説明

農業用タイヤ

【課題】不整地におけるトラクション性と、舗装路面における操縦安定性を両立させる。
【解決手段】トレッド部20に設けられた複数のラグブロック12と、タイヤ赤道面を基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部28に設けられ、ラグブロック12のタイヤ幅方向外側の端部12Aより更にタイヤ幅方向外側に突出する突出部14と、を有している。この突出部14により、操縦安定性に影響を与えることなく、トラクション発生領域をより広くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部に、クラウン中央部からショルダ部に向かってタイヤ周方向に対して傾斜して延伸する凸状のラグを、タイヤ赤道面の両側で傾斜方向が互いに逆となるようにタイヤ周方向に配列した構造が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−273052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農業用タイヤが使用される田畑等の不整地のコンディションは、地域、季節、時間帯、気象条件等によって変動し、また耕作する作物やその作付けの段階(耕作・種蒔き、灌漑、刈取り)でも変動する。このような条件下で安定したトラクション性を確保するため、従来の農業用タイヤでは、ラグブロックをトレッド踏面に配置すると共に、タイヤ幅方向に対する該ラグブロックの傾斜角度を小さくして、走行時に該ラグブロックが土を掻くことでトラクションを発生させるようにしていた。
【0005】
しかしながら、タイヤ幅方向に対するラグブロックの傾斜角度が小さいと、舗装路面走行時における操縦安定性の確保、乗り心地の向上、及びノイズの抑制が難しい。この対策としては、ラグブロックをタイヤ幅方向に対して傾斜させることが有効であるが、逆に不整地走行時におけるトラクション性の確保が難しくなる。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、不整地におけるトラクション性と、舗装路面における操縦安定性を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、トレッド部に設けられた複数のラグブロックと、タイヤ赤道面を基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部に設けられ、前記ラグブロックのタイヤ幅方向外側の端部より更にタイヤ幅方向外側に突出する突出部と、を有している。
【0008】
請求項1に記載の農業用タイヤでは、タイヤ赤道面を基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部に突出部を有しているので、トラクション発生領域がより広くなっている。またこの突出部は、ラグブロックのタイヤ幅方向外側の端部より更にタイヤ幅方向外側に突出しているので、舗装路面での操縦安定性に対する影響はない。このため、不整地におけるトラクション性と、舗装路面における操縦安定性を両立させることができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の農業用タイヤにおいて、前記突出部のタイヤ径方向外側端は、前記ラグブロックの踏面よりタイヤ径方向内側に位置している。
【0010】
請求項2に記載の農業用タイヤでは、舗装路面走行時に突出部が接地しない。このため、ラグブロックの耐偏摩耗性に対する影響を抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の農業用タイヤにおいて、前記突出部の前記タイヤ径方向外側端は、前記タイヤ赤道面における前記ラグブロック間の溝底よりタイヤ径方向内側に位置している。
【0012】
請求項3に記載の農業用タイヤでは、ラグブロックが摩耗した状態で不整地を走行した際には、突出部がトラクションを発生させる。このため、不整地におけるトラクション性能を、ラグブロックが摩耗した状態においても確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の農業用タイヤによれば、不整地におけるトラクション性と、舗装路面における操縦安定性を両立させることができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載の農業用タイヤによれば、ラグブロックの耐偏摩耗性に対する影響を抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の農業用タイヤによれば、不整地におけるトラクション性能を、ラグブロックが摩耗した状態においても確保することができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】農業用タイヤを示す部分斜視図である。
【図2】農業用タイヤを示す、図1における2−2矢視拡大断面図である。
【図3】ラグブロックを示す、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係る農業用タイヤ10は、複数のラグブロック12と、突出部14とを有している。
【0018】
まず農業用タイヤ10の全体構造の一例について簡単に説明すると、図2において、該農業用タイヤ10は、一対のビード部16と、該ビード部16に夫々連なるサイドウォール部18と、両側の該サイドウォール部18に連なるトレッド部20と、一対のビード部16間をトロイド状に跨って設けられた例えば2層以上のカーカス22と、該カーカス22におけるクラウン部の外周に設けられた例えば2層のベルト層24と、を有している。カーカス22は、例えば一対のビードコア26間に跨って配設されたカーカス本体部22Aと、該ビードコア26に巻き回された折返し部22Bとを有している。
