説明

送信装置、受信装置、送信方法、受信方法、ならびに、プログラム

【課題】W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、通信性能を向上させる送信装置、受信装置等を提供する。
【解決手段】送信装置131において、チップ時間長単位で同期した2つの信号は拡散部133が拡散し、一方の信号を遅延回路231が半チップ時間長遅延してから、HPSK変調部135が変調し、RF送信部136が送信し、受信装置151において、RF受信部152が受信した信号をHPSK復調部153が復調して、他方の信号を遅延回路251が半チップ時間長遅延してから、逆拡散部154が逆拡散を行って、チップ時間長単位で同期した2つの信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、通信性能を向上させるのに好適な送信装置、受信装置、送信方法、受信方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
第3世代移動体通信の標準規格の1つであるW−CDMAでは、拡散符号に以下の2種類のコードを用いて、1次拡散、2次拡散が行われる。
(1)OVSFコード。データシンボル長を周期とする短周期の直交符号。
(2)スクランブルコード(sc)。ゴールド符号を用いた長周期の拡散符号。
【0003】
本来OVSFコードは、複数チャネルを実現するためにあるが、現行のW−CDMA規格では、データレート960Kbpsで通信するときに限り多チャネルが許され、60Kbpsや240Kbpsなどの状況下では、データチャネル(DPDCH)1本とコントロールチャネル(DPCCH)1本を、複素拡散により、それぞれIチャネルとQチャネルに割り当てている。
【0004】
OVSFコードの長さspreading factor(sf)は、データレート60Kbpsでは64である。また、OVSFコードはWalsh関数と呼ばれる直交関数を再帰的に適用することで生成され、sfの長さと同じ数だけのバリエーションが存在する。
【0005】
デフォルトでは、単チャネルの場合、Iチャネルにはsf/4番(60Kbpsでは16番)が使われ、Qチャネルには0番のコードが使われる。前者は、1,1,-1,-1,1,1,-1,-1,…のように、2つおきに正負が反転する符号であり、後者は、1,1,1,1,1,1,1,1,…のように、常に1が連なる符号である。
【0006】
一方で、発明者は、複数の信号チャネルを用いた通信において、各チャネルを互いに異なる時間だけ遅延させて、性能を向上させる技術を提案しており、その詳細については、以下の文献で開示している。
【特許文献1】特許第3650821号公報
【0007】
ここで、[特許文献1]では、複数の同期済信号のそれぞれの遅延時間を非線型変換により得られる値によって定めることにより、通信性能を向上させる技術が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、[特許文献1]に係る発明を、W−CDMA等のより限定された状況化において適用する場合に、非線型関数としてどのようなものを選択するかを定め、さらにその性能を向上させるための技術が強く求められている。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためのもので、W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、通信性能を向上させるのに好適な送信装置、受信装置、送信方法、受信方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る送信装置は、チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号の入力を受け付ける入力受付部、入力を受け付けられた2つの同期済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させた2つの非同期済信号を出力する遅延部、出力された2つの非同期済信号のそれぞれを変調した2つの変調済信号を出力する変調部、出力された2つの変調済信号を送信する送信部を備え、当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であるように構成する。
【0011】
また、本発明の送信装置において、当該2つの同期済信号は、W−CDMA通信におけるOVSFコードによる拡散後、ゴールド符号を用いたスクランブルコードによる拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号であるように構成することができる。
【0012】
また、本発明の送信装置において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、Iチャネルに対しては長さ64のOVSFコードの32番乃至63番を用い、当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSF(Lebesgue Spectrum Filter)フィルタをかけたものを当該スクランブルコードとするように構成することができる。
【0013】
本発明のその他の観点に係る受信装置は、2つの受信信号を受信する受信部、受信された2つの受信信号のそれぞれを復調した2つの復調済信号を出力する復調部、出力された2つの復調済信号をチップ時間長単位で互いに同期させた2つの同期済信号を出力する同期化部を備え、当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であるように構成する。
【0014】
また、本発明の受信装置において、当該2つの復調済信号は、W−CDMA通信におけるゴールド符号を用いたスクランブルコードによる逆拡散後、OVSFコードによる逆拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号であるように構成することができる。
