説明

軽油基材又は軽油組成物の製造方法

【課題】比較的マイルドな条件下、長期間に亘って芳香族分が少ない軽油を製造する方法を提供する。
【解決手段】反応温度が200〜400℃、水素分圧が1.5〜10MPa、液空間速度(LHSV)が2.0h−1以上の条件下、全芳香族分が5〜25容量%で、硫黄分が2〜1,000質量ppmである軽油留分をニッケル及び亜鉛を含む触媒に接触させることにより水素化処理を行い、該軽油留分の全芳香族分を10容量%以下、硫黄分を10質量ppm以下に調整することを特徴とする軽油基材又は軽油組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油基材又は軽油組成物の製造方法に関し、特には、排出ガス中の煤、窒素酸化物、未燃焼炭化水素及び一酸化炭素等の環境負荷物質の排出量を低減させることが可能な軽油基材又は軽油組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境改善のために、軽油の品質規制値が世界的に厳しくなる傾向にある。特に、軽油中の芳香族分は、ディーゼル自動車排ガス中の粒子状物質の生成の原因となるためこれを低減することが求められている。即ち、軽油中の芳香族分を低減することによって、粒子状物質の排出抑制が期待できる。
【0003】
これに対し、特許文献1には、軽油中の芳香族分を低減する方法として、アルミナにニッケル、モリブデン、リン等を担持させた触媒を硫化し、硫化した触媒を用いることによりアロマフリー軽油を製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、水素分圧が16.5MPaという高圧条件下にて行われる必要があったり、液空間速度(LHSV)が0.5h−1という低いLHSV条件下で行われる必要があったりするため、大きな容量の高圧リアクターが必要となり、経済的に水素化することが困難である。
【0004】
また、特許文献2には、白金-パラジウム-シリカアルミナを水素化触媒として用い、アロマフリー軽油を製造する方法が記載されている。しかしながら、白金やパラジウム等の貴金属は、軽油中の硫黄分によって被毒され、活性が低下してしまうため、長期間に亘ってアロマフリー軽油を製造することに対しては、おおいに懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2004−078886号
【特許文献2】特開2004−269685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、比較的マイルドな条件下、長期間に亘って芳香族分が少ない軽油を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 反応温度が200〜400℃、水素分圧が1.5〜10MPa、液空間速度(LHSV)が2.0h−1以上の条件下、全芳香族分が5〜25容量%で、硫黄分が2〜1,000質量ppmである軽油留分をニッケル及び亜鉛を含む触媒に接触させることにより水素化処理を行い、該軽油留分の全芳香族分を10容量%以下、硫黄分を10質量ppm以下に調整することを特徴とする軽油基材又は軽油組成物の製造方法。
(2) 前記触媒は、水素化処理を行う前に、水素純度が80容量%以上の気体中、温度が200〜350℃、水素分圧が1MPa以上の条件下で20時間以上還元処理されたことを特徴とする上記(1)に記載の軽油基材又は軽油組成物の製造方法。
(3) 前記触媒は、更に酸素を含み、該触媒中のニッケル、亜鉛及び酸素の総含有量が触媒の総質量に対して90質量%以上であり、該触媒中のニッケルに対する亜鉛の質量比(Zn/Ni)が1〜15であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の軽油基材又は軽油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の軽油基材又は軽油組成物の製造方法は、比較的マイルドな条件下、長期間にわたって芳香族分が少ない軽油を製造することができるという格別の効果を奏する。また、本発明の軽油基材又は軽油組成物の製造方法によれば、硫黄分などの不純物を含む原料を用いても、芳香族の水素化活性を損なうことはない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<軽油基材又は軽油組成物の製造方法>
