説明

農業機械用ロック装置

【課題】穀粒処理機械等の塵埃や濡粒を伴う環境における適用性を確保しつつ、取付け位置の煩わしい調節作業を要することなくロック装置を簡易に設置施工することができる農業機械用ロック装置を提供する。
【解決手段】農業機械用ロック装置は、ロック機構(3)のロック解除をするためにロック位置(α1)からアンロック位置(α2)までの範囲を回動可能にベースフレーム(2)上に軸支された回動部材(4)と、この回動部材(4)から上記ベースフレーム(2)上に形成した掛止固定部(5)までの間に張り渡されて印加電流によって伸び又は縮み動作するワイヤ(6)とからなるロック解除機構を備えて構成され、上記ベースフレーム(2)には、上記ワイヤ(6)を張り渡したままその方向に上記掛止固定部(5)の位置を変更することによりワイヤ(6)の張力を調節する張力調節手段(5s)を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金線材等の伸び又は縮み制御が可能なワイヤを用いたロック解除機構を備えた農業機械用ロック装置に関し、特に、穀粒処理機械等の塵埃や濡粒を伴う環境に適用可能な農業機械用ロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、農業機械、穀粒処理機械に使用するアクチュエータとしてソレノイドや制御用モータがある。例えば、ソレノイドはシャッタの開閉や案内シュートの切替えなどに用いるが農業機械や穀粒処理機械に用いるときは構造が複雑で嵩張り小スペース空間部への設置が困難であったり、高価となっている。また、塵埃等にさらされ易くソレノイドへの粉塵付着によって寿命を短くし、あるいは錆びによる作動不良を免れない。上記のソレノイドのほか制御モータにおける場合も同様の欠点を備えている。
【0003】
このようなソレノイドや制御モータに代え、塵埃や濡粒を伴う環境条件が避けられない農業機械や穀粒処理機械に適用可能で小型かつ安価なアクチュエータ(特許文献1)が知られている。このアクチュエータは、本体ケース内に形状記憶合金線材等の伸び又は縮み制御が可能なワイヤを張設し、印加電流により温度制御されたワイヤの伸び又は縮み動作により穀粒送出口のシャッタ開閉を行うものである。
【特許文献1】特開2004−357425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ワイヤによるアクチュエータは、ワイヤを動作対象に連結してワイヤの伸び又は縮み動作が対象側に直接的に作用することから、ワイヤの伸び又は縮み範囲と駆動対象物の動作範囲を対応させるためには、その取付け位置を移動してワイヤの張力調節をする必要があるので、設置状況に応じた取付け位置調節を強いられることとなる。特に、ドアキャッチャ等のロック装置については、ロック解除のための厳密な動作調節が要求されるので、その取付け作業は、メンテナンスも含め、現場合わせの煩わしい取付け調整による作業性の低下が避けられなかった。
【0005】
解決しようとする問題点は、穀粒処理機械等の塵埃や濡粒を伴う環境における適用性を確保しつつ、取付け位置の煩わしい調節作業を要することなくロック装置を簡易に設置施工することができる農業機械用ロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の農業機械用ロック装置に係る発明は、ロック機構(3)のロック解除をするためにロック位置(α1)からアンロック位置(α2)までの範囲を回動可能にベースフレーム(2)上に軸支された回動部材(4)と、この回動部材(4)から上記ベースフレーム(2)上に形成した掛止固定部(5)までの間に張り渡されて印加電流によって伸び又は縮み動作するワイヤ(6)とからなるロック解除機構を備え、上記ベースフレーム(2)には、上記ワイヤ(6)を張り渡したままその方向に上記掛止固定部(5)の位置を変更することによりワイヤ(6)の張力を調節する張力調節手段(5s)を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項1の発明は、ベースフレームに備えた張力調節手段により、ワイヤを張り渡したままその方向に掛止固定部を移動してワイヤの張力が調節され、回動部材のロック・アンロック動作が調節される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明により、上記ロック解除機構の回動部材はロック機構のロック解除をするためにロック位置からアンロック位置までの範囲を回動可能であり、この回動部材からベースフレーム上の掛止固定部までの間に張り渡されたワイヤが印加電流によって伸び又は縮み動作することにより、回動部材がロック位置またはアンロック位置まで回動されてロック機構がロックまたはアンロックされる。
