説明

送液装置

【課題】液体の前進および停止を制御することができる送液装置を提供する。
【解決手段】第1液体が導入される第1導入口115と、第1導入口115と第1流路によって連結されているとともに、第1流路内の空気を外へ排出する第1排出口113と、第1流路内に設けられているとともに、第1流路内の液体を毛細管現象によって吸収する第1吸収体131と、第1液体中に溶解して第1液体の粘度を上昇させる第1増粘剤132と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を輸送するための送液装置に関し、より具体的には、液体を吸収する吸収体を備える送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
POCT(Point Of Care Testing)とは、病院のベッドサイドや家庭内などの、患者に近いところで実施される臨床検査を意図する。POCTであれば、検査結果を迅速に患者の治療に活かすことができるとともに、質の高い治療を患者に提供することができるので、近年、POCTに対する関心が高まっている。
【0003】
POCTを実施するためには、簡便な操作によって迅速な分析を行うことが可能な小型の分析装置が必要である。
【0004】
免疫分析法は、医療分野、生化学分野、アレルゲンなどの測定を行う必要がある分野等において広く使用されている。しかしながら、従来の免疫分析法を実施するためには、大型の機器を必要とする。また、免疫分析法は操作が煩雑であるので、分析に1日以上の時間を必要とする。このため、従来の免疫分析法をPOCTに適用することはできない。
【0005】
この問題を解決するために、近年、基板中に横断面の小さな流路(例えば、マイクロメートルオーダー)を形成するとともに、当該流路内に抗体等を固定化したチップ(例えば、マイクロ分析チップ)が開発され、実用化されつつある。
【0006】
上記チップは、検体等を含む液体をチップ内の反応部や検出部へ導くとともに、当該液体を反応部や検出部の下流側へ送液するための送液手段を備えている必要がある。
【0007】
このようなチップに使用可能な送液手段としては、マイクロポンプを利用する送液手段、および、流路と液体との間に生じる毛細管現象(界面張力)を利用する送液手段を挙げることができる。
【0008】
例えば、特許文献1は、微細加工技術を用いて、装置内にマイクロポンプを組み込む技術を開示している。マイクロポンプを用いれば、確実な送液が行える。また、特許文献2は、毛細管現象によって送液する技術を開示している。この方式は、ポンプを必要としないので、上記特許文献1に記載の技術と比較して、チップのコンパクト化を図り易いという利点がある。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載の技術は、様々な問題点も有している。例えば、特許文献1に記載の技術は、チップ内へマイクロポンプを組み込むために高度で複雑な加工技術を必要とするという問題点を有している。また、特許文献1に記載の技術は、チップ内にマイクロポンプを収容するためのスペースが必要であるとともに、チップ内にマイクロポンプを駆動するための様々な構成を収容するためのスペースが必要であるので、チップのコンパクト化を図り難いという問題点を有している。また、特許文献2に記載の技術は、流路幅の大小が毛細管現象に対して大きく影響するので、流路幅を自由に設定し難いという問題点を有している。例えば、流路の途中に流路幅の異なる部分を設けると、液体の流れが停止したり、流速が不安定になったりするという問題を生じる。
【0010】
そこで、上述した問題点を解消するために、従来から、流路の下流側に設置された吸収体を利用する送液手段が用いられてきた。当該送液手段について、以下に更に詳細に説明する。
【0011】
特許文献3は、吸収体(例えば、多孔質体など)の液体吸収能力を利用して、チップに対して送液を行う技術を開示している。当該技術は、流路の下流側に吸収体を配置し、当該吸収体の液体吸収能力を利用して送液を行うので特許文献2のような問題がない。特許文献3に開示されている技術を、図4、13を用いて更に詳細に説明する。
【0012】
図13は、従来の送液装置を示す図であって、図13の(a)は、送液装置の平面図であり、図13の(b)は、送液装置の断面図である。
【0013】
図4は、図13に示す送液装置内を流れる液体を示す図であり、図4の(a)から図4の(f)へ向かって順に、チップ内を流れる液体の状態の変化を示している。図4の(a)〜(f)では、液体が存在する部分に着色しており、且つ、液体の流れを判りやすくするために、流路514を折れ曲がった形状にしている。
【0014】
図13の(a)および(b)に示すように、チップは、流路514と、流路514の上流に接続された受容部512と、流路514の下流に接続された収容部513と、収容部513内に設けられた吸収体530と、を備えている。送液装置は、流路514用の溝、受容部512用の貫通孔および収容部513用の貫通孔が設けられている第1基板510と、第1基板510に蓋をする第2基板511と、を重ね合わせることによって形成されている。
【0015】
受容部512内へ液体が注入されると(図4の(a)参照)、毛細管現象によって液体が流路514内を移動して、吸収体530に達する。液体が吸収体530に達すると(図4の(b)参照)、液体が吸収体530に吸収され、流路514内を液体が継続的に流れて移送される(図4の(c)参照)。吸収体530が完全に液体を吸いきることによって、液体の移送が完了する(図4の(d)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−128906号公報(2008年6月 5日公開)
【特許文献2】特開2006−220606号公報(2006年8月24日公開)
【特許文献3】特開2001− 88096号公報(2001年4月 3日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来の吸収体を用いる送液装置は、液体の前進および停止を制御することできないという問題点を有している。
【0018】
チップを用いて分析を行うためには、流路内で所定の反応などを行わせる必要があり、このために、サンプル液、反応用溶液、洗浄用溶液および検出用溶液などの複数種類の液体を、各溶液に応じた様式にて流路内を移動させることが必要である。
【0019】
例えば、サンプル液および反応用溶液に関しては、反応を十分に進行させるために、反応を生じさせる領域で流れを一時的に停止または減速させることが好ましい。洗浄用溶液に関しては、洗浄効果を高めるため、または他の液を希釈させないために、反応を生じさせる領域や検出を行う領域の外へ流し出すことが好ましい。しかしながら、特許文献3に記載のチップでは、このような制御が不可能である。このことを、図4を用いて説明する。
【0020】
図4の(a)〜(d)にて、吸収体530の吸収可能液体容量の方が、受容部512から流路内へ導入される液体(第1液体)の容量よりも大きい場合、受容部512から注入されて流路514内に入った第1液体は、吸収体530によって完全に吸収され、液体の移動が停止する。このとき、吸収体530には液体を吸収していない領域が存在し、吸収体530の内部や、吸収体530と収容部513の壁面との間に空隙が生じる(図4の(d)参照)。この空隙が、流路514からチップの外へ空気を排出する経路として機能し得るため、受容部512から更に別の液体を注入した場合、当該別の液体は、流路514内の空気を追い出しながら下流側(収容部513側)へ移動する(図4の(e)および(f)参照)。
【0021】
上記別の液体の移動終了状態は、第1液体を完全に吸収した後の吸収体530に残存している吸収力、すなわち、「〔吸収体530の吸収可能液体容量〕−〔第1液体の容量〕」で示される残存吸収可能液体容量によって決まる。
【0022】
残存吸収可能液体容量が、注入された別の液体の容量よりも大きい場合には、流路514内に液体が存在しない状態になる(図4の(d)と同様の状態)。一方、注入された別の液体の容量が残存吸収可能液体容量よりも大きい場合には、流路514内に液体が存在した状態となる(図4の(f)参照)。また、別の液体の容量が残存吸収可能液体容量よりも極めて大きい場合には、当該別の液体は、殆ど動かない状態となる(図4(e)と同様の状態)。
【0023】
また、図3の(a)および(b)において、吸収体530の吸収可能液体容量の方が、受容部512から流路514内へ導入される液体(第1液体)の容量よりも少ない場合、受容部512から注入されて流路514内に入った第1液体は、吸収体530に吸収され、吸収体の吸収可能液体容量が無くなった時点で、第1液体の流れが停止する。
【0024】
このように、吸収体を用いた従来の送液技術は、分析操作者の意図に関わりなく、流路から液体が流去してしまったり、流路内に液体が溜まったりするため、反応や測定を安定に行い難いという問題点を有している。
【0025】
当該課題を解消する方法としては、流路内に、マイクロバルブ、エレクトロウエッティングバルブまたは光バルブなどの開閉バルブを設けることも考えられる。しかしながら、マイクロバルブは、特許文献1のマイクロポンプと同様に、組み込みに高度な加工技術を必要とするほか、駆動に必要な様々な構成のためのスペースを必要とするので、装置のコンパクト化を図り難いという問題点を有している。エレクトロウエッティングバルブおよび光バルブは、装置のコンパクト化への支障が少ないものの、液体の流れの停止および前進の制御を一回しか行うことができず、停止から前進へ制御した後に再び液体の流れを停止させるというような、複雑な制御ができない。以上のように、エレクトロウエッティングバルブおよび光バルブは、複数種類の液体を選択的に用いて、各々の液体の送液を制御することができないという問題点を有している。
