説明

軽合金鋳造用の冷し金

【課題】軽量で高硬度のため耐久性があり、熱膨張率が小さく、更に熱伝導率が大きく冷却能力に優れた軽合金鋳造用の冷し金を得る。
【解決手段】20重量%の硅素を含有する原材料のアルミニウム合金地金の溶湯中に、粒径10〜50μmの炭化硅素(SiC)セラミック粉末を少量ずつ溶湯中に30重量%混入して、セラミック粉末を溶湯中に均一に分散する。
このアルミニウム合金溶湯14を、上砂型15、下砂型16内に流し込み、砂型内に冷し金17を鋳造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムなどの軽合金の砂型鋳造において、鋳込まれた溶融鋳物合金の凝固冷却を促進させる軽合金鋳造用の冷し金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムなどの軽合金の砂型鋳造では、鋳型内に充填された湯が凝固する際に、軽合金が有する物理特性により、一定の収縮が生ずることは良く知られている。
【0003】
一般的に、砂型鋳造では湯の凝固時における収縮に起因して、鋳肌近傍或いは鋳肉内に引け巣が発生したり、湯が砂型内部を流れる際に生ずる空気などのガスを巻き込むことにより、ガスホールなどの鋳巣が発生することは知られている。
【0004】
従来から、この鋳巣防止のため、鋳型内の一部に冷し金と呼ばれる金属製の板材やブロックを埋設して、鋳物合金の凝固冷却を促進させる方法が行われている。凝固冷却が促進されると、鋳物の金属組織がより緻密になって、強度や伸びが向上すると共に、引け巣やガスホール等の鋳巣の発生が防止される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この冷し金の材料として、安価で軽合金と比較して硬度が高く耐久性があることから、鋳鉄が一般的に用いられている。
【0006】
しかし、鋳鉄は比重が大きく重量が大であるため、冷し金を多量に使用する場合に、(1)冷し金の砂鋳型へのセッティングの難度が増し、多大の労力を要する。(2)砂鋳型全体の重量増となり取り扱いが難しい。(3)砂鋳型の搬送時における振動の影響や、造型時に砂鋳型を反転する際に冷し金が落下し易い、等の問題がある。更に、鋳鉄の熱伝導率は金属の中では比較的小さいため、冷却効果が充分でない欠点がある。
【0007】
このような問題を解決するため、比重が鋳鉄の約3分の1と軽量で、取り扱いが容易で、かつ熱伝導率が鋳鉄の約3倍と大きく、冷却能力の高いアルミニウム合金製の冷し金が使用されることがある。しかし、アルミニウム合金の冷し金の最大の欠点として、熱膨張率が鋳鉄の2倍近くあるため、鋳造時の熱を吸収すると、砂鋳型に埋設した冷し金が膨張し、砂鋳型を破壊してしまう問題が挙げられる。
【0008】
図6は通常のアルミニウム合金製の冷し金を使用した鋳造例の説明図である。上砂型1と、アルミニウム合金製の冷し金2を埋設した下砂型3とが組み合わされ、中間部に形成された製品空間部内に、溶融アルミニウム合金を流し込み、凝固させてアルミニウム合金による鋳物4を鋳造する。
【0009】
しかし、熱膨張率の大きなアルミニウム合金による冷し金2は、鋳造に際して加熱により膨張し矢印方向に延びが発生し、冷し金2を埋設した下砂型3に亀裂を発生させてしまい、品質の良い鋳物4が得られないことがある。
【0010】
また、アルミニウム合金は硬度が低いため、耐久性が著しく劣ることも大きな問題であり、アルミニウム合金製の冷し金2は多く用いられていないのが現状である。
【0011】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、軽量で高硬度のため耐久性があり、熱膨張率が小さく、更に熱伝導率が大きく冷却能力に優れた軽合金鋳造用の冷し金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る軽合金鋳造用の冷し金の技術的特徴は、軽合金の砂型鋳造を行う際に、鋳込んだ溶融鋳物合金の凝固冷却を促進するために用いる冷し金であって、原材料のアルミニウム合金中に炭化硅素セラミック粉末を重量比で15〜30%混合したことにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る軽合金鋳造用の冷し金によれば、材料の熱膨張率が小さくなり、炭化硅素セラミック粉末を合金全体に分散することによって、材料の硬度が上昇し耐久性が飛躍的に向上する。また、熱伝導率は従来のアルミニウム合金の冷し金と比較して優れているため、鋳型内の鋳物となるべき軽合金の凝固冷却を有効に促進させることが可能となり、その結果として金属組織を緻密にすることができる。更には、引け巣の発生やガスホール等の鋳巣発生を防止でき、鋳造欠陥のない高品質な鋳物の製作が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を図1〜図5に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1において、溶解ルツボ10の中に、重量比20%の硅素(Si)を混入した原材料であるアルミニウム合金地金11が投入されている。図示しないガスバーナと耐火構造体から成るルツボ加熱装置により、溶解ルツボ10内のアルミニウム合金地金11を加熱溶解して溶湯を造り、この溶湯を更に750℃まで加熱して溶解ルツボ10内に保持する。
