説明

近赤外線カットフィルターおよびその製造方法

【課題】 近赤外線カット能に優れ、固体撮像素子に組み込んでも損傷や光学特性の劣化が生じない、特にCCD、CMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを課題とする。
【解決手段】 環状オレフィン系樹脂基板および近赤外線反射膜を有する積層体にさらに保護フィルムが積層された構造を有し、当該保護フィルムの積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力が、いずれも0.5N以下であることを特徴とする、近赤外線カットフィルターおよびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルターおよびその製造方法に関する。詳しくは、近赤外線をシャープにカットできるとともに、固体撮像素子等への利用に適した近赤外線カットフィルターおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などにはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサが使用されているが、これら固体撮像素子はその受光部において近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているために、視感度補正を行うことが必要であり、近赤外線カットフィルターを用いることが多い。前記近赤外線カットフィルターとしては、製造コストが安く加工が容易であるという理由から、基材として透明樹脂を用い、透明樹脂中に近赤外線吸収色素を含有させた近赤外線カットフィルターが好ましいものとして知られている(例えば、特許文献1参照。)。
当該近赤外線カットフィルターは、表面保護のため、一般に保護フィルムが積層された形で、打ち抜き等の加工や撮像装置製造への組み込みが行われる。しかしながら、製造までの保存環境によって保護フィルムの粘着力が上昇し過ぎてしまい、保護フィルムの剥離が困難となり、剥離の際に近赤外線カットフィルターが損傷を受けたり、剥離後の近赤外線カットフィルター表面に保護フィルムの粘着層が残存して光学特性を劣化させたりするという問題がある。
【0003】
本発明者らは、このような状況に鑑みて鋭意検討を進めた結果、保護フィルムの耐湿熱曝露前後の剥離力に着目して、粘着層の残存などの無い近赤外線カットフィルターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開平6−200113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、近赤外線カット能に優れ、固体撮像素子に組み込んでも損傷や光学特性の劣化が生じない、特にCCD、CMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、
環状オレフィン系樹脂基板および近赤外線反射膜を有する積層体にさらに保護フィルムが積層された構造を有し、当該保護フィルムの積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力が、いずれも0.5N以下であることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルターは、積層体が、環状オレフィン系樹脂基板の両面に近赤外線反射膜が積層された構造を有し、当該積層体の両面にさらに保護フィルムが積層された構造を有することが好ましい。
さらに、本発明の近赤外線カットフィルターの製造方法は、環状オレフィン系樹脂基板および近赤外線反射膜を積層して積層体を形成し、当該積層体に、積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力がいずれも0.5N以下である保護フィルムをさらに積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、近赤外線カット能に優れ、固体撮像素子に組み込んでも反りや光学特性の劣化が生じない、特にCCD、CMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔環状オレフィン系樹脂基板〕
本発明に係る近赤外線カットフィルターには、透明基板として、環状オレフィン系樹脂からなる基板が用いられる。
上記環状オレフィン系樹脂(以下、「環状オレフィン系樹脂(A)」ともいう)としては、下記式(I)で表される環状オレフィン(以下、「環状オレフィン(I)」ともいう)の(共)重合体が挙げられる。
【0008】
【化1】

【0009】
(式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、RとR、またはRとRは、一体化して2価の有機基を形成してもよく、RまたはRと、RまたはRとは、互いに結合して単環構造または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。)
【0010】
より具体的な環状オレフィン系樹脂(A)としては、
(1)環状オレフィン(I)の開環重合体(以下、「重合体(1)」ともいう)
(2)環状オレフィン(I)と共重合性単量体との開環共重合体(以下、「重合体(2)」ともいう)
(3)重合体(1)または重合体(2)の水素添加(共)重合体(以下、「重合体(3)」ともいう)
(4)重合体(1)または重合体(2)をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体(以下、「重合体(4)」ともいう)
