説明

送信機、受信機、方法及びプログラム

送信機は、複数個のデータシンボルの各々に第1拡散率の拡散符号を乗算する第1拡散手段と、前記第1拡散手段の出力を時間的に圧縮し圧縮後の信号をL回(Lは2以上の自然数)反復する圧縮反復手段と、前記圧縮反復手段の出力にユーザ毎に異なる位相を乗算しL個のサブブロックより成るデータブロックを出力する位相変調手段と、前記データブロックを第2拡散率に合わせて複製し、複製された同一内容のサブブロックに第2拡散率の拡散符号を乗算して2次元拡散信号を生成する第2拡散手段と、前記2次元拡散信号をシングルキャリア方式で送信する無線送信部と、を有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチアクセス環境における無線通信技術に関し、特に、2次元符号拡散をインターリーブFDMAに適用して他セル干渉と多元接続干渉を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットによる映像、音声及びデータ通信の劇的な成長及び同様な移動電話の急速な普及により、無線通信システムで超高速データ伝送を行うことができる広帯域の無線アクセスを実現することが重要になっている。直接拡散符号分割多元接続(DS-CDMA)は大きなシステム容量、可変及び高速のデータ伝送サービスをサポートする効果的な無線アクセス技術の1つであり、第三世代移動無線通信システムに採用されている。例えば、3GPP Specification Home Page: http://www.3gpp.org/specs/specs.htm
参照。DS−CDMAは1セル周波数繰り返しを行うことで、マルチセル環境では時分割多元接続(TDMA)方式を上回る利点が得られる。しかしながら従来のシングルキャリアのDS-CDMAシステムでは多元接続干渉(MAI: multi access interference)の問題が伴う。マルチアクセス干渉により、利用可能な帯域でサポートできる最大データレート、及びシステム容量が制限される。そのような制限は1セル周波数繰り返しのメリットが小さい孤立セル又はホットスポット環境で特に大きくなる。
【0003】
直交周波数分割多重(OFDM)方式とCDMA方式の組み合わせは、マルチキャリアCDMA(MC-CDMA)と呼ばれる。この技術は、マルチパス遅延を抑圧する効果と、周波数ダイバーシチによる効果により、マルチパス干渉及び周波数選択性フェージングの影響を受ける通信環境下でチャネル容量を改善することができる。例えば、S.Hara and R.Prasad, “Overview of Multicarrier CDMA”,
IEEE Comm. Mag., pp126-133, Dec.1997 参照。MC-CDMAは、将来の無線通信システムの候補として検討されている。しかしながら、たとえこの技術が高速データレート及び多元接続をサポートできたとしても、ピーク電力対平均電力比(PAPR)が過剰に大きくなってしまう問題や、周波数オフセット、RF雑音の影響を受けやすいという問題がある。これらの問題により、MC−CDMA方式の実際の無線環境への適用が制限されている。
【0004】
最近、インターリーブ周波数分割多元接続(IFDMA)が、下りリンク、上りリンク双方の移動通信に対する新たな多元接続方式として紹介されている。たとえば、M.Schnel and I.De Broeck, “A promising new wideband
multiple-access scheme for future mobile communication systems”, European
Trans. On Telecomm., Vol.10, No.4, pp.417-427, Jul.-Aug., 1999、および、M.Schnel
and I.De Broeck, “Interleaved FDMA: Equalization and coded performance in mobile radio applications”, IEEE ICC’ 99, pp. 1939-1944, Jun. 1999 参照。IFDMAの基本的概念は、拡散スペクトラム・マルチキャリア送信(信号の圧縮及び反復により信号帯域を拡げる)と、周波数分割多元接続(FDMA)を組み合わせることでMAIを防止し、周波数ダイバーシチを行なうことである。IFDMAは直交多元接続方式であるので、理論的には、IFDMAシステムではMAIがない。また、MC−CDMA、CDMA、TDMAと比較してIFDMAはさらなる利点がある。
例えば、連続的な送信、包絡線が一定(PAPRが低い)等である。
【0005】
