説明

農業ハウス用空気加熱装置

【課題】環境に対する負荷を増大させることなく、温室内の空気を所定の温度に安定して加熱維持することができる農業ハウス用空気加熱装置を簡易な構成で安価に提供する。
【解決手段】筐体10内に空気を取り込むための吸入手段30と、吸入手段30により取り込まれた空気を加熱する加熱手段50と、加熱手段50により加熱された空気を撹拌しつつ蓄熱する蓄熱槽70と、蓄熱槽70内の加熱空気を筺体外部へ吐出する吐出手段205とを備え、加熱手段50は、水平方向に並設された複数の加熱基板500と、隣接する加熱基板500の間に形成された複数の加熱流路50Rとを含み、複数の加熱流路50Rを介して蓄熱槽70に導入された加熱空気により、当該蓄熱槽70内に撹拌流が生じるように、少なくとも一の加熱流路50Reの流路構成は他の加熱流路50Rの流路構成と異なるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化石燃料を使用することなく所定の温度の熱風を吐出して室内空気を加熱する空気加熱装置に関し、特に、ハウス型農業に用いられるビニルハウス等の温室内の空気を効率的に加熱することができる農業ハウス用空気加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウス型農業には欠くことのできないビニルハウス等の温室内の暖房には、化石燃料を使用するボイラー等が用いられているが、このように化石燃料を使用して室内空気を加熱する装置では、燃料費等が市場価格の変動に左右され易く、安定したランニングコストを維持することが困難であった。また、化石燃料により多量のCO2が排出されることとなり、環境負荷の低減といった近年の社会的要請に逆行するものであった。
【0003】
そこで、このようなCO2を増大させる化石燃料を使用せずに温室内の空気を加熱する環境負荷の低減を図った空気加熱装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、環境負荷の低減を考慮して、カーボンニュートラルな木質ペレットを燃料として使用するペレットストーブにより温風を発生させる温風暖房機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−142161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記引用文献1に開示された先行技術では、比較的高価な特殊燃料(木質ペレット)をペレットストーブ内にて燃焼させて温風を発生させるため、ランニングコストの低減が困難であるという問題が生じていた。また、木質ペレットを供給する燃料供給装置、吸気経路、排気経路等を備えた燃焼炉を耐火設備として構成する必要があるため、必然的に、構造が複雑となって小型化が困難であると共に、重量の増大に伴い任意の設置場所への移動変更が困難であるといった問題が生じていた。さらに、排煙が発生するため、煤取りなどのメンテナンスが必要となるといった問題も生じていた。
【0007】
一方、特に寒冷地で必要となる農業用のビニルハウスでは、外気の影響を極力遮蔽するために、開口部が狭く細長い形状(例えば、長さ25〜50m程度)の長尺のビニルハウスが一般的であり、このような形状のビニルハウス内において、隅々にまで温風を行き渡らせてハウス内の温度ムラを抑制するためには、吐出風圧(例えば、20m/sec以上)の高い加熱装置が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、環境に対する負荷を増大させることなく、温室内の空気を所定の温度に安定して加熱維持することができる農業ハウス用空気加熱装置を簡易な構成で安価に提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、比較的高い風圧の温風を安定して吐出することができる農業ハウス用空気加熱装置を簡易な構成で安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る農業ハウス用空気加熱装置は、空気を筐体内に取り込んでヒーターにて加熱した後、加熱空気を筐体外部へ吐出する農業ハウス用空気加熱装置であって、前記筐体内に空気を取り込むための吸入手段と、前記吸入手段の上方に配置され、吸入手段により取り込まれた空気を加熱する加熱手段と、前記加熱手段の上方に配置され、加熱手段により加熱された空気を撹拌しつつ蓄熱する蓄熱槽と、前記蓄熱槽の上方に配置され、前記蓄熱槽内の加熱空気を筺体外部へ吐出する吐出手段とを備え、前記加熱手段は、水平方向に並設された複数の加熱基板と、隣接する加熱基板の間に形成された複数の加熱流路とを含み、前記複数の加熱流路を介して前記蓄熱槽に導入された加熱空気により、当該蓄熱槽内に撹拌流が生じるように、少なくとも一の加熱流路の流路構成は他の加熱流路の流路構成と異なるように形成されていることを特徴とするものである

