜変更してもよい。尚、第2の継体32に設けられた各係合突部44,45についても、係合爪48(各係合突部39,40)の形状及び数に併せて変更するとよい。そして、第1の継体及び第2の継体を一体回転可能に係合させることが可能であれば、必ずしも係合対象は係合孔42でなくともよい。
【0057】
・上記実施形態では、第2の継体32に設けられた軸挿通孔35は、円孔37であるとしたが、その形状は、これに限るものではなく、例えば、切欠きが軸挿通孔を構成する等としてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、ボール軸受25の内輪25a内に圧入嵌合されることとした。しかし、これに限らず、別途、第1の継体31及び第3の継体36に嵌合体を外嵌することにより、第1の継体31及び第3の継体36間の相対回転及び軸方向移動を規制する構成としてもよい。
【0059】
・更に、例えば、係合爪48を構成する各係合突部39,40の先端間を結合する等、第1の継体31及び第3の継体36に嵌合体を外嵌することなく、第1の継体31及び第3の継体36間の相対回転及び軸方向移動を規制する構成であってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、各弾性体47は、非圧縮状態で第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間に配設されることとしたが、予め圧縮された状態で第1の継体31、第2の継体32及び第3の継体36間に介在される構成としてもよい。このような構成とすることで、係合爪48が第2の継体32(の係合孔42)に係合する際に生ずる接触音を更に低減することができる。また、第1の継体31及び第3の継体36を嵌合体を外嵌しない場合であっても、各弾性体47が脱落することなく保持することができる。
【0061】
・上記実施形態では、各係合突部39,44及び各係合突部40,45により周方向に略均等角度間隔で区画された第1の継体31及び第2の継体32間、並びに第2の継体32及び第3の継体36間の各空間には、それぞれ、独立した弾性体47が配設されることとした。しかし、これに限らず、その区画された空間毎に分割せず、それぞれが連結された状態の弾性部材(弾性体)を用いる構成であってもよい。
【0062】
・上記実施形態では、ボール軸受25,26によりウォーム軸22の基端22a及び先端22bを回転自在に支承する。そして、ボール軸受26の外輪26aを巻回された湾曲板バネ27の弾性力に基づき同ボール軸受26を径方向に押圧しつつ弾力的に支持する周知の支持構造により、ウォーム軸22の支承手段及び付勢手段が形成されることとした。しかし、これに限らず、例えば、ボール軸受以外の転がり軸受を用いる、或いは、コイルバネを用いてウォーム軸22を押圧する等、その他の構成により支承手段及び付勢手段を形成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、3a…コラムシャフト、9…減速機構、10…モータ、12…ウォームギヤ、12a…ウォーム歯、13…ホイールギヤ、13a…ホイール歯、21…モータ軸、22…ウォーム軸、22a…基端、22b…先端、24…軸継手、25…ボール軸受、25a…内輪、26…ボール軸受、26a…外輪、27…湾曲板バネ、31…第1の継体、32…第2の継体、33,34,38,43…対向面、35…軸挿通孔、36…第3の継体、39,40…係合突部、41…切欠き、42…係合孔、44,45…係合突部、48…係合爪、49…規制面、D1〜D4…距離、L0…軸方向距離、L1…軸方向長さ、R1,R2…直径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク伝達可能に係合する第1及び第2の継体間に弾性体を介在させることにより各継体に接続される二軸間の傾動及び軸方向の相対移動を許容する軸継手であって、
軸挿通孔を有して第2の継体と併置されることにより該第2の継体を挟んで第1の継体と同軸配置されるとともに該第1の継体との間の相対回転及び軸方向移動が規制された第3の継体と、
前記第1の継体と一体に回転して該第1の継体と前記第2の継体との間の相対回転に基づき前記第2の継体に係合することにより前記第1及び第2の継体を一体に回転させる係合爪と、を備え、
前記弾性体は、前記第1の継体と前記第2の継体との間、及び前記第2の継体と前記第3の継体との間の軸方向位置に介在されるとともに、
前記第2の継体には、周方向において前記係合爪との間に前記各弾性体を挟む係合突部が形成されること、を特徴とする軸継手。
【請求項2】
請求項1に記載の軸継手において、
前記係合突部と前記各弾性体との間、及び前記各弾性体と前記係合爪との間に形成される周方向隙間の大きさが、前記係合爪と前記第2の継体との間に形成される周方向隙間の大きさよりも小さいこと、を特徴とする軸継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の軸継手において、
前記係合爪は、前記第1及び第3の継体間において軸方向に延設されるとともに、前記第2の継体には、前記係合爪が挿通される係合孔が形成され、且つ前記係合突部は、前記第1及び第3の継体に向かって軸方向に突設されること、を特徴とする軸継手。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の軸継手において、
前記第1及び第3の継体に外嵌する嵌合体を備えること、を特徴とする軸継手。
【請求項5】
ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構によりモータ回転を減速してステリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置において、
ウォーム軸とモータ軸とを連結する請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の軸継手と、
前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転自在に支承する支承手段と、
前記ウォーム軸を前記ホイールギヤに近接する方向に傾動させる付勢手段と、
を備えること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
ウォームギヤとホイールギヤとを歯合してなる減速機構によりモータ回転を減速してステリングシャフトに伝達する電動パワーステアリング装置において、
ウォーム軸とモータ軸とを連結する請求項4に記載の軸継手と、
前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転自在に支承する支承手段と、
前記ウォーム軸を前記ホイールギヤに近接する方向に傾動させる付勢手段と、
を備えるとともに、
前記嵌合体は、前記ウォーム軸の基端を支承する転がり軸受の内輪であること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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