農用車輪
【課題】スポークとボスとの溶接部分が損傷し難い農用車輪を提供する。
【解決手段】農用車輪1は、円環状のリム4と、一端がリムに接続され他端がリムの中心に向けて延びた管状の複数のスポーク6,6,6,6と、リムの内側においてスポークの他端を接続するボス5と、直交する2つの端縁を有するボス補強パッチ8と、を有する。農用車輪は、ボス補強パッチは、直交する端縁の一方をボスの軸心方向に一致させてボスの外周に固着され、直交する端縁の他方をスポークの軸心方向に一致させてスポークの外周に固着されて形成される。
【解決手段】農用車輪1は、円環状のリム4と、一端がリムに接続され他端がリムの中心に向けて延びた管状の複数のスポーク6,6,6,6と、リムの内側においてスポークの他端を接続するボス5と、直交する2つの端縁を有するボス補強パッチ8と、を有する。農用車輪は、ボス補強パッチは、直交する端縁の一方をボスの軸心方向に一致させてボスの外周に固着され、直交する端縁の他方をスポークの軸心方向に一致させてスポークの外周に固着されて形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤を走行する田植機等の農業機械に装着される農用車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
水田および畑等で使用される農業機械に装着される農用車輪は、通常、金属製の円管が円環状に曲げられて形成されたリム、リムの中心に配されたボス、およびボスとリムとを連結する径方向に伸びた複数のスポークによって農業機械からの加重を支える。農用車輪は、このような構造によって、車軸から農用車輪に加えられる径方向の力、即ちスポークに加わる圧縮力に対して、十分な強度を有する。
【0003】
一方、農用車輪における円管のスポークは、車軸方向からの外力により生ずる曲げモーメントに対しては、必ずしも十分な曲げ強度を有しない。そこで、車軸方向の外力による曲げモーメントに対して強度を高めるために、楕円形の管をその断面形状の長径が車軸方向となるようにしてスポークを形成する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−248713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されたように、スポークを楕円管で形成すると、車軸方向の外力による曲げモーメントに対する強度を高めることができ、スポークの変形を防止することができる。
しかし、これとは別に、スポークに加えられる外力により、スポークとボスとの溶接部分に応力が集中し、大きな段差を乗り越える時の衝撃等によって溶接部分が損傷(破断)し易い。また、繰り返し外力が加えられることにより溶接部分が疲労し、割れから破断が生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、スポークとボスとの溶接部分が損傷し難い農用車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る農用車輪は、円環状のリムと、一端が前記リムに接続され他端が前記リムの中心に向けて延びた管状の複数のスポークと、前記リムの内側において前記スポークの前記他端を接続するボスと、直交する2つの端縁を有するボス補強パッチと、を有し、前記ボス補強パッチは、直交する前記端縁の一方を前記ボスの軸心方向に一致させて前記ボスの外周に固着され、直交する前記端縁の他方を前記スポークの軸心方向に一致させて前記スポークの外周に固着される。
【0008】
好ましくは、前記ボス補強パッチは、前記スポークに固着された前記端縁の全長が前記スポークの長さの5%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、スポークとボスとの溶接部分が損傷し難い農用車輪を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は農用車輪における鉄車の正面図である。
【図2】図2は図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図3は図1のB−B矢視断面図である。
【図4】図4は歪みの大きさを求めたときの力を加えた場所および方向等を示す図である。
