逆位変異を利用した宿主DNAの一括置換方法
【課題】 逆位変異を利用した宿主DNAの一括置換方法を提供する。
【解決手段】 供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域を供与体DNAの置換対象領域に置換する。
【解決手段】 供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域を供与体DNAの置換対象領域に置換する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、逆位変異を利用した宿主DNAの一括置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形質転換方法としては、例えば、組換えプラスミドやDNA断片を大腸菌等の宿主に導入するコンピテントセル形質転換法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))が挙げられる。また、宿主に応じて、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等によって、組換えプラスミドやDNA断片を宿主に形質転換することができる。
【0003】
しかしながら、以上のような従来の形質転換方法では、例えば、100kb以上の大きなサイズのDNA断片を、宿主DNA中に導入することが困難であった。
【0004】
そこで、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に導入すべく、LP(lysis of protoplasts)形質転換方法と呼ばれる形質転換方法が開発されている(非特許文献1及び2)。LP形質転換方法では、抽出したDNA断片や組換えプラスミドに代えて、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)の菌株の細胞壁を溶解させたプロトプラストを供与体DNAとして、レシピエント菌株のコンピテントセルに供与する。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出された供与体DNAがレシピエント菌株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。また、LP形質転換方法によれば、一般的な形質転換方法に比べて、導入すべきDNAの損傷は大幅に軽減する。LP形質転換方法を用いた場合には、100kb以上のDNA断片を、宿主DNAに導入することが比較的容易である。
【0005】
しかしながら、LP形質転換方法では、目的のDNA断片のサイズが大きくなるほど、プロトプラストの供与体DNAとレシピエント菌株の宿主DNAとの間の相同領域において、複数箇所で相同組換えが生じる可能性がある。すなわち、LP形質転換方法では、大きなサイズの目的のDNA断片を宿主DNAに正確に導入することが困難であった。
【0006】
そこで、形質転換方法として、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入する方法が望まれている。
【0007】
一方、例えば任意の枯草菌ゲノム領域を逆向きに変異させる方法(以下、「逆位変異方法」という)が開発されている(非特許文献3)。この逆位変異方法は、複製開始部位(oriC)と複製終結部位(terC)のゲノム上の相対的な位置関係がゲノムDNAの複製に及ぼす影響を解析する上で、それぞれの位置を大きく変化させた変異株の構築等への利用を目的として開発された技術である。あるいは、当該逆位変異方法は、ゲノム上に分散して存在する協働的に機能する遺伝子同士を隣接させる為の技術として、同一ゲノム内の改変を目的とした用途開発が為されている技術である。当該逆位変異方法によれば、枯草菌のゲノムDNA中の目的のDNA断片を逆位変異させることができる。
【0008】
【非特許文献1】T. Akamatsu及びJ. Sekiguchi, 「Archives of Microbiology」, 1987年, 第146巻, p.353-357
【非特許文献2】T. Akamatsu及びH. Taguchi, 「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」, 2001年, 第65巻,第4号, p.823-829
【非特許文献3】T. Todaら, 「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」, 1996年, 第60巻, 第5号, p.773-778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑み、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させた後に、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域によって正確に置換されること、また、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させた後に、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域によって正確に置換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下を包含する。
【0012】
(1)供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させる第1工程と、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【0013】
(2)上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、(1)記載の宿主DNAの置換方法。
【0014】
(3)上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、(1)又は(2)記載の宿主DNAの置換方法。
【0015】
(4)上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0016】
(5)上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0017】
(6)供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる第1工程と、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【0018】
(7)上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、(6)記載の宿主DNAの置換方法。
【0019】
(8)上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、(6)又は(7)記載の宿主DNAの置換方法。
【0020】
(9)上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、(6)〜(8)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0021】
(10)上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、(6)〜(9)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0022】
(11)上記(1)〜(10)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法で置換対象領域が置換された形質転換体。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入することができる宿主DNAの置換方法が提供される。本発明に係る宿主DNAの置換方法では、置換対象領域間での相同組換えが生じることなく、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNA中に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る宿主DNAの置換方法は、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、その後、供与体DNAと宿主DNAとの間で置換対象領域の外側の領域における二重交差の相同組換えを行う方法である(以下、「第1置換方法」という)。また、本発明に係る宿主DNAの置換方法は、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆異変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、その後、供与体DNAと宿主DNAとの間で置換対象領域の外側の領域における二重交差の相同組換えを行う方法である(以下、「第2置換方法」という)。第1置換方法及び第2置換方法における相同組換えは、供与体DNAの置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAの置換対象領域の外側の領域との間の一組の鎖間交換構造を形成することで生じる。第1置換方法及び第2置換方法によれば、宿主DNAと供与体DNAとの間の二重交差の相同組換えによって、宿主DNAの置換対象領域を供与体DNAの置換対象領域で置換することができる。以下では、本発明に係る第1置換方法と第2置換方法とを合わせて、「本発明に係る置換方法」と呼ぶ。
【0026】
ここで、置換対象領域とは、相同組換えによって置換される領域を意味する。従って、置換対象領域は、宿主DNA及び供与体DNAそれぞれに存在し、宿主DNAと供与体DNAとの間の相同組換え過程において一組の鎖間交換構造を形成する領域に挟まれる領域を意味する。なお、宿主DNAの置換対象領域及び供与体DNAの置換対象領域は、同一の塩基配列からなるものであっても良いし、異なる塩基配列を有するものであっても良い。例えば、供与体DNAの置換対象領域は、宿主DNAの置換対象領域の塩基配列に対して1〜数個の変異を導入した塩基配列からなるものであっても良いし、宿主DNAの置換対象領域に所定のDNA断片を導入したものであっても良い。なお、ここでいう変異とは、例えば、1〜数個の塩基が他の塩基に置換されたもの、1〜数個の塩基が欠失されたもの、1〜数個の塩基が付加されたもの、又は1〜数個の遺伝子等の連続した塩基配列が欠失されたものを示す。
【0027】
また、置換対象領域の外側の領域とは、一方の鎖を基準として、置換対象領域における3'末端側に続く領域と5'末端側に続く領域とを意味し、宿主DNAと供与体DNAとの間の相同組換え過程において一組の鎖間交換構造を形成する部位を含む領域を意味する。
【0028】
供与体DNAとは、宿主DNAに導入する目的の置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域とを有するDNAを意味する。供与体DNAとしては、DNA断片、ゲノムの全体若しくはその一部、プラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター、BAC(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 8242(1990))及びYAC(Science 236, 806 (1987))など、更にはプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター、BAC及びYACなどにクローニングされたDNA断片やゲノムDNAの一部等が挙げられる。例えば、プラスミドとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET30bなどのpET系、pBR322およびpBR325などのpBR系、pUC118、pUC119、pUC18およびpUC19などのpUC系、pBluescript等)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13などのYEp系、YCp50などのYCp系等)などが挙げられる。またファージDNAとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)やPBS1ファージ(J. Bacteriol. 90, 1575 (1965))が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、カリフラワーモザイクウイルスなどの植物ウイルスベクター、またはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。さらに、本発明に係る置換方法において、以下に説明するLP形質転換方法を用いる場合には、例えば、枯草菌等の微生物自体を供与体DNAとして使用することができる。
【0029】
宿主DNAとは、供与体DNAの置換対象領域が導入される対象となる領域(置換対象領域)及び置換対象領域の外側の領域を有するDNAを意味する。宿主DNAとしては、所定の生物におけるゲノムDNA及びミトコンドリアDNA等を挙げることができる。宿主としては、枯草菌等のバチルス属、大腸菌等のエッシェリヒア属及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、COS細胞及びCHO細胞等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞、並びにイネ科(イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays))、アブラナ科(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))、ナス科(タバコ(Nicotiana tabacum)及びマメ科(ダイズ(Glycine max))等の植物が挙げられる。特に、枯草菌が好ましい。
【0030】
一方、本発明に係る置換方法では、宿主DNA及び供与体DNAの置換対象領域のサイズは、特に限定されないが、供与体DNAの置換対象領域のサイズは20kb以上のDNAサイズ、好ましくは20kb〜1000kb、より好ましくは20kb〜600kb、さらに好ましくは100kb〜600kb、特に好ましくは250kb〜600kbのDNAサイズとすることができる。一方、宿主DNAの置換対象領域のサイズは、供与体DNAの置換対象領域と同程度か、遺伝子領域の欠失等により小さくなっている場合には何ら問題はなく、また塩基配列の挿入等により供与体DNAの置換対象領域より大きくなっている場合にも問題は生じない。例えば、当該供与体DNAと宿主DNAとの間における置換対象領域間のサイズ差は、600kb以下、好ましくは250kb以下、より好ましくは100kb以下、特に好ましくは20kb以下とすることができる。
【0031】
本発明に係る第1置換方法では、先ず、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異させる。言い換えると、第1置換方法では、先ず、供与体DNAの置換対象領域及び宿主DNAの置換対象領域のうち、一方の置換対象領域が逆位変異した供与体DNA及び宿主DNAを準備する。
【0032】
本発明に係る第1置換方法では、次に、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させる。これにより、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で、一組の鎖間交換構造を形成することとなる。そして、供与体DNAと宿主DNAとの間で二重交差の相同組換えが生じ、供与体DNAの置換対象領域が宿主DNAの置換対象領域と置換されることとなる。
【0033】
第1置換方法において、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある場合、宿主DNAの置換対象領域と供与体DNAの置換対象領域とは互いに非相同であるため、相同組換えが生じる条件下にて、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある状態で供与体DNAと宿主DNAが近接したとしても、置換対象領域の内部に鎖間交換構造を形成することがない。従って、第1置換方法によれば、置換対象領域の外側の領域で相同組換えが生じたものを薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を利用して選択することにより、供与体DNAの置換対象領域を確実に宿主DNAの置換対象領域と置換することができる。また、第1置換方法によれば、置換対象領域が20kbp以上、特に600kbp以上といった長さを有する場合においても、置換対象領域内部に相同組換えが生じず、一括して確実に置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で置換することができる。