【0026】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、液体の前進および停止を制御することができる送液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の送液装置は、上記課題を解決するために、第1液体が導入される第1導入口と、上記第1導入口と第1流路によって連結されているとともに、上記第1流路内の空気を外へ排出する第1排出口と、上記第1流路内に設けられているとともに、上記第1流路内の液体を毛細管現象によって吸収する第1吸収体と、上記第1液体中に溶解して上記第1液体の粘度を上昇させる第1増粘剤と、を備えることを特徴としている。
【0028】
上記構成によれば、液体の前進および停止を、複雑に制御することができる。
【0029】
上記構成の作用を、図1および図2を例に用いて、更に詳細に説明する。
【0030】
図1の(a)は、送液装置の平面図であり、図1の(b)は、送液装置の断面図である。図2の(a)〜(e)は、送液装置内での液体の流れを示している。
【0031】
導入口115へ液体が注入されると(図2の(a)参照)、液体の自重や表面張力の作用により、液体は、送液装置の内部へ進入した後に開放された排出口側へ流れ、増粘剤を溶解した後に、吸収体131に吸収される(図2の(b)参照)。
【0032】
この時、液体の粘性が増粘剤によって増加し、粘性の増加した液体が吸収体131内、装置内、または、排出口113内などに留まることになる。粘性が増加した液体が留まることにより、毛細管力による送液を減速または停止させることができる。つまり、図2の(b)の状態で液体を停止させる、または、図2の(b)の状態から、図2の(c)の状態へ変化する速度を遅くさせることができる。
【0033】
上記構成によれば、吸収体の吸収可能容量が導入された液体の容量よりも十分に多い場合にであっても、装置内で液体の流れを一時的に停止または減速させることができる。
【0034】
吸収体の吸収可能容量が導入された液体の容量よりも少ない場合には、吸収体の残存する吸収可能液体容量が減少するのに伴って、吸収体自体の吸収力が低下し、装置内で液体の流れを一時的に停止または減速させることができる。加えて、液体の粘性が増加することによって、液体を停止させる効果、減速させる効果が増加するとともに、液体の蒸発を低下させることができるため、停止した場合の液体の停止状態(図2(b)の状態)を保持することができる。
【0035】
本発明の送液装置では、上記第1増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カゼイン、アルブミン、寒天、澱粉、糖類、アルギン酸、ポリエステル系化合物、ポリアミド系化合物、ポリエーテル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物、ビニル系化合物およびビニリデン系化合からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、送液される液体に応じて、第1増粘剤を選択することができる。これによって、第1液体に対して高い溶解性を示す第1増粘剤を用いることが可能になるとともに、第1液体の粘度をより高くすることができる。その結果、第1流路内で第1液体の流れを一時的に停止または減速させることができる。
【0037】
本発明の送液装置では、上記第1増粘剤が、上記第1吸収体の内部、または、上記第1流路内であって上記第1吸収体よりも上記第1導入口側に配置されていることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、液体の前進および停止を、複雑に制御することができる。
【0039】
上記構成の作用を、図1および図2を例に用いて、更に詳細に説明する。
【0040】
上記構成によれば、増粘剤132が吸収体131の内部または吸収体131よりも導入口115側に配置されていることにより、増粘剤132が溶解した液体を確実に吸収体131内に移動させることができる。
【0041】
吸収体131内に移動した液体は、吸収体131の毛細管力を弱める。また吸収体131内の毛細管力が強く働く空間は、吸収体131外の毛細管力の低い空間に比べて一般的に狭い空間であるため、粘性が高い液体が流路の壁面に作用する力に対する抵抗を効果的に増加させることができ、より効果的に送液を減速または停止させることができる。上記構成によれば、吸収体131の吸収可能容量が導入された液体の容量よりも十分に大きい場合であっても、装置内で液体の流れを一時的に停止または減速させることができる。
【0042】
吸収体131の吸収可能容量が導入された液体の容量よりも少ない場合には、吸収体自体の吸収力が低下または無くなるので、装置内で液体の流れを一時的に停止または減速させることができる。加えて、増粘剤132が溶解することによって液体の粘性が増加し、これによって液体の蒸発を低下させることができるので、停止した液体の状態を保持することができる。
【0043】
本発明の送液装置では、上記第1流路は、上記第1導入口から導入される上記第1液体を受容する受容部と、上記受容部に連結される第1接続流路と、上記第1接続流路に連結されるとともに、上記第1吸収体を収容する第1収容部と、を備え、上記受容部の容積および上記第1接続流路の容積の合計をQ0とし、上記第1吸収体の吸収可能液容量をQ1としたときに、Q0≦Q1であることが好ましい。
【0044】
上記構成によれば、受容部内の第1液体を、完全に第1排出口側へ送ることができる。
【0045】
上記構成の作用を、図1および図2を例に用いて、更に詳細に説明する。
【0046】
たとえば、Q1以下の容量の第1液体を受容部112へ導入すると、第1液体は、流路114内を前進して、増粘剤132を溶解する。増粘剤132を溶解した第1液体は、吸収体131に吸収されるので、流路114内の液体が完全に流路外へ移動し、送液動作が停止する。(図2の(a)〜(c)参照)。
【0047】
このとき、増粘剤132を溶解した第1液体は、吸収体131内の隙間、および、吸収体131の外表面と、流路114および/または収容部116との隙間に移動する。
【0048】
増粘剤132が溶解した第1液体は、元々の液体と比較して粘性が高くなり、吸収体131の吸収力を低下させる。この状態で、徐々に液体が排出口113側へ進み、流路114内の液体が完全に流路外へと移動して、送液動作が停止する(図2の(c)参照)。
【0049】
このとき、内部の液体と外部から繋がる空気との間に形成される液体−気体界面は、毛細管力の働く微細な空間内に充填された液体の液面と空気との境界によって形成されている。このような液体−気体界面では、界面張力および粘性の影響が強く作用するために、滞在する液体の流れに対する抵抗が強くなり、空気が、吸収体の内部、または、吸収体の外側に形成される隙間を通過することができなくなる。よって、受容部112に新たな液体152を注入した場合に、流路114内の空気が下流側へ流れることができないため、液体152は、受容部112内で停止する。すなわち、上記構成によれば、複雑な機構を用いることなく、液体152を受容部112内で停止させることができる(図2の(e)参照)。
【0050】
なお、受容部112には、液体と空気とを置換できる十分な空間があり、導入口から外部へ空気を逃がすことができる。それ故に、新たな液体(液体152)を導入することができる。
【0051】
本発明の送液装置では、上記第1吸収体の少なくとも一部と、上記第1流路の少なくとも一部とが接触しており、上記第1吸収体と接触している上記第1流路の接触面の少なくとも一部が、親水性であることが好ましい。
【0052】
上記構成によれば、第1吸収体と接する第1流路の表面の少なくとも一部が親水性であるので、第1液体が容易に第1吸収体と接している親水性の表面に移動するとともに、接している第1吸収体へ、容易に第1液体を吸収させることができる。
【0053】
本発明の送液装置では、上記受容部に、上記第1液体中の物質を反応させるための第1反応部、または、上記第1液体中の物質を検出するための第1検出部が設けられていることが好ましい。
【0054】
上記構成によれば、送液装置内において、液体の移動を制御できる。例えば、第1反応部または第1検出部に、長時間、液体を存在させることができる。それ故に、上記構成によれば、第1液体中の物質を十分に反応させたり、第1液体中の物質を高感度にて検出することができる。
【0055】
本発明の送液装置では、上記第1流路に、上記第1流路内の液体の移動を調節するための第1バルブが設けられていることが好ましい。
【0056】
上記構成によれば、液体の前進および停止を、複雑に制御することができる。
【0057】
本発明の送液装置では、上記第1流路へ連結されているメイン流路であって、上記第1流路へ連結される側と反対側の端部には、メイン流路の内外に貫通する孔が設けられているメイン流路と、上記メイン流路へ連結されている第2流路であって、上記メイン流路へ連結される側と反対側の端部には、第2液体が導入される第2導入口が設けられている第2流路と、を備え、上記第2流路には、上記第2流路内の液体の移動を調節するための第2バルブが設けられていることが好ましい。
【0058】
上記構成によれば、液体の前進および停止を、複雑に制御することができる。
【0059】
上記構成の作用を、図8および図9を例に用いて、更に詳細に説明する。
【0060】
図8は、送液装置の平面図であり、図9は、送液装置での液体の流れを示す平面図である。当該送液装置では、バルブ260bを備えていることが好ましく、バルブ260aおよび260cは備えていても、備えていなくてもよい。
【0061】
上記構成では、第1導入口212aから液体が注入されると、当該液体は第1導入流路252を通ってメイン流路251へ移動するとともに孔250側に移動する。メイン流路251内の液体は、メイン流路251から排出流路271へ移動して、排出口213内および/または排出流路271内に設けられた増粘剤(図示せず)を溶解し、吸収体213が当該液体を吸収する。
