説明

輪転印刷機

【課題】圧胴を版胴から離隔した待機位置に移動したときにおいても、紙通しされた輪転紙に弛みが生じないようにする。
【解決手段】給紙装置2と印刷ユニット3aの間に、印刷ユニットの圧胴4を版胴5から離隔したときの輪転紙の弛みを吸収するダンサーローラ8を、この弛みを吸収する方向に移動自在に設けると共に、このダンサーローラを移動方向の中間部にて固定する固定手段を係脱可能に設け、給紙装置に、印刷ユニットに対する輪転紙の走行位相を調整すると共に、サイズ交換後の版胴に圧胴を転接した状態でのダンサーローラの上記固定位置に対するズレを戻す方向に、輪転紙の紙通しパスを調整する位相調整機構を設け、上記ダンサーローラが固定位置に戻った状態で、固定手段にてダンサーローラを固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転紙の走行経路に互いに転接する版胴と圧胴からなる印刷ユニットを設け、輪転紙の走行速度に同期して回転する上記両胴間に紙通しされた輪転紙に、上記版胴に形成されたインキ絵柄を印刷するようにした輪転印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の輪転印刷機は大略図1に示すようになっていて、ロール状の輪転紙1は給紙装置2にて走行経路に給紙され、この走行経路に例えば3台の印刷ユニット3a,3b,3cが配置されている。この各印刷ユニット3a〜3cは、圧胴4とこの圧胴4に転接する版胴5と、この版胴5にインキを供給するインキ装置6とからなっていて、走行経路を走行する輪転紙1は、圧胴4と版胴5の間を通ることにより版胴5に形成されたインキ絵柄が印刷されるようになっている。
【0003】
この種の輪転印刷機にあっては、印刷サイズを変更するために版胴5の交換が随時行われる。この版胴5の交換時には、その作業上必要な版胴周辺のスペースをあけるために圧胴4をこれの運転位置から待機位置へ移動させている。そしてこの版胴5の交換時における輪転紙1は、上記圧胴に所定の張力を保持して巻き掛けられていた状態から張力を失った状態となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の輪転印刷機にあっては、版胴5の交換のたびに、圧胴4の待機位置への移動により輪転紙1に弛みが生じており、この状態を放置すると輪転印刷機内で輪転紙1が幅方向にズレたり、シワが生じてしまい、圧胴4を元の位置に戻しての再起動時にこれらが原因で損紙が発生することがあった。
【0005】
本発明はこれらのことに鑑みなされたもので、圧胴を待機位置に移動したときにおいても、紙通しされた輪転紙に弛みが生じることがないようにすることができ、したがって、この弛みにより発生する不具合をなくすことができるようにした輪転印刷機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る輪転印刷機は、給紙装置にて給紙される輪転紙の走行経路に、版胴に対して圧胴を接離可能にし、圧胴を離隔した状態で版胴サイズを交換するようにした輪転印刷機において、給紙装置と印刷ユニットの間に、印刷ユニットの圧胴を版胴から離隔したときの輪転紙の弛みを吸収するダンサーローラを、この弛みを吸収する方向に移動自在に設けると共に、このダンサーローラを移動方向の中間部にて固定する固定手段を係脱可能に設け、給紙装置に、印刷ユニットに対する輪転紙の走行位相を調整すると共に、サイズ交換後の版胴に圧胴を転接した状態でのダンサーローラの上記固定位置に対するズレを戻す方向に輪転紙の紙通しパスを調整する位相調整機構を設け、上記ダンサーローラが固定位置に戻った状態で、固定手段にてダンサーローラを固定するようにした構成になっている。
【0007】
上記輪転印刷機において、ダンサーローラに、このダンサーローラの移動量を検出するダンサーローラ移動量検出手段を設け、このダンサーローラ移動量検出手段がダンサーローラの固定位置を検出したときに、ダンサーローラ固定手段を作動して、ダンサーローラを固定位置に固定するようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧胴を版胴から離隔して、これを待機位置に移動したときの輪転紙の弛みがダンサーローラにて吸収されてこの状態で放置されても、輪転機内で輪転紙が幅方向にズレたり、シワが生じる等の不具合の発生を防止することができる。
【0009】
このように版胴のサイズ交換時に輪転紙の弛みによる幅方向のズレやシワをなくすことができることにより、版胴のサイズ交換のたびに用紙処理のための煩雑な作業工程を削減することができて作業性を向上することができると共に、準備時間の短縮を図ることができる。
