説明

農園芸用覆土フィルム

【課題】 白色光を反射して植物側に供給すると同時に、赤外光を吸収して土を暖めることができ、温室などで使用しても温室内の雰囲気温度を上げることがない、農園芸用覆土フィルムを提供する。
【解決手段】 白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子を含有する農園芸用覆土フィルムであって、白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子の片方又は両方を基材フィルム内に分散して含有するか及び/又は基材フィルムの少なくとも片面上に設けた層内に含有する。白色光反射材料微粒子はTiOなどであり、赤外光吸収材料微粒子はLaBなどの6ホウ化物微粒子であって、その粒子径は1nm以上800nm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌表面を覆うことによって、太陽光などからの植物の生育に必要な白色光を植物側に反射すると同時に、赤外光を吸収して温室内などの雰囲気の気温を上げず且つ土を暖めることができる農園芸用覆土フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の成長を促進する方法の一つとして、太陽光などからの植物の生育に必要な白色光を植物側に反射するシートで土壌表面を被覆する方法が知られている。このような白色光反射シートとして、例えば、アルミニウムなどの金属膜を用いた反射シート、酸化チタンなどの白色光反射材料微粒子のコーティング膜を用いた反射シート、これらの反射シート上に更に白色光反射材料をコートした反射シートなどが知られている。
【0003】
しかし、これらの反射シートでは、白色光を植物側に反射するため植物の成長は促進されるが、地表に到達する太陽光を満遍なく反射するため赤外光も反射してしまう。そのため、赤外光の熱によって土を暖めることができないうえ、温室内などで使用すると室内温度が上昇するという欠点を有している。また、アルミニウムなどの金属膜を用いた反射シートは、一般的にアルミニウム蒸着加工により作製するため、コストアップなどの問題があった。
【0004】
一方、土壌表面を覆って保温するシートとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂シートが一般的に知られている。しかしながら、これらの合成樹脂シートは、一般に赤外光の透過率が高いため、土の保温効果が充分ではないという問題があった。この問題を解決するため、赤外光の吸収率を高めることが検討されている。
【0005】
例えば、特開平09-107815号公報には、赤外線反射性を有する帯状フィルムと赤外線吸収性を有する帯状フィルムとを、それぞれ経糸あるいは緯糸とした編織物からなり、地面を被覆する保温シートが提案されている。しかし、この保温シートは、赤外線吸収率が十分とは言えないうえ、赤外線反射性を有する帯状フィルムがアルミ蒸着加工を施して作製したものであるためコストが高いという問題があった。
【0006】
また、特開昭55-127946号公報には、全光線透過率を30%以上、拡散反射率を40%以上にした白化フィルムの表面上に、カーボンブラックなどの黒色あるいは青色などの顔料をバインダーに分散して印刷した農作物栽培用フィルムが提案されている。しかし、着色被膜層の面積が10〜60%であり、また熱となる近赤外線を効率良く吸収する構成ではないため、土壌を加温する効果が充分ではなかった。
【0007】
このように、太陽光などからの植物の生育に必要な白色光を植物側に反射する白色光反射シートと、土壌表面を覆って保温する合成樹脂シートは、それぞれ知られている。しかし、これらのシートでは、白色光を植物側に反射すると同時に赤外光を吸収することはできないため、例えば植物の生育を促す場合には白色光反射シートを用い、土を暖めたいときには保温用の合成樹脂シートを用いるなど、必要に応じて使い分けをしなければならなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平09-107815号公報
【特許文献2】特開昭55-127946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、太陽光などからの白色光を反射して植物の生育に必要な光を植物側に供給すると同時に、赤外光を吸収して土を暖めることができ、温室などで使用するときには温室内の雰囲気温度を上げることがない、農園芸用覆土フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究の結果、白色光を反射する材料を含有しているだけでなく、赤外光を吸収する材料を同時に含有する農園芸用覆土フィルムを構想するに至った。更に、自由電子を多量に保有する6ホウ化物に着目し、これを超微粒子化することにより、可視光領域に透過率の極大を持ち、且つ近赤外光領域に強い吸収を発現して透過率の極小を持つことを見出し、これを赤外光吸収材料として用いることにより本発明をなしたものである。
【0011】
即ち、本発明が提供する農園芸用覆土フィルムは、白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子を含有し、その両方又は片方が基材フィルム内に分散して含有されるか及び/又は基材フィルムの少なくとも片面に設けた層内に含有されていて、該赤外光吸収材料微粒子が6ホウ化物微粒子であることを特徴とする。
【0012】
上記本発明による農園芸用覆土フィルムの第1の形態は、前記白色光反射材料微粒子又は赤外光吸収材料微粒子が基材フィルム内に分散され、該白色光反射材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有するか、あるいは該赤外光吸収材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明による農園芸用覆土フィルムの第2の形態は、前記白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子とが共に基材フィルム内に分散して含有されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明による農園芸用覆土フィルムの第3の形態は、前記基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層と赤外光吸収材料微粒子を含有する層を積層して有するか、若しくは基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有し且つ他方の面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有することを特徴とする。
