説明

送信制御方法

【課題】伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果を得る。
【解決手段】複数の送信アンテナに出力信号を送出するにあたり、複数の送信アンテナの出力信号のそれぞれに遅延を生じさせ、チャンクの周波数帯域幅をFcとしたとき、特定の物理チャネルに対して複数の送信アンテナ間の最大遅延時間が1/Fcより大きい所定の値になるように、遅延を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信制御方法に関し、特に、複数の送信アンテナを使用して、無線受信機に対して信号を送信するための無線送信機に関する。
本願は、2005年9月1日に日本に出願された特願2005−253194号および2005年12月21日に日本に出願された特願2005−367860号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、主にマルチキャリア伝送システムにおいて、周波数軸と時間軸に沿った複数のブロックに分け、このブロックを基本として無線送信機からユーザ毎に送信する信号のスケジューリングを行う方法が提案されている。なお、ここでは、ユーザが通信を行う際に確保される周波数軸と時間軸で規定される領域を割り当てスロットと呼び、その割り当てスロットを決める際に基本となるブロックをチャンクと呼んでいる。
【0003】
この中でも、ブロードキャスト信号やマルチキャスト信号、制御信号を送信する場合には、周波数軸方向に広いブロックを割り当てて、周波数ダイバーシチ効果を得ることにより、受信電力が低い場合にも誤りを低減させる方法が提案されている。また、無線送信機と無線受信機の間の1対1通信であるユニキャスト信号を送信する場合には、周波数軸方向に狭いブロックを割り当てて、マルチユーザダイバーシチ効果を得たりすることにより、無線受信機での受信電力を向上させる方法が提案されている。
【0004】
図16Aおよび16Bは、無線送信機から無線受信機に送信する信号の時間(横軸)と周波数(縦軸)の関係を示した図である。図16Aにおいて、横軸は時間、縦軸は周波数を示す。時間軸において伝送時間t〜tを設定する。ただし、伝送時間t〜tの時間幅は同一である。周波数軸において伝送周波数f〜fを設定する。ただし、伝送周波数f〜fの周波数幅はいずれもFで同一である。このように、伝送時間t〜t、伝送周波数f〜fによって、15個のチャンクK〜K15を図16Aに示すようにして設定する。
【0005】
更に、図16Bに示すように、5個のチャンクK1〜K5を結合し、かつ、時間軸方向に6等分して、時間幅がt/6、周波数幅が、5f1の通信スロットs〜sを設定する。第1ユーザに通信スロットs、sを割り当て、第2ユーザに通信スロットs、sを割り当て、第3ユーザに通信スロットs、sを割り当てる。これにより、第1〜第3ユーザは周波数ダイバーシチ効果を得ることができる。
【0006】
次に、チャンクK10を通信スロットs11として、第4ユーザに割り当てる。チャンクK、K、Kを統合して時間幅がt、周波数幅が3fの通信スロットs〜s10を形成して、これを第5ユーザに割り当てる。更に、チャンクKを第6ユーザに通信スロットsとして割り当てる。これにより、第4〜第6ユーザはいずれもマルチユーザダイバーシチ効果を得るとともに、第5ユーザは、周波数ダイバーシチ効果を得ることができる。
【0007】
更に、チャンクK11を別の第7ユーザに通信スロットs12として割り当てる。これにより、このユーザは、マルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。更にチャンクK13、K15を別の第8ユーザに通信スロットs19、s26として割り当てる。これにより、このユーザはマルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。
更に、2個のチャンクK12、K14を時間軸方向に等分に6分割し、図示のように通信スロットs13〜s18、s20〜s25を形成する。第9ユーザに通信スロットs13、s16、s20、s23を割り当て、第10ユーザに通信スロットs14、s17、s21、s24を割り当て、第11ユーザに通信スロットs15、s18、s22、s25を割り当てる。これにより、第9〜第11ユーザはいずれも周波数ダイバーシチ効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】3GPP寄書,R1−050249,“Downlink Multiple AccessScheme for Evolved UTRA”,[2005年8月17日検索]、インターネット(URL:ftp://ftp.3gpp.org/TSG_RAN/WG1_RL1/TSGR1_40bis/Docs/R1−050249.zip)
【非特許文献2】3GPP寄書,R1−050590,“Physical Channels and Multiplexing in Evolved UTRA Downlink”,[2005年8月17日検索]、インターネット(URL:ftp://ftp.3gpp.org/TSG_RAN/WG1_RL1/R1_Ad_Hocs/LTE_AH_JUNE−05/Docs/R1−050590.zip)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の方式において、周波数ダイバーシチ効果を得るためには、伝搬路の伝達関数の周波数変動に応じて、拡散率を大きくしたり、誤り訂正符号化時の符号化率を低くしたりする必要がある。
【0010】
図17Aおよび17Bならびに図18Aおよび18Bは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルと伝達関数を示す図である。
【0011】
図17Aおよび図18Aは、送信信号が遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する様子を時間(横軸)と電力(縦軸)の点から示した遅延プロファイルを表している。また、図17Bおよび図18Bは、遅延プロファイルを周波数変換し、周波数(横軸)と電力(縦軸)の点から示した伝達関数を表している。
【0012】
また、図17Aは6波の遅延波w11〜w16が存在する場合を示しており、図18Aは3波の遅延波w21〜w23が存在する場合を示している。両者では最大遅延時間t1、t2が異なる。
【0013】
図17Aおよび17Bに示すように、最大遅延時間t1が大きい、つまり比較的、伝達関数の周波数変動が早い(周波数方向の電力変動が速い)場合には、拡散率が小さいときや、誤り訂正符号化時の符号化率が高いときでも、十分な周波数ダイバーシチ効果が期待できる。しかし、図18Aおよび18Bに示すように最大遅延時間t2が小さい、つまり比較的、伝達関数の周波数変動が緩やかな場合には、拡散率が小さいときや、誤り訂正符号化時の符号化率が高いときには、十分な周波数ダイバーシチ効果が期待できず、拡散率を大きくしたり、誤り訂正符号化時の符号化率を低くしたりする必要がある。
【0014】
なお、図17Bおよび図18BのD1及びD2は信号、すなわちデータを示している。
すなわち、図17Bでは、データD1、D2のそれぞれに対して、スペクトラム拡散技術の拡散比を4として、データD1に対して4つのサブキャリアa11〜a14を割り当てる。同様にして、データD2に対しても4つのサブキャリアa15〜a18を割り当てる。この場合は、伝達関数の周波数変動が早いので、データD1に対してはサブキャリアa13の受信電力が著しく低下するのみであり、データD2に対してもサブキャリアa16の受信電力が著しく低下するのみである。従って、データD1、D2のいずれについても受信に支障はない。
【0015】