【図5】図5はスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図6】図6は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図7】図7は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図8】図8は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図9】図9はスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図10】図10は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図11】図11は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図12】図12は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図13】図13は種々の形状のボス補強パッチを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は農用車輪1における鉄車2の正面図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3は図1のB−B矢視断面図である。
農用車輪1は、鉄車2鉄車2および弾性輪体3からなる。
鉄車2は、リム4、ボス5、スポーク6,6,6,6および補強板7、ボス補強パッチ8,8,8,8等からなる。
【0012】
リム4は、金属製の管が円環状に曲げられ、両端が溶接等により接続されたものである。農用車輪1は、円管でリム4が形成されている。
ボス5は、農用車輪1を農業機械に装着するとき、農業機械の車軸端を貫通させるためのものであり、全体として形状が円筒状である。ボス5は、リム4の中心と同心に配置されている。
【0013】
スポーク6は、金属製の円管で形成される。スポーク6,6,6,6は、ボス5から放射状にリム4に向けて延び、一端がボス5に他端がリム4にそれぞれ溶接により固着されている。
補強板7は、板材で形成され、全体として正方形の各辺を内方に湾曲する円弧に置き換えた形状を有する。補強板7は、正方形の対角線上に断面が円弧状の凹みである対角溝11,11が設けられている。対角溝11は、補強板7の一方の面においては溝であり、他方の面においては凸状の帯である。補強板7の一方の面を「おもて面12」という。対角溝11,11の内径は、スポーク6の外径に等しいかまたはこれよりも若干大きい。
【0014】
補強板7は、その中心にボス5の外径と等しいまたはこれより大きな径を有するボス孔13が貫通する。ボス孔13は、対角溝11,11を2分している。
補強板7は、ボス孔13にボス5を貫通させ、対角溝11,11にスポーク6,6,6,6が入れられて、溶接によりスポーク6,6,6,6に固着されている。
ボス補強パッチ8は、形状が直角三角形の板材で形成される。ボス補強パッチ8は、直角をなす2辺の一方がスポーク6の外周の母線に沿って、2辺の他方がボス5の外周の母線に沿って、これらに溶接で固着されている。ボス補強パッチ8は、スポーク6を補強するリブの役割を果たす。
【0015】
弾性輪体3は、リム4にゴム等の弾性材料を被覆して焼き付け(加硫接着)することにより形成される。弾性輪体3は、本体17、ラグ18,…,18および羽根板(羽根ラグ)19,…,19を有する。
ラグ18は、本体17から径方向外方に突出し、等間隔に配された複数が1ブロックとなっている。
【0016】
羽根板19は、複数のラグ18,18,18からなる各ブロックの間に配され、本体17から車軸方向の両側に突出している。
上記のように形成された農用車輪1は、ボス補強パッチ8,8,8,8がボス5とスポーク6,6,6,6とに固着されていることにより、スポーク6に加わる外力によってボス5とスポーク6との溶接部分に生ずる応力を減少させ、この溶接部分の破損が防止される。
【0017】
次に、農用車輪1が軸方向の力を受けたときのボス補強パッチ8によるスポーク6とボス5との溶接部分に生ずる応力低減について説明する。材料に生ずる応力値と歪みの大きさとは比例することから、スポーク6に生ずる応力の大きさ(相対値)を、歪みの大きさを測定して代用した。
図4は歪みの大きさを求めたときの力を加えた場所および方向を示す図である。図4において力(荷重)の方向を矢印で示す。
【0018】
歪みの測定は、実質的に荷重を支える鉄車2を対象とし、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(図4における部分M1)およびボス補強パッチ8の径方向外方端直近(図4における部分M2)に取り付けた歪みゲージにより行った。
使用した歪みゲージは、金属材料の電気抵抗値が歪みにより変化することを利用し、抵抗の変化をホイートストンブリッジ回路により電圧の変化に換えて歪みの程度を測定するもので、公知の技術である。
【0019】
以下、「スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端」を「パッチ接合端」といい、スポーク6における「パッチ接合端」の直近を「パッチ接合端直近」という。
