説明

近視用マルチ着色眼科用レンズ

本発明は、眼科用レンズに係り、その表面上に、無色又は黄色の中心第1領域及び570nm未満の波長を有する可視光を選択的に透過する少なくとも1つの周辺第2領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性近視の処理を対象とした新規なマルチ着色眼科用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近視の原因は、遺伝的及び後天的の両方であることが一般的に知られている。
【0003】
未だに、この原因は完全に理解されていないため、通常、出生時に見られる屈折異常を取り除く傾向がある正視化プロセスは、個人の近視に正確に機能しない。結果として、この機能不良が、軸方向における眼球の過剰生長を引き起こす。
【0004】
動物に対して行われた研究により、正視化は、眼球が受け取る視覚刺激に対する反応として起こる能動的なプロセスであることが示されている。このプロセスにおいて、光学的なデフォーカシング(optical defocusing)が、重要な役割を行いうることを、多くの研究が強く示唆している。これまで、フォーカシングに作用することにより、近視の進行を遅らせることを試みる近視の処理方法が、中心のフォーカシング(focusing)、換言すると、中心窩(fovea)上の網膜像のフォーカシングに集中しており、比較的わずかな成功しか得られず、中心領域が、眼球の縦軸内に位置する。
【0005】
近年、Smithらは、周辺のデフォーカシング、即ち、中心窩を囲む領域における網膜像の不完全なフォーカシングが、近視の発生及び進行の役割を果たし、この領域において標的とされる矯正が、効果的に、近視の進行を遅らせることが出来ることを特許文献1において報告している。本出願において提案される技術的解決法が、既知の方法における、中心の視野に関しての適切な視覚の矯正を提供することを含み、患者に良好な視力を保証するが、わずかに網膜の前方に位置する点において周辺のフォーカシングを得るように周辺の矯正を調節する。
【0006】
しかしながら、このような異なる矯正は、実施が極めて複雑である。さらに、この矯正は、有効性を得るために、眼球及び矯正デバイスの良好な同軸度(coaxiality)を保証する実施を必要とする。特許文献1において推奨される矯正デバイスは、角膜矯正治療、角膜手術、角膜移植、コンタクトレンズ及び眼内レンズである。また、この文献は、矯正デバイスとしてメガネを想定しているが、これらは、明らかに、本発明の目的に適切でない実施形態を構成する。実際には、メガネのレンズの後方で眼球が移動する場合、眼球及び矯正デバイスの同軸度がずれ、これによって、中心の視野が乱される。
【0007】
従って、近視の進行を遅らせることを目的とした矯正デバイスに対する要求が未だに存在し、中心の視野に関する良好な視力、及び周辺網膜上又は後者の前方における周辺のフォーカシングの両方を許容するが、その軸と眼球軸のそれとの完全な位置合わせには寄与しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2005/055891号
【特許文献2】仏国特許出願公開第2881230号明細書
【特許文献3】国際公開2006/079564号
【特許文献4】国際公開2006/013250号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
このようなデバイスを開発するために、出願人は、周知の色収差現象を活用した。色収差は、それを通り抜ける光の波長に応じてレンズを作り上げる材料の屈折率のバリエーションである。これが、波長に応じて変化する焦点距離をもたらし(軸上色収差とも呼ばれる現象)、波長が大きくなるにつれ、焦点(focusing point)がレンズから離れる。
【0010】
通常、眼球の正視化が、水晶体の眼軸長の結果をもたらし、中心の視野に関し、黄色光の焦点が、本質的に、網膜上に位置し、一方、光の赤の成分の焦点が網膜の後方に生じ、青色光のそれは、わずかに網膜の前方に生じる。換言すると、黄色光(570−590nm)の焦点面(focusing plane)が、中心窩において実質的に網膜を横切り、590nm以上の波長を有する光の焦点面が、網膜の後方に位置し、後者と交差点を有さず、570nm未満の波長の焦点面が、網膜の前方に位置し、中心窩から離れるにつれて光の波長が短くなる同心円領域内に後者を横切る。
【0011】
本発明の基礎を形成する着想は、その波長に応じて光を選択的にフィルタリングすることによる光学的なデフォーカシングの影響をうける網膜の領域を出来るだけ減らすことであり、網膜の所定の点において、この時点で網膜を横切る焦点面の光のみの眼球への浸入が許容される。換言すると、
−中心窩が、黄色光を受け取り、
−中心窩に直接的に隣接する第1環状領域が、黄色光の波長よりもわずかに短い波長を有する光のみを受け取り、次に、
−第1環状領域に直接的に隣接する第2環状領域が、さらに短い波長などを有する光のみを受け取り、
眼球に浸入する光の波長が短くなるにつれて、周辺領域が、それが網膜と接触する場合に、中心窩を通り抜ける眼球の中心軸から遠ざかる。
【0012】
この選択的な光のフィルトレーションは、眼球への後者の侵入角に応じたものであり、患者の近視に適合する矯正眼科用レンズ上の着色同心環状領域によって極めて簡単に得られる。
【0013】
従って、本発明の主題は矯正眼科用レンズであって、その表面上に、第1無色又は黄色中心領域、即ち、570nmと590nmとの間に含まれる波長の可視光を選択的に透過する第1無色又は黄色着色中心領域、及び、570nm未満の波長を有する光が選択的に通過することを許容する少なくとも1つの周辺第2領域を備える。