(5)環状オレフィン(I)と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体(以下、「重合体(5)」ともいう)
(6)環状オレフィン(I)と、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体との付加型(共)重合体およびその水素添加(共)重合体(以下、「重合体(6)」ともいう)
(7)環状オレフィン(I)とアクリレートとの交互共重合体(以下、「重合体(7)」ともいう)
が挙げられる。これらのうち、光学特性等が優れる点で重合体(3)が特に好ましく用いられる。
【0011】
<環状オレフィン(I)>
上記式(I)における1価の有機基としては、炭素数1〜30の炭化水素基、炭化水素基以外の1価の極性基が挙げられる。上記1価の極性基としては、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基などの極性を有する2価の有機基からなる連結基を介して結合した炭化水素基なども極性基として挙げられる。これらの極性基のうち、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基およびアリロキシカルボニル基が好ましく、アルコキシカルボニル基およびアリロキシカルボニル基が特に好ましい。
【0012】
上記式(I)で表される環状オレフィンは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記式(I)で表される環状オレフィンとしては、たとえば、以下の化合物が例示できるが、これらの化合物に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
【0013】
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン
などを挙げることができる。
【0014】
このような環状オレフィンのうち、上記式(I)において、RおよびRがそれぞれ独立に、水素原子または炭素数が好ましくは1〜10、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1もしくは2の炭化水素基、好ましくはアルキル基、特に好ましくはメチル基であり;RおよびRがそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基であり、かつRおよびRのうちの少なくとも1つが水素原子または上記1価の極性基であり;mは0〜3の整数が好ましく、pは0〜3の整数が好ましく、より好ましくはm+pが0〜4、特に好ましくはm+pが0〜2であり、最も好ましくはm=1、p=0である環状オレフィンが望ましい。m=1、p=0である環状オレフィンは、ガラス転移温度が高く、かつ機械的強度も優れた環状オレフィン系樹脂が得られる点で最も好ましい。
【0015】
さらに、RおよびRのうちの少なくとも1つが、下記式(II)で表される極性基である環状オレフィンは、高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有する環状オレフィン系樹脂が得られる点で好ましい。
−(CHCOOR (II)
上記式(II)中、Rは炭素数が好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1または2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。また、nは、通常0〜5であり、nの値が小さい環状オレフィンほど、ガラス転移温度が高い環状オレフィン系樹脂が得られるため好ましく、nが0である環状オレフィンは合成が容易である点で特に好ましい。
特に、上記式(II)で表される極性基は、アルキル基であるRまたはRが結合している炭素原子に結合していることが、吸湿性の低い環状オレフィン系樹脂が得られる点で好ましい。
【0016】
重合体(1)および重合体(2):
上記重合体(1)および重合体(2)は、メタセシス触媒の存在下で、上記環状オレフィンを開環重合させる、または上記環状オレフィンと共重合性単量体とを開環共重合させることにより得ることができる。
【0017】
<共重合性単量体>
重合体(2)に用いられる共重合性単量体としては、シクロオレフィンが挙げられ、炭素数が好ましくは4〜20、より好ましくは5〜12のシクロオレフィンが望ましい。より具体的には、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどを挙げることができる。これらのシクロオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい
上記環状オレフィンと上記共重合性単量体との使用割合は、重量比(環状オレフィン/共重合性単量体)で100/0〜50/50が好ましく、100/0〜60/40が好ましい。なお、「環状オレフィン/共重合性単量体=100/0」は、環状オレフィンの単独重合における使用割合を意味する。
【0018】
<開環重合用触媒>
開環(共)重合反応において用いられるメタセシス触媒は、下記の化合物(a)と化合物(b)との組合せからなる触媒である。
(a)W、MoおよびReから選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物。