【0062】
第2導入流路253には、バルブ260bが設けられているので、バルブ260bを停止状態としておけば、メイン流路251から第2導入流路253側への液体の移動が起こらない。なお、上記説明においては、バルブ260aおよびバルブ260cは開放状態(前進状態)にしてあるものとする。
【0063】
ここで、受容部、第1導入流路252および排出流路271との合計容積q0が、吸収体の吸収可能液体容量q1以下に設定されている。q1以下の第1液体を送液装置内に導入でき、この範囲内の第1液体を送液装置内に導入すると、メイン流路251及び排出流路271内の液体が第1吸収体に完全に吸収されて、送液が停止する(図9の(b)〜(d)参照)。
【0064】
このとき、第1液体によって増粘剤が溶解し、吸収体131内の隙間、および、吸収体131の外部と、排出流路271および/または収容部との隙間に増粘剤が溶解した液体が移動する。
【0065】
増粘剤が溶解した液体は、元々の第1液体と比較して粘性が高くなり、吸収体の吸収力を低下させる。この状態で、徐々に液体が排出口213側へ進み、流路内の液体が完全に流路外へと移動して、送液動作が停止する(図2の(c)参照)。
【0066】
このとき、内部の液体と外部から繋がる空気との間に形成される液体−気体界面は、毛細管力の働く微細な空間内に充填された液体の液面と空気との境界によって形成されている。
【0067】
このような液体−気体界面では、界面張力および粘性の影響が強く作用するために、滞在する液体の流れに対する抵抗が強くなり、空気が、吸収体の内部、または、吸収体の外側に形成される隙間を通過することができなくなる。よって、第2導入口212bから第2液体を注入しても、当該液体はメイン流路251から排出流路271へ向かうことができない。また、孔250からの空気の流入によって、第1導入流路252内に液体が残り、この液体が空気の移動を妨げるので、第2液体はメイン流路251から第1導入流路252へ入ることができない(図9の(e)参照)。つまり、上記構成によれば、複雑な機構を用いることなく、第2液体をメイン流路271内で停止させることができる(図9の(f)参照)。
【0068】
本発明の送液装置では、上記メイン流路へ連結されている第3流路であって、上記メイン流路へ連結される側と反対側の端部には、第3液体が導入される第3導入口が設けられている第3流路と、上記メイン流路へ連結されているとともに、上記メイン流路を挟んで上記第2流路に対向するように配置されている排出流路であって、上記排出流路内の空気を外へ排出する第2排出口が設けられている排出流路と、上記排出流路内に設けられるとともに、上記排出流路内の液体を毛細管現象によって吸収する第2吸収体と、上記排出流路内の液体中に溶解して上記排出流路内の液体の粘度を上昇させる第2増粘剤と、上記第3流路に設けられた、上記第3流路内の液体の移動を調節するための第3バルブと、上記排出流路に設けられた、上記排出流路内の液体の移動を調節するための第4バルブと、を備え、上記排出流路は、上記第2吸収体を収容する第2収容部と、上記第2収容部と上記メイン流路とを連結する第2接続流路とを備えており、上記受容部の容積、上記メイン流路の容積、上記第2流路の容積および上記第2接続流路の容積の合計をQ2とし、上記第2吸収体の吸収可能液容量をQ3としたときに、Q2≦Q3であることが好ましい。
液体の前進および停止を、複雑に制御することができる。
【0069】
本発明の送液装置では、上記メイン流路内の上記第2流路よりも上記孔に近い領域に、上記メイン流路内の液体中の物質を反応させるための第2反応部、または、上記メイン流路内の液体中の物質を検出するための第2検出部が設けられていることが好ましい。
【0070】
上記構成によれば、送液装置内において、液体の移動を制御できる。例えば、第2反応部または第2検出部に、長時間、複数の液体を存在させることができる。それ故に、上記構成によれば、液体中の物質を十分に反応させたり、液体中の物質を高感度にて検出することができる。
【0071】
本発明の送液装置では、上記第2吸収体の少なくとも一部と、上記排出流路の少なくとも一部とが接触しており、上記第2吸収体と接触している上記排出流路の接触面の少なくとも一部が、親水性であることが好ましい。
【0072】
上記構成によれば、第2吸収体と接する排出流路の表面の少なくとも一部が親水性であるので、排出流路内の液体が容易に第2吸収体と接している親水性の表面に移動するとともに、接している第2吸収体へ、容易に排出流路内の液体を吸収させることができる。
【0073】
本発明の送液装置では、上記第2バルブは、エレクトロウエッティングバルブ、または、光バルブであることが好ましい。
【0074】
上記構成によれば、簡易な構成によって、液体の移動を確実に制御することができる。
【0075】
本発明の送液装置では、上記第2バルブは、上記第2流路の壁面に設けられている疎水性領域と、上記疎水性領域よりも上記第2流路の上流側に設けられている押圧部と、を備え、上記第2バルブは、上記押圧部に圧力を加えることよって、上記第2流路内の液体を上記疎水性領域を越えて送り出すものであることが好ましい。
【0076】
上記構成によれば、簡易な構成によって、液体の移動を確実に制御することができるバルブを実現することができる。
【0077】
本発明の送液装置では、上記第2バルブは、上記第2流路の壁面に設けられている疎水性領域と、上記疎水性領域よりも上記第2流路の上流側に設けられている電極部と、を備え、上記第2バルブは、上記電極部における電気分解によって生じる泡に起因する圧力によって、上記第2流路内の液体を上記疎水性領域を越えて送り出すものであることが好ましい。
【0078】
上記構成によれば、簡易な構成によって、液体の移動を確実に制御することができるバルブを実現することができる。
【発明の効果】
【0079】
本発明によれば、排出口からの液体の蒸発を低下(保湿)させるという効果を奏する。
【0080】
本発明によれば、流路内(例えば、所望の物質の検出または反応を行う領域内)で、所望の液体の移動(例えば、前進または停止)を正確に制御することができるという効果を奏する。
【0081】
本発明によれば、コンパクトな送液装置を実現することができるという効果を奏する。
【0082】
本発明によれば、使用し易い送液装置を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施の形態1の送液装置を示す図であって、(a)は送液装置の平面図であり、(b)は、送液装置の断面図である。
【図2】実施の形態1の送液装置での液体の流れを示す平面図である。
【図3】従来のマイクロ分析チップ内での液体の流れを示す平面図である。
【図4】従来のマイクロ分析チップ内での液体の流れを示す平面図である。
【図5】実施の形態2の送液装置を示す図であって、(a)は、送液装置の平面図であり、(b)は、送液装置の断面図である。
【図6】実施の形態2の送液装置での液体の流れを示す平面図である。
【図7】実施の形態3の送液装置を示す図であって、(a)は送液装置の平面図であり、(b)は、送液装置の断面図である。
【図8】実施の形態4の送液装置を示す平面図である。
【図9】実施の形態4の送液装置での液体の流れを示す平面図である。
【図10】実施の形態5の送液装置を示す平面図である。
【図11】実施の形態5の送液装置での液体の流れを示す平面図である。
【図12】実施の形態5の送液装置での液体の流れを示す平面図である。
【図13】従来のマイクロ分析チップを示す図であって、(a)は、当該マイクロ分析チップの平面図、(b)は、当該マイクロ分析チップの断面図である。
【図14】界面張力を説明するための模式図である。
【図15】吸収体の吸収可能液体容量および吸収力の測定に用いる装置を示す図であって、(a)は、当該装置の平面図であり、(b)は、当該装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。
【0085】
〔実施の形態1〕
図1は、本実施の形態の送液装置を示す図であって、具体的には、(a)は、送液装置の平面図であり、(b)は、送液装置の断面図である。
【0086】
図1の(a)および(b)に示すように、本実施の形態の送液装置は、流路114(第1接続流路)と、流路114の上流側に配置された、液体を流路114へ導入するための導入口115(第1導入口)を備えた受容部112(受容部)と、流路114の下流側(受容部112とは反対側)に接続され、流路114内の空気を排出するための排出口113(第1排出口)を備えた収容部116(第1収容部)と、を備えている。そして、収容部116内には吸収体131(第1吸収体)が設けられ、流路114内には増粘剤132(第1増粘剤)が配置されている。
【0087】
以下に、各構成について詳細に説明する。
【0088】
<流路>
図1の(b)に示すように、本実施の形態では、溝が設けられている第1基板110と、第2基板111とを重ね合わせることによって、流路114が形成されている。
【0089】
流路114の形成方法は特に限定されず、流路114は、互いに対向して配置される基板の間に形成された空洞によって形成されてもよいし、または、基板の内部を掘削した空洞によって形成されてもよいし、基板の内部に管を配置することによって形成されてもよい。
【0090】
流路114は、受容部112と収容部116とを接続している。換言すれば、流路114は、排出口113と導入口115とを接続している。
【0091】
本明細書では、流路が分岐している場合や流路が複数存在する場合には、排出口に接続された流路を排出流路と称し、導入口に接続された受容部に相当する部分を導入流路とも称する場合がある。また、排出流路および導入流路に接続された流路をメイン流路とも称する。
【0092】
排出流路、導入流路、メイン流路等は、送液装置に設けられる流路の一部分であって、排出部および液体受け部の形態に応じてその形状を変化させ得る。また、流路114は、好ましくは送液対象である液体を毛細管現象によって送液できるものとする。
