説明

農作物の有機栽培で用いる培地

【課題】環境汚染の原因となる食品残さや家畜糞尿等の有機廃棄物を液肥の原材料として資源化し、さらにその液肥を有効活用して農作物のブランド化を可能にする農法を提供すること。
【解決手段】循環型の液肥製造システム1により、農作物の有機栽培で用いられる液肥を製造する。システム1は、畜産糞尿を含む有機汚泥を水で希釈するための調整槽11と、該調整槽で生成された汚泥水を曝気処理するための曝気槽21〜23と、該曝気槽からの汚泥水を散水濾床するための反応槽41とを有している。各曝気槽及び反応槽は、内部に杉チップ等から成る木質細片を収容している。反応槽41を経て得られた処理水の一部は液肥として利用され、残りは調整槽に返送されてシステムを循環する。このシステムで得られた液肥とともに、杉チップ等から成る培地を併用し、農作物を有機栽培する。その結果、高品質で安全で且つ味の良好な農作物を大量生産できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物を有機栽培するための農法と、該農法で用いる培地と、該農法で用いる液肥の製造システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学系の農薬や化学肥料等を使用することによる環境ホルモンの影響が大きく取りざたされ、これらを用いないで栽培する「有機野菜」の需要が年々増加する傾向にある。有機野菜とは、農薬や化成肥料等を使用することなく、微生物等が存在する土で自然に栽培された野菜であり、環境・人体に対して悪影響を及ぼすことがなく、安全で栄養価が高くかつ味が良い野菜として一般に広まりつつある。
【0003】
そして、有機野菜の需要増加に鑑み、近年では、生産組合等で有機野菜のブランド化も提案されてはいる。しかしながら、有機野菜のブランド化を達成するにあたっては、以下に挙げる課題があり、容易に達成できるものではなかった。
【0004】
すなわち、有機野菜のブランド化を達成するためには、一定基準の品質の野菜を消費者に継続して提供できなければならない。そのためには、一定基準の品質の野菜を大量に生産できて、且つ、その品質を継続して維持できること、すなわち高度な品質管理が要求される。
【0005】
ところが、農地の土質は地域によって大きく異なり、また、ある特定の農地内においても位置によって土質が異なる場合がある。したがって、同一地域の同一生産組合内で同じ肥料等を用いた場合であっても、収穫される野菜の品質にバラツキが生じる。
【0006】
よって、同一生産組合内においても、生産者によって味・質が大きく異なる結果となり、場合によっては、同じ生産者であっても、収穫位置によって味・質が異なるといった結果になることがあった。そのため、農地(あるいは同一農地内の位置)によって土質が異なるといった理由から、従来より行われている有機農法ではブランド化に要求される品質管理(品質の均一化等)ができないため、結果として、有機野菜をブランドとして確率することが難しかった。
【0007】
また、ブランド化が困難な他の理由としては、土壌の酸性化が挙げられる。
すなわち、わが国の土壌は一部の地域を除き一般的に酸性寄りで、通常の状態でも徐々に酸性に傾く傾向にある。その要因としては、主として以下の点が挙げられる。
1)雨そのものが酸性になっている(酸性雨)。
2)日本は降雨量が多いため土中のアルカリ分(石灰分)が流される。
3)畑では化成肥料が多用される(硫安など硫黄を含む原料が多い)。
【0008】
土壌が酸性かどうかの度合いはpHで示される。pH7(中性)より低いのが酸性で、逆に高いのはアルカリ性である。作物の種類によって多少の差はあるが、生育に適している基準値は、一般的にpH5.5〜6.0の範囲であるといわれている。そして、この基準値を下回ると、土の養分に異変が起きて作物の養分吸収が妨げられる結果、農作物の生育に何らかの障害をもたらす。
【0009】
つまり、わが国の酸性土壌は農作物の生育を停滞させる可能性が高いため、収量を減少させるおそれがある。そのため、土壌の酸性化に関する問題点を解決しない限り、有機野菜等の農作物のブランド化を達成することは難しいと考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した背景に鑑み、本発明の目的は、環境汚染の原因となる食品残さや家畜糞尿等の有機廃棄物を液肥の原材料として資源化し、さらにその液肥を有効活用して農作物のブランド化を可能にする農法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような農法を可能にする培地を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、そのような農法を可能にする液肥の製造システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(15)記載の本発明によって達成される。