図18Bでは、拡散比を8として、データD1に対して8つのサブキャリアa21〜a28を割り当てている。この場合は、伝達関数の周波数変動が遅いので、サブキャリアa24の受信部が著しく低下し、サブキャリアa23、a25の受信電力も若干低下するが、図17Bの場合よりもデータ拡散比を大きくしているので、データD1の受信に支障はない。なお、上記拡散比の数値は説明の便宜であり、これに限定されない。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、無線送信機側で拡散率や、誤り訂正符号の符号化率を制御しなくても、十分な周波数ダイバーシチ効果を得ることができる送信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題を解決するために、本発明は、周波数方向と時間方向に分割されたチャンクごとにスロット割当を行う伝送システムにおける送信制御方法であって、複数の送信アンテナに出力信号を送出するにあたり、前記複数の送信アンテナの出力信号のそれぞれに遅延を生じさせ、前記チャンクの周波数帯域幅をFcとしたとき、特定の物理チャネルに対して前記複数の送信アンテナ間の最大遅延時間が1/Fcより大きい所定の値になるように、前記遅延を制御することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、前記特定の物理チャネルがマルチキャスト/ブロードキャストチャネルであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、前記特定の物理チャネルが同期チャネルであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、第一の前記送信アンテナに対する第二の前記送信アンテナの遅延時間をTとし、前記第一の送信アンテナに対する第三の前記送信アンテナ以降の前記送信アンテナの遅延時間をTの倍数によって順次遅延量が大きくなるように設定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、前記複数の送信アンテナのそれぞれの入力信号に付加する遅延時間を制御することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、信号の送信に利用する送信アンテナ数を減らすことにより、前記最大遅延時間を短縮するよう制御することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、時間領域で遅延を付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、前記送信アンテナのそれぞれの入力信号に有効シンボル区間内において遅延を付加し、前記遅延が付加された有効シンボル区間毎にガードインターバルを付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、周波数領域で遅延を付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、上記の送信制御方法において、前記伝送システムはマルチキャリア伝送システムであり、ユーザ毎に信号処理された信号をサブキャリアに割り当て、サブキャリア毎に所定量の位相回転を行うことにより最大遅延時間を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、チャンクの周波数帯域幅をFcとしたとき、特定の物理チャネルに対して複数の送信アンテナ間の最大遅延時間が1/Fcより大きい所定の値になるように、遅延を制御することにより、伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態による無線送信機が送信する信号が、複数の伝搬路を通って、無線受信機へ到達することを示す概略図である。
【図2A】図2Aは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルを示す図である。
【図2B】図2Bは、図2Aに示された遅延プロファイルを周波数変換して得られる伝達関数を示す図である。
【図3A】図3Aは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の別の遅延プロファイルを示す図である。
【図3B】図3Bは、図3Aに示された遅延プロファイルを周波数変換して得られ、無線受信機における伝達関数を示す図である。
【図3C】図3Cは、図3Aに示された遅延プロファイルを周波数変換して得られ、位置の異なる他の無線受信機における伝達関数を示す図である。
【図4A】図4Aは、遅延プロファイルにおける最大遅延時間(n−1)Tを示す図である。
【図4B】図4Bは、図4Aに示された最大遅延時間(n−1)Tと、周波数変動との関係を示す図である。
【図5A】図5Aは、遅延プロファイルにおける別の最大遅延時間(n−1)Tを示す図である。
【図5B】図5Bは、図5Aに示された最大遅延時間(n−1)Tと、周波数変動との関係を示す図である。
【図6A】図6Aは、無線送受信システムにおいて、無線送信機の複数アンテナから同一信号を遅延時間を与えずに送信した場合を示す図である。
【図6B】図6Bは、図6Aに示されたシステムにおける受信信号の一例を示す図である。
【図6C】図6Cは、図6Aに示されたシステムにおける受信信号の他の例を示す図である。
【図7A】図7Aは、無線送受信システムにおいて、無線送信機の複数の送信アンテナから同一信号を異なる遅延時間を与えて送信した場合を示す図である。
【図7B】図7Bは、図7Aに示されたシステムにおける受信信号の一例を示す図である。
【図7C】図7Cは、図7Aに示されたシステムにおける受信信号の他の例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の第2の実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。
【図9A】図9Aは、本発明の第3の実施形態の送信信号に対して、循環遅延を付加した信号の一例を示す図である。
【図9B】図9Bは、本発明の第3の実施形態の送信信号に対して、循環遅延を付加した信号の他の例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の第3の実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、本発明の第3の実施形態における循環遅延付加部119−1の動作を説明するための図である。
【図12】図12は、本発明の第4の実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は、本発明の第5の実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。
【図14】図14は、各物理チャネルにおける、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tとチャンクの周波数帯域幅Fcとの関係を示す表である。
【図15】図15は、各物理チャネルにおける、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tとチャンクの周波数帯域幅Fcとの別の関係を示す表である。
【図16A】図16Aは、無線送信機から無線受信機に送信する信号の時間(横軸)と周波数(縦軸)の関係を示した図である。
【図16B】図16Bは、図16Aに示された時間―周波数空間に割り当てられた通信スロットを示す図である。
【図17A】図17Aは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルを示す図である。
【図17B】図17Bは、図17Aに示された遅延プロファイルを周波数変換して得られる伝達関数を示す図である。
【図18A】図18Aは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルを示す図である。
【図18B】図18Bは、図18Aに示された遅延プロファイルを周波数変換して得られる伝達関数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1の実施形態]
図1は、無線送信機1が送信する信号が、複数の伝搬路を通って、無線受信機7へ到達することを示す概略図である。無線送信機1は複数の送信アンテナ2〜4を持ち、それぞれの送信アンテナ2〜4に異なる遅延時間0、T、2Tをそれぞれ与え、各送信アンテナ2〜4から送信する。無線受信機7は、無線送信機1から送信された信号を受信する。なお、図1では、一例として無線送信機1が3本の送信アンテナ2〜4を備える場合について説明している。
【0030】
なお、ここで説明する複数の送信アンテナとは、携帯電話などの基地局設備である無線送信機に搭載される送信アンテナを想定すると、同一セクタ内、同一基地局装置内の異なるセクタ間、異なる基地局装置間の3種類の送信アンテナを想定することができる。ここでは、一例として、同一セクタ内に設置された場合について説明するが、他の構成としてもよい。つまり、n本の送信アンテナが複数の異なるセクタに属していてもよいし、n本の送信アンテナが複数の異なる基地局装置に属していてもよい。
また、図中の遅延器5、6は遅延時間Tを与えるものとし、これにより上述したように、送信アンテナ3では遅延時間Tが、送信アンテナ4では遅延時間2Tが与えられるものとする。
【0031】