【0015】
また、上記本発明による農園芸用覆土フィルムにおいては、前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Ca、Yから選ばれた少なくとも1種の6ホウ化物からなることが好ましい。
【0016】
上記本発明による農園芸用覆土フィルムにおいては、前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることが好ましい。
【0017】
上記本発明による農園芸用覆土フィルムにおいては、前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alから選ばれた少なくとも1種の元素を含有する酸化物で被覆されていることが好ましい。
【0018】
また、上記本発明による農園芸用覆土フィルムにおいては、前記白色光反射材料微粒子が、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCOから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。
【0019】
更に、上記本発明による農園芸用覆土フィルムにおいては、前記基材フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、白色光反射材料微粒子及び赤外光吸収材料微粒子と基材フィルムからなり、コーティング法など簡単な方法を用いて低コストで製造でき、白色光を植物側に反射すると同時に、赤外光を吸収する農園芸用覆土フィルムを提供することができる。しかも、赤外光吸収材料微粒子として6ホウ化物微粒子を用いるため、耐候性が良く、少ない微粒子量で太陽光からの近赤外線を効率良く吸収することができる。
【0021】
従って、本発明の農園芸用覆土フィルムを用い、植物などを栽培する土壌表面を被覆することによって、植物の生育に必要な可視光波長領域の白色光を反射して植物の成長を促進する効果があるだけでなく、同時に近赤外光波長領域の赤外光を効率良く吸収して土を暖めることができる。また、温室内で用いる場合には、赤外光を吸収するため温室内の雰囲気温度を上げることがなく、温室の温度管理などが面倒になる恐れもない点で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
地表に到達する太陽光線は、一般に約290〜2100nmの波長域であるといわれ、このうち約380〜780nmの可視光波長領域の光は植物の生育に必要な白色光であり、約780〜2100nmの近赤外光光波長領域の光は熱となる赤外光である。本発明の農園芸用覆土フィルムは、植物の生育に必要な白色光は植物側に反射し、熱となる赤外光だけを選択的に効率よく吸収することによって、吸収された赤外光で土を暖め、且つ温室内の気温を上げないような構成となっている。
【0023】
即ち、本発明の農園芸用覆土フィルムは、白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子を、基材フィルム内に分散して含有するか、同時に/あるいは、基材フィルムの少なくとも片面上に層として含有する構成を有するものであり、その赤外光吸収材料微粒子として6ホウ化物微微粒子を用いている。従って、赤外光が赤外光吸収材料微粒子に吸収されることで、フィルム温度が上昇し、それに伴い輻射熱も増加して、フィルムで被覆された土壌の温度が上昇する。また、可視光線は白色光反射材料により反射されるため、植物に当たる光量が増すことで光合成量が増え、植物の成長が促進される。
【0024】
農園芸用覆土フィルムに赤外光吸収材料として用いる6ホウ化物微(XB)粒子について詳しく説明する。6ホウ化物微粒子としては、上記一般式XBのXが、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Ca、Yから選ばれた少なくとも1種の6ホウ化物、具体的には、LaB、CeB、PrB、NdB、SmB、EuB、GdB、TbB、DyB、HoB、ErB、TmB、YbB、LuB、SrB、CaB、及びYBが挙げられる。
【0025】
上記6ホウ化物微粒子は、その表面が酸化していないことが好ましいが、通常は僅かに酸化していることが多く、また微粒子の分散工程で表面の酸化が起こることはある程度避けられない。しかし、その場合でも、赤外光吸収効果を発現する有効性に変わりはない。また、これらの6ホウ化物微粒子は、結晶としての完全性が高いほど大きい赤外光吸収効果が得られるが、結晶性が低くX線回折でブロードな回折ピークを生じるようなものであっても、微粒子内部の基本的な結合が立方体CaBタイプの構造を有するものであるならば、赤外線吸収効果を発現する。
【0026】
また、6ホウ化物微粒子は、暗い青紫色ないし緑色などを呈し、可視光波長に比べて分散粒子径が十分小さい微粒子を薄膜中に分散した状態においては、可視光透過性が生じるが、赤外光吸収能は十分強く保持できる。その理由は、これら微粒子中の自由電子の量が多く、微粒子内部及び表面の自由電子によるプラズモン吸収並びにバンド間間接遷移の吸収エネルギーが可視〜近赤外の付近にあるため、この波長領域の光が選択的に反射・吸収されるためと考えられる。
【0027】
実験によれば、これら6ホウ化物微粒子を十分細かく且つ均一に分散した樹脂膜では、透過率が波長400〜700nmの間に極大値をもち、且つ波長700〜1800nmの間に極小値をもつことが確認された。従って、可視光波長が380〜780nmであり、視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光(白色光)を有効に透過し、それ以外の熱線(赤外光)を有効に吸収することが理解される。