【0012】
(1) 農作物の有機栽培で用いられる培地であって、微生物担持体の集合物から成り、前記微生物担持体の集合物が多孔質材及び/又は粉末状炭化物から構成されていることを特徴とする培地。
【0013】
(2) 農作物の有機栽培で用いられる培地であって、微生物担持体を自然土壌に混合して成り、前記微生物担持体が多孔質材及び/又は粉末状炭化物から構成されていることを特徴とする培地。
【0014】
(3) 前記多孔質材が木材及び/又は炭化物から構成され、各多孔質材が細片状に加工されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の培地。
【0015】
(4) 前記多孔質材が杉材からなり、前記炭化物が木炭,竹炭,燻炭のいずれか1種又は2種以上の任意の組合せからなることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の培地。
【0016】
(5) 杉製の前記多孔質材に含まれる成分中のセルロース,ヘミセルロースを一部糖化させてあることを特徴とする上記(4)記載の培地。
【0017】
(6) 木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を含浸させてあることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の培地。
【0018】
(7) 微生物を担持させてある多孔質材及び/又は粉末状炭化物の集合体を、自然土壌の代わりに培地として用いることを特徴とする農法。
【0019】
(8) 微生物を担持させてある多孔質材及び/又は粉末状炭化物を自然土壌に混合させたものを培地として用いることを特徴とする農法。
【0020】
(9) 前記多孔質材が木材及び/又は炭化物から構成され、各多孔質材が細片状に加工されていることを特徴とする上記(7)又は(8)記載の農法。
【0021】
(10) 前記多孔質材が杉材からなり、前記炭化物が木炭,竹炭,燻炭のいずれか1種又は2種以上の任意の組合せからなることを特徴とする上記(7)又は(8)記載の農法。
【0022】
(11) 木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を含浸させてあることを特徴とする上記(7)又は(8)記載の農法。
【0023】
(12) 農作物の有機栽培で用いられる液肥の製造システムであって、
有機廃棄物を水で希釈するための調整槽と、
前記調整槽の下流側に接続され、微生物を担持させた多孔質材を内部に収容しており、前記調整槽で生成された汚泥水を曝気処理するための、直列状に接続された複数の曝気槽と、
前記曝気槽の下流側に接続され、微生物を担持させた多孔質材を内部に収容しており、前記曝気槽からの汚泥水を散水濾床するための反応槽と、を有しており、
前記反応槽を経て得られた汚泥水の一部は液肥として利用され、残りは前記調整槽に返送されることを特徴とする液肥製造システム。
【0024】
(13) 前記多孔質材が、木材及び炭化物のいずれか1種又はこれらの組合せからなり、細片状に加工されていることを特徴とする上記(15)記載の液肥製造システム。
【0025】
(14) 農作物の有機栽培で用いられる液肥の製造方法であって、
有機廃棄物を調整槽に投入して、水で希釈する工程と、
前記調整槽で生成された汚泥水を曝気槽に流入させて曝気処理する工程と、
前記曝気槽からの汚泥水を散水濾床する工程と、を含んでおり、
前記反応槽を経て得られた汚泥水の一部を液肥として利用し、残りは前記調整槽に返送されることを特徴とする液肥製造方法。
【0026】
(15) 農作物を有機栽培するための農法であって、
上記(1)又は(2)記載の培地を敷設し、
農作物の根が前記培地に接触するように該農作物を埋設し、
