説明

送電線の劣化診断方法

【課題】送電線の一部の撤去や張替え必要とすることなく、送電線の劣化を確実に診断することができること。
【解決手段】送電線1を把持し送電線1の最外層3Aの隣り合う素線2a、2bの間に係入することができる1対の開閉爪12UP、12LPを有する治具10を用いてこの送電線1の最外層3Aの隣り合う素線2a、2bを広げて送電線1の内層3Bを露呈し、この内層3Bに生成している腐食生成物4を接着性シートによって採取し分析して送電線の劣化を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線の劣化診断方法に関し、特にこの劣化診断のために送電線の内部から腐食生成物を採取して送電線の劣化を診断する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電線は、それが敷設されている雰囲気中に含まれる湿気や煤煙、塩分、腐食性ガス等によって、最外層のアルミ部分だけでなく、内層のアルミ部分も腐食し、これを放置すると、送電線の内部で断線が生じたり、抵抗が増大したりするので、送電線の内部腐食による劣化を定期的に点検する必要がある。
【0003】
従来技術では、双眼鏡を用いたり、ビデオカメラを搭載した自走機を用いたりして外観点検するのが一般的であり、このような点検方法では、最外層の腐食状況から外部送電線の内部で進行している腐食を推測しているが、この方法では、内部の腐食状況を確実に検出することができない欠点があった。
【0004】
このため、一般的には、送電線の送電を一時的に停止し、送電線の一部を撤去して、送電線の撤去部分を分解して内部の腐食状況を点検しているが、これは、送電線の送電を長時間停止して行なうので、送電効率が低下し、また腐食状況の点検前に、送電線の一部の撤去と新しい送電部分の張替えとを必要とするので、点検作業に相当の時間と費用とが必要となる欠点があった。
【0005】
なお、最近、送電線に直角にX方向とY方向との二方向からX線を照射して送電線を透過して得られた2つの透視画像から送電線の腐食を検出する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、この方法は、X線を二方向から照射しなければならない上に、作業員の安全を考慮する必要があり、従って装置が大型化する欠点があった。
【0007】
一方、本出願人は、送電線の内部を点検するために、送電線に把持される治具を用いてこの治具の先端に設けられた1対の開閉爪を送電線の最外層の隣り合う素線の隙間に係入して治具のハンドルを握ってこの開閉爪を押し広げて送電線の内層を露呈することができる技術を提案している(特許文献2参照)。
【0008】
この方法は、送電線を撤去することなく、送電線の内部の腐食状態を点検することができるが、この点検方法は、単に、内層の腐食状況を目視で監視するだけであるので、腐食の成分や面積、深さ等の腐食の程度を正確に把握することが難しく、送電線の劣化を有効且つ確実に診断することができない欠点があった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−181188号公報
【特許文献2】意匠登録第1211108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、送電線の一部の撤去や張替え必要とすることなく、また送電線の劣化を確実に診断することができる送電線の劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の基本的な課題解決手段は、送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈し、この内層に生成している腐食生成物を採取し分析して送電線の劣化を診断することを特徴とする送電線の劣化診断方法を提供することにある。
送電線の最外層の隣り合う素線間を広げるには、送電線を把持し送電線の最外層の隣り合う素線の間に係入することができる1対の開閉爪を有する治具を用いて行うことができる。
【0012】
本発明の基本的な課題解決手段において、送電線の露呈した内層に生成している腐食生成物は、この腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後、この接着性薄肉部材を送電線内層部分から剥離して採取することが好ましい。
【0013】
また、上記の接着性薄肉部材を用いて腐食性生成物を採取した場合に、この接着性薄肉部材から腐食生成物を剥離した後、腐食生成物を分析するのが望ましいが、接着性薄肉部材に付着したまま腐食生成物を分析することもできる。この分析は、例えば、採取された腐食生成物の重量を測定して行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のように、送電線の最外層の隣り合う素線を広げて送電線の内層を露呈した後、この内層に生成している腐食生成物を送電線から採取し分析して送電線の劣化を診断するので、腐食生成物を単に目視で点検する場合に比べて、腐食生成物の成分や面積、深さ、重量等の腐食の程度を検出して送電線の劣化を有効且つ確実に診断することができる。