【0015】
また、本発明の受信装置において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、Iチャネルに対しては長さ64のOVSFコードの32番乃至63番を用い、当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとするように構成することができる。
【0016】
また、本発明の受信装置において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、受信部と復調部との間で、当該受信信号に対してタップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけるように構成することができる。
【0017】
また、本発明の受信装置において、当該復調済信号の一方を逆拡散するOVSFコードを他方を逆拡散するOVSFコードに比べて当該所定の時間長だけ遅延させて与えることにより、チップ時間長単位で互いに同期させるように構成することができる。
【0018】
本発明のその他の観点に係る送信方法は、チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号の入力を受け付ける入力受付工程、入力を受け付けられた2つの同期済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させた2つの非同期済信号を出力する遅延工程、出力された2つの非同期済信号のそれぞれを変調した2つの変調済信号を出力する変調工程、出力された2つの変調済信号を送信する送信工程を備え、当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であるように構成することができる。
【0019】
また、本発明の送信方法において、当該2つの同期済信号は、W−CDMA通信におけるOVSFコードによる拡散後、ゴールド符号を用いたスクランブルコードによる拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号であるように構成することができる。
【0020】
また、本発明の送信方法において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとするように構成することができる。
【0021】
本発明のその他の観点に係る受信方法は、2つの受信信号を受信する受信工程、受信された2つの受信信号のそれぞれを復調した2つの復調済信号を出力する復調工程、出力された2つの復調済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させて、チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号を出力する同期化工程を備え、当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であるように構成する。
【0022】
また、本発明の受信方法において、当該2つの復調済信号は、W−CDMA通信におけるゴールド符号を用いたスクランブルコードによる逆拡散後、OVSFコードによる逆拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号であるように構成することができる。
【0023】
また、本発明の受信方法において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとするように構成することができる。
【0024】
また、本発明の受信方法において、当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、受信部と復調部との間で、当該受信信号に対してタップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけるように構成することができる。
【0025】
また、本発明の受信方法において、当該復調済信号の一方を逆拡散するOVSFコードを当該所定の時間長だけ遅延させることにより、チップ時間長単位で互いに同期させるように構成することができる。
【0026】
本発明のその他の観点に係るプログラムは、コンピュータもしくはディジタル信号プロセッサを、上記の送信装置の各部、受信装置の各部として機能させ、もしくは、上記の送信方法、受信方法を実行させるように構成する。
【0027】
また、本発明のプログラムは、コンパクトディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、ディジタルビデオディスク、磁気テープ、半導体メモリ等のコンピュータ読取可能な情報記憶媒体に記録することができる。
【0028】
上記プログラムは、プログラムが実行されるコンピュータやディジタル信号プロセッサとは独立して、コンピュータ通信網を介して配布・販売することができる。また、上記情報記憶媒体は、コンピュータやディジタル信号プロセッサとは独立して配布・販売することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、通信性能を向上させるのに好適な送信装置、受信装置、送信方法、受信方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものに置換した実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、以下では、主としてW−CDMAに本発明の原理を適用する場合について説明するが、本発明の範囲は必ずしもこれに限られるわけではなく、2つのチャネルを利用するような種々の用途にも適用が可能である。
【0032】
以下では、まず、従来技術に相当するW−CDMAの基本技術について説明し、その後に、本実施形態と当該従来技術との差異を説明する。
【0033】
