農業用ハウスの暖房制御システムおよびその暖房制御方法
【課題】 加温機と別個の制御系で、効率よく循環扇を運転させ、燃料消費量削減、省エネルギーおよび燃焼ガス排出量低減を達成する農業用ハウスの暖房制御システム及びその方法を提供する。
【解決手段】
農業用ハウスの暖房制御システムは、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する。該システムは、加温機と、加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置と、を有する。制御装置は、加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる。
【解決手段】
農業用ハウスの暖房制御システムは、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する。該システムは、加温機と、加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置と、を有する。制御装置は、加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス(ビニールハウスやガラス温室等)の暖房制御システムおよびその暖房制御方法に係り、特に、夜間や寒冷期における暖房効率を向上させて省エネルギー、燃焼排気ガス低減に寄与し得る農業用ハウスの暖房制御システムおよびその暖房制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間や寒冷期における、植物育成用ビニールハウスあるいは農業用ハウス内の暖房においては、外気取り込み用の開閉装置を閉鎖しバーナーと送風機を有する加温機により、ビニールダクト等を介して熱風をハウス室内に送給しながら、室内暖房を行なうのが通常であった。一方、開閉装置の開閉操作、ハウス室内温度管理、加温機運転などの作業は、煩雑であるとともに外気温や天候に連動して行なう必要があり、このために、室内温度センサを設置して室内温度情報を取得しながら自動的に暖房運転を行なう方法が汎用されている。従来、ハウス内の暖房について、特許文献1,2のような提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−56723号公報
【特許文献2】特開2006−296298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は複数の温度センサと、それらの信号に基づき送風機及びバーナーを運転制御する制御装置からなり、ハウス内暖房装置が停止したり暴走運転を行なって、栽培中の作物に打撃を与える事故を防止しようとする。しかしながら、この特許文献1の装置では、ハウスの施設規模に応じた室内暖房を簡易に行なうことができないとともに、農業用の暖房燃料として使用されるA重油の使用量削減や燃焼ガス排出抑制などを期待することができない。また、特許文献2は、複数の温風暖房機と、複数のビニルダクトと、循環扇と、コントローラと、操作盤と、温度センサと、湿度センサ及び炭酸ガス濃度検出器を備えた施設園芸ハウス用温風暖房システムであり、温度センサが検出した気温が第1の設定値以下のとき、すべての温風暖房機に運転開始の指令信号を発し、気温が第1の設定値以上のとき、この指令信号を一部の温風暖房機のみに発し、遅延時間経過後、気温が第2の設定値に到達しないときには残りの温風暖房機にも指令信号を発するようにしている。
【0005】
しかしながら、この特許文献2の施設園芸ハウス用温風暖房システムにおいては、いったん、複数の温風暖房機、循環扇、操作盤、温度センサ、湿度センサ及び炭酸ガス濃度検出器、コントローラを含むシステムを構築すると、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更の場合、システム全体について見直しや設備入替工事設定変更作業が必要で、簡単かつ短時間でそれらに対応することができず高コストとなる。さらに、温風暖房機を他メーカー製のものに交換した場合、装置仕様に合わせた循環扇や温度センサとの電気回路構成を構築あるいは再構築する必要があった。また、特許文献2の施設園芸ハウス用温風暖房システムでは、温風暖房機の送風運転時のみに循環扇を運転してハウス内の空気循環を効率よく行なわせることを企図しているが(特許文献2の実施例4)、バーナー運転時には、循環扇を運転させないから例えば広さが10メートル×80メートル、天井高2メートル程度の大容量空間のハウスではビニルダクトの穴からの熱風吹き出しでは、空間での暖気の偏在が生じ、作物の生育度のばらつきが生じる上に、効率の良い、きめ細かな暖房を行なうことができず、燃料消費をさらに抑制することはできなかった。さらに、内部に大容量空間を収容する大型の農業用ハウスの場合、暖房による室温の変化度合いは緩やかであるが、そのぶん単に設定した上下限温度範囲で加温機を運転させるだけでは実際の室温と暖房入力との間に時間ずれがあり、精度のよい暖房運転ができず、栽培中の作物の生育に悪影響を及ぼすことが懸念される。また、暖房効率はそれほど高い状態に維持することができず、具体的には夜間暖房時等の燃料消費量を抑制して省エネルギーあるいは燃焼排気ガス排出量を抑制するには限界があった。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、温風暖房機としての加温機と電気的に非接続で別個の制御系でありながら、加温機運転と連係して効率よく循環扇を運転させ、きめ細かな室温平均化操作を行なって燃料消費量削減、省エネルギーおよび燃焼ガス排出量低減を達成し得る農業用ハウスの暖房制御システム並びに農業用ハウスの暖房制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス8内に温風を吹き出す加温機2と、加温機系統9と電気的に非接続でハウス室内温度Tを検出する制御用温度センサ3と、農業用ハウス8内に設置された複数の循環扇7a〜7fと、制御用温度センサ3と循環扇7とに電気的に接続された制御装置5であり、加温機2の起動直後に循環扇7を起動させ、制御用温度センサ3からの情報により設定上昇温度まで循環扇7を運転させる第1工程と、制御用温度センサ3から設定上昇α℃温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間β経過まで循環扇7を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置5と、を備えた農業用ハウスの暖房制御システム1から構成される。農業用ハウスの暖房制御システム1は、加温機系9と電気的に非接続の循環扇系を駆動し、加温機の起動直後に循環扇を起動し、起動から一定温度上昇までの循環扇運転を行なう第1工程と、一定温度上昇したときの時刻から一定時間経過までの循環扇運転を行なう第2工程を一連の時間帯で行なう。加温機運転に対応するものであるが、特に電気的に非接続の加温機に連動させるための循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を実現して、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能としている。循環扇起動時からの温度上昇後の時間基準による起動温度までの温度幅、時間基準起動による時間間隔は各加温機の運転に対応して任意に設定できる。
【0008】
また、制御装置5は、第2工程の後、室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇7の起動温度T1までの途中に、設定された所定の時間幅γで循環扇7を起動し運転させる第2運転工程を行なわせるようにしてもよい。第2運転での時間幅γの具体的な長さについても任意に設定してもよい。
【0009】
また、第2運転工程での循環扇7の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度T1からの所定の上昇温度幅α℃で設定された温度T2であるようにしてもよい。
【0010】
また、制御装置5は、制御用温度センサ3からの情報を受けて室温Tが上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部50を有し、室温変化判定部50からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇7を起動させるようにするとよい。
【0011】
上記した、農業用ハウスの暖房制御システムについては、農業用ハウスの暖房制御方法として、構成することもできる。この場合、農業用ハウスの暖房制御方法は、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、加温機系統9と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサ3と、循環扇7と、制御装置5とを含む循環扇系10を用意し、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅P1−P2でハウス室内温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機2の起動直後に循環扇7を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇α℃温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程(第1工程)と、室温Tが所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間γ経過まで循環扇7を運転させる時間基準循環扇運転工程(第2工程)と、を含むものである。
【0012】
その際、時間基準循環扇運転工程(第2工程)の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇7を所定時間経過まで運転させる工程(第2運転)を含むとよい。
【0013】
また、ある時間間隔での直近温度データTsとそれより以前の過去温度データTpとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇7の起動、停止の基礎とするとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の農業用ハウスの暖房制御システムによれば、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機と、加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置であり、加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置と、を備えた構成であるから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系を室内温度センサによる温度結合により加温機制御系に連動させ、さらに、循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を行なう結果、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更、設備入替工事、温風暖房機の他メーカー製への変更の際に、電気回路構成を含めた全体のシステム設定変更を簡単かつ短時間、低コストで行なえるだけでなく、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能とし、また、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0015】