(b)デミングの周期律表IA族元素(例えば、Li、Na、Kなど)、IIA族元素(例えば、Mg、Caなど)、IIB族元素(例えば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIA族元素(例えば、B、Alなど)、IVA族元素(例えば、Si、Sn、Pbなど)およびIVB族元素(例えば、Ti、Zrなど)から選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物であって、前記元素と炭素との結合または前記元素と水素との結合を少なくとも1つ有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物。
また、上記メタセシス触媒は、その活性を高めるために、後述の添加剤(c)を含んでいてもよい。
【0019】
上記化合物(a)の具体例としては、WCl、MoCl、ReOClなど、特開平1−132626号公報の第8頁左上欄下から第6行〜第8頁右上欄第17行に記載の化合物を挙げることができる。
上記化合物(b)の具体例としては、n−CLi、(CAl、(CAlCl、(C1.5AlCl1.5、(C)AlCl、メチルアルモキサン、LiHなど、特開平1−132626号公報の第8頁右上欄第18行〜第8頁右下欄第3行に記載の化合物を挙げることができる。
上記添加剤(c)としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができ、さらに特開平1−132626号公報の第8頁右下欄第16行〜第9頁左上欄第17行に記載の化合物を使用することもできる。
上記化合物(a)と化合物(b)との割合は、金属原子比〔(a):(b)〕で、通常1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30である。
上記添加剤(c)と化合物(a)との割合は、モル比〔(c):(a)〕で、通常0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1である。
メタセシス触媒の使用量は、上記化合物(a)と環状オレフィンとのモル比〔(a):環状オレフィン〕が通常1:500〜1:50,000、好ましくは1:1,000〜1:10,000となる量である。
【0020】
<重合反応用溶媒>
開環(共)重合反応において、溶媒は、後述する分子量調節剤溶液を構成する溶媒や、環状オレフィンおよび/またはメタセシス触媒の溶媒として使用される。このような溶媒としては、たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン;クロロベンゼンなどのハロゲン化アリール;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができる。これらの溶媒は単独であるいは混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
溶媒の使用量は、溶媒と環状オレフィンとの重量比(溶媒:環状オレフィン)が、通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜5:1となる量が望ましい。
【0021】
<分子量調節剤>
得られる開環(共)重合体の分子量は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によって調節することも可能であるが、分子量調節剤を反応系に共存させることによっても調節することができる。
好適な分子量調節剤としては、たとえば、エチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。また、これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
分子量調節剤の使用量は、開環重合反応に供される環状オレフィン1モルに対して、通常0.005〜0.6モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。
上記開環共重合体は、環状オレフィンと共重合性単量体とを開環共重合させて得ることができるが、さらに、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン化合物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を2つ以上含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下で環状オレフィンを開環共重合させてもよい。
【0022】
(3)水素添加(共)重合体:
上記開環(共)重合体は、そのままでも用いることができるが、さらにこれを水素添加して得られる水素添加(共)重合体(3)は、耐衝撃性に優れた樹脂として有用である。
水素添加反応は、通常の方法、すなわち開環(共)重合体を含む溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行うことができる。
【0023】
<水素添加触媒>
上記水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられる触媒を使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒および均一系触媒が挙げられる。
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。これらの触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
これらの水素添加触媒は、開環(共)重合体と水素添加触媒との重量比(開環(共)重合体:水素添加触媒)が、1:1×10−6〜1:2となる割合で使用することが好ましい。