【0015】
また、送電線の一部の撤去や張替えを必要としないので、送電線の送電の停止は、短時間で済み、送電効率を低下することがなく、また診断前の作業が簡単で点検作業を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の1つの実施の形態による送電線の劣化診断方法が図1乃至図6に示されており、図1は、本発明の劣化診断方法が適用される送電線1を示し、この送電線1は、通常のように、図示しない鋼心の上に撚り方向を交互に反対方向にして撚り合わせられた複数層のアルミニウム撚線2から成っている。
【0017】
本発明の方法は、まず、図2乃至図4に示すように、送電線1を把持し送電線1の最外層3Aの隣り合う素線2a、2bの間に係入することができる1対の開閉爪12UP、12LPを有する治具10を用いてこの送電線1の最外層3Aの隣り合う素線2a、2bを広げて送電線1の内層部分3Bを露呈する。この例では、内層部分3Bは、第2層の撚線である。
【0018】
治具10は、図7(A)乃至図7(C)に示すように、相互に分離可能に結合される1対の治具半部12U、12Lから成り、これらの治具半部12U、12Lは、図7(A)、図7(C)に示すように、解離自在なピボット部12Pで相互に結合することができる。図示の形態では、一方の治具半部12Uのピボット部12Pは、半円形の凹部12PRであり、他方の治具半部12Lのピボット部12Pは、半円形の凹部12PRに回動自在に係入する半円形の突部12PPであり、これらの凹部12PRと突部12PPとを相互に嵌め込んで、治具半部12U、12Lが枢動自在に結合される。
【0019】
治具半部12U、12Lは、ピボット部12Pの一方の側に送電線1を把持する略半円形の把持半部12UG、12LGを有し、従ってこれらの治具半部12U、12Lの把持半部12UG、12LGを送電線の各半部を抱き込むようにして治具半部12U、12Lをピボット部12Pで結合すると、治具10は、送電線1を把持することができる。従って、これらの把持半部12UG、12LGは、治具10の送電線把持部12Gを構成する。
【0020】
また、治具半部12U、12Lは、ピボット部12Pの他方の側にハンドル半部12UH、12LHを有し、従って、これらの治具半部12U、12Lのハンドル半部12UH、12LHは、治具半部12U、12Lをピボット部12Pで結合すると、このピボット部12Pを中心に治具10の送電線把持部12Gを開くように操作するハンドル12Hを構成する。
【0021】
1対の開閉爪12UP、12LPは、治具半部12U、12Lの把持半部12UG、12LGの先端に設けられ、これらの開閉爪12UP、12LPは、図7(B)に示すように、送電線1の最外層3Aの撚りの傾斜角度θ(図1参照)に相応する傾斜角度で傾斜している。この開閉爪12UP、12LPは、図2に示すように、最外層3Aの隣り合う素線2a、2bの間に係入し易いように尖ったエッジ12UPE、12LPEを有する。従って、2つの治具半部12U、12Lが送電線1を抱き込むようにピボット部12Pで結合されると、1対の開閉爪12UP、12LPのエッジ12UPE、12LPEが自動的に最外層3Aの隣り合う素線2a、2bの間に係入する。なお、図示の形態では、1対の開閉爪12UP、12LPは、ねじ12US、12LSで把持半部12UG、12LGに着脱自在に取付けられているが、これらは一体であってもよい。
【0022】
送電線1の最外層3Aの隣り合う素線2a、2bを広げる作業は、送電線1を送電線把持部12Gで把持し、且つ開閉爪12UP、12LPのエッジ12UPE、12LPEが最外層3Aの隣り合う素線2a、2bの隙間に係入するように、治具半部12U、12Lをピボット部12Pで結合し(図2参照)、その後、治具10のハンドル12Hを手で握ってハンドル半部12UH、12LHを閉じるように操作することによって行なわれる。このようにすると、把持半部12UG、12LGは、ピボット部12Pで相互に反対方向に移動して開くので、これらの把持半部12UG、12LGと共に、1対の開閉爪12UP、12LPは、最外層3Aの隣り合う素線2a、2bを相互に反対方向に押し広げて送電線1の内層3Bが露呈する。
【0023】
本発明の方法は、更に、このようにして露呈された内層3Bに生成している腐食生成物4を適宜の手段で採取し分析して送電線1の劣化を診断する。
【0024】