図2Aおよび2Bは、遅延時間の異なる複数(3つ)の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルと伝達関数を示す図である。図2Aは、送信信号が複数の遅延時間の異なる伝搬路を通り無線受信機に到達する様子を時間(横軸)と電力(縦軸)の点から示した遅延プロファイルを表している。図2Aに示すように、瞬時の遅延プロファイルは、2T+dmaxの最大遅延波を持つことになり、各送信アンテナから同一信号を送信した場合に比べ、最大遅延波が非常に大きくなる。なお、dmaxは、送信アンテナから受信アンテナに電波が到達する際の、もっとも到達の速い伝搬路と、遅い伝搬路の到達時間差を示している。
【0032】
図2Bは、図2Aの遅延プロファイルを周波数変換し、周波数(横軸)と電力(縦軸)の点から示した伝達関数を表している。このように、遅延プロファイルにおいて最大遅延時間2T+dmaxが大きくなるということは、伝達関数の周波数変動が速くなることを意味する。従って、図2Bに示すように(図17Bと同様に)、データD1、D2をそれぞれ拡散比が4で拡散して、サブキャリアを割り当てる。なお、無線送信機1側では、この伝達関数の周波数変動に応じて、拡散率又は誤り訂正符号の符号化率を制御することが望ましいが、上記方法では、無線送信機1側で、遅延時間2Tが既知であることから、伝搬路の周波数変動に関わらず、拡散率又は誤り訂正符号の符号化率を決めることができる。
一方、マルチユーザダイバーシチ効果を得たい場合は、瞬時の遅延プロファイルにおける最大遅延時間2T+dmaxがあまり大きくないことが望ましい。図3A〜3Bを用いて、マルチユーザダイバーシチ効果を説明する。
【0033】
図3A〜3Cは、遅延時間の異なる複数の伝搬路を通り無線受信機に到達する信号の遅延プロファイルと伝達関数を示す図である。図3Aは、送信信号が複数(3つ)の遅延時間の異なる伝搬路を通り無線受信機に到達する様子を時間(横軸)と電力(縦軸)の点から示した遅延プロファイルを表している。
図3Bは、ユーザu1が使用する無線受信機での伝達関数を示している。また、図3Cは、ユーザu2が使用する無線受信機での伝達関数を示している。ユーザu1とユーザu2とでは無線受信機の位置が異なるため、瞬時の伝達関数が異なる。
【0034】
つまり、図3Bおよび3Cの左側の領域を周波数チャネルb1、右側の領域を周波数チャネルb2とすると、ユーザu1では周波数チャネルb2の方が品質が良く、ユーザu2では周波数チャネルb1の方が品質が良くなる。従って、ユーザu1には、周波数チャネルb2でデータD1〜D4を送信する。データD1〜D4は、スペクトラム拡散されている。ユーザu2には、周波数チャネルb1でデータD1〜D4を送信する。この場合もデータD1〜D4はスペクトラム拡散されている。
【0035】
このように、ある瞬間において周波数チャネルごとの品質差を利用すると、周波数チャネル毎に異なるユーザが通信を行うことにより、伝送効率を向上させるマルチダイバーシチ効果を得ることができる。
しかしながら、最大遅延時間2T+dmaxが大きすぎると、伝達関数の周波数変動が早くなり、上記の周波数チャネルb1と周波数チャネルb2の間の品質差が小さくなる。
従って、十分なマルチユーザダイバーシチ効果を得るためには、図3Aに示すように、最大遅延時間2T+dmaxを小さくすることが重要となる。
【0036】
図4Aおよび4B、ならびに図5Aおよび5Bは、最大遅延時間(n−1)Tと、周波数変動の関係を示す図である。図4Aに示すように、2つの到来波w31、w32の到達時間差が(n−1)Tである場合、この伝搬路の伝達関数は図4Bに示すようになる。つまり、電力(縦軸)の振幅の落ち込みの周波数間隔が、F=1/(n−1)Tとなる。
また、図5Aに示すように、複数の遅延波w41〜w43が存在する場合にも、最初に到達する到来波w41と最も遅く到達する遅延波w43との到達時間差が(n−1)Tである場合、やはり図5Bに示すように、電力(縦軸)の振幅の落ち込みの周波数間隔はF=1/(n−1)Tとなる。
【0037】
ところで、周波数ダイバーシチ効果を得たい場合と、マルチユーザダイバーシチ効果を得たい場合では、先に述べたように、適切な伝達関数の周波数変動が異なることから、周波数ダイバーシチ効果を得たい場合には、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tを、ユーザが通信を行う際に確保される周波数軸と時間軸で規定される基本領域であるチャンクの周波数帯域幅Fとした場合、(n−1)T>1/Fと設定することにより、周波数ダイバーシチ効果を得やすい環境を得ることができる。
【0038】
これに対し、マルチユーザダイバーシチ効果を得たい場合には、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tを、チャンクの周波数帯域幅Fとした場合、(n−1)T<1/Fと設定することにより、マルチユーザダイバーシチ効果を得やすい環境を得ることができる。なお、以降の説明で、(n−1)T<1/Fとした場合には、(n−1)T=0の場合も含むものとする。また、以降の説明では、各送信アンテナに付加された遅延時間をTの(n−1)倍として表しており、Tは一定として考えているが、送信アンテナ毎にTが変わってもかまわない。また、マルチユーザダイバーシチ効果を得たい場合は、(n−1)T<1/Fと設定する代わりに信号の送信に利用する送信アンテナ数を減らすことにより、最大遅延時間を減らしてもよい。
以上説明したように、送信信号を周波数ダイバーシチにより送信するか、マルチユーザダイバーシチにより送信するかによって((n−1)T>1/Fとするか(n−1)T<Fとするかによって)、伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果やマルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。
【0039】
但し、図16Bで示した通信スロットsのように、複数の連続するチャンクを周波数方向に結合し通信を行う第1ユーザや、通信スロットs13、s16、s20、s23を割り当てられた第9ユーザのように、とびとびのチャンクを割り当てられたユーザでは、あるユーザに瞬時に割り当てられた通信スロットの帯域幅BW(第1ユーザではBW=5F、第9ユーザではBW=3F)が周波数ダイバーシチ効果を得られる基準となるため、最大遅延時間(n−1)T>1/BWと設定することにより周波数ダイバーシチ効果を得ることも可能である。
例えば、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときは、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/BWとなるように遅延時間Tを設定し、通知信号によりマルチユーザダイバーシチが通知されたときは、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T<1/Fとなるように遅延時間Tを設定するようにする。
また、図示しないが、複数のチャンクに渡って、各チャンクに含まれる一部のサブキャリアがあるユーザに割り当てられた場合には、そのユーザに割り当てられた通信スロットの帯域幅BWとは、瞬時に割り当てられたサブキャリアのうち、最も周波数方向に離れたサブキャリア間の間隔を示す。
なお、周波数ダイバーシチにより送信するか、マルチユーザダイバーシチにより送信するかは、送信を行う信号の種類(パイロット信号、制御信号、ブロードキャスト/マルチキャスト信号など)や、無線受信機の移動速度(移動速度が速い場合には周波数ダイバーシチ、遅い場合にはマルチユーザダイバーシチ)などにより切り替えることができる。
【0040】
図6A〜6Cは、無線送信機8の複数アンテナから同一信号を遅延時間を与えずに送信した場合の説明図である。図6Aのように、並列に並べられた、水平方向に無指向性の送信アンテナを複数(3つ)備える無線送信機8が設置されている場合を考えると、図6Aに示す楕円のようにローブe11、e12が生じてしまうため、無線受信機9のように受信信号が全周波数帯域で高い受信レベルで受信される方向もあれば(図6B参照)、無線受信機10のように受信信号が全帯域で低い受信レベルで受信される方向も生じてしまう(図6C参照)。
【0041】