また、制御装置は、第2工程の後室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇の起動温度までの途中に、設定された所定の時間幅で循環扇を起動し運転させる第2運転工程を行なわせる構成とすることにより、室内の加温後、経時的に室内に生じる温度差空気を循環流で均一化させるから、適正な室温の均一化温度が温度センサで検出され、加温機の次の起動時間を実質的に延長させることが可能である。例えば、ハウスの隅に残っている熱溜りを循環流で加温機用の温度センサ付近に送風し、加温機用温度センサの検出温度を適正なものとすることができる。
【0016】
また、第2運転工程での循環扇の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度からの所定の上昇温度幅で設定された温度であることにより、循環扇の第1運転時に記憶させたデータを用い、回路構成を簡単化できる上に、第2運転の起動タイミングとしても適正な温度として設定することができる。
【0017】
また、制御装置は、制御用温度センサからの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部を有し、室温変化判定部からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇を起動させる構成とすることにより、加温機系と電気的に非接続の循環扇系の加温機起動直後の起動を円滑に行なうことができる。
【0018】
また、本発明の農業用ハウスの暖房制御方法によれば、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、加温機系統と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、循環扇と、制御装置とを含む循環扇系を用意し、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機の起動直後に循環扇を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程と、室温が所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程と、を含む構成であるから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系により、循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を行なう結果、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能とし、また、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0019】
また、上記の農業用ハウスの暖房制御方法において、時間基準循環扇運転工程の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇を所定時間経過まで運転させる工程を含むようにすることで、室内の加温後、経時的に室内に生じる温度差空気を循環流で均一化させるから、適正な室温の均一化温度が温度センサで検出され、加温機の次の起動時間を実質的に延長させることが可能である。
【0020】
また、その際、ある時間間隔での直近温度データとそれより以前の過去温度データとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇の起動、停止の基礎とするから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系の加温機起動直後の起動を円滑に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる農業用ハウスの暖房制御システムを設置した農業用ハウスの平面説明図である。
【図2】図1の暖房制御システムの概略構成図である。
【図3】図1の暖房制御システムにおいて、ハウス内室温、設定室温、加温機の暖房による温度振幅を示す説明図である。
【図4】図1の農業用ハウスの縦断面説明図である。
【図5】図2の暖房制御システムを用いてシステムを駆動させながら加温機運転を行なう際の温度変化・機器駆動説明グラフを示す図である。
【図6】図2の暖房制御システムのブロック構成図である。
【図7】第1実施形態の暖房制御システムのハウス内温度データ処理工程の動作を説明するフローチャート図である。
【図8】第1実施形態の暖房制御システムの第1、第2工程を含む第1運転を説明するフローチャート図である。
【図9】第1実施形態の暖房制御システムの第2運転を説明するフローチャート図である。
【図10】第1実施形態の暖房制御システムの動作の全体の流れを説明するフローチャート図である。
【図11】本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの実施例の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【図12】比較例1の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【図13】比較例2の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの実施形態について説明する。本発明の農業用ハウスの暖房制御システムは、合成樹脂製被覆フィルムやガラスその他の透明薄板部材などの被い体を栽培土区画を包含するように設置される農業用ハウスに適用される暖房制御システムであり、特に、例えば短辺側が6メートル以上、長辺側が50メートル以上程度の大容量空間を有する農業用ハウスに好適に適用される。
【0023】
図1ないし図10は、本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの一実施形態を示す。実施形態の農業用ハウスの暖房制御システム1は、図4に示すように、鋼管やアングル材などで構成した骨組み材に合成樹脂製被覆フィルム11,12を二重のアーチ状に張設し、その内外フィルムのうちの内フィルム11の内側を作物の栽培空間とする二重張り構造の農業用ハウスについての暖房制御システムである。
【0024】
本実施形態において、農業用ハウスの暖房制御システム(以下「暖房制御システム」という。)1は、加温機2と、制御用温度センサ3と、複数の循環扇7と、制御装置5を含む。
【0025】
本発明の暖房制御システム1は、上述したように、大容量空間を有する農業用ハウスに適用されるものであり、詳細には、その内側で育成される作物の育成下限温度から例えば2ないし3℃程度の小さな温度変動幅で高精度に暖房駆動される加温機に連係して循環扇を制御駆動させる。すなわち、図3の概略の温度範囲を示す説明図において、外気温変動範囲K1−K2に対し、ハウス内の暖房による室内温度範囲H1―H2が想定され、これに対する加温機駆動による暖房運転は、少なくとも作物育成下限温度より高い温度を室内下限温度とし、この室内下限温度を下回らないように加温機暖房が行なわれる。そして、消費燃料費用対効果を考慮して、この室内下限温度を維持するに必要かつ充分な範囲の小さな温度変動幅の変動範囲P1−P2を維持するように、加温機を駆動させるように構成されている。本実施形態においては、図5の温度変化・機器駆動説明図において、室内下限温度維持のための加温機駆動による温度変動範囲P1−P2は、2℃に設定されている。なお、この変動範囲P1−P2は個々の加温機の能力や加温機の仕様がメーカーごとに異なり、メーカーごとに異なって2℃以上の場合あるいは以下の場合などもあるが、いずれにしても、大容量空間暖房と費用対効果を考慮し、このように小さな温度の変動幅で加温機による暖房が行なわれる。なお、この際、空気の温度変化の緩慢な応答性を考慮した暖房制御を行うようにしている。
【0026】
ちなみに、農業用ハウス内での栽培作物の育成に適した最低温度は、例えば、それぞれスイカ12℃、メロンは約15℃、いちごは約5℃、キュウリは約13℃、バラは約18℃、なすびは約13℃程度である。
【0027】
図2において、本実施形態の暖房制御システム1は加温機2と、加温機用室内温度センサ6と、を含む加温機系9と、加温機系9と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサ3と、複数の循環扇7a〜7fと、コントローラからなる制御装置5と、を含む循環扇系10を含む。循環扇系10は、ハウス室内の温度Tを介して加温機系9と連結されており、具体的には、温度センサ3を介して取得される温度情報により循環扇系10が加温機系9と連係運転する。
【0028】
図1において、実施形態の農業用ハウス8は、短辺側が12.6メートル、長辺側が86メートル、天井高2〜3メートル程度の大容量空間を有する農業用ハウスであり、図4のように天井部は内外フィルム11,12による二重張り構造で周側面も被覆用合成樹脂フィルムで覆われて内部を閉鎖状空間としている。ハウスの内側の土部に栽培作物が植生されて育成される。ハウス内には長手方向に長く複数のビニルダクト14が配置されるとともに、1つの短辺側にはこれらのビニルダクト14に共通に接続されたビニルダクト15が設置され、ビニルダクト15に熱風の吹出し口を連通接続させた加温機2から加温空気がビニルダクト14の周壁に設けた複数の孔(図示せず)から室内に吹き出される。
【0029】
加温機2は、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す暖房機であり、実施形態において、加温機2は、ハウス8の1つの短辺側に設置されており、熱源としての燃焼装置と燃焼により加熱あるいは加温された空気をハウス室内に向けて吹き出す送風機とを備え(図示せず)ている。加温機2には、室内温度センサ6が接続されて常時、ハウス室内温度情報を図示しない加温制御装置に供給し、加温制御装置の制御指示により、加温機による、設定された室内温度変動範囲P1−P2での温度振幅で加温機2が自動運転される。
【0030】
図1実施形態において、ハウス室内離隔位置に6個の循環扇7a〜7fが設置され、これらの循環扇は、二重張り天井の内フィルム11の直下部近傍に設置され、滞留しやすい室内上位の部分の加温空気を、例えば軸流羽根の3600立方メートル毎時の出力で、直線状に吹き出す。複数の循環扇7は、室内において互いに逆方向に吹き出し方向を設定した複数個の循環扇からなる第1、第2気流循環扇群で構成されており、室内空気の流れを例えば図1矢視のように平面視長円状に周回するように流す。ハウス内に設置される循環扇の数は、6個に限定されず、5個以下でもあるいは7個以上設置してもよい。
【0031】
さらに、ハウス室内に配置された制御用温度センサ3は、制御装置5に接続されて常時ハウス室内の温度情報を装置5に供給する。制御用温度センサ3は、加温機系統9とは、電気的に非接続でハウス室内温度を検出する。
【0032】
制御装置5は、制御用温度センサ3と循環扇7a〜7fとに電気的に接続されて室温基準による第1工程と、時間基準による第2工程と、を行ない、応答が緩慢なハウス室内温度Tを基準として小さな変動範囲P1−P2で、良好な費用対効果を保持させるように循環扇7a〜7fを起動運転させる制御手段である。すなわち、制御装置5は、第1工程において、加温機2の起動直後に循環扇7を起動させ、制御用温度センサ3からの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる。また、第2工程において、制御用温度センサ3から設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇7を運転させる。
【0033】
図6において、制御装置5は、記憶部20、設定部30、タイマ部40、室温変化判定部50、循環扇動作指令出力部70、制御部(CPU)を含むマイクロコンピュータなどから構成されている。
【0034】