【0034】
さらに、本発明に係る第1置換方法では、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。当該選択マーカー遺伝子を利用することで、置換対象領域内部間や置換対象領域の外側の領域以外の相同部位間等の望ましくない箇所での相同組換えにより生じた形質転換体を除外し、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を確実に選択することができる。ここで、選択マーカー遺伝子としては、特に限定されるものではないが、例えば、薬剤耐性遺伝子(クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子及びブラストサイジンS耐性遺伝子等)が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することが可能である。供与体DNA又は宿主DNAにおける選択マーカー遺伝子の存在位置は、選択の方法に応じて、適宜決定することができる。
【0035】
例えば、供与体DNAの置換対象領域内部又は置換対象領域末端に薬剤耐性遺伝子が存在する場合には、当該薬剤耐性を指標に供与体の置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。一方、宿主DNAの置換対象領域内部又は置換対象領域末端に薬剤耐性遺伝子が存在する場合には、当該薬剤感受性を指標に、供与体の置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。
【0036】
あるいは、以下に説明するLP形質転換方法を利用する場合、供与体DNAであるプロトプラスト溶液中に完全にはプロトプラスト化していない細胞が含まれることがある。そのため、供与体DNAに含まれる選択マーカー遺伝子のみを指標として形質転換体の選択を試みると、ドナー菌株そのものが選択されてしまうことがある。そこで、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に存在させた選択マーカー遺伝子による選択を組み合わせることで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換された形質転換体を確実に選択することが出来る。また宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を存在させることで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていない形質転換体を選択することができる。特に、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に選択マーカー遺伝子を存在させると共に供与体DNAの適切な位置に選択マーカー遺伝子を存在させることが好ましい。供与体DNAの選択マーカー遺伝子を存在させる位置は、置換対象領域の内部又は末端が好ましく、特に末端が好ましい。
【0037】
本発明に係る第1置換方法に使用することができる逆位変異方法としては、例えば、NEO逆位変異システム(非特許文献3)、及びその応用としてテトラサイクリン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子またはブラストサイジンS耐性遺伝子等をNEO逆位変異システムにおけるネオマイシン耐性遺伝子の代わりに用いる方法、またtrpC2(Microbiology 145, 3319 (1999))の様な栄養要求性変異株においては栄養要求性を相補する遺伝子(trpC等)を利用する方法が挙げられる。
【0038】
以下に枯草菌ゲノムDNAを対象としたNEO逆位変異システムを図1に基づいて説明する。
【0039】
図1に示すように、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子の前部領域(N; 470bp)及び中部領域(E; 521bp)からなるNEカセットと、中部領域(E)及び後部領域(O; 323bp)からなるEOカセットとを利用して、枯草菌ゲノムDNAの特定領域を逆位変異させることができる。なお、図1に示すように、NEカセット及びEOカセットには、ネオマイシン耐性遺伝子以外の薬剤耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em))を組み込むことができる。薬剤耐性遺伝子を組み込むことで、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体を、薬剤耐性を指標として選択することができる。
【0040】
NEO逆位変異システムでは、枯草菌ゲノムDNAにおいて、逆位変異させようとする領域(以下、「逆位変異対象領域」という)(本発明では置換対象領域に相当する)の複製開始点(ori)から遠い側の末端にEOカセットを中部領域(E)が該逆位変異対象領域と直結するように挿入する。一方、枯草菌ゲノムDNAにおいて、該逆位変異対象領域のoriから近い側の末端にNEカセットを前部領域(N)が直結するように挿入する。なお、枯草菌ゲノムDNAにEOカセット又はNEカセットを挿入する方法としては、EOカセット又はNEカセットを有するプラスミドやPCRによって調製したEOカセット又はNEカセットを含むDNA断片を用いた、例えば、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))またはエレクトロポレーション法(FEMS Microbiol. Lett. 55, 135 (1990))が挙げられる。また、上述したように、NEカセット又はEOカセットに薬剤耐性遺伝子を組み込むことで、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体を、薬剤耐性を指標として選択することができる。以上のように構築した枯草菌自体は、ネオマイシン耐性遺伝子が不完全な状態で存在するため、ネオマイシン感受性である。次いで、枯草菌ゲノムDNAにおいてゲノム内相同組換えを誘導することにより、NEカセットの前部領域(E)とEOカセットの前部領域(E)との間で相同組換えが起こる。当該ゲノム内相同組換えにより、逆位変異対象領域が元の配列と完全に逆向きになると同時に、完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが形成される。得られた逆位変異体は、ネオマイシン耐性を指標に選択することができる。
【0041】
以上のような方法により、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異することができる。
【0042】
次いで、本発明に係る第1置換方法では、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させ、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で二重交差の相同組換えを生じさせ、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNAの置換対象領域と置換する。ここで、相同組換えが生じる条件下とは、宿主が本来的に有している組換え反応に関与する酵素等の機能を失っていない状態を意味する。供与体DNAと宿主DNAとの間の組換え方法としては、例えば、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol. Lett. 55, 135 (1990))またはLP形質転換方法(非特許文献1及び2)が挙げられる。この中でもプロトプラスト化した細胞を供与体DNAとしてコンピテントセル形質転換を行うLP形質転換方法が特に好ましい。LP形質転換方法によれば、一般的な形質転換方法に比べて、供与体DNAの損傷を大幅に軽減することができる。
【0043】
例示として、枯草菌間における、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAと宿主DNAとのLP形質転換を、図2に基づいて説明する。
【0044】
図2に示すように、上述したNEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAには、逆位変異した置換対象領域と完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが存在する。さらに、例えば、NEカセットにクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)が組み込まれ、またEOカセットにエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が組み込まれていた場合には、供与体DNAには、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が存在する。
【0045】
一方、図2に示すように、宿主DNAには、供与体DNAに存在する薬剤耐性遺伝子とは異なる薬剤耐性遺伝子(例えば、スペクチノマイシン耐性遺伝子(Sp))を存在させることができる。
【0046】
供与体DNAを有するドナー菌株を用いた宿主DNAを有するレシピエント菌株に対するLP形質転換では、まずドナー菌株からプロトプラストを調製する。ドナー菌株からのプロトプラストの調製は、Changらの方法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))に従って以下のように行うことができる。
【0047】
ドナー菌株を、LB培地において37℃で、例えば生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養する。振盪培養後、培養液から遠心分離によって集めた菌体を、4mg/mLリゾチーム (Sigma)を含むSMMP(3.50% Antibiotic Medium3 (Difco)、17.15% スクロース、0.16% マレイン酸二ナトリウム、0.20% 塩化マグネシウム6水和物、0.10% ウシ血清アルブミン (pH6.5に調整))緩衝液に懸濁し、37℃で1〜2時間インキュベーションする。インキュベーション後、遠心分離によってプロトプラストを集めてSMMP緩衝液に再懸濁する。さらに、形質転換効率及び置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じる危険性を考慮して、適宜、その懸濁液を濃縮又は希釈することができる。例えば、再懸濁後の上記懸濁液をSMMP緩衝液で1〜100倍(例えば10倍)濃縮、又は1〜1,000,000倍(例えば10倍)希釈したものを、プロトプラスト懸濁液として使用することができる。一般的には、得られた再懸濁後の上記懸濁液をSMMP緩衝液で1〜100倍希釈したものをプロトプラスト懸濁液として使用することできる。
【0048】
一方、レシピエント菌株は、例えば、Anagnostopoulosらの方法(J.Bacteriol. 81, 741 (1961))に従って以下のように行うことができる。
【0049】
レシピエント菌株を、SPI培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.02% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.25μM 塩化マンガン、50μg/ml トリプトファン)において37℃で、例えば生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養する。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.01% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.40μM 塩化マンガン、5μg/ml トリプトファン)に接種し、更に例えば生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することで、レシピエント菌株からコンピテントセルに誘導することができる。
【0050】
次いで、プロトプラスト懸濁液を、レシピエント菌株のコンピテントセルに添加する。添加するプロトプラスト懸濁液量は特に限定されないが、レシピエント菌株のコンピテントセルに対して1/10000〜10倍、好ましくは1/10〜1倍とすることができる。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出された供与体DNAがレシピエント菌株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。
【0051】
以上のようにドナー菌株とレシピエント菌株との間でLP形質転換が行われると、供与体DNAと宿主DNAとが近接することとなる。また、レシピエント菌株が本来的に有している相同組換えに関与する酵素の作用によって、供与体DNA及び宿主DNAに存在する置換対象領域の外側の領域間で一組の鎖間交換構造が形成され、二重交差の相同組換えが生じる(図2では、相同組換えの態様を点線で示す)。その結果、宿主DNA中の置換対象領域が、供与体DNA中の逆位変異した置換対象領域に置換される。形質転換体は、供与体DNAの逆位変異した置換対象領域の末端に挿入した薬剤耐性遺伝子(図2では、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)、エリスロマイシン耐性遺伝子(Em))又はNEO逆位変異システムにより挿入したネオマイシン耐性遺伝子に基づく薬剤耐性を指標に選択することができる。また、図2に示すように、宿主DNAに存在する他の薬剤耐性遺伝子(例えば、スペクチノマイシン耐性遺伝子)に基づく薬剤耐性により、ドナー菌株自体を排除し、且つ形質転換体のDNA(すなわち、宿主DNA)において、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。あるいは、形質転換体における相同組換えは、逆位変異した置換対象領域を対象としたPCRを行うことで確認することができる。
【0052】
一方、宿主DNA又は供与体DNAにおいて、LP形質転換前に予め置換対象領域外の遺伝子を欠失させておく。次いで、LP形質転換後、形質転換体のDNAにおいて、欠失した遺伝子の存在の有無をPCRにおいて確認することで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。
【0053】
また、供与体DNAによるレシピエント菌株の形質転換効率は、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価することができる。
【0054】
なお、宿主DNAの置換対象領域を逆位変異した場合には、ドナー菌株とレシピエント菌株のLP形質転換により、宿主DNAの逆位変異した置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換される。この場合、得られた形質転換体のDNAにおいて、供与体DNA由来の置換対象領域は、本来の配向で置換されることとなる。
【0055】
本発明に係る第2置換方法では、先ず、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異させ、他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる。言い換えると、第2置換方法では、先ず、置換対象領域が逆位変異した供与体DNAと、置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域が逆位変異した宿主DNAとを準備する。或いは、第2置換方法では、先ず、置換対象領域が逆位変異した宿主DNAと、置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域が逆位変異した供与体DNAとを準備する。
【0056】