(W−CDMAの基本技術)
図1は、従来技術に係るW−CDMAの通信システムの概要構成を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。
【0034】
通信システム101は、送信装置131と受信装置151とからなる。上り回線を想定する場合には、送信装置131は携帯電話に相当し、受信装置151は基地局に相当する。
【0035】
送信装置131においては、データチャネルの信号(DPDCH)とコントロールチャネルの信号(DPCCH)とに対して、1次拡散部133が、拡散符号C[i]とC[j]とを順に与えて、それぞれを拡散している。
【0036】
拡散符号C[i]とC[j]とは、OVSFコードであり、上記のように、データチャネル(DPDCH)の信号132が処理されるIチャネル側は16番(i = 16)、Qチャネル側は0番(j = 0)が利用される。
【0037】
拡散符号C[i]とC[j]のそれぞれの周期は64であるから、原理的には、−1と1のいずれかのビット値を拡散符号C[i]とC[j]の先頭から巡回的に、同期しながら順に取り出して、シンボル1つずつに対して乗じることで、拡散を行う。
【0038】
1次拡散の後、2次拡散および変調を行う前に、前処理部134が、良チャネルに対して拡散符号βを重畳する。この拡散符号βは、W−CDMAの規格上gain factorと呼ばれるもので、DPDCHとDPCCHの送信電力比の干渉を抑制する調整のために設けられている。
【0039】
さらに、HPSK変調部135は、Iチャネル用スクランブルコードS[1]とQチャネル用スクランブルコードS[2]とを受け付けて、これを適用しつつHPSK(Hybrid Phase Shift Keying)拡散/変調を行う。スクランブルコードには、ゴールド符号を用いた長周期の拡散符号を用いる。
【0040】
この結果得られたIチャネルとQチャネルの信号は、RF送信部136によって送信され、受信装置151に送られる。
【0041】
受信装置151においては、RF受信部152が送信された信号を受信してこれをIチャネルとQチャネルに分ける。
【0042】
そして、HPSK復調部153が、Iチャネル用スクランブルコードS[1]とQチャネル用スクランブルコードS[2]とを受け付けて、これを適用しつつ、HPSK逆拡散/復調を行う。
【0043】
さらに、逆拡散部154が、拡散符号C[i]とC[j]を用いて、逆拡散を行う。原理的には、−1と1のビットを拡散符号C[i]とC[j]の先頭から巡回的に同期しながら順に取り出して、シンボル1つずつに対して乗じることで、逆拡散を行う。
【0044】
このようにして、データチャネルの信号(DPDCH)とコントロールチャネルの信号(DPCCH)とが得られるのである。
【0045】
(本実施形態の通信システム)
図2は、[特許文献1]に開示される技術を適用した実施形態に係る通信システムの概要構成を示す模式図である。以下、本図を参照して説明する。
【0046】
本図に示す通信システム101と、図1に示すものとの差は、送信装置131においてIチャネル側に遅延回路231が設けられている点と、受信装置151においてQチャネル側に遅延回路251が設けられている点である。ここで、遅延回路231と遅延回路251の遅延時間はいずれも等しい。
【0047】
以下では、遅延時間としてどのような値が望ましいかを、モンテカルロ法による計算機シミュレーションにて、従来技術と本実施形態との効果測定を行い、実験により求めた例について説明する。
【0048】
図3は、SF=64の場合のOVSFコードのパターンを示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。
【0049】
本図の桝目の白は1、黒は−1を意味する。1行は、コード1周(64チップ)に相当し、上の行から順に、0番、1番、…、63番のOVSFコードに相当する。
【0050】
Qチャネル側は0番のOVSFコードを適用し、Iチャネル側にはこのような種々のOVSFコードを適用して、遅延時間として0.5チップ(1チップ時間長の0.5倍)の遅延時間を与えてシミュレーションを行った。データレートは60Kbps、ユーザ数30、ノイズの影響は考慮せずに(以下同様)、ビット誤り率を測定した。
【0051】
図4は、従来技術と本実施形態に係る0.5チップ遅延で種々のOVSFコードに対してシミュレーションを行った結果得られたビット誤り率を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0052】
本図を見てもわかる通り、従来技術においては、OVSFコードで何番を選ぶかによってビット誤り率に変化はほとんどないが、本実施形態では、OVSFコードで何番を選ぶかによって、ビット誤り率が大きく異なる。
【0053】
最もビット誤り率が低いのは、32番のOVSFコード(−1と1が1チップごとにフリップする符号)であり、32番〜63番のOVSFコードは、それ以外のコードに対して、ビット誤り率が低くなっている。
【0054】
図5は、本実施形態において、OVSFコード8番、16番、32番、40番に対して遅延時間を0チップから1チップまで変化させたときの、ビット誤り率を測定したグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0055】
本図に示すように、ビット誤り率が良好な範囲は、概ね0.3チップ〜0.7チップの遅延時間である。ただし、ディジタル信号処理の実装の観点からは、0.5チップ(0.5チップ時間長)の遅延時間とすると、実装が容易であると考えられる。そこで、以下では、主に遅延時間が0.5チップの場合を想定して説明する。
【0056】
また、一般には、チップ時間長はシンボル時間長と一致する。すなわち、1チップ時間で、1つのチャネルあたり1シンボルが処理可能とするのが典型的である。
【0057】
