説明

農業資材

【課題】農作物へのカドミウムの吸収抑制効果に一段と優れた農業資材を提供する。
【解決手段】軽焼マグネシアと、リン酸又はその塩と、石灰窒素とを含有する組成物からなる農業資材。本発明においては、(1)軽焼マグネシアが炭酸マグネシウムの700〜900℃の焼成物であること、(2)リン酸又はその塩がリン酸、リン酸ソーダ及びリン酸カルシウムから選ばれた少なくとも1種であること、(3)有機酸又はその塩を更に含んでいること、(4)有機酸又はその塩がリグニンスルホン酸、クエン酸、グルコン酸及びこれらの酸のナトリウム塩から選ばれた少なくとも1種であること、(5)含有率が、軽焼マグネシアが60〜90質量%、リン酸又はその塩がPとして0.5〜15質量%、石灰窒素が5〜40質量%、有機酸又はその塩が6質量%以下(0%を含む)であること、から選ばれた少なくとも一つの実施態様を有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業資材に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムを比較的多く含有している農耕地において、水稲、野菜等の農作物を栽培しなければならない場合には、農作物へのカドミウムの吸収を如何にして抑制させるかに関心が集まっている。従来、水稲栽培においては、水田の水管理と石灰窒素の使用とによって解決する方法が提案(特許文献1)されているが、まだ改善の余地があった。
【特許文献1】特許第3688274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、農作物へのカドミウムの吸収抑制効果に一段と優れた農業資材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、軽焼マグネシアと、リン酸又はその塩と、石灰窒素とを含有する組成物からなる農業資材である。本発明においては、(1)軽焼マグネシアが炭酸マグネシウムの700〜900℃の焼成物であること、(2)リン酸又はその塩がリン酸、リン酸ソーダ及びリン酸カルシウムから選ばれた少なくとも1種であること、(3)有機酸又はその塩を更に含んでいること、(4)有機酸又はその塩がリグニンスルホン酸、クエン酸、グルコン酸及びこれらの酸のナトリウム塩から選ばれた少なくとも1種であること、(5)含有率が、軽焼マグネシアが60〜90質量%、リン酸又はその塩がPとして0.5〜15質量%、石灰窒素が5〜40質量%、有機酸又はその塩が6質量%以下(0%を含む)であること、から選ばれた少なくとも一つの実施態様を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
農作物へのカドミウムの吸収抑制効果に一段と優れた農業資材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
軽焼マグネシアは、リン酸又はその塩の存在下で水硬する性質を有し、農耕地に散布すると、土壌中に存在するカドミウムを捕獲固定する作用を持っている。軽焼マグネシアは、例えば中国遼寧省シュウエン地区に産出するマグネサイト(炭酸マグネシウム)や、海水中のニガリを原料とする海水マグネシア等を700〜900℃で焼成することによって製造することができるが、入手面から炭酸マグネシウムの700〜900℃の焼成物が好ましい。粒子径は平均粒径で0.01〜0.3mmが好ましい。
【0007】
リン酸又はその塩は、軽焼マグネシアの水硬反応剤として機能する。これを例示すれば、リン酸、リン酸ソーダ、リン酸カルシウムなどである。リン酸ソーダには、メタリン酸ソーダ、酸性メタリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、酸性ピロ燐酸ソーダ、トリポリ燐酸ソーダなどがあり、リン酸カルシウムには、酸性リン酸カルシウム、リン酸2カルシウム、りん酸3カルシウム、リン酸カルシウム・マグネシウムなどがある。なかでも、リン酸、リン酸ソーダ及びリン酸カルシウムから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。これらのリン酸又はその塩を含む物質には、ようりん、過リン酸石灰、重過リン酸石灰などがあるのでこれを使用することもできる。入手面から「ようりん」が好ましい。「ようりん」とは、リン酸及び石灰を含むりん鉱石と、ケイ酸及びマグネシウムを含む例えば蛇紋岩との混合物を、1400℃程度で溶融後冷却して製造されたリン酸肥料のことである。
【0008】
石灰窒素は、一般に入手可能な石灰窒素で十分であり、カルシウムシアナミド(CaCN)を主成分とし、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH))、炭素(C)等を副成分とするさまざまな組成のものが知られているが、CaCNとして40質量%以上を含むものであればいずれも使用可能である。粒子径は、軽焼マグネシアと、リン酸又はその塩と、必要に応じて含有させる有機酸又はその塩とをあらかじめ混合しておくときは、平均粒径で0.01〜0.3mmが好ましい。一方、これらの成分を個々に、又は2成分以上を混合して施肥現場で土壌に散布する場合には特に制限はなく、平均粒径0.01〜0.3mmの粉状、平均粒径0.5〜4.0mmの粒状のいずれも使用することができる。
【0009】
