近接場光プローブ
【課題】大強度近接場光を生成するために、複雑な構造のプローブを用意することなく、また、直線偏光した光が利用できる、低コスト、簡易構造の近接場光プローブを提供することを目的とする。
【解決手段】誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から直線偏光した光を入射させてプローブ先端に、大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、(a)円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていること、(b)入射光を斜め方向から入れること、(c)底面の一部を遮光したこと、(d)プラズモン活性物質が非対称にコーティングされていること、(e)誘電体基盤の上に円錐体・多角錘体構造物のプローブ先端が載るように、前記円錐体・多角錘体構造物の一部が誘電体基盤と一体となって形成されていること、のうち一つ以上を特徴とする。
【解決手段】誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から直線偏光した光を入射させてプローブ先端に、大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、(a)円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていること、(b)入射光を斜め方向から入れること、(c)底面の一部を遮光したこと、(d)プラズモン活性物質が非対称にコーティングされていること、(e)誘電体基盤の上に円錐体・多角錘体構造物のプローブ先端が載るように、前記円錐体・多角錘体構造物の一部が誘電体基盤と一体となって形成されていること、のうち一つ以上を特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先鋭化したプローブの先端に励起光を照射して表面プラズモン共鳴によりプローブ先端近傍に近接場光を発生させる近接場光プローブに関する。また、本発明は、近接場光の強度を効果的に増強させる方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態を指す。電荷の振動にともなって電磁場の振動が誘起され、電磁場の振動は、電荷の振動に影響するので、両者の振動が結合した系をつくる。固体表面では、固体中のプラズモンと異なり表面での境界条件を満たす別の集団振動が存在する(塚田捷:表面の電子励起(丸善,1996))。これを表面プラズモンと呼ぶ。中でも金コロイドなどの金属ナノ粒子では、可視〜近赤外域の光電場とプラズモンがカップリングして光吸収が起こり、鮮やかな色調を呈する。この現象が表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)であり、局所的に著しく増強された電場も発生する。つまり、光エネルギーが表面プラズモンに変換されることにより、金属ナノ粒子表面に光のエネルギーが蓄えられるばかりでなく、光の回折限界より小さな領域での光制御が可能となることを意味する。また、粒子形や周囲媒質の誘電率に依存した共鳴波長がある。このような金属ナノ粒子と光との相互作用が近年の光科学技術の分野で注目されているのである(ウィキペディア フリー百科事典)。
【0003】
ところで、電磁波で表面プラズモンを励起するためには、電磁波の位相速度が表面プラズモンの位相速度に一致しなければならない。しかし、通常の媒質を伝搬する電磁波を表面に入射しても、両者の位相速度が一致するような条件は得られない。そこで、電磁波が境界面で全反射する時に発生するエバネッセント波が用いられている。屈折率の高い媒質から低い媒質に電磁波が入射する場合、入射角をある臨界角以上にすると電磁波は全反射するが、その際には波数の境界面に対する垂直成分が虚数になっている為に1波長程度まで低媒質側の内部に電磁波が浸透することになる。前記条件において媒質内部に浸透した電磁波はエバネッセント場と呼ばれ、そこから放出される電磁波をエバネッセント波という。このエバネッセント波を用いれば、その位相速度を表面プラズモンの位相速度に一致させることができ、表面プラズモンを共鳴的に励起することができる(永島圭介:表面プラズモンの基礎と応用(J.Plasma Fusion Res.Vol.84,No.1 2008))。
【0004】
このような表面プラズモンを利用して金属円錐体(以下、「プローブ」という)先端に大強度でナノメートルサイズの広がりを有する近接場光を生成することができる。近接場光は走査型近接場光顕微鏡(Scanning Near field Optical Microscopy;以下、「SNOM」という)、ナノ領域光センサー、DVD光ヘッドなど多くの応用が期待されている。例えばSNOMによって、光の波長よりも小さいものを光でみることができる。試料近傍に近接場光を発生させ、プローブで操作することにより、画像化することができるというもので、光学分解能の限界を超えた光学的観察が可能となるため、真空中での観測や試料への金属箔蒸着という処理を必要とせず、不導体でも大気中で非破壊的に観察することができるのである。また、近接場光をDVD光ヘッドに応用すれば、記憶容量を10000倍に増大できる可能性がある。
【0005】
表面プラズモンを利用してプローブ先端にナノメートルサイズの微小スポットサイズを持つ大強度の近接場光を生成する方法としては、様々な提案がなされている。例えば、多角錘の形状をした光透過性のある突起からなり、側面のうちの1面が金属の膜で覆われ、かつその他の面が先端の光波長以下の領域を除いて金属膜で覆われたことを特徴とする近接場光プローブ(特許文献1)、先鋭化されたプローブの最先端面近傍に金属領域を有し、金属領域は最先端面に露出するか、金属領域の外側に励起光波長の1/20以下の膜厚の誘電体薄層が形成された近接場光プローブ(特許文献2)、突起部の外面を金属被膜で覆われ、頂点部は金属被膜が形成されず開口部となっている近接場光プローブ(特許文献3)、金属ピラミッド構造に頂部からI字型の幅狭部を有する溝を形成したプローブ(特許文献4)などがある。これらのプローブについては非常に微小な領域において金属被覆域と金属が被覆されていない領域とを作り分ける必要があり、製造方法が難しいという課題があった。
【0006】
また、現在有望と考えられているプローブは、中心軸回りに回転対称を持つ誘電体円錐の表面に金のようなプラズモン活性物質をコーティングしたものがある。この構造により誘電体内部に入射した光の側面での全反射を利用して、コーティングした金薄膜に表面プラズモンが効率よく励起できるからである。しかし、このプローブ先端に微小(ナノメートルサイズ)スポットサイズを持つ大強度近接場を生成するためには、入射光として半径方向に偏光した特殊な光ビームを用いる必要があり、直線偏光したレーザー光源を直接使用することはできなかった。従って、直線偏光から半径方向偏光に変換するための構成を必要としていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−221478号公報
【特許文献2】特開2005−195500号公報
【特許文献3】特開2003−14608号公報