以下に、本発明の軽油基材又は軽油組成物の製造方法を詳細に説明する。本発明の軽油基材又は軽油組成物の製造方法は、反応温度が200〜400℃、水素分圧が1.5〜10MPa、液空間速度(LHSV)が2.0h−1以上の条件下、全芳香族分が5〜25容量%で、硫黄分が2〜1,000質量ppmである軽油留分をニッケル及び亜鉛を含む触媒に接触させることにより水素化処理を行い、該軽油留分の全芳香族分を10容量%以下、硫黄分を10質量ppm以下に調整することを特徴とする。即ち、本発明の軽油基材又は軽油組成物の製造方法に従い、全芳香族分が5〜25容量%、硫黄分が2〜1,000質量ppmである軽油留分を水素化処理することで、全芳香族分が10容量%以下、硫黄分が10質量ppm以下である軽油留分を調製することができる。また、本発明の方法により全芳香族分及び硫黄分が調整された軽油留分は、軽油基材として単独で使用してもよいし、後述する他の添加剤等と組み合わせて軽油組成物として使用してもよい。
【0010】
(触媒)
本発明に用いる触媒は、水素化触媒であり、ニッケルと亜鉛を含む。金属成分としてニッケルのみを含む触媒は従来から水素化触媒として知られているが、硫黄分によって被毒されるため、硫黄分を過度に含む留分の水素化には適さない。また、白金、パラジウム等を含む貴金属触媒も同様である。一方、本発明に用いるニッケルと亜鉛を含む触媒は、ニッケルに硫黄分が付着しても速やかに亜鉛に硫黄分が移動し、ニッケルの水素化活性は維持される。したがって、硫黄分を過度に含む留分の水素化に好適である。
【0011】
また、この触媒は、アルミナのような多孔質担体にニッケル成分、亜鉛成分を含浸、担持して焼成する製造方法や、共沈法によってニッケル成分と亜鉛成分とを沈殿させて成形、焼成等を行う製造方法により、簡便に調製できる。この中で特に好ましい製造方法は、共沈法を利用する製造方法である。共沈法により、ニッケルと亜鉛の接触を増やすことができ、ニッケルから亜鉛への硫黄分の移動を容易にすることができ、触媒の長寿命化を達成できる。
【0012】
また、本発明に用いる触媒は、水素化処理に用いる前に、還元処理されることが好ましい。即ち、本発明に用いる触媒は、還元処理を行ってから使用されるのが好ましい。当該還元処理は、水素純度が80容量%以上、好ましくは90容量%以上の気体中(以後、水素雰囲気下という。)で、処理温度が200〜350℃、好ましくは250〜300℃で、水素分圧が1MPa以上、好ましくは2MPa以上で、処理時間が20時間以上、好ましくは30時間以上の条件で行われる。なお、水素雰囲気下での処理温度が200℃未満であると、ニッケルが還元されないため好ましくない。また、該処理温度が350℃を超えると、ニッケルがシンタリングしてしまって活性が低くなるため好ましくない。
【0013】
本発明に用いる触媒において、触媒総質量に対するニッケル含有量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%、特に好ましくは3〜24質量%である。また、触媒総質量に対する亜鉛含有量は、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは30〜80質量%、特に好ましくは40〜75質量%である。ニッケル含有量が50質量%を超えたり、亜鉛含有量が20質量%未満である場合、触媒の寿命が短くなるため好ましくない。一方、ニッケル含有量が30質量%以下、亜鉛含有量が30質量%以上の場合、触媒の寿命が長くなり、また、ニッケル含有量が24質量%以下、亜鉛含有量が40質量%以上の場合には、触媒の寿命が特に長くなる。なお、ニッケル及び亜鉛の総含有量は、触媒の総質量に対して35〜85質量%、特には50〜85質量%の範囲が好ましい。
【0014】
また、本発明に用いる触媒は、上記ニッケル及び亜鉛の少なくとも一方を酸化物として含有することが望ましく、この場合、本発明に用いる触媒は、酸素を含むことになる。ここで、該触媒中のニッケル、亜鉛及び酸素の総含有量は、触媒の総質量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。また、触媒中のニッケルに対する亜鉛の質量比(Zn/Ni)は1〜15の範囲が好ましく、3〜12の範囲が更に好ましく、3〜8の範囲が特に好ましい。ニッケルに対する亜鉛の質量比(Zn/Ni)が1未満であると、水素化触媒の寿命が著しく短くなり好ましくなく、また、15を超えても水素化触媒の寿命が短くなり好ましくない。
【0015】
なお、触媒中の原子の含有率は、例えば、触媒をアルカリ融解したものを酸性溶液中に溶解し、それをICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置)で測定することによって求められる。
【0016】