図6、図5において、記憶部20は、装置動作プログラムなどを記憶するとともに、ある時間間隔での現在温度と過去温度データTs,Tp、それぞれの平均温度データTsa,Tpa、循環扇の起動温度T1、時間基準の起動温度T2を少なくとも記憶保持する温度記憶部19を含む。本システムの全体の流れは、図10に示すような動作を行なうものであり、その際の運転モードの判定、モード設定等の分岐流れ手順等は動作プログラムに記憶保持されている。具体的には、実施形態において、記憶部20は、制御装置5が10秒間隔で計測し取り込んだ制御用温度センサ3からのハウス室内温度データを、1分間ぶん(6点)常時記憶保持する。そして、演算された過去30秒〜60秒前の4点のデータTpの平均温度(過去温度データ)Tpaと、過去0〜20秒前の2点のデータTsの平均温度(現在温度データ)Tsaと、を記憶保持する。また、加温機2の起動の直後に循環扇7a〜7fが起動したときの温度データT1を保持するとともに、循環扇7が起動したときから所定の温度上昇幅αで上昇したときの温度T2を記憶保持する。温度上昇幅α上昇したときの温度T2が時間基準の起動温度とされる。また、温度T2に到達したときの時刻t2を保持する。現在及び過去温度データTs,Tpは、計算部51に供給されるとともに、それぞれの平均温度データTsa,Tpaは、比較判定部52に供給される。
【0035】
設定部30は、後述する、循環扇7が起動したときからの所定の温度上昇幅αの値などの設定や変更調整を行なう部位であり、外部からの操作により初期設定や設定の変更調整を行なうダイヤル、摘みなどの操作子31が接続されている。設定部30で設定された値が記憶部20に入力され記憶保持される。また、例えば、後述するように、第1運転と第2運転との間に例えば2分間程度、間隔を設けるインターバル時間を設定したいときなどの時間設定なども必要に応じて行なえる。
【0036】
タイマ部40は、制御用温度センサ3からの室内温度の10秒間隔での計測取り込み、加温機に続く循環扇起動後の所定の温度上昇幅αの検出サイクルの3分間、循環扇起動後α℃の温度上昇があった時点からβ時間間隔(例えば30秒間)だけ運転する時間、第1、第2運転工程の1サイクルの時間間隔(たとえば30分間)、加温機及び循環扇起動後の所定の温度上昇幅αぶん温度上昇があったときから、引き続き所定時間間隔だけ循環扇を運転した後停止させる60秒、などの時間を計時する計時手段である。それぞれのスタート時からタイムアップ時を計時し、タイムアップ情報は温度記憶部19及び比較判定部52に供給される。
【0037】
室温変化判定部50は、過去平均温度データTpa及び現在平均温度データTsaから、室温が今後上昇方向変化で推移するか、下降方向変化で推移するのかを判定する判定手段であり、実施形態において室温変化判定部50は、計算部51と、比較判定部52と、を含む。室温変化判定部50は、制御用温度センサ3からの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断するものであり、制御装置5は、室温変化判定部50からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇7を起動または停止させる。
【0038】
計算部51は、10秒間隔で計測されたハウス室内温度データの現在及び過去温度データのそれぞれの平均を演算する平均温度計算部55と、循環扇起動後の所定の上昇幅αの温度を計算する時間起動温度計算部56と、を含む。平均温度計算部55及び時間起動温度計算部56による情報は、比較判定部52に供給される。
【0039】
比較判定部52は、温度変化判定部59、温度比較判定部60、タイマ判定部61、運転モード判定部62を含む。温度変化判定部59は、現在平均温度データTsaと、過去平均温度データTpaと、を比較して、現在の室温が上昇方向に推移しているか、下降方向に推移しているかを判定する部位であり、具体的には、例えば現在平均温度データTsa―過去平均温度Tpaが少なくとも0.1℃プラスの場合が上昇推移で、マイナスの場合を下降推移としている。
【0040】
温度比較判定部60は、現在平均温度Tsaと、循環扇起動後の温度上昇幅αを加えた温度(時間基準起動温度)T2と、を比較して室温T2の時点から一定時間間隔のみについて循環扇7を運転させる(第2工程)かどうかの判定を行なう部位であり、現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2に達したと判定されると、循環扇動作指令出力部70に指令信号が供給され、循環扇7a〜7fを起動させる。そして、時間基準起動運転時間として設定されたβ時間間隔、例えば30秒のタイムアップがタイマ部40で計時されると、第2運転モードがセットされる。なお、β時間間隔長さは任意の長さで設定でき、例えば30秒以上、あるいはそれ以下の長短時間間隔としても良い。
【0041】
タイマ判定部61は、タイマ部40からの計時情報を入力して、設定された所定時間経過のタイムアップ時刻と比較し、タイムアップ有無の判定を行なう。
【0042】
運転モード判定部62は、循環扇起動温度T1における起動から時間基準起動温度T2時までの循環扇運転(第1工程)と、時間基準起動温度T2からの所定時間間隔の運転(第2工程)と、からなる第1運転モードか、後述する第2運転モードかの判定を行なう部位であり、それぞれの起動タイミングで循環扇動作指令出力部70を介して循環扇7を起動させる。
【0043】
次に、図5及び図7ないし図10により、実施形態の暖房制御システム1の動作について説明する。なお、図10は、10秒ごとの本システムの概略全体動作フロー図を示しているが、主要な工程ごとに分解して示した図7ないし図9のフローチャートと、図5を主に参照しながら以下、説明する。また、図7ないし図9のフローチャートは、理解しやすいように図10のフロー図の流れを簡略化して一部統合して示しており、必ずしも各ステップが1対1で一致していないが、動作全体の流れは図11が基礎となっている。
【0044】
図7は、制御用温度センサ3からの温度データから現在平均温度および過去平均温度を算出する工程である、ハウス内温度データ処理工程を示している。図7において、例えば夜間時、温度が下降する時間帯Raに加温機2を起動させる(S80)と、制御装置5は、タイマ部40の計時下で制御用温度センサ3からのハウス室内温度情報を10秒間隔で計測し、その際、1分間ぶん(6点)の温度を温度記憶部19で記憶保持する(S81)。その際、過去0秒〜20秒間の2点の現在温度データTsの平均を計算して現在平均温度データTsaとして記憶する(S82)とともに、過去30秒〜60秒間の4点の過去温度データTpの平均を計算して過去平均温度データTpaとして記憶する(S83)。
【0045】
図5において、コサインカーブ状の実線は、ハウス内温度の推移を示す。時刻t0で加温機が駆動し燃焼装置及び送風機駆動により加温空気がハウス室内に吹き出されると、室温Tは加温機2の起動直後から上昇に転じる。このとき、比較判定部52の温度変化判定部50では、図8に示すように、現在平均温度Tsa―過去平均温度Tpa<+0.1℃で、過去平均温度より現在平均温度が低いときは室温が下降中としてハウス内温度データ処理工程に戻り、室温計測ステップ以下を繰り返すとともに、現在平均温度Tsa―過去平均温度Tpa≧+0.1℃で、過去平均温度より現在平均温度が高いときは室温が上昇中として循環扇7の起動指令を出力部70に供給する処理を行う(S84)。なお、緩やかな室温の上昇、下降変化において冬季あるいは冷温期時の暖房運転では、外気温は室温以下で、さらに下降することが前提となっており、したがって、この温度変化判定部50での室温上昇を検出して循環扇7を安定して起動させることができる。循環扇動作指令出力部70では、循環扇7の起動指令を受けて起動指令を循環扇に対し出力する(S85)と、循環扇7a〜7fが起動する(S86)。循環扇起動は、室温がステップS84処理により上昇方向であると判定することにより検知されるものであり、したがって、空気温度の緩慢な応答特性からすると、加温機2のt0起動時刻直後に循環扇7が起動することとなる。この循環扇起動時のハウス内温度T1は温度記憶部19に記憶され(S87)、さらに、この温度T1を循環扇起動時温度からの温度上昇幅αの基準温度として、T1+α℃=T2を時間起動温度計算部56で計算し、時間起動温度T2を温度記憶部19に記憶保持する(S88)。循環扇7の起動により、室内に吹き出された加温空気は室内循環流によりムラなく行きわたり高温部と低温部が局部的に偏在して滞留することがなく、温度センサによる検出温度は平均化されたオンタイムの室内温度を正しく反映する結果、暖房効率並びに燃費効率を向上させることができる。循環扇起動とともに、その際の室内温度T1を記憶し、同時に時間起動温度と現在平均温度との比較処理を3分間を1サイクルとするタイマがスタートする(S89)。これは、3分間で設定温度に到達しなければ、まだ室温が低く、その間に循環扇を運転すると、放熱を促進させるからである。3分間のタイムアップ終了後、循環扇は停止し、第2運転モードにセットされる。循環扇7の起動により、S90において、現在平均温度Tsaと、循環扇起動時の起動温度T1+α℃、つまり温度T2とが比較され、起動温度T1から室温がα℃上昇したか否かが判定される。循環扇起動温度T1からα℃あるいはそれ以上上昇した温度T2は、循環扇の起動後、室温が所定上昇温度に到達した後、その到達温度から引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程(第2工程)を行う際の基準となる温度である。実施形態では、α℃は+1.5℃に設定されている。α℃の設定は、例えば加温機2の燃焼装置運転時間が目安とされる。つまり、加温機の暖房運転中は循環扇7も同時に運転して循環流による室温均一化を行い、燃焼装置運転が停止して送風機のみの運転状態となったときに一定時間に限り循環扇運転を継続させるものである。しかしながら、α℃の具体的値は、1.5℃に限定されるものではなく、それ以上でも、あるいはそれ以下でもよいが、加温機が起動して停止までの一連の動作で、燃焼装置運転終了からさらに引き続き行なわれる送風機運転が終了した後に循環扇を運転させないようにするのが好ましい。例えばα℃を1.8℃あるいはそれ以上とする場合もあるし、1℃あるいはそれ以下の場合もありうる。許容される最大温度振幅が2℃とすると、例えば0.5〜0.9℃程度の範囲が良好である。現在平均温度Tsaが循環扇起動温度T1からα℃、つまり1.5℃以上上昇すると、時刻t2から30秒後にタイムアップする30秒タイマが計時スタートする(S91)。そして、30秒後の時刻t3において、循環扇停止動作信号が循環扇動作指令出力部70に供給され、循環扇は停止する(S92)。そして、その後所定のインターバル時間(第2運転開始までの2分間の間隔時間、例えば2分程度)を経過して循環扇の第2運転モードにセットされる(S93)。図5、図8において、循環扇起動時t1から室温がα℃上昇時t2間での循環扇の動作を第1工程、時刻t2から30秒経過の循環扇停止時t3までを第2工程とされる。また、これらの第1、第2工程の一連の運転を第1運転とする。
【0046】
2分程度のインターバル時間が経過し、さらにその後所要の時間経過後、送風機を含む加温機2の運転は停止し、その後設定温度振幅の最大温度付近で室温がある程度の時間維持される。そして、室外温度の影響で室内温度は低下し始める。
【0047】