本発明に係る第2置換方法では、次に、第1置換方法と同様に、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させる。これにより、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で、一組の鎖間交換構造を形成することとなる。そして、供与体DNAと宿主DNAとの間で二重交差の相同組換えが生じ、供与体DNAの置換対象領域が宿主DNAの置換対象領域と置換されることとなる。
【0057】
第2置換方法において、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある場合、宿主DNAの置換対象領域と供与体DNAの置換対象領域とは非相同であり、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域と供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域とは非相同であるため、相同組換えが生じる条件下にて、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある状態で供与体DNAと宿主DNAが近接したとしても、置換対象領域の内部及び置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域に鎖間交換構造を形成することがない。換言すれば、第2置換方法では、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間のみが相同となり、限定された置換対象領域の外側の領域で鎖間交換構造を形成することとなる。
【0058】
さらに、本発明に係る第2置換方法においては、第1置換方法と同様に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。供与体DNA又は宿主DNAにおける選択マーカー遺伝子の存在位置は、第1置換方法と同様に、選択の方法に応じて、適宜決定することができる。特に、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に選択マーカー遺伝子を存在させると共に供与体DNAの適切な位置に選択マーカー遺伝子を存在させることが好ましい。供与体DNAの選択マーカー遺伝子を存在させる位置は、置換対象領域の内部又は末端が好ましく、特に末端が好ましい。
【0059】
従って、第2置換方法によれば、限定された置換対象領域の外側の領域で相同組換えが生じたものを薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を利用して選択することにより、供与体DNAの置換対象領域を確実に宿主DNAの置換対象領域と置換することができる。また、第2置換方法によれば、置換対象領域が20kbp以上、特に600kbp以上といった長さを有する場合においても、第1置換方法と同様に、置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で一括して確実に置換することができる。第2置換方法で使用することができる逆位変異方法は、上述した本発明に係る第1置換方法で使用することができるものと同様であってよい。なお、本発明に係る第2置換方法において、逆位変異の対象となる置換対象領域の外側の領域のDNAサイズは、各端0.15kb〜500kb、より好ましくは0.5kb〜500kb、更に好ましくは0.5kb〜20kbであり、特に0.5kb〜10kbとすることが好ましい。逆位変異の対象となる置換対象領域の外側の領域が上記範囲のDNAサイズを有することで、置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で一括して確実に置換することができる。
【0060】
本発明に係る第2置換方法における供与体DNAと宿主DNAとの間の組換え方法としては、上述した本発明に係る第1置換方法で使用する組換え方法と同様であってよい。特にLP形質転換方法が好ましい。
【0061】
例示として、図3は、本発明に係る第2置換方法において、枯草菌間における、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAと宿主DNAとのLP形質転換を模式的に示す。なお、図3において、置換対象領域の外側の領域を「隣接領域(L)」及び「隣接領域(R)」と表記する。
【0062】
図3では、供与体DNAにおいて、NEO逆位変異システムにより置換対象領域並びに隣接領域(L)及び隣接領域(R)が逆位変異されている。一方、宿主DNAにおいて、NEO逆位変異システムにより置換対象領域が逆位変異されている。さらに、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNA及び宿主DNAには、完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが存在する。また、例えば、NEカセットにクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)が組み込まれ、またEOカセットにエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が組み込まれていた場合には、供与体DNA及び宿主DNAには、それぞれクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が存在する。さらに、供与体DNAには、これらの薬剤耐性遺伝子と異なる薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子(Tc)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(Sp)等)を、例えば置換対象領域中又は置換対象領域と当該置換対象領域の外側の領域との間に導入することができる。
【0063】
以上のような供与体DNAを有するドナー菌株と宿主DNAを有するレシピエント菌株との間でLP形質転換を行う場合、供与体DNAにおいて、置換対象領域中又は置換対象領域と当該置換対象領域の外側の領域との間に存在する薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子等)に基づく薬剤耐性を指標に、形質転換体を選択する。選択後、さらに得られた形質転換体より、例えばNEO逆位変異システムを利用した場合には、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体の選択の際の指標となったクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子、及び/又はNEO逆位変異システムにより導入されたネオマイシン耐性遺伝子の欠失に伴う薬剤感受性を指標とした選択を行う。以上のような薬剤耐性又は薬剤感受性を指標とする選択により、図3に示すように、供与体DNA及び宿主DNAに存在する隣接領域(L)及び(R)で鎖間交換構造が形成され、二重交差の相同組換えが生じた形質転換体を選択することが出来る(図3では、相同組換えの態様を点線で示す)。その結果、宿主DNA中の逆位変異した置換対象領域が、供与体DNA中の逆位変異した置換対象領域に置換される。得られた形質転換体のDNA(すなわち、宿主DNA)では、供与体DNA由来の置換対象領域は、本来の配向で置換されている。このように、本発明に係る第2置換方法では、供与体DNAにおいて、置換対象領域に加えて、置換対象領域の外側の領域も逆位変異させることで、相同組換えが生じる位置を当該置換対象領域の外側の領域に限定することができる。また、第2置換方法によれば、供与体DNA由来の置換対象領域を、本来の配向で導入することができる。
【0064】
また、形質転換体において目的の相同組換えが生じたことは、供与体DNA由来の置換対象領域を対象としたPCRを行うことで確認することができる。
【0065】
さらに、宿主DNA又は供与体DNAにおいて、予め置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域に存在する遺伝子を欠失させておく。次いで、LP形質転換後、形質転換体のDNAにおいて、欠失した遺伝子の存在の有無をPCRにおいて確認することで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。
【0066】
一方、本発明に係る第2置換方法では、同様に、宿主DNAの置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNAの置換対象領域を逆位変異させることで、薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を指標とした選択を組み合わせることにより、相同組換えが生じる位置を当該置換対象領域の外側の領域に限定することができる。
【0067】
以上のように説明した本発明に係る置換方法によれば、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に一括して確実に導入することができる。また、本発明に係る置換方法では、置換対象領域内部での相同組換えが生じることなく、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNA中に導入することができる。
【0068】
特に、本発明に係る第2置換方法では、相同組換えが生じる位置を、置換対象領域の外側の領域に限定することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下の本実施例におけるDNA断片増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)には、GeneAmp PCR System(アプライドバイオシステムズ)を使用し、PyrobestDNA Polymerase(タカラバイオ)と付属の試薬類を用いてDNA増幅を行った。PCRの反応液組成は、適宜希釈した鋳型DNAを1μL、センス及びアンチセンスプライマーを各々20pmol及びPyrobestDNA Polymeraseを2.5U添加して、反応液総量を50μLとした。PCRの反応条件は、98℃で10秒間、55℃で30秒間及び72℃で1〜5分間(目的増幅産物に応じて調整。目安は1kbあたり1分間)の3段階の温度変化を30回繰り返した後、72℃で5分間反応させることにより行った。なお、PCRにおいて用いたプライマーは、以下の表1に示すプライマーである。
【0071】
【表1】
【0072】
さらに、以下の実施例において、遺伝子の上流・下流とは、複製開始点からの位置ではなく、上流とは各操作・工程において対象として捉えている遺伝子の開始コドンの5’側に続く領域を示し、一方、下流とは各操作・工程において対象として捉えている遺伝子の終始コドンの3’側に続く領域を示す。
【0073】
なお、以下の実施例における各遺伝子及び遺伝子領域の名称は、Nature, 390, 249-256, (1997) で報告され、JAFAN: Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開(http://bacillus.genome.ad.jp/、2004年3月10日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載している。
【0074】
〔実施例1〕本発明に係る第1置換方法−ドナー菌株(供与体DNA)のゲノム上置換対象領域を逆位変異させた場合
(1) ドナー菌株(E600NR、E250NR、E100NR及びE50NR)の構築
1−1. 逆位変異用カセットプラスミドpBNEC及びpBEOCの構築
図4に示すように、逆位変異用カセットを組込んだプラスミドpBNEC及びpBEOCを以下のように構築した。
【0075】
プラスミドpUB110(Plasmid 15, 93 (1986))を鋳型とし、表1に示したrneof-SE(配列番号1)及びrepUr-Nm(配列番号2)のプライマーセットを用いて、repU遺伝子のプロモーター(Nucleic Acids Res. 17, 4410 (1989))を含む領域(rep断片)(0.4kb)をPCRによって調製した。また、プラスミドpUB110を鋳型とし、表1に示したNmUf-rep(配列番号3)及びNer-XH(配列番号4)のプライマーセットを用いて、ネオマイシン耐性遺伝子の前中部領域(nE断片)(0.6kb)をPCRによって調製した。次いで、得られたrep断片とnE断片とを混合して鋳型とし、上記プライマーrneof-SE(配列番号1)及びNer-XH(配列番号4)を用いたSOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene 77, 61 (1989))を行うことによって、repU遺伝子のプロモーター領域の下流にnE断片が連結したNE断片(1.0kb)を調製した。
【0076】
さらに、プラスミドpC194 (J. Bacteriol. 150 (2) 815 (1982))を鋳型とし、表1に示したcatf-XH(配列番号5)及びcatr-SL(配列番号6)のプライマーセットを用いてクロラムフェニコール耐性遺伝子Cm断片(0.9kb)をPCRによって調製した。
【0077】
次いで、NE断片をSpeI及びXhoIで、Cm断片をXhoI及びSalIでそれぞれ制限酵素処理した後、pBluescript II SK(+)(Stratagene)のSpeI-SalI制限酵素部位に挿入して、プラスミド上でNE断片とCm断片とが隣接するNEカセットプラスミドpBNECを構築した。
【0078】
一方、プラスミドpMutinT3 (Microbiology 144, 3079 (1998))を鋳型とし、表1に示したemf2-SE(配列番号7)及びemr2-XH(配列番号8)のプライマーセットを用いて、エリスロマイシン耐性遺伝子Em断片(1.3kb)をPCRによって調製した。また、プラスミドpUB110を鋳型とし、表1に示したEOf-XH(配列番号9)及びneor-SL(配列番号10)のプライマーセットを用いて、ネオマイシン耐性遺伝子の中後部領域EO断片(0.8kb)をPCRによって調製した。
【0079】
次いで、Em断片をSpeI及びXhoIで、EO断片をXhoI及びSalIでそれぞれ制限酵素処理した後、pBluescript II SK(+)(Stratagene)のSpeI-SalI制限酵素部位に挿入して、プラスミド上でEm断片とEO断片とが隣接するEOカセットプラスミドpBEOCを構築した。
【0080】
1−2. ドナー菌株構築用基準株168EOC株の構築
図5に示すように、ドナー菌株構築の際の基準株を以下のように構築した。
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB FW(配列番号11)及びyxnB/Em R(配列番号12)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(A)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB/Ne F(配列番号13)及びyxnB RV(配列番号14)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(B)をPCRにより増幅した。
【0081】
一方、EOカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したemf2(配列番号15)及びneor(配列番号16)のプライマーセットを用いて、2.1kbのEOカセット(C)をPCRにより調製した。
【0082】
次に、得られた1.0kb断片(A)、1.0kb断片(B)及びEOカセット(C)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnB FW2(配列番号17)及びyxnB RV2(配列番号18)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が、1.0kb断片(A)、EOカセット(C)、1.0kb断片(B)の順に含まれる4.1kbのPCR断片を得た。
【0083】
さらに、コンピテントセル形質転換法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))によって、得られたPCR断片を用いて、枯草菌168株の形質転換を行った。形質転換後、エリスロマイシン(2μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0084】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnB遺伝子が欠失し、相同組換えによりyxnB遺伝子がEOカセット(C)に置換していることを確認した。以上のように、枯草菌におけるゲノムDNAのyxnB遺伝子部位にEOカセット(C)を挿入した168EOC株を構築した。