図7A〜7Cは、無線送信機8の複数の送信アンテナから同一信号を異なる遅延時間を与えて送信した場合の説明図である。図7Aのように、並列に並べられた無指向性の送信アンテナを複数(3つ)備える無線送信機8が設置されている場合を考えると、狭帯域で考えた場合にはローブe21〜e26が生じるため、受信信号中で受信レベルの高い周波数帯域と低い周波数帯域が生じるが、平均の受信信号レベルは方向に寄らずほぼ一定にできるため、無線受信機9での信号の受信レベル(図7B参照)と、無線受信機10での信号の受信レベル(図7C参照)の双方においてほぼ同様の品質を得ることができる。従って、無線送信機8の送信アンテナ毎に異なる遅延時間を与えた信号を送信する方法は、図6A〜6Cで説明した複数の送信アンテナから同一信号を送信した場合の欠点も補うことができる。
【0042】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態では、無線送信機の構成について説明する。本実施形態の無線送信機は、第1の実施形態による無線送信機1(図1)と同様に、複数の送信アンテナを有する。
なお、ここで説明する無線送信機は、送信アンテナ毎に異なる遅延時間をつけ、信号を送信する無線送信機であり、この遅延時間の付加を時間領域で行うものである。
また、本実施形態で説明する送信アンテナ毎に異なる遅延時間をつけた信号とは、実際に1番目の送信アンテナからの送信信号に対して、Tだけ遅延した信号を2番目の送信アンテナから送信し、同様にn番目の送信アンテナの送信信号が(n−1)Tだけ遅延した信号を送信する場合を想定している。
【0043】
図8は、本実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。ここで、物理層部とは、無線送信機の構成のうち、特に送信信号を受け取り、無線伝送可能な形に信号処理を行い、無線周波数への周波数変換を行う無線周波数変換部に信号を渡す部分である。
図8に示すように、物理層部は、ユーザ毎信号処理部11a、11bと、アンテナ毎信号処理部12−1、12−2、12−3を有する。ユーザ毎信号処理部11a(ユーザ毎信号処理部11bも同様)は、各ユーザが使用する無線受信機に送信する信号に対して信号処理を行う。また、アンテナ毎信号処理部12−1(アンテナ毎信号処理部12−2、12−3も同様)は、送信アンテナ毎の信号処理を行う。
【0044】
ユーザ毎信号処理部11aは、誤り訂正符号化部13、変調部14、サブキャリア割り当て部15、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)部16、並列直列変換部17、GI(Guard Interval:ガードインターバル)付加部18、遅延付加部19−1、19−2、19−3を有する。
誤り訂正符号化部13は、送信信号の誤り訂正符号化を行う。変調部14は、誤り訂正符号化部13の出力に対し、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying:直交位相変調)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)などの変調処理を行う。
【0045】
サブキャリア割り当て部15は、変調部14の出力を上位層より通知されるサブキャリア割り当て情報に基づいて適切なサブキャリアに割り当てる。IFFT部16は、サブキャリア割り当て部15の出力に対して周波数時間変換を行う。
並列直列変換部17は、IFFT部16の出力を並列直列変換する。GI付加部18は、並列直列変換部17の出力に対しガードインターバルの付加を行う。遅延付加部19−1は、GI付加部18の出力に対して送信アンテナ毎に異なる遅延を付加する。
【0046】
なお、遅延付加部19−1〜19−3からの出力はそれぞれアンテナ毎信号処理部12−1、12−2、12−3に出力される。さらに、遅延付加部19−1〜19−3は、それぞれ異なる遅延(例えば、0、S、2S)を与える。ここで、S=T/サンプル時間とする。なお、ここで述べるサンプル時間とは、GI付加部18、遅延付加部19−1〜19−3、合成部20で処理されているデジタル信号の最小時間間隔のことを示している。
従って、遅延付加部19−1〜19−3においてSサンプルの遅延を付加することは、D/A変換部22の出力端で考えて時間Tの遅延を与えることに相当している。また、ユーザ毎信号処理部11aはあるチャンクで使用される、つまり、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらかで一方で使用されることから、物理層を制御する上位層より周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域で使用することを通知する通知信号(周波数div/マルチユーザdiv通知信号)を受信する。ユーザ毎信号処理部11aは、この通知信号に基づいて、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらを使用するか選択して、遅延時間Tを変える機能を有する。
なお、ユーザ毎信号処理部11bは、ユーザ毎信号処理部11aと同様の構成を有し、対象とするユーザのみが異なる。
【0047】
アンテナ毎信号処理部12−1は、合成部20、フィルタ部21、D/A(Digital/Analog:デジタル/アナログ)変換部22を有する。
合成部20は、ユーザ毎信号処理部11a、11bからアンテナ毎信号処理部12−1に出力された信号を足し合わせることにより合成する。フィルタ部21は、合成部20の出力のうち、所望帯域の信号のみを取り出す。D/A変換部22は、フィルタ部21の出力をデジタル/アナログ変換する。
なお、アンテナ毎信号処理部12−2、12−3もアンテナ毎信号処理部12−1と同様の構成を有する。アンテナ毎信号処理部12−1の出力は、それぞれ無線周波数への周波数変換を行う無線周波数変換部(図示省略)を通り、複数(3つ)の送信アンテナへ出力され、無線信号として送信される。
【0048】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態では、無線送信機の別の構成について説明する。本実施形態の無線送信機は、送信アンテナ毎に異なる遅延時間をつけ、信号を送信する無線送信機であるが、この遅延時間の付加を時間領域で行うものである。
また、本実施形態の無線送信機は、送信信号のシンボル(有効シンボル区間)毎にガードインターバルが付加された信号を想定している。送信アンテナ毎に異なる遅延時間をつけた信号とは、実際に1番目の送信アンテナからの送信信号中のガードインターバルを取り除いた部分(有効シンボル区間)に注目しており、この有効シンボル区間のみがTだけ遅延したものを2番目の送信アンテナから送信し、同様にこの有効シンボル区間のみが、n番目の送信アンテナにおいて、(n−1)Tだけ遅延した信号を送信する場合を想定している。
【0049】
従って、各送信アンテナからの送信時には、各有効シンボル区間に対応したガードインターバルが付加されており、第2の実施形態の場合と異なり、送信アンテナ端でのシンボルタイミングに時間的なずれは生じない。この方法での遅延時間の付加方法を、以降では循環遅延の付加と呼ぶ。この循環遅延を付加する処理を行うことにより、第2の実施形態に記載するような遅延時間を送信アンテナ毎に付加するよりも、遅延波に対する耐性を保持できるという利点がある。
【0050】
図9Aおよび9Bは、本実施形態の送信信号に対して、循環遅延を付加した信号の一例を示す図である。図9Aは、1番目のアンテナから送信する信号を示しており、図9Bは、2番目のアンテナから送信する信号を示している。図9Aおよび9Bでは、有効シンボル区間が4サンプル、ガードインターバル区間が1サンプルの場合を示しており、有効シンボル区間内に注目すると2番目のアンテナでは、1番目のアンテナに比べて1サンプルの遅延が生じている。一方で、1番目のアンテナ、2番目のアンテナはともにシンボル単位で見るとシンボルタイミングのずれがないため、循環遅延を付加した場合でも、隣接するシンボルとの干渉に強くなるというガードインターバルの効果を維持していることがわかる。
【0051】
図10は、本実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。図に示すように、物理層部は、ユーザ毎信号処理部111a、111b、アンテナ毎信号処理部112−1、112−2、112−3を有する。
ユーザ毎信号処理部111a(ユーザ毎信号処理部111bも同様)は、各ユーザが使用する無線受信機宛の信号処理を行う。アンテナ毎信号処理部112−1(アンテナ毎信号処理部112−2、112−3も同様)は、送信アンテナ毎の信号処理を行う。
ユーザ毎信号処理部111aの構成は、第2の実施形態で説明したユーザ毎信号処理部11aの構成(図8)とほぼ同じであるが、GI付加部18がなく、遅延付加部19−1〜19−3の代わりに、循環遅延付加部119−1〜119−3が設けられている点が異なる。