図4における条件1は、リム4とスポーク6との交点に、軸方向におけるボス補強パッチ8とは反対の側から外力を加えた場合を示す。図4における条件2は、リム4における、2本のスポーク6,6がそれぞれリム4と交差する点の中間点に、条件1と同じ方向からの外力を加えた場合を示す。なお、例えば「リム4とスポーク6との交点」等における「点」とは、リム4の軸心とスポーク6の軸心とが交わる点であり、「中間点」とは、リム4の軸心上における該当する点をいう。
【0020】
鉄車2は、ボス5を固定して移動しないものとし、加えた外力の大きさは250kgfである。
測定に使用した鉄車2の共通する条件として、リム4は外径を34mm、肉厚を2.3mmおよび軸心基準の径を859mmに、スポーク6は外径を31.8mm、肉厚を3.2mmおよび長さSLを384mmに、ボス5は外径を57mmに、ボス補強パッチ8は高さH(ボス5と接合された長さ、図4参照)を20mmに統一した。また、補強板7は、対角方向(対角溝11方向)の大きさが640mmであり、90度の間隔を有する対角溝11,11間の内方に湾曲する円弧状の端縁の曲率半径は300mmである。
【0021】
以上の条件により、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近およびボス補強パッチ8の径方向外方端直近の歪みを計測した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1における「スポーク比」は、スポーク6の長さSLに対するボス補強パッチ8の同方向(スポーク6長手方向)長さPLの割合(PL÷SL)である。以下、この割合を「スポーク比」という。なお、スポークの長さSLは、その両端では端縁が平面上に存在し得ないため、外周の母線の最短長さを採用した。
表1における補強板7の「抱き込み」欄は、図3を参照して、スポーク6を収容する対角溝11の深さDhである。
【0024】
表1の「ボス部直近」とは、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(図4の部分M1)をいい、「ボスに最遠」とは、パッチ接合端直近(スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端直近(図4の部分M2))をいう。
表1の「歪み比」は、ボス補強パッチ8を有しない鉄車2におけるスポーク6のボス直近の歪みの大きさを1としたときのこれに対する各歪みの大きさの割合である。
【0025】
表1における、ボス補強パッチ8の厚み、補強板7の厚みおよび補強板7の抱き込み(深さ)が共通するデータにより、スポーク比と歪み比との関係を調べた結果を、条件1について図5〜図8に、および条件2について図9〜図12に示す。
ボス5とスポーク6との接合部分からスポーク外方に伸びたボス補強パッチ8を設けた場合、図5〜図8から、スポーク6のボス5に接合される部分に生ずる歪みが激減することがわかる。また、図5〜図8から、条件1および条件2のいずれにおいてもスポーク比を5%以上とすれば、ボス5とスポーク6との溶接箇所に生ずる歪み、つまり応力が大きく減少することがわかる。なお、スポーク比の上限は、鉄車2の重量、コスト等を考慮して100%以下の任意に設定可能である。
【0026】
一方で、ボス5とスポーク6との接合部分からスポーク外方に伸びたボス補強パッチ8を設けた場合、その構造から、条件1または条件2のような外力が加わると、スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端には、外力およびボス補強パッチ8からの反力によって大きな圧縮応力(歪み)が生ずる。図9〜図12は、この大きな圧縮応力が生ずる部分の直近(M2)に生ずる歪みと、同一条件下でスポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みとの比を、スポーク比との関係で示すものである。
【0027】
図9〜図12から、パッチ接合端直近に生ずる歪みは、条件1および条件2のいずれもスポーク比が10%未満ではスポーク比の増加によりゆるやかに減少し、スポーク比が10%以上になると歪みの減少の程度が増加する。また、より大きな歪みが生ずる条件1については、スポーク比が15〜19%以上で、パッチ接合端直近に生ずる歪みが、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みよりも小さくなる。
【0028】