上記水素添加(共)重合体(3)は、優れた熱安定性を有し、成形加工時や製品として使用する際の加熱によっても、その特性が劣化することはない。
水素添加(共)重合体(3)の水素添加率は、500MHzの条件でH−NMRにより測定した値が、通常50%以上、好ましく70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れ、長期にわたって安定した特性を有する光拡散板を得ることができる。
また、上記水素添加(共)重合体(3)は、ゲル含有量が5重量%以下であることが好ましく、特に1重量%以下であることが好ましい。
【0024】
(4)水素添加(共)重合体:
上記水素添加(共)重合体(4)は、上記(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加することにより得ることができる。
上記開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化する方法は、特に限定されず、たとえば、特開昭50−154399号公報に記載の酸性化合物を用いた公知の方法が採用できる。
上記酸性化合物として具体的には、AlCl、BF、FeCl、Al、HCl、CHClCOOH、ゼオライト、活性白土などのルイス酸、ブレンステッド酸が挙げられる。
環化された開環(共)重合体は、上記開環(共)重合体の水素添加反応と同様にして、水素添加することができる。
【0025】
(5)飽和共重合体:
上記飽和共重合体(5)は、付加重合触媒の存在下で、上記環状オレフィンに、たとえば、エチレン、プロピレン、ブテンなどのオレフィン系化合物などの不飽和二重結合含有化合物を付加重合させることにより得ることができる。付加重合法は従来公知の方法を適用できる。
不飽和二重結合含有化合物の使用量は、環状オレフィンと不飽和二重結合含有化合物との重量比(環状オレフィン/不飽和二重結合含有化合物)で、90/10〜40/60が好ましく、85/15〜50/50がより好ましい。ただし、環状オレフィンと不飽和二重結合含有化合物との合計重量を100とする。
【0026】
(6)付加型(共)重合体およびその水素添加(共)重合体:
上記付加型(共)重合体(6)は、上記環状オレフィンに、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体を付加重合させることにより得ることができる。
上記ビニル系環状炭化水素系単量体としては、たとえば、ビニルシクロアルケン系単量体、ビニルシクロアルカン系単量体、スチレン系単量体、テルペン系単量体などが挙げられる。また、上記シクロペンタジエン系単量体としては、たとえば、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−メチルシクロペンタジエンなどが挙げられる。
上記付加重合反応は、飽和共重合体(5)における付加重合反応と同様にして実施することができる。
上記付加型(共)重合体(6)の水素添加(共)重合体は、上記付加型(共)重合体(6)を、上記水素添加(共)重合体(3)と同様の方法により水素添加することにより得ることができる。
【0027】
(7)交互共重合体:
上記交互共重合体(7)は、ルイス酸等の存在下で上記環状オレフィンとアクリレートとをラジカル重合させることにより得ることができる。なお、本発明における「交互共重合体」とは、環状オレフィンに由来する構造単位同士が隣接しない共重合体、すなわち、環状オレフィンに由来する構造単位の隣には必ずアクリレートに由来する構造単位が結合している共重合体を意味する。ただし、アクリレート由来の構造単位同士は隣接して存在していてもよい。
【0028】
上記環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、通常130℃以上、好ましくは130〜350℃、さらに好ましくは130〜250℃、特に好ましくは140〜200℃である。Tgが上記範囲にある樹脂は、高温条件下での使用やコーティングおよび印刷などの加熱を伴う二次加工においても変形しにくく、また、成形加工性に優れ、成形加工時の熱による樹脂の劣化も起こりにくい。
【0029】
<添加剤>
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂には、さらに、近赤外線吸収剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含有させて使用することができる。
【0030】
《近赤外線吸収剤》
近赤外線吸収剤としては、例えば、近赤外線を吸収する金属錯体系化合物を用いることができる。本発明において用いられる近赤外線を吸収する金属錯体系化合物とは、良溶媒に溶解したとき、係る溶液の波長800〜1000nmにおける光路長1cmで測定された分光透過率が60%以下、好ましくは30%以下となる濃度範囲を有する化合物が望ましい。また、PDP用前面板など用途によっては、波長400〜700nmのいわゆる可視光領域において、前記条件で測定された全光線透過率が50%以上、好ましくは65%以上であることが必要な場合もある。
【0031】