【0010】
そして版胴サイズ交換後の輪転紙の走行経路長の調整は、給紙装置の位相調整機構にて行うことができ、この位相調整機構によって輪転紙の走行経路長が正常に戻った状態でダンサーローラを固定手段にて固定することができ、この動作をダンサーローラの移動量を検出する検出手段の検出信号に基づいて行われることにより、この一連の動作の自動化を図ることができ、これにより版胴サイズの交換後の運転再開のための準備作業を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用しようとする輪転印刷機を概略的に示す正面図である。
【図2】本発明の要部を概略的に示す説明図である。
【図3】ダンサーローラ部を示す説明図である。
【図4】差動装置の一例を示す断面図である。
【図5】版胴サイズの交換時におけるダンサーローラの作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図2以下に基づいて説明する。なお、図1で示した従来技術と同一の部材は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0013】
給紙装置2にて給紙されて輪転紙1が走行する走行経路で、給紙装置2と最上流側に位置する印刷ユニット3aの間で、輪転紙1をガイドローラ7a,7bの間の下側へ迂回走行させるダンサーローラ8が上下方向に移動可能にして設けてある。このダンサーローラ8は所定の自重を有しており、上下方向に揺動可能にした揺動レバー9の先端に回転自在に支持されていて、このダンサーローラ8に上記ガイドローラ7a,7b間で輪転紙1が巻き掛けられることにより、この区間の輪転紙1の走行経路がその迂回分だけ長くなっている。
【0014】
上記揺動レバー9は自由揺動するようになっていて、上記ダンサーローラ8の上下動により上下方向に揺動するが、これが所定の姿勢、例えば略水平姿勢になった状態でストッパ10にて係脱可能に固定されるようになっている。
【0015】
このストッパ10は図3に示すようになっていて、出没することによって揺動レバー9の先端に設けた凹部11に係脱するストッパピン12と、これを出没作動させるエアシリンダ13とからなっている。上記ストッパピン12はピンガイド14に摺動自在に嵌合されていて、このピンガイド14とエアシリンダ13は、図示しないブラケットを介して輪転印刷機の機体側に支持されている。揺動レバー9の揺動基部には、この揺動レバー9の揺動角を検出する揺動角検出器15が設けてある。
上記ストッパ10は特にこの構成に限るものではなく、揺動レバーを所定の位置に係脱可能に固定できる構成のものであればよい。
【0016】
給紙装置2は2個の送りロール2a,2bに輪転紙1をS字掛けし、両ロール2a,2bが同一周速度で逆回転することによって、輪転紙1を印刷ユニット3a,3b,3cの印刷速度と同期した速度で紙送りするようになっている。16は輪転紙1の印刷マークを読み取るマークセンサ、17は上記送りロール2a,2bに転接するニップローラである。
【0017】
上記給紙装置2には、印刷ユニット3a〜3cに対する輪転紙1の走行位相を調整する差動装置からなる位相調整機構が設けてある。給紙装置2の各ローラ2a,2bは歯車連結されているが、その一方の回転軸が差動装置を介して変速用の駆動源に連結されていて、この変速用の駆動源にて差動装置を操作することにより、輪転紙1の送り速度がわずかな速度範囲にわたって増速方向と減速方向に調整することができるようになっている。
【0018】
図4は上記差動装置の一例を示すもので、この差動装置18にはハーモニックドライブ(登録商標)が用いられていて、作動軸19をサーボモータ等の変速用の駆動源にて回転制御することにより、出力歯車20と入力歯車21の回転位相がずれるようになっていて、上記作動軸19の回転制御により出力歯車20にて回転駆動される給紙装置2の給紙速度がわずかに変速されて走行位相が制御されるようになっている。
【0019】
この差動装置18に用いられるハーモニックドライブは一般的に知られているものが用いられており、図中22はウエブジェネレータ、23はフレクスプレーン、24はサーキュラスプライン、25はダイナミックスプライン、26はウエブジェネレータベアリング、27a,27bはフランジ、28はボールベアリングであり、ウエブジェネレータ22に作動軸19が固着され、一方のフランジ27aに出力歯車20が、他方のフランジ27bに入力歯車21がそれぞれ固着されている。そしてこの入力歯車21に給紙装置2を駆動する給紙用駆動源に連結された駆動歯車29が噛合されており、出力歯車20に給紙装置4の一方のローラ2aに連結された従動歯車30が噛合されている。