ユーザ毎信号処理部111aの誤り訂正符号化部13、変調部14、サブキャリア割り当て部15、IFFT部16、並列直列変換部17の機能は、第2の実施形態(図8参照)と同じであるので、同一の符号を付して、それらの説明を省略する。
【0052】
循環遅延付加部119−1は、並列直列変換部17の出力に対して送信アンテナ毎に異なる循環遅延を付加する。なお、循環遅延付加部119−1〜119−3からの出力は、それぞれアンテナ毎信号処理部112−1、112−2、112−3に出力される。さらに、循環遅延付加部119−1〜119−3は、それぞれ異なる循環遅延(例えば、0、S、2S)を与える。ここで、S=T/サンプル時間とする。
また、ユーザ毎信号処理部111aはあるチャンクで使用される、つまり、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらかで一方で使用されることから、物理層を制御する上位層より周波数ダイバーシチ領域またはマルチユーザダイバーシチ領域で使用することを通知する通知信号を受信する。ユーザ毎信号処理部111aは、この通知信号に基づいて、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらを使用するか選択し、遅延時間Tを変える機能を有する。
なお、ユーザ毎信号処理部111bは、ユーザ毎信号処理部111aと同様の構成を有し、対象とするユーザのみが異なる。
【0053】
図11は、本実施形態による一例として示す循環遅延付加部119−1を説明するための図である。循環遅延付加部119−1は、メモリ110を備える。ここで、kサンプルの循環遅延を付加したい場合には、メモリ110のアドレスk+1からアドレスnまで、データD11を順次入力した後(1、2、3、・・・、(n−k)を入力した後)、メモリ110のアドレス1からデータD11の続きを入力することにより((n−k+1)、(n−k+2)、(n−k+3、・・・、n)を入力することにより)、nサンプルのデータD11を入力する。次に、メモリ110のアドレス1から順に出力することによってnサンプルのデータD11に対して、kサンプルの循環遅延を付けたデータD12((n−k+1)、(n−k+2)、(n−k+3)、・・・、n、1、2、・・・(n−k))を出力することができる。
なお、4サンプルのデータに対して、0サンプルの循環遅延をつけた例が図9Aに示した信号であり、1サンプルの循環遅延をつけた例が図9Bに示した信号である。
【0054】
アンテナ毎信号処理部112−1(図10)の構成は、第2の実施形態で説明したアンテナ毎信号処理部12−1の構成(図8)とほぼ同じであるが、GI付加部18が設けられている点で異なる。
アンテナ毎信号処理部112−1の合成部20、GI付加部18、フィルタ部21、D/A変換部22の機能については、第2の実施形態(図8)と同じであるので、同一の符号を付して、それらの説明を省略する。
アンテナ毎信号処理部112−2、112−3もアンテナ毎信号処理部112−1と同様の構成を有する。アンテナ毎信号処理部112−1、112−2、112−3の出力は、それぞれ無線周波数への周波数変換を行う無線周波数変換部(図示省略)を通り、複数(3つ)の送信アンテナへと出力され、無線信号として送信される。
【0055】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態では、更に別の無線送信機の構成について説明する。本実施形態による無線送信機は、送信アンテナ毎に異なる遅延時間をつけ、信号を送信する無線送信機であり、この遅延時間の付加を周波数領域で行うものである。
また、本実施形態では送信信号のシンボル(有効シンボル区間)毎にガードインターバルが付加された信号を想定しており、第3の実施形態の無線送信機(図10)と同様に、循環遅延を付加する場合を想定している。
【0056】
図12は、本実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。図に示すように、物理層部は、ユーザ毎信号処理部211a、211b、サブキャリア割り当て部215、アンテナ毎信号処理部212−1、212−2、212−3を有する。
ユーザ毎信号処理部211a(ユーザ毎信号処理部211bも同様)は、各ユーザが使用する無線受信機宛の信号処理を行う。サブキャリア割り当て部215は、ユーザ毎信号処理部211aからの出力を各サブキャリアに割り当てる。アンテナ毎信号処理部212−1(アンテナ毎信号処理部212−2、212−3も同様)は、アンテナ毎の信号処理を行う。
【0057】
ユーザ毎信号処理部211a、211bは、誤り訂正符号化部13、変調部14を有する。誤り訂正符号化部13、変調部14の機能は、上述した第2の実施形態(図8)と同じであるため、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
ユーザ毎信号処理部211a、211bの出力は、上位層より通知されるサブキャリア割り当て情報に基づいて、適切なサブキャリアに割り当てるサブキャリア割り当て部215において、適切なサブキャリアに割り当てられた後、アンテナ毎信号処理部212−1、212−2、212−3に出力される。
【0058】
アンテナ毎信号処理部212−1は、位相回転部219、IFFT部16、並列直列変換部17、GI付加部18、フィルタ部21、D/A変換部22を有する。IFFT部16、並列直列変換部17、GI付加部18、フィルタ部21、D/A変換部22の機能は、上述した第2の実施形態(図8)と同じであるため、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
位相回転部219は、サブキャリア割り当て部215の出力を、サブキャリア毎に位相をθだけ回転し、IFFT部16へ出力する。なお、アンテナ毎信号処理部212−2、212−3もアンテナ毎信号処理部212−1と同様の構成を有する。
【0059】
アンテナ毎信号処理部212−1、212−2、212−3の出力は、それぞれ無線周波数への周波数変換を行う無線周波数変換部(図示省略)を通り、複数の送信アンテナへ出力され、無線信号として送信される。
なお、本実施形態では、位相回転部219での位相θの回転は、θ=2πf・(n−1)Tと設定している。ここで、fは0番目のサブキャリアとm番目のサブキャリアの周波数間隔であり、f=m/Tsと表すことができ、(n−1)Tは1番目のアンテナに対する、n番目のアンテナにおける循環遅延時間の大きさを示す。なお、TsはOFDMシンボルの有効シンボル時間を示している。
【0060】
なお、位相回転部219とIFFT部16により遅延付加部220が構成されている。
これにより位相回転部219で付加された位相回転が、IFFT部16において周波数時間変換されることによりIFFT部16の出力では時間遅延とみなすことができるようになる。
また、ユーザ毎信号処理部211aはあるチャンクで使用される、つまり、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらかで一方で使用されることから、物理層を制御する上位層より周波数ダイバーシチ領域またはマルチユーザダイバーシチ領域で使用することを通知する通知信号を受信する。ユーザ毎信号処理部211aは、この通知信号に基づいて、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらを使用するか選択し、遅延時間Tを変える機能を有する。
【0061】
上述した第2〜第4の実施形態による無線送信機では、送信信号を周波数ダイバーシチにより送信するかマルチユーザダイバーシチにより送信するかを通知する通知信号に応じた遅延時間Tによって、n本(nは2以上の整数)の送信アンテナに供給する送信信号を最大遅延時間(n−1)T以下だけ遅延させる遅延付加部を設けるようにした。
これにより、送信信号を周波数ダイバーシチにより送信するかマルチユーザダイバーシチにより送信するかによって、遅延時間Tを適切に設定することにより、伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果やマルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。
【0062】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態では、更に別の無線送信機の構成について説明する。本実施形態による無線送信機は、周波数ダイバーシチ領域においては、送信アンテナ毎に異なる遅延時間を与えて信号を送信する一方で、マルチユーザダイバーシチ領域においては送信アンテナ毎に適切な重みを付けることにより指向制御を行う無線送信機であり、この遅延時間および指向制御を周波数領域で行うものである。