前記化合物としては、近赤外線を吸収する色素として作用する金属錯体系化合物をいずれも用いることができ、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物などを挙げることができる。具体的には、たとえば、特開平8−225752号公報、特開平8−253693号公報、特開平9−111138号公報、特開平9−157536号公報、特開平9−176501号公報、特開平9−263658号公報、特開2000−212546号公報、特開2002−200711号公報などにその構造や製造方法が開示されている金属錯体系化合物を挙げることができる。また、たとえば、CIR−1080、CIR−1081(日本カーリット製)、YKR−3080、YKR−3081(山本化成製)、イーエクスカラーIR−10、IR−12、IR−14(日本触媒製)、SIR−128、SIR−130、SIR−159、PA−1001、PA−1005(三井化学ファイン製)などのフタロシアニン系化合物などの市販品を用いることもできる。
【0032】
なお、本発明においては、金属イオンとキレート形成化合物とを独立に添加し、係る金属イオンとキレート形成化合物とが反応して近赤外線を吸収する金属錯体系化合物、すなわち特定色素を形成するようにしてもよい。係る特定色素としては、例えば、特開平6−118288号公報に記載されている、リン酸エステル化合物と銅イオンとの反応生成物などが挙げられる。
【0033】
さらに、本発明における前記化合物としては、本発明に用いる環状オレフィン系樹脂中の極性基と金属イオンとが錯体を形成して、近赤外線吸収能を有するようになる化合物も含むこともできる。
【0034】
本発明において、前記近赤外線吸収剤は所望の特性に応じて適宜選択されるが、本発明に用いる環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜20.0重量部、好ましくは0.02〜10.0重量部、さらに好ましくは0.05〜5.0重量部である。使用量が上記範囲内にあると、可視光透過率に優れた近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0035】
《その他添加剤》
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、環状オレフィン系樹脂にさらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加することができる。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
また、後述する溶液キャスティング法により環状オレフィン系樹脂基板を製造する場合には、レベリング剤や消泡剤を添加することで該基板の製造を容易にすることができる。
【0038】
なお、これら添加剤は、基板を形成する際に、環状オレフィン系樹脂とともに混合してもよいし、環状オレフィン系樹脂を製造する際に添加することで予め配合されていてもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択されるものであるが、環状オレフィン系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部であることが望ましい。
【0039】
<環状オレフィン系樹脂基板の製造方法>
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂製の透明基板は、溶融成形することにより、あるいはキャスティング(キャスト成形)方法により成形することができる。
【0040】
《溶融成形》
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂基板は、環状オレフィン系樹脂を直接溶融成形することにより得ることができる。
また、環状オレフィン系樹脂と近赤外線吸収剤などの添加剤とを含有する樹脂組成物を溶融成形する場合には、例えば、樹脂と近赤外線吸収剤などの添加剤とを溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法、樹脂、添加剤、および溶媒を含む液状樹脂組成物から溶剤を除去して得られたペレットを溶融成形する方法などにより製造することができる。
溶融成形方法としては、例えば、射出成形、溶融押出成形あるいはブロー成形などを挙げることができる。
【0041】
《キャスティング》
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂基板は、樹脂を溶媒に溶解した液状樹脂組成物、あるいは、樹脂、近赤外線吸収剤などの添加剤、および溶媒を含む液状樹脂組成物を適切な基材の上にキャスティングして溶剤を除去することにより製造することもできる。例えば、スチールベルト、スチールドラムあるいはポリエステルフィルムなどの基材の上に、上述の液状樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後基材から塗膜を剥離することにより、前記基板を得ることができる。また、ガラス、石英あるいは透明プラスチック製の光学部品に上述の液状組成物をコーティングして溶剤を乾燥させることにより、元の光学部品上に前記基板を形成することができる。
前記方法で得られた前記基板中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が上記範囲を超える場合、経時的に樹脂基板が変形したり特性が変化したりして所望の機能が発揮できなくなることがある。
【0042】
《環状オレフィン系樹脂基板の性能》
上述のようにして得られた基板の飽和吸水率は、通常2.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下、さらに好ましくは0.8重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲を超える場合、係る樹脂から得られた樹脂基板が、使用される環境によっては経時的に吸水(湿)変形するなど耐久性に問題が生じる場合がある。なお、前記飽和吸水率はASTM D570に従い、23℃の水中で1週間浸漬して増加重量を測定することにより得られる値である。