【特許文献4】特開2004−109965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、微小スポットサイズを持つ大強度近接場光を生成するために、複雑な構造のプローブを用意することなく、また、直線偏光した光が利用できる、低コスト、簡易構造の近接場光プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、従来のプローブが対称性を維持するようにして用いられている点に着目し、これを敢えて非対称性にすることによって、直線偏光した光が利用できることを見いだした。
【0010】
すなわち、本発明は、誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から直線偏光した光を入射させてプローブ先端に、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていることを特徴とする。従来の円錐誘電体に金属薄膜をコーティングした近接場光プローブは、底面の中心軸上に円錐の頂点があった。そのため特殊な光ビームを使用する必要があったが、この頂点位置を敢えてずらすことにより直線偏光した光を利用することができるようになった。具体的には頂点位置が底面の中心から、垂直(中心軸)方向に対してほぼ10°程度の傾きを有する位置にあることが好ましい。
【0011】
また、前記直線偏光した光を利用する場合でも、光が円錐体・多角錘体の底面に対して垂直方向と所定の角度を持って入射するように構成することによって、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。直線偏光した光をそのまま従来の円錐体に入射させるとプローブ先端部分でz方向の電界がキャンセルされる。そこで、具体的には底面の垂直方向に対して約25°の角度で斜めに入射させればよい。
【0012】
さらに、円錐体・多角錘体の底面の一部を遮光して、直線偏光した光の入射を一部遮ることによっても微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。遮光部分は例えば円錐体底面の場合、半円状に遮光することが可能である。
【0013】
また、回転対称を持つ円錐体・多角錘体であっても、側面にプラズモン活性物質を非対称な分布にコーティングすれば、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。例えば円錐体側面の一部にコーティングをしなければ、非対称なコーティング分布を作成することができる。
【0014】
その他、円錐体・多角錘体の一部を、それら先端が誘電体基盤上に存在するように作成し、その円錐体・多角錘体全体・一部にプラズモン活性物質をコーティングすれば、微小スポットサイズ大強度電界べクトルを持つ近接場光を誘電体基盤上に生成することができる。例えば円錐体半分を誘電体基盤上に作成し、円錐部にプラズモン活性物質をコーティングすれば、円錐体頂点と誘電体基盤が交差する基盤上に、微小スポットサイズ大強度電界べクトルを持つ近接場光を生成することができる。このようにすれば、誘電体基盤上の指定された位置に被測定物を置くことができ、プローブ・非測定物体間の距離を容易に制御することができる。
【0015】
なお、上記のうち何れか二つ以上を組み合わせてプローブを構成することも可能である。例えば、円錐体のプローブについて底面の中心から垂直方向に対してほぼ10°程度の傾きを有する位置に頂点が形成され、そこに底面の垂直方向に対して約15°の角度で斜めに入射させるように構成することもできる。さらに、上記のようなプローブ形状、コーティング分布、入射条件、が非対称であれば、入射波が直線偏光している場合だけでなく、任意の方向に偏光している光に対しても同じ効果を得ることができる。すなわち任意の偏光に対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプローブは、簡易な構成なので低コストかつ複雑な設備を必要とすることなく製造することができる。また、直線偏光した光を利用できるので、例えばプローブを備える走査型近接場光顕微鏡の装置全体の構成も簡略化できる。しかも、高効率で微小スポットサイズを持つ大強度の近接場光を発現するプローブが提供できるため近接場光を応用した各種検査機器、記録機器の新たな用途への展開がより加速される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、従来のプローブの断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図2】図2は、偏光した光ビームの電界ベクトル分布を示す図である。
【図3】図3は、本発明のプローブの一実施形態を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のプローブ形状の設計について模式的に示す図である。
【図5】図5は、図3のプローブの断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図6】図6は、図3の実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と角度Aとの関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図8】図8は、図6のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図9】図9は、図6の実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と入射角度Bとの関係を示す図である。
【図10】図10は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図11】図11は、図10のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図12】図12は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図13】図13は、図12のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図14】図14は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図15】図15は、図14のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図16】図16は、本発明のプローブを走査型近接場光顕微鏡に利用した状態を示す概念図である。
【図17】図17は、本発明のプローブを光学型記録再生ヘッドに利用した状態を示す概念図である。