より最近では、可変拡散率チップ繰り返しファクタCDMA(VSCRF−CDMA)が上りリンクのブロードバンド無線アクセス方式の候補として検討されている。例えば、Y.Goto, T.Kawamura, H.Atarashi, and
M.Sawahashi, “Variable spreading and chip repetition factor (VSCRF)-CDMA in
reverse link for broadband wireless access”, IEEE PIMRC ’03, Sep. 2003 参照。IFDMAとCDMAを組み合わせて、双方の技術の利点を得ようとするものである。特に、VSCRF−CDMAでは2階層の拡散、すなわち、CDMAによる符号領域での拡散と、IFDMAのチップ圧縮及び反復(CCR:chip compression and repetition)による拡散とが使用される。マルチセルセルラシステムでは、VSCRF−CDMAは、CCR拡散によってサポートされるユーザ数を表わすチップ反復率(CRF)を設定し、まさにDS−CDMAシステムのように機能して、1セル周波数繰り返しを実現する。ホットスポットシステムでは、CRFは1より大きく設定され、総拡散率(TSF:Total Spreading Factor)は、CRFと符号領域の拡散率(CSF:Code-domain Spreading
Factor)を乗算したものとなる。ホットスポットシステムにCCR拡散を導入することで、IFDMAのようにユーザ間の直交性が維持され、MAIが最小に抑制される。さらに、セルラシステムとホットスポットシステムの間でエアインターフェースを同じにすることで、双方のシステムを行き来するユーザにとってシームレスなハンドオフが可能になる。
【0006】
他セル干渉(OCI: other cell interference)とマルチアクセス干渉(MAI)は、無線通信システムにおける周波数利用効率及びシステム容量にとって、重大な問題である。IFDMAはCCR拡散を用いてMAIを減らすことはできるが、同一キャリア周波数の他セル干渉に対処することはできない。なぜなら、CCR拡散では、FDMAのように異なる周波数に対するユーザ間の直交化を実現してはいるものの、符号拡散による拡散利得やチャネル符号化利得と異なり、同一キャリア周波数に対する干渉低減能力は限られているからである。従って、IFDMAシステムでは1セル周波数繰り返しは実現できない。
【0007】
IFDMAベースのVSCRF−CDMAは、セルラシステムではCDMA拡散を利用することでこの問題を緩和し、ホットスポットシステムでは符号拡散とCCR拡散を結合することで問題を緩和する。セルラシステムでは、他セル干渉(OCI)は、CDMA符号拡散利得と、スクランブルコードによる干渉のランダマイズ化を利用することで、最小限にすることができる。孤立セルやホットスポット環境では、OCIの影響は十分に小さいため、CDMA拡散は行わず、各セルのMAIはIFDMAベースのCCR拡散によって軽減される。CCR拡散は異なるユーザ間の直交性の維持能力が高いため、MAIに対処するには、符号拡散よりもCCR拡散のほうが優先的に用いられる。VSCRF−CDMAでの符号拡散は、周波数領域の拡散であり、(スクランブルコード及びチャネリゼーションコード双方について)異なる拡散符号の間の直交性は、チャネルの周波数選択性フェージングや遅延スプレッドの影響を受ける。周波数選択性の無線チャネルでは、CSF(符号拡散率)はそのチャネルの通過後にも符号の直交性が維持される程度に、充分に小さくしなければならない。したがってVSCRF−CDMAは、CSFの小ささによって、OCI(他セル鑑賞)抑圧能力が制限されてしまう。
【0008】
IFDMA及びVSCRF−CDMAを用いて他のマルチアクセス技術を超える上記利点を達成するための他のコストとして、シンボル間干渉(ISI)を発生させてしまうことがある。ISI効果を十分に低減するには、最尤系列推定(MLSE)に基づく最適等化器を受信機で使用する。しかしMLSE等化器は非常に複雑であり、その複雑さはQファクタにしたがって指数関数的に増加する。Qファクタとは、IFDMAでは繰り返しを行う単位である1ブロック内のシンボル数であり、VSCRF−CDMAでは(CDMA拡散後に繰り返しを行う単位ブロックである)1ブロック内のチップ数である。
【0009】