内層3Bに生成している腐食生成物4は、この腐食生成物4を有する送電線内層部分3Baに接着性薄肉部材14を付着させた後、この接着性薄肉部材14を送電線内層部分3Baから剥離して採取するのが好ましい。
【0025】
接着性薄肉部材14は、例えば、長尺のプラスチックテープの上に腐食生成物4が付着するのに適した適宜の接着剤を塗布して接着性テープの形態で形成することができるが、この接着性テープは、腐食生成物4の長さに合わせて適宜の長さに切断して接着性シートとして使用される。
【0026】
このようにして採取された腐食生成物4は、接着性薄肉部材14に付着したまま分析して送電線の劣化を診断することができるが、この接着性薄肉部材14から腐食生成物4を剥離した後、腐食生成物4を分析することもできる。
【0027】
腐食生成物4の分析は、その成分、厚み(腐食の深さ)、面積(長さ及び幅)、重量等を検出して行なわれる。腐食生成物の重量は、送電線の劣化状態を知る上で有効な情報となる。この重量は、送電線の外側から2層目の撚線の層3Bの表面の所定面積から採取された重量で比較すると、より有効な劣化情報となる。
【0028】
なお、上記実施の形態では、腐食生成物4は、送電線1の一個所から採取されたが、実際には、位置を異にして複数箇所から採取してそれぞれの分析結果から送電線の劣化を診断するのが好ましい。
【0029】
また、上記実施の形態では、腐食生成物4の採取は、接着性薄肉部材14を用いて行なったが、スクレーパその他の適宜の手段を用いて行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、送電線の最外層の隣り合う素線を広げて送電線の内層を露呈した後、この内層に生成している腐食生成物を目視で点検するのではなく、送電線内層から採取し分析して送電線の劣化を診断するので、腐食生成物の成分や深さ、面積、重量等を検出して送電線の劣化を有効且つ確実に診断することができ、また送電線の一部の撤去や張替えを必要としないので、診断前の作業が簡単で点検作業を効率よく行うことができ、高い産業上の利用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の方法が適用される送電線を示し、同図(A)は、正面図、同図(B)は、断面図である。
【図2】本発明の方法によって送電線の劣化を診断するために、送電線に治具を取り付けた状態の横断面図である。
【図3】図2の状態から送電線の最外層の素線を押し広げた内層を露呈した状態の正面図である。
【図4】図3の状態の要部の部分拡大横断面図である。
【図5】腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材をあてがった状態の拡大正面図である。
【図6】図5の内層部分から腐食生成物を採取した状態の正面図である。
【図7】本発明の方法に用いられる治具を示し、同図(A)は、この治具の正面図、同図(B)は、その左側面図、同図(C)は、その垂直断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 送電線
2、2a、2b 素線
3A 最外層
3B 内層
3Ba 腐食生成物を有する内層部分
4 腐食生成物
10 治具
12U、12L 治具半部
12P ピボット部
12PR 半円形凹部
12PP 半円形突部
12G 把持部
12UG、12LG 把持半部
12H ハンドル
12UH、12LH ハンドル半部
12UP、12LP 開閉爪
12UPE、12LPE エッジ
12US、12LS ねじ
14 接着性薄肉部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線の最外層の隣り合う素線間を広げて送電線の内層を露呈し、前記内層に生成している腐食生成物を採取し分析して前記送電線の劣化を診断することを特徴とする送電線の劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の送電線の劣化診断方法であって、前記内層に生成している腐食生成物は、前記腐食生成物を有する送電線内層部分に接着性薄肉部材を付着させた後、前記接着性薄肉部材を前記送電線内層部分から剥離して採取することを特徴とする送電線の劣化診断方法。
【請求項3】
請求項2に記載の送電線の劣化診断方法であって、前記接着性薄肉部材から前記腐食生成物を剥離した後、前記腐食生成物を分析することを特徴とする送電線の劣化診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−157715(P2008−157715A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345777(P2006−345777)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】