本発明に用いる触媒がニッケル及び/又は亜鉛を酸化物として含有する場合、ニッケル酸化物の結晶子径は4.5nm以下、好ましくは4.0nm以下であり、また、亜鉛酸化物の結晶子径は12nm以下、好ましくは10nm以下である。ここで、ニッケル酸化物の結晶子径が4.5nmを超えると、ニッケルと炭化水素油との接触効率が低下して硫黄を取り込む能力が低下するため好ましくなく、一方、亜鉛酸化物の結晶子径が12nmを超えると、酸化亜鉛が硫黄を固定化する効率が低下するため好ましくない。また、ニッケル酸化物の結晶子径が4.0nm以下であれば、ニッケルと炭化水素油との接触効率が高いため硫黄を取り込む能力が特に高く、一方、亜鉛酸化物の結晶子径が10nm以下であれば、酸化亜鉛が硫黄を固定化する効率が特に高い。なお、酸化物の結晶子径は、X線回折装置(XRD)を用いて測定される。
【0017】
なお、亜鉛酸化物の結晶子径とニッケル酸化物の結晶子径との比(亜鉛酸化物の結晶子径/ニッケル酸化物の結晶子径)は、2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。亜鉛酸化物の結晶子径とニッケル酸化物の結晶子径の比が2未満であると、ニッケルと炭化水素油との接触効率が低下して炭化水素油中の硫黄化合物を水素化触媒中に取り込む能力が低下すると同時に、亜鉛が硫黄を固定化する効率が低下するため好ましくない。
【0018】
本発明に用いる触媒は、比表面積が好ましくは50m/g以上であり、更に好ましくは100〜200m/gである。このように増大された比表面積は、主として特定の量の硫黄を含む硫黄分が関与することに起因するものと推定されるが、比表面積が50m/g未満であると、水素化触媒の寿命が充分な長さではない。また、比表面積が200m/gを超えると、水素化触媒の嵩密度が小さくなって一定容量の反応器に充填できる質量が少なくなり、長寿命化を充分に図ることができないため好ましくない。なお、触媒の比表面積は、通常、窒素吸着法により測定され、例えば、窒素吸着−脱着を用いたBET法で測定される。
【0019】
(軽油留分)
本発明の水素化処理の対象となる原料の軽油留分は、全芳香族分が5〜25容量%であり、好ましくは5〜10容量%、更に好ましくは11〜25容量%である。本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物中の芳香族分を10容量%以下にするために、上記軽油留分の芳香族分は25容量%以下である。一方、上記軽油基材又は軽油組成物中の芳香族分が低すぎても発熱量が低下することで燃料消費量が増加する為、上記軽油留分の芳香族分は5容量%以上である。また、本発明の水素化処理の対象となる原料の軽油留分は、硫黄分を2〜1,000質量ppm含有する。軽油留分の硫黄分は、好ましくは2〜100質量ppm、更に好ましくは2〜40質量ppm含む。硫黄分が1,000質量ppmを超えると、水素化触媒の寿命が短くなり好ましくない。なお、本発明の製造方法によれば、上記水素化処理の対象となる原料の軽油留分の硫黄分が10〜1,000質量ppmの範囲内であっても、長期間に亘って芳香族の水素化活性を維持することができる。
【0020】
本発明の水素化処理の対象となる原料の軽油留分としては、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等から得られる各種の軽油留分、すなわち沸点が140〜400℃の範囲で留出する留分を用いることができる。硫黄分を1,000質量ppm以下とするため、予めニッケル、コバルト、モリブデンをアルミナ等の担体に担持した水素化脱硫触媒によって脱硫処理することも、好適に用いられる。
【0021】
(反応条件)
上記軽油留分を触媒と接触させる条件(水素化処理条件)としては、反応温度が200〜400℃であり、好ましくは250〜350℃である。反応温度が200℃未満であると、水素化速度が低下し、効率的に水素化ができず好ましくない。また、反応温度が400℃を超えると、水素化触媒がシンタリングし、水素化速度が低下し好ましくない。
【0022】
また、脱硫の際に使用する水素は、メタン等の不純物を含んでいてもよいが、水素コンプレッサーが大きくなり過ぎないよう、水素純度は50容量%以上が好ましく、さらには80容量%以上、特には95%以上が好ましい。なお、水素中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれると水素化触媒の寿命が短くなるので、水素中の硫黄分は、1,000容量ppm以下が好ましく、さらには100容量ppm以下、特には10容量ppm以下が好ましい。
【0023】
また、上記軽油留分を触媒と接触させる条件(水素化処理条件)としては、反応圧力が、水素分圧で1.5〜10MPaである。水素分圧は、3〜10MPaが好ましく、更に好ましくは4〜10MPa、より好ましくは4〜8MPaである。ここで、水素分圧が1.5MPa未満であると、水素化速度が低下し、効率的に水素化ができず好ましくない。また、水素分圧が10MPaを超えると、分解反応等の副反応が進行するおそれがあり好ましくない。
【0024】
