説明

農作物収納用袋

【課題】袋体内のガスを適度に袋体外に逃がして、収納した農作物の鮮度を確保するとともに、袋体が破損したり農作物の表皮等が袋体の外にこぼれて散乱したりするのを防止すること。
【解決手段】ポリプロピレンからなる袋体1の一方の表面に貫通孔4を形成し、この貫通孔4を塞ぐように、ポリスチレンからなる調節シート2を貼り付ける。そして、農作物を袋体1に収納してその開口部3を密閉する。このポリスチレンはポリプロピレンよりも各種ガスに対する高いガス透過率を有し、袋体1内のガスを貫通孔4及び調節シート2を通して速やかに袋体1外に逃がすことができる。これにより、袋体1内のガスによって農作物の鮮度が損なわれるのを防ぐとともに、貫通孔4を起点として袋体1が破損したり、農作物の表皮が剥がれて貫通孔4からこぼれて散乱したりするのを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、野菜や果物等の農作物を陳列販売する際や、購入した農作物を家庭で保存する際等に用いる農作物収納用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物等の農作物は、スーパーマーケット等の店頭においては、袋詰めされて陳列販売され、この農作物の購入者は、この袋詰めされた状態のまま、各家庭の食品棚や冷蔵庫等で保存することが多い。この袋詰めに用いる袋体の素材として、透明なプラスチックフィルム、特にポリプロピレンが広く用いられている。このポリプロピレンは熱溶着が可能であって、フィルム素材を容易に袋状に成形することができ、比較的安価に袋体を形成できるためである。
【0003】
この袋体に収納した農作物は、その収納後も代謝作用が継続している。このため、その鮮度を維持するために、農作物の周囲の酸素濃度及び二酸化炭素を所定範囲に保って、農作物が適切に呼吸し得る状態とすること、水分の蒸散を抑制して萎びを防止すること、農作物の熟成を促すエチレンガスの濃度を所定範囲内にすること、等のように袋内のガス濃度を適切に調節する(ガスを逃がす)ことが重要である。ところが、上述したポリプロピレンは、各種ガスの透過率が低く、袋体内のガスをスムーズに袋体外に逃がすのが困難である。
【0004】
そこで、例えば特許文献1においては、ポリプロピレン製の袋体に小さい孔を多数形成し、この孔から袋内に溜まった各種ガスを袋外に逃がすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−228806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すように袋体に孔を形成すると、ガスが袋体の内外を実質的に自在に出入りできる状態となり、農作物の水分が過剰に袋体外に逃げる恐れがある。このため農作物が萎びやすく、その鮮度を保つことができない。この孔の大きさを調節することで、水分の逃げ量を抑制し得るようにも考えられるが、孔を形成することによってガスが実質的に自在に出入りできる状態に変わりはなく、水分量のコントロールは難しい。
【0007】
袋体に孔を形成すると、バナナのように突起部があって、しかも比較的重い農作物を袋体に収納して持ち上げた際に、この孔に農作物の荷重が集中して、この袋体が破れる恐れがある。また、玉ねぎのように表皮が剥がれやすい農作物を収納した際に、剥がれた表皮が孔からこぼれて陳列棚に散乱し、清掃等の余計な手間を要する問題がある。さらに、孔から埃等の異物が袋体に入り込む恐れもある。このように、袋体に孔を形成して袋体内のガスを逃がす方法には多くのデメリットがある。
【0008】
この袋体自体をポリプロピレン等よりもガス透過性が高いポリスチレン等のプラスチックフィルムに変更し、袋体に孔を形成しない構成とすることも考えられる。しかしながら、ポリスチレン等のようにガス透過性が高いプラスチックフィルムは熱溶着性が低いことが多く、通常は袋状に成形するために接着剤が用いられる。このため、簡便に熱溶着ができるポリプロピレン等からなる袋体と比較して、製造コストが嵩みやすいという問題がある。
【0009】