【0085】
1−3. ドナー菌株E600NRの構築
図6に示すように、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyvfU FW(配列番号19)及びyvfU/Cm3 R(配列番号20)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyvfU遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(D)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、yvfU/Ne5 F(配列番号21)及びyvfU RV(配列番号22)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyvfU遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(E)をPCRにより増幅した。
【0086】
一方、NEカセットプラスミドpBNECを鋳型として、表1に示したrneof(配列番号23)及びcatr(配列番号24)のプライマーセットを用いて、1.9kbのNEカセット(F)をPCRにより調製した。
【0087】
次に、得られた1.0kb断片(D)、1.0kb断片(E)及びNEカセット(F)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)及びyvfU RV2(配列番号26)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が1.0kb断片(D)、NEカセット(F)及び1.0kb断片(E)の順に含まれる3.9kbのPCR断片を得た。
【0088】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記1-2で得られた枯草菌168EOC株の形質転換を行った。形質転換後、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0089】
得られたクロラムフェニコール耐性株のゲノムDNAを抽出し、PCRにより168EOC株のyvfU遺伝子が欠失し、相同組換えによりyvfU遺伝子がNEカセット(F)で置換されていることを確認した。この株をEOC600Rと命名した。
【0090】
次に、EOC600R株を、1mLのLB培地において37℃で4時間振盪培養した。振盪培養後、得られた培養液100μLを、ネオマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天培地に塗沫し、生育したコロニーを分離した。
【0091】
得られたネオマイシン耐性株のゲノムDNAを抽出し、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyxnB FW2(配列番号17)とのプライマーセット、yvfU RV2(配列番号26)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvfU FW2(配列番号25)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセットをそれぞれ用いて、PCRを行った結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅できた。これらのDNA断片は逆位変異する前のEOC600R株では増幅できなかった。
【0092】
以上の結果から、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域(置換対象領域)が逆位変異されたことが確認された。得られた逆位変異体をE600NRと命名し、後述のゲノム大領域一括置換実験におけるドナー菌株として使用した。なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、E600NRの構築の際の逆位変異効率は、8.33 x 10-7であった。
【0093】
1−4. ドナー菌株E250NR、E100NR及びE50NRの構築
E600NRと同様にして、逆位変異体E250NR(250kbゲノム領域を逆位変異)、E100NR(100kbゲノム領域を逆位変異)及びE50NR(50kbゲノム領域を逆位変異)を構築し、それぞれ後述のゲノム大領域一括置換実験におけるドナー菌株として使用した。E250NRでは、speE遺伝子-yxnB遺伝子間の250kbのゲノム領域が逆位変異されている。E100NRでは、yxjH遺伝子-yxnB遺伝子間の100kbのゲノム領域が逆位変異されている。また、E50NRでは、hutM遺伝子-yxnB遺伝子間の50kbのゲノム領域が逆位変異されている。
【0094】
逆異変異体E250NR、E100NR及びE50NRの構築は、上記1−3で説明したE600NRの構築と同様に行った。なお、表2において、各逆異変異体を構築する上で使用したプライマーを、E600NRの構築に使用したプライマーと対応させて示した。
【0095】
【表2】
【0096】
また、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、E250NR、E100NR及びE50NRの構築の際の逆位変異効率は、それぞれ1.60 x 10-6、1.75 x 10-6及び1.99 x 10-6であった。
【0097】
(2) レシピエント菌株(宿主DNA)の構築
レシピエント菌株構築の親株としては、枯草菌の細胞外プロテアーゼをコードする8種類の遺伝子(aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr、wprA)を欠失させたプロテアーゼ遺伝子8重欠失株を用いた。以下に各プロテアーゼ遺伝子を順次欠失させ、プロテアーゼ遺伝子8重欠失株(ΔP8)を構築した工程、及び構築したΔP8のゲノム上のamyE遺伝子をスペクチノマイシン耐性遺伝子で置換し、レシピエント菌株を構築した工程について説明する。
【0098】
2−1. プロテアーゼ8重欠失株の構築
(a) epr遺伝子欠失用プラスミドの構築
図7に示すように、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表1に示したeprfw1(配列番号45)及びeprUpr(配列番号46)のプライマーセットを用いて、ゲノム上のepr遺伝子の上流に隣接する0.6kb断片(G)をPCRにより調製した。また、上記ゲノムDNAを鋳型とし、表1に示したeprDNf(配列番号47)及びeprrv-rep(配列番号48)のプライマーセットを用いて、ゲノム上のepr遺伝子の下流に隣接する0.5kb断片(H)をPCRにより調製した。
【0099】
一方、プラスミドpC194(J. Bacteriol. 150 (2), 815 (1982))由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子の上流にプラスミドpUB110(Plasmid 15, 93 (1986))由来のrepU遺伝子のプロモーター領域(Nucleic Acids Res. 17, 4410 (1989))を連結した1.2kb断片のCmカセット(I)を調製した。
【0100】
次に、得られた0.6kb断片(G)、0.5kb断片(H)及びCmカセット(I)の3断片を混合して鋳型とし、表1のプライマーeprfw2(配列番号49)及びCmrv2(配列番号50)を用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が0.6kb断片(G)、0.5kb断片(H)及びCmカセット(I)の順に結合した2.2kbのDNA断片を得た。このDNA断片の末端を平滑化及び5’-リン酸化し、プラスミドpUC118(Methods Enzymol. 153, 3 (1987))のSmaI制限酵素部位に挿入して、epr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprを構築した。
【0101】
なお、上記1.2kb断片Cmカセット(I)は、表1のrepUfw(配列番号51)及びrepUr-Cm(配列番号52)のプライマーセット並びに鋳型としてプラスミドpUB110を用いたPCRにより調製したrepU遺伝子プロモーター領域を含む0.4kb断片(J)と、表1のCmUf-rep(配列番号53)及びCmrv1(配列番号54)のプライマーセット並びに鋳型としてプラスミドpC194を用いたPCRにより調製したクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む0.8kb断片(K)とを混合して鋳型とし、表1に示したプライマーrepUfw(配列番号51)及びCmrv1(配列番号54)を用いたSOE-PCRを行うことによって調製した。
【0102】
(b) 欠失用プラスミドによるepr遺伝子欠失株の構築
図7に示すように、コンピテントセル形質転換法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))によって、上記(a)にて構築したepr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprを枯草菌168株に導入し、epr遺伝子上流領域又は下流領域の相当する領域間での一重交差の相同組換えによりゲノムDNAと融合した形質転換株を、クロラムフェニコール耐性を指標に取得した。
【0103】
得られた形質転換株をLB培地に接種し、37℃にて2時間培養した後、再度、コンピテンス誘導操作を行うことにより、ゲノム上で重複して存在するepr遺伝子上流領域または下流領域の間におけるゲノム内相同組換えを誘導した。
【0104】
図7に示すように、プラスミド導入の際と異なる領域で相同組換えが起こった場合、プラスミドに由来するクロラムフェニコール耐性遺伝子及びpUC118ベクター領域の脱落に伴ってepr遺伝子が欠失することになる。
【0105】
次に、クロラムフェニコール感受性となった株の存在比率を高めるため、以下の要領でアンピシリン濃縮操作を行った。
【0106】
コンピテントセル誘導後の培養液を、終濃度5ppmのクロラムフェニコール及び終濃度100ppmのアンピシリンナトリウムを含むLB培地1mLに、600nmにおける濁度(OD600)が0.003になるように接種した。37℃にて5時間培養後、培養液を含む混合液に、10,000ppmのアンピシリンナトリウム水溶液を10μL添加して、さらに3時間培養した。培養終了後、2%塩化ナトリウム水溶液にて菌体を遠心洗浄した後、1mLの2%塩化ナトリウム水溶液に菌体を懸濁し、懸濁液100μLをLB寒天培地に塗沫した。懸濁液を塗沫した培地を、37℃にて約15時間インキュベーションした。インキュベーション後、生育した菌株のうち、プラスミド領域の脱落に伴ってクロラムフェニコール感受性となったものを選抜した。
【0107】
選抜した菌株のゲノムDNAを鋳型とし、表1に示すプライマーeprfw2(配列番号49)及びeprrv-rep(配列番号48)を用いたPCRを行うことにより、epr遺伝子欠失の確認を行い、epr遺伝子欠失株を取得した。
【0108】
(c) その他のプロテアーゼ遺伝子の欠失
上記(b)にて構築したepr遺伝子欠失株に対し、次の欠失としてwprA遺伝子の欠失をepr遺伝子欠失と同様に行った。即ち、上記(a)と同様にして、wprA遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔwprAを構築し、構築したプラスミドのゲノムDNAへの導入と、それに続くゲノム内相同組換えによるwprA遺伝子の欠失によりepr遺伝子とwprA遺伝子の2重欠失株を取得した。以降同様の操作を繰り返すことにより、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprEの各遺伝子を順次欠失させ、最終的に8種類のプロテアーゼ遺伝子が欠失したプロテアーゼ8重欠失株ΔP8を構築した。
【0109】
各遺伝子欠失を行う際に用いたプライマーの配列は表1に示されている。また表3において、各遺伝子を欠失させる際に使用したプライマーを、上記(a)及び(b)にてepr遺伝子欠失に用いたプライマーと対応させて示した。
【0110】
【表3】
【0111】
2−2. スペクチノマイシン耐性遺伝子によるamyE遺伝子の置換
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したamyE FW(配列番号90)及びamyE/Sp R(配列番号91)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のamyE遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(L)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したamyE/Sp F(配列番号92)及びamyE RV(配列番号93)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のamyE遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(M)をPCRにより増幅した。
【0112】
一方、プラスミドpDG1727(Gene, 167, 335, (1995))DNAを鋳型として、表1に示したspf(配列番号94)及びspr(配列番号95)のプライマーセットを用いて、1.2kbのスペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)をPCRにより調製した。
【0113】
次に、得られた1.0kb断片(L)、1.0kb断片(M)及びスペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したamyE FW2(配列番号96)及びamyE RV2(配列番号97)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が1.0kb断片(L)、スペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)及び1.0kb断片(M)の順に含まれる3.2kbのPCR断片を得た。
【0114】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、プロテアーゼ8重欠失株ΔP8の形質転換を行い、スペクチノマイシン(100μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0115】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってamyE遺伝子が欠失し、相同組換えによってamyE遺伝子がスペクチノマイシン耐性遺伝子に置換していることを確認した。以上のようにして、レシピエント菌株ΔP8SPを構築した。
【0116】
(3) ドナー菌株とレシピエント菌株との間のゲノムDNAにおける相同領域についての説明
ゲノムDNAにおける、各ドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR及びE50NRの逆位変異領域並びにレシピエント菌株ΔP8SPにて欠失されているプロテアーゼ遺伝子の模式図を図8に示した。図8において、四角で囲まれた、枯草菌の細胞外プロテアーゼをコードする8種類の遺伝子(aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr、wprA)がレシピエント菌株ΔP8SPにおいて欠失されている。
【0117】
図8に示すように、上記(1)にて構築したドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR又はE50NRと上記(2)で構築したレシピエント菌株ΔP8SPとの間では、レシピエント菌株ΔP8SPに対して、それぞれドナー菌株のゲノム上において、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kb(E600NR)、speE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb(E250NR)、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb(E100NR)又はhutM遺伝子−yxnB遺伝子間の50kb(E50NR)の領域が逆向きになっており、一方各領域の外側(置換対象領域の外側の領域)については完全に相同な領域である。即ち、ドナー菌株とレシピエント菌株との間では、各領域の外側の領域で相同組換えを起こさせることにより、相互に逆向きの領域については一括して確実に置換することが可能である。この際、ドナー菌株側の当該領域の末端に挿入した選択マーカー遺伝子を利用した選択を行うことにより、効率的に目的とするゲノム大領域が一括置換された菌株を得ることができる。