上記(12)記載のシステム又は上記(14)記載の方法によって得られた液肥を、埋設した前記培地及び/又は前記農作物に付与することを特徴とする農法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって製造される液肥(有機養液)、及び本発明の培地を用いて農作物の有機栽培を行うことにより、栽培過程における農作物の品質管理を行うことが可能になる。つまり、本来的に農作物は自然環境(自然土壌の土質等)に左右される性質のものであるが、本発明によれば、工業製品等と同様に、生産過程における品質を管理することができるので、一定基準の品質の農作物を大量にかつ均質に生産できて、しかも、その品質・均質性を継続して維持することが可能になる。よって、本発明によれば、従来困難であった有機野菜のブランド化を達成することが可能になる。
【0028】
また、本発明によって得られる液肥(還元型有機養液)とともに、杉チップや木炭等を含む培地(還元状態の培地)を併用することにより、土質や天候の影響を受けることのない屋内(全天候型の栽培ハウス等)で、農作物を製造することが可能になる。その結果、台風,豪雨,干ばつ等を心配することなく、消費者の要求に応じて、高品質で安全でしかも味の良好な農作物を、大量に生産することができる。
【0029】
しかも、本発明の農法は化学肥料等を一切必要とせず、また、当該農法で用いる液肥も、従来焼却処分等されていた有機汚泥を原料としている。よって、本発明の農法を世界的に広く普及させることによって、地球環境を大幅に改善することが可能になる。
【0030】
さらに、本発明によれば、高品質で安全健康な日本の農業食料自給率を高めることができるだけでなく、省力・低コストで高水準の農作物の栽培が可能となる。その結果、地域の活性化に貢献できるため、ひいては、後継者難の山間地農業にも、希望と新たな可能性をもたらすこととなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[液肥の製造システム]
まず初めに、図1に基づいて、本発明の有機農法で用いる液肥を製造するための製造システムについて説明する。
【0032】
図1に示す液肥製造システム1は、調整槽11と、第1の曝気槽21と、第2の曝気槽22と、第3の曝気槽23と、第1の溜槽31と、反応槽41と、第2の溜槽32と有しており、これらが順番に直列状に接続されている。
【0033】
この液肥製造システム1を用いた液肥の製造方法では、大きく大別して2つの処理工程を経て、液肥(還元型有機養液)が製造される。一つは、曝気槽21〜23における「曝気(水中処理)」による湿式処理と、もう一つは、前記湿式処理に続く反応槽41における「微生物濾過反応」による乾式処理である。最終的に反応槽41を経て得られた処理水は、農作物の有機栽培において液肥(養液)として利用することが可能である。
【0034】
以下、図1に基づいて液肥製造システム1を構成する各槽の特徴について説明する。
【0035】
調整槽11には、豚等の畜産糞尿や食品残さ等の生ゴミを含む有機廃棄物が粉砕された状態で投入される。投入された有機廃棄物は、調整槽11内において水で希釈され、その結果、有機物を含有する汚泥水が生成される。調整槽11にて生成された汚泥水は、下流側に接続された第1の曝気槽21へ送出される。
【0036】
第1の曝気槽21の内部には、汚泥水をバイオ処理するための土壌微生物を担持させた多孔質材(細片状の杉材、木炭、竹炭等の何れか1種、又はこれらの2種以上の組合せ)が敷き詰めてあるとともに、微生物を増殖させる促進剤が添加されている。多孔質材には無数の孔隙が形成されており、その孔の中にはバイオ処理に必要な微生物や該微生物の餌が豊富に含まれている。
【0037】
この第1の曝気槽21は、高低差が生じるように、上流側の調整槽11に接続されている。よって、調整槽11から送出される汚泥水は、その自重によって、第1の曝気槽21内に自動的に流入する。
【0038】
汚泥水が流入した第1の曝気槽21では、水中曝気による湿式処理が行われる。すなわち、第1の曝気槽21では、曝気と接触剤により、好気性菌・嫌気性菌の両性菌の急激な増殖があり、汚泥のBOD源を消滅させる。第1の曝気槽21において曝気処理された汚泥水は、下流側に接続された第2の曝気槽22へ送出される。
【0039】
第2の曝気槽22の内部には、第1の曝気槽21と同様に、細片状の多孔質材が収容されているとともに、微生物を増殖させる促進剤が添加されている。また、この第2の曝気槽22は、高低差が生じるように、上流側の第1の曝気槽21に接続されている。汚泥水が流入した第2の曝気槽22では、第1の曝気槽21と同様の曝気処理が行われ、下流側に接続された第3の曝気槽23へ送出される。
【0040】