【図18】図18は、本発明の実施例1および比較例における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【図19】図19は、本発明の実施例2における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【図20】図20は、本発明の実施例3における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のプローブについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1には底面の中心軸(Z軸)の回りに回転対称を持つ従来型の円錐体のプローブ10が示されている。このプローブの断面形状は二等辺三角形であり、底辺方向をX軸、高さ方向をZ軸とすると、図1ではX軸方向に直線偏光した光(入射光)20がZ軸方向に誘電体30に入射している状態、すなわち入射光の進行方向が底面に対して垂直な状態を示している。プローブは二等辺三角形の斜辺に金属薄膜40がコーティングされているので、入射光は全反射し、金属薄膜(斜辺)には矢印で示す表面プラズモン50が励起されている。図1において表面プラズモンは左側面金属薄膜と右側面金属薄膜で励起され、電界ベクトルは同じ大きさと同じ方向を持っている。この表面プラズモンは、プローブの左側面と右側面とで同じ距離を伝搬するので、表面プラズモンがプローブ先端に到達するとプローブ構造の対称性から、Z軸方向の電界ベクトルは、プローブ先端で大きさが同じで反対方向になるため互いに打ち消しあうこととなる。従って、プローブ先端にはZ方向電界ベクトルを持つ大強度近接場光は生成されないのである。
【0019】
図1に示す従来のプローブにZ軸方向電界ベクトルを持つ大強度近接場光を生成するためには、プローブの底面における左側面金属薄膜と右側面金属薄膜のそれに励起される表面プラズモンの電界ベクトルは反対方向を持たせる必要がある。そのため入射光は図2(a)で示すような半径方向に偏光した光ビームという特殊なものでなければならない。つまり、図2(b)に示すような直線偏光した光ビームを入射させても、前記したようにプローブの先端でZ方向の電界ベクトルが互いに打ち消し有ってしまうのである。(なお、図に示す直線矢印は電界ベクトルを模式的に表したものである。)
【0020】
このように通常の(図2(b)に示す)レーザー光源からでた直線偏光した光をそのまま利用することはできず、さらに(図2(a)に示す)ビーム中心とプローブ中心軸(Z軸)との位置合わせが必要のためコストが掛かってしまうという課題があったのである。
【0021】
そこで、本発明では、図3に示すようにプローブ11に対称性を持たせない形状を提案した。このプローブ11は、誘電体基盤32の上に底面の中心軸回りに非対称な円錐体誘電体構造を作成しその表面にプラズモン活性媒質(例えば金などの金属)をコーティングを施した構造である。そして誘電体31の下方からプローブ内部に直線偏光した光を入射する。
【0022】
プローブ11は、例えば以下のようにして製造することができる。図3に示すようなプローブ形状を成形するための凹部を有する金型に、誘電体を溶融状態で流し込み、冷却する。固化した誘電体を金型から取り出して、表面にプラズモン活性物質をコーティングする。このとき、プローブ先端を先鋭化するために必要ならば電子ビーム、イオンビームなどで尖らせれば良い。前記誘電体としてはガラス、プラスチック、透明半導体などが挙げられ、好ましくはガラスである。また、プラズモン活性物質としては金、銀、銅、アルミニウム、プラチナ、パラジウムなどの金属が用いられる。また、これらの活性物質は例えば、スパッタ、蒸着、CVD、めっき等の成膜方法によりコーティングすることができる。
【0023】
図4には、図3に示すプローブの底面からZ軸に平行に入射した直線偏光した光が、金属薄膜41をコーティングしたプローブ側面で全反射を起こすようなプローブ形状の設計に関する説明を示している。入射波と反射波のプローブ側面方向の位相速度Vpは図4から、Vp=c÷(n×cosθ)で与えられる(n:プローブ内部のガラスの屈折率、c:光速度、θ:入射方向と円錐体側面とのなす角度)。コーティングの厚みは10〜50nm、プローブの高さは1000〜2000nm、底面の半径は2000〜4000nmとなっている。また、先端15の角度は20〜60°で設計される。
【0024】
プローブ側面にコーティングされた金属薄膜をプローブ先端方向に進む表面プラズモンの位相速度Vplasmonは、真空中の光の速度cよりも小さい。従って、プローブ側面の角度を調整してプローブ側面の一部でVpをVplasmonに合致させることが可能である。VpがVplasmonに合致すると、図5に示すように表面プラズモンを高効率で励起することができる。さらに、円錐体にコーティングされた金属薄膜41と誘電体基盤(図3、32)とのエッジ境界からも表面プラズモンが金属薄膜41に沿って励起される。表面プラズモンは、プローブ側面を先端方向に伝搬するにつれ、伝搬方向に垂直な断面が減少するため、その強度は大きく増強され、プローブ先端に微小スポットサイズを持つ大強度近接場光が生成されるのである。
【0025】
図5にはこのプローブ11に対して、図1に示すのと同様のX軸方向の直線偏光した光20がZ軸方向に誘電体31に入射している状態が断面図で示されている。このプローブは、円錐体の頂点15が底面の中心軸(Z軸)から角度Aだけ図において右側にずれており、三角形の斜辺には金薄膜41がコーティングされ、入射光が全反射して金薄膜周辺に直線矢印で示す表面プラズモン51が励起されている。そしてプローブ左側面と右側面ではプローブ先端までの表面プラズモンの伝搬距離が異なるので、プローブ先端のZ方向電界ベクトルは、右側面を伝搬してきた表面プラズモンと、左側面を伝搬してきた表面プラズモンとで大きさ・方向が異なり図1のように互いに打ち消しあうことはない。従って、プローブ先端において左右側面を伝搬する表面プラズモンのZ方向電界ベクトルを最大かつ同じ向きになるようにプローブ形状を調整すれば、プローブ先端にZ方向電界を持つ微小スポットサイズ大強度近接場光が生成させることができるのである。
【0026】
このプローブ11については、円錐体の場合だけでなく三角錘や四角錐などの多角錘であっても同様に底面の中心軸から頂点位置をずらすことが必要で、より具体的には角度Aとして示すと4〜30°、好ましくは8〜15°であり、最も好ましくは10°である。なお、図6には、プローブ先端の近接場光強度と角度Aとの関係が示されている。
【0027】
次ぎに、プローブが対称性を有している場合でも、入射光を調整して直線偏光した光から微小スポットサイズ大強度近接場光を生成することができるように構成されたプローブについて説明する。図7には、図1にて説明した従来型のプローブ10の底面に垂直方向と有限の角度Bを持って直線偏光した光21を入射するように構成されている。そしてこのような斜め入射の場合にプローブ先端でZ方向電界が増強される状態を模式的に図8に示す。図8に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン52は左側面と右側面で図1のようなZ軸に対する対称性を有さないので、プローブ先端において大強度近接場光を生成することができるのである。
【0028】
図9には、前記実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と入射角度Bとの関係を示す。このときの斜め入射の角度は、より具体的には図7に示す入射角度Bにおいて10〜50°、好ましくは20〜40°であり、最も好ましくは25°である。
【0029】
さらに、前記同様プローブが対称性を有している場合でも、入射光の一部を遮断することによっても大強度近接場光を生成することができる。図10には、入射光20を遮断する不透明材料17がプローブ底面に設けられている。入射光の一部を遮光することによって図1に示されたようなZ方向電界ベクトルが打ち消しあうことなく、プローブ先端に大強度近接場が生成される。その状態を示したのが、図11である。図11に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン53は、図に示す断面においては、左側面と右側面で対称性を有さない。当該断面を90°回転した状態では、図1に示す通りの状況を呈するので、先に例示したプローブよりは近接場光の強度は低下する傾向があるが、従来の対称性プローブのように完全に打ち消しあうことはない。