軽焼マグネシアとリン酸又はその塩との水硬反応を遅延させることによって、カドミウムの捕獲効果を高めることができる。そのため、本発明においては、有機酸又はその塩からなる水硬反応遅延剤を用いることが好ましい。それを例示すれば、腐植酸、リグニンスルホン酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、並びにこれらの酸のナトリウム塩、アンモニウム塩及びカルシウム塩などである。なかでも、リグニンスルホン酸、クエン酸、グルコン酸及びこれらの酸のナトリウム塩から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
含有率は、軽焼マグネシアが60〜90質量%、リン酸又はその塩がPとして0.5〜15質量%、石灰窒素が5〜40質量%、有機酸又はその塩が6質量%以下(0%を含む)であることが好ましい。これらの成分で100質量%にならないときには、例えば炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸マグネシウム等の無機炭酸塩、例えば硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等の無機硫酸塩、例えば高炉水砕スラグ、フライアッシュ等の石灰質物質、シリカ質物質など適宜配合して満たさせる。
【0011】
本発明の農業資材の使用方法の一例を示すと、本発明の農業資材を土壌に散布する方法、軽焼マグネシアとリン酸又はその塩との混合物をあらかじめ調製しておき、それと石灰窒素を土壌に散布する方法などのように、本発明の農業資材を構成する成分を現場で土壌に散布する方法のいずれも可能である。使用量は、土壌100(乾土換算)質量部に対し、石灰窒素を除く、軽焼マグネシアとリン酸又はその塩とを含む混合物(有機酸又はその塩を含んでもよい)からなる軽焼マグネシア粉末組成物を0.1〜0.5質量部、特に0.2〜0.4質量部であることが好ましい。軽焼マグネシア粉末組成物を構成している軽焼マグネシア以外の他の成分は、上記した好適割合に比例させることが好ましい。石灰窒素は、CaCNとして0.01〜0.1質量部、特に0.01〜0.04質量部が好ましい。
【実施例】
【0012】
実施例1〜4 比較例1〜5
天然炭酸マグネシウムを、大気雰囲気下、800℃で4時間焼成した後粉砕して軽焼マグネシア粉末(平均粒子径0.1mm)を製造した。また、市販のようりん(Pとして20質量%、平均粒子径0.1mm)、市販の重過リン酸石灰粉末(Pとして44質量%、平均粒子径0.1mm)、ヘキサメタリン酸ソーダ(P含量67質量%)、トリポリリン酸ソーダ(P含量57質量%)及び有機酸又はその塩(いずれも試薬)を準備した。これらを表1に示す割合で混合して軽焼マグネシア粉末組成物を調製した。一方、市販の粉状石灰窒素(CaCN50質量%、平均粒子径0.1mm)を準備した。
【0013】
市販の園芸用培土に硫酸カドミウムを添加し、カドミウム含量が0.5ppm、1ppm又は5ppmの人工汚染土壌とした。この人工汚染土壌の乾土換算100質量部に対し、軽焼マグネシア粉末組成物と石灰窒素を表1に示す割合を混合した後、水を加えてポットミキサーで混合し、土壌のもつ最大容水量の水分を含ませた。これによって表2に示される組成の農業資材が土壌と混合されたことになる。これを合成樹脂製バットに入れて風乾し、砕土機、篩機を通過させ7mm全通とした。この土壌をプランターに移し、水を加えて最大容水量の60%水分とした後、大豆(品種:タチナガハ)をプランター当たり12粒播種し、間引き後6本として子実収穫まで栽培を行い、子実中のカドミウム含量を1規定塩酸抽出/原子吸光分析法(農業及び園芸、第79巻第8号、中島:プロセス定量分析による大豆子実中カドミウムの定量)にて測定した。それらの結果を表2に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
実施例と比較例の対比から明らかなように、本発明の農業資材はカドミウムの吸収抑制効果に一段と優れていることがわかる。また、実施例1、2と実施例3,4との対比から、有機酸又はその塩を更に含ませることによって本発明の効果が助長されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の農業資材は、肥料、土壌改良資材などとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽焼マグネシアと、リン酸又はその塩と、石灰窒素とを含有する組成物からなる農業資材。
【請求項2】
軽焼マグネシアが、炭酸マグネシウムの700〜900℃の焼成物である請求項1に記載の農業資材。
【請求項3】
リン酸又はその塩が、リン酸、リン酸ソーダ及びリン酸カルシウムから選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載の農業資材。
【請求項4】
有機酸又はその塩を更に含んでなる請求項1〜3のいずれかに記載の農業資材。
【請求項5】
有機酸又はその塩が、リグニンスルホン酸、クエン酸、グルコン酸及びこれらの酸のナトリウム塩から選ばれた少なくとも1種である請求項4に記載の農業資材。
【請求項6】
含有率が、軽焼マグネシアが60〜90質量%、リン酸又はその塩がPとして0.5〜15質量%、石灰窒素が5〜40質量%、有機酸又はその塩が6質量%以下(0%を含む)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の農業資材。

【公開番号】特開2008−31333(P2008−31333A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207565(P2006−207565)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】