説明

軽量気泡コンクリート材の表面加工方法及び軽量気泡コンクリート材

【課題】ALC板の表面加工方法及び表面加工装置において、溝部に沿って形成される破砕面のパターンの自由度を高める。
【解決手段】ALC板50の表面にライン状に延びた複数の溝部51を形成する。そして、開閉可能な一対の破砕爪21,21を有した破砕工具20を、一対の破砕爪21,21が閉じた状態で溝部51の中に下降させる。次に、破砕工具20を溝部51の中から上昇させながら、一対の破砕爪21,21を開いて溝部51の相対する側面部にそれぞれ衝突させる。これにより、溝部51に沿った破砕面52を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート材の表面加工方法及び軽量気泡コンクリート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場において生産及び加工された後で建築物の外壁部分に取り付けられる外壁材が開発されている。その中でも、軽量であるために施工し易い外壁材として、軽量気泡コンクリート板が多く用いられている。以降の説明では、軽量気泡コンクリート板を、単にALC(Autoclaved Light-Weight Concrete)板と呼ぶことにする。
【0003】
ALC板の表面には、建築物の外見を向上させる目的で、様々な意匠面が形成される。近年では、建築物の需要者の趣向に応じて、自然石材のような石割調の破砕面を表面に有したALC板が注目されている。
【0004】
以下に、従来の破砕面を有したALC板の表面加工方法について説明する。先ず、切削工具等を用いて、ALC板の表面に、ライン状の溝部を形成する。次に、1枚の破砕爪を溝部の中に下降させ、その破砕爪を溝部の側面部に衝突させることにより、溝部に沿って破砕面を形成する。
【0005】
さらに詳しく説明すると、1枚の破砕爪は回転軸を中心として回転可能に構成され、その先端が溝部の側面部に衝突する構成を有している。この破砕爪の衝突時の衝撃により、当該側面部を破砕する。その後、破砕爪を逆回りに回転させて、破砕爪の先端を反対側の側面部に衝突させ、当該側面部を破砕する。こうして、溝部に沿って、その両側に破砕面が形成される。
【0006】
なお、この種の表面加工方法については、例えば特許文献1、2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−169264号公報
【特許文献2】特許第3969811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した表面加工方法では、破砕爪を回転させるだけで破砕面を形成していたので、破砕面のパターン(即ち形状や模様)の自由度が制限されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、その主たる特徴構成は以下の通りである。
【0010】
即ち、本発明の軽量気泡コンクリート材の表面加工方法は、ライン状に延びた溝部を形成し、回転可能な破砕爪の先端部を前記溝部の中に下降させ、前記破砕爪を前記溝部から上昇させながら回転させて前記溝部の側面部に衝突させることにより、前記溝部に沿った破砕面を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の軽量気泡コンクリート材は、ライン状に延びた溝部を形成し、回転可能な破砕爪の先端部を前記溝部の中に下降させ、前記破砕爪を前記溝部から上昇させながら回転させて前記溝部の側面部に衝突させることにより、前記溝部に沿った破砕面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、破砕爪を溝部から上昇させながら回転させて溝部の側面部に衝突させることにより、破砕爪の衝突によって溝部の側面部に加わる破砕力の方向と大きさを制御できる。これにより、軽量気泡コンクリート材の破砕面のパターンの自由度を高め、需用者の趣向に合わせて、より多様な石割調のデザイン加工を施すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態によるALC材の表面加工装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の破砕工具の構成を示す図である。
【図3】図1におけるALC板を示す平面図である。
【図4】図3のA−A線に沿った断面図及び破砕爪の断面図である。
【図5】図3のA−A線に沿った断面図及び破砕爪の断面図である。
【図6】図3のA−A線に沿った断面図及び破砕爪の断面図である。
【図7】破砕爪の速度ベクトルを示す図である。
【図8】図6におけるALC板の平面図である。
【図9】図6におけるALC板の平面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の変形例によるALC板の平面図である。
【図11】本発明の第1の実施形態の変形例によるALC板の平面図である。