また、基板の厚みとしては通常0.05〜1.0mmの厚み、好ましくは0.08〜0.5mmの厚み、特に好ましくは0.1〜0.3mmの厚みとして使用することができる。
このような厚みとすることにより、近赤外線カットフィルターを軽量化、薄型化することができ、固体撮像素子の視感度補正用の近赤外線カットフィルターとして、特に、固体撮像素子収納用パッケージの透光性蓋体として好適に用いることができる。
【0043】
〔近赤外線反射膜〕
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、上述した環状オレフィン系樹脂基板に近赤外線反射膜が積層された構造を有する。当該近赤外線反射膜としては、誘電体多層膜が好ましく用いられ、特に、誘電体層Aと、誘電体層Aが有する屈折率よりも高い屈折率を有する誘電体層Bとを交互に積層した誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜が好ましく用いられる。このような誘電体多層膜を少なくとも透明基板の一方の面に有することにより、近赤外線を反射する能力に優れた近赤外線カットフィルターとすることができる。
【0044】
<誘電体層A>
誘電体層Aを構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を通常用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択される。
これら材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。
【0045】
<誘電体層B>
誘電体層Bを構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、好ましくは、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択される。
これら材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化インジウムを主成分とし酸化チタン、酸化錫、酸化セリウムなどを少量含有させたものなどが挙げられる。
【0046】
<積層方法>
誘電体層Aと誘電体層Bとを積層する方法については、これら材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はないが、例えば、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法などにより、誘電体層Aと誘電体層Bとを交互に積層することにより誘電体多層膜を形成することができる。
これら誘電体層Aおよび誘電体層Bの各層の厚みは、通常、遮断しようとする近赤外線波長λ(nm)の0.1λ〜0.5λの厚みである。厚みが上記範囲外になると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)がλ/4で算出される光学的膜厚と大きく異なって反射・屈折の光学的特性の関係が崩れてしまい、特定波長の遮断・透過をするコントロールができなくなってしまう傾向になる。
前記誘電体多層膜の積層数は、環状オレフィン系樹脂基板の一方の面にのみ前記誘電体多層膜を有する場合は、通常10〜80層の範囲で、好ましくは25〜50層の範囲である。一方、基板の両面に前記誘電体層膜を有する場合は、前記誘電体層の積層数は、基板両面の積層数全体として、通常10〜80層の範囲で、好ましくは25〜50層の範囲である。
【0047】
また、近赤外線吸収剤を含有する環状オレフィン系樹脂を基板として用いる場合は、基板の一方の面にのみ前記誘電体多層膜を有する場合は、前記誘電体多層膜における積層数は、5〜40層、好ましくは10〜30層とすることができ、基板の両面に前記誘電体層膜を有する場合は、前記誘電体層の積層数は、基板両面の積層数全体として、5〜40層、好ましくは10〜30層とすることができる。近赤外線吸収剤を含有する環状オレフィン系樹脂を基板として用いる場合は、さらに生産性を高め、前記誘電体多層膜を割れにくくすることができる。
【0048】
<特定機能膜>
本発明に係る近赤外線カットフィルターには、等価屈折率膜、反射防止膜、ハードコート膜から選ばれる少なくとも一種の機能膜(以下、「特定機能膜」ともいう)が用いられる場合もある。
【0049】
等価屈折率膜とは、前記透明基板とほぼ同一の等価屈折率を有する膜である。これら等価屈折率膜としては、例えば、シリカ層/アルミナ層/シリカ層の三層からなるアルミナ層を中心とした対称三層膜を挙げることができる。なお、前記対称三層膜を等価屈折率膜として用いる場合には、各層の膜厚を調整することで屈折率を透明基板とほぼ同一とすることができる。
【0050】
反射防止膜とは、本発明に係る近赤外線カットフィルターに入射した光の反射を防止することにより透過率を向上させ、効率よく入射光を利用する機能を有する膜をいう。反射防止膜として用いることができる材料としては、例えば酸化ジルコニウム、アルミナ、フッ化マグネシウムなどが挙げられる。反射防止膜は、例えば、これら材料のいずれか一つの材料からなる一層、またはこれら材料からなる複数の層を組み合わせた多層膜などが挙げられる。
【0051】