図9の第2運転では、第2工程の後、室内温度Tが下降方向に変化する際であって、循環扇7の起動温度T1までの途中に、設定された所定の時間幅γ[s]で循環扇7を起動し運転させる。この第2運転で、現在平均温度Tsaと、循環扇起動温度T1+α℃の温度である時間基準起動温度T2とが、比較され、現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2と低いか高いかが判定される(S94)。現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2と同じか又は低いときは、循環扇動作指令出力部70への指令(S95)を介して循環扇7を時刻(第2運転起動時刻)t4で起動させる(S96)。同時に60秒の循環扇運転タイマが計時開始し、60秒後の循環扇駆動停止指令をセットする(S97)。そして、タイムアップにより60秒後に循環扇停止指令が出力され、循環扇は時刻(第2運転循環扇停止時刻)t5で停止し、第1運転モードにセットされる(S98、S99,S100)。室温の下降途中で循環扇を起動させる第2運転では、循環扇の第1運転後、所定のインタバルの後、加温機が駆動停止され、その後ある時間帯での温度振幅最大値付近で室温が維持される時間帯にハウス室内空間で暖寒空気層が空間上下に存在し、温度センサが検出する付近の温度を過度に低くさせる原因となっていたもので、室温下降途中で循環扇を起動させることにより、平面的位置あるいは上下位置にむらなく均一の室温とさせることにより、次の加温機の燃焼起動までの時間を延ばして消費燃料を低減させるものである。第2運転での限定された時間幅γは、60秒に限定されるものではなく、それ以上、あるいは、それ以下の運転時間幅を設定することもできる。実施形態では、第2運転における循環扇2の起動タイミングを循環扇起動温度T1+α℃の温度T2、すなわち、第1工程における循環扇起動温度T1からの所定の上昇温度幅α℃で設定された温度としているが、これに限定されない。少なくとも、循環扇起動温度T1よりも高い温度で起動し、さらに停止するタイミングであるのが好ましい。この範囲は、時間基準起動温度T2の設定の場合と同様の設定内容とすることができる。なお、第2運転モードにおいて循環扇起動タイミングを第1運転での時間基準起動温度T2とすることにより、第1工程で用いたT2の温度データをそのまま利用することができ、回路構成を簡単化できる。
【0048】
以下、第1運転及びそれに続く第2運転を繰り返すことにより大容量空間で、小さな温度振幅であり、さらに、応答が緩慢な空気温度を媒介とする条件で、加温機系統とは全く独立した機器構成により、低廉なコストで加温機等の機器への対応性に優れるとともにハウス施設規模の増減や栽培作物変更時の段取りや設計変更に柔軟かつ簡単に対応でき、さらに、高精度の室温制御を行なえるうえに、燃焼消費量を確実に低減させて省エネルギー、排気燃焼ガスの削減に寄与することができる。
【実施例】
【0049】
本願発明者は、本発明の農業用ハウスの暖房制御システムを検証するための実験を以下のように行なった。
[実施例1]
【0050】
図1ないし図10の農業用ハウスの暖房制御システムを用いて運転実験を行なった。図11は、2010年3月の某日、深夜0時から4時の間の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフであり、加温機はハウス室内温度が設定温度以下にならないように暖房運転を7回行った。図11のグラフ実施例について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、この実施例1では、A重油消費量は17.1Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分27秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が29分52秒であった。なお、時刻02:00と03:00間に循環扇風量の乱れがあるが、計測誤差によるものと考えられる。
[比較例1]
【0053】
図12は、比較例1を示すグラフである。比較例は、2010年2月の上記実施例実施日の2日前某日、深夜0時から4時の間に行ったものであり、その際の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフである。循環扇は停止状態で加温機運転のみを行なっている。加温機はハウス室内温度が設定温度以下にならないように暖房運転を8回行った。図12のグラフ比較例について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0054】
【表2】
【0055】
表2において、比較例1では、A重油消費量は19.4Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分18秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が27分20秒であった。
[比較例2]
【0056】
図13は、比較例2を示すグラフである。比較例2は、2010年3月の上記実施例実施日の2日前某日、深夜0時から4時の間に行ったものであり、その際の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフである。循環扇はその間、連続運転を行なっている。加温機はその間暖房運転を9回行った。図13のグラフ比較例2について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0057】
【表3】
【0058】
表3において、比較例2では、A重油消費量は23.3Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分46秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が18分53秒であった。
【0059】
表4は、上記実施例1と比較例1、2との運転比較データを示すものであり、実施例1方法では、加温機起動回数は1回、2回それぞれ減少し、A重油消費量はそれぞれ11%、26%削減となり、暖房燃焼時間は各比較例より3%、5%短縮し、また、燃焼終了後次回燃焼開始までの時間はそれぞれ17%、58%長くなることが分かる。これらのデータは、1日の4時間ぶんのみについてのデータであり、A重油消費量差はそれぞれ2.2L、6.2Lで1日で3Lあるいは7Lのちがいとすると、1ヶ月で90L〜210Lぶんの消費量、及び燃費節約となる。
【0060】
【表4】
【0061】
なお、特許文献2のように、循環扇を加温機の送風運転時にのみ運転する(特許文献2、0040、図8参照)方法では、大容量空間においてはビニルダクトの穴からのハウス室内供給となるから、それぞれの孔から吹き出す風の温度に大きな差が発生する結果、ハウス室内全体での加温空気のある程度の偏在は解消されず、ハウス室内全体の暖房効率は劣り、また温度センサは平均化された室温を検知できないから、適正な暖房運転を行ないにくい結果、加温機の平均燃焼時間短縮及び、燃焼間隔時間を長くさせる効果はそれほど期待することができない。また、仮に、加温機駆動と循環扇駆動を同時に行う運転としても、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コスト削減を達成しつつ、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更、設備入替工事、温風暖房機の他メーカー製への変更の際に、電気回路構成を含めた全体のシステム設定変更を簡単かつ短時間、低コストで行なうことはできない。また、特許文献2の方法では、本願発明のように、第1、第2運転による室内ハウス温度を高精度に反映した暖房制御ではないから、加温機駆動の無駄な運転が生じ、結局は、燃料消費効率が劣り燃焼排気ガス量抑制を達成することができない。本願発明では、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0062】
以上説明した本発明の農業用ハウスの暖房制御システムならびにその方法は、上記した実施形態の構成のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の本質を逸脱しない範囲においてなされる改変も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の農業用ハウスの暖房制御システムは、いわゆるビニールハウスと称されるものを含むすべての農業用ハウスについて適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 農業用ハウスの暖房制御システム
2 加温機
3 制御用温度センサ
5 制御装置
6 加温機用室内温度センサ
7 循環扇
9 加温機系
10 循環扇系
19 温度記憶部
20 記憶部
30 設定部
40 タイマ部
50 室温変化判定部
52 比較判定部
59 温度変化判定部
T ハウス室内温度
Tsa 現在平均温度データ
Tpa 過去平均温度データ
T1 循環扇起動温度
T2 時間基準起動温度
α 温度上昇幅
t0 加温機起動時刻
t1 循環扇起動時刻
t2 時間基準起動時刻
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス(ビニールハウスやガラス温室等)の暖房制御システムおよびその暖房制御方法に係り、特に、夜間や寒冷期における暖房効率を向上させて省エネルギー、燃焼排気ガス低減に寄与し得る農業用ハウスの暖房制御システムおよびその暖房制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間や寒冷期における、植物育成用ビニールハウスあるいは農業用ハウス内の暖房においては、外気取り込み用の開閉装置を閉鎖しバーナーと送風機を有する加温機により、ビニールダクト等を介して熱風をハウス室内に送給しながら、室内暖房を行なうのが通常であった。一方、開閉装置の開閉操作、ハウス室内温度管理、加温機運転などの作業は、煩雑であるとともに外気温や天候に連動して行なう必要があり、このために、室内温度センサを設置して室内温度情報を取得しながら自動的に暖房運転を行なう方法が汎用されている。従来、ハウス内の暖房について、特許文献1,2のような提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−56723号公報
【特許文献2】特開2006−296298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は複数の温度センサと、それらの信号に基づき送風機及びバーナーを運転制御する制御装置からなり、ハウス内暖房装置が停止したり暴走運転を行なって、栽培中の作物に打撃を与える事故を防止しようとする。しかしながら、この特許文献1の装置では、ハウスの施設規模に応じた室内暖房を簡易に行なうことができないとともに、農業用の暖房燃料として使用されるA重油の使用量削減や燃焼ガス排出抑制などを期待することができない。また、特許文献2は、複数の温風暖房機と、複数のビニルダクトと、循環扇と、コントローラと、操作盤と、温度センサと、湿度センサ及び炭酸ガス濃度検出器を備えた施設園芸ハウス用温風暖房システムであり、温度センサが検出した気温が第1の設定値以下のとき、すべての温風暖房機に運転開始の指令信号を発し、気温が第1の設定値以上のとき、この指令信号を一部の温風暖房機のみに発し、遅延時間経過後、気温が第2の設定値に到達しないときには残りの温風暖房機にも指令信号を発するようにしている。
【0005】