そこで、この発明は、袋体内のガスを適度に袋体外に逃がして、収納した農作物の鮮度を確保するとともに、袋体が破損したり農作物の表皮等が袋体の外にこぼれて散乱したりするのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明は、収納した農作物から発生したガスを逃がす貫通孔を形成した袋体と、前記袋体を構成する素材の各種ガスに対するガス透過率よりも高いガス透過率を有する素材からなり、前記貫通孔を塞ぐように前記袋体に設ける調節シートと、からなり、前記袋体の開口部からガスが自由に出入りしないようにこの開口部を閉じた農作物収納用袋を構成した。
【0011】
前記袋体の素材、及び、貫通孔に設ける調節シートの素材は適宜選択することができる。この調節シートとして、袋体の素材よりもガス透過率が高い素材からなるものを選択することにより、袋体内のガスを前記貫通孔及び調節シートを通して、スムーズに袋体外に逃がすことができる。
【0012】
この調節シートは、その素材によって、ガスの種類ごとのガス透過率が異なる。そこで、例えば、水分に対する透過率が大きくエチレンガスに対する透過率が小さい素材からなる調節シートと、水分に対する透過率が小さくエチレンガスに対する透過率が大きい素材からなる調節シートを複数並べて、水分が過度に失われるのを抑制しつつ、エチレンガスのみを袋体外にスムーズに逃がすようにすることもできる。なお、この調節シートの枚数は2枚に限定されず、高い透過率を確保したいガスの種類が複数あるときは、3枚以上の調節シートを並べて、ガスの種類ごとにその透過量を調節することもできる。
【0013】
この袋体に形成した貫通孔は、調節シートによって塞がれて補強された状態となっているので、この貫通孔を起点として袋体が破れる恐れは低い。しかも、貫通孔から農作物から剥がれ落ちた表皮が排出されて周囲に散乱したり、この貫通孔から埃等の異物が袋体内に入り込んだりすることもない。
【0014】
この袋体の開口部は、粘着テープ、ゴムバンド、紐、チャック等を用いて密閉する。このように密閉することによって、袋体内のガスが、前記開口部からではなく、主に調節シートを通って袋体外に逃がされることとなり、貫通孔の数や大きさ等、及び、調節シートの素材によって決まる所定のガス透過作用が発揮される。
【0015】
この調節シートは、袋体のガス透過率よりも高いガス透過率を有する材料で構成されるが、全ての種類のガスに対して高いガス透過率を有する必要はなく、少なくとも1種類のガスに対して、高いガス透過率を有していればよい。そうすれば、袋体内からそのガスを速やかに逃がす作用を発揮し得るからである。
【0016】
前記構成においては、前記袋体をポリプロピレンとすることができる。
【0017】
上述したように、このポリプロピレンは熱溶着ができることから成形性に優れ、安価に袋体を製造することができる。また、透明性が高く、農作物を収納した時の見栄えも優れている。しかも、各種のガスに対する透過率はそれほど高くないものの、ある程度のガス透過率は有するため、袋体としての基本的なガス透過作用は備えている。
【0018】
また、前記各構成においては、前記調節シートをポリスチレンとすることができる。
【0019】
このポリスチレンは、農作物の鮮度維持と関係する二酸化炭素、酸素、エチレン、水分等に対するガス透過率が優れている。特に、上述したポリプロピレンと比較すると、これらのガス透過率は数倍から10倍以上高い。このため、これらのガスを、袋体外へ速やかに逃がすことができる。なお、これらのガスのうち、水分は過剰に放出されると農作物が萎びる原因となり、エチレンガスの放出が不十分であると、農作物が過度に成熟して傷みの原因となるため、これらのバランスを考慮して貫通孔の数、大きさ、配置等を適宜決定する。
【0020】
また、前記各構成においては、前記調節シートの表面に、この調節シートよりもガス透過率の高い素材からなる不透明な表示部材を設けた構成とすることができる。
【0021】
この表示部材を設けることにより、調節シートの下の貫通孔を隠すことができるため、袋体の見栄えを向上することができる。また、この表示部材に商品名、生産者名、バーコード等の各種情報をまとめて記載するようにすれば、購入者の利便性も高まる。この表示部材の素材として、例えば紙を採用することができる。紙は、上述した各種のプラスチックフィルムと比較して、各種ガスに対する高い透過率を有している。このため、調節シートの上にこの紙を設けても、調節シート自体の透過率に大きな影響を与えることなく、貫通孔、調節シート及び表示部材を通してガスを袋体外に逃がすことができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によると、袋体に形成した貫通孔に所定のガス透過率を有する調節シートを設け、前記貫通孔及び調節シートを通して、袋体内のガスを袋体外に逃がすようにした。