【図12】本発明の第1の実施形態の変形例による破砕爪の断面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態による破砕爪を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態による破砕爪を示す図である。
【図15】本発明の第1及び第2の実施形態の変形例による破砕爪の断面図である。
【図16】本発明の第1及び第2の実施形態の変形例による破砕爪の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態によるALC材の表面加工方法及びALC材の表面加工装置について説明する。この表面加工方法は、ALC材の表面に自然石材のような石割調の破砕面を形成するものである。以下の説明においては、ACL材は表面が平坦な平板状のALC板であるとして説明する。
【0015】
先ず、ALC板の表面加工装置について図面を参照して説明する。図1は、この表面加工装置を示す概略の斜視図であり、図2は、図1の表面加工装置10の破砕工具20の構成を示す図であり、図1の破砕工具20をX方向から見た図に対応している。
【0016】
図示のように、このALC板の表面加工装置10は、破砕工具20と、破砕工具20を移動させる移動装置30、ALC板50がその上面に載置される載置台40を備えている。
【0017】
破砕工具20は、移動装置30の装着ヘッドに着脱自在に取り付けられる。移動装置30は、装着ヘッドに装着された工具、例えば破砕工具20を載置台40の上面に対して水平方向、即ちX方向及びY方向、及びその上面に対して垂直方向であるZ方向に移動させるように構成されている。この場合、移動装置30は、装着ヘッドに装着された工具を水平方向においては任意の方向に移動させることができるように構成されている。この場合、工具はX方向とY方向の両方の方向に同時移動する。
【0018】
移動装置30は、例えば数値制御装置であり、装着ヘッドの座標、X、Y、Z方向への移動距離、移動速度がプログラムにより制御可能になっている。
【0019】
破砕工具20は、ALC板50を破砕するための一対の破砕爪21,21を備えており、シリンダーの往復運動を回転運動に変換するクランク機構を用いて、一対の破砕爪21,21を回転軸22に対して回転させることにより、一対の破砕爪21,21を開閉自在に構成されている。各破砕爪21は、例えば鋼板からなり、ALC板50を破砕するのに十分な強度を持っている。
【0020】
破砕工具20の詳細な構成を説明すると、回転軸22を中心にそれぞれ回転可能に
構成された一対の回転部23,23が設けられている。回転軸22は、破砕工具20を収納している筐体に固定されX方向に延びている。一対の破砕爪21,21は、それぞれ一対の回転部23,23の下端部23Aに固定されている。
【0021】
一方、一対の回転部23,23の上方には、その動力源としてエアシリンダーが設けられている。このエアシリンダーのシリンダー軸25は、空気圧の調節により垂直方向(Z方向)に往復運動が可能に構成されている。そして、エアシリンダーのシリンダー軸25は、一対の回転部23のそれぞれの上端部23B,23Bと一対のクランクシャフト24,24を介して連結されている。この場合、一対のクランクシャフト24,24の一端はそれぞれシリンダー軸25の下端部に対して回転可能に係合され、一対のクランクシャフト24,24の他端は、それぞれ一対の回転部23,23の上端部23Bに対して回転可能に係合されている。
【0022】
係る構成によれば、エアシリンダーのシリンダー軸25の往復運動によって一対の回転部23,23が互いに逆回りに回転し、これに伴い、一対の破砕爪21,21が開閉する。即ち、図2(A)のように閉じた一対の破砕爪21,21が、図2(B)のように開く場合を説明すると、シリンダー軸25が垂直方向に上昇することにより、左側の回転部23は回転軸22を中心に右回転し、右側の回転部23は回転軸22を中心に左回転する。これにより、一対の破砕爪21,21は開く。
【0023】
逆に、図2(B)のように開いた一対の破砕爪21,21が、図2(A)のように閉じる場合は、シリンダー軸25が垂直方向に下降することにより、左側の回転部23は回転軸22を中心に左回転し、右側の回転部23は回転軸22を中心に右回転する。これにより、一対の破砕爪21,21は閉じる。
【0024】
なお、上述のクランク機構においてエアシリンダーの代わりに他のタイプのシリンダー、例えば油圧シリンダーを用いることもできる。
【0025】
次に、上述した表面加工装置を用いたALC板50の表面加工方法について説明する。先ず、図3に示すように、ALC板50を載置台40の上面に載置し、ALC板50の表面に、X方向に互いに平行にライン状に延びる複数の溝部51を形成する。この場合、移動装置30の装着ヘッドにミリングマシン等の切削工具を装着して溝形成加工を行うことができる。
【0026】