【0093】
次に、毛細管現象による送液について説明する。
【0094】
一般的に、流路の横断面形状(流路における液体の流れ方向に垂直な断面形状)が円形状であって、この流路の壁面(液体が接する表面)が均一(例えば、同一の材料で構成されている)である場合、液体に作用する圧力(毛細管現象による送液の圧力)Pは、気体−液体界面の界面張力をσ、流路の壁面の接触角をθ、流路の半径をrとするとき、次の式1によって示される。
【0095】
P=2σcosθ/r・・・(式1)
式1において、Pの値が正である場合には、液体は流路内の空間を進むことができ、Pの値が0または負である場合には、液体は流路内の空間を進むことができない。ここで、σおよびrはともに正の値であるため、毛細管現象によって送液する(Pの値を正とする)ためには、流路の表面においてcosθが正である必要がある。つまり、水を溶媒とする液体の場合には、流路面(流路の表面)が親水性であるときに、毛細管現象によって液体を流すことができる。
【0096】
ただし、流路面に疎水性部分が存在していてもよい。親水性、疎水性の両方の特性が並存する場合には、それぞれの界面張力の和によって、流路内に生じる毛細管現象が決定されるので、界面張力の和が親水性(cosθが正)となるようにすればよい。
【0097】
ここで、親水性とは、比抵抗が18mΩ・cmよりも大きい純水(25℃)を用いて、1気圧、25℃の条件で測定した接触角が90°未満である場合を意図する(図14参照)。疎水性とは、上記純水の接触角が90°以上である場合を意図する。ただし、接触角の送液方向に作用する成分である余弦(コサイン)は、90°付近で大きく変動するので、送液機能を安定して確保するという観点から、純水に対する接触角が85°以下であることがより好ましく、接触角が75°以下であることがさらに好ましく、接触角が60°以下であることが最も好ましい。
【0098】
また、流路は、毛細管現象が生じる程度の大きさの流路であればよい。例えば、流路の横断面の幅および高さは、0.1μm〜10mmであることが好ましく、10μm〜1mmであることがより好ましい。
【0099】
<基板>
基板に用いる材料は、送液装置の目的や用途等に応じて選択すればよく、特に限定されない。例えば、光学的な検出を行う場合には光学的な面を考慮し、電気的な検出を行う場合には電気絶縁性を考慮し、溝等の微細加工を必要とする場合には加工し易さを考慮して、それぞれの用途に適した材料を選択すればよい。
【0100】
吸収体に吸収させる液体が水である場合には、第1基板および第2基板の少なくとも一方に、親水性の材料を用いるか、又は親水化処理を行うことが好ましい。親水化処理方法としては、例えば、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、親水性膜のコーティング、表面粗さの制御等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
また、光学的な操作(検出、バルブ等)を行う場合には、第1基板および第2基板の少なくとも一方に透明または半透明の材料を用いることが好ましく、このような透明または半透明な材料としては、ガラス、石英、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フィルム等が挙げられる。具体的には、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂またはスチレン系樹脂が、透明性や成型性の観点から好ましい。また、光による励起発光が特に少ないプラスチック材料として、ポリメチルメタクリレートの水素原子をフッ素原子に置換したフッ化ポリメチルメタクリレート等のフッ素系のプラスチック材料や、触媒や安定剤等の添加剤に非蛍光材料を用いたポリメチルメタクリレート等が挙げられ、これらを、第1基板および第2基板の少なくとも一方に用いることが可能である。
【0102】
電気的な操作(検出、バルブ等)を行う場合には、流路や第1基板、第2基板の表面に電極を形成する必要があるので、第1基板および第2基板の材料は、電極を形成することが可能な材料を用いることが好ましい。電極の形成が可能な材料としては、ガラス、石英、シリコン等が挙げられ、これらは、生産性および再現性の観点から好ましい材料である。なお、凹凸面に電極を形成することは難しいので、流路用の溝等の凹凸が形成されていない基板(本実施の形態では第2基板111)に電極を形成するのが好ましい。
【0103】
第1基板110、第2基板111の厚さは特に限定されない。例えば、0.1〜10mmであり得る。更に具体的には、第1基板110の厚さを0.5mm、第2基板111の厚さを2mmとしてもよい。
【0104】
また、本実施の形態では、第1基板110の厚さが0.5mmであって、当該第1基板110に形成される溝の深さ(流路の横断面の長さに相当)は、50μmの深さであってもよい。当該溝の深さは、毛細管現象によって送液できる程度の深さであればよく、例えば、5μm〜500μm程度の深さで形成することが好ましい。なお、当該溝は、第1基板をエッチング、切削等の機械的な加工、ホットエンボス法、金型成形法等で形成することができる。
【0105】
流路114を形成する溝は、その断面形状(液体を送液する方向に対して垂直な面における断面形状)が矩形となるように形成され得る。当該断面形状は、毛細管現象を生じ得る形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、円形状、楕円形状、半円状、逆三角形状等であってもよい。
【0106】
<受容部および収容部>
受容部112は、外気に開放された導入口115を備え、収容部116は、外気に開放された排出口113を備えている。受容部112および収容部116は、流路114によって接続されている。
【0107】
受容部112および収容部116は、第1基板110に貫通孔を設けることによって形成できる。受容部112および収容部116の形状は特に限定されないが、例えば直径0.5mm〜10mmの円筒形であり得る。
【0108】
<吸収体および増粘剤>
収容部116の内部には、吸収体131が配置され得る。収容部116の内部には、吸収体131および増粘剤132の両方が配置されていてもよい。
【0109】
このとき、増粘剤132の少なくとも一部が、吸収体131よりも上流側(導入口115側)に配置され得る。なお、増粘剤132の少なくとも一部が、吸収体131の内部に配置されていてもよいし、そうでなくてもよい。増粘剤132の一部が、流路114内に配置されていてもよいし、そうでなくてもよい。
【0110】
吸収体131は、毛細管現象によって液体を吸収することが可能な構造物である。このような構造物としては、繊維、多孔質の材料、および、それらの材料の少なくとも一方を含んだ構造物等を挙げることが可能である。更に具体的には、繊維材料(例えば、コットン等の植物繊維、羊毛等の動物繊維、ガラス繊維、化学繊維など)または多孔質材料(例えば、モレキュラーシーブス(ゼオライト)、炭酸カルシウム、多孔質樹脂、レジストなど)が挙げられる。
【0111】
増粘剤132は、液体によって溶解する構造物である。このような物質としては、天然の増粘剤、合成樹脂を成分とする増粘剤、およびそれらの材料の少なくとも一方を含んだ構造物を挙げることが可能である。更に具体的には、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)、カゼイン、アルブミン、寒天、澱粉、糖類、アルギン酸、ポリエステル系化合物、ポリアミド系化合物、ポリエーテル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物、ビニル系化合物、およびビニリデン系化合物等が挙げることが可能である。
【0112】
吸収体131が吸収する液体の媒体が水である場合には、吸収体131として親水性材料を用いることが好ましく、増粘剤132として水溶性材料を用いることが好ましい。吸収体131の材料自体の親水性が低い場合には、材料に対して親水化処理を行うことによって、吸収体131の親水性を増加させることが可能である。親水化処理としては、例えば、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、親水性膜のコーティング、表面粗さの制御等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0113】
水以外の液体(例えば、エタノール、アセトン、トルエン、シンナー等の有機溶剤または酢酸、ギ酸等の酸を含む溶媒)の場合には、吸収体131の材料として、当該溶媒に対して親和性を有する材料を用い、増粘剤132の材料として、当該溶媒に対し溶解性を有する材料を用いることが可能である。
【0114】
<吸収体と流路の壁面との関係(1)>
関係(1)は、吸収体131の外周部の少なくとも一部が、収容部116および/または流路114の壁面と接している場合である。この構造では、液体は、以下のように移動する。
【0115】
受容部112に備えられた導入口115から導入された液体は、流路114の壁面を伝わり、次いで、増粘剤132へと伝わる。そして、これによって、増粘剤132が液体中に溶解する。増粘剤132が溶解した液体は、収容部116および/または流路114の壁面と、吸収体131との界面に沿って移動しながら、排出口113側へ移動する。
【0116】
この構成では、流路114または収容部116の壁面で働く界面張力による毛細管力と、増粘剤132の外周部で働く界面張力による毛細管力とによって、壁面に沿って液体が移動し易くなり、液体の伝達が容易に行われる。
【0117】
<吸収体と流路の壁面との関係(2)>
関係(2)は、吸収体131の外周部と、収容部116および/または流路114の壁面との間に空隙を有し、収容部116または流路114の壁面のうち、上記空隙を形成する壁面の少なくとも一部が親水性である場合である。
【0118】