【0011】
ここで、流路構成が異なるとは、加熱流路の流速及び/又は流路長が異なることをいうものとする。
【0012】
このような構成によれば、吸入手段により取り込まれ、異なる流路構成を有する加熱手段を介して加熱されて蓄熱槽内に導入された加熱空気により乱流(撹拌流)を生成し、特別な撹拌部材等を設けることなく蓄熱槽内の加熱空気を撹拌して、均一の所定の温度に加熱維持することができる。
【0013】
また、流路構成が異なる前記加熱流路は、他の加熱流路よりも流速が速くなるように形成されていてもよい。
【0014】
このように構成した場合には、複数の加熱流路を介して蓄熱槽内に導入された加熱空気の流速差により撹拌流を生成して、蓄熱槽内の加熱空気を撹拌させることができる。
【0015】
また、流路構成が異なる前記加熱流路は直線状に形成されているのに対し、他の加熱流路は蛇行流路として形成されていてもよい。
【0016】
このように構成した場合には、蛇行する加熱流路により流路長を増大させて通過する空気流を十分に加熱しつつ、直線状の加熱流路の流速を相対的に増大させて蓄熱槽内に撹拌流を効果的に生成することができる。
【0017】
また、流路構成が異なる前記加熱流路は、その流路幅が、他の加熱流路の流路幅よりも狭く設定されていてもよい。
【0018】
このように構成した場合には、流路構成が異なる加熱流路における流速の増大を容易に実現することができる。
【0019】
また、前記吸入手段は、回転軸周りに複数のプロペラ状の羽根が取り付けられた軸流ファンであり、流路構成が異なる前記加熱流路は、前記軸流ファンの羽根の外周部に対応する加熱流路であってもよい。
【0020】
このように構成した場合には、軸流ファンの風量特性を利用して、蓄熱槽全体に渡って循環する撹拌流を生成し、蓄熱槽内の加熱空気をより効果的に撹拌することができる。
【0021】
また、前記吸入手段は回転軸周りに複数のプロペラ状の羽根が取り付けられた軸流ファンであるのに対し、前記吐出手段は対向する一対の円板間に渡って、周方向に沿って多数の羽根が配設された遠心ファンであり、かつ、前記遠心ファンの風量は、前記軸流ファンの風量よりも小さくてもよい。
【0022】
このように構成した場合には、蓄熱槽内の加熱空気を加圧状態として、加熱空気のさらなる加温(昇温)を可能とすると共に、吐出空気の風圧の増大に寄与することができる。
【0023】
さらに、前記蓄熱槽と前記遠心ファンとは、蓄熱槽の上部から突出形成された空間を介して連通していてもよい。
【0024】
このように構成した場合には、流路構成が異なる加熱流路を通過した直後の相対的に温度の低い空気流を直接的に吐出することを回避して、十分に撹拌されて均一な温度に上昇した加熱空気をより安定に抽出して吐出することができる。
【0025】
また、前記加熱基板は、その表面から突出形成され当該加熱基板の両側で互い違いとなるように配置されたアルミニウム製の複数の抵抗フィンを備えており、前記蛇行する加熱流路は、隣接する加熱基板の間で前記抵抗フィンが千鳥状に配置されることにより形成されていると共に、前記直線状の加熱流路は、当該加熱流路に面する加熱基板の抵抗フィンを省略することにより形成されていてもよい。
【0026】
このように構成した場合には、通過する空気流に対して十分な加熱量を付与する蛇行流路及び蓄熱槽内に撹拌流を生成する直線状の加熱流路の双方を加熱基板の並設配置により同時に形成することができる。
【0027】
さらに、前記加熱基板は、箔状に形成した合金発熱体の両面をアルミニウム板で挟み込んで板状に形成されていると共に、前記抵抗フィンのそれぞれは、加熱基板の表面から突出形成された一対の対向部と、この対向部の先端に設けられ蓄熱槽に向かって屈曲するガイド部とを備えていてもよい。
【0028】