【0020】
この差動装置18において、駆動歯車29からの回転により、入力歯車21と出力歯車20は同一回転されるが、このときに作動軸19を正転方向あるいは逆転方向に回転することにより、出力歯車20の回転位相が入力歯車21に対して正逆方向にわずかに連続的にずらされ、これによって給紙装置2の回転がわずかに増速あるいは減速されて、印刷ユニット3a〜3cに対する輪転紙1の走行位相がずらされるようになっている。
【0021】
上記構成において、通常の印刷作動時には、図2に示すようにダンサーローラ8を、これを支持する揺動レバー9をストッパ10にて固定することにより固定位置に固定しておく。
【0022】
図2、図5において、最上流側の印刷ユニット3の版胴5を交換する場合には、この印刷ユニット3aの圧胴4を鎖線で示すように版胴5から離隔する方向に移動する。これにより今まで所定のテンションを保持して紙通しされていた輪転紙1は、上記圧胴4の移動分にわたって弛められる。
【0023】
このときストッパ10のエアシリンダ13を短縮作動して、ストッパピン12を揺動レバー9の凹部11から抜いて、このストッパ10による係止を解除しておくことにより、図5に示すようにダンサーローラ8は自重にて下降し、このダンサーローラ8の自重にて上記輪転紙1の弛みが吸収されて、輪転紙1には軽い緊張力が作用する。
【0024】
なお、この実施の形態では、ダンサーローラ8の直ぐ下流側である最上流側の印刷ユニット3aの版胴5を交換する場合であるため、圧胴4の下動による輪転紙1の弛みは直接的にダンサーローラ8にて吸収することができるが、輪転紙1の走行方向で2番目、あるいは3番目の印刷ユニット3b,3cの版胴5を交換するべくそれぞれの圧胴4を下降したときに、この各印刷ユニット3b,3cより上流側の印刷ユニット3aの圧胴4が版胴5にニップしていては、このときの輪転紙1の弛みはダンサーローラ8では吸収されないので、この版胴5を交換しようとする印刷ユニット3b,3cの上流側、すなわちダンサーローラ8に近い方の印刷ユニット3aの圧胴4の版胴5に対するニップを解除して、上記輪転紙1の弛みがダンサーローラ8にて吸収されるようにする。
【0025】
版胴5のサイズ交換後にあっては、図5の状態から新規サイズの版胴位置に合わせて、この版胴5に転接する位置に圧胴4を移動させて印刷準備を完了するが、例えば、新規の版胴5のサイズが小さくなった場合には、これにニップする圧胴4は交換前の位置より上方に移動され、これに伴ってダンサーローラ8は元の位置、すなわちストッパ10に対向する位置より上方で停止した状態となる。この場合、これをストッパ10にて固定することができなくなる。すなわち、揺動レバー9の位置は、ストッパ10に係止される固定位置に対して上側へずれることになる。そして、この揺動レバー9の上記固定位置に対するズレ角度が揺動角検出器15にて検出される。
【0026】
この状態で給紙装置2の差動装置18の作動軸19を変速用の駆動源にて増速方向に回転させる。このとき、給紙用駆動源に連結されている駆動歯車29が停止状態にあるため、上記作動軸19による出力歯車20の回転に従って従動歯車30がゆっくり増速方向に回転し、これにより給紙装置2が輪転紙1を送り出す方向にゆっくり回転して輪転紙がゆっくり送り出される。
【0027】
これにより、給紙装置2と最上流側の印刷ユニット3aとの間の輪転紙1の弛みが徐々に大きくなって、ダンサーローラ8はこれに従って徐々に下動し、揺動レバー9が下方へ回動する。この動作に従って揺動レバー9が固定位置に復帰すると、これが揺動角検出器15にて検出されて、この検出信号によりストッパ10のエアシリンダ13が伸長動してストッパピン12を突出動し、これの先端が揺動レバー9の凹部11に係合して揺動レバー9を固定する。この状態で給紙装置2と印刷ユニット3aとの間の紙通しパスが、サイズ交換後の印刷タイミングに応じた長さになる。この状態で上記差動装置18の作動軸19による増速方向への回転を停止して通常の印刷動作を開始する。
【0028】
新規の版胴5のサイズが大きくなった場合には、上記と逆にダンサーローラ8はストッパ9による固定位置より下側へずれた位置となり、この場合は作動軸19を減速方向に回転させてこれの位置合わせを行う。
【0029】
上記作動において、版胴サイズ交換時のダンサーローラ8のストッパ10による固定解除や交換完了後のダンサーローラ8の自動固定動作は、オペレータのボタン操作により開始される。