一般に、IFDMAはOCIに対処できず、従って1セル周波数繰り返しはIFDMAシステムでは実現することが困難である。VSCRF−CDMAはIFDMAとCDMAを組み合わせることでこの問題を緩和するが、小さい拡散率で周波数領域の拡散のみを用いる場合には、OCIの抑圧能力が制限されてしまう。さらに、IFDMAでもVSCRF−CDMAでも、複雑なMLSE受信機の適用は、実現性の点で問題がある。従って、OCIとMAIの双方をより効果的に解決し、受信機の複雑さを低減することが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点の少なくとも1つに対処するためになされたものであり、その課題は、無線通信システムにおける他セル干渉(OCI)とマルチアクセス干渉(MAI)の双方を軽減するとともに、受信機構成の複雑化さを低減する送信機、受信機、通信方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
OCIとMAIを低減し、受信機構成の複雑化を避けるために、IFDMAシステムに2次元符号拡散を導入する。
【0012】
第1の態様では、送信機が提供される。送信機は、
(a)複数個のデータシンボルの各々に第1拡散率の第1の拡散符号を乗算する第1拡散部と、
(b)前記第1拡散部の出力信号を時間領域で圧縮し、圧縮された信号をL回(Lは2以上の自然数)反復する圧縮反復部と、
(c)前記圧縮反復部の出力信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、L個のサブブロックより成るデータブロックを出力する位相変調部と、
(d)前記データブロックを第2拡散率に合わせて複製し、複製された同一内容のサブブロックに第2拡散率の第2の拡散符号を乗算して2次元拡散信号を生成する第2拡散部と、
(e)前記2次元拡散信号を送信する無線送信部と、
を有する。
【0013】
本発明の別の態様では、逆拡散されたデータシンボルから送信シンボルを復元する受信機を提供する。受信機は、
(a)シングルキャリア方式で伝送されたL個のサブブロックより成るデータブロックを所定数(SF個)受信する受信部と、
(b)SF個のサブブロックの各々に拡散率がSFである第1の拡散符号を乗算する第1逆拡散部と、
(c)前記第1逆拡散部の出力信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、位相復調を行う位相復調部と、
(d)位相復調後の信号を構成する各要素に拡散率がSFの第2の拡散符号を乗算して複数のデータシンボルを出力する第2逆拡散部と、
を有し、L、SF、SFは2以上の自然数である。
【発明の効果】
【0014】
IFDMAにおいて、(周波数領域と時間領域の)2次元符号拡散を行なうことで、無線通信システムにおける他セル干渉(OCI)及びマルチアクセス干渉(MAI)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例による2CS−IFDMA方式の送信機の概略ブロック図を示す。
【図2】図1の送信部で行われる信号処理の様子を示す図である。
【図3】VSCRF−IFDMA方式で使用される信号の模式的な周波数スペクトルを示す図である。
【図4】本発明の一実施例による2CS−IFDMA方式の送信機の概略ブロック図を示す。
【図5】図4の受信部で行われる信号処理の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
11 VSCRF−CDMA処理部
12 周波数領域拡散部
13 IFDMA処理部
14 圧縮及び反復部
15 位相変調部
16 時間領域拡散部
17 データ出力部
18 拡散率コントローラ
41 時間領域逆拡散部
42 位相復調器
43 高速フーリエ変換部
44 周波数領域イコライザ
45 逆高速フーリエ変換部
46 周波数領域逆拡散部
47 拡散率コントローラ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下で、図面を参照して本発明の良好な実施形態を述べる。まず、本発明の基本的な考えを説明する。インターリーブドFDMAでの2次元符号拡散(2CS−IFDMA:two-dimensional code spreading for IFDMA)は、IFDMAに符号拡散を導入する点で、概念的にVSCRF−CDMAを基礎とする。新たな次元の拡散として、時間領域の拡散をVSCRF−CDMAシステムのような周波数領域の拡散の上に導入する。しかし、本発明の2CS−IFDMAの2次元符号拡散は、VSCRF−CDMAの周波数領域での拡散の単なる延長ではない。VSCRF−CDMAやIFDMAシステムではシングルキャリア方式が採用され、マルチキャリアDS−CDMAシステムとは違って、時間領域と周波数領域を容易に分離することができない。そのため、マルチキャリアDSA−CDMAに基づく既存の2次元符号拡散技術を、そのままIFDMAシステムに適用することはできない。
【0018】