【0118】
以下(4)〜(7)の節では、特にドナー菌株E600NRに基づいて説明する。
【0119】
(4) ドナー菌株からのプロトプラストの調製
ドナー菌株からのプロトプラストの調製は、Changらの方法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))に従って以下のように行った。
【0120】
ドナー菌株E600NRをLB培地にて生育度(OD600)の値が1程度になるまで37℃で振盪培養した。振盪培養後、培養液1mLから遠心分離によって集めた菌体を20mg/mL リゾチーム (Sigma)を含む 0.5mLのSMMP緩衝液に懸濁し、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、遠心分離によってプロトプラストを集めて0.5mL SMMP緩衝液に再懸濁した。更にその懸濁液をSMMP緩衝液で10倍希釈し、形質転換に使用した。
【0121】
(5) LP形質転換
Akamatsuら(非特許文献2)の方法に従って、LP形質転換を行った。本方法は抽出したDNAではなく、上記(4)のように調製したドナー菌株のプロトプラストを供与体DNAとしてレシピエント菌株のコンピテントセルに与えることによりDNAの損傷を大幅に軽減することが特徴である。コンピテンス誘導したレシピエント菌株ΔP8SPの培養液 1mLに、上記(4)にて調製したドナー菌株E600NRのプロトプラスト溶液0.1mLを加え、以後は通常の形質転換操作を行った。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出されたゲノムDNAがレシピエント菌株ΔP8SP株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。
【0122】
(6) 薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択
薬剤耐性を指標として形質転換体を選択した。図9には、各供与体DNAにおける逆位変異領域(置換対象領域)、及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを模式的に示す。
【0123】
まず、レシピエント菌株ΔP8SPの薬剤マーカーであるスペクチノマイシン耐性及びドナー菌株E600NRの逆位変異領域の端に存在する薬剤マーカーであるネオマイシン耐性を指標として形質転換体を選択した。次いで、レプリカ法を用いてドナー菌株E600NRの逆位変異領域の他端にあるクロラムフェニコール(Cm)耐性及びエリスロマイシン(Em)耐性を確認した。選択した形質転換体(50個)は、全てスペクチノマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール及びエリスロマイシンに対して耐性であった。このように、ドナー菌株E600NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、相同組換えによる置換が100%の効率で行われていた。
【0124】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価した。その結果、ドナー菌株E600NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、0.47 x 10-5であった。
【0125】
(7) 形質転換体における相同組換えに関するPCR確認
上記(6)で薬剤耐性が確認された形質転換体からゲノムDNAを抽出して、PCR確認を行った。表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyxnB FW2(配列番号17)とのプライマーセット、yvfU RV2(配列番号26)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvfU FW2(配列番号25)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセットをそれぞれ用いて、PCRを行った結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅できた。これらの断片はレシピエント菌株ΔP8SPでは増幅できなかった。
【0126】
また、図8に示すように、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間に位置するepr遺伝子とvpr遺伝子について、表1に示したeprfw2(配列番号49)とeprrv-rep(配列番号48)とのプライマーセット、及びvprfw2(配列番号84)とvprrv-rep(配列番号83)とのプライマーセットを用いてPCRにより確認したところ、形質転換体のゲノムDNAには、epr遺伝子及びvpr遺伝子が存在することが確認された。以上より、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域がドナー菌株であるE600NR株由来であることが確認された。
【0127】
さらにレシピエント菌株であるΔP8SP株の形質であるaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子の欠失について、表1に示したaprEfw2(配列番号89)とaprErv-rep(配列番号88)とのプライマーセット、mprfw2(配列番号64)とmprrv-rep(配列番号63)とのプライマーセット、wprAfw2(配列番号59)とwprArv-rep(配列番号58)とのプライマーセット、nprEfw2(配列番号79)とnprErv-rep(配列番号78)とのプライマーセット、nprBfw2(配列番号69)とnprBrv-rep(配列番号68)とのプライマーセット及びbprfw2(配列番号74)とbprrv-rep(配列番号73)とのプライマーセットをそれぞれ用いて確認し、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間以外のゲノム領域については、レシピエント菌株であるΔP8SP株と同様であることが確認された(図8参照)。
【0128】
(8) speE遺伝子−yxnB遺伝子間(250kb)、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間(100kb)及びhutM遺伝子−yxnB遺伝子間(50kb)領域の置換
上記(4)〜(7)と同様にして、ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いてレシピエント菌株ΔP8SPのLP形質転換を行い、薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択及び形質転換体における相同組換えに関するPCR確認を行った。
【0129】
ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いたレシピエント菌株ΔP8SPのLP形質転換においてそれぞれ選択した形質転換体(各形質転換体当たり50個)は、全てスペクチノマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール及びエリスロマイシンに対して耐性であった。このように、各ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いて得られたレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、相同組換えによる置換が100%の効率で行われていた。
【0130】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価した。ドナー菌株E250NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、0.84 x 10-5であった。ドナー菌株E100NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、1.85 x 10-5であった。また、ドナー菌株E50NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、2.68 x 10-5であった。
【0131】
さらに、形質転換体における相同組換えについてPCRで確認したところ、ドナー菌株としてE250NR株を用いた場合にはspeE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb、E100NR株を用いた場合にはyxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb、またE50NR株を用いた場合にはhutM遺伝子−yxnB遺伝子間の50kbが、それぞれレシピエント菌株であるΔP8SP株の各々相当する領域と逆向きの状態で置換されることが確認された。なお、形質転換体のゲノムDNAにおける置換対象領域末端確認のためのPCRには、上記(1)の逆位変異確認と同じプライマーを用いた(各プライマーの対応は表2参照)。以下の表4には、各ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いたレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、置換対象領域末端確認のPCRに使用したプライマーセット及びPCR産物のサイズを示す。
【0132】
【表4】
【0133】
また、E250NR株を用いた場合には、形質転換体のゲノムDNAについてepr遺伝子及びvpr遺伝子の存在と、aprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子の欠失とを確認した。さらに、E100NR株又はE50NR株を用いた場合には、形質転換体のゲノムDNAについて8種類のプロテアーゼ遺伝子全てが欠失していることを確認した。それぞれのドナー菌株を用いて作製された形質転換体において、置換対象領域以外のゲノム領域についてはレシピエント菌株であるΔP8SP株と同様であることが確認された(図8参照)。
【0134】
〔実施例2〕 本発明に係る第2置換方法−ドナー菌株(供与体DNA)のゲノム上置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、且つ、レシピエント菌株(宿主DNA)のゲノム上置換対象領域を逆位変異させた場合
【0135】
(1) ドナー菌株の構築
1−1. ΔP81菌株及びΔP82菌株の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB FW(配列番号11)及びyxnB/Sp R(配列番号98)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(O)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、yxnB/Sp F(配列番号99)及びyxnB RV(配列番号14)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(P)をPCRにより増幅した。
【0136】
一方、プラスミドpDG1727 DNAを鋳型として、表1に示したspf(配列番号94)及びspr(配列番号95)のプライマーセットを用いて、1.2kbのスペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)をPCRにより調製した。
【0137】
次に、得られた1.0kb断片(O)、1.0kb断片(P)及びスペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnB FW2(配列番号17)及びyxnB RV2(配列番号18)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(O)、スペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)及び1.0kb断片(P)の順に含まれる3.2kbのPCR断片を得た。
【0138】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記実施例1(2)にて構築したプロテアーゼ8重欠失株ΔP8の形質転換を行い、スペクチノマイシン(100μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0139】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnB遺伝子が欠失し、相同組換えによってyxnB遺伝子がスペクチノマイシン耐性遺伝子に置換していることを確認した。以上のようにして、yxnB遺伝子部位にスペクチノマイシン耐性遺伝子を挿入したΔP81株を構築した。
【0140】
さらに、ΔP81株に対して、スペクチノマイシン耐性遺伝子の挿入と同様に、yxeA遺伝子部位にテトラサイクリン耐性遺伝子を挿入してΔP82株を構築した。なお、テトラサイクリン耐性遺伝子のPCR断片の調製には、pHY300PLK(ヤクルト社)を鋳型として用いた。表5には、テトラサイクリン耐性遺伝子を挿入した際に用いたプライマーを、上記スペクチノマイシン耐性遺伝子を挿入した際に用いたプライマーと対応させて示した。さらに、表5には、テトラサイクリン耐性遺伝子を挿入した際に行ったPCRにより得られるPCR産物のサイズを示す。
【0141】
【表5】
【0142】
1−2. ΔP83菌株の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnA FW(配列番号108)及びyxnA/Em R(配列番号109)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnA遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(Q)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnA/Ne F(配列番号110)及びyxnA RV(配列番号111)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnA遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(R)をPCRにより増幅した。
【0143】
一方、実施例1(1)にて調製したEOカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したemf2(配列番号15)及びneor(配列番号16)のプライマーセットを用いて、2.1kbのEOカセット(C)をPCRにより調製した。
【0144】
次に、得られた1.0kb断片(Q)、1.0kb断片(R)及びEOカセット(C)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnA FW2(配列番号112)及びyxnA RV2(配列番号113)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(Q)、EOカセット(C)及び1.0kb断片(R)の順に含まれる4.1kbのPCR断片を得た。
【0145】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、ΔP82株の形質転換を行い、エリスロマイシン(2μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0146】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnA遺伝子が欠失し、相同組換えによってyxnA遺伝子がEOカセットに置換していることを確認した。以上のようにして、枯草菌のyxnA遺伝子部位にEOカセットを挿入したΔP83株を構築した。
【0147】