このように構成した場合には、合金発熱体からの発熱を対向するアルミニウム板の間に蓄熱可能として、高い発熱効率を有する合金発熱体の特性を活かしつつ、蓄熱性能の低下を効果的に補償すると共に、加熱流路にて徐々に加熱されて上昇する加熱空気を蓄熱槽内に円滑に導くことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ビニルハウス等の温室内の空気を環境に対する負荷を低減しつつ所定の温度まで加熱して安定して維持することができる空気加熱装置を簡易な構成で安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る空気加熱装置の一実施形態を示す外観斜視図である。
【図2】実施の形態に係る空気加熱装置の内部構成を説明するための模式図である。
【図3】実施の形態に係る吸入手段及び加熱手段の配置構成を説明するための模式的平面図である。
【図4】実施の形態に係る加熱手段の構成を説明するための模式図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は積層状態を拡大して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る空気加熱装置は、化石燃料を用いることなく、電気エネルギーにて効率的にビニルハウス等の温室内の空気を加熱するものであり、以下に、本発明に係る空気加熱装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、図1は本発明に係る空気加熱装置の一実施形態を説明するための外観斜視図であり、図2は空気加熱装置の内部構成を説明するための模式図である。また、図3は吸入手段及び加熱手段の配置構成を説明するための模式的平面図であり、図4は加熱手段の構成を説明するための模式図である。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態に係る空気加熱装置1は、中空直方体状の装置筐体10を備え、装置筐体10の底面四隅にはキャスター10Rが配設されていると共に、高さ方向略中央部には棒状の取手10gが略水平に配設されており、ユーザーが空気加熱装置1を任意の場所に容易に移動設置可能な構成となっている。
【0033】
また、装置筐体10の上部略中央には、中空立方体状のファン筺体20が載置されており、かかるファン筺体20の内部には、所定の温度(例えば、約80℃)の熱風(温風)を吐出口201から吹き出すための吐出手段としての吹き出しファン205(図2参照)が配設されている。
【0034】
なお、符号CRは、操作スイッチや表示部等を有し、空気加熱装置1の構成機器を操作・制御するためのコントロールパネルであり、符号TSは、外気(室内空気)の温度を検出するための温度センサである。また、本実施の形態において、温度センサTSは、装置筐体10から離れた任意の箇所の室内空気の温度を計測可能なように、装置筐体10から所定の長さ(例えば、5m程度)延長可能なコード状(紐状)に形成されている。
【0035】
そして、本実施の形態に係る空気加熱装置1では、ユーザーがコントロールパネルCRにて適宜設定した所望の室内温度となるまで、吐出口201から温度ムラの少ない熱風を吐出すると共に、設定温度到達後は送風のみを行い、設定値から室内温度が下がった場合には、所望の室内温度を維持するように再び熱風を吐出するようになっている。
【0036】
図2に示すように、吐出手段である吹き出しファン205としては、互いに対向し回転自在に形成された一対の円板状(本例では、180mmφ)の羽根車205a,205a間に渡って、周方向に沿って多数の羽根205bを配設した遠心ファン、いわゆるシロッコファン(風量:5m3/min)を採用しており、本実施の形態に係る吹き出しファン205は、モーター205Mと一体化して小型化を図っている。また、吹き出しファン205を収容するファン筺体20の一側面(本例では、コントロールパネルCR側)には所定の直径(本例では、100mmφ)を有する吐出口201が突出形成されていると共に、装置筐体10とファン筺体20との間には上記羽根車205aより小さい直径(本例では、100mmφ)を有する連通口HCが開口形成されている。
【0037】
より詳細には、ファン筺体20を設置(載置)する領域に対応する装置筐体10の上面(天井面)は、ファン筺体20と嵌合可能なように、当該領域が上方に50mm程度突出(隆起)した中空方形状の突出部10Tとして形成されており、この突出部10Tにファン筺体20が嵌め込まれるようになっている。すなわち、ファン筺体20を装置筐体10に取り付けた状態では、ファン筺体20の底部は、装置筐体10の突出部10Tにより上げ底となっており、突出部10Tの上にシロッコファン205が載置されると共に、当該突出部10Tの上面に装置筐体10とファン筺体20(シロッコファン205)とを連通する連通口HCが開口形成されている。なお、簡明化のため、図2においては、ファン筺体20を省略して示している。