パッチ接合端直近に生ずる歪みがスポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みよりも小さくなるスポーク比は、補強板7の厚み、補強板7の抱き込み深さおよびボス補強パッチ8の厚み等の条件が若干影響すると考えられる。そこで、スポーク比と歪み比との関係にこれらの条件による一定の幅があるとすると、図9〜図12からいずれもいずれもスポーク比が17%以上になると、歪み比が95%〜104%以下となる。
【0029】
以上をまとめると、スポーク比を5%以上とすることにより、ボス5とスポーク6との溶接箇所が損傷しにくい農用車輪1を実現することができる。
また、スポーク比を10%以上とすれば、ボス補強パッチ8を設けたことによるパッチ接合端に生ずる応力を効果的に減少させることができる。
パッチ接合端に生ずる大きな応力(歪み)は、ボス5とスポーク6との溶接箇所の損傷防止効果と引き換えに生ずるものである。スポーク比を17%以上とすることにより、パッチ接合端に生ずる応力を効果的に減少させることができ、かつパッチ接合端に生ずる応力を、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる応力並みに抑えることができる。
【0030】
図13は種々の形状のボス補強パッチ8B,8C,8D,8Eを示す図である。
図130(a)は、その形状が上底および下底と他の1つの辺とが直交する台形のボス補強パッチ8Bであり、下底(平行な1組の辺のうち長い辺)がボス5に、上底および下底に直交する辺がスポーク6に溶接により固定される。
図13(b)のボス補強パッチ8Cは、(a)と同様にその形状が上底および下底と他の1つの辺とが直交する台形である。ただし、下底(平行な1組の辺のうち長い辺)は台形の高さよりも長く、下底がスポーク6に、上底および下底に直交する辺がボス5に溶接により固定される。
【0031】
図13(c)のボス補強パッチ8Dは、(a)におけるボス5およびスポーク6のいずれにも溶接されない斜辺を、内方に湾曲する曲線に置き換えた形状である。
図13(d)のボス補強パッチ8Eは、図13(c)のボス補強パッチ8Dにおける内方に湾曲する曲線を外方に湾曲する曲線に置き換えた形状である。
ボス補強パッチ8B,8C,8D,8Eのいずれも、上述したボス補強パッチ8と同様に、スポーク6とボス5との溶接による接合部分の応力を低減させることができる。また、そのスポーク比も、ボス補強パッチ8と同様に略5%以上でその顕著な効果を期待できる。
【0032】
ボス補強パッチは、ボス5およびスポーク6の溶接部分に施工でき、これらをリブのように結合するものであれば、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eの形状に限定されない。
ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは、スポーク6の肉厚を増加させまたはスポーク6の材質を高強度のものに変更することなく、および他の補助鋼材を追加溶接することなく、スポーク6のボス5溶接部近辺での損傷を防ぐことができ、低コストで農用車輪1の耐久性を向上させることができる。
【0033】
上述の実施形態において、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは、直交する2つの端縁を有すれば、板状でなく、他の形態であってもよい。また、鉄車2を4つのスポークではなく、例えば120度間隔の3つのスポーク、または72度間隔の5つのスポークを有するものとしてもよい。そのような鉄車においても、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは鉄車2におけると同様に、ボス5とスポーク6との溶接部分に生ずる応力を低下させ、この部分の破損を防止することができる。
【0034】
ボス5およびスポーク6とボス補強パッチ8,8B〜8Eにおける直交する2つの辺(端縁)の互いに異なる一方との溶接は、それぞれの辺全長に渡り行っても、また強度が確保できる範囲で辺(端縁)の一部について行ってもよい。
その他、農用車輪1、および農用車輪1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、軟弱地盤を走行する田植機等の農業機械に装着される農用車輪に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 農用車輪
4 リム
5 ボス
6 スポーク
8,8B〜8E ボス補強パッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤を走行する田植機等の農業機械に装着される農用車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