【0028】
また、6ホウ化物微粒子の単位重量当たりの熱線吸収能力は非常に高く、ITOやATOと比較して40〜100分の1以下の使用量で、その効果を発揮する。具体的には、フィルム内又はその表面の層内における6ホウ化物微粒子の含有量は、0.001〜30重量%の範囲で使用されることが好ましい。0.001重量%未満の含有量では膜厚が厚くても十分な熱線吸収効果を得ることが難しく、30重量%を超えるとコストが高くなり、またフィルムの物性を損なう可能性があるからである。
【0029】
また、透明性を保持したまま近赤外線の効率良い遮蔽を行なうには、6ホウ化物微粒子の粒子径は1nm以上800nm以下であることが好ましい。尚、6ホウ化物微粒子を樹脂中に分散させた時の平均分散粒子径も、1nm以上800nm以下が好ましい。粒子径が800nmよりも大きい粒子は、可視光領域の光を遮蔽してしまうため、視認性を保持したまま効率良く近赤外線を遮蔽することが難しくなる。このように視認性を保持する観点からは、6ホウ化物微粒子の粒子径は小さい方が好ましく、粒子径が1nm以上であれば工業的に容易に製造することが可能である。
【0030】
この6ホウ化物微粒子による散乱の低減を重視する場合、平均分散粒子径は200nm以下が好ましい。その理由は、粒子の平均分散粒子径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱による400〜780nmの可視光線領域の散乱が低減される結果、膜が曇りガラスのようになって鮮明な透明性が失われるのを回避できるからである。即ち、平均分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱若しくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴って散乱が低減し、透明性が向上するからである。また、平均分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなるため更に好ましい。
【0031】
赤外光吸収材料である6ホウ化物微粒子は、その表面をSi、Ti、Zr、Alの少なくとも1種を含有する酸化物、例えばSiO、TiO、ZrO、Alなどで被覆することによって、耐候性を向上させることができる。これらの酸化物は基本的に透明であり、添加したことで可視光透過率を低下させることはない。これら酸化物の被覆方法については、特に限定されないが、例えば、6ホウ化物微粒子を分散した溶液中に上記金属のアルコキシドを添加し、加熱処理することにより表面を被覆することが可能である。
【0032】
また、6ホウ化物微粒子の表面を酸化物で被覆するには、アルミニウムアルコレート化合物及びその重合物、アルミニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコレート化合物及びその重合物、ジルコニウムキレート化合物、チタンアルコレート化合物及びその重合物、チタンキレート化合物から選ばれた少なくとも1種の有機金属化合物で表面処理し、その有機金属化合物の熱分解温度以上で加熱処理することもできる。この表面処理は他の表面処理と組み合わせることが可能であり、好ましくは上記湿式法によるSiO被膜と組み合わせて積層することにより、更に優れた耐水性を付与することができる。
【0033】
一方、農園芸用覆土フィルムに使用する白色光反射材料微粒子は、従来から同様の目的に使用されているもので良く、例えば、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCOから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。尚、これらの白色光反射材料微粒子、例えばTiOなどを分散した合成樹脂フィルムは、白色光を反射する反射シートとして従来から知られている。
【0034】
また、基材フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。これらの樹脂には、安定剤、安定化助剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0035】
次に、本発明の農園芸用覆土フィルムの好ましい形態について説明する。農園芸用覆土フィルムの第1の形態は、白色光反射材料微粒子又は赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)が基材フィルム内に分散され、その白色光反射材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有するか、あるいは赤外光吸収材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有するものである。
【0036】
また、農園芸用覆土フィルムの第2の形態は、白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子とが、共に基材フィルム内に分散して含有されているものである。更に、第3の形態は、基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層と赤外光吸収材料微粒子を含有する層を積層して有するか、若しくは基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有し且つ他方の面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有するものである。
【0037】
上記した各形態の農園芸用覆土フィルムを作製する場合、白色光反射材料微粒子又は赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)を含む層を基材フィルム上にコーティングすること、あるいは上記微粒子を基材フィルム中に練り込んで分散させることが必要である。これらの適用方法としては通常のコーティング方法や分散方法を用いることができ、従って耐熱温度の低い樹脂材料などからなる基材フィルムへの応用が可能であって、大型の装置を必要とせず安価に実施できるという利点がある。
【0038】