良好な実施形態では、周波数領域での拡散に加えて、時間領域の拡散が行われる。より具体的には、周波数領域での符号拡散、圧縮・反復、及び位相変調を受けたデータブロックを、時間領域拡散符号の拡散率に合わせて複製あるいはレプリカ生成し、複製された同一内容のサブブロックに時間領域拡散符号を乗算する。従って、送信される情報量は、複製された分だけ、従来のVSCRF−CDMAに比較して、伝送される情報当たりに対する冗長度が大きい。伝送信号の冗長性を増やして信頼性を向上させることができる。このことは信号伝送の信頼性がより重視される上りリンクでの伝送に有利である。
【0019】
一般に、時間領域拡散は周波数選択性フェージングを受ける無線チャネルで符号の直交性をより維持することが可能である。1個あるいはせいぜい数個のIFDMAシンボル区間では、時間領域の変動は周波数領域の変動に比べて無視できる程度に小さいのが一般的である。周波数領域での拡散と組み合わせることで、実施例の2CS−IFDMAはフェージングチャネルをより効率的に低減できる。なぜなら、時間および周波数領域での符号拡散率は、ドップラスプレッド(又はユーザの移動度)及び遅延スプレッド(周波数選択性)のようなチャネルの統計的状態に従って調整できるからである。2CS−IFDMAはVSCRF−CDMAよりも高いOCI抑制能力を有する。なぜなら、周波数方向の拡散率が低減されたとしても、時間領域の拡散率を大きくすることで、総拡散率を大きく維持することができるからである。チップ圧縮・反復率(CCR)を、同時アクセスするユーザ間の周波数領域での直交化と組み合わせると、2CS−IFDMAは、MAIに柔軟に対処するため、あるいはより多くのユーザを柔軟に収容するために、さらに強力な能力を備える。さらに周波数領域等化器を用いる場合は、時間領域での拡散率を大きくしても受信機での複雑さを最小限にすることができる。
【実施例1】
【0020】
図1は、シングルユーザの2CS−IFDMA送受信機の送信部を示すブロック図である。この送信部は典型的には移動局に設けられるが、別の装置に設けられてもよい。送信部は、VSCRF−CDMA処理部11と、時間領域拡散部16と、データ出力部17と、拡散率コントローラ18を有する。VSCRF−CDMA処理部11は、周波数領域拡散部12と、IFDMA処理部13とを含む。IFDMA処理部13は圧縮及び反復部14と、位相変調部15とを含む。
【0021】
VSCRF−CDMA処理部11は、VSCRF−CDMA方式でデータシンボルを拡散して、周波数領域に拡散されたデータシンボルを出力する。より具体的には、チャネル符号化やデータ変調等の処理が施されたデータシンボルが周波数領域拡散部12に入力され、入力されたデータシンボルは拡散符号が乗算されて、周波数領域での符号拡散が行われる。符号拡散されたデータシンボルは、IFDMA処理部13に供給される。IFDMA処理部13では、インターリーブドFDMA方式で信号を生成する。圧縮及び反復部14は、周波数領域で符号拡散されたデータシンボルを、時間領域で圧縮し、圧縮後のデータを所定回数反復する。位相変調部15は、圧縮及び反復後のデータにユーザ毎の位相を乗算し(位相変調し)、異なるユーザのデータを区別可能にする。
【0022】
時間領域拡散部16は、位相変調後の所定長のブロックを複製し、複製後のデータに時間領域の拡散符号を乗算し、時間領域の符号拡散を行う。
【0023】
データ出力部17は、時間領域拡散後のデータを出力し、それを後段の無線処理部(図示せず)に与える。
【0024】
拡散率コントローラ18は、周波数領域拡散符号の拡散率と時間領域拡散符号の拡散率との割合を、指示信号に応じて調整する。指示信号の内容は、拡散率コントローラ18自体によって決定されてもよいし、通信相手から送られてくるものであってもよい。典型的には、上りリンクのチャネル状態に応じて、基地局が指示内容を決定する。本実施例では総拡散率(TSF)は、周波数領域拡散符号の拡散率(CSF又はSFf: spreading factor in
frequency domain)と、チップ反復率(CCR)と、時間領域拡散符号の拡散率SFt: spreading factor in time
domain)との積で表現される。例えば、周波数領域でのチャネル変動が大きく、時間領域でのチャネル変動が小さければ、SF及び/又はCCRを小さく且つSFを大きくすることで、符号間の直交性の崩れをなるべく小さく抑制することができる。
【0025】
図2は、図1の送信部により実施される処理を示す。図2のA〜Eの信号は、図1のA〜Eのノードでの信号にそれぞれ対応する。
【0026】
(A)拡散部12の入力ノードAにはd1,...,dDで示されるようなデータシンボルが入力される。データシンボルはチャネル符号化及びデータ変調済みの信号であり、D個の成分を有するベクトルd=(d1,d2,...,dD)を1つの単位とする。いくつのデータシンボルを1単位にするかは用途に応じて適宜決定されてよい。