第3の曝気槽23の内部には、上記曝気槽21,22と同様に、多孔質材が収容されているとともに、微生物を増殖させる促進剤が添加されている。また、この第3の曝気槽23は、高低差が生じるように、上流側の第2の曝気槽22に接続されている。汚泥水が流入した第3の曝気槽23では、第1及び第2の曝気槽21,22と同様の曝気処理が行われ、下流側に接続された第1の溜槽31へ送出される。
【0041】
第3の曝気槽23から送出された汚泥水は、第1の溜槽31に一時的に貯留され、ポンプアップによって反応槽41へ送出される。なお、調整槽11からの汚泥水に含まれていた有機物は、曝気槽21〜23内で還元され、無臭の水溶液へ変化している。
【0042】
反応槽41の内部には、上記曝気槽21〜23と同様に、細片状の多孔質材が収容されている。第1の溜槽31を介して第3の曝気槽23から流入する汚泥水(処理水)は、主として、浮遊性の微粒子状であり、反応槽41において最終的な処理が施される。反応槽41に流入した汚泥水は、該反応槽内において多孔質材に接触し、さらに微生物による分解が行われる。
【0043】
つまり、反応槽41では、第3の曝気槽23からの汚泥水が散水濾床され、微生物接触濾過反応により汚泥のBOD源が完全に消滅する。その結果、無害・無臭で有機農法に適した液肥が生成される。得られた液肥は還元状態にあるため、酸化することがなく、数年放置しても腐ることがない。また、本願発明者の成分分析によれば、この液肥には農作物の生育に好ましい成分が豊富に含まれており、かつ、人体や環境に害を与える成分は一切含まれていないことが確認された。
【0044】
反応槽41からの汚泥水(液肥)は、下流側の第2の溜槽32に一時的に貯留される。該第2の溜槽32に貯留された汚泥水は、一部は有機栽培において液肥として利用され、残りは、ポンプアップによって、調整槽41へ返送される。なお、得られた処理水を液肥として用いる場合には、そのまま農作物に付与してもよく、或いは、所定の成分調整を行った上で農作物に付与してもよい。
【0045】
第2の溜槽32から調整槽11へ返送された処理水(養液)は、別途投入された家畜糞尿等の希釈に供されて、再び曝気槽へ送られる。つまり、本発明の液肥製造システムは、「循環方式」の液肥製造システムである。
【0046】
この液肥製造システムにおいて、曝気槽21〜23及び反応槽41に収容すべき多孔質材の種類は特に限定されず、細片状の杉材(杉チップ),木炭,竹炭のいずれか1種を用いることができ、或いは、これらの2種以上の組合せから成る混合物を用いることも可能である。
【0047】
上述した多孔質材の中でも、杉の間伐材から形成した木質細片(杉チップ)を用いることが好ましく、また、多孔質になるように前記木質細片に加工が施されていることが好ましい。木質細片の原材料として杉材を用いた場合には、上記製造プロセスにおいて、杉材の成分であるリグニンが、水溶性リグニンとなるため、つくり出された液肥(養液)は、数年経過しても腐らず無臭を保つ。
【0048】
また、多孔質材として杉チップを用いる場合には、杉材に含まれる成分中のセルロース,ヘミセルロースを一部糖化させてあることが好ましい。また、該杉チップは、セルロース体65〜85%と、リグニン体10〜25%と、ペントザン体5〜10%とを含有することが好ましい。さらに、該杉チップは、ほぼ75〜80%の空隙率,ほぼ30m/gの表面積,ほぼ0.5〜5mmの大きさを有するように加工されていることが好ましい。
【0049】
なお、本発明で用いる杉チップは、多孔質となるように加工が施されており、しかもその製造過程において、杉の成分中に含まれるセルロース,ヘミセルロースを一部糖化してある。よって、多孔質化された結果、微生物が杉チップに住みつき易いように環境が最適化され、しかも、セルロース,ヘミセルロースを一部糖化することによって、BOD源の発酵・分解・消化するための微生物発生・増殖の栄養分がつくられることとなる。
【0050】
また、杉材は粘度が低く、比重が軽いということが利点としてあげられ、そのために、曝気槽の装置内での攪拌時にかかる動力費を低く抑えることが可能になる。
【0051】
上述した液肥製造システムによれば、以下に述べる優れた効果が達成される。
つまり、今日、大量に発生する生ゴミ等の食品残さは、それを焼却処分等するための石油エネルギーを無駄に消耗させ、ひいては、廃棄コストの負担増と環境汚染の悪化を招いている。
これに対し、本発明の液肥製造システムを利用することにより、畜産の糞尿も含め全ての有機物を農業に再利用することが可能となり、しかも、製造される液肥によって高品質で安全性の高い有機野菜を栽培することが可能となる。よって、本発明に係る液肥製造システムを広く普及させることにより、汚泥の処理に係る問題(処理コストの問題や、大気汚染の問題など)を解決できると同時に、副産物として高機能の液肥を得ることができる。