更に、上記軽油留分を触媒と接触させる条件(水素化処理条件)としては、液空間速度(LHSV)が、2.0h−1以上であり、好ましくは2.5h−1以上である。また、LHSVは、好ましくは50.0h−1以下、より好ましくは20.0h−1以下、より一層好ましくは10.0h−1以下である。LHSVが2.0h−1未満であると、通油量が制限されたり、水素化リアクターが大きくなり過ぎたりするため、経済的に水素化できず好ましくない。また、LHSVが50.0h−1を超えると、水素化するのに充分な接触時間が得られず、水素化率が低下するため好ましくない。なお、LHSVが2.0h−1以上であれば、充分経済的に水素化を行うことができ、LHSVが20.0h−1以下であれば、接触時間が充分に長いため、水素化率が向上し、10.0h−1以下であれば、水素化率が特に高くなる。
【0025】
なお、上記軽油留分を触媒と接触させる条件(水素化処理条件)として、水素/油比は特に限定されるものではないが、該水素/油比は1〜1000NL/Lが好ましく、10〜500NL/Lが更に好ましく、50〜500NL/Lが特に好ましい。水素/油比が1NL/L未満であると、充分に水素化が進行せず好ましくない。また、水素/油比が1000NL/Lを超えると、水素流量が多くなりすぎて、水素コンプレッサーが大きくなり好ましくない。
【0026】
<軽油基材又は軽油組成物>
以下に、本発明の方法により製造される軽油基材又は軽油組成物を詳細に説明する。本発明の方法により製造される軽油基材又は軽油組成物は、上記水素化処理により調整させた全芳香族分が10容量%以下で且つ硫黄分が10質量ppm以下である軽油留分を単独で用いるか又は他の添加剤等と組み合わせることで得られる。
【0027】
上記軽油留分と組み合わせることが可能な添加剤としては、低温流動性向上剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤が挙げられる。低温流動性向上剤としては、エチレン共重合体などを用いることができるが、特には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。耐摩耗性向上剤としては、例えば長鎖脂肪酸(炭素数12〜24)又はその脂肪酸エステルが好ましく用いられ、10〜500質量ppm、好ましくは50〜100質量ppmの添加量で十分に耐摩耗性が向上する。
【0028】
また、上記水素化処理により全芳香族分及び硫黄分が調整された軽油留分に、灯油留分、GTL、BTXを製造する際の副生成留分、潤滑油を製造する際の副生成留分、ノルマルパラフィン化合物、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン化合物、イソパラフィン系溶剤、芳香族化合物、芳香族系溶剤、バイオマス由来の燃料基材、ナフテン化合物、ナフテン系溶剤、等を適宜配合して、後述の性状、品質に合った軽油組成物を調製することができる。
【0029】
(セタン価)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物において、セタン価は56〜70の範囲であることが好ましい。セタン価が低すぎると低温時の始動性が悪化し、未燃焼の炭化水素排出量が増加する為、セタン価は56以上が好ましく、更に好ましくは58以上である。一方、セタン価が高すぎると高負荷時に着火し易くなり、予混合期間が十分に取れなくなって、煤の排出量が増加する為、セタン価は70以下が好ましく、更に好ましくは68以下である。ここで、セタン価は、JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に規定された方法で測定されるものである。
【0030】
(芳香族分)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、全芳香族分を10容量%以下にすることが必要である。全芳香族分が高すぎると、煤の排出量が増加し、また発熱量が増加することで窒素酸化物排出量も増加する為、全芳香族分は10容量%以下であり、好ましくは8容量%以下、より好ましくは4容量%以下である。一方、芳香族分が低すぎても発熱量が低下することで燃料消費量が増加する為、全芳香族分は好ましくは1容量%以上、更に好ましくは2容量%以上である。また、2環芳香族分は、煤の排出量を減少させるためには、2容量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.8容量%以下である。さらには、同様に煤の排出量を減少させるためには、3環以上の芳香族分は、1容量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.3容量%以下である。なお、これら芳香族分は、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に規定された方法で測定されるものである。