また、赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子は導電性であるため、微粒子が互いに連接して連続的な膜となっている場合には、携帯電話などの電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、通常の方法により6ホウ化物微粒子をマトリックス中に分散した場合には、粒子の一つ一つが孤立した状態で分散されるため、電波透過性を発揮することができ、汎用性を有している。
【0039】
白色光反射材料微粒子又は赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)を含有する層をコーティングにより基材フィルム上に形成する場合は、例えば、赤外光吸収材料微粒子を溶媒中に分散させ、これに樹脂バインダーを添加した後、基材フィルム表面にコーティングし、溶媒を蒸発させ、所定の方法で樹脂を硬化させることにより、赤外光吸収材料微粒子を含む赤外光吸収層を形成することができる。また、赤外光吸収材料微粒子を樹脂バインダー樹脂中に直接分散したものは、基材フィルム表面にコーティングした後、溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的にも工業的にも好ましい。
【0040】
基材フィルム表面へのコーティング方法としては、均一にコートできれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などを用いることができる。これらのコーティング方法により形成した赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)を含有する層は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などの乾式法や、スプレー法で作製した場合に比べて、光の干渉効果を用いなくても、特に近赤外線領域の光をより効率良く吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることができる。
【0041】
上記樹脂バインダーとしては、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑性樹脂などを目的に応じて選択することができる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zrなどのアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは加水分解して、加熱することで酸化膜を形成することが可能である。
【0042】
また、赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)及び/又は白色光反射材料微粒子を基材フィルムの内部に分散させる場合には、その微粒子を基材フィルム表面から浸透させてもよく、あるいは、基材フィルムを溶融温度以上に加熱して溶融させた後、微粒子を混合してもよい。また、予め原料樹脂中に微粒子を高濃度に分散せしめたマスターバッチを製造し、これを所定の濃度に希釈調製して用いることも可能である。このようにして得られた赤外光吸収材料微粒子及び/又は白色光反射材料微粒子を含有する樹脂は、所定の方法でフィルム状に成形することができる。
【0043】
上記マスターバッチの製造方法は、特に限定されないが、例えば、6ホウ化物微粒子の分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体又はペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、分散媒を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に微粒子が均一に分散した混合物として調製することができる。その際の混合には、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機などの混練機を使用することができる。
【0044】
また、微粒子分散液の分散媒を公知の方法で除去し、得られた微粒子と熱可塑性樹脂の粉粒体又はペレット、及び必要に応じて他の添加剤を均一に溶融混合する方法を用いて、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散させた混合物を調製することもできる。そのほか、微粒子を熱可塑性樹脂に直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。微粒子を樹脂に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波分散、媒体撹拌ミル、ボールミル、サンドミルなどを使用することができる。
【0045】
上記した微粒子の分散媒は、特に限定されるものではなく、配合する樹脂に合わせて選択することが可能である。例えば、水、あるいは、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物など、一般的な溶媒の使用が可能である。また、必要に応じて、酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。更に、微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
【0046】
上記した方法により得られた混合物は、更にペント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することによって、樹脂中に赤外光吸収材料微粒子(6ホウ化物微粒子)及び/又は白色光反射材料微粒子を高濃度に分散させたマスターバッチを得ることができる。
【0047】
上記本発明の農園芸用覆土フィルムは、基材フィルム内及び/又は基材フィルム表面に設けた層内に、白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子を含有しているフィルムであり、簡便な方法で製造できるうえ、耐候性が良く、低コストであり、しかも少ない微粒子量で太陽光からの近赤外線を効率良く吸収し、同時に可視光線を植物側に反射することができる。従って、この農園芸用覆土フィルムを用いて植物などを栽培する土壌表面を覆うことにより、被覆された土壌の温度が上昇して土を暖め、温室内などの雰囲気気温は上昇させない効果があり、且つ植物の生育に必要な可視光波長領域の光を反射して、植物の成長を促進する効果を有するものである。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