また、本実施形態では送信信号のシンボル(有効シンボル区間)毎にガードインターバルを付加した信号を想定しており、第3及び第4の実施形態と同様に、循環遅延を付加する場合を想定している。
【0063】
図13は、本実施形態による無線送信機の物理層部の構成を示すブロック図である。図に示すように、物理層部は、ユーザ毎信号処理部211a、211b、サブキャリア割り当て部215、重み演算部310、アンテナ毎信号処理部312−1、312−2、312−3を有する。ユーザ毎信号処理部211a、サブキャリア割り当て部215の構成については、第4の実施形態(図12)と同様であるので、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0064】
アンテナ毎信号処理部312−1(アンテナ毎信号処理部312−2、312−3も同様)は、送信アンテナ毎の信号処理を行う。
アンテナ毎信号処理部312−1は、重み乗算部319、IFFT部16、並列直列変換部17、GI付加部18、フィルタ部21、D/A変換部22を有する。IFFT部16、並列直列変換部17、GI付加部18、フィルタ部21、D/A変換部22の機能は、第1の実施形態と同じであるので、同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0065】
重み乗算部319は、サブキャリア割り当て部215の出力に対して、サブキャリア毎に重みの乗算を行い、IFFT部16に出力する。アンテナ毎信号処理部312−2、312−3もアンテナ毎信号処理部312−1と同様の構成を有する。
アンテナ毎信号処理部312−1、312−2、312−3の出力は、それぞれ無線周波数への周波数変換を行う無線周波数変換部(図示省略)を通り、送信アンテナへ出力され、無線信号として送信される。
【0066】
なお、特定のサブキャリアは、あるチャンクで使用される。つまり、周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域のどちらか一方で使用される。よって、重み乗算部319へは、物理層部を制御する上位層より周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域で使用することを通知され、これを元に周波数ダイバーシチ領域ではアンテナ毎に異なる遅延時間をつけるため位相回転θを付加し、マルチユーザダイバーシチ領域では指向制御を行うため重みwを乗算する。
【0067】
なお、重み乗算部319とIFFT部16により遅延付加・指向制御部320が構成されている。これにより重み乗算部319で位相回転が付加された場合には、IFFT部16において周波数時間変換されることによりIFFT部16の出力では時間遅延とみなすことができるようになる。一方で、重み乗算部319で重みwが乗算された場合には、IFFT部16において周波数時間変換され、IFFT部16の出力が送信アンテナから出力された際には指向制御がなされることになる。
【0068】
また、上述した重み乗算部319で、位相をθだけ回転させる場合、第4の実施形態と同様に、θ=2πf・(n−1)Tと設定する。なお、fは0番目のサブキャリアとm番目のサブキャリアの周波数間隔であり、f=m/Tと表すことができ、(n−1)Tは1番目のアンテナに対する、n番目のアンテナにおける循環遅延時間の大きさを示す。なお、TはOFDMシンボルの有効シンボル時間を示している。
また、重みwを乗算する場合は、以下に示すように重みを設定することにより、指向制御を行うことができる。素子間隔がキャリア周波数の半波長であるnアンテナの線形アレーを仮定した場合には、重みwとして以下の式(1)を使用することができる。
【0069】
【数1】

【0070】
なお、重みwは重み乗算部319で使用する重みをベクトルで表したものであり、式(1)の先頭からそれぞれ1番目のアンテナ〜n番目のアンテナで使用する重みとなっている。
ただし、式(1)の重みwにおいて、nはアンテナ数であり本実施形態ではn=3、θはメインビームを向ける方向を示し、kは信号の送信を行う周波数とθの測定を行った周波数の比を示す。
ここで、メインビームを向ける方向θは、無線受信機もしくは通信相手の端末により測定された値が重み演算部310に通知され、重みwの導出時に利用される。ただし、上述した式(1)の重みwは一例であり、他の方法を用いることもできる。なお、前記θおよびwを導出する手法は、「信学技報RCS2004−229」(社団法人電子情報通信学会2004年11月発行)などに記載されている。
【0071】
上述した遅延付加・指向制御部320は、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)T以下の遅延を付加し、マルチユーザダイバーシチが通知されたときには、指向制御を行うための重みwを乗算する。
なお、第1の実施形態で述べたように、遅延付加・指向制御部320において、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/Fとなるように遅延時間Tを設定してもよい。
また、第1の実施形態でも述べたように、遅延付加・指向制御部320において、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/BWとなるように遅延時間Tを設定してもよい。
【0072】
なお、遅延付加・指向制御部320を構成する重み乗算部319は、物理層部を制御する上位層より周波数ダイバーシチ領域又はマルチユーザダイバーシチ領域を使用することが通知され、これを元に周波数ダイバーシチ領域ではアンテナ毎に異なる遅延時間をつけるため位相回転θを付加し、マルチユーザダイバーシチ領域では指向制御を行うため重みwを乗算すると前述したが、第4の実施形態で示したように、メインビームを向ける方向θが導出される前は周波数ダイバーシチ領域/マルチユーザダイバーシチ領域の双方で位相回転θを付加し、さらにマルチユーザダイバーシチ領域でメインビームを向ける方向θが導出された後に重みwを用いて指向制御を行うなど、マルチユーザダイバーシチ領域では、位相回転θと重みwを併用する方法を用いることもできる。なお、第4の実施形態同様、θは周波数ダイバーシチ領域/マルチユーザダイバーシチ領域に従って、遅延時間Tが変わる。これにより、メインビームを向ける方向θが導出されない段階でも、第4の実施形態同様マルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる一方、メインビームを向ける方向θが導出された後では、重みwを用いて厳密な指向制御を行うことにより、より高いマルチユーザダイバーシチ効果が期待できる。更に図13に示す無線送信機の物理層部の構成を用いることにより、第4の実施形態からわずかな回路構成の増加により、指向制御による特性改善も得ることができる。
【0073】
上述した遅延付加・指向制御部320は、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)T以下の遅延を付加し、マルチユーザダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)T以下の遅延を付加するか、もしくは、指向制御を行うための重みwを乗算する。
【0074】
このような処理を行う無線送信機は、図13に示す構成を有しており、遅延付加・指向制御部は、通知信号によりマルチユーザダイバーシチが通知されたときに、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)T以下の遅延を付加するか、もしくは、指向制御を行うための重みwを乗算する。
【0075】
第1の実施形態で述べたように、遅延付加・指向制御部は、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/Fとなるように遅延時間Tを設定し、マルチユーザダイバーシチが通知されたときに送信アンテナ間に遅延を付加する場合には最大遅延時間(n−1)T<1/Fとなるように遅延時間Tを設定する。
なお、第1の実施形態でも述べたように、遅延付加・指向制御部は、通知信号により周波数ダイバーシチが通知されたときには、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/BWとなるように遅延時間Tを設定してもよい。
【0076】
なお、上述した第2〜5の実施形態では、ユーザ数が2、アンテナ数が3の場合について説明したが、ユーザ数とアンテナ数はこれらの値に限定されるものではない。