【0027】
(B)周波数領域拡散12では、D個のシンボルの各々に拡散符号が乗算される。この拡散符号cfの拡散率はGfであり、拡散符号は拡散符号ベクトルcf=(cf1,cf2,...,cfGf)で表現される。周波数領域拡散後の拡散チップはノードBを通じて出力され、
【0028】
【数1】

のように表現される。ここで、s=(s1,s2,...,sGf,sGf+1,...,s2Gf,...,sQ)であり(Q=D×Gf)であり、式(1)の演算子は、クロネッカー積を表わす。図2から明らかなように、データシンボルの期間Tdと、拡散チップ期間Tsと、拡散率Gfの間には、Td=Gf×Ts の関係が成立する。周波数領域拡散後に、信号帯域はGf倍に拡散される。
【0029】
(C)拡散されたチップはIFDMA処理部13に入力される。IFDMA処理部13は一度にQ個の拡散されたチップ(D個の変調されたデータシンボルに対応)を1ブロックとして取り込む。このときのブロック区間は、Tk=D×Td=Q×Ts である。圧縮及び反復部14は、Q(=D×Gf)個の拡散チップを1単位ブロックとして取り込み、L+LΔ回圧縮して、チップ期間TcをTc=Ts/(L+LΔ)にする。ここで、Lは有効シンボル区間であり、LΔは、同時アクセスユーザ間の大まかな時間同期を可能にするとともに、拡散チップ間の干渉を回避するように設定されたガード区間である。LΔの大きさは、Lとは独立に設定することが出来る。時間圧縮及び反復後のチップは、圧縮及び反復部14の出力ノードCから出力される。
【0030】
(D)圧縮及び反復後の(L+LΔ)×Qの次元を有するチップには、エレメント単位でユーザ毎に異なる位相ベクトルが乗算されて位相変調が行なわれる。位相ベクトルは、(L+LΔ)×Qの次元を有し、exp(-j(l-1)φ(u))(l=1,...,Q,Q+1,...,2Q,...,(L+LΔ)×Q)で表現される成分を有する。ユーザ“u”の位相φ(u)は、2πu/(L+LΔ)Qになるように選択される。ユーザインデックス“u”は、表記の簡明化のために省略する。位相変調後の1ブロック((L+LΔ)×Qチップのブロック)は、
b=(b1,b2,...,b(L+LΔ)Q)
=(a1,a2*exp(-jφ),...,aLQ*exp(-j((L+LΔ)Q-1)φ) (2)
で表わされる。ここでal=slmodGf
である(l=1,…,(L+LΔ)×Q)。式(2)で表現される信号は、位相変調部15の出力ノードDの信号に相当する。IFDMAでの位相変調は、BPSKやQPSK等の周知の位相変調の概念とは異なることに留意が必要である。IFDMAでの位相変調はエレメントごとの乗算であり、各ユーザに他のすべてのユーザのサブキャリアセットと直交するサブキャリアセットを割り当てることで、MAIを回避し、ユーザの識別性を保障する。
【0031】
圧縮及び反復の後に、周波数領域の符号拡散チップレートに比較してさらにL倍、送信帯域が拡散される。周波数スペクトルは、反復に起因して全送信帯域の中で等しく分散したQ個のサブキャリア及びサブキャリア間のL個のゼロ点を有する櫛歯状になる(図3参照)。本実施例は、シングルキャリア方式を採用するが、チップ圧縮及び反復を行うことで周波数軸上の複数の場所にサブキャリア成分が現れる。圧縮及び反復後のノードCでのサブキャリアの位置は、全てのユーザに共通する。しかし、位相変調後のノードDでのサブキャリアの位置は周波数軸上でユーザ毎に異なるように並び、櫛歯上のスペクトルが形成され、それらはユーザ間で直交している。この時点で、トータルの拡散帯域は、L×Gfである。一般にGfが大きくなると、IFDMAベースのシステムが他セル干渉(OCI)を抑圧できる能力は大きくなる。なぜなら、それは周波数領域の拡散率だからである。他方、Lがより大きくなると、IFDMAベースのシステムがマルチアクセス干渉(MAI)を抑圧できる能力が大きくなる。なぜならそれは異なるユーザのサブキャリア間の「距離」(ゼロ点の数)だからである。IFDMAではGf=1であり、従ってキャリア周波数が同一であったならば、他セルからの干渉に対処することができない(従って1セル周波数繰り返しはIFDMAでは実現できない。)。VSCRF−CDMAではGf及びLは、OCIとMAIを同時に低減するように適切に選択される。
【0032】
(E)位相変調されたチップに時間領域での符号拡散が行なわれる。位相変調後の信号(D)は、1つの単位処理ブロックあたり(L+LΔ)×Q個のチップを含む。換言すると、1つの単位処理ブロックは、(L+LΔ)個のサブブロックを含み、各サブブロックは、Qチップを含む。時間領域拡散部16は、(L+LΔ)×Q個のチップを1ブロックとして取得し、(L+LΔ)×QをGt倍にした拡散行列を生成する。ここで、Gtは時間領域の拡散率である。周波数領域での変動に比べて、1つの拡散ブロックに相当する持続時間(数10マイクロ秒のオーダー)の間での時間領域のチャネル変動は無視することができ、時間領域拡散の符号の直交性は維持できる。このことは、時間領域拡散は、MAIの抑制に有利であることを意味する。時間領域拡散(又は2次元拡散)はOCIに対処するためのセル識別だけでなく、MAIに対処するためのチャネリゼーションにも使用される。