【0030】
このような遮光の程度については、底面の面積の5〜20%であり、対称性を持って遮光するのではなく、例えば円錐体であれば、遮光部が半円形または扇形になるように光を遮ることが好ましい。
【0031】
前記同様プローブが対称性を有している場合でも、図12のようにプローブ側面にプラズモン活性物質を非対称な分布にコーティングすれば、微小スポットサイズを持つ大強度電界スペクトルを持つ近接場光を生成することができる。その状態を示したのが図13である。図12に示すようにプローブ13は、誘電体円錐30の表面の一部は金属薄膜40がコーティングされていない、すなわち誘電体円錐表面において金属薄膜が非対象にコーティングされている。そうすると図13に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン54は、図に示す断面においては、左側面と右側面で対称性を有さない。したがって、プローブ先端において表面プラズモンは互いに打ち消しあうことなく、大強度近接場光を生成することができるのである。
【0032】
図14は、円錐体プローブの半分14を、その先端が誘電体基盤上33に存在するように作成し、半分に分割した誘電体円錐体34にプラズモン活性物質40をコーティングしたものである。こうすれば、微小スポットサイズ大強度電界強度を持つ近接場光を誘電体基盤上に生成することができる。その様子を示したのが図15である。誘電体基盤33の上に円錐の半分34が作成されており、その表面は金属薄膜40でコーティングされている。誘電体基盤33の表面に置かれた円錐中心軸(Z軸)と角度Cをなすようにして、プローブ底面に光22を入射する。このとき円錐体34の表面にコーティングされた金属薄膜40に沿って表面プラズモン55が励起される。この構造も非対称プローブであり、プローブ先端において表面プラズモンは互いに打ち消しあうことなく、微小スポットサイズ大強度近接場光を生成することができる。図15に示す構造から、誘電体基盤33の所定の位置とプローブ先端との位置関係を明確にすることができるので、非測定物体(例えばDNA構造)を、プローブ先端の微小スポットサイズ大強度近接場光で容易に照射することができる。このように構成することより、非測定物体の一部分だけの光学測定が可能になる。
【0033】
以上の様な本発明のプローブを使用して近接場顕微鏡(図16)および光学型記録再生ヘッド(図17)として構成した場合の簡単な概念図を示す。図16および図17は、図3に示すような頂点位置を偏位させたプローブに対して図7に示すような斜め方向から光を入射させた例であり、本発明においては前記のパターンを、それぞれ組み合わせて使用することも可能である。
【0034】
以下本発明をより具体的に明らかにするために、本発明に係る幾つかの実施例を示す。
【実施例1】
【0035】
図3に示すようなプローブを作成した。プローブの外形は、高さ1870nm、底面の半径1000nm、先端角約30°で、コーティング厚みは約20nmである。また、誘電体としてガラスを使用し、その屈折率は1.5、コーティングしたプラズモン活性物質は金(Au)を使用した。一方、比較として、高さ1870nm、底面の半径1000nm、先端角約32°で作成した他は、対称性を有する図1に示すようなプローブを作成し、それぞれに対して直線偏光をプローブ底面に垂直に入射させた場合の近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を図18に示す。
【0036】
図18(a)は本発明例、図18(b)は比較例である。図において光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように本発明例はプローブ先端大強度の近接場光が発生していることが判る。なお比較例では、入射強度に対してプローブ先端の光強度は約0.5倍なのに対し、本発明例では、プローブ先端の光強度は約1600倍となった。
【実施例2】
【0037】
前記比較例と同様の外形のプローブを作成した。図7に示すように入射光を約25°の傾きでプローブ底面に入射させた場合(図19(a))と、底面の面積が20%となるように図10に示すような半円形状の遮光部をプローブの底面に形成した場合(図19(b))の、近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を示す。
【0038】
図においては前記同様光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように、斜めに入射させた場合および遮光部を形成した場合ともにプローブ先端に、大きな光強度を有する近接場光が形成されている。なお、斜め入射させた場合のプローブ先端の光強度は、入射光の約6300倍であり、遮光部を設けた場合の光強度は、約1962倍であった。
【実施例3】
【0039】
前記比較例と同様の外形のプローブを作成した。図12に示すようにプローブ側面の約30%を金属コーティングをせず、入射光をプローブ底面に入射させた場合(図20(a))と、図14に示すように誘電体基盤上に半分に分割された円錐プローブに金属コーティングを施し、約20°の傾きでプローブ底面に入射させた場合(図20(b))の、近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を示す。
【0040】
図においては前記同様光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように、金属薄膜を非対称にコーティングさせた場合および誘電体基盤上に半分に分割した金属コーティング円錐プローブの場合も、ともにプローブ先端に、微小スポットサイズを持ち大きな光強度を有する近接場光が形成されている。図20(a)の場合プローブ先端の光強度は、入射光の約1494倍であり、図20(b)の場合は876倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の近接場光プローブは、簡易な構造で、容易に製造することができるので、走査型近接場光顕微鏡、ナノ領域光センサー、DVD光ヘッドなど多くの応用が期待される。
【符号の説明】
【0042】
10、11、12、13、14 近接場プローブ
20、21、22 入射光
30、31、34 誘電体(プローブ)
32、33 誘電体(基盤)
40、41 金属薄膜
50、51、52、53、54、55 表面プラズモン
【技術分野】
【0001】