LaB微粒子(比表面積30m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径100nmのLaB微粒子の分散液を作製した(A液)。このA液10重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分50%)10重量部と、トルエン100重量部を混合して、赤外光吸収材料微粒子分散液とした。
【0049】
この赤外光吸収材料微粒子分散液を、白色光反射材料としてTiO微粒子を分散含有しているポリエチレンの基材フィルム上に、バーコーターを用いて塗布し成膜した。このコーティング膜を60℃で30秒間乾燥して溶媒のトルエンを蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることにより、可視光領域の拡散反射率が高い赤外光吸収層を形成した。かくして、TiO微粒子を分散した基材フィルムの片面に、LaB微粒子を含有する赤外光吸収層を設けた覆土フィルムを得た。
【0050】
得られた実施例1の覆土フィルムの光学特性を、日立製作所製の分光光度計を用いて波長200〜2100nmの光の透過率により測定し、JISA5759に従って可視光透過率、日射透過率、可視光反射率、日射反射率、日射吸収率を算出した。得られた結果を下記表1に示した。尚、上記日射吸収率は、日射吸収率(%)=100%−日射透過率(%)−日射反射率(%)から算出した。
【0051】
[実施例2]
CeB微粒子(比表面積20m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径90nmのCeB微粒子分散液を作製した(B液)。このB液10重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分50%)10重量部と、トルエン100重量部を混合して、赤外光吸収材料微粒子分散液とした。
【0052】
この赤外光吸収材料微粒子分散液を、白色光反射材料としてTiO微粒子を分散含有しているポリエチレンの基材フィルム上に、バーコーターを用いて塗布し成膜した。このコーティング膜を60℃で30秒間乾燥して溶媒のトルエンを蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることにより、可視光領域の拡散反射率が高い赤外光吸収層を形成した。
【0053】
かくして、TiO微粒子を分散した基材フィルムの片面に、CeB微粒子を含有する赤外光吸収層を設けた覆土フィルムを得た。得られた実施例2の覆土フィルムの光学特性を、上記実施例1と同様に測定評価して、その結果を下記表1に示した。
【0054】
[実施例3]
PrB微粒子(比表面積20m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径90nmのPrB微粒子分散液を作製した(C液)。このC液10重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分50%)10重量部と、トルエン100重量部を混合して、赤外光吸収材料微粒子分散液とした。
【0055】
この赤外光吸収材料微粒子分散液を、白色光反射材料としてTiO微粒子を分散含有しているポリエチレンの基材フィルム上に、バーコーターを用いて塗布し成膜した。このコーティング膜を60℃で30秒間乾燥して溶媒のトルエンを蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることにより、可視光領域の拡散反射率が高い赤外光吸収層を形成した。
【0056】
かくして、TiO微粒子を分散した基材フィルムの片面に、PrB微粒子を含有する赤外光吸収層を設けた覆土フィルムを得た。得られた実施例3の覆土フィルムの光学特性を、上記実施例1と同様に測定評価して、その結果を下記表1に示した。
【0057】
[実施例4]
LaB微粒子(比表面積30m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径100nmのLaB微粒子分散液を作製した(A液)。このA液からスプレードライヤーを用いて溶媒のトルエンを除去し、得られた分散粉をポリエチレン樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットして、LaB微粒子を含有するマスターバッチを得た。
【0058】
同様に、TiO微粒子(比表面積20m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合して、平均分散粒子径1μmのTiO微粒子の分散液を作製した。この液から溶媒のトルエンを除去し、得られた分散粉をポリエチレン樹脂ペレットに添加し、ブレンダーでの混合と二軸押出機での溶融混練の後、押出されたストランドをペレット状にカットして、TiO微粒子を含有するマスターバッチを得た。
【0059】
このLaB微粒子を含有するマスターバッチ1重量部と、TiO微粒子を含有するマスターバッチ50重量部を、上記と同じ方法で調製した無機微粒子を添加していないマスターバッチ100重量部と混合した。この混合マスターバッチを押出成形して、厚さ100μmのフィルムを形成した。
【0060】
かくして、基材フィルム内にTiO微粒子とLaB微粒子を含有する覆土フィルムを得た。得られた実施例4の覆土フィルムの光学特性を、上記実施例1と同様に測定評価して、その結果を下記表1に示した。
【0061】
[実施例5]
LaB微粒子(比表面積30m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径100nmのLaB微粒子分散液を作製した(A液)。このA液10重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分50%)10重量部と、トルエン100重量部を混合して、赤外光吸収材料微粒子分散液とした。