【0014】
また、本発明の主題は、進行性近視の進行を遅らせる又は止めることを目的としたメガネを製造するためのこのような眼科用レンズの使用である。
【0015】
最後に、本発明の主題は、進行性近視に苦しむ患者のためのものであって、少なくとも1つのこのような眼科用レンズを備えたメガネの処方を含む進行性近視を処理する方法である。
【0016】
本発明の矯正レンズは、近視用レンズであり、即ち、好ましくは、−0.25と−10.00の間に含まれる負のジオプターを有する凹面モノフォーカルレンズである。
【0017】
黄色着色又は無色領域を記載するために使用された“中心の”という形容詞は、この領域が、本発明による眼科用レンズの光心に対応する位置を占め、好ましくは、この光心を中心とすることを意味する。従って、黄色着色又は無色領域が、本質的に、メガネの着用者の視界によって探索される領域に広がる。
【0018】
無色又は黄色着色中心領域は、好ましくは、円形又は楕円形である。
【0019】
有利に、黄色着色又は無色円形領域の直径、又は黄色着色又は無色楕円形領域の最も大きな寸法が、5から35mmの間に含まれ、好ましくは、10から20mmの間、特に、約15mmである。
【0020】
上記の無色又は黄色着色円形領域の寸法が、多くのメガネ着用者に対する適切な範囲に対応するが、個人差を考慮したものではない。黄色着色又は無色中心領域の寸法を実際に人の眼球によって探索される領域のそれに制限することは有利である。例えば、視覚挙動の他の研究の関連の中で本出願人によって開発されたビジョンプリントシステム技術(VPS)を使用し、中心及び周辺領域の相対的な寸法のこのような最適化を、実行することが可能である。これが、“眼球−頭部運動(eye−head behaviour)”とも呼ばれる、環境の視覚探索における眼球−頭部の調整方法(eye−head coordination strategy)の個体差の表現を可能にするデバイスを含む。従って、眼球の動きによってというよりはむしろ頭の動きによって、視覚的に物体を追う傾向がある“頭部運動者(head movers)”である個人と、他方では、頭でというよりはむしろ眼球の動きによって、視覚的に物体を追う傾向がある“眼球運動者(eye movers)”である個人とを定義することが可能である。
【0021】
従って、メガネ着用者の眼球−頭部運動の判定により、無色又は黄色着色中心領域のサイズを最適化することが可能となる。着用者が、目で確認することによって物体を追うために、それらの眼球というよりはむしろ、それら頭を回転させる傾向がある場合、通常、中心領域が5から15mmであれば、レンズの全体の視覚領域を覆うのに十分である。反対に、着用者が、目で確認することによって物体を追うために、それらの頭というよりはむしろ、それら眼球を動かす傾向がある場合、レンズの比較的広い領域を覆う黄色又は無色中心領域が必要であり、例えば、領域が、15から35mmの間に含まれる直径を有する。
【0022】
無色又は黄色着色中心領域が、少なくとも1つの周辺領域によって囲まれ、好ましくは、複数の周辺領域によって囲まれ、570nm未満波長を有する光を選択的に透過する。
【0023】
これらの領域は、環状形であり、1つが他方に対して、又は複数のものが互いに対して、好ましくは同心状である。これらの対称の中心が、好ましくは、レンズの光心上で重なる。
【0024】
好ましくは、周辺領域が、異なる色の少なくとも2つの領域を含み、さらに優先的には、異なる色の3,4又は5つの領域を含む。実際には、異なる色の領域の数が大きくなるにつれ、中心軸に対する偏心角(decentring angle)に応じて透過される光の波長の調節が細かくなり、鮮明な像を受け取る網膜の周辺領域の範囲が大きくなり、即ち、後者に焦点をあわせる。異なる色の環状領域の数が、実際には、レンズの着色方法の複雑さによってのみ制限される。
【0025】
従って、周辺領域が、好ましくは、異なる色の多数の同心環状領域によって形成される。これらの環状領域のそれぞれが、選択的に、中央領域から離れるにつれて短くなる波長を有する可視光を透過する。従って、中心領域に直接的に隣接した環状領域が、好ましくは、選択的に、570nmよりもわずかに短い波長、例えば、570から550nmの間に含まれる波長を有する光を透過する。第1環状領域の周囲に位置する次の環状領域が、選択的に、550nm未満の波長、例えば、550から530nmの間等に含まれる波長を有する光を透過する。従って、本発明の眼科用レンズが、例えば、第1緑色着色環状領域、第2青色着色環状領域、及び第3紫色着色環状領域によって囲まれる無色又は黄色中心領域を有することが可能である。異なる環状領域が、互いに同一の又は異なる幅を有することが可能である。
【0026】
中心領域を囲む環状領域が、好ましくは、570から400nmの間に含まれる全ての可視光スペクトルをカバーする。好ましくは、各環状領域によって選択的に透過される波長の範囲が、全体的に狭くなるにつれ、前記環状領域の幅が小さくなる。
【0027】
特定の実施形態において、周辺領域が、所定の波長の光をそれぞれ透過する無限の環状領域を含む。この実施形態において、周辺領域が、その内部の境界からその周辺の境界にわたり、570nmから400nmの間に含まれる波長の可視光の透過スペクトルの全体を示し、透過される光の波長が次第に減少し、好ましくは、領域の中心から周辺にわたり直線的に減少する。その結果、周辺領域が、内側から外側に向かって、黄色から紫までの可視スペクトルを通過するリング状の不完全な虹の外観を有しうる。