ハードコート膜とは、高硬度の膜であって、本発明に係る近赤外線カットフィルターの耐傷付き性を向上させる機能を有する膜をいう。
ハードコート膜に用いることができる材料としては、例えば、有機系材料としてシリコーン系ハードコート材、アクリレート系ハードコート材、オキセタン系ハードコート材などを挙げることができる。また、無機系材料として水系シリケートハードコート材、水系アルミナハードコート材などを挙げることができる。また、上記材料などを組み合わせた等、有機無機ハイブリッド系ハードコート材なども挙げることができる。
【0052】
これら特定機能膜の製膜方法は特定機能膜が形成される限り特に制限はないが、例えば、原料物質をCVD法、スパッタ法、真空蒸着法などにより製膜したり、原料物質を含有する液状組成物を塗布、乾燥して製膜したりすることにより得ることができる。
【0053】
〔積層体(近赤外線カットフィルター)の構成〕
本発明に係る近赤外線カットフィルターを構成する積層体は、環状オレフィン系樹脂基板の少なくとも一方の面、好ましくは両面に、前記誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜を有する。誘電体多層膜が上記基板の一方の面のみに存在する場合は、前記基板の他方の面に少なくとも1種の前記特定機能膜を有してもよい。
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、前記基板の両面に前記誘電体多層膜からなる近赤外線反射膜を有することが好ましい。 このような特徴を有することにより、本発明に係る近赤外線カットフィルターは、反りや誘電多層膜の割れが少なくなる。
【0054】
<膜形成方法>
上述した近赤外線反射膜、あるいは特定機能膜を前記透明基板に有するようにするためには、例えば、上述のCVD法、スパッタ法、真空蒸着法により、直接前記透明基板上に、上述した近赤外線反射膜、あるいは特定機能膜を形成するか、あるいは、上述の方法により得られた近赤外線反射膜、あるいは特定機能膜を透明基板上に接着剤で張り合わせることにより得ることができる。
また、特定機能膜が原料物質を含有する液状組成物から得られる場合には、例えば、この液状組成物を透明基板上に直接塗布し、乾燥することによって得ることもできる。
また、透明基板の一方の面に前記特定機能膜を有する場合は、その特定機能膜は1種であってもよいが、複数種の特定機能膜を積層してもよい。複数種の特定機能膜を積層する場合には、例えば、上述した膜形成方法によって、複数種の特定機能膜を積層することができる。
このようにして本発明に係る近赤外線カットフィルターを作製することにより、反りや誘電多層膜の割れの少ない近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0055】
〔保護フィルム〕
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、環状オレフィン系樹脂基板、近赤外線反射膜および必要に応じて上記特定機能膜を積層してなる積層体に、さらに保護フィルムが積層された構造を有する。当該保護フィルムは、近赤外線カットフィルターを加工したり、固体撮像素子などに組み込んだりする作業を行ったりする際に、表面の傷付き・汚染を防止するために用いられるものであり、当該作業終了後に剥離されるものである。
これら保護フィルムは、上記積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力が、いずれも0.5N以下である必要があり、好ましくは0.3〜0.01Nであるものが好ましい。このような剥離力を有する保護フィルムを用いることにより、保護フィルム剥離後に近赤外線カットフィルター表面の反りが生じず、保護フィルムの粘着剤が残らずに、固体撮像素子に組み込んでも反りや光学特性の劣化が生じない近赤外線カットフィルターが得られる。なお、上記剥離力の測定は、JIS K 6854−1に準じ、近赤外線カットフィルターと保護フィルム積層体の試験片幅10mmとし、近赤外線カットフィルターを剛性被着材に両面粘着材を使用して固定した状態での、保護フィルムの剥離速度が50mm/minで測定した結果である。
保護フィルムの構造は、上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、熱可塑性樹脂フィルム上に粘着層を有する構造のものが用いられ、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、PET、PE系の樹脂等が用いられ、粘着層としてはEVA系、PE系、アクリル系、シリコン系の樹脂からなるものが用いられる。
保護フィルムは、上記積層体の表面に、通常、粘着層を介して積層される。
【0056】
〔近赤外線カットフィルターの用途〕
これら本発明で得られる近赤外線カットフィルターは、優れた近赤外線カット能を有し、割れにくい。したがって自動車や建物などのガラスなどに装着される熱線カットフィルターなどとして有用であるのみならず、特に、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどのCCDやCMOSなどの固体撮像素子の視感度補正に有用である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り「重量部」および「重量%」を意味する。
【0058】
まず、各物性値の測定方法および物性の評価方法について説明する。
(1)ガラス転移温度(Tg):
セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量計(DSC6200)を用いて、昇温速度:毎分10℃、窒素気流下で測定を行った。