【0033】
時間領域拡散部16は、生成したGt×[(L+LΔ)×Q]の行列から、各列(Gt個のQチップサブブロックを含む)を取り出し、同一内容のGt個のQチップサブブロックに時間領域拡散符号ct=(ct1,ct2,...,ctGt)を乗算する。この演算は、(L+LΔ)列のすべてに行なわれる。この時間領域での符号拡散がされたチップ群(図2の信号E)は、データ出力部17に供給される。データ出力部17は、この2次元拡散されたシンボルのデータセットを、後段のRF(無線)部(不図示)に供給する。具体的には、データ出力部17は、図2のEで示される行列信号から、行ごとのストリームをGtブロック分、順次取り出して出力する。出力された信号はパルス整形及びRF変換後に無線チャネルで伝送される。図2の例では時間領域拡散符号が列方向に並べられ、(L+LΔ)個のサブブロックが行方向に並べられているが、チップを並べる方向は必要に応じて適宜変更可能である。
【0034】
図1には明示されてはいないが、位相変調部15の後段にインターリーバが設けられ、信号チップをランダム化してシステムの周波数領域ダイバーシチ効果を大きくする構成にしてもよい。
【0035】
図4は、本発明の一実施例による2CS−IFDMA送受信機の受信部を示す。この受信部は典型的には基地局に設けられるが、他の装置に設けられてもよい。この受信部は、図1に示した送信部とほぼ逆の処理を行うが、本実施例では受信品質を更に向上させるため、周波数領域での等化処理もなされる。受信部は、時間領域逆拡散部41と、位相復調部42と、高速フーリエ変換部43と、周波数領域イコライザ44と、逆高速フーリエ変換部45と、周波数領域逆拡散部46と、拡散率コントローラ47を含む。
【0036】
時間領域逆拡散部41は、受信信号に時間領域の逆拡散符号(符号拡散率はGtである)を乗算し、時間領域での逆拡散を受信信号に施す。この処理は、図1の時間領域拡散部16の処理に関連する。
【0037】
位相復調部42は、ユーザ毎に用意された位相を逆拡散後の信号に乗算し、位相復調を行う。この処理は、図1の位相変調部15の処理に関連する。
【0038】
高速フーリエ変換部(FFT)43は、位相復調後の信号を高速フーリエ変換し、位相復調後の信号を周波数領域の信号内容に変換する。周波数領域イコライザ44は、周波数領域での等化処理を行う。逆高速フーリエ変換部(IFFT)45は、等化後の信号に対して逆高速フーリエ変換を行う。周波数領域逆拡散部46は、等化後のIFFT後の信号に周波数領域拡散符号(符号拡散率はGfである)を乗算し、周波数領域での逆拡散を信号に施す。
【0039】
拡散率コントローラ47は、受信した信号の周波数領域、時間領域の拡散率に基づいて周波数領域拡散符号の拡散率と、時間領域拡散符号の拡散率との割合を調整する。
【0040】
図5は、図4の受信部で受信信号が逆拡散される処理を示す。送信機から送信された信号は、無線チャネルを伝搬し、受信機のアンテナを通じて受信される。受信信号yは、式(3)で表現される。
【0041】
y=h*x+n (3)
ここで、hは無線チャネルのチャネル行列を表わす。チャネル行列hは、hm(m=0,...,M)のチャネル行列成分を有する。Mは、チャネル行列におけるチャネルインパルス応答のタップ数を表す。xは送信信号を表し、“*”は線形畳み込み演算を表し、nは加法性白色ガウス雑音(AWGN)を表す。送信信号xは、図2に示すように、各々がQチップ分のサブブロックを(L+LΔ)個含むブロックをGt個含むブロックデータに対応する。
【0042】
受信された信号(Gt個のブロックが順次送信されたもの)は、図5に示すように、ブロックごとに積み上げられる。これは、時間領域の拡散行列(すなわち、Gt行×(L+LΔ)列の行列)に対応する。時間領域逆拡散部41へ入力されるデータは、Gt行、(L+LΔ)列のQチップデータのチャネルベクトルhのチップブロックを畳み込んだ出力である。これを逆拡散するには、各行にユーザの拡散符号(時間領域)を乗算し、行ごとに加算する。本実施例ではGt個のブロックが伝送されている間の時間領域でのチャネル変動は無視できる程度に小さいことが前提とされている。このような時間領域の拡散及び逆拡散を行うことで、マルチセル又はマルチユーザ環境において、OCIやMAIは、1/Gtに抑制される。
【0043】