このため、袋体内を農作物の保存に適したガス環境とすることができ、この農作物の鮮度を良好に保つことができる。また、貫通孔を塞ぐことにより、この袋体が、収納した農作物の荷重によって破れたり、農作物の表皮等が袋体の外にこぼれたりするトラブルを防止することができるため、取り扱い上の利便性も大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明に係る農作物収納用袋の第一実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のIb−Ib線に沿う部分断面図
【図2】本願発明に係る農作物収納用袋の第二実施形態を示す正面図
【図3】本願発明に係る農作物収納用袋の第三実施形態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のIIIb−IIIb線に沿う部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係る農作物収納用袋の第一実施形態を図1(a)及び(b)に示す。この農作物収納用袋は、袋体1と調節シート2とから構成される。袋体1はポリプロピレンからなり、三辺を熱溶着し上部を開口部3とした袋状に成形されている。この袋体1の一方の面の下部側に、直径が1〜2mm程度の貫通孔4が数十個形成されている。この貫通孔4を塞ぐように、調節シート2が粘着剤によって袋体1の表面に貼り付けられている。
【0025】
この貫通孔4の大きさは、収納する農作物の種類、収納量等に対応して適宜変更することができ、例えば直径が0.01mm程度の非常に微小なものとしたり、直径が100mm程度の、袋体1のほぼ全面に亘るような大きなものとしたりすることができる。勿論、これよりも小さいあるいは大きい貫通孔4としてもよい。この貫通孔4の形状は円形のみならず矩形等とすることもできる。
【0026】
この調節シート2は透明なポリスチレンからなり、このポリスチレンの二酸化炭素、酸素、エチレン、水分等に対するガス透過率は、ポリプロピレンのガス透過率の数倍から10数倍程度である。このため、貫通孔4を形成しないポリプロピレンからなる袋体1と比較して、袋体1内のガスをスムーズに袋体1外に逃がすことができる。このため、このガスに起因して、収納した農作物(図示せず)の品質が低下するのを極力防止することができる。
【0027】
しかも、袋体1の表面に貫通孔4が露出していないので、この貫通孔4を起点として、収納した農作物の荷重によって袋体1が破れる恐れは低い。また、玉ねぎ等のように表皮が剥がれやすい農作物を収納した場合でも、剥がれた表皮が貫通孔4からこぼれることがなく、陳列棚等を散らかすこともない。
【0028】
この袋体1の開口部3は、粘着テープやゴムバンド等(図示せず)を用いて密閉される。このように密閉することによって、袋体1内のガスの大部分が調節シート2を通って袋体1外に逃がされることとなり、貫通孔4の数、大きさ等、及び調節シート2の素材によって決まる所定のガス透過作用が発揮される。
【0029】
この袋体1に形成する貫通孔4の数、大きさ、配置等は、収納する農作物の種類や収納量等を考慮して適宜変更することができる。例えば、ホウレンソウ等の葉物野菜は呼吸作用が盛んなため二酸化炭素が多く放出され、リンゴ等は農作物の成熟を促進するエチレンガスを多く発生するという特徴があるが、この場合、貫通孔4の数等を増やす等の対策により、発生したガスを速やかに袋体1外に逃がすことができる。さらに、二酸化炭素やエチレンガスに対するガス透過率が高い素材を調節シート2として採用することにより、前記対策の効果が高まる。
【0030】
この袋体1に収納する農作物は必ずしも成熟した状態のものとは限らず、未成熟のまま収穫及び袋詰めされて、流通過程に乗る場合もある。この場合、この農作物から出るエチレンガスによって成熟を行いつつ、呼吸によって生じた二酸化炭素を効率的に袋体1外に逃がすように、袋体1内の各種ガスの調節を行う必要がある。このときは、この発明に係る農作物収納用袋の第二実施形態(図2)に示すように、例えば、ポリスチレンからなる第一調節シート2aと、エチレンガスに対してガス透過率が低い第二調節シート2bを2枚並べるようにして貫通孔4を塞ぐ構成とすることもできる。このようにすれば、第一調節シート2a及び第二調節シート2bによって、袋体1内の各種ガスの調節を個別に行い得るため、成熟に必要なエチレンガスを袋体1に留まらせつつ、それ以外のガスを速やかに袋体1外に逃がすようにすることができる。両調節シート2a、2bの面積及び面積比、その素材については、収納する農作物の種類、収納量、成熟状態等を考慮して適宜変更することができる。