水田および畑等で使用される農業機械に装着される農用車輪は、通常、金属製の円管が円環状に曲げられて形成されたリム、リムの中心に配されたボス、およびボスとリムとを連結する径方向に伸びた複数のスポークによって農業機械からの加重を支える。農用車輪は、このような構造によって、車軸から農用車輪に加えられる径方向の力、即ちスポークに加わる圧縮力に対して、十分な強度を有する。
【0003】
一方、農用車輪における円管のスポークは、車軸方向からの外力により生ずる曲げモーメントに対しては、必ずしも十分な曲げ強度を有しない。そこで、車軸方向の外力による曲げモーメントに対して強度を高めるために、楕円形の管をその断面形状の長径が車軸方向となるようにしてスポークを形成する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−248713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されたように、スポークを楕円管で形成すると、車軸方向の外力による曲げモーメントに対する強度を高めることができ、スポークの変形を防止することができる。
しかし、これとは別に、スポークに加えられる外力により、スポークとボスとの溶接部分に応力が集中し、大きな段差を乗り越える時の衝撃等によって溶接部分が損傷(破断)し易い。また、繰り返し外力が加えられることにより溶接部分が疲労し、割れから破断が生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、スポークとボスとの溶接部分が損傷し難い農用車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る農用車輪は、円環状のリムと、一端が前記リムに接続され他端が前記リムの中心に向けて延びた管状の複数のスポークと、前記リムの内側において前記スポークの前記他端を接続するボスと、直交する2つの端縁を有するボス補強パッチと、を有し、前記ボス補強パッチは、直交する前記端縁の一方を前記ボスの軸心方向に一致させて前記ボスの外周に固着され、直交する前記端縁の他方を前記スポークの軸心方向に一致させて前記スポークの外周に固着される。
【0008】
好ましくは、前記ボス補強パッチは、前記スポークに固着された前記端縁の全長が前記スポークの長さの5%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、スポークとボスとの溶接部分が損傷し難い農用車輪を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は農用車輪における鉄車の正面図である。
【図2】図2は図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図3は図1のB−B矢視断面図である。
【図4】図4は歪みの大きさを求めたときの力を加えた場所および方向等を示す図である。
【図5】図5はスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図6】図6は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図7】図7は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図8】図8は他の条件でのスポーク比とボス側スポーク端における歪み比との関係を示す図である。
【図9】図9はスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図10】図10は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図11】図11は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図12】図12は他の条件でのスポーク比とパッチ接合端直近における歪み比との関係を示す図である。
【図13】図13は種々の形状のボス補強パッチを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は農用車輪1における鉄車2の正面図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3は図1のB−B矢視断面図である。
農用車輪1は、鉄車2鉄車2および弾性輪体3からなる。
鉄車2は、リム4、ボス5、スポーク6,6,6,6および補強板7、ボス補強パッチ8,8,8,8等からなる。
【0012】
リム4は、金属製の管が円環状に曲げられ、両端が溶接等により接続されたものである。農用車輪1は、円管でリム4が形成されている。
ボス5は、農用車輪1を農業機械に装着するとき、農業機械の車軸端を貫通させるためのものであり、全体として形状が円筒状である。ボス5は、リム4の中心と同心に配置されている。