図5には図示しないが、送信部でインターリーバが用いられる場合は、時間領域逆拡散部41の後段にデインタリーバを配置してもよい。
【0044】
時間領域で逆拡散されたチップは、位相復調部42に供給される。位相復調部42は、入力された信号に所定の位相を乗算し、位相復調を行う。復調後の信号は式(4)で表わされる。
【0045】
【数2】

ここでb(l-1)Q+qは、式(2)に示されるような送信チップbに対応する所望のチップの内の[(l-1)Q+q]番目の成分である。IFDMA方式の受信機と同様に、復調された信号sq(q=1,...,Q)は、式(5)のように書き表される。
【0046】
【数3】

ここで、nはQ次元のAWGNベクトルであり、hはQ次元のチャネルインパルス応答ベクトルである。hのエントリは、式(6)で表現される。
【0047】
【数4】

ここで、Mはチャネルインパルス応答ベクトルのタップ数を表す。ベクトルsとhに対しては(周期的に)畳み込み演算がされる。
【0048】
位相復調の後で、復調されたQ個のチップは、サイズがQであるFFT部43に与えられる。フーリエ変換の演算をFで表現すると、FFT後のQチップベクトルは、
S~=diag(H)・S+N (7)
と表わされる。ここで、diag(x)はベクトルxの成分と同じ対角成分を有する対角行列であり、S=F・s、H=F・h、N=F・nである。
【0049】
FFT部の出力は周波数領域等化部44に与えられる。ベクトルSの各要素はAWGNの影響を受けているので、周波数領域の等化では、1タップの等化を行う。例えば1タップのゼロフォーシング等化器は、Sq~にHのq番目の要素の逆行列(Hq)-1を乗算して、Sの要素(Sq,q=1,...,Q)をそれぞれ推定する。一方、最小二乗平均誤差に基づく1タップMMSE等化器は、Sq~と(|Hq|2+σ2-1を乗算することで、Sqを推定する。なお、チップ間干渉に対処するには、従来のMLSE等化器のような時間領域の等化器では、複雑な演算処理(複数タップの処理)を必要とするのに対して、周波数領域では、1タップの簡単な処理で等化をすることができる。
【0050】
Sの推定誤差をεとすると、周波数領域等化後のQチップベクトルはF・S+εと書き表すことができる。IFFT部45の出力のQチップベクトルは、
−1・(F・s)+F−1・ε=s+F−1・ε (8)
となり、推定誤差F−1・εしか伴わないsの良好な近似が得られる。
【0051】
等化後の信号は、周波数領域逆拡散部46に与えられ、入力のGf個のチップより成るサブブロック毎に周波数領域拡散符号cfが乗算され、送信されたシンボルを検出するために総和がとられる。周波数領域の逆拡散後には、MAI及びOCIは、1/Gfに抑制されている。最終的に検出されたシンボルは、チャネル符号化に対応したデコーダに入力され、さらなる処理を経て送信信号が復元される。
【0052】
上述した実施例では、周波数領域の等化を行うためにFFT部43、周波数領域イコライザ44及びIFFT部45を用いたが、これらは2CS−IFDMAに必須ではない。しかしながら、このような周波数領域での等化を行うことは、シングルキャリア方式でデータ伝送を行うような場合に特に有利である。一般に、マルチキャリア方式は、ピーク電力対平均電力比(PAPR)の増大を克服できれば、シングルキャリア方式よりも優れた伝送特性を有する。しかし、シングルキャリア方式であっても、本実施例のように周波数領域の等化を行うことによって受信品質を改善し、マルチキャリア方式に匹敵する信号品質を得ることは可能である。しかも周波数領域等化器の複雑さは時間領域の等化器に比較して小さくすることが出来る。
【0053】
図5では図示しないが、位相復調信号は、時間領域で圧縮解凍してD個の圧縮解凍された信号を出力してもよい。D個の圧縮解凍された信号は、周波数領域の拡散符号で乗算されてD個の送信シンボルが復元される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のデータシンボルの各々に第1拡散率の拡散符号を乗算する第1拡散手段と、
前記第1拡散手段の出力を時間領域で圧縮し、圧縮後の信号をL回(Lは2以上の自然数)反復する圧縮反復手段と、
前記圧縮反復手段の出力にユーザ毎に異なる位相を乗算し、L個のサブブロックより成るデータブロックを出力する位相変調手段と、
前記データブロックを第2拡散率に合わせて複製し、複製された同一内容のサブブロックに第2拡散率の拡散符号を乗算する第2拡散手段と、
拡散後の信号をシングルキャリア方式で無線送信する手段と、
を有することを特徴とする送信機。
【請求項2】
通信状況に応じて前記第1拡散率及び前記第2拡散率の割合を調整する拡散率調整手段をさらに有し、
総拡散率は前記第1拡散率及び前記第2拡散率に比例することを特徴とする請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