【0031】
(密度)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、15℃における密度が0.815g/cm3〜0.825g/cm3であることが好ましい。密度をこの範囲にすることにより、燃費を良好に維持でき、排出ガス性状を最適化することが出来る。該密度は、良好な燃費を維持する観点から、0.820g/cm3を超え0.825g/cm3以下が更に好ましい。該密度は、JIS K2249「原油及び石油製品密度試験方法」に規定された方法で測定されるものである。
【0032】
(動粘度)
また、本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、30℃における動粘度が4.1〜5.0mm2/sの範囲であることが好ましい。動粘度をこの範囲にすることにより、燃料噴射ポンプでの潤滑性を保持することができ、また、燃料噴射時の燃料の微粒化を促進して排出ガス性状を良好にすることができる。該動粘度は、潤滑性及び排出ガス性状を更に向上させる観点から、更に好ましくは4.10〜4.50mm2/sの範囲である。ここで、該動粘度は、JIS K2283「動粘度試験方法」に規定された方法により、30℃で測定されるものである。
【0033】
(蒸留性状)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、揮発性を良好にすることにより煤の排出量を低減し、また、燃費を良好に維持する観点から、90%留出温度が325〜340℃の範囲であることが好ましい。なお、該90%留出温度は、揮発性及び燃費の更なる向上の観点から、330℃〜338℃の範囲内が更に好ましい。なお、これら蒸留性状は、JIS K2254「蒸留試験方法」に規定された方法により求められるものである。
【0034】
(硫黄分)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、排出ガス中の硫黄酸化物の低減、及び排出ガスの後処理装置の耐久性向上の観点から、硫黄分は10質量ppm以下である。更に、NOx吸蔵還元触媒を装着した車両においては、該触媒の硫黄被毒の再生に燃料を使用するので、硫黄分の低減は、燃費の向上にも寄与する。そして、これらの効果は、硫黄分が低い程顕著であるため、硫黄分は、1質量ppm以下であることが更に好ましい。なお、該硫黄分は、JIS K2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」に規定された方法で測定されるものである。
【0035】
(真発熱量)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、燃費を良好にするために、真発熱量を好ましくは42800〜43350kJ/kg、更に好ましくは43100〜43300kJ/kgの範囲とする。ここで、該真発熱量は、JIS K2279「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」に規定された方法により求められるものである。
【0036】
(2環以上の部分水素化芳香族分)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、煤の排出量を低減し、また、燃費を良好に維持する観点から、2環以上の部分水素化芳香族分は9容量%未満が好ましく、更に好ましくは5容量%以下である。ここで、2環以上の部分水素化芳香族分とは、ビフェニルを含む2環以上の芳香族化合物を部分的に水素化した芳香族化合物であって、水素化されていない少なくとも1つのベンゼン環と、少なくとも2つの水素原子がベンゼン環に付加した(水素化された)少なくとも1つの環とを有する芳香族化合物の含有量(容量%)を意味する。例えば2環以上の部分水素化芳香族化合物としてテトラリン、9,10−ジヒドロアントラセンがある。なお、2環以上の部分水素化芳香族分は、水素化脱硫の条件を適宜選択することで調整することができる。2環以上の部分水素化芳香族分が多すぎると、2環以上の芳香族分は低下し易くなるが、後述するナフテン分やパラフィン分が少なくなり、煤の排出量が増加し易くなる。
【0037】
(ナフテン分)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、煤の排出量を低減し、また、燃費を良好に維持する観点から、ナフテン分は52〜75容量%が好ましく、更に好ましくは55〜70容量%である。なお、ここでいうナフテン分とは、ナフテン系炭化水素、即ち環状飽和炭化水素の含有量(容量%)を意味する。
【0038】