このように、本実施形態の送信装置131において、拡散部133は同期済信号を出力する機能を果たすので、拡散部133の出力線が、入力受付部として機能し、また、Iチャネルの遅延回路231が、遅延部として機能し、HPSK変調部135が、変調部として機能し、RF送信部136が送信部として機能する。
【0058】
また、本実施形態の受信装置151において、RF受信部152は受信部として機能し、HPSK復調部153は復調部として機能し、遅延部251は同期化部として機能して、逆拡散部154にIチャネルとQチャネルで同期した信号を与えることになる。
【0059】
図6は、受信装置において遅延回路の配置を変更した実施形態の概要構成を示す模式図である。以下、本図を参照して説明する。
【0060】
図2においては、受信装置151の遅延回路251は、QチャネルのHPSK復調部153と逆拡散部154の間に配置されている。
【0061】
一方、本図に示す実施形態では、遅延回路251は、Iチャネルの逆拡散部154に与えられる拡散符号C[i]を、Qチャネルの逆拡散部154に与えられる拡散符号C[j]に対して0.5チップ遅延させるように配置されている。これによって、2つの信号の同期を図ることができる。
【0062】
すなわち、本実施形態の受信装置151においては、遅延部251と逆拡散部154が共働して同期化部として機能し、DPDCHとDPCCHという同期した信号を出力することになる。
【0063】
上記の実施形態によれば、W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、その遅延時間を0.3チップ長〜0.7チップ長とすることで、ビット誤り率を低減させることができる。また、0.5チップ長(0.5チップ時間長)とすることで、実装を容易にし、製造コストを抑制することが可能となる。
【0064】
以下では、本実施形態に対してLSFフィルタを適用して、さらに性能の向上を図る実施形態について説明する。
【0065】
(LSFフィルタ)
図7は、タップ段数2段のLSFフィルタの概要構成を示す説明図である。以下、本図を参照して説明する。
【0066】
LSFフィルタ701はFIRフィルタの一種で、拡散符号の自己相関特性を制御することができる。入力に対して1チップ、2チップ、3チップ、…の遅延信号を得るために、1チップ遅延の遅延回路702を直列に接続するとともに、その出力のそれぞれを、乗算回路703により1倍、(-r)倍、(-r)2倍、…して、加算回路704が、その総和を求めて出力する。
【0067】
一般に、自己相関係数の最適値は、r = 2-31/2もしくは、r = -(2-31/2)である。また、タップ段数は、2段程度で十分効果がある。
【0068】
W−CDMAでは、LSFフィルタを適用する箇所として、以下の3箇所が考えられる。
(1)送信装置131において、スクランブルコードS[1],S[2]に対してLSFフィルタをかけてから、HPSK変調部135に与える(以下ueと略記)。
(2)受信装置151において、スクランブルコードS[1],S[2]に対してLSFフィルタをかけてから、HPSK復調部153に与える(以下bsと略記)。
(3)受信装置151において、RF受信部152から得られるIチャネルとQチャネルの信号に対してLSFフィルタをかけてから、HPSK復調部153に与える(以下airと略記)。
【0069】
図8は、手法ueによる送信装置の概要構成を示す説明図である。図9は、図2に示す受信装置に手法bsを適用した概要構成を示す説明図である。図10は、図6に示す受信装置に手法airによる受信装置の概要構成を示す説明図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0070】
これらの図に示すように、手法ue,bsにおいては、以下の2つの符号を、スクランブルコード入力としてHPSK変調部135、HPSK復調部153に与えている。
(a)S[1]にLSFフィルタ701を適用したものと、
(b)スクランブルコードS[2]に対して2 decimate回路801により間引きをし、これと、1チップごとに−1と1をフリップする符号W[1](図中のW1)とS[1]を重畳回路802により乗算したものに、LSFフィルタ701を適用したものと、
【0071】
一方、手法airにおいては、RF受信部152とHPSK復調部153の間で、IチャネルとQチャネルのそれぞれにLSFフィルタ701を配置している。
【0072】
これらの手法は、1つの通信システムにおいて、適宜組み合わせて利用することができるため、いずれのパターンを採用するかで、23 = 8通りの手法がありうる。以下、シミュレーションの結果とともに、どのような組み合わせが好ましいかについて説明する。
【0073】
図11は、図1に示す構成において、LSFフィルタを種々の組み合わせで適用した場合の結果を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0074】
本図に示す結果からは、LSFフィルタを適用した場合の効果は、OVSFコードのいずれを選択するかに依存することがわかる。OVSFコードの依存を平均化して現行のW−CDMA規格のデフォルト設定においてLSFフィルタを適用する手法として、最も良いのは、airのみを適用する場合である。
【0075】
また、OVSFコードのいずれかを選択する場合は、0番コードでue,bsを同時適用した態様と、0番コードでair,bsを同時適用した態様のビット誤り率が低い。
【0076】
図12は、図1(従来技術)および図2・図6(本技術)に示す構成においてLSFフィルタを種々の組み合わせで適用した場合に、相関パラメータrを変更したときの結果を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【0077】
本図(A)は、従来技術+LSFにコード0番(チャネル同期:コード0番)を、(B)は、従来技術+LSFにコード32番(チャネル同期:コード32番)を、(C)は、本技術+LSFにコード32番(チャネル非同期:コード32番)を、それぞれ選択した場合の結果である。本図を見ればわかるように、自己相関特性が大きく変化していることがわかる。