【0038】
このように装置筐体10の上部に突出部10Tを設けて、かかる突出部10Tに設けた連通口HCを介して遠心ファン(シロッコファン)205にて加熱空気を吐出することにより、その詳細を後述するように、装置筐体10内にて十分に撹拌されて均一の温度となった加圧状態の加熱空気をより安定して吐出することができる。
【0039】
一方、装置筐体10の内部には、図2に最も良く示されるように、高さ方向略中央部下方に外気(室内空気)を取り込むための吸入手段としての吸入ファン30が設置されており、この吸入ファン30の上方には、吸入ファン30から導入された外気(室内空気)を加熱する加熱手段50が配設されている。さらに、加熱手段50の上方には、加熱手段50により加熱されて上昇した加熱空気が導入され、かかる加熱空気を撹拌しつつ加圧蓄熱する蓄熱槽70が形成されている。
【0040】
上記吸入ファン30としては、回転軸30sの回りに複数枚(本例では4枚)のプロペラ状の羽根30aが取り付けられた軸流ファン、いわゆるプロペラファン(風量:40m3/min)を採用しており、各羽根30aの長さは、その最外周部(最外縁部)が装置筐体10の内壁に近接するように設定されている(図3参照)。また、吸入ファン30の取付領域に対応する装置筐体10の側面には、空気取り込み用のスリット状の側部取り込み口10aが形成されていると共に、装置筐体10の底面には、同様な底部取り込み口10bが形成されている。
【0041】
さらに、本実施の形態において、上記吸入ファン30と装置底面(側部取り込み口10b)との間には、吸入ファン30により取り込まれた空気を収容(貯留)する所定の容積の空間(以下、吸気安定部300とも称する)が形成されている(図2参照)。
【0042】
このように室内空気の取り込み用として軸流ファンであるプロペラファン30を採用することにより、大量の室内空気(外気)を装置筐体10内に取り込み可能とすると共に、プロペラファン30の下方に吸気安定部300を設けることにより、風量は大きいが外気の影響(静圧変化)を受け易いプロペラファン30の取り込み性能を安定化させて、下流側の加熱手段50に一定の空気量を安定して送り込むことを可能としている。
【0043】
なお、プロペラファン30による送風量を安定化させるという観点からは、上記吸気安定部300の容積は、プロペラファン30の風量の35〜50%であることが好ましい。
【0044】
本実施の形態において、プロペラファン30の上方に配設された加熱手段50は、その表面から抵抗フィン505が突出形成された複数の加熱基板500,500・・・と、これらの加熱基板500,500・・・の間に形成された複数の加熱流路50R,50R・・・とから構成されている。
【0045】
上記加熱基板500は、図4に最も良く示されるように、合金をマイカ加工(合金の表面をマイカにてコーティング)して耐熱絶縁処理した発熱効率の高い合金発熱体(株式会社TKPグリーンライフ製、製品名:マイカヒーター)501を採用し、かかる合金発熱体501を厚さ20μm程度の箔状に形成して曲線状に引き回し、さらに、この合金発熱体501を厚さ6mmのアルミニウム板503で挟み込んで接合し板状に形成している。
【0046】
このように構成した加熱基板500では、電極端子501p,501nに電源を接続して印加することにより合金発熱体501が発熱し、さらに、合金発熱体501による発熱量を両側のアルミニウム板503に蓄熱することにより、高い発熱効率(例えば、電源ONから合金発熱体501が600℃程度に達するまで1〜2秒)と安定した蓄熱性能(蓄熱容量)とを同時に実現している。
【0047】
上記抵抗フィン505は、略コ字状に形成されたアルミニウム製の部材であり、加熱基板500の表面と直交する方向(本例では水平方向)に突出して互いに略平行に対向する一対の放熱フィン(対向部)505f,505fと各放熱フィン505f,505fの先端から上方に向かって(蓄熱槽70に向かって)屈曲した一対のガイドフィン(ガイド部)505g,505gとを有し、加熱基板500の一方の表面の略中央部に一つ、他方の表面の上下両端部に2つ設けられている。すなわち、加熱基板500表面の片側に1個、反対側に2個の合計3個の抵抗フィン505が加熱基板500の両側で互い違いとなるよ