本発明は、先鋭化したプローブの先端に励起光を照射して表面プラズモン共鳴によりプローブ先端近傍に近接場光を発生させる近接場光プローブに関する。また、本発明は、近接場光の強度を効果的に増強させる方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態を指す。電荷の振動にともなって電磁場の振動が誘起され、電磁場の振動は、電荷の振動に影響するので、両者の振動が結合した系をつくる。固体表面では、固体中のプラズモンと異なり表面での境界条件を満たす別の集団振動が存在する(塚田捷:表面の電子励起(丸善,1996))。これを表面プラズモンと呼ぶ。中でも金コロイドなどの金属ナノ粒子では、可視〜近赤外域の光電場とプラズモンがカップリングして光吸収が起こり、鮮やかな色調を呈する。この現象が表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)であり、局所的に著しく増強された電場も発生する。つまり、光エネルギーが表面プラズモンに変換されることにより、金属ナノ粒子表面に光のエネルギーが蓄えられるばかりでなく、光の回折限界より小さな領域での光制御が可能となることを意味する。また、粒子形や周囲媒質の誘電率に依存した共鳴波長がある。このような金属ナノ粒子と光との相互作用が近年の光科学技術の分野で注目されているのである(ウィキペディア フリー百科事典)。
【0003】
ところで、電磁波で表面プラズモンを励起するためには、電磁波の位相速度が表面プラズモンの位相速度に一致しなければならない。しかし、通常の媒質を伝搬する電磁波を表面に入射しても、両者の位相速度が一致するような条件は得られない。そこで、電磁波が境界面で全反射する時に発生するエバネッセント波が用いられている。屈折率の高い媒質から低い媒質に電磁波が入射する場合、入射角をある臨界角以上にすると電磁波は全反射するが、その際には波数の境界面に対する垂直成分が虚数になっている為に1波長程度まで低媒質側の内部に電磁波が浸透することになる。前記条件において媒質内部に浸透した電磁波はエバネッセント場と呼ばれ、そこから放出される電磁波をエバネッセント波という。このエバネッセント波を用いれば、その位相速度を表面プラズモンの位相速度に一致させることができ、表面プラズモンを共鳴的に励起することができる(永島圭介:表面プラズモンの基礎と応用(J.Plasma Fusion Res.Vol.84,No.1 2008))。
【0004】
このような表面プラズモンを利用して金属円錐体(以下、「プローブ」という)先端に大強度でナノメートルサイズの広がりを有する近接場光を生成することができる。近接場光は走査型近接場光顕微鏡(Scanning Near field Optical Microscopy;以下、「SNOM」という)、ナノ領域光センサー、DVD光ヘッドなど多くの応用が期待されている。例えばSNOMによって、光の波長よりも小さいものを光でみることができる。試料近傍に近接場光を発生させ、プローブで操作することにより、画像化することができるというもので、光学分解能の限界を超えた光学的観察が可能となるため、真空中での観測や試料への金属箔蒸着という処理を必要とせず、不導体でも大気中で非破壊的に観察することができるのである。また、近接場光をDVD光ヘッドに応用すれば、記憶容量を10000倍に増大できる可能性がある。
【0005】
表面プラズモンを利用してプローブ先端にナノメートルサイズの微小スポットサイズを持つ大強度の近接場光を生成する方法としては、様々な提案がなされている。例えば、多角錘の形状をした光透過性のある突起からなり、側面のうちの1面が金属の膜で覆われ、かつその他の面が先端の光波長以下の領域を除いて金属膜で覆われたことを特徴とする近接場光プローブ(特許文献1)、先鋭化されたプローブの最先端面近傍に金属領域を有し、金属領域は最先端面に露出するか、金属領域の外側に励起光波長の1/20以下の膜厚の誘電体薄層が形成された近接場光プローブ(特許文献2)、突起部の外面を金属被膜で覆われ、頂点部は金属被膜が形成されず開口部となっている近接場光プローブ(特許文献3)、金属ピラミッド構造に頂部からI字型の幅狭部を有する溝を形成したプローブ(特許文献4)などがある。これらのプローブについては非常に微小な領域において金属被覆域と金属が被覆されていない領域とを作り分ける必要があり、製造方法が難しいという課題があった。
【0006】
また、現在有望と考えられているプローブは、中心軸回りに回転対称を持つ誘電体円錐の表面に金のようなプラズモン活性物質をコーティングしたものがある。この構造により誘電体内部に入射した光の側面での全反射を利用して、コーティングした金薄膜に表面プラズモンが効率よく励起できるからである。しかし、このプローブ先端に微小(ナノメートルサイズ)スポットサイズを持つ大強度近接場を生成するためには、入射光として半径方向に偏光した特殊な光ビームを用いる必要があり、直線偏光したレーザー光源を直接使用することはできなかった。従って、直線偏光から半径方向偏光に変換するための構成を必要としていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−221478号公報
【特許文献2】特開2005−195500号公報
【特許文献3】特開2003−14608号公報
【特許文献4】特開2004−109965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、微小スポットサイズを持つ大強度近接場光を生成するために、複雑な構造のプローブを用意することなく、また、直線偏光した光が利用できる、低コスト、簡易構造の近接場光プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、従来のプローブが対称性を維持するようにして用いられている点に着目し、これを敢えて非対称性にすることによって、直線偏光した光が利用できることを見いだした。
【0010】
すなわち、本発明は、誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から直線偏光した光を入射させてプローブ先端に、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていることを特徴とする。従来の円錐誘電体に金属薄膜をコーティングした近接場光プローブは、底面の中心軸上に円錐の頂点があった。そのため特殊な光ビームを使用する必要があったが、この頂点位置を敢えてずらすことにより直線偏光した光を利用することができるようになった。具体的には頂点位置が底面の中心から、垂直(中心軸)方向に対してほぼ10°程度の傾きを有する位置にあることが好ましい。
【0011】
また、前記直線偏光した光を利用する場合でも、光が円錐体・多角錘体の底面に対して垂直方向と所定の角度を持って入射するように構成することによって、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。直線偏光した光をそのまま従来の円錐体に入射させるとプローブ先端部分でz方向の電界がキャンセルされる。そこで、具体的には底面の垂直方向に対して約25°の角度で斜めに入射させればよい。
【0012】
さらに、円錐体・多角錘体の底面の一部を遮光して、直線偏光した光の入射を一部遮ることによっても微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。遮光部分は例えば円錐体底面の場合、半円状に遮光することが可能である。
【0013】
また、回転対称を持つ円錐体・多角錘体であっても、側面にプラズモン活性物質を非対称な分布にコーティングすれば、微小スポットサイズを持つ大強度電界ベクトルを持つ近接場光を生成することができる。例えば円錐体側面の一部にコーティングをしなければ、非対称なコーティング分布を作成することができる。
【0014】