【0078】
従来技術+LSFのコード32番では、ue,bsを同時適用した場合であり、この場合の最適な相関パラメータの値-0.26795は、通常の最適な相関パラメータの値2-31/2とは正負の符号が反転しているとともに、図11における結果の最低値と同程度のビット誤り率になっている。
【0079】
本図(C)に示すように、本技術+LSFのコード32番の組み合わせでは、air,ueを同時適用して、正負の符号を反転した相関パラメータの値(図中上向き矢印)を選択したときが、ビット誤り率が最低となる。
【0080】
次に、上記の種々の組み合わせについて、現行のW−CDMA規格との通信キャパシティの性能比較をする。
【0081】
図13は、図12から得られた良好な性能を有する組み合わせに対して、ユーザ数(Ue)を増加させたときのビット誤り率を示すグラフである。図14は、ビット誤り率10-3近傍で、現行のW−CDMAから通信キャパシティが向上した割合を示す表である。
【0082】
図13(A)/図14(A)は、図12(A)(B)の従来技術+LSF+コード0番/16番/32番の組み合わせの場合である(チャネル同期)。
【0083】
図13(B)/図14(B)は、図12(C)の本技術+LSF+32番の組み合わせの場合である(チャネル非同期)。
【0084】
これらの図を見れば明らかなように(なお、図13(A)(B)では、横軸の縮尺が異なる。)、本発明のように、チャネルに相対的な遅延を設けることで、通信キャパシティが大きく向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、W−CDMA等の2チャネルを用いる通信技術に対して一方のチャネルを他方のチャネルに対して時間遅延させる技術を適用する際に、通信性能を向上させるのに好適な送信装置、受信装置、送信方法、受信方法、ならびに、これらをコンピュータもしくはディジタル信号プロセッサ上にて実現するプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来技術に係るW−CDMAの通信システムの概要構成を示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る通信システムの概要構成を示す模式図である。
【図3】SF=64の場合のOVSFコードのパターンを示す説明図である。
【図4】従来技術と本実施形態に係る0.5チップ遅延で種々のOVSFコードに対してシミュレーションを行った結果得られたビット誤り率を示すグラフである。以下、本図を参照して説明する。
【図5】本実施形態において、OVSFコード8番、16番、32番、40番に対して遅延時間を0チップから1チップまで変化させたときの、ビット誤り率を測定したグラフである。
【図6】受信装置において遅延回路の配置を変更した実施形態の概要構成を示す模式図である。
【図7】タップ段数2段のLSFフィルタの概要構成を示す説明図である。
【図8】手法ueによる送信装置の概要構成を示す説明図である。
【図9】図2に示す受信装置に手法bsを適用した概要構成を示す説明図である。
【図10】図6に示す受信装置に手法airによる受信装置の概要構成を示す説明図である。
【図11】図1に示す構成において、LSFフィルタを種々の組み合わせで適用した場合の結果を示すグラフである。
【図12】図1(従来技術)および図2・図6(本技術)に示す構成においてLSFフィルタを種々の組み合わせで適用した場合に、相関パラメータrを変更したときの結果を示すグラフである。
【図13】図12から得られた良好な性能を有する組み合わせに対して、ユーザ数(Ue)を増加させたときのビット誤り率を示すグラフである。
【図14】ビット誤り率10-3近傍で、現行のW−CDMAから通信キャパシティが向上した割合を示す表である。
【符号の説明】
【0087】
101 通信システム
131 送信装置
133 拡散部
134 前処理部
135 HPSK変調部
136 RF送信部
151 受信装置
152 RF受信部
153 HPSK復調部
154 逆拡散部
231 遅延回路
251 遅延回路
701 LSFフィルタ
702 遅延回路
703 乗算回路
704 加算回路
801 2 decimate回路
802 重畳回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号の入力を受け付ける入力受付部、
前記入力を受け付けられた2つの同期済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させた2つの非同期済信号を出力する遅延部、
前記出力された2つの非同期済信号のそれぞれを変調した2つの変調済信号を出力する変調部、
前記出力された2つの変調済信号を送信する送信部
を備え、
当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信装置であって、
当該2つの同期済信号は、W−CDMA通信におけるOVSFコードによる拡散後、ゴールド符号を用いたスクランブルコードによる拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号である
ことを特徴とする送信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の送信装置であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、Iチャネルに対しては長さ64のOVSFコードの32番乃至63番を用い、
当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとする
ことを特徴とする送信装置。
【請求項4】
2つの受信信号を受信する受信部、
前記受信された2つの受信信号のそれぞれを復調した2つの復調済信号を出力する復調部、
前記出力された2つの復調済信号をチップ時間長単位で互いに同期させた2つの同期済信号を出力する同期化部