次に、ALC板50の表面に溝部51に沿った破砕面52を形成する工程について説明する。この場合、移動装置30の装着ヘッドから切削工具を取り外し、その代わりに前記破砕工具20を装着する。そして、図4に示すように、移動装置30により切削工具20を垂直方向(即ちZ方向)に下降させることで、一対の破砕爪21,21を閉じた状態で溝部51の中に下降させる。この時、破砕爪21,21の溝部51内への下降深さ、つまり溝部51の底部と破砕爪21,21との距離は移動装置30により調節できる。
【0027】
この状態から、図5及び図6に示すように、移動装置30により破砕工具20を垂直方向(即ちZ方向)に上昇させることにより、一対の破砕爪21、21を溝部51から上昇させながら、一対の破砕爪21、21を開いて溝部51の相対する側面部に同時に衝突させることにより、当該側面部からALC板50の表面にわたる部分を破砕し、溝部51に沿った破砕面52を形成する。
【0028】
図5の衝突時の状態を更に詳しく分析すると、破砕爪21の破砕力はその速度ベクトルによって決まる。即ち、図7(A)に示すように、衝突点Pにおける破砕爪21の速度ベクトルVは、破砕爪21の回転軸22を中心とした回転による速度ベクトルV1と、破砕爪21の上昇による垂直方向の速度ベクトルV2の合成ベクトルである。
【0029】
速度ベクトルV1の大きさは、シリンダー軸25の運動速度を制御することにより調節できる。また、速度ベクトルV2の大きさは、移動装置30による破砕工具20の上昇速度を制御することによる調節できる。即ち、破砕爪21の回転速度と上昇速度という2つのパラメータを制御することで、破砕力の働く方向と大きさを調節することができる。つまり、速度ベクトルV2を大きくすれば、破砕力のベクトルはより垂直方向に傾き、速度ベクトルV2を小さくすれば、破壊力のベクトルはより水平方向に傾くことになる。このように破壊力の大きさだけでなく方向を変更可能にすることにより、より多様なパターンを持った破砕面52を形成することができる。
【0030】
もちろん、破砕爪21,21の溝部51内への下降深さを変更することにより、衝突点Pの垂直位置も変わってくるので、これによっても異なるパターンを得ることができる。
【0031】
これに対して、図7(B)に示すように、破砕工具20が上昇せず、単に、破砕爪21が溝部51の中で回転軸22を中心に回転して開く場合は、衝突点Pにおける破砕力は、速度ベクトルV1によってのみ決定されるため、破砕力の方向を調節することはできない。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、一対の破砕爪21、21を溝部51から上昇させながら、一対の破砕爪21、21を開いて溝部51の側面部に衝突させているので、破砕面52のパターンの自由度をより高めることができる。つまり、需用者の趣向に合わせて、より多様なパターンを有した石割調のデザイン加工を施すことが可能になる。
【0033】
また、破砕面52を形成するために要する加工時間に着目すると、一対の破砕爪21を開く構成によって、溝部51の両側の側面部を一度に破砕できるため、1つの破砕爪を左右に旋回させる場合に比して、破砕面52を形成するための加工時間を高めて、生産効率を向上させることができる。
【0034】
以上に示した破砕爪21の開閉による破砕面52の形成を、溝部51の他の箇所に対しても繰り返し行う。即ち、移動装置30によって破砕工具20をX方向、即ち、溝部51の延びる方向に沿って移動させ、上記工程と同様に破砕面52を形成する。
【0035】
この繰り返しによって形成された破砕面52を平面的に模式的に表すと、図8及び図9のようになる。同図の例では、破砕面52は、互いに隣接する溝部51の間では連続していないが(つまり、ALC板50の表面に平坦部が残されているが)、これらの溝部51の間で連続するように形成されてもよい。
【0036】
図8、図9の例では、溝51及び破砕面52はX方向に延びているが、移動装置30によりその方向は自由に設定することができ、例えば、図8、図9において斜め方向に延びるように形成することもできる。
【0037】
また、ALC板50に形成された複数の溝部51は、1つの方向に沿ったものに限定されない。即ち、上記ALC板50の変形例として、図10に示すように、ALC板60に、例えばX方向に沿った溝部61、及びそれに交差するY方向に沿った溝部62からなる格子状の溝部を形成してもよい。この場合、図11に示すように、最初に溝部61に沿って破砕面63を形成し、その後、溝部61と交差する溝部62に沿って破砕面63を形成すればよい。
【0038】
なお、上記構成の破砕爪21の変形例として、図12(A)あるいは図12(B)に示すように、一対の破砕爪21の先端の垂直位置は互いにずらされていてもよい。これにより、溝部51の両側において、左右非対称の破砕面52をより容易に形成することができる。また、上述した第1の実施形態において、破砕面52を、より自然な石割調、即ち、より高い不規則性を有した破砕面とするために、破砕爪21の形状を変更してもよい。この場合について、以下に、本発明の第2の実施形態として図面を参照して説明する。図13及び図14は、X方向に沿って延びる一対の破砕爪21,21を、Y方向からみたときの図である。