また、上述した第4、5の実施形態では、アンテナ毎、セクタ毎、基地局毎に決まった特定のスクランブルコードを乗算した信号を送信アンテナ毎に送信するようにしてもよい。
【0077】
[第6の実施形態]
本実施形態では、物理チャネル毎の最大遅延時間(n−1)Tの大きさを変化させる場合について説明する。上述した第1〜第5の実施形態では、ある瞬間一つのチャンクにおいては1対1で通信が行われている状況を想定し、周波数ダイバーシチ効果を得たい場合には、(n−1)T>1/Fと設定し、マルチユーザダイバーシチ効果を得たい場合には、(n−1)T<1/Fと設定する場合を前提として説明した。
【0078】
通常、通信を行う場合には、1対1通信を行う以外にも、伝搬路推定を行うためにパイロットチャネルと呼ばれる既知信号を無線送信機に対して送信したり、データ通信を行う前に各種のパラメータを通知するために制御チャネルを利用したりする。本実施形態では、これら物理チャネルにおける最大遅延時間(n−1)Tの設定方法について説明する。
【0079】
3GPP(3rd Generation Partnership Project)において検討されているEvolved UTRA&UTRANにおいては、主な物理チャネルとして、共通パイロットチャネルDCPCH(Downlink Common Pilot Channel)、個別パイロットチャネルDDPCH(Downlink Dedicated Pilot Channel)、下り同期チャネルDSCH(Downlink Synchronization Channel)、共通制御チャネルDCCCH(Downlink Common Control Channel)、下りリンク共用制御シグナリングチャネルDSCSCH(Downlink Shared Control Channel)、マルチキャスト/ブロードキャストチャネル(Multicast / Broadcast Channel)が提案されている。
【0080】
共通パイロットチャネルDCPCHは、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式のパイロットチャネルCPICHに相当し、AMCS(Adaptive Modulation and Coding Scheme)方式における下りリンク伝搬路状況の推定、及びセルサーチ、上り送信電力制御の伝搬路ロス測定に使用されている。
個別パイロットチャネルDDPCHは、アダプティブアレーアンテナなどセル共用アンテナと異なる伝搬路(指向性)を有する送信アンテナから、個別移動局に送信され、または受信品質の低い移動局に対して、下りリンク共通パイロットチャネルDCPCHの補強の目的で使用することもできる。
【0081】
下り同期チャネルDSCHは、W−CDMA方式の同期チャネルSCHに相当し、移動局のセルサーチ、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号の無線フレーム、タイムスロット、送信タイミング間隔TTI(Transmission Timing Interval)、OFDMシンボルタイミング同期に使用されている。
共通制御チャネルDCCCHは、W−CDMA方式の第一共通制御物理チャネルP−CCPCH、第二共通制御物理チャネルS−CCPCH、及びページングインジケータチャネルPICHに相当する報知情報(報知チャネルBCH相当)、パケット呼の有無を指すパケットページングインジケータPI情報(ページングインジケータチャネルPICH相当)、パケット呼に対応するパケットページング情報(ページングチャネルPCH相当)、下りアクセス情報(下りアクセスチャネルFACH相当)などの共通制御情報が含まれている。
【0082】
下りリンク共用制御シグナリングチャネルDSCSCHは、HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)方式の高速物理下り共用チャネルHS−PDSCHに含まれるHS−DSCH関連共用制御チャネルHS−SCCH、下り個別制御チャネルDPCCH、獲得インジケータAICHに相当し、複数の移動局が共用し、各移動局に高速下り共用チャネルHS−DSCHの復調に必要な情報(変調方式、拡散符号など)、誤り訂正復号処理やHARQ処理に必要な情報、及び無線リソース(周波数、時間)のスケジューリング情報などの送信に使用されている。
【0083】
下りリンク共用データチャネルDSDCHは、HSDPA方式の高速物理下り共用チャネルHS−PDSCHに含まれる高速下り共用チャネルHS−DSCH、下り個別データチャネルDPDCHに相当し、上位レイヤから移動局宛てのパケットデータの送信に使用されている。
マルチキャスト/ブロードキャストチャネルは情報信号の報知などに使用されている。
なお上記W−CDMA及びHSDPAの物理チャネルについては、「立川 敬二,"W−CDMA移動通信方式",ISBN4−621−04894−5」等に記載されている。
【0084】
図14および図15は、各物理チャネルにおける、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tとチャンクの周波数帯域幅Fの関係をまとめた表である。図に示すように、共通パイロットチャネル、共通制御チャネル、個別制御チャネルは、周波数ダイバーシチ領域、マルチユーザダイバーシチ領域に関わらず、(n−1)T<1/Fと設定することが望ましい。また、下り同期チャネルは、周波数ダイバーシチ領域、マルチユーザダイバーシチ領域に関わらず、(n−1)T>1/Fと設定することが望ましい。
個別パイロットチャネルは、周波数ダイバーシチ領域では、(n−1)T>1/F、マルチユーザダイバーシチ領域では、(n−1)T<1/Fと設定することが望ましい。なお、n本の送信アンテナに供給する送信信号を最大遅延時間(n−1)T以下だけ遅延させる遅延付加部により、送信アンテナから個別パイロットチャネルを送信する場合に、個別パイロットチャネルが含まれるチャンクが周波数ダイバーシチにより送信するかマルチユーザダイバーシチにより送信するかを通知する通知信号により、周波数ダイバーシチが通知されたときには、最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T>1/Fとなるように遅延時間Tを設定し、通知信号によりマルチユーザダイバーシチが通知されたときには、重み演算部から出力される重みを用いて指向制御を行う、または最大遅延時間(n−1)Tが(n−1)T<1/Fとなるように遅延時間Tを設定するようにしてもよい。
また、マルチキャスト/ブロードキャストチャネルは周波数ダイバーシチ領域でのみ使用され、(n−1)T>1/Fと設定することが望ましい。
【0085】
このように設定する理由は、共通パイロットチャネルは、端末が観測した信号強度などを通知するために使用されるので、遅延時間がチャンクごとに変化することは望ましくない一方、マルチユーザダイバーシチを行うために、無線送信機では、(n−1)T<1/Fの場合のチャンク毎の信号強度を知る必要があるため、最大遅延時間がチャンクごとに変化しないように、(n−1)T<1/Fと設定することが望ましいためである。
また、個別パイロットチャネルは、データ信号の復調などに使用する伝搬路推定値を求めるために使用する。従って、周波数ダイバーシチ領域であれば、(n−1)T>1/Fと設定し、マルチユーザダイバーシチ領域であれば、(n−1)T<1/Fと設定して通信を行うのが望ましいためである。
【0086】
また、下り同期チャネルはフレーム同期の際に使用されるが、伝搬路推定は必要なく、受信電力が低い場合にも正しく受信されることが望ましいことから、周波数ダイバーシチ効果を得るために、(n−1)T>1/Fと設定することが望ましいためである。
特に下り同期チャネルにおいては、一つの基地局に含まれる、複数のセクタ、複数のアンテナから、それぞれ同一の信号が、同一時間、同一周波数を用いて送信される可能性がある。従って、下り同期チャネルにおいては、一つの基地局に含まれる、複数のセクタ、複数のアンテナから、それぞれアンテナ毎に異なる遅延を付加して送信することにより、他の物理チャネルより高い周波数ダイバーシチ効果を得ることが期待できる。
【0087】
また、共通制御チャネル及び個別制御チャネルは、共通パイロットチャネルから求められる伝搬路推定値を用いることが想定されるため、共通パイロットチャネルと同じ最大遅延時間に設定され、送信されることが望ましいためである。
しかしながら、共通制御チャネル及び個別制御チャネルは受信電力が低い場合にも正しく受信されることが望ましいことから、周波数ダイバーシチ効果が得られることが望ましく、制御チャネルの受信性能向上を優先して考えると、共通パイロットチャネルは、同一チャンクに共通制御チャネル、個別制御チャネルおよびマルチキャスト/ブロードキャストチャネルを含む場合には、(n−1)T>1/Fと設定して送信することにより、制御チャネルにおいて周波数ダイバーシチ効果を得ることが望ましい。