しかしながら、この特許文献2の施設園芸ハウス用温風暖房システムにおいては、いったん、複数の温風暖房機、循環扇、操作盤、温度センサ、湿度センサ及び炭酸ガス濃度検出器、コントローラを含むシステムを構築すると、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更の場合、システム全体について見直しや設備入替工事設定変更作業が必要で、簡単かつ短時間でそれらに対応することができず高コストとなる。さらに、温風暖房機を他メーカー製のものに交換した場合、装置仕様に合わせた循環扇や温度センサとの電気回路構成を構築あるいは再構築する必要があった。また、特許文献2の施設園芸ハウス用温風暖房システムでは、温風暖房機の送風運転時のみに循環扇を運転してハウス内の空気循環を効率よく行なわせることを企図しているが(特許文献2の実施例4)、バーナー運転時には、循環扇を運転させないから例えば広さが10メートル×80メートル、天井高2メートル程度の大容量空間のハウスではビニルダクトの穴からの熱風吹き出しでは、空間での暖気の偏在が生じ、作物の生育度のばらつきが生じる上に、効率の良い、きめ細かな暖房を行なうことができず、燃料消費をさらに抑制することはできなかった。さらに、内部に大容量空間を収容する大型の農業用ハウスの場合、暖房による室温の変化度合いは緩やかであるが、そのぶん単に設定した上下限温度範囲で加温機を運転させるだけでは実際の室温と暖房入力との間に時間ずれがあり、精度のよい暖房運転ができず、栽培中の作物の生育に悪影響を及ぼすことが懸念される。また、暖房効率はそれほど高い状態に維持することができず、具体的には夜間暖房時等の燃料消費量を抑制して省エネルギーあるいは燃焼排気ガス排出量を抑制するには限界があった。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、温風暖房機としての加温機と電気的に非接続で別個の制御系でありながら、加温機運転と連係して効率よく循環扇を運転させ、きめ細かな室温平均化操作を行なって燃料消費量削減、省エネルギーおよび燃焼ガス排出量低減を達成し得る農業用ハウスの暖房制御システム並びに農業用ハウスの暖房制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス8内に温風を吹き出す加温機2と、加温機系統9と電気的に非接続でハウス室内温度Tを検出する制御用温度センサ3と、農業用ハウス8内に設置された複数の循環扇7a〜7fと、制御用温度センサ3と循環扇7とに電気的に接続された制御装置5であり、加温機2の起動直後に循環扇7を起動させ、制御用温度センサ3からの情報により設定上昇温度まで循環扇7を運転させる第1工程と、制御用温度センサ3から設定上昇α℃温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間β経過まで循環扇7を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置5と、を備えた農業用ハウスの暖房制御システム1から構成される。農業用ハウスの暖房制御システム1は、加温機系9と電気的に非接続の循環扇系を駆動し、加温機の起動直後に循環扇を起動し、起動から一定温度上昇までの循環扇運転を行なう第1工程と、一定温度上昇したときの時刻から一定時間経過までの循環扇運転を行なう第2工程を一連の時間帯で行なう。加温機運転に対応するものであるが、特に電気的に非接続の加温機に連動させるための循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を実現して、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能としている。循環扇起動時からの温度上昇後の時間基準による起動温度までの温度幅、時間基準起動による時間間隔は各加温機の運転に対応して任意に設定できる。
【0008】
また、制御装置5は、第2工程の後、室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇7の起動温度T1までの途中に、設定された所定の時間幅γで循環扇7を起動し運転させる第2運転工程を行なわせるようにしてもよい。第2運転での時間幅γの具体的な長さについても任意に設定してもよい。
【0009】
また、第2運転工程での循環扇7の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度T1からの所定の上昇温度幅α℃で設定された温度T2であるようにしてもよい。
【0010】
また、制御装置5は、制御用温度センサ3からの情報を受けて室温Tが上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部50を有し、室温変化判定部50からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇7を起動させるようにするとよい。
【0011】
上記した、農業用ハウスの暖房制御システムについては、農業用ハウスの暖房制御方法として、構成することもできる。この場合、農業用ハウスの暖房制御方法は、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、加温機系統9と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサ3と、循環扇7と、制御装置5とを含む循環扇系10を用意し、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅P1−P2でハウス室内温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機2の起動直後に循環扇7を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇α℃温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程(第1工程)と、室温Tが所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間γ経過まで循環扇7を運転させる時間基準循環扇運転工程(第2工程)と、を含むものである。
【0012】
その際、時間基準循環扇運転工程(第2工程)の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇7を所定時間経過まで運転させる工程(第2運転)を含むとよい。
【0013】
また、ある時間間隔での直近温度データTsとそれより以前の過去温度データTpとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇7の起動、停止の基礎とするとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の農業用ハウスの暖房制御システムによれば、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機と、加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置であり、加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置と、を備えた構成であるから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系を室内温度センサによる温度結合により加温機制御系に連動させ、さらに、循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を行なう結果、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更、設備入替工事、温風暖房機の他メーカー製への変更の際に、電気回路構成を含めた全体のシステム設定変更を簡単かつ短時間、低コストで行なえるだけでなく、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能とし、また、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0015】
また、制御装置は、第2工程の後室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇の起動温度までの途中に、設定された所定の時間幅で循環扇を起動し運転させる第2運転工程を行なわせる構成とすることにより、室内の加温後、経時的に室内に生じる温度差空気を循環流で均一化させるから、適正な室温の均一化温度が温度センサで検出され、加温機の次の起動時間を実質的に延長させることが可能である。例えば、ハウスの隅に残っている熱溜りを循環流で加温機用の温度センサ付近に送風し、加温機用温度センサの検出温度を適正なものとすることができる。
【0016】
また、第2運転工程での循環扇の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度からの所定の上昇温度幅で設定された温度であることにより、循環扇の第1運転時に記憶させたデータを用い、回路構成を簡単化できる上に、第2運転の起動タイミングとしても適正な温度として設定することができる。
【0017】
また、制御装置は、制御用温度センサからの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部を有し、室温変化判定部からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇を起動させる構成とすることにより、加温機系と電気的に非接続の循環扇系の加温機起動直後の起動を円滑に行なうことができる。
【0018】
また、本発明の農業用ハウスの暖房制御方法によれば、大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、加温機系統と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、循環扇と、制御装置とを含む循環扇系を用意し、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機の起動直後に循環扇を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程と、室温が所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程と、を含む構成であるから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系により、循環扇の起動については室温検知による駆動とし、所定温度まで室温が上昇した後は、一定時間間隔運転による運転とし、同時に、加温機の燃焼駆動と送風機駆動の終了時間のずれに対応する循環扇運転を行なう結果、きめ細かな、高精度の暖房制御を可能とし、また、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0019】
また、上記の農業用ハウスの暖房制御方法において、時間基準循環扇運転工程の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇を所定時間経過まで運転させる工程を含むようにすることで、室内の加温後、経時的に室内に生じる温度差空気を循環流で均一化させるから、適正な室温の均一化温度が温度センサで検出され、加温機の次の起動時間を実質的に延長させることが可能である。
【0020】
また、その際、ある時間間隔での直近温度データとそれより以前の過去温度データとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇の起動、停止の基礎とするから、加温機系と電気的に非接続の循環扇系の加温機起動直後の起動を円滑に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる農業用ハウスの暖房制御システムを設置した農業用ハウスの平面説明図である。
【図2】図1の暖房制御システムの概略構成図である。
【図3】図1の暖房制御システムにおいて、ハウス内室温、設定室温、加温機の暖房による温度振幅を示す説明図である。
【図4】図1の農業用ハウスの縦断面説明図である。
【図5】図2の暖房制御システムを用いてシステムを駆動させながら加温機運転を行なう際の温度変化・機器駆動説明グラフを示す図である。
【図6】図2の暖房制御システムのブロック構成図である。
【図7】第1実施形態の暖房制御システムのハウス内温度データ処理工程の動作を説明するフローチャート図である。
【図8】第1実施形態の暖房制御システムの第1、第2工程を含む第1運転を説明するフローチャート図である。
【図9】第1実施形態の暖房制御システムの第2運転を説明するフローチャート図である。