【0062】
同様に、TiO微粒子(比表面積20m/g)20重量部と、トルエン73重量部と、微粒子分散用分散剤7重量部を混合し、媒体撹拌ミルで分散処理を行なって、平均分散粒子径1μmのTiO微粒子分散液を作製した。この分散液10重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分50%)10重量部と、トルエン100重量部を混合して、白色光吸収材料微粒子分散液とした。
【0063】
上記赤外光吸収材料微粒子分散液を、ポリエチレンの基材フィルム上に、バーコーターを用いて塗布し成膜した。このコーティング膜を60℃で30秒間乾燥してトルエンを蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることにより、可視光領域の拡散反射率が高い赤外光吸収層を形成した。その後、基材フィルムの他方の面に、上記と同様にして、白色光反射材料微粒子分散液を成膜し、硬化させて、可視光領域の拡散反射率が高い白色光反射層を形成した。
【0064】
かくして、基材フィルムの片面にTiO微粒子を含有する白色光反射層、反対側の面にLaB微粒子を含有する赤外光吸収層を設けた覆土フィルムを得た。得られた実施例5の覆土フィルムの光学特性を、上記実施例1と同様に測定評価して、その結果を下記表1に示した。
【0065】
[比較例1]
上記実施例4と同様にして得たTiO微粒子を含有するマスターバッチと、無機微粒子を添加していないマスターバッチとを混合し、混合マスターバッチを押出成形して、上記実施例4と同量のTiO微粒子を含有する厚さ100μmのフィルムを形成した。
【0066】
このポリエチレンの基材フィルム内にTiO微粒子を含有する比較例1の覆土フィルムについて、光学特性を上記実施例1と同様に測定評価して、その結果を下記表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
上記の結果から、本発明の実施例1〜5の覆土フィルムは、赤外光吸収材料の6ホウ化物微粒子と白色光反射材料のTiO微粒子を基材フィルム内又はその表面に設けた層内に含有するため、可視光の50〜70%程度を反射するだけでなく、日射吸収率を30〜60%程度まで大幅に高めることができるため、赤外光によるフィルムの蓄熱性に優れていることが分かる。一方、比較例1の覆土フィルムは、従来の反射シートに相当するものであり、可視光反射率は高いが、日射吸収率は極めて低く、赤外光を吸収し得ないことが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子を含有し、その両方又は片方が基材フィルム内に分散して含有されるか及び/又は基材フィルムの少なくとも片面に設けた層内に含有されていて、該赤外光吸収材料微粒子が6ホウ化物微粒子であることを特徴とする農園芸用覆土フィルム。
【請求項2】
前記白色光反射材料微粒子又は赤外光吸収材料微粒子が基材フィルム内に分散され、該白色光反射材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有するか、あるいは該赤外光吸収材料微粒子を含有する基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有することを特徴とする、請求項1に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項3】
前記白色光反射材料微粒子と赤外光吸収材料微粒子とが共に基材フィルム内に分散して含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項4】
前記基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層と赤外光吸収材料微粒子を含有する層を積層して有するか、若しくは基材フィルムの片面に白色光反射材料微粒子を含有する層を有し且つ他方の面に赤外光吸収材料微粒子を含有する層を有することを特徴とする、請求項1に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項5】
前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子が、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Ca、Yから選ばれた少なくとも1種の6ホウ化物からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項6】
前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項7】
前記赤外光吸収材料微粒子である6ホウ化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alから選ばれた少なくとも1種の元素を含有する酸化物で被覆されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項8】
前記白色光反射材料微粒子が、TiO、ZrO、SiO、Al、MgO、ZnO、CaCO、BaSO、ZnS、PbCOから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の農園芸用覆土フィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラクロロトリフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリエステル樹脂から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1〜8に記載の農園芸用覆土フィルム。



【公開番号】特開2006−340675(P2006−340675A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170330(P2005−170330)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】