1−3. ドナー菌株RSD1、RSD2及びRSD3の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したaldY FW(配列番号114)及びaldY/Cm3 R(配列番号115)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のaldY遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(R)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したaldY/Ne5 F(配列番号116)及びaldY RV(配列番号117)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のaldY遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(S)をPCRにより増幅した。
【0148】
一方、実施例1(1)にて調製したNEカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したrneof(配列番号23)及びcatr(配列番号24)のプライマーセットを用いて、1.9kbのNEカセット(F)をPCRにより調製した。
【0149】
次に、得られた1.0kb断片(R)、1.0kb断片(S)及びNEカセット(F)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したaldY FW2(配列番号118)及びaldY RV2(配列番号119)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(R)、NEカセット(F)及び1.0kb断片(S)の順に含まれる3.9kbのPCR断片を得た。
【0150】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記1−2で構築した枯草菌ΔP83株の形質転換を行い、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0151】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってaldY遺伝子が欠失し、相同組換えによってaldY遺伝子がNEカセットに置換していることを確認した。この株をΔP84株と命名した。
【0152】
次に、ΔP84株を、1mLのLB培地にて37℃で4時間振盪培養した。振盪培養後、得られた培養液100μLを、ネオマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天培地に植菌し、生育したコロニーを逆位変異体として分離した。
【0153】
得られた逆位変異体のゲノムDNAを抽出し、表1に示したaldY FW2(配列番号118)とyxnA FW2(配列番号112)とのプライマーセット、aldY RV2(配列番号119)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセット、aldY FW2(配列番号118)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行った。その結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅を確認した。なお、これらの断片は、逆位変異が起こる前のΔP84株では増幅されなかった。
【0154】
以上の結果から、aldY遺伝子−yxnA遺伝子間の120kbのゲノム領域(置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域)が逆位変異されたことが確認された。得られた逆位変異体をRSD1菌株と命名し、以下の実験においてドナー菌株として使用した。なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、RSD1菌株の構築の際の逆位変異効率は、6.77 x 10-7であった。
【0155】
さらに、上記RSD1菌株の構築と同様に、albC遺伝子−yxnA遺伝子間の270kb領域が逆位したドナー菌株RSD2、及びyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の620kbの領域が逆位したドナー菌株RSD3を構築した。表6には、ドナー菌株RSD2及びRSD3を構築した際に用いた各プライマーを、RSD1菌株を構築した際に用いたプライマーと対応させて示した。
【0156】
【表6】
【0157】
なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、ドナー菌株RSD2及びRSD3の構築の際の逆位変異効率は、それぞれ4.7 x 10-7及び2.36 x 10-7であった。
【0158】
以下の(2)〜(7)の節では、特にドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRに基づいて説明する。
【0159】
(2) レシピエント菌株の構築
本実施例においては、実施例1(1)にて構築したドナー菌株E600NRをレシピエント菌株として使用し、実験を行った。
【0160】
(3) ドナー菌株からのプロトプラストの調製
実施例1(4)と同様にドナー菌株RSD3を用いてプロトプラストの調製を行った。
【0161】
(4) ドナー菌株とレシピエント菌株とのゲノムDNAにおける相同領域についての説明
図10には、各供与体DNAにおける逆位変異領域、各宿主DNAにおける逆位変異領域及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを模式的に示す。図10において、パネル(a)は、ドナー菌株RSD1、RSD2及びRSD3のゲノムDNAにおける逆位変異領域を示す。パネル(b)は、ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。パネル(c)は、レシピエント菌株E100NR、E250NR及びE600NRのゲノムDNAにおける逆位変異領域を示す。さらに、パネル(a)に示す数字の位置は、パネル(b)に示される供与体DNAにおける数字の位置にある遺伝子部位を示す。パネル(c)に示す数字の位置は、パネル(b)に示される宿主DNAにおける数字の位置にある遺伝子部位を示す。
【0162】
さらに、図11には、具体的にドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRの置換しようとする領域近傍のゲノム構造を模式的に直線で表した。
【0163】
図10及び11に示すように、レシピエント菌株E600NRでは、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の領域が逆位変異されている。一方、ドナー菌株RSD3では、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の外側それぞれ10kb離れた位置にあるyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の領域が逆位変異されている。RSD3株とE600NR株との間で、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域(置換対象領域)が相互に逆向きの位置関係にある場合、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びyvbT遺伝子−yvfU遺伝子間の10kb領域(置換対象領域の外側の領域)は互いに相同な領域となり、それ以外の領域はすべて逆向きとなる。即ち、後述する薬剤耐性を指標とした選択を組み合わせることにより、上記2つの10kb領域間に限定した二重交差(一組の鎖間交換構造の形成及び二重交差の相同組換え)によるyvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域を置換することが可能となる。
【0164】
(5) LP形質転換
実施例1(5)と同様に、ドナー菌株としてRSD3株、レシピエント菌株としてE600NR株を用いてLP形質転換を行った。
【0165】
(6) 薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択
薬剤耐性を指標として形質転換体を選択した。まず、ドナー菌株であるRSD3株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(192株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD3株及びレシピエント菌株であるE600NR株の双方の逆位対象領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体59株を選択した。
【0166】
選択した形質転換体59株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、59株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD3ゲノムとレシピエント菌株E600NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0167】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD3とレシピエント菌株E600NRを用いた際の形質転換効率は、1.22 x 10-5であった。
【0168】
(7) 形質転換体における相同組換えに関するPCR確認
上記(6)で選択した形質転換体からゲノムDNAを抽出し、2つの10kb相同組換え領域(置換対象領域の外側の領域)の両端及び置換対象領域内部のテトラサイクリン耐性遺伝子両端のゲノム構造を確認するため、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyvfU RV2(配列番号26)とのプライマーセット、yxeA FW2(配列番号106)とtetr(配列番号105)とのプライマーセット、tetf(配列番号104)とyxeA RV2(配列番号107)とのプライマーセット、yxnB FW2(配列番号17)とspr(配列番号95)とのプライマーセット、spf(配列番号94)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvbT FW2(配列番号130)とyvbT RV2(配列番号131)とのプライマーセット、及びyxnA FW2(配列番号112)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行った。PCRの結果、上記各プライマーセットを用いることで、それぞれ予想通りに2.6kb、2.6kb、2.6kb、2.2kb、2.2kb、3.0kb及び3.0kbのDNA断片の増幅を確認した。
【0169】
また、図12には、ドナー菌株RSD3のゲノム構造及びレシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。図12において、上部に示したyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の領域が、ドナー菌株RSD3のゲノム構造を示す。また、下部には、レシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。
【0170】
形質転換体のゲノムDNAにおいて、図12に示すyvfU遺伝子−yxnB遺伝子間に位置するepr遺伝子及びvpr遺伝子について、表1に示したeprfw2(配列番号49)とeprrv-rep(配列番号48)とのプライマーセット及びvprfw2(配列番号84)とvprrv-rep(配列番号83)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRにより確認したところ、epr遺伝子及びvpr遺伝子の双方の遺伝子が欠失していることが確認された。従って、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域がドナー菌株であるRSD3株由来であることが確認された。
【0171】
さらに、図12に示すように、レシピエント菌株であるE600NR株の形質であるaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子が形質転換体のゲノムDNAに存在することを、表1に示したaprEfw2(配列番号89)とaprErv-rep(配列番号88)とのプライマーセット、mprfw2(配列番号64)とmprrv-rep(配列番号63)とのプライマーセット、wprAfw2(配列番号59)とwprArv-rep(配列番号58)とのプライマーセット、nprEfw2(配列番号79)とnprErv-rep(配列番号78)とのプライマーセット、nprBfw2(配列番号69)とnprBrv-rep(配列番号68)とのプライマーセット、及びbprfw2(配列番号74)とbprrv-rep(配列番号73)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRにより確認した。その結果、形質転換体のゲノムDNAにおいて、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間以外のゲノム領域についてはレシピエントであるE600NR株と同様であることが確認された。
【0172】
(8) speE遺伝子−yxnB遺伝子間(250kb)、及びyxjH遺伝子−yxnB遺伝子間(100kb)領域の置換
上記(2)〜(7)と同様にして、ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRとのLP形質転換及びドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRとのLP形質転換について、薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択及び形質転換体における相同組換えに関するPCR確認を行った。
【0173】
ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換では、ドナー菌株であるRSD2株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(192株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD2株及びレシピエント菌株であるE250NR株の双方の逆位対象領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体110株を選択した。選択した形質転換体110株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、110株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD2ゲノムとレシピエント菌株E250NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0174】
また、ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換効率は、2.97 x 10-5であった。
【0175】
一方、ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換では、ドナー菌株であるRSD1株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(178株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD1株及びレシピエント菌株であるE100NR株の双方の逆位変異領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体106株を選択した。選択した形質転換体106株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、106株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD1ゲノムとレシピエント菌株E100NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0176】