【0019】
トレッド部20は、ベルト層24の外周側に位置しており、複数のラグブロック12は、該トレッド部20に設けられている。具体的には、図1に示されるように、ラグブロック12は、例えばタイヤ周方向に向かって、タイヤ幅方向の両側に交互に配列されている。各々のラグブロック12は、タイヤ幅方向に対して傾斜している。また図2に示されるように、ラグブロック12のタイヤ幅方向外側の端部12Aは、トレッド端Tよりもタイヤ幅方向外側まで張り出している。
【0020】
ここで、トレッド端Tとは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)が発行する2010年度版のYEAR BOOKに規定されている標準リムに農業用タイヤ10を装着し、該YEAR BOOKでの適用サイズ・プライレーティングにおける最大荷重に対応する空気圧(最大空気圧)の100%を内圧として充填し、最大荷重を負荷したときのタイヤ幅方向最外の接地部分を指す。なお、使用地又は製造地においてTRA規格、ETRTO規格が適用される場合は、各々の規格に従う。
【0021】
トレッド端Tからの端部12Aの張出し量W1は、例えば10〜30mmである。10mm未満では、一般的な農業用タイヤにおいてトレッドが完全に摩耗したときのトレッドの溝の深さを下回ることとなり、ユーザーが外観上からトラクション性能向上の効果を期待し得ない。また30mmを上回ると、タイヤ幅方向に2つのタイヤを並べて使用した際に、張り出したラグブロック同士が互いに干渉する懸念がある。
【0022】
この張出し量W1は、ラグブロック12の踏込み端12Bでの張出し量であり、蹴出し端12Cの張出し量はより小さく設定されている。これにより、トレッド部20の平面視でのラグブロック12の端部12Aの形状は、例えば略三角形となっている。なお、該端部12Aの形状は、略三角形には限られず、矩形であってもよい。
【0023】
ラグブロック12の端部12Aは、トレッド端Tにおける踏面12Dより例えば10mm以上タイヤ径方向内側に設けられている。これにより、ラグブロック12の摩耗がある程度進展した後のトラクションを補うことができる。
【0024】
次に、図2において、突出部14は、タイヤ赤道面CLを基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部28に設けられている。本実施形態では、突出部14は、両側のタイヤ側部28における所謂バットレス部を含む位置に夫々設けられている。バットレス部とは、トレッド端Tから、該トレッド端Tでの踏面12Dとタイヤ最大幅位置との間のタイヤ径方向高さの1/2となる部位を意味する。
【0025】
図1に示されるように、この突出部14は、例えばタイヤ周方向におけるラグブロック12間に設けられており、ラグブロック12のタイヤ幅方向外側の端部12Aにおける例えば踏込み端12Bでの張出し量W1と同等、又は該端部12Aにおける例えば踏込み端12Bより更にタイヤ幅方向外側に突出している。この突出量W2は、例えば0〜20mmである。ラグブロック12と突出部14は、車両(図示せず)との干渉や、複輪使用での干渉が発生しない最大幅まで、夫々タイヤ幅方向に突出可能である。突出量W2が20mmを上回ると、該干渉を避けるために、ラグブロック12の張出し量W1を相対的に小さくする必要が生じ、この結果トラクション性の向上効果が発揮できなくなる。
【0026】
突出部14は、タイヤ幅方向に平行(タイヤ側部28に垂直)に突出していることが最も望ましいが、これ以外にも、例えば該タイヤ幅方向に対してタイヤ回転方向に傾斜配置したり、タイヤ回転方向と逆方向に傾斜配置したりすることができる。この傾斜配置は、直線的でも曲線的であってもよい。
【0027】
トレッド部20の平面視での突出部14の形状は、略矩形であることが望ましいが、これ以外にも、例えば三角形であってもよい。
【0028】
トレッド端Tよりタイヤ幅方向外側における突出部14のタイヤ径方向外側端14Aは、トレッド端Tにおける踏面12Dよりタイヤ径方向内側に位置し、更にタイヤ赤道面CLにおけるラグブロック12間の溝底30よりタイヤ径方向内側に位置している。またトレッド端Tよりタイヤ幅方向内側における突出部14のタイヤ径方向外側端14Bは、タイヤ赤道面CLにおける溝底30よりタイヤ径方向内側に位置しつつ、トレッド端Tよりタイヤ幅方向外側のタイヤ径方向外側端14Aよりタイヤ径方向外側に位置している。これにより、トレッド部20が完全に摩耗するまで、農業用タイヤ10の摩耗性能に影響を与えることなく、トラクション性に寄与することができるようになっている。
【0029】
なお、突出部14のタイヤ径方向外側端14A,14Bが、トレッド端Tにおけるラグブロック12の踏面12Dよりタイヤ径方向内側で、かつタイヤ赤道面CLにおける溝底30よりタイヤ径方向外側に位置するように構成してもよい。
【0030】
また本実施形態では、ラグブロック12及び突出部14が、タイヤ幅方向に突出するものとしたが、これに限られず、ラグブロック12のみが突出したり、また突出部14のみが突出したりする構成であってもよい。