【0088】
一方、同一チャンクがマルチユーザダイバーシチとして使用される場合には、実際にマルチユーザダイバーシチに適した通信((n−1)T<1/Fとして通信)を行った場合の信号強度などを通知する必要があることから、(n−1)T<1/Fと設定して送信することが望ましい。
このことから、各物理チャネルにおける、送信アンテナ間の最大遅延時間(n−1)Tとチャンクの周波数帯域幅Fの関係は図15に示した関係と同じくしてもよい。
またマルチキャスト/ブロードキャストチャネルは周波数ダイバーシチ効果を得るために(n−1)T>1/Fと設定して通信を行うことが望ましい。
【0089】
上述した実施形態では、マルチユーザダイバーシチ領域においては、最大遅延時間を(n−1)T<1/Fと設定する場合について説明したが、第5の実施形態に記載の無線送信機では、マルチユーザダイバーシチ領域において重み演算部310より通知される重みwを使用することができる。
なお、上述した第2〜5の実施形態では、n本の送信アンテナを備える無線送信機から、n本の送信アンテナ毎に所定の遅延時間を与えて信号を送信する場合ついて説明したが、このような構成に限定されるものではない。例えば、無線送信機がn本の送信アンテナを備える場合において、無線送信機がマルチユーザダイバーシチを使用することを選択したときには、n本の送信アンテナ中のj本(jは整数であり、1≦j<n)の送信アンテナ毎に所定の遅延時間T'を与えて信号を送信するようにしてもよい。
【0090】
このような構成にすれば、n本の送信アンテナの全てを使用して信号を送信する場合に比べて、j本の送信アンテナから送信する信号の最大遅延時間(j−1)T'が小さくなり、伝搬路の変動をより小さくすることができるため、良好なマルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。特に、j=1としたときには、遅延部の回路規模を小さくすることができる。
また、本実施形態では、周波数ダイバーシチ効果を得るために、最大遅延時間(n−1)T>1/Fとすることを前提としたが、第1の実施形態でも記載したように、物理チャネルが複数の周波数方向にまたがるチャンクに割り当てられ通信を行っている場合には、物理チャネルの割り当てられた帯域幅BWが周波数ダイバーシチ効果を得られる基準となるため、最大遅延時間(n−1)T>1/BWと設定することにより周波数ダイバーシチ効果を得ることも可能である。
【0091】
上述した本発明の実施形態による無線送信機を使用すれば、n本の送信アンテナから信号を送信する際に、周波数ダイバーシチを使用するかマルチユーザダイバーシチを使用するかを選択し、その選択結果に基づいてn本の送信アンテナから送信する信号の遅延時間を変化させるようにしたので、伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果やマルチユーザダイバーシチ効果を得ることができる。
【0092】
なお、以上説明した実施形態において、図8、図10、図12、図13の誤り訂正符号化部13、変調部14、サブキャリア割り当て部15、215、IFFT部16、並列直列変換部17、GI付加部18、遅延付加部19−1〜19−3、循環遅延付加部119−1〜119−3、合成部20、フィルタ部21、D/A変換部22、位相回転部219、重み演算部310、重み乗算部319の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより無線送信機の制御を行ってもよい。なお、ここでいうコンピュータシステムとは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0093】
また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらにコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0094】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、複数の送信アンテナを使用して、無線受信機に対して信号を送信するための送信制御方法に適用することができ、伝搬路の状態に影響されることなく、周波数ダイバーシチ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0096】
1無線送信機2〜4送信アンテナ5、6遅延器7、8、9、10無線受信機11a、11b、111a、111b、211a、211bユーザ毎信号処理部12−1、12−2、12−3、112−1〜112−3、212−1〜212−3、312−1〜312−3アンテナ毎信号処理部13誤り訂正符号化部14変調部15、215 サブキャリア割り当て部16IFFT部17並列直列変換部18GI付加部19−1〜19−3遅延付加部119−1〜119−3循環遅延付加部20合成部21フィルタ部22D/A変換部110メモリ219位相回転部220遅延付加部310重み演算部319重み乗算部320遅延付加・指向制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数方向と時間方向に分割されたチャンクごとにスロット割当を行う伝送システムにおける送信制御方法であって、
複数の送信アンテナに出力信号を送出するにあたり、前記複数の送信アンテナの出力信号のそれぞれに遅延を生じさせ、
前記チャンクの周波数帯域幅をFcとしたとき、特定の物理チャネルに対して前記複数の送信アンテナ間の最大遅延時間が1/Fcより大きい所定の値になるように、前記遅延を制御することを特徴とする送信制御方法。
【請求項2】
前記特定の物理チャネルがマルチキャスト/ブロードキャストチャネルであることを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項3】
前記特定の物理チャネルが同期チャネルであることを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項4】
第一の前記送信アンテナに対する第二の前記送信アンテナの遅延時間をTとし、前記第一の送信アンテナに対する第三の前記送信アンテナ以降の前記送信アンテナの遅延時間をTの倍数によって順次遅延量が大きくなるように設定することを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項5】
前記複数の送信アンテナのそれぞれの入力信号に付加する遅延時間を制御することを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項6】
信号の送信に利用する送信アンテナ数を減らすことにより、前記最大遅延時間を短縮するよう制御することを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項7】
時間領域で遅延を付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項8】
前記送信アンテナのそれぞれの入力信号に有効シンボル区間内において遅延を付加し、
前記遅延が付加された有効シンボル区間毎にガードインターバルを付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする請求項7記載の送信制御方法。
【請求項9】
周波数領域で遅延を付加することにより最大遅延時間を制御することを特徴とする請求項1記載の送信制御方法。
【請求項10】
前記伝送システムはマルチキャリア伝送システムであり、
ユーザ毎に信号処理された信号をサブキャリアに割り当て、
サブキャリア毎に所定量の位相回転を行うことにより最大遅延時間を制御することを特徴とする請求項9記載の送信制御方法。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【公開番号】特開2009−260992(P2009−260992A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168901(P2009−168901)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願2008−306807(P2008−306807)の分割
【原出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】