(ナフテン分とパラフィン分の容量比)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、煤の排出量を低減し、また、燃料噴射ポンプでの潤滑性を保持することができる観点から、ナフテン分(N)とパラフィン分(P)の容量比(N/P)が好ましくは1.8〜2.2、より好ましくは1.9〜2.2である。なお、ここでいうパラフィン分とは、パラフィン系炭化水素、即ち鎖状飽和炭化水素の含有量(容量%)を意味する。
【0039】
なお、上記の2環以上の部分水素化芳香族分、ナフテン分及びパラフィン分の分析には、Agilent Technologies社製HP−6890N型FID検出器付きGC及び日本電子社製AccuTOF JMS−T100GC飛行時間型質量分析計からなるGCシステムを用いた。詳細な分析条件は次の通りである。
【0040】
1次カラム:微極性カラム(Supelco社製PTE−5、長さ30m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
モジュレータ中空カラム:長さ2m、内径0.25mm
2次カラム:高極性カラム(Supelco社製SpelcoWAX10、長さ2m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
昇温条件:10℃/分(50℃(5分保持)から280℃(27分保持))
注入口温度:280℃
注入量:1.0μl
スプリット比:100:1
キャリアガス:ヘリウム(He)、1.0ml/分
モジュレータ温度:下記のコールド温度、ホット温度を繰り返す。
ホットジェットガス温度:150℃(5分保持)から320℃(33分保持)に10℃/分で昇温。
コールドジェットガス温度:約−140℃
モジュレータ頻度:6秒間で0.3秒間ホット温度、その後5.7秒間コールド温度。
インターフェイス中空カラム:長さ0.5m、内径0.25mm
FIDガス条件:水素(45mL/分)、空気(450mL/分)、メークアップヘリウム(25mL/分)
【0041】
ここで、上記GCシステムは、炭素数7〜44の化合物を測定することが可能であり、測定したピーク(山形)の溶出時間とマススペクトルから、それぞれのピーク(山形)に対応する化合物を同定する。同定された全ピーク(山形)の合計を含有量合計(100ピーク体積%)とし、それぞれのピーク(山形)から対応するそれぞれの化合物の含有量をピーク体積%として算出し、これを容量%とする。
【0042】
(H/C比)
本発明の製造方法で得られる軽油基材又は軽油組成物においては、微小粒子の個数をさらに低減する観点から、水素/炭素比(H/C比)を1.8〜2.0の範囲にすることが好ましく、特には1.95〜2.0の範囲にすることが好ましい。該H/C比は、有機元素分析により水素(H)分と炭素(C)分を測定して、H/C比(モル比)を求めるものである。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(本発明の水素化処理に用いる水素化触媒の調製)
硫酸亜鉛七水和物172.5g及び硫酸ニッケル六水和物52.6gを水300mLに溶解し、硫酸を滴下して酸性溶液Aを調製した。また、炭酸ナトリウム104gを水300mLに溶解したアルカリ溶液Bを調製した。pH7.0の蒸留水600mLを温度60℃に加温撹拌しながら、上記調製した酸性溶液Aとアルカリ溶液Bとを滴下した。酸性溶液Aとアルカリ溶液Bは、ほぼ同時に滴下を開始し、60分で滴下を終了した。その後、1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して水素化触媒(I)を得た。
水素化触媒(I)は、ニッケル含有量が17.4質量%、亜鉛含有量が59.3質量%、ナトリウム含有量が0.01質量%であり、水素化触媒(I)中のニッケルに対する亜鉛の質量比(Zn/Ni)は3.41であった。XRD測定からニッケルはNiOとして、亜鉛はZnOとしてのみ存在しており、NiO含有量は22.1質量%、ZnO含有量は73.5質量%であった。また、ニッケル酸化物(NiO)の結晶子径は3.5nm、亜鉛酸化物(ZnO)の結晶子径は10nmであり、亜鉛酸化物の結晶子径とニッケル酸化物の結晶子径の比は2.9であった。比表面積は101m/gであった。尚、金属分の含有量はアルカリ融解ICP法で測定し、酸化物の結晶子径はXRDで測定し、比表面積は窒素吸脱着法によるBET法で測定した。
【0045】
(本発明の水素化処理の対象となる原料の軽油留分の調製)
中東系の原油を蒸留して得られた直留軽油を70容量%、中東系の原油を蒸留して得られた減圧軽油留分を水素化脱硫した後に接触分解して得られた軽質接触分解油を10容量%及び減圧残油を主成分とする重質油を熱分解処理して得られた熱分解油を20容量%混合し軽油留分Aを得た。