【0031】
この発明に係る農作物収納用袋の第三実施形態(図3(a)及び(b))に示すように、調節シート2の表面に、この調節シート2よりもガス透過率が高い表示部材5を設け、この表示部材5に収納した農作物名や生産者等の情報を表示することもできる。この表示部材5として、例えば紙を採用することができる。この紙によって、袋体1に形成した貫通孔4が隠されるため、袋体1の見栄えを向上するというメリットもある。なお、この紙は、上述した二酸化炭素等の各種ガスに対するガス透過率が非常に高いため、調節シート2の上に貼り付けたとしても、この調節シート2のガス透過率に大きな影響を与えない。紙のようにガス透過率の高い素材であれば、他の素材も適宜採用することができる。
【0032】
上記の各実施形態においては、袋体1としてポリプロピレン、調節シート2として主にポリスチレンを採用したものについて説明したが、この袋体1及び調節シート2の素材は当然ながらこれに限定されない。収納する農作物の種類や収納量によって、公知の素材(例えば、ポリエチレン、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリブタジエン−ポリスチレン、ポリジメチルブタジエン、ポリカーボネート、ポリブタジエン−ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロライド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリクロロピレン、エチルセルロース、シリコンゴム等)の中から適宜組み合わせて選択することができる。また、複数の素材の調節シート2を重ねて、複合体として使用することもできる。このように調節シート2同士を重ねると、重ねたそれぞれの素材のガス透過率を掛け合わせたガス透過率を得ることができ、所望のガス透過特性を得ることができる場合があるためである。
【0033】
また、上記の各実施形態においては、全ての貫通孔4を調節シート2で塞ぐ態様を示したが、この調節シート2による各種ガスの所定の透過作用が損なわれない限りにおいて、貫通孔4の一部を調節シート2で塞がない態様とすることができる。さらに、袋体1の片面だけでなく、両面に貫通孔4を形成し、両面ともに調節シート2を設ける態様とすることもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 袋体
2 調節シート
2a 第一調節シート
2b 第二調節シート
3 開口部
4 貫通孔
5 表示部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納した農作物から発生したガスを逃がす貫通孔(4)を形成した袋体(1)と、
前記袋体(1)を構成する素材の各種ガスに対するガス透過率よりも高いガス透過率を有する素材からなり、前記貫通孔(4)を塞ぐように前記袋体(1)に設ける調節シート(2)と、
からなり、前記袋体(1)の開口部(3)からガスが自由に出入りしないようにこの開口部(3)を閉じた農作物収納用袋。
【請求項2】
前記袋体(1)が、ポリプロピレンからなる請求項1に記載の農作物収納用袋。
【請求項3】
前記調節シート(2)が、ポリスチレンからなる請求項1又は2に記載の農作物収納用袋。
【請求項4】
前記調節シート(2)の表面に、この調節シート(2)よりもガス透過率の高い素材からなる不透明な表示部材(5)を設けた請求項1から3のいずれか一つに記載の農作物収納用袋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−240732(P2012−240732A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114653(P2011−114653)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(592148214)株式会社精工 (3)
【Fターム(参考)】