【0015】
次に、溶解ルツボ10内のアルミニウム合金地金11の溶湯中に、回転軸先端に撹拌羽根12を持つ撹拌装置を挿入し、毎分600〜1500回転で回転させる。そして、回転軸の周辺から粒径10〜50μmの炭化硅素(SiC)セラミック粉末13を少量ずつ溶湯中に30重量%混入して、セラミック粉末13が溶湯中に均一に分散するまで混合撹拌をする。
【0016】
図2は混合撹拌が完了し、炭化硅素セラミック粉末13が溶解ルツボ10内のアルミニウム合金溶湯14中に均一に分散された状態を示している。
【0017】
図3はこのアルミニウム合金溶湯14を、上砂型15、下砂型16内に流し込み、砂型内に厚さ20〜30mm程度の冷し金17を鋳造する例を示している。冷し金17の大きさは約20×20mm〜300×300mm、或いはそれ以上の必要な大きさや形状に鋳造することが可能である。
【0018】
表1は本実施例で製作した冷し金17の主な機械的、物理的性質と、従来の鋳鉄性冷し金、従来のアルミニウム合金冷し金との比較表である。
【0019】
なお、実施例の冷し金17は上述した通り、硅素を20%(重量)含有する原材料のアルミニウム合金地金に対し、炭化硅素セラミック粉末13の混合量は30%(重量)である。鋳鉄性冷し金はJIS:FC200相当品、アルミニウム合金製冷し金はJIS:AC2B相当品である。
【0020】
表1
実施例の冷し金 鋳鉄製冷し金 アルミニウム合金製冷し金
比重 2.78 7.25 2.70
硬度(HRB) 90 80 35
熱膨張率(10-6/℃) 12.2 9.8 23.4
熱伝導率W/(m・℃) 175 52 109
【0021】
この表1から、本実施例の冷し金17は、従来のアルミニウム合金冷し金とほぼ同等の比重、鋳鉄以上の表面硬度、鋳鉄並の熱膨張率を有し、更にアルミニウム合金冷し金の約1.6倍の熱伝導率を有している。更に、軽量で低熱膨張、高硬度で熱伝導率が大きく、鋳物用冷し金と同等の優れた物理的性質を持っている。
【0022】
このように本実施例では、原材料のアルミニウム合金地金11中に熱膨張率が小さく硬度の高い炭化硅素セラミック粉末13を混合して冷し金17を製作する。また、セラミック粉未13を混合することによって、材料の熱膨張率が小さくなることと、セラミック粉末13が合金地金11の全体に分散し、材料の硬度が上昇し耐久性が飛躍的に向上する。
【0023】
冷し金17の表面硬度はロックウェルBスケール硬度で80〜95の範囲にあることが望ましい。表面硬度が80以下では軟らかいために耐摩耗性が不足し、95以上になると材料が硬すぎて脆くなり、欠けや割れなどの不具合が起こる可能性がある。
【0024】
また、熱膨張係数が10.5〜14(×10-6/℃)の範囲にあるが望ましい。熱膨張係数が大きいと鋳造時に熱膨張によって型が割れるなどの不具合が生ずるが、この範囲内であれば特に問題となることはない。
【0025】
更に、熱伝導率は160〜180W/(m・℃)の範囲にあることが望ましい。
【0026】
混合する炭化硅素セラミック粉末13は、熱膨張率がアルミニウム合金の5分の1以下と非常に小さく、また熱伝導率はアルミニウム合金の2〜4倍とセラミックの中で最も熱伝導の良いものの1つである。更に、炭化硅素は溶融アルミニウムとなじみ性が良いので、アルミニウム合金地金11への混合分散が容易であり、またセラミック粉末13として比較的安価で入手し易い材料である。
【0027】
アルミニウム合金地金11中に混合する炭化硅素セラミック粉末13の割合を重量比15〜30%の範囲に特定したのは、セラミック粉末13の撹拌による混合は最大で約30%程度が限界である。また、15%以下の混合率では、セラミック粉末13の混合の実用的な効果が殆ど得られないためである。
【0028】
熱膨張率を下げ、また硬度を上げるために、アルミニウム合金地金11の原材料として、硅素を含むアルミニウム母合金を用いている。硅素はアルミニウムに比べて熱膨張率が小さく、またセラミックに近い硬度を持っているので、硅素成分が多くなるほどアルミニウム合金地金11自体の熱膨張率が小さくなる。更に、硬度も高くなり炭化硅素セラミック粉末13の混合と相まって、熱膨張、硬度を改善することができる。