また、ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換効率は、2.36 x 10-5であった。
【0177】
図10に示すように、上記(2)〜(7)と同様にして、ドナー菌株としてRSD2株、レシピエント菌株としてE250NR株を用いた場合には、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びalbC遺伝子−speE遺伝子間の10kb領域に限定された領域での相同組換えの結果、speE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb領域の置換が起こることを確認した。さらに、得られた形質転換体のゲノムDNA中のプロテアーゼ遺伝子については、epr遺伝子及びvpr遺伝子は欠失しており、またaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子は存在することを確認した。
【0178】
さらに、図10に示すように、ドナー菌株としてRSD1株、レシピエント菌株としてE100NR株を用いた場合には、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びaldY遺伝子−yxjH遺伝子間の10kb領域に限定された領域での相同組換えの結果、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb領域の置換が起こることを確認した。さらに、得られた形質転換体のゲノムDNA中のプロテアーゼ遺伝子については、8種類全てが存在することを確認した(図12参照)。
【0179】
なお、上記形質転換体(ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRとの形質転換体、又はドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRとの形質転換体)のゲノムDNAにおいて、2つの10kb相同組換え領域の両端及び置換対象領域内部のテトラサイクリン耐性遺伝子両端のゲノム構造を確認するためのPCRにおいて使用した各プライマーを、上記(7)において形質転換体(ドナー菌株RSD3とレシピエント菌株E600NRとの形質転換体)のゲノムDNAにおいて、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域置換の確認に用いたプライマーと対応させて、以下の表7に示した。また、プロテアーゼ遺伝子有無の確認のために行ったPCRには、上記(7)で用いたものと同じプライマーを用いた。
【0180】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、NEO逆位変異システムを示す。
【図2】図2は、本発明に係る第1置換方法において、NEO逆位変異システムにより構築したドナー菌株とレシピエント菌株とのLP形質転換を模式的に示す。
【図3】図3は、本発明に係る第2置換方法において、NEO逆位変異システムにより構築したドナー菌株とレシピエント菌株とのLP形質転換を模式的に示す。
【図4】図4は、逆位変異用カセットを組込んだプラスミドpBNEC及びpBEOCの構築を示す。
【図5】図5は、実施例1におけるドナー菌株構築用基準株168EOC株の構築を示す。
【図6】図6は、EOC600R株の構築を示す。
【図7】図7は、epr遺伝子欠失株の構築を示す。
【図8】図8は、実施例1における各ドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR及びE50NRの逆位変異領域並びにレシピエント菌株ΔP8SPにて欠失されているプロテアーゼ遺伝子を示す。
【図9】図9は、実施例1における各供与体DNAにおける逆位変異領域、及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。
【図10】図10は、実施例2における各供与体DNAにおける逆位変異領域、各宿主DNAにおける逆位変異領域及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。
【図11】図11は、実施例2におけるドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRの置換しようとする領域近傍のゲノム構造を示す。
【図12】図12は、実施例2におけるドナー菌株RSD3のゲノム構造及びレシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
配列番号1〜131は、プライマーである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、逆位変異を利用した宿主DNAの一括置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形質転換方法としては、例えば、組換えプラスミドやDNA断片を大腸菌等の宿主に導入するコンピテントセル形質転換法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))が挙げられる。また、宿主に応じて、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム法及びリポフェクション法等によって、組換えプラスミドやDNA断片を宿主に形質転換することができる。
【0003】
しかしながら、以上のような従来の形質転換方法では、例えば、100kb以上の大きなサイズのDNA断片を、宿主DNA中に導入することが困難であった。
【0004】
そこで、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に導入すべく、LP(lysis of protoplasts)形質転換方法と呼ばれる形質転換方法が開発されている(非特許文献1及び2)。LP形質転換方法では、抽出したDNA断片や組換えプラスミドに代えて、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)の菌株の細胞壁を溶解させたプロトプラストを供与体DNAとして、レシピエント菌株のコンピテントセルに供与する。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出された供与体DNAがレシピエント菌株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。また、LP形質転換方法によれば、一般的な形質転換方法に比べて、導入すべきDNAの損傷は大幅に軽減する。LP形質転換方法を用いた場合には、100kb以上のDNA断片を、宿主DNAに導入することが比較的容易である。
【0005】
しかしながら、LP形質転換方法では、目的のDNA断片のサイズが大きくなるほど、プロトプラストの供与体DNAとレシピエント菌株の宿主DNAとの間の相同領域において、複数箇所で相同組換えが生じる可能性がある。すなわち、LP形質転換方法では、大きなサイズの目的のDNA断片を宿主DNAに正確に導入することが困難であった。
【0006】
そこで、形質転換方法として、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入する方法が望まれている。
【0007】
一方、例えば任意の枯草菌ゲノム領域を逆向きに変異させる方法(以下、「逆位変異方法」という)が開発されている(非特許文献3)。この逆位変異方法は、複製開始部位(oriC)と複製終結部位(terC)のゲノム上の相対的な位置関係がゲノムDNAの複製に及ぼす影響を解析する上で、それぞれの位置を大きく変化させた変異株の構築等への利用を目的として開発された技術である。あるいは、当該逆位変異方法は、ゲノム上に分散して存在する協働的に機能する遺伝子同士を隣接させる為の技術として、同一ゲノム内の改変を目的とした用途開発が為されている技術である。当該逆位変異方法によれば、枯草菌のゲノムDNA中の目的のDNA断片を逆位変異させることができる。
【0008】
【非特許文献1】T. Akamatsu及びJ. Sekiguchi, 「Archives of Microbiology」, 1987年, 第146巻, p.353-357
【非特許文献2】T. Akamatsu及びH. Taguchi, 「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」, 2001年, 第65巻,第4号, p.823-829
【非特許文献3】T. Todaら, 「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」, 1996年, 第60巻, 第5号, p.773-778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑み、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させた後に、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域によって正確に置換されること、また、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させた後に、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行うことで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域によって正確に置換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下を包含する。
【0012】
(1)供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させる第1工程と、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【0013】
(2)上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、(1)記載の宿主DNAの置換方法。
【0014】
(3)上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、(1)又は(2)記載の宿主DNAの置換方法。
【0015】
(4)上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0016】
(5)上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0017】
(6)供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる第1工程と、供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【0018】
(7)上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、(6)記載の宿主DNAの置換方法。
【0019】
(8)上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、(6)又は(7)記載の宿主DNAの置換方法。
【0020】
(9)上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、(6)〜(8)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0021】
(10)上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、(6)〜(9)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【0022】
(11)上記(1)〜(10)のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法で置換対象領域が置換された形質転換体。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に正確に導入することができる宿主DNAの置換方法が提供される。本発明に係る宿主DNAの置換方法では、置換対象領域間での相同組換えが生じることなく、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNA中に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る宿主DNAの置換方法は、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、その後、供与体DNAと宿主DNAとの間で置換対象領域の外側の領域における二重交差の相同組換えを行う方法である(以下、「第1置換方法」という)。また、本発明に係る宿主DNAの置換方法は、供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆異変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、その後、供与体DNAと宿主DNAとの間で置換対象領域の外側の領域における二重交差の相同組換えを行う方法である(以下、「第2置換方法」という)。第1置換方法及び第2置換方法における相同組換えは、供与体DNAの置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAの置換対象領域の外側の領域との間の一組の鎖間交換構造を形成することで生じる。第1置換方法及び第2置換方法によれば、宿主DNAと供与体DNAとの間の二重交差の相同組換えによって、宿主DNAの置換対象領域を供与体DNAの置換対象領域で置換することができる。以下では、本発明に係る第1置換方法と第2置換方法とを合わせて、「本発明に係る置換方法」と呼ぶ。
【0026】
ここで、置換対象領域とは、相同組換えによって置換される領域を意味する。従って、置換対象領域は、宿主DNA及び供与体DNAそれぞれに存在し、宿主DNAと供与体DNAとの間の相同組換え過程において一組の鎖間交換構造を形成する領域に挟まれる領域を意味する。なお、宿主DNAの置換対象領域及び供与体DNAの置換対象領域は、同一の塩基配列からなるものであっても良いし、異なる塩基配列を有するものであっても良い。例えば、供与体DNAの置換対象領域は、宿主DNAの置換対象領域の塩基配列に対して1〜数個の変異を導入した塩基配列からなるものであっても良いし、宿主DNAの置換対象領域に所定のDNA断片を導入したものであっても良い。なお、ここでいう変異とは、例えば、1〜数個の塩基が他の塩基に置換されたもの、1〜数個の塩基が欠失されたもの、1〜数個の塩基が付加されたもの、又は1〜数個の遺伝子等の連続した塩基配列が欠失されたものを示す。
【0027】
また、置換対象領域の外側の領域とは、一方の鎖を基準として、置換対象領域における3'末端側に続く領域と5'末端側に続く領域とを意味し、宿主DNAと供与体DNAとの間の相同組換え過程において一組の鎖間交換構造を形成する部位を含む領域を意味する。
【0028】
供与体DNAとは、宿主DNAに導入する目的の置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域とを有するDNAを意味する。供与体DNAとしては、DNA断片、ゲノムの全体若しくはその一部、プラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター、BAC(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 8242(1990))及びYAC(Science 236, 806 (1987))など、更にはプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミド、ファージDNA、ウイルスベクター、BAC及びYACなどにクローニングされたDNA断片やゲノムDNAの一部等が挙げられる。例えば、プラスミドとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET30bなどのpET系、pBR322およびpBR325などのpBR系、pUC118、pUC119、pUC18およびpUC19などのpUC系、pBluescript等)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13などのYEp系、YCp50などのYCp系等)などが挙げられる。またファージDNAとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)やPBS1ファージ(J. Bacteriol. 90, 1575 (1965))が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、カリフラワーモザイクウイルスなどの植物ウイルスベクター、またはバキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。さらに、本発明に係る置換方法において、以下に説明するLP形質転換方法を用いる場合には、例えば、枯草菌等の微生物自体を供与体DNAとして使用することができる。