【0028】
従って、上記の近視用矯正レンズにより、光学的なデフォーカシングの影響をうける周辺網膜の領域を実質的に減らすことが可能となる。しかしながら、眼球がレンズの後方で移動した場合に、これは、特許文献1において記載された技術的解決法に対し不利な影響を及ぼす視覚のぼやけという欠点を有さない。中心の視野に関する像の明確さを保証するために、実際には、レンズの矯正能力が、表面の色とは無関係に、周知の方法で調節されることが可能である。眼球がレンズの後方で移動し、視界が、中心領域の外側に位置するレンズの領域を探索する場合、眼球が、色の変化のみを認識するが、像の明確さが、原則として阻害されない。
【0029】
本発明による眼科用レンズを製造することを目的として無機又は有機ガラスから形成された適切な支持体上での着色の使用が、例えばサブリメーション及び/又はインクジェットプリンティングによって行われる。これらの技術が、例えば、本出願人の名義である特許文献2及び特許文献3に記載されている。特許文献4に記載されているような、インクジェットプリンティング技術と併用されるピクセル化膜の基板上における使用を想定することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
非制限的な方法で本発明の主題を説明する以下の実施例を読むことにより、本発明がさらに理解されうる。
【実施例1】
【0031】
(インクジェットプリンティングを用いた本発明による眼科用レンズの着色)
40重量%のアニオン性ポリウレタン(Baxendenによって販売されるW234)が、磁気かくはん下において、60重量%のコロイド状シリカ(Aldrichによって販売されるLudox TM40)と混合される。1時間の間かくはんした後、遠心分離(スピンコーティング)によって得られた混合物が、Orma(登録商標)バイプレイン基板に堆積される(500回転/20秒)。堆積物が、オーブン内において100℃で1時間の間乾燥される。この結果、得られたプライマーの厚さは、3.6μmである。乾燥後、プライマー及び基板を含む光学レンズが、Canon i865プリンターでプリントされることが可能である。黄色中心領域並びにそれぞれ緑、青及び紫に着色された3つの連続した環状領域が、Powerpoint(登録商標)ソフトウェアを使用して描かれる。眼科用レンズが、プリンターのローディングモジュール内に導入され、後者が、Powerpoint(登録商標)の“黄色フィルター−3つのカラーフィルター”ファイルを備えたコンピューターに接続される。プリンティングが実行される。レンズがプリンターから離れた場合、即座に、100℃で1時間の間乾燥される。中心の黄色フィルター並びに緑、青及び紫に着色された3つの周辺フィルターを備えた眼科用レンズが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用レンズであって、その表面上に、
第1無色又は黄色着色中心領域、及び
570nm未満の波長を有する可視光を選択的に透過する少なくとも1つの第2周辺領域を備えることを特徴とする眼科用レンズ。
【請求項2】
凹面モノフォーカル眼科用レンズであることを特徴とする請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記無色又は黄色着色中心領域が、円形又は楕円形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記無色又は黄色着色中心領域が、前記レンズの光心を中心とすることを特徴とする請求項3に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記黄色着色中心領域の直径又は最も大きな寸法が、5から35mmの間に含まれ、好ましくは、10から20mmの間に含まれ、特に、約15mmであることを特徴とする請求項3又は4に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記周辺領域が、異なる色の多数の同心環状領域によって形成され、
前記環状領域が前記中心領域から離れるにつれて短くなる波長の可視光を、各前記環状領域が選択的に透過することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記周辺領域が、その内部の境界からその周辺の境界にわたり、570nmから400nmの間に含まれる波長の可視光の透過スペクトルの全体を示し、透過される光の波長が次第に減少し、好ましくは、領域の中心から周辺にわたり直線的に減少することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
進行性近視の進行を遅らせる又は止めることを目的としたメガネを製造するための請求項1から7のいずれか一項に記載の眼科用レンズの使用。
【請求項9】
進行性近視に苦しむ患者のための、請求項1から7のいずれか一項による少なくとも1つの眼科用レンズを含むメガネの処方を含む進行性近視の処理方法。

【公表番号】特表2010−510536(P2010−510536A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536778(P2009−536778)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052347
【国際公開番号】WO2008/059178
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)