この構造では、吸収体131に吸収された液体が蒸発等によって減少した場合に、吸収体131内または吸収体131の外周部に空気の通り道ができ、これにより流路内の空気が流路外に流出する恐れが生じる。しかしながら、空隙を形成する壁面の少なくとも一部が親水性であれば、吸収体131と壁面との間に形成される空隙に強い毛細管力が働くので、当該空隙が、増粘剤が溶解した液体によって満たされることになる。この結果、吸収体131と壁面とで形成される空隙および吸収体131の内部の空間に満たされた液体によって、流路内の空気が流路外に抜け出ることが防止される。
【0119】
<流路と吸収体との配置>
吸収体131が流路内に存在すれば、液体を吸収した後の吸収体131から液体が蒸発することを防止することができる。よって、増粘剤131の一部または全部が流路114内に配置されていることが好ましい。
【0120】
吸収体131は、受容部112内に配置されてもよく、流路114内に配置されてもよく、収容部116内に配置されてもよく、これらの構成の複数内に配置されてもよい。
【0121】
<吸収体と増粘剤との配置関係>
吸収体131と増粘剤132とは、接触していてもよく、接触していなくてもよい。また、増粘剤132は、吸収体131内、または、吸収体131よりも上流側(流路の上流側)に設けられていてもよい。
【0122】
<検出部>
受容部112には、その他の構成として、液体に含まれる特定の物質の量を検出するための検出部141(第1検出部)を設けることができる。
【0123】
例えば、検出部141が電気化学的な検出手段である場合には、受容部112に、作用電極、参照電極および対向電極が設けられ得る。作用電極、参照電極および対向電極の材料としては、一般的な電極材料を用いることが可能であって、例えば、金、白金、銀、塩化銀、銅、イリジウム、アルミニウム、ITO(インジウム錫酸化物)、ニッケル、チタンまたはクロムなどを用いることができる。
【0124】
作用電極、参照電極および対向電極の形は特に限定されず、例えば、円形、多角形(例えば、三角形、四角形など)または線状であり得る。
【0125】
作用電極、参照電極および対向電極の大きさは特に限定されず、検出電流値に応じた大きさであり得る。例えば、円形である場合には、外径10μm〜10mm程度とし、好ましくは外形0.5mm〜5mm程度とする。円形以外の形状の場合も、円形の場合の面積と同程度の面積になるように大きさを決定することが好ましい。
【0126】
検出部141が、インピーダンスの変化によって検出する手段である場合には、例えば、受容部112の底面にインピーダンス検出用の電極を設け得る。
【0127】
インピーダンス検出用の電極の材料としては、一般的な電極材料を用いることが可能であって、例えば、金、白金、銀、塩化銀、銅、イリジウム、アルミ、ITO(インジウム錫酸化物)、ニッケル、チタンまたはクロムなどを用いることが可能である。
【0128】
検出部141が、蛍光によって検出する手段である場合は、例えば、受容部112の側面または底面に蛍光検出部を設けることが可能である。検出部141は、受容部112内に設けることができる。蛍光検出部の具体的な構成としては特に限定されず、公知の構成を用いることが可能である。
【0129】
<反応部>
送液装置には、検出部141に代えて、または検出部141と共に、液体中の物質に対して所望の反応を生じさせるための反応部(第1反応部)を設けることが可能である。当該反応部の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、抗原抗体反応および/または酵素反応を行う反応部を設けることができる。
【0130】
酵素反応を行う場合には、例えば、酵素反応に用いる酵素を受容部112の側面若しくは底面、または、流路内に固定化すればよい。また、酵素を含む液体を、反応部へ向かって流すことも可能である。
【0131】
抗原抗体反応を行う場合には、上記と同様に、抗原抗体反応に用いる抗体または抗原を受容部112の側面若しくは底面、または、流路内に固定化すればよい。また、抗体または抗原を含む液体を、反応部へ向かって流すことも可能である。
【0132】
抗原抗体反応や酵素反応を行う反応部の形状については、特に限定されることはなく、適宜、所望の形状をとることができる。
【0133】
<装置の使用方法>
本実施の形態の送液装置の使用方法を、図1および図2を用いて説明する。
【0134】
図2は、本実施の形態の送液装置内での液体の流れを示す平面図である。本実施の形態の送液装置では、受容部112へ液体が注入されると(図2の(a)参照)、液体は流路114を通って増粘剤に達し、そして増粘剤が溶解し、溶解した増粘剤を含む液体が、流路114内を進む(図2の(b)参照)。
【0135】
ここで、吸収体131の吸収可能液体容量Q1よりも少ない液体が受容部112に設けられている導入口へ導入されれば、増粘剤が液体中に溶解すると共に、当該液体が吸収体131に吸収され、この段階で送液が停止する(図2の(c)参照)。
【0136】
送液が停止した時には、吸収体131は、増粘剤が溶解した液体を吸収した状態になる。吸収体131が、増粘剤が溶解した液体を吸収した状態では、流路114内の空気が粘性の高い液体を越えて下流側へ移動することができないため、次の液体を受容部112に設けられている導入口から導入した場合(図2(d)参照)、液体が下流側(排出口側)に流れない。
【0137】
他方、受容部112では、導入口が外に対して開放されており、受容部112には、液体と空気とを置換できる余裕空間が設けられている。それ故に、次の液体を受容部112内に注入でき、かつ注入された液体にはそれ以上の送液力が働かない(吸収体131によって流路の一端が閉じられている)ので、次の液体は、受容部112内に停止することになる(図2の(e)参照)。
【0138】
受容部112内に検出部や反応部を設ければ、検出部や反応部に液体を留め置けるので、信頼性の高い検出や反応を行うことができる。
【0139】
なお、上述した操作を確実に行うためには、受容部112の容積および流路114の容積の合計をQ0とし、吸収体131の吸収可能液容量をQ1としたときに、Q0≦Q1であることが好ましい。
【0140】
<吸収可能液体容量の測定方法>
図15を用いて、吸収可能液体容量の測定方法を説明する。
【0141】
図15は、吸収可能液体容量の測定に用いる装置を示している。図15の(a)および(b)に示すように、当該装置は、導入口を有する受容部612と、排出口を有する収容部613と、受容部612と収容部613とを繋ぐ流路614と、を備えている。
【0142】
収容部613内には、収容部613と略同一のサイズ(体積も略同一)の吸収体640が配置されている。
【0143】
収容部613は、例えば、直径3mm、高さ5mmの円筒形とする。また、第1基板610、第2基板611の少なくとも一方は、流路614内部の可視化のために、透明性のある材料を用いることが可能である。
【0144】
吸収体640が、粉体や粒体からなる場合には、吸収体640を密度測定用の容器に充填し、工業会規格TMIAS01015のタップ密度試験法でみかけ密度を測定し、収容部613の容積から吸収体640の質量を算出する。算出された質量の吸収体を収容部613の高さと同じ高さまで、タッピングを行いながら充填する。充填された吸収体640により「吸収可能液体容量」の測定を行う。
【0145】
測定は、次のようにして行う。
【0146】
導入ロから液体を導入し、吸収体640が液体を十分に吸収した状態(飽和状態)にする。この際、導入口から導入される液体の容量を、吸収体640が吸収可能な容量よりも多くする。導入された液体の移動が完全に停止した段階で、吸収体よりも上流側に残存している液体長を測り、当該液体長に流路の断面積を掛けることにより、残存液体容量を算出する。導入液体容量と残存液体容量との差から、吸収体640の吸収可能液体容量を算出する。
【0147】
ここで、吸収体640が繊維などの場合には、液体を吸収することによって、吸収体640の体積が膨張する。よって、吸液体640として体積が膨張する素材を用いる場合には、収容部613の上方に膨張した体積を収納するためのスペースを設けておけばよい。
【0148】
膨張した体積を吸収するスペースとしては、吸収体640の体積の0.5倍以下または1倍以下のスペースを用いればよい。
【0149】
〔実施の形態2〕
本実施の形態は、上述した実施の形態1の変形例である。
【0150】
本実施の形態の送液装置について、図5および6を参照して説明する。図5の(a)は、本実施の形態の送液装置を示す平面図であり、図5の(b)は、本実施の形態の送液装置を示す断面図である。図6は、本実施の形態の送液装置内での液体の流れを説明するための平面図である。
【0151】
本実施の形態では、実施の形態1の流路114内に、液体の停止状態を前進に切り替えることができるバルブ160(第1バルブ)が設けられていることに特徴があり、これ以外の構成は、実施の形態1と同様である。
【0152】
例えば、バルブ160が設けられていれば、第1の液体を流路(例えば、メイン流路)内などで停止させることが可能となる。例えば、目的物質と、当該目的物質と競合的に反応する、標識が付されている物質とを含む液体を流路(例えば、メイン流路)内へ流し込み、当該流路に設けられている反応部(または、検出部)にて液体を停止させた状態で反応させる。その後、流路(例えば、メイン流路)内へ洗浄液体である別の液体を流し込んで反応部(または、検出部)を洗浄し、当該反応部(または、検出部)に残存している標識が付されている物質の量を検出することによって、目的物質の量を測定することができる。つまり、本実施の形態の送液装置は、上述したような測定装置または検出装置として利用することが可能である。
【0153】
上記バルブ160としては特に限定されないが、例えば、エレクトロウエッティングバルブ、または、光バルブを使用することが可能である。
【0154】