また、ベースフレームの掛止固定部に備えた張力調節手段により、ワイヤを張り渡したままその方向に掛止固定部を移動してワイヤの張力を調節することができるので、回動部材のロック・アンロック動作範囲と一致させることができる。したがって、上記農業機械用ロック装置は、ベースフレーム上にロック解除機構を設けたロック装置を単独で事前に動作調節することにより、穀粒処理機械等の塵埃や濡粒を伴う環境への適用性を確保しつつ、ロック装置のユニットとして施工現場において簡易に設置施工することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
農業機械用ロック装置1は、その正面図および平面図を図1,図2にそれぞれ示すように、ベースフレーム2上にハンドル付のロック機構3を取付け、そのロック解除用の回動部材4とベースフレーム2上に形成した掛止固定部5との間にワイヤ6を張り渡し、このワイヤ6の伸び又は縮み動作を制御する電源部7とともに、一体的にケース8で覆って構成される。その詳細は、以下のとおりである。
【0010】
ベースフレーム2には、ロック装置を一体のユニットとして取付けるための座2f、2gを設ける。
ロック機構3は、ハンドル3hによって開放位置からロック位置まで回動される拘束部材3rを備え、ハンドル操作により拘束対象物をその懐内に拘束する機構である。
【0011】
回動部材4は、拘束部材3rの拘束と開放の動作制御をするために、拘束部材3rを拘束位置に保持するロック位置α1から拘束部材3rの開放動作を許容するアンロック位置α2までの範囲を回動可能に支軸3aによって軸支する。この場合において、回動部材4の回動中心とワイヤ6の作動点と掛止固定部5によるワイヤ6の固定点とが為す角度θが略90度になるように構成することにより、ロックおよびアンロックの動作を効率的に確実に行うことができる。
【0012】
掛止固定部5は、ベースフレーム2に対して別体の部材を設け、ワイヤ6の張設方向にスライド調節可能に構成し、これを締結部5fによりベースフレーム2に固定する。また、必要により、ワイヤ6の張力調節手段としてベースフレーム2と螺合するスライド調節用ねじ5sを設け、または、掛止固定部5に穿設した掛止孔5hにフォースゲージ5gを取付けて所定の張力を確保した上で締結部5fにより固定する。
【0013】
スライド調節用ねじ5sは、回転ねじのピッチを利用した簡易な操作による僅かな変位調節が可能であり、アセンブリによるワイヤ長のばらつきに対し、施工現場の条件に縛られることのない単一のユニットである農業機械用ロック装置1についての簡易な操作によってワイヤ6を所定の張力に設定することができるので、簡易な組立て作業によってロック解除の安定動作を確保することができる。
【0014】
ワイヤ6は、例えばチタン合金等による形状記憶合金製線材を使用し、その両端には、図3の拡大図に示すように、給電用のリード線7sを共に圧着して円孔付の丸端子6tと接続する。丸端子6tは、線径の細い形状記憶ワイヤ6とリード線7sとを共に圧着することによって圧着する断面積が広くなるので引張強度を向上することができ、また、リード線7sをハンダ付けする場合より効率的に作業をすることができて低コスト化を図ることができる。
【0015】
上記リード線7sは円弧状に配線してワイヤ6の振動を防止し、ワイヤ6およびリード線7sが丸端子6tと接する部分は絶縁性を有する保護部材、例えば、熱収縮チューブで一体化することにより、耐振性を向上し、かつ、断線時の導体部との接触によるショートを防止することができる。
【0016】
ワイヤ6の組付けは、回動部材4および掛止固定部5に対して両丸端子6t、6tの円孔によって軸支し、端子が回動することにより、ワイヤの伸び又は縮み動作の際の曲げ歪みの繰返しによる疲労を回避して耐久性を確保することができる。回動部材4側には連結部材4cを取付け、この連結部材4cに丸端子6tを軸支する。
【0017】
また、必要により、図4のアシスト機構の拡大断面図に示すように、ベースフレーム2から起立するように取付けたブラッケト4bにコイルばね4s等による付勢軸4aを設け、この付勢軸4aの先端を回動部材4の動作方向に作用させてアシスト機構を構成する。このアシスト機構により、小容量の電源部7で駆動が可能な小径のワイヤ6による作動力の不足を補って小電流動作による耐久性を確保しつつ、大きな駆動力を要する回動部材4を小型かつ簡易な構成によって安定動作させることができる
【0018】
ケース8は、少なくともワイヤ6を覆う大きさに着脱可能に構成する。このケース8を取付けることにより、ワイヤ6に風を受けて冷却される事態を防止できるので、ワイヤ6への通電により発生するジュール熱で形状記憶合金の変態点を通過させ、十分な伸び又は縮み量が確保されるとともに、糠埃等の咬込みによる動作不良を防止することができる。