【図10】第1実施形態の暖房制御システムの動作の全体の流れを説明するフローチャート図である。
【図11】本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの実施例の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【図12】比較例1の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【図13】比較例2の機器動作、温度変化のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの実施形態について説明する。本発明の農業用ハウスの暖房制御システムは、合成樹脂製被覆フィルムやガラスその他の透明薄板部材などの被い体を栽培土区画を包含するように設置される農業用ハウスに適用される暖房制御システムであり、特に、例えば短辺側が6メートル以上、長辺側が50メートル以上程度の大容量空間を有する農業用ハウスに好適に適用される。
【0023】
図1ないし図10は、本発明の農業用ハウスの暖房制御システムの一実施形態を示す。実施形態の農業用ハウスの暖房制御システム1は、図4に示すように、鋼管やアングル材などで構成した骨組み材に合成樹脂製被覆フィルム11,12を二重のアーチ状に張設し、その内外フィルムのうちの内フィルム11の内側を作物の栽培空間とする二重張り構造の農業用ハウスについての暖房制御システムである。
【0024】
本実施形態において、農業用ハウスの暖房制御システム(以下「暖房制御システム」という。)1は、加温機2と、制御用温度センサ3と、複数の循環扇7と、制御装置5を含む。
【0025】
本発明の暖房制御システム1は、上述したように、大容量空間を有する農業用ハウスに適用されるものであり、詳細には、その内側で育成される作物の育成下限温度から例えば2ないし3℃程度の小さな温度変動幅で高精度に暖房駆動される加温機に連係して循環扇を制御駆動させる。すなわち、図3の概略の温度範囲を示す説明図において、外気温変動範囲K1−K2に対し、ハウス内の暖房による室内温度範囲H1―H2が想定され、これに対する加温機駆動による暖房運転は、少なくとも作物育成下限温度より高い温度を室内下限温度とし、この室内下限温度を下回らないように加温機暖房が行なわれる。そして、消費燃料費用対効果を考慮して、この室内下限温度を維持するに必要かつ充分な範囲の小さな温度変動幅の変動範囲P1−P2を維持するように、加温機を駆動させるように構成されている。本実施形態においては、図5の温度変化・機器駆動説明図において、室内下限温度維持のための加温機駆動による温度変動範囲P1−P2は、2℃に設定されている。なお、この変動範囲P1−P2は個々の加温機の能力や加温機の仕様がメーカーごとに異なり、メーカーごとに異なって2℃以上の場合あるいは以下の場合などもあるが、いずれにしても、大容量空間暖房と費用対効果を考慮し、このように小さな温度の変動幅で加温機による暖房が行なわれる。なお、この際、空気の温度変化の緩慢な応答性を考慮した暖房制御を行うようにしている。
【0026】
ちなみに、農業用ハウス内での栽培作物の育成に適した最低温度は、例えば、それぞれスイカ12℃、メロンは約15℃、いちごは約5℃、キュウリは約13℃、バラは約18℃、なすびは約13℃程度である。
【0027】
図2において、本実施形態の暖房制御システム1は加温機2と、加温機用室内温度センサ6と、を含む加温機系9と、加温機系9と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサ3と、複数の循環扇7a〜7fと、コントローラからなる制御装置5と、を含む循環扇系10を含む。循環扇系10は、ハウス室内の温度Tを介して加温機系9と連結されており、具体的には、温度センサ3を介して取得される温度情報により循環扇系10が加温機系9と連係運転する。
【0028】
図1において、実施形態の農業用ハウス8は、短辺側が12.6メートル、長辺側が86メートル、天井高2〜3メートル程度の大容量空間を有する農業用ハウスであり、図4のように天井部は内外フィルム11,12による二重張り構造で周側面も被覆用合成樹脂フィルムで覆われて内部を閉鎖状空間としている。ハウスの内側の土部に栽培作物が植生されて育成される。ハウス内には長手方向に長く複数のビニルダクト14が配置されるとともに、1つの短辺側にはこれらのビニルダクト14に共通に接続されたビニルダクト15が設置され、ビニルダクト15に熱風の吹出し口を連通接続させた加温機2から加温空気がビニルダクト14の周壁に設けた複数の孔(図示せず)から室内に吹き出される。
【0029】
加温機2は、作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す暖房機であり、実施形態において、加温機2は、ハウス8の1つの短辺側に設置されており、熱源としての燃焼装置と燃焼により加熱あるいは加温された空気をハウス室内に向けて吹き出す送風機とを備え(図示せず)ている。加温機2には、室内温度センサ6が接続されて常時、ハウス室内温度情報を図示しない加温制御装置に供給し、加温制御装置の制御指示により、加温機による、設定された室内温度変動範囲P1−P2での温度振幅で加温機2が自動運転される。
【0030】
図1実施形態において、ハウス室内離隔位置に6個の循環扇7a〜7fが設置され、これらの循環扇は、二重張り天井の内フィルム11の直下部近傍に設置され、滞留しやすい室内上位の部分の加温空気を、例えば軸流羽根の3600立方メートル毎時の出力で、直線状に吹き出す。複数の循環扇7は、室内において互いに逆方向に吹き出し方向を設定した複数個の循環扇からなる第1、第2気流循環扇群で構成されており、室内空気の流れを例えば図1矢視のように平面視長円状に周回するように流す。ハウス内に設置される循環扇の数は、6個に限定されず、5個以下でもあるいは7個以上設置してもよい。
【0031】
さらに、ハウス室内に配置された制御用温度センサ3は、制御装置5に接続されて常時ハウス室内の温度情報を装置5に供給する。制御用温度センサ3は、加温機系統9とは、電気的に非接続でハウス室内温度を検出する。
【0032】
制御装置5は、制御用温度センサ3と循環扇7a〜7fとに電気的に接続されて室温基準による第1工程と、時間基準による第2工程と、を行ない、応答が緩慢なハウス室内温度Tを基準として小さな変動範囲P1−P2で、良好な費用対効果を保持させるように循環扇7a〜7fを起動運転させる制御手段である。すなわち、制御装置5は、第1工程において、加温機2の起動直後に循環扇7を起動させ、制御用温度センサ3からの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる。また、第2工程において、制御用温度センサ3から設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇7を運転させる。
【0033】
図6において、制御装置5は、記憶部20、設定部30、タイマ部40、室温変化判定部50、循環扇動作指令出力部70、制御部(CPU)を含むマイクロコンピュータなどから構成されている。
【0034】
図6、図5において、記憶部20は、装置動作プログラムなどを記憶するとともに、ある時間間隔での現在温度と過去温度データTs,Tp、それぞれの平均温度データTsa,Tpa、循環扇の起動温度T1、時間基準の起動温度T2を少なくとも記憶保持する温度記憶部19を含む。本システムの全体の流れは、図10に示すような動作を行なうものであり、その際の運転モードの判定、モード設定等の分岐流れ手順等は動作プログラムに記憶保持されている。具体的には、実施形態において、記憶部20は、制御装置5が10秒間隔で計測し取り込んだ制御用温度センサ3からのハウス室内温度データを、1分間ぶん(6点)常時記憶保持する。そして、演算された過去30秒〜60秒前の4点のデータTpの平均温度(過去温度データ)Tpaと、過去0〜20秒前の2点のデータTsの平均温度(現在温度データ)Tsaと、を記憶保持する。また、加温機2の起動の直後に循環扇7a〜7fが起動したときの温度データT1を保持するとともに、循環扇7が起動したときから所定の温度上昇幅αで上昇したときの温度T2を記憶保持する。温度上昇幅α上昇したときの温度T2が時間基準の起動温度とされる。また、温度T2に到達したときの時刻t2を保持する。現在及び過去温度データTs,Tpは、計算部51に供給されるとともに、それぞれの平均温度データTsa,Tpaは、比較判定部52に供給される。
【0035】
設定部30は、後述する、循環扇7が起動したときからの所定の温度上昇幅αの値などの設定や変更調整を行なう部位であり、外部からの操作により初期設定や設定の変更調整を行なうダイヤル、摘みなどの操作子31が接続されている。設定部30で設定された値が記憶部20に入力され記憶保持される。また、例えば、後述するように、第1運転と第2運転との間に例えば2分間程度、間隔を設けるインターバル時間を設定したいときなどの時間設定なども必要に応じて行なえる。
【0036】
タイマ部40は、制御用温度センサ3からの室内温度の10秒間隔での計測取り込み、加温機に続く循環扇起動後の所定の温度上昇幅αの検出サイクルの3分間、循環扇起動後α℃の温度上昇があった時点からβ時間間隔(例えば30秒間)だけ運転する時間、第1、第2運転工程の1サイクルの時間間隔(たとえば30分間)、加温機及び循環扇起動後の所定の温度上昇幅αぶん温度上昇があったときから、引き続き所定時間間隔だけ循環扇を運転した後停止させる60秒、などの時間を計時する計時手段である。それぞれのスタート時からタイムアップ時を計時し、タイムアップ情報は温度記憶部19及び比較判定部52に供給される。
【0037】
室温変化判定部50は、過去平均温度データTpa及び現在平均温度データTsaから、室温が今後上昇方向変化で推移するか、下降方向変化で推移するのかを判定する判定手段であり、実施形態において室温変化判定部50は、計算部51と、比較判定部52と、を含む。室温変化判定部50は、制御用温度センサ3からの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断するものであり、制御装置5は、室温変化判定部50からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇7を起動または停止させる。
【0038】
計算部51は、10秒間隔で計測されたハウス室内温度データの現在及び過去温度データのそれぞれの平均を演算する平均温度計算部55と、循環扇起動後の所定の上昇幅αの温度を計算する時間起動温度計算部56と、を含む。平均温度計算部55及び時間起動温度計算部56による情報は、比較判定部52に供給される。
【0039】
比較判定部52は、温度変化判定部59、温度比較判定部60、タイマ判定部61、運転モード判定部62を含む。温度変化判定部59は、現在平均温度データTsaと、過去平均温度データTpaと、を比較して、現在の室温が上昇方向に推移しているか、下降方向に推移しているかを判定する部位であり、具体的には、例えば現在平均温度データTsa―過去平均温度Tpaが少なくとも0.1℃プラスの場合が上昇推移で、マイナスの場合を下降推移としている。
【0040】
温度比較判定部60は、現在平均温度Tsaと、循環扇起動後の温度上昇幅αを加えた温度(時間基準起動温度)T2と、を比較して室温T2の時点から一定時間間隔のみについて循環扇7を運転させる(第2工程)かどうかの判定を行なう部位であり、現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2に達したと判定されると、循環扇動作指令出力部70に指令信号が供給され、循環扇7a〜7fを起動させる。そして、時間基準起動運転時間として設定されたβ時間間隔、例えば30秒のタイムアップがタイマ部40で計時されると、第2運転モードがセットされる。なお、β時間間隔長さは任意の長さで設定でき、例えば30秒以上、あるいはそれ以下の長短時間間隔としても良い。