【0052】
また、上述した液肥製造システムを、日本国内は勿論のこと、世界規模で活用することにより、焼却処理すべき有機廃棄物の量が激減する。その結果、石油資源の無駄使いが防止されるとともに、焼却処理に伴う二酸化炭素の発生量を抑制することができる。よって、本発明に係る液肥製造システムの普及によって、地球の温暖化を効果的に防止することが可能になる。
【0053】
[本発明の培地]
本願に係る有機農法では、土壌微生物(発酵微生物)を担持させた微生物担持体を含有する培地、或いは、当該微生物担持体の集合体から成る培地を用いる。この微生物担持体は、多孔質材及び粉末状炭化物の何れか一方、或いは両者の組合せから構成されている。培地には、必要に応じて、木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液(たとえば約500倍希釈の希釈液)を含浸させてもよい。
【0054】
上記多孔質材を構成すべき材料は、土壌微生物を担持可能である限り特に限定されないが、好ましい具体例としては木材や炭化物等が挙げられる。
多孔質材として「木材」を用いる場合には、例えば前述した木質細片(杉チップ)と同様のものを用いることができる。
また、多孔質材として「炭化物」を用いる場合には、例えば木炭,竹炭,燻炭等を用いることができる。
なお、培地を製造するにあたっては、これらの多孔質材の1種を、または2種以上の任意の組合せを用いることができる。
【0055】
また、上記粉末状炭化物を構成すべき材料は、発酵微生物を担持可能である限り特に限定されないが、好ましい具体例としては、例えば木炭,竹炭,燻炭等の粉末が挙げられる。なお、培地を製造するにあたっては、これらの粉末状炭化物の1種を、または2種以上の任意の組合せを用いることができる。
【0056】
次に、微生物担持体の構成材料として「杉材(杉チップ)」を用いることのメリットについて述べる。
【0057】
広葉樹は、球菌が住みつく孔がいないため腐りやすいが、一方で、針葉樹の場合、カラ松類は油が出る。また、ヒバやヒノキでは抗菌作用が強く微生物が住むのには適していない。それに対し、杉の木には約8万個/m2の孔があり、微生物が住みつくのに適しているといえる。
【0058】
また、杉材は微生物が快適に有機物を生分解していくために必要な条件を兼ね備えており、本願発明者の実験により、以下のいずれの性質の点においても微生物の繁殖の場として土壌よりも遥かに優れていることが確認された。
1)粒形をしていることにより有効面積が大きいこと。
2)多孔性による保水性が良いこと。
3)排水性が良いこと。
4)通気性が良いこと。
5)断熱・保水性が良いこと。
6)養分供給能力が高いこと。
【0059】
次に、微生物担持体の構成材料として「炭化物」を用いることのメリットについて述べる。
【0060】
木炭,竹炭,燻炭等の炭化物は、通気性・保水性・透水性(水はけ)に優れ、また、灰を含んでいるため植物の成長に必要なミネラルである炭酸塩を供給することができる。しかも、多数の微生物が住み着き易いので、農作物の根毛の発達を助け病気にかかりにくくするなど、優れた特性を有している。また、植物に必要な無機成分がバランスよく含まれるために、農作物の食味向上に寄与することとなる。
【0061】
また、木炭や竹炭等の炭化物には、微細な孔隙が無数にあいており、僅か1gで畳み約8畳分の表面積を持ち、この複雑な粒子構造によって調湿作用、有害物質の吸着作用、脱臭効果等の特性を発揮する。特に、ペレット状の木炭や竹炭は炭化温度が高いため粉炭よりも孔隙率が高く、細胞壁を堅牢な状態に保持することから保水性・透水性・吸着性に優れ、バクテリアとの相乗効果による土壌改良・堆肥化促進なども期待できる。
【0062】
また、炭の細かい無数の孔が通気性を高め、培地のなかの酸素を豊富にし、根の発育を促す。そして、作物が育ちやすい土壌環境がつくられることによって、作物そのものが丈夫になるので、農薬や化学肥料の使用量も減らすことができる。しかも、炭化物には抗菌作用があるので、病虫害の発生も少なくなって、収穫量も確実に増加することとなる。さらに、無数の孔を利用して、多様な微生物の維持・増殖を図ることができるので、連作障害を防ぐことができるといった格別の効果が達成される。
【0063】