その他、円錐体・多角錘体の一部を、それら先端が誘電体基盤上に存在するように作成し、その円錐体・多角錘体全体・一部にプラズモン活性物質をコーティングすれば、微小スポットサイズ大強度電界べクトルを持つ近接場光を誘電体基盤上に生成することができる。例えば円錐体半分を誘電体基盤上に作成し、円錐部にプラズモン活性物質をコーティングすれば、円錐体頂点と誘電体基盤が交差する基盤上に、微小スポットサイズ大強度電界べクトルを持つ近接場光を生成することができる。このようにすれば、誘電体基盤上の指定された位置に被測定物を置くことができ、プローブ・非測定物体間の距離を容易に制御することができる。
【0015】
なお、上記のうち何れか二つ以上を組み合わせてプローブを構成することも可能である。例えば、円錐体のプローブについて底面の中心から垂直方向に対してほぼ10°程度の傾きを有する位置に頂点が形成され、そこに底面の垂直方向に対して約15°の角度で斜めに入射させるように構成することもできる。さらに、上記のようなプローブ形状、コーティング分布、入射条件、が非対称であれば、入射波が直線偏光している場合だけでなく、任意の方向に偏光している光に対しても同じ効果を得ることができる。すなわち任意の偏光に対応することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプローブは、簡易な構成なので低コストかつ複雑な設備を必要とすることなく製造することができる。また、直線偏光した光を利用できるので、例えばプローブを備える走査型近接場光顕微鏡の装置全体の構成も簡略化できる。しかも、高効率で微小スポットサイズを持つ大強度の近接場光を発現するプローブが提供できるため近接場光を応用した各種検査機器、記録機器の新たな用途への展開がより加速される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、従来のプローブの断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図2】図2は、偏光した光ビームの電界ベクトル分布を示す図である。
【図3】図3は、本発明のプローブの一実施形態を模式的に示す図である。
【図4】図4は、図3のプローブ形状の設計について模式的に示す図である。
【図5】図5は、図3のプローブの断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図6】図6は、図3の実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と角度Aとの関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図8】図8は、図6のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図9】図9は、図6の実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と入射角度Bとの関係を示す図である。
【図10】図10は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図11】図11は、図10のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図12】図12は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図13】図13は、図12のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図14】図14は、本発明のプローブの他の実施形態を模式的に示す図である。
【図15】図15は、図14のプローブについて断面および表面プラズモンを模式的に示す図である。
【図16】図16は、本発明のプローブを走査型近接場光顕微鏡に利用した状態を示す概念図である。
【図17】図17は、本発明のプローブを光学型記録再生ヘッドに利用した状態を示す概念図である。
【図18】図18は、本発明の実施例1および比較例における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【図19】図19は、本発明の実施例2における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【図20】図20は、本発明の実施例3における近接場光の生成をシミュレーションした図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のプローブについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1には底面の中心軸(Z軸)の回りに回転対称を持つ従来型の円錐体のプローブ10が示されている。このプローブの断面形状は二等辺三角形であり、底辺方向をX軸、高さ方向をZ軸とすると、図1ではX軸方向に直線偏光した光(入射光)20がZ軸方向に誘電体30に入射している状態、すなわち入射光の進行方向が底面に対して垂直な状態を示している。プローブは二等辺三角形の斜辺に金属薄膜40がコーティングされているので、入射光は全反射し、金属薄膜(斜辺)には矢印で示す表面プラズモン50が励起されている。図1において表面プラズモンは左側面金属薄膜と右側面金属薄膜で励起され、電界ベクトルは同じ大きさと同じ方向を持っている。この表面プラズモンは、プローブの左側面と右側面とで同じ距離を伝搬するので、表面プラズモンがプローブ先端に到達するとプローブ構造の対称性から、Z軸方向の電界ベクトルは、プローブ先端で大きさが同じで反対方向になるため互いに打ち消しあうこととなる。従って、プローブ先端にはZ方向電界ベクトルを持つ大強度近接場光は生成されないのである。
【0019】
図1に示す従来のプローブにZ軸方向電界ベクトルを持つ大強度近接場光を生成するためには、プローブの底面における左側面金属薄膜と右側面金属薄膜のそれに励起される表面プラズモンの電界ベクトルは反対方向を持たせる必要がある。そのため入射光は図2(a)で示すような半径方向に偏光した光ビームという特殊なものでなければならない。つまり、図2(b)に示すような直線偏光した光ビームを入射させても、前記したようにプローブの先端でZ方向の電界ベクトルが互いに打ち消し有ってしまうのである。(なお、図に示す直線矢印は電界ベクトルを模式的に表したものである。)
【0020】
このように通常の(図2(b)に示す)レーザー光源からでた直線偏光した光をそのまま利用することはできず、さらに(図2(a)に示す)ビーム中心とプローブ中心軸(Z軸)との位置合わせが必要のためコストが掛かってしまうという課題があったのである。
【0021】
そこで、本発明では、図3に示すようにプローブ11に対称性を持たせない形状を提案した。このプローブ11は、誘電体基盤32の上に底面の中心軸回りに非対称な円錐体誘電体構造を作成しその表面にプラズモン活性媒質(例えば金などの金属)をコーティングを施した構造である。そして誘電体31の下方からプローブ内部に直線偏光した光を入射する。
【0022】