【0039】
図13に示すように、各破砕爪21,21の先端は、溝部51が延びたX方向に沿って、互いに非対称の波形状を有している。図の例では、一対の破砕爪21,21のうち、1枚の破砕爪21のみを示している。これにより、溝部51の両側において、左右非対称であって、第1の実施形態よりも高い不規則性を有した破砕面52を形成することができる。
【0040】
さらに、破砕工具20を溝部51に沿って移動させて、破砕面52の形成を繰り返す際に、図14に示すように、破砕工具20の移動の前と後では、溝部51の中での破砕爪21が、溝部51に沿って一部重畳するようにシフトされてもよい。
【0041】
これにより、破砕工具20の移動の前と後では、破砕爪21が一部重畳する距離Dの領域において、異なる破砕爪21のパターンが現れる。即ち、この領域における溝部51の側面部では、異なる破砕爪21のパターンで2回の破砕が行われることになり、破砕面52の不規則性を高めることができる。
【0042】
破砕面52の不規則性をより高めるためには、破砕工具20の移動を繰り返す毎に、破砕爪21の重畳する距離Dを変化させればよい。しかし、所望する不規則性の程度によっては、破砕爪21の重畳する距離Dを一定値に固定してもよい。距離Dの調節は、移動装置30によって行われる。
【0043】
このような工程によれば、単に波形状の破砕爪21によって溝部51の側面部を破砕するのに比べて、破砕面52の不規則性を所望する程度に調節できるため、より高い自由度をもって破砕面52のパターンの形成を行うことができる。
【0044】
なお、本発明は上記いずれの実施形態にも限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で変更が可能なことは言うまでもない。例えば、第1の実施形態及び第2の実施形態の変形例として、各破砕爪21の先端に、図15に示すような突起部21A、あるいは図16に示すような突起部21Bを設けてもよい。この突起部21A,21Bを設けることにより、溝部51の側面部の衝突点Pに、集中的に破砕力を加えることができるため、その側面部の破砕を容易に行うことができる。
【0045】
また、本発明は平板状のALC板50に限らず、曲面を有したALC材、例えば、凸円弧状又は凹円弧状の表面を有したALC材の表面加工にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 表面加工装置 20 破砕工具
21 破砕爪 22 回転軸
23 回転部 24 クランクシャフト
25 シリンダー軸 30 移動装置
40 載置台 50,60 ALC板
51,61,62 溝部 52,63 破砕面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状に延びた溝部を形成し、
回転可能な破砕爪の先端部を前記溝部の中に下降させ、前記破砕爪を前記溝部から上昇させながら回転させて前記溝部の側面部に衝突させることにより、前記溝部に沿った破砕面を形成することを特徴とする軽量気泡コンクリート材の表面加工方法。
【請求項2】
ライン状に延びた溝部を形成し、
回転可能な破砕爪の先端部を前記溝部の中に下降させ、前記破砕爪を前記溝部から上昇させながら回転させて前記溝部の側面部に衝突させることにより、前記溝部に沿った破砕面を有することを特徴とする軽量気泡コンクリート材。
【請求項3】
前記溝部が互いに平行な状態で複数形成され、各溝部に破砕面が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の軽量気泡コンクリート材。
【請求項4】
前記溝部に垂直な方向にも溝部が1又は複数形成され、該溝部に破砕面が形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の軽量気泡コンクリート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−190681(P2011−190681A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148872(P2011−148872)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【分割の表示】特願2008−313908(P2008−313908)の分割
【原出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(591077704)東亜工業株式会社 (34)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【出願人】(593162213)庄田鉄工株式会社 (9)
【Fターム(参考)】