を備え、
当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする受信装置。
【請求項5】
請求項4に記載の受信装置であって、
当該2つの復調済信号は、W−CDMA通信におけるゴールド符号を用いたスクランブルコードによる逆拡散後、OVSFコードによる逆拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号である
ことを特徴とする受信装置。
【請求項6】
請求項5に記載の受信装置であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、Iチャネルに対しては長さ64のOVSFコードの32番乃至63番を用い、
当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとする
ことを特徴とする受信装置。
【請求項7】
請求項5に記載の受信装置であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、
前記受信部と前記復調部との間で、当該受信信号に対してタップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかける
ことを特徴とする受信装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の受信装置であって、
当該復調済信号の一方を逆拡散するOVSFコードを他方を逆拡散するOVSFコードに比べて当該所定の時間長だけ遅延させて与えることにより、チップ時間長単位で互いに同期させる
ことを特徴とする受信装置。
【請求項9】
チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号の入力を受け付ける入力受付工程、
前記入力を受け付けられた2つの同期済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させた2つの非同期済信号を出力する遅延工程、
前記出力された2つの非同期済信号のそれぞれを変調した2つの変調済信号を出力する変調工程、
前記出力された2つの変調済信号を送信する送信工程
を備え、
当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする送信方法。
【請求項10】
請求項9に記載の送信方法であって、
当該2つの同期済信号は、W−CDMA通信におけるOVSFコードによる拡散後、ゴールド符号を用いたスクランブルコードによる拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号である
ことを特徴とする送信方法。
【請求項11】
請求項10に記載の送信方法であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、
当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとする
ことを特徴とする送信方法。
【請求項12】
2つの受信信号を受信する受信工程、
前記受信された2つの受信信号のそれぞれを復調した2つの復調済信号を出力する復調工程、
前記出力された2つの復調済信号の一方を他方に対して所定の遅延時間長だけ遅延させて、チップ時間長単位で互いに同期した2つの同期済信号を出力する同期化工程
を備え、
当該所定の遅延時間長は、当該チップ時間長の0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする受信方法。
【請求項13】
請求項12に記載の受信方法であって、
当該2つの復調済信号は、W−CDMA通信におけるゴールド符号を用いたスクランブルコードによる逆拡散後、OVSFコードによる逆拡散前の、Iチャネル信号とQチャネル信号である
ことを特徴とする受信方法。
【請求項14】
請求項13に記載の受信方法であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、
当該ゴールド符号に対して、タップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかけたものを当該スクランブルコードとする
ことを特徴とする受信方法。
【請求項15】
請求項13に記載の受信方法であって、
当該所定の遅延時間長として、当該チップ時間長の0.5倍を用い、
当該OVSFコードとして、32番乃至63番を用い、
前記受信部と前記復調部との間で、当該受信信号に対してタップ段数1段以上、自己相関係数±(2-31/2)のLSFフィルタをかける
ことを特徴とする受信方法。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか1項に記載の受信方法であって、
当該復調済信号の一方を逆拡散するOVSFコードを当該所定の時間長だけ遅延させることにより、チップ時間長単位で互いに同期させる
ことを特徴とする受信方法。
【請求項17】
コンピュータもしくはディジタル信号プロセッサを、請求項1から3のいずれか1項に記載の送信装置の各部として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項18】
コンピュータもしくはディジタル信号プロセッサを、請求項4から8のいずれか1項に記載の受信装置の各部として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−118187(P2009−118187A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289012(P2007−289012)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304001545)株式会社カオスウェア (28)
【Fターム(参考)】