プローブ11は、例えば以下のようにして製造することができる。図3に示すようなプローブ形状を成形するための凹部を有する金型に、誘電体を溶融状態で流し込み、冷却する。固化した誘電体を金型から取り出して、表面にプラズモン活性物質をコーティングする。このとき、プローブ先端を先鋭化するために必要ならば電子ビーム、イオンビームなどで尖らせれば良い。前記誘電体としてはガラス、プラスチック、透明半導体などが挙げられ、好ましくはガラスである。また、プラズモン活性物質としては金、銀、銅、アルミニウム、プラチナ、パラジウムなどの金属が用いられる。また、これらの活性物質は例えば、スパッタ、蒸着、CVD、めっき等の成膜方法によりコーティングすることができる。
【0023】
図4には、図3に示すプローブの底面からZ軸に平行に入射した直線偏光した光が、金属薄膜41をコーティングしたプローブ側面で全反射を起こすようなプローブ形状の設計に関する説明を示している。入射波と反射波のプローブ側面方向の位相速度Vpは図4から、Vp=c÷(n×cosθ)で与えられる(n:プローブ内部のガラスの屈折率、c:光速度、θ:入射方向と円錐体側面とのなす角度)。コーティングの厚みは10〜50nm、プローブの高さは1000〜2000nm、底面の半径は2000〜4000nmとなっている。また、先端15の角度は20〜60°で設計される。
【0024】
プローブ側面にコーティングされた金属薄膜をプローブ先端方向に進む表面プラズモンの位相速度Vplasmonは、真空中の光の速度cよりも小さい。従って、プローブ側面の角度を調整してプローブ側面の一部でVpをVplasmonに合致させることが可能である。VpがVplasmonに合致すると、図5に示すように表面プラズモンを高効率で励起することができる。さらに、円錐体にコーティングされた金属薄膜41と誘電体基盤(図3、32)とのエッジ境界からも表面プラズモンが金属薄膜41に沿って励起される。表面プラズモンは、プローブ側面を先端方向に伝搬するにつれ、伝搬方向に垂直な断面が減少するため、その強度は大きく増強され、プローブ先端に微小スポットサイズを持つ大強度近接場光が生成されるのである。
【0025】
図5にはこのプローブ11に対して、図1に示すのと同様のX軸方向の直線偏光した光20がZ軸方向に誘電体31に入射している状態が断面図で示されている。このプローブは、円錐体の頂点15が底面の中心軸(Z軸)から角度Aだけ図において右側にずれており、三角形の斜辺には金薄膜41がコーティングされ、入射光が全反射して金薄膜周辺に直線矢印で示す表面プラズモン51が励起されている。そしてプローブ左側面と右側面ではプローブ先端までの表面プラズモンの伝搬距離が異なるので、プローブ先端のZ方向電界ベクトルは、右側面を伝搬してきた表面プラズモンと、左側面を伝搬してきた表面プラズモンとで大きさ・方向が異なり図1のように互いに打ち消しあうことはない。従って、プローブ先端において左右側面を伝搬する表面プラズモンのZ方向電界ベクトルを最大かつ同じ向きになるようにプローブ形状を調整すれば、プローブ先端にZ方向電界を持つ微小スポットサイズ大強度近接場光が生成させることができるのである。
【0026】
このプローブ11については、円錐体の場合だけでなく三角錘や四角錐などの多角錘であっても同様に底面の中心軸から頂点位置をずらすことが必要で、より具体的には角度Aとして示すと4〜30°、好ましくは8〜15°であり、最も好ましくは10°である。なお、図6には、プローブ先端の近接場光強度と角度Aとの関係が示されている。
【0027】
次ぎに、プローブが対称性を有している場合でも、入射光を調整して直線偏光した光から微小スポットサイズ大強度近接場光を生成することができるように構成されたプローブについて説明する。図7には、図1にて説明した従来型のプローブ10の底面に垂直方向と有限の角度Bを持って直線偏光した光21を入射するように構成されている。そしてこのような斜め入射の場合にプローブ先端でZ方向電界が増強される状態を模式的に図8に示す。図8に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン52は左側面と右側面で図1のようなZ軸に対する対称性を有さないので、プローブ先端において大強度近接場光を生成することができるのである。
【0028】
図9には、前記実施形態における、プローブ先端の近接場光強度と入射角度Bとの関係を示す。このときの斜め入射の角度は、より具体的には図7に示す入射角度Bにおいて10〜50°、好ましくは20〜40°であり、最も好ましくは25°である。
【0029】
さらに、前記同様プローブが対称性を有している場合でも、入射光の一部を遮断することによっても大強度近接場光を生成することができる。図10には、入射光20を遮断する不透明材料17がプローブ底面に設けられている。入射光の一部を遮光することによって図1に示されたようなZ方向電界ベクトルが打ち消しあうことなく、プローブ先端に大強度近接場が生成される。その状態を示したのが、図11である。図11に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン53は、図に示す断面においては、左側面と右側面で対称性を有さない。当該断面を90°回転した状態では、図1に示す通りの状況を呈するので、先に例示したプローブよりは近接場光の強度は低下する傾向があるが、従来の対称性プローブのように完全に打ち消しあうことはない。
【0030】
このような遮光の程度については、底面の面積の5〜20%であり、対称性を持って遮光するのではなく、例えば円錐体であれば、遮光部が半円形または扇形になるように光を遮ることが好ましい。
【0031】
前記同様プローブが対称性を有している場合でも、図12のようにプローブ側面にプラズモン活性物質を非対称な分布にコーティングすれば、微小スポットサイズを持つ大強度電界スペクトルを持つ近接場光を生成することができる。その状態を示したのが図13である。図12に示すようにプローブ13は、誘電体円錐30の表面の一部は金属薄膜40がコーティングされていない、すなわち誘電体円錐表面において金属薄膜が非対象にコーティングされている。そうすると図13に示すように金属薄膜40近傍に発生した表面プラズモン54は、図に示す断面においては、左側面と右側面で対称性を有さない。したがって、プローブ先端において表面プラズモンは互いに打ち消しあうことなく、大強度近接場光を生成することができるのである。
【0032】
図14は、円錐体プローブの半分14を、その先端が誘電体基盤上33に存在するように作成し、半分に分割した誘電体円錐体34にプラズモン活性物質40をコーティングしたものである。こうすれば、微小スポットサイズ大強度電界強度を持つ近接場光を誘電体基盤上に生成することができる。その様子を示したのが図15である。誘電体基盤33の上に円錐の半分34が作成されており、その表面は金属薄膜40でコーティングされている。誘電体基盤33の表面に置かれた円錐中心軸(Z軸)と角度Cをなすようにして、プローブ底面に光22を入射する。このとき円錐体34の表面にコーティングされた金属薄膜40に沿って表面プラズモン55が励起される。この構造も非対称プローブであり、プローブ先端において表面プラズモンは互いに打ち消しあうことなく、微小スポットサイズ大強度近接場光を生成することができる。図15に示す構造から、誘電体基盤33の所定の位置とプローブ先端との位置関係を明確にすることができるので、非測定物体(例えばDNA構造)を、プローブ先端の微小スポットサイズ大強度近接場光で容易に照射することができる。このように構成することより、非測定物体の一部分だけの光学測定が可能になる。
【0033】