うに配置されている。
【0048】
本実施の形態に係る加熱基板500は、図2に最も良く示されるように、水平方向両端部が側板510eにより閉鎖された枠状の支持体510の内部にスライド挿入して設置可能に構成されており、複数の加熱基板500を水平方向に並設(立設)することにより、隣接する加熱基板500,500間にて、抵抗フィン505が千鳥状に互い違いに配置されるようになっている。また、これらの抵抗フィン505の千鳥配置により、隣接する加熱基板500,500間には蛇行する複数の加熱流路50R,50R・・・が形成されている。なお、本実施の形態において、装置筐体10と上記支持体510との間には、装置筐体10の過熱を抑制するための空冷空間が形成されている。
【0049】
このように構成した加熱手段50においては、吸入ファン30により取り込まれた外気(室内空気)は、加熱基板500によって加熱されると共に隣接する加熱基板500,500間に形成された加熱流路50Rに導かれて、千鳥状に配置された抵抗フィン505の間を蛇行しながら上昇し、各放熱フィン505f,505f対の間で放熱フィン505f,505fからの放熱によりさらに加熱され、ガイドフィン505g,505gにガイドされて蓄熱槽70に向かって徐々に上昇していく。これにより、合金発熱体501の高い発熱性能と両側のアルミニウム板503及びアルミニウム製の抵抗フィン505による蓄熱(放熱)性能により通過する室内空気に十分な熱量を付与し、単位体積当たりの加熱量を増大させて加熱手段50の小型化やランニングコストの低減に寄与することができる。具体的には、上記加熱手段50を採用することにより、従来のボイラー方式の加熱装置に比し、年間の光熱費を約80%削減できることが確認できた。
【0050】
また、本実施の形態において、上記蓄熱槽70は、加熱手段50の容積(加熱基板500及び加熱流路50Rの設置容積)と略同等に形成された中空方形状の空間であり、加熱手段50により加熱された空気が上昇して蓄熱槽70に導入されて撹拌蓄熱されると共に、プロペラファン30の相対的に大きな風量により蓄熱槽70の内圧が上昇した状態で所定の温度まで均一にさらに加熱(昇温)されるようになっている。さらに、蓄熱槽70内には、所定の温度(本例では、250℃)で動作する不図示のサーモスタットが配設されており、異常な温度上昇が発生した場合には、上記サーモスタットを介して加熱基板500の電源をOFFするように構成されている。
【0051】
なお、本実施の形態では、上記複数の加熱流路50R,50R・・・の内、少なくとも一の加熱流路50Rの流路構成を、他の加熱流路50Rの構成と異ならせることにより、特別の撹拌部材等を付加することなく、次のようにして蓄熱槽70内に導入された加熱空気を撹拌可能としている。
【0052】
具体的には、図2及び図3に示すように、並設方向端部の加熱基板(装置筐体10の内壁に最近接する加熱基板)500eが側板510eと対向している、一方の端部加熱流路(本例では、図2中、右端の端部加熱流路)50Reでは、上記抵抗フィン505を省略している。すなわち、他の加熱流路50Rが曲線状の蛇行流路として形成されているのに対し、上記端部加熱流路50Reは抵抗フィン505を省略した直線状の加熱流路として形成されている。加えて、上記端部加熱流路50Reの流路幅(端部加熱基板500eと側板510eとの対向距離)Weは、他の蛇行する加熱流路50Rの流路幅(隣接する加熱基板500,500間の対向距離)Wよりも狭く設定されている。
【0053】
このように複数の加熱流路50Rのうち、少なくとも一の加熱流路の流路構成を異ならせる(抵抗フィン505のない直線状の加熱流路として流速を増大させる)ことにより、蓄熱槽70内に導入された加熱空気により乱流(撹拌流)を生成し、当該蓄熱槽70内の加熱空気を撹拌させることができる。また、直線状に形成した加熱流路の流路幅を相対的に狭く設定することにより、かかる加熱流路における流速を相対的にさらに増大させて、蓄熱槽70内における撹拌作用をより促進させることができる。
【0054】
なお、流路構成を異ならせる(抵抗フィン505を省略して直線状の加熱流路として形成する)加熱流路は、複数の加熱流路50Rの内から任意に選択してもよいが、加熱手段50の下方に配置された軸流ファン(プロペラファン)30の特性(羽根30aの外周部の風量が中心部に比べて増大する特性)を有効に活用して、蓄熱槽70の端部から端部に渡って全体的に循環する撹拌流を生成させるという観点からは、プロペラファン30の外周部に対応する端部加熱流路50Reを直線状に形成する(抵抗フィン505を省略する)ことが好ましい。