また、上記バルブ160としては、流路の壁面に疎水性領域を設け、かつ、当該疎水性領域よりも流路の上流側に押圧部を設け、当該押圧部に対して外部から圧力を加えることよって流路内の液体を、疎水性領域を越えて送り出す構成とすることができる。
【0155】
また、上記バルブ160としては、流路の壁面に疎水性領域を設け、上記疎水性領域よりも流路の上流側の流路内に、液体を電気分解して泡を発生させる電極部を設け、当該電極部における電気分解によって生じる泡の圧力によって、疎水性領域を越えて液体を送り出す構成とすることが可能である。
【0156】
エレクトロウエッティングバルブは、電圧を印加しない状態では疎水性であり、電圧を印加することによって電極表面の接触角が親水側に変化し、当該変化によって、停止していた液体を前進させるバルブである。
【0157】
このような、エレクトロウエッティングバルブは、液体の停止状態と前進状態とを切り替える作用電極と、参照電極と、を備える構成であればよい。作用電極および参照電極の材料は特に限定されるものではなく、一般的な導電性の材料を用いることができる。例えば、金、白金、銀、塩化銀、銅、イリジウム、アルミニウム、ITO(インジウム錫酸化物)、ニッケル、チタンまたはクロムなどを使用することが可能である。
【0158】
エレクトロウエッティングバルブに液体の停止機能を付与するために、作用電極の表面には、例えば、テトラフルオロエチレン膜等の疎水性膜、または、親水性のきわめて低い膜(例えば、電極用金属の自然酸化膜など)が設けられていることが好ましい。
【0159】
光バルブとしては、光触媒(例えば、酸化チタンなど)と、光触媒によって分解される疎水性有機物とを、バルブとなる領域に形成した構成を挙げることが可能である。このような光バルブでは、光触媒に対して紫外線などの光を照射することにより、光触媒によって疎水性有機物が分解されて接触角が低下する結果、停止していた液体を前進状態に切り替えることができる。
【0160】
上記光触媒としては、様々な光触媒膜を用いることが可能である。当該光触媒膜は、スパッタリング法またはリフトオフ法などにより、例えば、第2基板111に対して酸化チタン膜をパターニングすることによって形成できる。また、チタン膜を同様に成膜し、その後に熱処理や化学処理等を行い、チタン膜を酸化させて酸化チタン膜とする方法を用いてもよい。酸化チタンの初期状態の疎水性を向上させるためには、有機単分子膜等を酸化チタン表面に形成することが好ましく、オクタデシルトリクロロシランなどを用いることができる。また。第1基板110には光触媒と反応する光が透過する材料を用いる。
【0161】
本実施の形態によっても、上記実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、本実施の形態では、バルブ160によって流路114内で液体を停止させることができるので、第1液体についても液体の流れを停止させ反応や検出を行うことが可能になる。
【0162】
上述したバルブ160の構成は、本発明の送液装置内に設けられる、あらゆるバルブとして採用し得る。このとき、上述した流路は、各バルブが設けられる流路に置き換えて考えればよい。また、本発明では、あらゆる流路にバルブを設けることが可能である。
【0163】
〔実施の形態3〕
本実施の形態は、実施の形態1の更なる変形例である。本実施の形態の送液装置について、図7を参照して説明する。図7の(a)および(b)は、各々、本実施の形態の送液装置を示す平面図および断面図である。
【0164】
本実施の形態では、吸収体131が収容部116内に封入されているとともに、吸収体131の一部が流路内にも封入されている。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0165】
吸収体131が接している流路114の内壁180は親水化処理により親水性になっている。親水化処理の方法は、実施の形態1に記載した方法を用いることができる。
【0166】
図7において、吸収体131に吸収された液体が蒸発等で減少した場合には、吸収体131の外周部に空気の通り道ができる恐れがある。吸収体131が接している流路114の内壁180が親水化処理されて親水性になっていれば、液体が流路114から排出される際に、吸収体131と壁面とで形成される空隙で強い毛細管力が働き、当該空隙内に液体が留まり易くなる。それ故に、吸収体131と壁面とで形成される隙間が液体で埋まり、空気の通り道が遮断される。
【0167】
本実施の形態であれば、増粘剤が溶解して液体の粘性を増加させることと、毛細管力によって空隙内に液体をとどめようとすることとが相乗効果を奏することによって、液体を前進させた後で、次の液体を停止させる動作を確実に行うことが可能である。
【0168】
〔実施の形態4〕
本実施の形態の送液装置について、図8〜図9を参照して説明する。図8は、本実施の形態の送液装置を示す平面図であり、図9は、本実施の形態の送液装置内での液体の流れを説明するための平面図である。
【0169】
本実施の形態の送液装置は、メイン流路251と、メイン流路251の一方端側に設けられた孔250と、メイン流路251に接続され、メイン流路251に液体を導入する第1導入口212aを有する第1導入流路252と、第1導入流路252よりも孔250側でメイン流路251に接続され、メイン流路251に液体(第2液体)を導入する第2導入口212bを有する第2導入流路253(第2流路)と、メイン流路251を挟んで第1導入流路252と対向配置された、メイン流路251内の空気を排出する排出口213を有する排出流路271と、を備えている。
【0170】
なお、第1導入口212aと第1導入流路252との間、および、第2導入口212bと第2導入流路253との間には、各導入口へ導入された各液体を受容するための受容部が設けられ得る。また、排出口213と排出流路271との間には、吸収体を収容するための収容部が設けられ得る。
【0171】
第1導入流路252とメイン流路251との境界、第2導入流路253とメイン流路251との境界、排出流路271とメイン流路251との境界には、それぞれ停止状態の液体の停止状態と前進状態とを切り替えることができるバルブ260a・260b(第2バルブ)・260cが設けられ得る。なお、これらのバルブの具体的な構成としては、上述したバルブ160と同じ構成を用いることができる。
【0172】
排出口213と排出流路271との間に設けられる収容部内、および/または、排出流路271内には、吸収体(図示せず)と、当該吸収体よりもメイン流路251側に設けられた増粘剤(図示せず)と、が配置され得る。当該増粘剤は、流路に導入される液体に対して溶解するものである。
【0173】
メイン流路251には、検出部241(第2検出部)が設けられ得る。また、第1導入流路252から第1導入口212aまでの合計容積が、吸収体の吸収可能液体容量よりも小さく構成されていてもよい。
【0174】
第1導入流路252、第2導入流路253、メイン流路251、排出流路271は、実施の形態1の流路114と同様な材質、形状とすることができる。また、第1導入流路252と排出流路271とは1つの流路として形成されていてもよい。
【0175】
孔250は、実施の形態1における排出口113と同じ構成であり得、バルブ260a〜260cは、上記実施の形態2と同じ構成であり得る。
【0176】
基板の材質、吸収体、吸収体と壁面との関係、排出流路と吸収体の配置、検出部、反応部などの条件は、上記実施の形態1〜3と同様であり得る。
【0177】
本実施の形態の送液装置内における液体の流れを図8、図9に基づいて説明する。
【0178】
第1液体を第1導入口212aへ、第2液体を第2導入口212bへ導入すると、第1導入流路252内および第2導入流路253内へ液体が進入するが、バルブ260a、260bが閉じられているために、これらのバルブの位置で各液体が停止する(図9の(a)参照)。
【0179】
バルブ260aを開けると、液体はメイン流路251内へ進み、孔250側へ移動してメイン流路251内が第1液体によって満たされる(図9の(b)参照)。このとき、バルブ260bおよび260cを閉じておく。これによって、第1液体が、第2導入流路253内や排出流路271内へ移動することを防ぐことができる。
【0180】
次に、バルブ260cを開けると、第1液体が排出流路271内へ進み、増粘剤(第1増粘剤)が溶解し、その後、吸収体によって液体が吸収されることによって、第1導入流路252内およびメイン流路251内の液体が排出される(図9の(c)および(d)参照)。このとき、第1導入流路252内の液体は、孔250から進入した空気によって分断されるため、第1導入流路252に液体の一部が残る(図9の(e)参照)。
【0181】
次に、バルブ260bを開けると、第2液体がメイン流路251内へ進むとともに、孔250側へ第2液体が進む(図9の(f)参照)。このとき、吸収体が空気を通過させない状態であるので、実施の形態1と同様の作用により、排出流路271側に液体が移動できない。また、第1導入流路252に残存した液体により、第2液体は第1導入流路252側へも移動できない。その結果、第2液体をメイン流路251内で停止させることができる。
【0182】
メイン流路251内に検出部241(または、反応部)を設ければ、当該検出部241(または、反応部)に対して複数の液体を送液することができる検出装置を実現することができる。
【0183】
なお、上記検出部241に代えて、又は検出部241とともに、反応を行う反応部を設けることができる。
【0184】
〔実施の形態5〕
本実施の形態の送液装置について、図10〜図12を参照して説明する。図10は、本実施の形態の送液装置を示す平面図であり、図11および図12は、本実施の形態の送液装置における液体の流れを説明するための平面図である。
【0185】