以上の様な本発明のプローブを使用して近接場顕微鏡(図16)および光学型記録再生ヘッド(図17)として構成した場合の簡単な概念図を示す。図16および図17は、図3に示すような頂点位置を偏位させたプローブに対して図7に示すような斜め方向から光を入射させた例であり、本発明においては前記のパターンを、それぞれ組み合わせて使用することも可能である。
【0034】
以下本発明をより具体的に明らかにするために、本発明に係る幾つかの実施例を示す。
【実施例1】
【0035】
図3に示すようなプローブを作成した。プローブの外形は、高さ1870nm、底面の半径1000nm、先端角約30°で、コーティング厚みは約20nmである。また、誘電体としてガラスを使用し、その屈折率は1.5、コーティングしたプラズモン活性物質は金(Au)を使用した。一方、比較として、高さ1870nm、底面の半径1000nm、先端角約32°で作成した他は、対称性を有する図1に示すようなプローブを作成し、それぞれに対して直線偏光をプローブ底面に垂直に入射させた場合の近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を図18に示す。
【0036】
図18(a)は本発明例、図18(b)は比較例である。図において光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように本発明例はプローブ先端大強度の近接場光が発生していることが判る。なお比較例では、入射強度に対してプローブ先端の光強度は約0.5倍なのに対し、本発明例では、プローブ先端の光強度は約1600倍となった。
【実施例2】
【0037】
前記比較例と同様の外形のプローブを作成した。図7に示すように入射光を約25°の傾きでプローブ底面に入射させた場合(図19(a))と、底面の面積が20%となるように図10に示すような半円形状の遮光部をプローブの底面に形成した場合(図19(b))の、近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を示す。
【0038】
図においては前記同様光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように、斜めに入射させた場合および遮光部を形成した場合ともにプローブ先端に、大きな光強度を有する近接場光が形成されている。なお、斜め入射させた場合のプローブ先端の光強度は、入射光の約6300倍であり、遮光部を設けた場合の光強度は、約1962倍であった。
【実施例3】
【0039】
前記比較例と同様の外形のプローブを作成した。図12に示すようにプローブ側面の約30%を金属コーティングをせず、入射光をプローブ底面に入射させた場合(図20(a))と、図14に示すように誘電体基盤上に半分に分割された円錐プローブに金属コーティングを施し、約20°の傾きでプローブ底面に入射させた場合(図20(b))の、近接場光の光強度分布をシミュレーションした状態を示す。
【0040】
図においては前記同様光強度が大きい程白く表されている。図から明らかなように、金属薄膜を非対称にコーティングさせた場合および誘電体基盤上に半分に分割した金属コーティング円錐プローブの場合も、ともにプローブ先端に、微小スポットサイズを持ち大きな光強度を有する近接場光が形成されている。図20(a)の場合プローブ先端の光強度は、入射光の約1494倍であり、図20(b)の場合は876倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の近接場光プローブは、簡易な構造で、容易に製造することができるので、走査型近接場光顕微鏡、ナノ領域光センサー、DVD光ヘッドなど多くの応用が期待される。
【符号の説明】
【0042】
10、11、12、13、14 近接場プローブ
20、21、22 入射光
30、31、34 誘電体(プローブ)
32、33 誘電体(基盤)
40、41 金属薄膜
50、51、52、53、54、55 表面プラズモン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から任意の方向に偏光した光を入射させてプローブ先端に、大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、
(a)円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていること、
(b)前記光が底面に垂直方向と有限の角度を持って入射するように構成されたこと、
(c)底面における入射光の一部が阻止されるように構成されたこと、
(d)プラズモン活性物質が非対称にコーティングされていること、
(e)誘電体基盤の上に円錐体・多角錘体構造物のプローブ先端が載るように、前記円錐体・多角錘体構造物の一部が誘電体基盤と一体となって形成されていること、
のいずれかから選択される少なくとも一つであることを特徴とするプローブ。
【請求項2】
前記(a)の場合において、円錐体・多角錘体の頂点が、底面からの垂線に対して4〜30°の傾きを持ってずれていることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記(b)の場合において、入射角度が10〜50°であることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記(c)の場合において、5〜20%が遮光されていることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【請求項1】
誘電体で構成される円錐体・多角錘体構造物にプラズモン活性物質をコーティングし、底面から任意の方向に偏光した光を入射させてプローブ先端に、大強度電界ベクトルを持つ近接場光生成のためのプローブであって、
(a)円錐体・多角錘体の頂点が、底面の中心軸からずれていること、
(b)前記光が底面に垂直方向と有限の角度を持って入射するように構成されたこと、
(c)底面における入射光の一部が阻止されるように構成されたこと、
(d)プラズモン活性物質が非対称にコーティングされていること、
(e)誘電体基盤の上に円錐体・多角錘体構造物のプローブ先端が載るように、前記円錐体・多角錘体構造物の一部が誘電体基盤と一体となって形成されていること、
のいずれかから選択される少なくとも一つであることを特徴とするプローブ。
【請求項2】
前記(a)の場合において、円錐体・多角錘体の頂点が、底面からの垂線に対して4〜30°の傾きを持ってずれていることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記(b)の場合において、入射角度が10〜50°であることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記(c)の場合において、5〜20%が遮光されていることを特徴とする請求項1に記載のプローブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−242308(P2011−242308A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115845(P2010−115845)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
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