【0019】
上記構成の農業機械用ロック装置1は、ロック機構13が拘束相手を受入れるとともに拘束部材3rをロックすることにより拘束相手を抱え込んだまま拘束状態を維持し、その拘束相手を解放する際は、電源部7によりワイヤ6に通電することにより、ワイヤ6が印加電流によって短縮動作し、このワイヤ6と連結する回動部材4がロック位置α1からアンロック位置α2まで回動されて拘束部材3rのロックが解除され、拘束相手がロック機構13から解放される。
【0020】
この場合において、ワイヤ6への通電の前後において、ワイヤ6と連結する回動部材4がロック位置α1からアンロック位置α2まで回動されるように、ベースフレーム2の掛止固定部5に備えた張力調節手段5sにより、ワイヤ6を張り渡したままその方向に掛止固定部5を移動してワイヤ6の張力を調節することにより、回動部材4のロック・アンロック動作範囲と一致させることができる。
【0021】
したがって、上記農業機械用ロック装置1は、ベースフレーム2上にロック解除機構を設けたロック装置1単独で事前に動作調節が可能となることから、穀粒処理機械等の塵埃や濡粒を伴う環境への適用性を確保しつつ、ロック装置を単一のユニットとして施工現場において簡易に設置施工することが可能となる。
【0022】
次に、電源部7の構成について説明する。
電源部7の構成は、図5の回路図に示すように、制御端子12にワイヤ6への突入電流を軽減するコンデンサ13を設けてトランジスタ14に入力し、そのベース電流によってワイヤ6を駆動する。上記制御端子12にパルス信号を入力することにより、ワイヤ6は、通電特性の一例を図6に示すように、所定電流値まで徐々に増加するように駆動電流が制御される。したがって、ワイヤ6は、瞬間的な伸び又は縮み変形が抑えられて過大な応力を防止できるので、耐久性を向上することができる。
【0023】
また、トランジスタ14のベース電流によってワイヤ6を通電駆動することにより、簡易なスイッチング回路構成で印加電圧が高い場合において、直列接続の電流制限抵抗を要することなく、印加電圧による大電流を抑えることができるので、電源回路の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0024】
さらに、図7の回路図に示すように、上記ベース電流を可変に構成(a)、または、選択可能に構成(b)することにより、ワイヤ6の変形率を変更することができることから、回路の汎用化によって低コスト化を図ることができる。
上記の他に、ワイヤ6の通電駆動系に定電流駆動部を介設することにより、ワイヤ6の低温による低抵抗に伴う通電初期の過大電流を抑えて耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】農業機械用ロック装置の正面図である。
【図2】農業機械用ロック装置の平面図である。
【図3】ワイヤの丸端子部の拡大図である。
【図4】アシスト機構の拡大断面図である。
【図5】電源部の回路図である。
【図6】ワイヤの駆動電流特性図である。
【図7】その他の回路図(a)(b)である。
【符号の説明】
【0026】
1 農業機械用ロック装置
2 ベースフレーム
3 ロック機構
3a 支軸
3r 拘束部材
4 回動部材
5 掛止固定部
5s 張力調節手段
6 ワイヤ(形状記憶ワイヤ)
7 電源部
8 ケース
α1 ロック位置
α2 アンロック位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロック機構(3)のロック解除をするためにロック位置(α1)からアンロック位置(α2)までの範囲を回動可能にベースフレーム(2)上に軸支された回動部材(4)と、この回動部材(4)から上記ベースフレーム(2)上に形成した掛止固定部(5)までの間に張り渡されて印加電流によって伸び又は縮み動作するワイヤ(6)とからなるロック解除機構を備え、上記ベースフレーム(2)には、上記ワイヤ(6)を張り渡したままその方向に上記掛止固定部(5)の位置を変更することによりワイヤ(6)の張力を調節する張力調節手段(5s)を備えたことを特徴とする農業機械用ロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−120095(P2007−120095A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312179(P2005−312179)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】