【0041】
タイマ判定部61は、タイマ部40からの計時情報を入力して、設定された所定時間経過のタイムアップ時刻と比較し、タイムアップ有無の判定を行なう。
【0042】
運転モード判定部62は、循環扇起動温度T1における起動から時間基準起動温度T2時までの循環扇運転(第1工程)と、時間基準起動温度T2からの所定時間間隔の運転(第2工程)と、からなる第1運転モードか、後述する第2運転モードかの判定を行なう部位であり、それぞれの起動タイミングで循環扇動作指令出力部70を介して循環扇7を起動させる。
【0043】
次に、図5及び図7ないし図10により、実施形態の暖房制御システム1の動作について説明する。なお、図10は、10秒ごとの本システムの概略全体動作フロー図を示しているが、主要な工程ごとに分解して示した図7ないし図9のフローチャートと、図5を主に参照しながら以下、説明する。また、図7ないし図9のフローチャートは、理解しやすいように図10のフロー図の流れを簡略化して一部統合して示しており、必ずしも各ステップが1対1で一致していないが、動作全体の流れは図11が基礎となっている。
【0044】
図7は、制御用温度センサ3からの温度データから現在平均温度および過去平均温度を算出する工程である、ハウス内温度データ処理工程を示している。図7において、例えば夜間時、温度が下降する時間帯Raに加温機2を起動させる(S80)と、制御装置5は、タイマ部40の計時下で制御用温度センサ3からのハウス室内温度情報を10秒間隔で計測し、その際、1分間ぶん(6点)の温度を温度記憶部19で記憶保持する(S81)。その際、過去0秒〜20秒間の2点の現在温度データTsの平均を計算して現在平均温度データTsaとして記憶する(S82)とともに、過去30秒〜60秒間の4点の過去温度データTpの平均を計算して過去平均温度データTpaとして記憶する(S83)。
【0045】
図5において、コサインカーブ状の実線は、ハウス内温度の推移を示す。時刻t0で加温機が駆動し燃焼装置及び送風機駆動により加温空気がハウス室内に吹き出されると、室温Tは加温機2の起動直後から上昇に転じる。このとき、比較判定部52の温度変化判定部50では、図8に示すように、現在平均温度Tsa―過去平均温度Tpa<+0.1℃で、過去平均温度より現在平均温度が低いときは室温が下降中としてハウス内温度データ処理工程に戻り、室温計測ステップ以下を繰り返すとともに、現在平均温度Tsa―過去平均温度Tpa≧+0.1℃で、過去平均温度より現在平均温度が高いときは室温が上昇中として循環扇7の起動指令を出力部70に供給する処理を行う(S84)。なお、緩やかな室温の上昇、下降変化において冬季あるいは冷温期時の暖房運転では、外気温は室温以下で、さらに下降することが前提となっており、したがって、この温度変化判定部50での室温上昇を検出して循環扇7を安定して起動させることができる。循環扇動作指令出力部70では、循環扇7の起動指令を受けて起動指令を循環扇に対し出力する(S85)と、循環扇7a〜7fが起動する(S86)。循環扇起動は、室温がステップS84処理により上昇方向であると判定することにより検知されるものであり、したがって、空気温度の緩慢な応答特性からすると、加温機2のt0起動時刻直後に循環扇7が起動することとなる。この循環扇起動時のハウス内温度T1は温度記憶部19に記憶され(S87)、さらに、この温度T1を循環扇起動時温度からの温度上昇幅αの基準温度として、T1+α℃=T2を時間起動温度計算部56で計算し、時間起動温度T2を温度記憶部19に記憶保持する(S88)。循環扇7の起動により、室内に吹き出された加温空気は室内循環流によりムラなく行きわたり高温部と低温部が局部的に偏在して滞留することがなく、温度センサによる検出温度は平均化されたオンタイムの室内温度を正しく反映する結果、暖房効率並びに燃費効率を向上させることができる。循環扇起動とともに、その際の室内温度T1を記憶し、同時に時間起動温度と現在平均温度との比較処理を3分間を1サイクルとするタイマがスタートする(S89)。これは、3分間で設定温度に到達しなければ、まだ室温が低く、その間に循環扇を運転すると、放熱を促進させるからである。3分間のタイムアップ終了後、循環扇は停止し、第2運転モードにセットされる。循環扇7の起動により、S90において、現在平均温度Tsaと、循環扇起動時の起動温度T1+α℃、つまり温度T2とが比較され、起動温度T1から室温がα℃上昇したか否かが判定される。循環扇起動温度T1からα℃あるいはそれ以上上昇した温度T2は、循環扇の起動後、室温が所定上昇温度に到達した後、その到達温度から引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程(第2工程)を行う際の基準となる温度である。実施形態では、α℃は+1.5℃に設定されている。α℃の設定は、例えば加温機2の燃焼装置運転時間が目安とされる。つまり、加温機の暖房運転中は循環扇7も同時に運転して循環流による室温均一化を行い、燃焼装置運転が停止して送風機のみの運転状態となったときに一定時間に限り循環扇運転を継続させるものである。しかしながら、α℃の具体的値は、1.5℃に限定されるものではなく、それ以上でも、あるいはそれ以下でもよいが、加温機が起動して停止までの一連の動作で、燃焼装置運転終了からさらに引き続き行なわれる送風機運転が終了した後に循環扇を運転させないようにするのが好ましい。例えばα℃を1.8℃あるいはそれ以上とする場合もあるし、1℃あるいはそれ以下の場合もありうる。許容される最大温度振幅が2℃とすると、例えば0.5〜0.9℃程度の範囲が良好である。現在平均温度Tsaが循環扇起動温度T1からα℃、つまり1.5℃以上上昇すると、時刻t2から30秒後にタイムアップする30秒タイマが計時スタートする(S91)。そして、30秒後の時刻t3において、循環扇停止動作信号が循環扇動作指令出力部70に供給され、循環扇は停止する(S92)。そして、その後所定のインターバル時間(第2運転開始までの2分間の間隔時間、例えば2分程度)を経過して循環扇の第2運転モードにセットされる(S93)。図5、図8において、循環扇起動時t1から室温がα℃上昇時t2間での循環扇の動作を第1工程、時刻t2から30秒経過の循環扇停止時t3までを第2工程とされる。また、これらの第1、第2工程の一連の運転を第1運転とする。
【0046】
2分程度のインターバル時間が経過し、さらにその後所要の時間経過後、送風機を含む加温機2の運転は停止し、その後設定温度振幅の最大温度付近で室温がある程度の時間維持される。そして、室外温度の影響で室内温度は低下し始める。
【0047】
図9の第2運転では、第2工程の後、室内温度Tが下降方向に変化する際であって、循環扇7の起動温度T1までの途中に、設定された所定の時間幅γ[s]で循環扇7を起動し運転させる。この第2運転で、現在平均温度Tsaと、循環扇起動温度T1+α℃の温度である時間基準起動温度T2とが、比較され、現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2と低いか高いかが判定される(S94)。現在平均温度Tsaが時間基準起動温度T2と同じか又は低いときは、循環扇動作指令出力部70への指令(S95)を介して循環扇7を時刻(第2運転起動時刻)t4で起動させる(S96)。同時に60秒の循環扇運転タイマが計時開始し、60秒後の循環扇駆動停止指令をセットする(S97)。そして、タイムアップにより60秒後に循環扇停止指令が出力され、循環扇は時刻(第2運転循環扇停止時刻)t5で停止し、第1運転モードにセットされる(S98、S99,S100)。室温の下降途中で循環扇を起動させる第2運転では、循環扇の第1運転後、所定のインタバルの後、加温機が駆動停止され、その後ある時間帯での温度振幅最大値付近で室温が維持される時間帯にハウス室内空間で暖寒空気層が空間上下に存在し、温度センサが検出する付近の温度を過度に低くさせる原因となっていたもので、室温下降途中で循環扇を起動させることにより、平面的位置あるいは上下位置にむらなく均一の室温とさせることにより、次の加温機の燃焼起動までの時間を延ばして消費燃料を低減させるものである。第2運転での限定された時間幅γは、60秒に限定されるものではなく、それ以上、あるいは、それ以下の運転時間幅を設定することもできる。実施形態では、第2運転における循環扇2の起動タイミングを循環扇起動温度T1+α℃の温度T2、すなわち、第1工程における循環扇起動温度T1からの所定の上昇温度幅α℃で設定された温度としているが、これに限定されない。少なくとも、循環扇起動温度T1よりも高い温度で起動し、さらに停止するタイミングであるのが好ましい。この範囲は、時間基準起動温度T2の設定の場合と同様の設定内容とすることができる。なお、第2運転モードにおいて循環扇起動タイミングを第1運転での時間基準起動温度T2とすることにより、第1工程で用いたT2の温度データをそのまま利用することができ、回路構成を簡単化できる。
【0048】
以下、第1運転及びそれに続く第2運転を繰り返すことにより大容量空間で、小さな温度振幅であり、さらに、応答が緩慢な空気温度を媒介とする条件で、加温機系統とは全く独立した機器構成により、低廉なコストで加温機等の機器への対応性に優れるとともにハウス施設規模の増減や栽培作物変更時の段取りや設計変更に柔軟かつ簡単に対応でき、さらに、高精度の室温制御を行なえるうえに、燃焼消費量を確実に低減させて省エネルギー、排気燃焼ガスの削減に寄与することができる。
【実施例】
【0049】
本願発明者は、本発明の農業用ハウスの暖房制御システムを検証するための実験を以下のように行なった。
[実施例1]
【0050】
図1ないし図10の農業用ハウスの暖房制御システムを用いて運転実験を行なった。図11は、2010年3月の某日、深夜0時から4時の間の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフであり、加温機はハウス室内温度が設定温度以下にならないように暖房運転を7回行った。図11のグラフ実施例について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、この実施例1では、A重油消費量は17.1Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分27秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が29分52秒であった。なお、時刻02:00と03:00間に循環扇風量の乱れがあるが、計測誤差によるものと考えられる。
[比較例1]
【0053】
図12は、比較例1を示すグラフである。比較例は、2010年2月の上記実施例実施日の2日前某日、深夜0時から4時の間に行ったものであり、その際の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフである。循環扇は停止状態で加温機運転のみを行なっている。加温機はハウス室内温度が設定温度以下にならないように暖房運転を8回行った。図12のグラフ比較例について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0054】
【表2】
【0055】
表2において、比較例1では、A重油消費量は19.4Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分18秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が27分20秒であった。
[比較例2]
【0056】
図13は、比較例2を示すグラフである。比較例2は、2010年3月の上記実施例実施日の2日前某日、深夜0時から4時の間に行ったものであり、その際の加温機と、循環扇運転状態と、ハウス室内温度及び外気温度推移を記録したグラフである。循環扇はその間、連続運転を行なっている。加温機はその間暖房運転を9回行った。図13のグラフ比較例2について条件及び主要な数値についての表を下記する。