請求項1記載の送信機を有する
ことを特徴とする移動局。
【請求項4】
複数個のデータシンボルの各々に第1拡散率の拡散符号を乗算するステップと、
前記第1拡散手段の出力を時間領域で圧縮し、圧縮後の信号をL回(Lは2以上の整数)反復するステップと、
前記圧縮反復された信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、L個のサブブロックより成るデータブロックを出力するステップと、
前記データブロックを第2拡散率に合わせて複製し、複製された同一内容のサブブロックに第2拡散率の拡散符号を乗算して2次元拡散信号を生成するステップと、
前記2次元拡散信号をシングルキャリア方式で送信するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項5】
コンピュータにインストールされて前記コンピュータに以下の工程を実行させるプログラム製品であって、
複数個のデータシンボルの各々に第1拡散率の拡散符号を乗算するステップと、
前記乗算された信号を時間領域で圧縮し、圧縮後の信号をL回(Lは2以上の自然数)反復するステップと、
前記圧縮反復された信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、L個のサブブロックより成るデータブロックを出力するステップと、
前記データブロックを第2拡散率に合わせて複製し、複製された同一内容のサブブロックに第2拡散率の拡散符号を乗算して2次元拡散信号を生成するステップ、
を実行させるプログラム。
【請求項6】
逆拡散されたデータシンボルから送信シンボルを復元する受信機であって、
シングルキャリア方式で伝送されたL個のサブブロックより成るデータブロックを所定数(SF個)受信する手段と、
前記所定数(SF個)のサブブロックに拡散率がSFである第1拡散符号を乗算する第1逆拡散手段と、
前記第1逆拡散手段の出力にユーザ毎に異なる位相を乗算し、位相復調を行う手段と、
前記位相復調された信号の各要素に拡散率がSFの第2拡散符号を乗算して複数のデータシンボルを出力する第2逆拡散手段と、
を有し、L,SF及びSFは2以上の整数である受信機。
【請求項7】
前記位相復調を行う手段と前記第2逆拡散手段との間に、フーリエ変換手段と、周波数領域で等化処理を行う手段と、逆フーリエ変換手段とを更に有する
ことを特徴とする請求項6記載の受信機。
【請求項8】
請求項6記載の受信機を有する
ことを特徴とする基地局。
【請求項9】
逆拡散されたデータシンボルから送信シンボルを復元するための方法であって、
シングルキャリア方式で伝送されたL個のサブブロックより成るデータブロックを所定数(SF個)受信するステップと、
SF個のサブブロックに拡散率がSFである拡散符号を乗算するステップと、
前記逆拡散信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、位相復調を行うステップと、
位相復調後の信号を構成する各要素に拡散率がSFの拡散符号を乗算して複数のデータシンボルを出力するステップと、
を有し、L,SF及びSFは2以上の整数である方法。
【請求項10】
コンピュータにインストールされて前記コンピュータに以下の工程を実行させるプログラム製品であって、
受信された所定数(SF個)の同一内容のデータブロックから各サブブロックを取り出すステップであって、各データブロックはL個のサブブロックで構成され、各サブブロックは同一内容のSF個のサブブロックを含み、
前記SF個のサブブロックの各々に拡散率がSFである第1拡散符号を乗算するステップと、
前記逆拡散信号にユーザ毎に異なる位相を乗算し、位相復調を行うステップと、
位相復調後の信号を構成する各要素に拡散率がSFの拡散符号を乗算して複数のデータシンボルを出力するステップと、
を実行させ、L,SF及びSFは2以上の整数であるプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−507237(P2012−507237A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533939(P2011−533939)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【国際出願番号】PCT/JP2008/070536
【国際公開番号】WO2010/052800
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【出願人】(507284466)エージェンシー・フォー・サイエンス・テクノロジー・アンド・リサーチ (5)