【0031】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1,図2において、本実施形態に係る農業用タイヤ10では、タイヤ赤道面CLを基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部28に突出部14を有しているので、トラクション発生領域がより広くなっている。また突出部14は、ラグブロック12のタイヤ幅方向外側の端部12Aより更にタイヤ幅方向外側に突出しているので、舗装路面での操縦安定性に対する影響はない。このため、不整地におけるトラクション性と、舗装路面における操縦安定性を両立させることができる。
【0032】
特に、タイヤ幅方向外側における突出部14のタイヤ径方向外側端14A,14Bは、ラグブロック12の踏面12Dよりタイヤ径方向内側に位置しているので、舗装路面走行時には、突出部14が接地しない。このため、ラグブロック12の耐偏摩耗性に対する影響を抑制することができる。
【0033】
更には、タイヤ幅方向外側における突出部14のタイヤ径方向外側端14A,14Bは、タイヤ赤道面CLにおけるラグブロック12間の溝底30よりタイヤ径方向内側に位置しており、ラグブロック12が摩耗した状態で不整地を走行した際には、該突出部14がトラクションを発生させる。このため、不整地におけるトラクション性能を、ラグブロック12が摩耗した状態においても確保することができる。
【0034】
このように、本実施形態では、突出部14を設けることでトラクション性能を向上させることができるので、その向上分を他のタイヤ性能に分配することができる。例えば、図3に示されるように、タイヤ幅方向に対するラグブロック12の傾斜角度をθ1からθ2へと大きく設定することができる。θ2−θ1は、例えば10〜27°である。これにより、図1において、タイヤ幅方向両側のラグブロック12のタイヤ周方向での重なり代が増加するため、舗装路面での操縦安定性の向上や走行ノイズの低減ができ、更に乗り心地をも向上させることができる。
【0035】
なお、図3において、タイヤ赤道面CLと、ラグブロック12のタイヤ中央側の端部における踏込み端のタイヤ幅方向線Fとの交点Oから、ラグブロック12のタイヤ幅方向外側の端部12Aをタイヤ周方向に二等分した位置P1,P2とを夫々線L1,L2で結ぶとすると、該線L1,L2とタイヤ幅方向線Fとがなす角度が、夫々傾斜角度θ1,θ2である。
【0036】
またラグブロック12間の溝深さを、従来のものより10〜30%浅く設定することもできる。これによってラグブロック12の剛性を高めて、舗装路面での操縦安定性の向上や走行ノイズの低減を図ることができる。
【0037】
(試験例)
[1]〜[4]の実施例に係る農業用タイヤと、従来例に係る農業用タイヤを用意し、実車を用いて操縦安定性及びトラクション性能について試験を行った。試験結果は表1に示す通りである。なお、表1における評価は10点満点であり、5点以上が合格点である。
【0038】
[1]では、トレッド端からショルダー部にかけて、ラグブロックが、タイヤ幅方向外側に30mm張り出して設けられている。従来例にはこのラグブロックの張出しがない。
[2]では、トレッド端の底部からショルダー部にかけて、突出部が、タイヤ幅方向外側に30mm張り出して設けられている。従来例にはこの突出部がない。
[3]では、[1]の構造と[2]の構造とが組み合わされている。
[4]では、[3]におけるトレッドの溝底が30%浅く設定されている。
【0039】
また試験条件は次の通りである。
[共通条件]
タイヤサイズ:AGR 340/85R24
1本のタイヤに作用する荷重:16170N(1650kgf)
【0040】
[操縦安定性試験の条件]
路面:コンクリート路
内圧:160kPa
速度:40km/h
【0041】
[トラクション性能試験の条件]
トレッドの摩耗量が0%のタイヤと70%のタイヤを用意し、圃場(泥地)にて試験を行った。摩耗量0%のタイヤの内圧は、上記共通試験条件と等しく160kPaであり、摩耗量70%のタイヤの内圧は100kPaである。
【0042】
表1に示されるように、実施例に係る農業用タイヤによれば、一般の舗装路面での操縦安定性と、圃場における新品時及び摩耗時のトラクション性能とを両立できることがわかる。圃場走行時におけるトラクション性能の良し悪しは、燃費に密接に関係することから、実施例に係る農業用タイヤは、燃費にも優れていることがわかる。
【0043】
【表1】

【符号の説明】
【0044】
10 農業用タイヤ
12 ラグブロック
12A 端部
12D 踏面
14 突出部
14A タイヤ径方向外側端
14B タイヤ径方向外側端
20 トレッド部
28 タイヤ側部
30 溝底
CL タイヤ赤道面
T トレッド端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に設けられた複数のラグブロックと、
タイヤ赤道面を基準としたタイヤ幅方向の少なくとも一方側のタイヤ側部に設けられ、前記ラグブロックのタイヤ幅方向外側の端部より更にタイヤ幅方向外側に突出する突出部と、
を有する農業用タイヤ。
【請求項2】
前記突出部のタイヤ径方向外側端は、前記ラグブロックの踏面よりタイヤ径方向内側に位置している請求項1に記載の農業用タイヤ。
【請求項3】
前記突出部の前記タイヤ径方向外側端は、前記タイヤ赤道面における前記ラグブロック間の溝底よりタイヤ径方向内側に位置している請求項1又は請求項2に記載の農業用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51478(P2012−51478A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195931(P2010−195931)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)