また、上述した炭化物の中でも、竹炭にはミクロの孔が木炭の数十倍も多く有るため多様な微生物が繁殖し易く、木炭を使う場合と比較してより良好な土質改良効果が期待できる。また、竹炭は木炭と比較して遥かに孔隙率が高いために、保水性や有害物質吸着作用等の点で木炭よりも優れているので、竹炭を用いることにより培地の機能をより高めることができる。しかも、木の成長には10〜20年程度の長い年月を要するのに対し、竹は1年程度で成木と同じ位に成長するため、竹の間伐材を積極的に利用することにより自然環境の保護に寄与することとなる。
【0064】
その他、炭化物の有用な作用としては、酸化還元電位(Eh)の低下作用が挙げられる。すなわち、木炭や竹炭等の炭化物はアルカリ性であるため、培地(又は該培地を含有する土壌)の酸化還元電位を低下させる作用がある。そのことにより、培地の酸化が防止されるとともに、根の周辺の環境が著しく改善され、肥効の増進、生育の活性化等が図られる。特に有機物投入の土壌では、土壌発酵分解の過程で腐敗防止の効果が期待できる。
【0065】
上述したように、木炭,竹炭,燻炭等の炭化物には、単なる木材にはない特殊な作用がある。よって、微生物担持体の構成材料として、杉材等の木材と併せて、木炭,竹炭,燻炭等の炭化物を用いることが好ましい。
【0066】
次に、上記構成の培地に対し、木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を含浸させることのメリットについて述べる。
【0067】
木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を培地に含浸させることにより、培地中の菌類・細菌類が繁殖し、植物の成長に必要な無機物がつくり出され、その結果、植物が良好に生育すると考えられる。本願発明者の実験によれば、上記構成の培地を利用して土中の菌類・細菌類を培養したところ、約500倍希釈の木酢液を使用した培地において最も菌が繁殖することが確認された。
【0068】
なお、本発明で用いる培地は、必ずしも木炭や杉チップ等の集合体から構成されている必要はなく、既存の自然土壌に上述した微生物担持体をすき込むことによって構成されてもよい。
すなわち、植物の生育に適した土壌は団粒構造であり、これを形作っているのは腐植物や多糖類の接着剤的な働きによるものだと言われている。これらが不足すると土壌は固く締まり、水や空気が供給されず生育環境が悪化し、微生物すら住めなくなる。このような土壌に上述した木炭,竹炭,杉チップ等をすき込むと、土壌中に空隙を作り保水や換気が容易になり植物や微生物の生活環境を改善されることになる。
【0069】
また、自然土壌に微生物担持体をすき込む場合には、上述した木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を散布してもよい。本願発明者の実験によれば、木酢液や竹酢液には土壌消毒作用があることが確認されており、立ち枯れ病等の病気の予防が期待できる。
【0070】
[本発明の有機農法]
本発明の農法では、上述した培地(還元状態の培地)と併せて、上記液肥製造システムによって得られる液肥(還元型有機養液)を用いる。
【0071】
具体的な実施形態を説明すると、まず初めに、上述した培地を敷設する。この培地には、上記システムによって得られた液肥を予め含浸させておく。次いで、根が培地に接触するように農作物を埋設して栽培を行う。栽培の過程では、必要に応じて、上記システムによって得られた液肥を培地及び/又は農作物に付与する。液肥を付与する方法は特に限定されず、例えば葉面散布であってもよく、或いは点滴パイプで管注する方法等、様々な手法を採用することが可能である。
【0072】
培地に含浸させた液肥、及び栽培の過程で付与される液肥は還元状態にあるため、杉チップや炭化物等を含む培地を酸化することがない。よって、土壌の酸化に起因する植物の病気発生を防ぐことが可能になる。また、上述した培地を成す杉チップや木炭等は無数の孔隙を有しており、吸着性があるから、含浸した有機養液は培地内で長期間に亘り有効に働き、土壌微生物を活性化させることができる。しかも、培地に含まれる木炭や竹炭等の炭化物はアルカリ性であるから、培地(又は土壌)の酸化を防ぐことができる。その結果、病害虫の発生や連作障害の発生を予防して、農作物を良好に育成することが可能になる。
【0073】
上述した農法によれば、農作物の生育のための理想的環境を整うことができるだけでなく、その理想的環境を継続して維持することができる。その結果、病害虫及び連作障害を防止できるので、農作物の品質向上を図ることができる。また、木質系培地の場合、自然土壌と比較して遥かに管理が容易であるので、いわゆる土質の均一化が可能となる。そして、これらの相乗効果として、農業生産物のブランド化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る液肥製造システムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 液肥製造システム