【0013】
スポーク6は、金属製の円管で形成される。スポーク6,6,6,6は、ボス5から放射状にリム4に向けて延び、一端がボス5に他端がリム4にそれぞれ溶接により固着されている。
補強板7は、板材で形成され、全体として正方形の各辺を内方に湾曲する円弧に置き換えた形状を有する。補強板7は、正方形の対角線上に断面が円弧状の凹みである対角溝11,11が設けられている。対角溝11は、補強板7の一方の面においては溝であり、他方の面においては凸状の帯である。補強板7の一方の面を「おもて面12」という。対角溝11,11の内径は、スポーク6の外径に等しいかまたはこれよりも若干大きい。
【0014】
補強板7は、その中心にボス5の外径と等しいまたはこれより大きな径を有するボス孔13が貫通する。ボス孔13は、対角溝11,11を2分している。
補強板7は、ボス孔13にボス5を貫通させ、対角溝11,11にスポーク6,6,6,6が入れられて、溶接によりスポーク6,6,6,6に固着されている。
ボス補強パッチ8は、形状が直角三角形の板材で形成される。ボス補強パッチ8は、直角をなす2辺の一方がスポーク6の外周の母線に沿って、2辺の他方がボス5の外周の母線に沿って、これらに溶接で固着されている。ボス補強パッチ8は、スポーク6を補強するリブの役割を果たす。
【0015】
弾性輪体3は、リム4にゴム等の弾性材料を被覆して焼き付け(加硫接着)することにより形成される。弾性輪体3は、本体17、ラグ18,…,18および羽根板(羽根ラグ)19,…,19を有する。
ラグ18は、本体17から径方向外方に突出し、等間隔に配された複数が1ブロックとなっている。
【0016】
羽根板19は、複数のラグ18,18,18からなる各ブロックの間に配され、本体17から車軸方向の両側に突出している。
上記のように形成された農用車輪1は、ボス補強パッチ8,8,8,8がボス5とスポーク6,6,6,6とに固着されていることにより、スポーク6に加わる外力によってボス5とスポーク6との溶接部分に生ずる応力を減少させ、この溶接部分の破損が防止される。
【0017】
次に、農用車輪1が軸方向の力を受けたときのボス補強パッチ8によるスポーク6とボス5との溶接部分に生ずる応力低減について説明する。材料に生ずる応力値と歪みの大きさとは比例することから、スポーク6に生ずる応力の大きさ(相対値)を、歪みの大きさを測定して代用した。
図4は歪みの大きさを求めたときの力を加えた場所および方向を示す図である。図4において力(荷重)の方向を矢印で示す。
【0018】
歪みの測定は、実質的に荷重を支える鉄車2を対象とし、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(図4における部分M1)およびボス補強パッチ8の径方向外方端直近(図4における部分M2)に取り付けた歪みゲージにより行った。
使用した歪みゲージは、金属材料の電気抵抗値が歪みにより変化することを利用し、抵抗の変化をホイートストンブリッジ回路により電圧の変化に換えて歪みの程度を測定するもので、公知の技術である。
【0019】
以下、「スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端」を「パッチ接合端」といい、スポーク6における「パッチ接合端」の直近を「パッチ接合端直近」という。
図4における条件1は、リム4とスポーク6との交点に、軸方向におけるボス補強パッチ8とは反対の側から外力を加えた場合を示す。図4における条件2は、リム4における、2本のスポーク6,6がそれぞれリム4と交差する点の中間点に、条件1と同じ方向からの外力を加えた場合を示す。なお、例えば「リム4とスポーク6との交点」等における「点」とは、リム4の軸心とスポーク6の軸心とが交わる点であり、「中間点」とは、リム4の軸心上における該当する点をいう。
【0020】
鉄車2は、ボス5を固定して移動しないものとし、加えた外力の大きさは250kgfである。
測定に使用した鉄車2の共通する条件として、リム4は外径を34mm、肉厚を2.3mmおよび軸心基準の径を859mmに、スポーク6は外径を31.8mm、肉厚を3.2mmおよび長さSLを384mmに、ボス5は外径を57mmに、ボス補強パッチ8は高さH(ボス5と接合された長さ、図4参照)を20mmに統一した。また、補強板7は、対角方向(対角溝11方向)の大きさが640mmであり、90度の間隔を有する対角溝11,11間の内方に湾曲する円弧状の端縁の曲率半径は300mmである。
【0021】