【0030】
上記作動は、輪転紙1の走行方向の2番目、3番目の印刷ユニット3b,3cの版胴サイズの交換時においても同様の作動にて行われる。ただしこの場合、上記したように、サイズ交換しようとする印刷ユニットより上流側の印刷ユニットの圧胴4も版胴5に対するニップを解除しておき、サイズ交換のために下動した圧胴による輪転紙1の弛みがダンサーローラ8にて吸収できるようにする。そしてサイズ交換後にあっては、全ての印刷ユニットの圧胴4を版胴5にニップさせてからダンサーローラ8の固定作動を行う。
【0031】
また、この実施の形態においては、ダンサーローラ8を揺動レバー9に支持した例を示したが、ダンサーローラ8は単に上下方向に平行移動する部材に支持し、この部材の上下動を上下動検出器にて検出するようにしてもよい。また、給紙装置2には差動装置を用いずに、これを回転制御を微細に行うことができるようにした単独駆動するモータの制御にて輪転紙1の送りを調整するようにしてもよい。
【0032】
上記構成において、版胴5の交換後においてダンサーローラ8を所定の位置に固定することは、交換後の各版胴サイズなど処理サイズごとに決められた固定の紙パス長を得るためである。すなわち、給紙装置2の紙送り部において、プリプリントされた絵柄やタイミングマーク、もしくは前処理工程において加工処理されたマージナルパンチ穴などをマークセンサ16にて検出し、その検出タイミングに合わせて印刷部など下流側の処理装置の位相制御を行うようにするために、交換後の各版胴サイズに応じた長さの紙パスを得る必要があるが、サイズ交換ごとにおいてダンサーローラ8を所定の位置に固定することにより、各交換後の各版胴サイズごとの紙パスを得ることができる。
【0033】
なお、給紙装置2における輪転紙1の上記のような送り出し制御を行わない場合には、紙通しの初期時にのみダンサーローラ8を、これの移動位置の略中間位置に固定しておき、版胴5のサイズ換え後には、このサイズ換えにより移動した位置で、このダンサーローラ8を固定するようにしてもよい。この場合、版胴サイズ換え時の輪転紙1のテンションを適正に保持してサイズ換え作業の負担を軽減することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…輪転紙、2…給紙装置、3a,3b,3c…印刷ユニット、4…圧胴、5…版胴、6…インキ装置、7a,7b…ガイドローラ、8…ダンサーローラ、9…揺動レバー、10…ストッパ、11…凹部、12…ストッパピン、13…エアシリンダ、14…ピンガイド、15…揺動角検出器、16…マークセンサ、17…ニップローラ、18…差動装置、19…作動軸、20…出力歯車、21…入力歯車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給紙装置にて給紙される輪転紙の走行経路に、版胴に対して圧胴を接離可能にし、圧胴を離隔した状態で版胴サイズを交換するようにした輪転印刷機において、
給紙装置と印刷ユニットの間に、印刷ユニットの圧胴を版胴から離隔したときの輪転紙の弛みを吸収するダンサーローラを、この弛みを吸収する方向に移動自在に設けると共に、このダンサーローラを移動方向の中間部にて固定する固定手段を係脱可能に設け、
給紙装置に、印刷ユニットに対する輪転紙の走行位相を調整すると共に、サイズ交換後の版胴に圧胴を転接した状態でのダンサーローラの上記固定位置に対するズレを戻す方向に輪転紙の紙通しパスを調整する位相調整機構を設け、
上記ダンサーローラが固定位置に戻った状態で、固定手段にてダンサーローラを固定するようにした
ことを特徴とする輪転印刷機。
【請求項2】
ダンサーローラに、このダンサーローラの移動量を検出するダンサーローラ移動量検出手段を設け、このダンサーローラ移動量検出手段がダンサーローラの固定位置を検出したときに、ダンサーローラ固定手段を作動して、ダンサーローラを固定位置に固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の輪転印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−240684(P2011−240684A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117133(P2010−117133)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【Fターム(参考)】