11 調整槽
21 第1の曝気槽
22 第2の曝気槽
23 第3の曝気槽
31 第1の溜槽
32 第2の溜槽
41 反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物の有機栽培で用いられる培地であって、微生物担持体の集合物から成り、前記微生物担持体の集合物が多孔質材及び/又は粉末状炭化物から構成されていることを特徴とする培地。
【請求項2】
農作物の有機栽培で用いられる培地であって、微生物担持体を自然土壌に混合して成り、前記微生物担持体が多孔質材及び/又は粉末状炭化物から構成されていることを特徴とする培地。
【請求項3】
前記多孔質材が木材及び/又は炭化物から構成され、各多孔質材が細片状に加工されていることを特徴とする請求項1又は2記載の培地。
【請求項4】
前記多孔質材が杉材からなり、前記炭化物が木炭,竹炭,燻炭のいずれか1種又は2種以上の任意の組合せからなることを特徴とする請求項1又は2記載の培地。
【請求項5】
杉製の前記多孔質材に含まれる成分中のセルロース,ヘミセルロースを一部糖化させてあることを特徴とする請求項4記載の培地。
【請求項6】
木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を含浸させてあることを特徴とする請求項1又は2記載の培地。
【請求項7】
微生物を担持させてある多孔質材及び/又は粉末状炭化物の集合体を、自然土壌の代わりに培地として用いることを特徴とする農法。
【請求項8】
微生物を担持させてある多孔質材及び/又は粉末状炭化物を自然土壌に混合させたものを培地として用いることを特徴とする農法。
【請求項9】
前記多孔質材が木材及び/又は炭化物から構成され、各多孔質材が細片状に加工されていることを特徴とする請求項7又は8記載の農法。
【請求項10】
前記多孔質材が杉材からなり、前記炭化物が木炭,竹炭,燻炭のいずれか1種又は2種以上の任意の組合せからなることを特徴とする請求項7又は8記載の農法。
【請求項11】
木酢液,竹酢液,又はモミ酢液の希釈液を含浸させてあることを特徴とする請求項7又は8記載の農法。
【請求項12】
農作物の有機栽培で用いられる液肥の製造システムであって、
有機廃棄物を水で希釈するための調整槽と、
前記調整槽の下流側に接続され、微生物を担持させた多孔質材を内部に収容しており、前記調整槽で生成された汚泥水を曝気処理するための、直列状に接続された複数の曝気槽と、
前記曝気槽の下流側に接続され、微生物を担持させた多孔質材を内部に収容しており、前記曝気槽からの汚泥水を散水濾床するための反応槽と、を有しており、
前記反応槽を経て得られた汚泥水の一部は液肥として利用され、残りは前記調整槽に返送されることを特徴とする液肥製造システム。
【請求項13】
前記多孔質材が、木材及び炭化物のいずれか1種又はこれらの組合せからなり、細片状に加工されていることを特徴とする請求項15記載の液肥製造システム。
【請求項14】
農作物の有機栽培で用いられる液肥の製造方法であって、
有機廃棄物を調整槽に投入して、水で希釈する工程と、
前記調整槽で生成された汚泥水を曝気槽に流入させて曝気処理する工程と、
前記曝気槽からの汚泥水を散水濾床する工程と、を含んでおり、
前記反応槽を経て得られた汚泥水の一部を液肥として利用し、残りは前記調整槽に返送されることを特徴とする液肥製造方法。
【請求項15】
農作物を有機栽培するための農法であって、
請求項1又は2記載の培地を敷設し、
農作物の根が前記培地に接触するように該農作物を埋設し、
請求項12記載のシステム又は請求項14記載の方法によって得られた液肥を、埋設した前記培地及び/又は前記農作物に付与することを特徴とする農法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−175048(P2007−175048A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119524(P2006−119524)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(505447928)特定非営利活動法人日本有機の里をすすめる会 (2)
【Fターム(参考)】