本実施の形態の送液装置は、メイン流路251と、メイン流路251の一方の端に設けられた孔250と、メイン流路251に接続され、メイン流路に液体を導入する第1導入口212aを有する第1導入流路252と、第1導入流路252よりも孔250側でメイン流路251に接続され、メイン流路251に液体を導入する第2導入口212bを有する第2導入流路253と、第2導入流路253よりも孔250側でメイン流路251に接続され、メイン流路251に液体(第3液体)を導入する第3導入口212cを有する第3導入流路254(第3流路)と、メイン流路251を挟んで第1導入流路252と対向するように配置された、メイン流路251内の空気を排出する第1排出口213aを有する排出流路271と、メイン流路251を挟んで第2導入流路253と対向するように配置された、メイン流路251内の空気を排出する第2排出口213bを有する第2排出流路272と、を備えている。
【0186】
第1導入流路252とメイン流路251との境界、第2導入流路253とメイン流路251との境界、第3導入流路254とメイン流路251との境界、排出流路271とメイン流路251との境界、第2排出流路272とメイン流路251との境界には、それぞれ停止状態の液体を前進に切り替えることのできるバルブ260a〜260eが設けられ得る。
【0187】
なお、第1導入口212aと第1導入流路252との間、第2導入口212bと第2導入流路253との間、および、第3導入口212cと第3導入流路254との間には、各導入口へ導入された各液体を受容するための受容部が設けられ得る。また、第1排出口213aと排出流路271との間、および、第2排出口213bと第2排出流路272との間には、吸収体を収容するための収容部が設けられ得る。
【0188】
第1排出口213aと排出流路271との間に設けられた収容部内、および/または、排出流路271内には、第1吸収体(図示せず)と、当該吸収体よりもメイン流路251側に設けられた第1増粘剤(図示せず)と、が設けられ得る。
【0189】
第2排出口213bと第2排出流路272との間に設けられた収容部内、および/または、第2排出流路272内には、第2吸収体(図示せず)と、当該第2吸収体よりもメイン流路251側に設けられた第2増粘剤(図示せず)と、が設けられ得る。なお、第1増粘剤および第2増粘剤は、流路に導入される液体に溶解するものであって、同じ構成を用いることも可能であり、異なる構成を用いることも可能である。
【0190】
また、メイン流路251には、検出部241(第2検出部)が設けられ得る。当該検出部241の代わり、または、当該検出部241に加えて、反応部(第2反応部)を設けることも可能である。
【0191】
また、第1導入口212aから第1吸収体へ至るまでの流路の合計容積は、第1吸収体の吸収可能液体容量よりも小さく構成され、且つ、第2導入口212bから第2吸収体へ至るまでに流路の合計容積が、第2吸収体の吸収可能液体容量よりも小さく構成され得る。
【0192】
また、第1導入流路252の容積、メイン流路251の容積、第2導入流路253の容積、および、第2排出流路272の容積の合計をQ2とし、第2吸収体の吸収可能液体容量をQ3としたときに、Q2≦Q3とすることができる。なお、当該構成は、第1導入口212aと第1導入流路252との間に受容部が設けられていない場合、または、上記受容部の容積が第1導入流路252の容積よりも小さい場合に好ましい構成であるといえる。
【0193】
また、第1導入口212aと第1導入流路252との間に受容部が設けられている場合には、当該受容部の容積、メイン流路251の容積、第2導入流路253の容積、および、第2排出流路272の容積の合計をQ2とし、第2吸収体の吸収可能液体容量をQ3としたときに、Q2≦Q3とすることができる。なお、当該構成は、上記受容部の容積が、第1導入流路252の容積よりも大きい場合に好ましい構成であるといえる。
【0194】
第1導入流路252、第2導入流路253、第3導入流路254、メイン流路251、排出流路271、第2排出流路272は、実施の形態1の流路114と同様の構成を用いることが可能である。
【0195】
孔250は、実施の形態1の排出部と同様に形成することができる。また、バルブ260a〜260eは、実施の形態2と同様の構成を用いることが可能である。
【0196】
基板材料、吸収体、吸収体と壁面との関係、第1排出流路と吸収体との配置、吸収体と第1増粘剤との配置関係、検出部、反応部は、実施の形態1と同様の構成を用いることが可能である。
【0197】
また、第2吸収体と第2増粘剤との配置関係、第2排出流路と第2吸収体との配置関係は、第1吸収体と第1増粘剤の配置関係、第1排出流路と第1吸収体との配置関係と、それぞれ同様の構成を用いることが可能である。
【0198】
本実施の形態の送液装置における液体の流れを説明する。
【0199】
第1導入口212aに第1液体、第2導入口212bに第2液体、第3導入口212cに第3液体を各々導入すると、第1導入流路252、第2導入流路253、第3導入流路254に各々の液体が進入し、各々の液体は、バルブ260a・260b・260cで停止する(図11の(a)参照)。
【0200】
次に、バルブ260aを開けると、第1液体はメイン流路251内へ進み、メイン流路251が液体で満たされる(図11の(b)参照)。このとき、バルブ212b〜212eは閉じられているので、第2導入流路253、第3導入流路254、排出流路271、第2排出流路272側に液体が移動することはない。
【0201】
次に、バルブ260dを開けると、液体が排出流路271内へ進み、第1増粘剤(図示せず)が液体中に溶解した後に、当該液体が第1吸収体(図示せず)によって吸収され、第1導入流路252およびメイン流路251内の液体が排出される(図11の(c)および(d)参照)。
【0202】
第1導入流路252内の液体は、孔250から流路内へ進入した空気によって分断されるため、第1導入流路252内に液体の一部が残る(図12の(a)参照)。
【0203】
次に、バルブ260bを開けると、第2液体が、メイン流路251内へ進むとともに、第2液体が、孔250側へ進む(図12の(b)参照)。このとき、バルブ260cおよびバルブ260eは閉じられているので、第3導入流路254内、および、第2排出流路272内に液体が移動することはない。そして実施の形態4と同様の作用により、第2液体は、排出流路271内および第1導入流路252内に移動できないので、第2液体をメイン流路251内で停止させることができる。
【0204】
次に、バルブ260eを開けると、第2液体が第2排出流路272内へ進み(図12の(c)参照)、第2排出口213b内に設けられた第2増粘剤(図示せず)が第2液体中に溶解した後に、当該第2液体が第2吸収体(図示せず)によって吸収され、その結果、第2導入流路253内およびメイン流路251内の液体が排出される(図12の(d)参照)。
【0205】
第2導入流路253内の液体は、孔250から進入した空気により分断されるため、第2導入流路253内に液体の一部が残る(図12の(e)参照)。
【0206】
次に、バルブ260cを開けると、第3液体が、メイン流路251内へ進むとともに、第3液体が、孔250側へ進む(図12の(f)参照)。このとき、第1排出口および第2排出口につながる流路内を空気が通過できない状態であり、かつ、第1導入流路252内および第2導入流路253内には液体が残存しているので、第3液体は、第1導入流路252、第2導入流路253、排出流路271、第2排出流路272内へ移動できない。したがって、第3液体をメイン流路251内で停止させることができる。
【0207】
以上説明したように、実施の形態5であれば、メイン流路251内に設けた検出部241に対して、複数の液体を順次送液することができる検出装置を実現できる。
【0208】
なお、検出部241に代えて、または検出部241とともに、反応を行う反応部を設けることができる。例えば、メイン流路251に抗体を固定した反応部と検出部241とが設けられている場合、第1導入流路252から測定対象となる抗原と酵素標識抗原を含む液体、第2導入流路253から洗浄液体、第3導入流路254から基質を含む液体を流すと、液体が停止されることにより安定した抗原抗体反応と酵素基質反応とを行うことができ、酵素基質反応による生成物を検出部で検出することができる。
【実施例】
【0209】
〔実施例1〕
本発明を、実施例を用いてさらに説明する。実施例1に係る送液装置の基本構造は、上記実施の形態1と同様である。図1を参照して実施例1の送液装置を更に具体的に説明する。
【0210】
金型を用いた樹脂成型法によって、流路として機能する溝を第1基板110に形成した。
【0211】
金型は、シリコン基板にフォトリソ法でレジストパターンを形成した後、ドライエッチングプロセス法によってエッチングを行うことによって作製した。流路114の幅は600μm、流路114の高さは50μm、流路114の長さは15mmとした。
【0212】
作製した金型に型枠を設け、当該型枠内へ、厚さが2mmになるまでシリコンゴム(ポリジメチルシロキサン、東レダウコーニング社製 ジルポット184)を流し込み、100℃にて15分間の加熱を行って、シリコンゴムを硬化させた。硬化させた後、金型と硬化したシリコンゴムとを分離させた。
【0213】
次いで、シリコンゴムを縦20mm、横10mm、厚さ2mmに整形した。当該シリコンゴムに対して、受容部112となる孔、収容部116となる孔として、ポンチを用いて直径2mmの貫通孔を開けて、第1基板110を作製した。作製した第1基板110の表面に、TWEEN20(登録商標)(GEヘルスケアジャパン製)を塗布し、当該第1基板110を、100℃にて5分間乾燥させた。
【0214】
第2基板111は、厚さ600μmのテンパックスガラス基板をダイシングソーで縦25mm、横15mmに切断することによって作製した。
【0215】
吸収体131としては、不織布(旭化成せんい製BEMCOT(登録商標))を直径2mmにカットしたものを用い、増粘剤132としては、固形のポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬製)を粉砕したものを用いた。