【0029】
ただし、硅素の熱伝導率はアルミニウムより小さいので[硅素:139W/(m・℃)、Al:239W/(m・℃)]、硅素が増えるほどアルミニウム合金冷し型17の熱伝導率は低下する。そのため、熱伝導率を重視する場合には、必要に応じて硅素の量を調整することが必要である。
【0030】
ここで、原材料であるアルミニウム合金地金11の主要合金成分となる硅素を、重量比4%〜25%の範囲に特定したのは、硅素が重量比4%以下では鋳造時のアルミニウム合金溶湯14の流動性が急激に悪化するためである。また、硅素が重量比25%を超えるとアルミニウム合金溶湯14が凝固するときに、遊離硅素が偏析して金属組織にむらが発生し、機械的性質に悪影響を及ぼすためである。
【0031】
図4はこの冷し金17を使用し、砂型鋳造法により鋳造するアルミニウム合金の箱型べース鋳物18を示している。鋳物18の大きさは、外形寸法で幅方向400mm、長手方向600mm、厚さ方向150mm程度で、鋳物18の内側の肉抜き寸法は幅方向340mm、長手方向520mm、厚さ方向120mmの凹みを有している。鋳物18に機能上重要な定盤面を形成し、鋳造後にこの定盤面に全面機械加工を行うには、この面に鋳巣等の鋳造に関する欠陥発生が不可とされることから、鋳造欠陥を避けることが必要である。
【0032】
このため、冷し金17をこの加工予定面の近傍に配置するように砂型に埋設し、鋳物であるアルミニウム合金溶湯の凝固冷却を促進させることによって金属組織を緻密にし、引け巣やガスホール等の鋳巣発生を防止することが必要となる。
【0033】
図5に示すように、砂型は上砂型19と下砂型20の2つの型から構成されており、上下の砂型19、20が組み合わされた中間部に、鋳物18を鋳込むための製品空間部が形成され、下砂型20には冷し金17が埋設されている。
【0034】
砂型19、20に流入するアルミニウム合金の溶湯を取鍋21内から砂型19、20の湯口に注入する。溶湯は上砂型19と下砂型20との間の製品空間部に充分に充填され、溶湯が冷却、凝固されると、砂型19、20を割って鋳物18を取り出すことができる。
【0035】
この際に、下砂型20の冷し金17は、大きな熱膨張をすることなく、溶湯を急速に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】炭化硅素セラミック粉末を原材料のアルミニウム合金溶湯中に混合撹拌する状態の説明図である。
【図2】混合アルミニウム合金溶湯の説明図である。
【図3】混合アルミニウム合金溶湯を鋳型に流し込み、冷し金を鋳造する状態の説明図である。
【図4】鋳造する鋳物の斜視図である。
【図5】冷し金を使用してアルミニウム軽合金鋳物を鋳造する状態の説明図である。
【図6】従来のアルミニウム合金製の冷し金を用いた場合の鋳造時に発生する現象の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10 溶解ルツボ
11 アルミニウム合金地金
13 炭化硅素セラミック粉末
14 混合アルミニウム合金溶湯
15、19 上砂型
16、20 下砂型
17 冷し金
18 鋳物
21 取鍋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽合金の砂型鋳造を行う際に、鋳込んだ溶融鋳物合金の凝固冷却を促進するために用いる冷し金であって、原材料のアルミニウム合金中に炭化硅素セラミック粉末を重量比で15〜30%混合したことを特徴とする軽合金鋳造用の冷し金。
【請求項2】
前記原材料のアルミニウム合金は硅素を重量比で4〜25%含有することを特徴とする請求項1に記載の軽合金鋳造用の冷し金。
【請求項3】
表面硬度がロックウェルBスケール硬度で80〜95の硬度を有することを特徴とする請求項1に記載の軽合金鋳造用の冷し金。
【請求項4】
熱膨張係数が10.5〜14(×10-6/℃)の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の軽合金鋳造用の冷し金。
【請求項5】
熱伝導率が160〜180W/(m・℃)の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の軽合金鋳造用の冷し金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−55447(P2008−55447A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233038(P2006−233038)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)