【0055】
同様に、プロペラファン30の特性を利用して流速の増大を図り、蓄熱槽70全体に渡る循環流による撹拌作用を一層効果的に促進するという観点からは、プロペラファン30の外周部に対応する端部加熱流路50Reの流路幅Weを相対的に狭く設定(W>We)することが好ましい。
【0056】
また、通過する空気流に対して十分な加熱量を付与しつつ、蓄熱槽70全体に渡って循環する撹拌流を生成するという観点からは、両端部に存在する端部加熱流路のうち、いずれか一方の端部加熱流路のみ抵抗フィン505を省略した直線状に形成し、他方の端部加熱流路に関しては、他の加熱流路50Rと同様な流路幅Wに設定すると共に、同様な抵抗フィン505を設けた構成とすることが好ましい(図2、図3参照)。
【0057】
また、本実施の形態に係る空気加熱装置1では、吸入手段20の風量に対する吐出手段の風量が約1/8程度に設定されており、プロペラファン30にて取り込まれた多量の室内空気は、加熱手段50により加熱され蓄熱槽70内に供給されて、上述した作用により蓄熱槽70内にて撹拌されると共に、蓄熱槽70内の加熱空気が加圧された状態となって加熱流路50Rから連続的に供給される加熱空気と相俟って蓄熱槽70内にてさらに昇温(加温)されるようになっている。
【0058】
さらに、装置筐体10の上部に設けられた突出部10Tを介してシロッコファン205により蓄熱槽70内の加熱空気を吐出することにより、撹拌対流が生じている蓄熱槽70から上昇した加熱空気を突出部10T内に抽出(収集)し、かかる突出部10Tを介して二次的に加熱空気を吐出することにより、突出部10Tを設けずに直接的に蓄熱槽70内の加熱空気を吐出する構成に比し、端部加熱流路50Reを通過した直後の相対的に温度が低い(抵抗フィン505が省略されているため付与される加熱量が相対的に小さい)空気流の吐出を未然に回避して、十分に撹拌されて温度ムラの少ない均一の温度になった加圧状態の加熱空気をより安定して吐出することができる。
【0059】
具体的には、蓄熱槽70内にて十分に撹拌されて温度ムラの少ない均一の温度となった加圧状態の加熱空気を、シロッコファン205の遠心力を利用して吐出することにより、容量(5m3/min)の小さな遠心ファン205により、吐出口201から約80℃の熱風(温風)を22m/sec程度の高い風圧にて安定して吐出することが確認できた。
【0060】
以上、本実施の形態に係る空気加熱装置1によれば、蓄熱槽70内に何ら特別の撹拌部材等を設けることなく、簡易な構成で蓄熱槽70内の加熱空気を撹拌して温度変動の少ない均一の温度に加熱することができ、装置の小型軽量化、コストダウンに資することができる。
【0061】
また、吐出風圧の高い(風速20m/sec以上)加熱空気を簡易な構成で安定して吐出することができる。
【0062】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、連通口HCにシャッターを設けて、蓄熱槽70内の加熱空気の温度が所定の温度に達してから当該シャッターを開いてシロッコファン205と連通させるように構成してもよいし、吐出口201を回転自在に形成して、装置筐体10の周囲360℃に渡って温風を吐出するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1:空気加熱装置、2:ファン筺体、10:装置筐体、10R:キャスター、10T:突出部、10a:側部取り込み口、10b:底部取り込み口、10g:取手、20:ファン筺体、30:プロペラファン、30a:羽根、30s:回転軸、50:加熱手段、50R:加熱流路、50Re:端部加熱流路、70:蓄熱槽、201:吐出口、205:シロッコファン、205M:モーター、205a:羽根車、205b:羽根、300:吸気安定部、500:加熱基板、500e:端部加熱基板、501:合金発熱体、501p,501n:電極端子、503:アルミニウム板、505:抵抗フィン、505f:放熱フィン、505g:ガイドフィン、510:支持体、510e:側板、CR:コントロールパネル、HC:連通口、TS:温度センサ、W,We:流路幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を筐体内に取り込んでヒーターにて加熱した後、加熱空気を筐体外部へ吐出する農業ハウス用空気加熱装置であって、