【0057】
【表3】
【0058】
表3において、比較例2では、A重油消費量は23.3Lであった。1回の暖房(燃焼)の平均時間は5分46秒で、暖房により温度が上昇し再度温度が下降して暖房運転を開始するまでの平均時間が18分53秒であった。
【0059】
表4は、上記実施例1と比較例1、2との運転比較データを示すものであり、実施例1方法では、加温機起動回数は1回、2回それぞれ減少し、A重油消費量はそれぞれ11%、26%削減となり、暖房燃焼時間は各比較例より3%、5%短縮し、また、燃焼終了後次回燃焼開始までの時間はそれぞれ17%、58%長くなることが分かる。これらのデータは、1日の4時間ぶんのみについてのデータであり、A重油消費量差はそれぞれ2.2L、6.2Lで1日で3Lあるいは7Lのちがいとすると、1ヶ月で90L〜210Lぶんの消費量、及び燃費節約となる。
【0060】
【表4】
【0061】
なお、特許文献2のように、循環扇を加温機の送風運転時にのみ運転する(特許文献2、0040、図8参照)方法では、大容量空間においてはビニルダクトの穴からのハウス室内供給となるから、それぞれの孔から吹き出す風の温度に大きな差が発生する結果、ハウス室内全体での加温空気のある程度の偏在は解消されず、ハウス室内全体の暖房効率は劣り、また温度センサは平均化された室温を検知できないから、適正な暖房運転を行ないにくい結果、加温機の平均燃焼時間短縮及び、燃焼間隔時間を長くさせる効果はそれほど期待することができない。また、仮に、加温機駆動と循環扇駆動を同時に行う運転としても、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コスト削減を達成しつつ、栽培作物や季節に対応した設定変更やハウスの施設規模の増減変更、設備入替工事、温風暖房機の他メーカー製への変更の際に、電気回路構成を含めた全体のシステム設定変更を簡単かつ短時間、低コストで行なうことはできない。また、特許文献2の方法では、本願発明のように、第1、第2運転による室内ハウス温度を高精度に反映した暖房制御ではないから、加温機駆動の無駄な運転が生じ、結局は、燃料消費効率が劣り燃焼排気ガス量抑制を達成することができない。本願発明では、加温機の運転に密接に対応した循環扇運転により燃料消費量及び燃料コストを削減でき、さらに、省エネルギー、燃焼ガス低減による温暖化防止に寄与することができる。
【0062】
以上説明した本発明の農業用ハウスの暖房制御システムならびにその方法は、上記した実施形態の構成のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の本質を逸脱しない範囲においてなされる改変も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の農業用ハウスの暖房制御システムは、いわゆるビニールハウスと称されるものを含むすべての農業用ハウスについて適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 農業用ハウスの暖房制御システム
2 加温機
3 制御用温度センサ
5 制御装置
6 加温機用室内温度センサ
7 循環扇
9 加温機系
10 循環扇系
19 温度記憶部
20 記憶部
30 設定部
40 タイマ部
50 室温変化判定部
52 比較判定部
59 温度変化判定部
T ハウス室内温度
Tsa 現在平均温度データ
Tpa 過去平均温度データ
T1 循環扇起動温度
T2 時間基準起動温度
α 温度上昇幅
t0 加温機起動時刻
t1 循環扇起動時刻
t2 時間基準起動時刻
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、
作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機と、
加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、
農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、
制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置であり、
加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、
制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置と、を備えたことを特徴とする農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項2】
制御装置は、第2工程の後室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇の起動温度までの途中に、設定された所定の時間幅で循環扇を起動し運転させる第2運転工程を行なわせることを特徴とする請求項1記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項3】
第2運転工程での循環扇の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度からの所定の上昇温度幅で設定された温度であることを特徴とする請求項1又は2記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項4】
制御装置は、制御用温度センサからの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部を有し、室温変化判定部からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇を起動させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項5】
大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、
加温機系統と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、循環扇と、制御装置とを含む循環扇系を用意し、
作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機の起動直後に循環扇を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程と、
室温が所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程と、を含むことを特徴とする農業用ハウスの暖房制御方法。
【請求項6】
時間基準循環扇運転工程の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇を所定時間経過まで運転させる工程を含むことを特徴とする請求項5記載の農業用ハウスの暖房制御方法。
【請求項7】
ある時間間隔での直近温度データとそれより以前の過去温度データとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇の起動、停止の基礎とすることを特徴とする請求項5又は6記載の農業用ハウスの暖房制御方法。
【請求項1】
大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御システムであり、
作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機と、
加温機系統と電気的に非接続でハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、
農業用ハウス内に設置された複数の循環扇と、
制御用温度センサと循環扇とに電気的に接続された制御装置であり、
加温機の起動直後に循環扇を起動させ、制御用温度センサからの情報により設定上昇温度まで循環扇を運転させる第1工程と、
制御用温度センサから設定上昇温度に到達した情報を受けた後、引き続き設定された所定の時間経過まで循環扇を運転させる第2工程と、を行なわせる制御装置と、を備えたことを特徴とする農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項2】
制御装置は、第2工程の後室内温度が下降方向に変化する際であって、循環扇の起動温度までの途中に、設定された所定の時間幅で循環扇を起動し運転させる第2運転工程を行なわせることを特徴とする請求項1記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項3】
第2運転工程での循環扇の起動温度は、第1工程における循環扇起動温度からの所定の上昇温度幅で設定された温度であることを特徴とする請求項1又は2記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項4】
制御装置は、制御用温度センサからの情報を受けて室温が上昇か下降かの変化方向を判断する室温変化判定部を有し、室温変化判定部からの室温上昇又は下降変化情報を基礎に循環扇を起動させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の農業用ハウスの暖房制御システム。
【請求項5】
大容量空間を有する農業用ハウスでの作物育成下限温度から所要の温度変動幅で暖房する農業用ハウスの暖房制御方法であり、
加温機系統と電気的に非接続の循環扇系であって、ハウス室内温度を検出する制御用温度センサと、循環扇と、制御装置とを含む循環扇系を用意し、
作物育成下限温度を基準として設定された温度変動幅でハウス室内最低温度を維持するように農業用ハウス内に温風を吹き出す加温機の起動直後に循環扇を起動して該循環扇の起動温度から所定上昇温度まで運転させる室温基準循環扇運転工程と、
室温が所定上昇温度に到達した後、引き続き所定時間経過まで循環扇を運転させる時間基準循環扇運転工程と、を含むことを特徴とする農業用ハウスの暖房制御方法。
【請求項6】
時間基準循環扇運転工程の後、時間経過により室温が下降する途中で再度循環扇を所定時間経過まで運転させる工程を含むことを特徴とする請求項5記載の農業用ハウスの暖房制御方法。
【請求項7】
ある時間間隔での直近温度データとそれより以前の過去温度データとの比較により室温の上昇方向又は下降方向を判定し、その判定による情報を循環扇の起動、停止の基礎とすることを特徴とする請求項5又は6記載の農業用ハウスの暖房制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−205947(P2011−205947A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76064(P2010−76064)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、九州経済産業局、地域イノベーション創出研究開発事業「予測制御と空調システムを用いる農業用環境制御システムの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(597008773)テイラーズ熊本株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、九州経済産業局、地域イノベーション創出研究開発事業「予測制御と空調システムを用いる農業用環境制御システムの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(597008773)テイラーズ熊本株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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