以上の条件により、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近およびボス補強パッチ8の径方向外方端直近の歪みを計測した結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1における「スポーク比」は、スポーク6の長さSLに対するボス補強パッチ8の同方向(スポーク6長手方向)長さPLの割合(PL÷SL)である。以下、この割合を「スポーク比」という。なお、スポークの長さSLは、その両端では端縁が平面上に存在し得ないため、外周の母線の最短長さを採用した。
表1における補強板7の「抱き込み」欄は、図3を参照して、スポーク6を収容する対角溝11の深さDhである。
【0024】
表1の「ボス部直近」とは、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(図4の部分M1)をいい、「ボスに最遠」とは、パッチ接合端直近(スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端直近(図4の部分M2))をいう。
表1の「歪み比」は、ボス補強パッチ8を有しない鉄車2におけるスポーク6のボス直近の歪みの大きさを1としたときのこれに対する各歪みの大きさの割合である。
【0025】
表1における、ボス補強パッチ8の厚み、補強板7の厚みおよび補強板7の抱き込み(深さ)が共通するデータにより、スポーク比と歪み比との関係を調べた結果を、条件1について図5〜図8に、および条件2について図9〜図12に示す。
ボス5とスポーク6との接合部分からスポーク外方に伸びたボス補強パッチ8を設けた場合、図5〜図8から、スポーク6のボス5に接合される部分に生ずる歪みが激減することがわかる。また、図5〜図8から、条件1および条件2のいずれにおいてもスポーク比を5%以上とすれば、ボス5とスポーク6との溶接箇所に生ずる歪み、つまり応力が大きく減少することがわかる。なお、スポーク比の上限は、鉄車2の重量、コスト等を考慮して100%以下の任意に設定可能である。
【0026】
一方で、ボス5とスポーク6との接合部分からスポーク外方に伸びたボス補強パッチ8を設けた場合、その構造から、条件1または条件2のような外力が加わると、スポーク6におけるボス補強パッチ8の径方向外方端には、外力およびボス補強パッチ8からの反力によって大きな圧縮応力(歪み)が生ずる。図9〜図12は、この大きな圧縮応力が生ずる部分の直近(M2)に生ずる歪みと、同一条件下でスポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みとの比を、スポーク比との関係で示すものである。
【0027】
図9〜図12から、パッチ接合端直近に生ずる歪みは、条件1および条件2のいずれもスポーク比が10%未満ではスポーク比の増加によりゆるやかに減少し、スポーク比が10%以上になると歪みの減少の程度が増加する。また、より大きな歪みが生ずる条件1については、スポーク比が15〜19%以上で、パッチ接合端直近に生ずる歪みが、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みよりも小さくなる。
【0028】
パッチ接合端直近に生ずる歪みがスポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる歪みよりも小さくなるスポーク比は、補強板7の厚み、補強板7の抱き込み深さおよびボス補強パッチ8の厚み等の条件が若干影響すると考えられる。そこで、スポーク比と歪み比との関係にこれらの条件による一定の幅があるとすると、図9〜図12からいずれもいずれもスポーク比が17%以上になると、歪み比が95%〜104%以下となる。
【0029】
以上をまとめると、スポーク比を5%以上とすることにより、ボス5とスポーク6との溶接箇所が損傷しにくい農用車輪1を実現することができる。
また、スポーク比を10%以上とすれば、ボス補強パッチ8を設けたことによるパッチ接合端に生ずる応力を効果的に減少させることができる。
パッチ接合端に生ずる大きな応力(歪み)は、ボス5とスポーク6との溶接箇所の損傷防止効果と引き換えに生ずるものである。スポーク比を17%以上とすることにより、パッチ接合端に生ずる応力を効果的に減少させることができ、かつパッチ接合端に生ずる応力を、スポーク6におけるボス5との溶接部分直近(M1)に生ずる応力並みに抑えることができる。
【0030】
図13は種々の形状のボス補強パッチ8B,8C,8D,8Eを示す図である。
図130(a)は、その形状が上底および下底と他の1つの辺とが直交する台形のボス補強パッチ8Bであり、下底(平行な1組の辺のうち長い辺)がボス5に、上底および下底に直交する辺がスポーク6に溶接により固定される。
図13(b)のボス補強パッチ8Cは、(a)と同様にその形状が上底および下底と他の1つの辺とが直交する台形である。ただし、下底(平行な1組の辺のうち長い辺)は台形の高さよりも長く、下底がスポーク6に、上底および下底に直交する辺がボス5に溶接により固定される。