前記筐体内に空気を取り込むための吸入手段と、
前記吸入手段の上方に配置され、吸入手段により取り込まれた空気を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の上方に配置され、加熱手段により加熱された空気を撹拌しつつ蓄熱する蓄熱槽と、
前記蓄熱槽の上方に配置され、前記蓄熱槽内の加熱空気を筺体外部へ吐出する吐出手段と
を備え、
前記加熱手段は、水平方向に並設された複数の加熱基板と、隣接する加熱基板の間に形成された複数の加熱流路とを含み、
前記複数の加熱流路を介して前記蓄熱槽に導入された加熱空気により、当該蓄熱槽内に撹拌流が生じるように、少なくとも一の加熱流路の流路構成は他の加熱流路の流路構成と異なるように形成されていることを特徴とする農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項2】
流路構成が異なる前記加熱流路は、他の加熱流路よりも流速が速くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項3】
流路構成が異なる前記加熱流路は直線状に形成されているのに対し、他の加熱流路は蛇行流路として形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項4】
流路構成が異なる前記加熱流路は、その流路幅が、他の加熱流路の流路幅よりも狭く設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項5】
前記吸入手段は、回転軸周りに複数のプロペラ状の羽根が取り付けられた軸流ファンであり、流路構成が異なる前記加熱流路は、前記軸流ファンの羽根の外周部に対応する加熱流路であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項6】
前記吸入手段は回転軸周りに複数のプロペラ状の羽根が取り付けられた軸流ファンであるのに対し、前記吐出手段は対向する一対の円板間に渡って、周方向に沿って多数の羽根が配設された遠心ファンであり、かつ、前記遠心ファンの風量は、前記軸流ファンの風量よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項7】
前記蓄熱槽と前記遠心ファンとは、蓄熱槽の上部から突出形成された空間を介して連通していることを特徴とする請求項6に記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項8】
前記加熱基板は、その表面から突出形成され当該加熱基板の両側で互い違いとなるように配置されたアルミニウム製の複数の抵抗フィンを備えており、
前記蛇行する加熱流路は、隣接する加熱基板の間で前記抵抗フィンが千鳥状に配置されることにより形成されていると共に、前記直線状の加熱流路は、当該加熱流路に面する加熱基板の抵抗フィンを省略することにより形成されていることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の農業ハウス用空気加熱装置。
【請求項9】
前記加熱基板は、箔状に形成した合金発熱体の両面をアルミニウム板で挟み込んで板状に形成されていると共に、前記抵抗フィンのそれぞれは、加熱基板の表面から突出形成された一対の対向部と、この対向部の先端に設けられ蓄熱槽に向かって屈曲するガイド部とを備えていることを特徴とする請求項8に記載の農業ハウス用空気加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−143177(P2012−143177A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3189(P2011−3189)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【特許番号】特許第4724781号(P4724781)
【特許公報発行日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成22年11月24日から11月26日まで 社団法人日本能率協会主催「平成22年 アグロ・イノベーション2010」に出品
【出願人】(591171781)株式会社サンシン (2)
【Fターム(参考)】