【0216】
作製した第1基板110と第2基板11とを重ね合わせ、収容部116内に増粘剤132および吸収体131を充填して、実施例1の送液装置を作製した。
【0217】
実施例1の送液装置について、液体を流す試験を行った。液体としてはリン酸緩衝液を用い、リン酸緩衝液を受容部112内に滴下した。
【0218】
リン酸緩衝液は毛細管現象によって送液装置内の流路114内に入った。路114内の液体は、増粘剤132を溶解した後に、吸収体131に吸収された。
【0219】
受容部112の導入口から空気が進入して、流路114内のリン酸緩衝液が流路114内から完全に排出された。
【0220】
次いで、別の液体としてリン酸緩衝液を受容部112の導入口内へ滴下したところ、当該液体は流路114に進入することなく受容部112内に停止した。
【0221】
〔比較例1〕
(1)増粘剤を用いないこと、(2)吸収体の吸収可能液体容量が、第1液体と更に加える別の液体の体積の合計以上であること、(3)吸収体の吸収可能液体容量が、受容部112と流路114との合計容積以上であること以外は、実施例1と同じ送液装置を作製した。
【0222】
比較例の送液装置について、液体を流す実験を、実施例1と同様の方法で行った。
【0223】
比較例1では、リン酸緩衝液を受容部112内へ滴下すると、当該リン酸緩衝液は、毛細管現象によって送液装置内の流路114内へ入った。流路114内の液体は、吸収体131に吸収された。そして、受容部112から流路114内へ空気が進入し、流路114内の液体が完全に吸収体131に吸収されて、流路114から液体が排出された。このときの排出時間は、実施例1の第1液の排出時間よりも短時間で行われた。
【0224】
次いで、別の液体としてリン酸緩衝液を受容部112内へ滴下すると、当該液体は、流路114内へ進入し、吸収体131によって完全に吸収されて、流路114内の液体が完全に排出された。
【0225】
実施例1では、別の液体としてのリン酸緩衝液が受容部112内に留まってそれ以上移動しなかったのに対し、比較例1では、第1液体の排出力を優位に低下させることはできず、それ故に、別の液体としてのリン酸緩衝液が完全に排出されるのが確認された。すなわち、実施例1の送液装置は、吸収体の吸収力を低下させることによって、別の液体としてのリン酸緩衝液の流れを停止させて、当該リン酸緩衝液を受容部112内に留めておくことができることが確認された。
【0226】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明によれば、簡単な構造でもって簡便な操作で液体の停止・前進を切り替えることのできるコンパクトな送液装置を実現できる。このような送液装置は、チップ内で反応および/または検出を行う分析チップ(例えば、マイクロ分析チップ)として利用可能である。
【符号の説明】
【0228】
110 第1基板
111 第2基板
112 受容部
113 排出口(第1排出口)
114 流路(第1接続流路)
115 導入口(第1導入口)
116 収容部(第1収容部)
131 吸収体(第1吸収体)
132 増粘剤(第1増粘剤)
141 検出部(第1検出部)
160 バルブ(第1バルブ)
212a 第1導入口
212b 第2導入口
212c 第3導入口
213 排出口
213a 第1排出口
213b 第2排出口
241 検出部
250 孔
251 メイン流路
252 第1導入流路
253 第2導入流路(第2流路)
254 第3導入流路(第3流路)
260a・260b・260c・260d・260e バルブ
271 排出流路
272 第2排出流路
510 第1基板
511 第2基板
512 受容部
513 収容部
514 流路
530 吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1液体が導入される第1導入口と、
上記第1導入口と第1流路によって連結されているとともに、上記第1流路内の空気を外へ排出する第1排出口と、
上記第1流路内に設けられているとともに、上記第1流路内の液体を毛細管現象によって吸収する第1吸収体と、
上記第1液体中に溶解して上記第1液体の粘度を上昇させる第1増粘剤と、を備えることを特徴とする送液装置。
【請求項2】
上記第1増粘剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カゼイン、アルブミン、寒天、澱粉、糖類、アルギン酸、ポリエステル系化合物、ポリアミド系化合物、ポリエーテル系化合物、ポリグリコール系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物、ビニル系化合物およびビニリデン系化合からなる群から選択される少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
上記第1増粘剤が、上記第1吸収体の内部、または、上記第1流路内であって上記第1吸収体よりも上記第1導入口側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の送液装置。
【請求項4】
上記第1流路は、
上記第1導入口から導入される上記第1液体を受容する受容部と、
上記受容部に連結される第1接続流路と、
上記第1接続流路に連結されるとともに、上記第1吸収体を収容する第1収容部と、を備え、
上記受容部の容積および上記第1接続流路の容積の合計をQ0とし、上記第1吸収体の吸収可能液容量をQ1としたときに、Q0≦Q1であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の送液装置。
【請求項5】
上記第1吸収体の少なくとも一部と、上記第1流路の少なくとも一部とが接触しており、
上記第1吸収体と接触している上記第1流路の接触面の少なくとも一部が、親水性であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の送液装置。
【請求項6】
上記受容部に、上記第1液体中の物質を反応させるための第1反応部、または、上記第1液体中の物質を検出するための第1検出部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の送液装置。
【請求項7】
上記第1流路に、上記第1流路内の液体の移動を調節するための第1バルブが設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の送液装置。
【請求項8】
上記第1流路へ連結されているメイン流路であって、上記第1流路へ連結される側と反対側の端部には、メイン流路の内外に貫通する孔が設けられているメイン流路と、
上記メイン流路へ連結されている第2流路であって、上記メイン流路へ連結される側と反対側の端部には、第2液体が導入される第2導入口が設けられている第2流路と、を備え、
上記第2流路には、上記第2流路内の液体の移動を調節するための第2バルブが設けられていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の送液装置。
【請求項9】
上記メイン流路へ連結されている第3流路であって、上記メイン流路へ連結される側と反対側の端部には、第3液体が導入される第3導入口が設けられている第3流路と、
上記メイン流路へ連結されているとともに、上記メイン流路を挟んで上記第2流路に対向するように配置されている排出流路であって、上記排出流路内の空気を外へ排出する第2排出口が設けられている排出流路と、
上記排出流路内に設けられるとともに、上記排出流路内の液体を毛細管現象によって吸収する第2吸収体と、
上記排出流路内の液体中に溶解して上記排出流路内の液体の粘度を上昇させる第2増粘剤と、
上記第3流路に設けられた、上記第3流路内の液体の移動を調節するための第3バルブと、
上記排出流路に設けられた、上記排出流路内の液体の移動を調節するための第4バルブと、を備え、
上記排出流路は、上記第2吸収体を収容する第2収容部と、上記第2収容部と上記メイン流路とを連結する第2接続流路とを備えており、
上記受容部の容積、上記メイン流路の容積、上記第2流路の容積および上記第2接続流路の容積の合計をQ2とし、上記第2吸収体の吸収可能液容量をQ3としたときに、Q2≦Q3であることを特徴とする請求項8に記載の送液装置。
【請求項10】
上記メイン流路内の上記第2流路よりも上記孔に近い領域に、上記メイン流路内の液体中の物質を反応させるための第2反応部、または、上記メイン流路内の液体中の物質を検出するための第2検出部が設けられていることを特徴とする請求項8または9に記載の送液装置。
【請求項11】
上記第2吸収体の少なくとも一部と、上記排出流路の少なくとも一部とが接触しており、
上記第2吸収体と接触している上記排出流路の接触面の少なくとも一部が、親水性であることを特徴とする請求項9に記載の送液装置。
【請求項12】
上記第2バルブは、エレクトロウエッティングバルブ、または、光バルブであることを特徴とする請求項8に記載の送液装置。
【請求項13】
上記第2バルブは、上記第2流路の壁面に設けられている疎水性領域と、上記疎水性領域よりも上記第2流路の上流側に設けられている押圧部と、を備え、
上記第2バルブは、上記押圧部に圧力を加えることよって、上記第2流路内の液体を上記疎水性領域を越えて送り出すものであることを特徴とする請求項8に記載の送液装置。
【請求項14】
上記第2バルブは、上記第2流路の壁面に設けられている疎水性領域と、上記疎水性領域よりも上記第2流路の上流側に設けられている電極部と、を備え、
上記第2バルブは、上記電極部における電気分解によって生じる泡に起因する圧力によって、上記第2流路内の液体を上記疎水性領域を越えて送り出すものであることを特徴とする請求項8に記載の送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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