次に、担持法にて調製したCoMo/アルミナ(コバルト含有量3質量%、モリブデン含有量13質量%)とNiMo/アルミナ(ニッケル含有量3質量%、モリブデン含有量12質量%)とを容積比で1:3となるように反応管に充填した。そして、この反応管に、前処理としてジメチルジスルフィド1質量%を含む軽油を300℃、5MPaの水素共存下で通油し、硫化処理を行った。その後、この反応管に軽油留分Aを通油し、反応温度345℃、水素分圧7.0MPa、LHSVが1.2hr−1、水素/油供給比が440NL/Lの条件下で反応させ、原料となる軽油留分である、軽油留分Bを得た。軽油留分Bの性状を表1に示す。
【0046】
(実施例1)
水素化触媒(I)を反応管に充填し、これに水素ガス(純度100容量%)を温度300℃、3.0MPaにて40hr流通させ、水素化触媒(I)の還元処理を行った。その後、この反応管に軽油留分Bと水素を通油し、反応温度が300℃、水素分圧が3.0MPa、LHSVが3.0hr−1、水素/油供給比が400NL/Lの条件で800時間水素化反応させ、水素化軽油Cを得た。水素化軽油Cの性状を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
実施例1において水素分圧を6.0MPaとした以外は、実施例1と全く同様にして水素化反応を行い、水素化軽油Dを得た。水素化軽油Dの性状を表1に示す。
【0048】
(実施例3)
実施例1において水素分圧を8.0MPaとした以外は、実施例1と全く同様にして水素化反応を行い、水素化軽油Eを得た。水素化軽油Eの性状を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
アルミナにニッケルとモリブデンを担持した触媒(II)(ニッケル含有量3質量%、モリブデン含有量12質量%)に前処理としてジメチルジスルフィド1質量%を含む軽油を300℃、5MPaの水素共存下で通油し、硫化処理を行った。その後、この反応管に低硫黄の水素化軽油Eと水素を通油し、反応温度が300℃、水素分圧が3.0MPa、LHSVが3.0hr−1、水素/油供給比が400NL/Lの条件で800時間反応させ、水素化軽油Fを得た。水素化軽油Fの性状を表1に示す。
【0050】
(比較例2)
比較例1において水素分圧を10.0MPa、LHSVを1.0hr−1とした以外は、比較例1と全く同様にして水素化処理を行い、水素化軽油Gを得た。水素化軽油Gの性状を表1に示す。
【0051】
表1の結果から、本発明の方法によって、硫黄分を過度に含む軽油留分の全芳香族分を長期にわたって低レベルまで低減できることが分かる。
【0052】
なお、軽油留分及び水素化軽油の分析は、上述した方法によるが、H/C比については、有機元素分析装置(LECO社製CHN−1000型)を用いて、H分とC分を測定して、両者のモル比を求めた。また、セタン指数はJIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に規定された方法で測定し、芳香族分はJPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に規定された方法で測定した。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応温度が200〜400℃、水素分圧が1.5〜10MPa、液空間速度(LHSV)が2.0h−1以上の条件下、全芳香族分が5〜25容量%で、硫黄分が2〜1,000質量ppmである軽油留分をニッケル及び亜鉛を含む触媒に接触させることにより水素化処理を行い、該軽油留分の全芳香族分を10容量%以下、硫黄分を10質量ppm以下に調整することを特徴とする軽油基材又は軽油組成物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、水素化処理を行う前に、水素純度が80容量%以上の気体中、温度が200〜350℃、水素分圧が1MPa以上の条件下で20時間以上還元処理されたことを特徴とする請求項1に記載の軽油基材又は軽油組成物の製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、更に酸素を含み、該触媒中のニッケル、亜鉛及び酸素の総含有量が触媒の総質量に対して90質量%以上であり、該触媒中のニッケルに対する亜鉛の質量比(Zn/Ni)が1〜15であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軽油基材又は軽油組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−213898(P2011−213898A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84095(P2010−84095)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】