【0031】
図13(c)のボス補強パッチ8Dは、(a)におけるボス5およびスポーク6のいずれにも溶接されない斜辺を、内方に湾曲する曲線に置き換えた形状である。
図13(d)のボス補強パッチ8Eは、図13(c)のボス補強パッチ8Dにおける内方に湾曲する曲線を外方に湾曲する曲線に置き換えた形状である。
ボス補強パッチ8B,8C,8D,8Eのいずれも、上述したボス補強パッチ8と同様に、スポーク6とボス5との溶接による接合部分の応力を低減させることができる。また、そのスポーク比も、ボス補強パッチ8と同様に略5%以上でその顕著な効果を期待できる。
【0032】
ボス補強パッチは、ボス5およびスポーク6の溶接部分に施工でき、これらをリブのように結合するものであれば、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eの形状に限定されない。
ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは、スポーク6の肉厚を増加させまたはスポーク6の材質を高強度のものに変更することなく、および他の補助鋼材を追加溶接することなく、スポーク6のボス5溶接部近辺での損傷を防ぐことができ、低コストで農用車輪1の耐久性を向上させることができる。
【0033】
上述の実施形態において、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは、直交する2つの端縁を有すれば、板状でなく、他の形態であってもよい。また、鉄車2を4つのスポークではなく、例えば120度間隔の3つのスポーク、または72度間隔の5つのスポークを有するものとしてもよい。そのような鉄車においても、ボス補強パッチ8,8B,8C,8D,8Eは鉄車2におけると同様に、ボス5とスポーク6との溶接部分に生ずる応力を低下させ、この部分の破損を防止することができる。
【0034】
ボス5およびスポーク6とボス補強パッチ8,8B〜8Eにおける直交する2つの辺(端縁)の互いに異なる一方との溶接は、それぞれの辺全長に渡り行っても、また強度が確保できる範囲で辺(端縁)の一部について行ってもよい。
その他、農用車輪1、および農用車輪1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、軟弱地盤を走行する田植機等の農業機械に装着される農用車輪に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 農用車輪
4 リム
5 ボス
6 スポーク
8,8B〜8E ボス補強パッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のリムと、
一端が前記リムに接続され他端が前記リムの中心に向けて延びた管状の複数のスポークと、
前記リムの内側において前記スポークの前記他端を接続するボスと、
直交する2つの端縁を有するボス補強パッチと、を有し、
前記ボス補強パッチは、
直交する前記端縁の一方を前記ボスの軸心方向に一致させて前記ボスの外周に固着され、
直交する前記端縁の他方を前記スポークの軸心方向に一致させて前記スポークの外周に固着された
ことを特徴とする農用車輪。
【請求項2】
前記ボス補強パッチは、
前記スポークに固着された前記端縁の全長が前記スポークの長さの5%以上である
請求項1に記載の農用車輪。
【請求項1】
円環状のリムと、
一端が前記リムに接続され他端が前記リムの中心に向けて延びた管状の複数のスポークと、
前記リムの内側において前記スポークの前記他端を接続するボスと、
直交する2つの端縁を有するボス補強パッチと、を有し、
前記ボス補強パッチは、
直交する前記端縁の一方を前記ボスの軸心方向に一致させて前記ボスの外周に固着され、
直交する前記端縁の他方を前記スポークの軸心方向に一致させて前記スポークの外周に固着された
ことを特徴とする農用車輪。
【請求項2】
前記ボス補強パッチは、
前記スポークに固着された前記端縁の全長が前記スポークの長さの5%以上である
請求項1に記載の農用車輪。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−11983(P2012−11983A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153339(P2010−153339)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
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