(2)保護フィルムの剥離力:
JIS K 6854−1に準じ、インストロン社万能材料試験機(モデル5567)を使用して、近赤外線カットフィルターと保護フィルム積層体の試験片幅を10mmとし、近赤外線カットフィルター側を剛性被着材に両面粘着材を介して固定した状態で、保護フィルムを剛性被着材に対して90度の角度で、剥離速度が50mm/minで測定した。
(3)分光透過率:
日立製作所社製の分光光度計(U−3410)を用いて測定した。
【0059】
実施例1
JSR(株)製のノルボルネン系透明樹脂「アートンG」よりなる厚さ100μm、二辺の長さがそれぞれ110mm×260mmの基板の両面に、蒸着温度150℃で近赤外線を反射する誘電体多層膜(シリカ(SiO2:膜厚120〜190nm)層とチタニア(TiO2:膜厚70〜120nm)層とが交互に積層されてなるもの、積層数は片面25、計50)を蒸着により形成し、光学フィルターを製造した。この光学フィルターにラミネーターを使用して、サンエー化研製保護フィルム「PAC−3−50THK」を貼合した。この時の保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.02Nであった。その後、保護フィルムを貼合した状態で湿熱条件85℃×85%RHに240時間かけた。試験終了後、保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.15Nであり、手で容易に剥離できるレベルであった。また、保護フィルムを剥離した近赤外線カットフィルターの表面を観察したところ反りは認められず、光学顕微鏡を用いて観察したところ、保護フィルムの粘着材由来の糊残りは観察されなかった。また、可視光領域(波長400〜700nm)における分光透過率は90%以上であり、光学特性の低下は認められなかった。
【0060】
実施例2
実施例1と同様にして製造した光学フィルターに、積水化学製保護フィルム「6221FC−60」を貼合した。この時の保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.03Nであった。その後、保護フィルムを貼合した状態で湿熱試験85℃×85%RHに240時間かけた。試験終了後、保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.31Nであり、手で容易に剥離できるレベルであった。また、保護フィルムを剥離した近赤外線カットフィルターの表面を観察したところ反りは認められず、光学顕微鏡を用いて観察したところ、保護フィルムの粘着材由来の糊残りは観察されなかった。また、可視光領域(波長400〜700nm)における分光透過率は90%以上であり、光学特性の低下は認められなかった。
【0061】
比較例1
実施例1と同様にして製造した光学フィルターに、サンエー化研製保護フィルム「PAC−3−60T」を貼合した。この時の保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.15Nであった。その後、保護フィルムを貼合した状態で湿熱試験85℃×85%RHに240時間かけた。試験終了後、保護フィルムの剥離力を調べたところ、2.5N以上であり、手での剥離が困難なレベルであった。また、保護フィルムを剥離した近赤外線カットフィルターの表面を観察したところ一部に損傷が認められ、光学顕微鏡を用いて観察したところ、保護フィルムの粘着材由来の糊残りは観察されなかった。また、可視光領域(波長400〜700nm)における分光透過率は90%以上であり、光学特性の低下は認められなかった。
【0062】
比較例2
実施例1と同様にして製造した光学フィルターに、三井化学製保護フィルム「MPF451K」を貼合した。この時の保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.89Nであり、手での剥離が困難なレベルであり、近赤外線カットフィルターの表面に損傷が認められた。その後、保護フィルムを貼合した状態で湿熱試験85℃×85%RHに240時間かけた。試験終了後、保護フィルムの剥離力を調べたところ、0.40Nであった。また、保護フィルムを剥離した近赤外線カットフィルターの表面を観察したところ、損傷は無く、保護フィルムの粘着材由来の糊残りは観察されなかった。また、可視光領域(波長400〜700nm)における分光透過率は90%以上であり、光学特性の低下は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂基板および近赤外線反射膜を有する積層体にさらに保護フィルムが積層された構造を有し、当該保護フィルムの積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力が、いずれも0.5N以下であることを特徴とする、近赤外線カットフィルター。
【請求項2】
積層体が、環状オレフィン系樹脂基板の両面に近赤外線反射膜が積層された構造を有し、当該積層体の両面にさらに保護フィルムが積層された構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の近赤外線カットフィルター。
【請求項3】
環状オレフィン系樹脂基板および近赤外線反射膜を積層して積層体を形成し、当該積層体に、積層体表面からの剥離力と、温度85℃かつ湿度85%の条件下で240時間保存した後の該剥離力がいずれも0.5N以下である保護フィルムをさらに積層することを特徴とする、近赤外線カットフィルターの製造方法。