【0029】
宿主DNAとは、供与体DNAの置換対象領域が導入される対象となる領域(置換対象領域)及び置換対象領域の外側の領域を有するDNAを意味する。宿主DNAとしては、所定の生物におけるゲノムDNA及びミトコンドリアDNA等を挙げることができる。宿主としては、枯草菌等のバチルス属、大腸菌等のエッシェリヒア属及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、COS細胞及びCHO細胞等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞、並びにイネ科(イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays))、アブラナ科(シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana))、ナス科(タバコ(Nicotiana tabacum)及びマメ科(ダイズ(Glycine max))等の植物が挙げられる。特に、枯草菌が好ましい。
【0030】
一方、本発明に係る置換方法では、宿主DNA及び供与体DNAの置換対象領域のサイズは、特に限定されないが、供与体DNAの置換対象領域のサイズは20kb以上のDNAサイズ、好ましくは20kb〜1000kb、より好ましくは20kb〜600kb、さらに好ましくは100kb〜600kb、特に好ましくは250kb〜600kbのDNAサイズとすることができる。一方、宿主DNAの置換対象領域のサイズは、供与体DNAの置換対象領域と同程度か、遺伝子領域の欠失等により小さくなっている場合には何ら問題はなく、また塩基配列の挿入等により供与体DNAの置換対象領域より大きくなっている場合にも問題は生じない。例えば、当該供与体DNAと宿主DNAとの間における置換対象領域間のサイズ差は、600kb以下、好ましくは250kb以下、より好ましくは100kb以下、特に好ましくは20kb以下とすることができる。
【0031】
本発明に係る第1置換方法では、先ず、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異させる。言い換えると、第1置換方法では、先ず、供与体DNAの置換対象領域及び宿主DNAの置換対象領域のうち、一方の置換対象領域が逆位変異した供与体DNA及び宿主DNAを準備する。
【0032】
本発明に係る第1置換方法では、次に、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させる。これにより、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で、一組の鎖間交換構造を形成することとなる。そして、供与体DNAと宿主DNAとの間で二重交差の相同組換えが生じ、供与体DNAの置換対象領域が宿主DNAの置換対象領域と置換されることとなる。
【0033】
第1置換方法において、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある場合、宿主DNAの置換対象領域と供与体DNAの置換対象領域とは互いに非相同であるため、相同組換えが生じる条件下にて、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある状態で供与体DNAと宿主DNAが近接したとしても、置換対象領域の内部に鎖間交換構造を形成することがない。従って、第1置換方法によれば、置換対象領域の外側の領域で相同組換えが生じたものを薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を利用して選択することにより、供与体DNAの置換対象領域を確実に宿主DNAの置換対象領域と置換することができる。また、第1置換方法によれば、置換対象領域が20kbp以上、特に600kbp以上といった長さを有する場合においても、置換対象領域内部に相同組換えが生じず、一括して確実に置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で置換することができる。
【0034】
さらに、本発明に係る第1置換方法では、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。当該選択マーカー遺伝子を利用することで、置換対象領域内部間や置換対象領域の外側の領域以外の相同部位間等の望ましくない箇所での相同組換えにより生じた形質転換体を除外し、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を確実に選択することができる。ここで、選択マーカー遺伝子としては、特に限定されるものではないが、例えば、薬剤耐性遺伝子(クロラムフェニコール耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子及びブラストサイジンS耐性遺伝子等)が挙げられる。さらに、栄養要求性に関連する遺伝子の欠損等を選択マーカー遺伝子として使用することが可能である。供与体DNA又は宿主DNAにおける選択マーカー遺伝子の存在位置は、選択の方法に応じて、適宜決定することができる。
【0035】
例えば、供与体DNAの置換対象領域内部又は置換対象領域末端に薬剤耐性遺伝子が存在する場合には、当該薬剤耐性を指標に供与体の置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。一方、宿主DNAの置換対象領域内部又は置換対象領域末端に薬剤耐性遺伝子が存在する場合には、当該薬剤感受性を指標に、供与体の置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。
【0036】
あるいは、以下に説明するLP形質転換方法を利用する場合、供与体DNAであるプロトプラスト溶液中に完全にはプロトプラスト化していない細胞が含まれることがある。そのため、供与体DNAに含まれる選択マーカー遺伝子のみを指標として形質転換体の選択を試みると、ドナー菌株そのものが選択されてしまうことがある。そこで、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に存在させた選択マーカー遺伝子による選択を組み合わせることで、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換された形質転換体を確実に選択することが出来る。また宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を存在させることで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていない形質転換体を選択することができる。特に、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に選択マーカー遺伝子を存在させると共に供与体DNAの適切な位置に選択マーカー遺伝子を存在させることが好ましい。供与体DNAの選択マーカー遺伝子を存在させる位置は、置換対象領域の内部又は末端が好ましく、特に末端が好ましい。
【0037】
本発明に係る第1置換方法に使用することができる逆位変異方法としては、例えば、NEO逆位変異システム(非特許文献3)、及びその応用としてテトラサイクリン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子またはブラストサイジンS耐性遺伝子等をNEO逆位変異システムにおけるネオマイシン耐性遺伝子の代わりに用いる方法、またtrpC2(Microbiology 145, 3319 (1999))の様な栄養要求性変異株においては栄養要求性を相補する遺伝子(trpC等)を利用する方法が挙げられる。
【0038】
以下に枯草菌ゲノムDNAを対象としたNEO逆位変異システムを図1に基づいて説明する。
【0039】
図1に示すように、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子の前部領域(N; 470bp)及び中部領域(E; 521bp)からなるNEカセットと、中部領域(E)及び後部領域(O; 323bp)からなるEOカセットとを利用して、枯草菌ゲノムDNAの特定領域を逆位変異させることができる。なお、図1に示すように、NEカセット及びEOカセットには、ネオマイシン耐性遺伝子以外の薬剤耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em))を組み込むことができる。薬剤耐性遺伝子を組み込むことで、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体を、薬剤耐性を指標として選択することができる。
【0040】
NEO逆位変異システムでは、枯草菌ゲノムDNAにおいて、逆位変異させようとする領域(以下、「逆位変異対象領域」という)(本発明では置換対象領域に相当する)の複製開始点(ori)から遠い側の末端にEOカセットを中部領域(E)が該逆位変異対象領域と直結するように挿入する。一方、枯草菌ゲノムDNAにおいて、該逆位変異対象領域のoriから近い側の末端にNEカセットを前部領域(N)が直結するように挿入する。なお、枯草菌ゲノムDNAにEOカセット又はNEカセットを挿入する方法としては、EOカセット又はNEカセットを有するプラスミドやPCRによって調製したEOカセット又はNEカセットを含むDNA断片を用いた、例えば、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))またはエレクトロポレーション法(FEMS Microbiol. Lett. 55, 135 (1990))が挙げられる。また、上述したように、NEカセット又はEOカセットに薬剤耐性遺伝子を組み込むことで、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体を、薬剤耐性を指標として選択することができる。以上のように構築した枯草菌自体は、ネオマイシン耐性遺伝子が不完全な状態で存在するため、ネオマイシン感受性である。次いで、枯草菌ゲノムDNAにおいてゲノム内相同組換えを誘導することにより、NEカセットの前部領域(E)とEOカセットの前部領域(E)との間で相同組換えが起こる。当該ゲノム内相同組換えにより、逆位変異対象領域が元の配列と完全に逆向きになると同時に、完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが形成される。得られた逆位変異体は、ネオマイシン耐性を指標に選択することができる。
【0041】
以上のような方法により、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異することができる。
【0042】
次いで、本発明に係る第1置換方法では、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させ、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で二重交差の相同組換えを生じさせ、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNAの置換対象領域と置換する。ここで、相同組換えが生じる条件下とは、宿主が本来的に有している組換え反応に関与する酵素等の機能を失っていない状態を意味する。供与体DNAと宿主DNAとの間の組換え方法としては、例えば、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol. Lett. 55, 135 (1990))またはLP形質転換方法(非特許文献1及び2)が挙げられる。この中でもプロトプラスト化した細胞を供与体DNAとしてコンピテントセル形質転換を行うLP形質転換方法が特に好ましい。LP形質転換方法によれば、一般的な形質転換方法に比べて、供与体DNAの損傷を大幅に軽減することができる。
【0043】
例示として、枯草菌間における、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAと宿主DNAとのLP形質転換を、図2に基づいて説明する。
【0044】
図2に示すように、上述したNEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAには、逆位変異した置換対象領域と完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが存在する。さらに、例えば、NEカセットにクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)が組み込まれ、またEOカセットにエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が組み込まれていた場合には、供与体DNAには、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が存在する。
【0045】
一方、図2に示すように、宿主DNAには、供与体DNAに存在する薬剤耐性遺伝子とは異なる薬剤耐性遺伝子(例えば、スペクチノマイシン耐性遺伝子(Sp))を存在させることができる。
【0046】
供与体DNAを有するドナー菌株を用いた宿主DNAを有するレシピエント菌株に対するLP形質転換では、まずドナー菌株からプロトプラストを調製する。ドナー菌株からのプロトプラストの調製は、Changらの方法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))に従って以下のように行うことができる。
【0047】
ドナー菌株を、LB培地において37℃で、例えば生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養する。振盪培養後、培養液から遠心分離によって集めた菌体を、4mg/mLリゾチーム (Sigma)を含むSMMP(3.50% Antibiotic Medium3 (Difco)、17.15% スクロース、0.16% マレイン酸二ナトリウム、0.20% 塩化マグネシウム6水和物、0.10% ウシ血清アルブミン (pH6.5に調整))緩衝液に懸濁し、37℃で1〜2時間インキュベーションする。インキュベーション後、遠心分離によってプロトプラストを集めてSMMP緩衝液に再懸濁する。さらに、形質転換効率及び置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じる危険性を考慮して、適宜、その懸濁液を濃縮又は希釈することができる。例えば、再懸濁後の上記懸濁液をSMMP緩衝液で1〜100倍(例えば10倍)濃縮、又は1〜1,000,000倍(例えば10倍)希釈したものを、プロトプラスト懸濁液として使用することができる。一般的には、得られた再懸濁後の上記懸濁液をSMMP緩衝液で1〜100倍希釈したものをプロトプラスト懸濁液として使用することできる。
【0048】
一方、レシピエント菌株は、例えば、Anagnostopoulosらの方法(J.Bacteriol. 81, 741 (1961))に従って以下のように行うことができる。
【0049】
レシピエント菌株を、SPI培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.02% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.25μM 塩化マンガン、50μg/ml トリプトファン)において37℃で、例えば生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養する。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地(0.20% 硫酸アンモニウム、1.40% リン酸水素二カリウム、0.60% リン酸二水素カリウム、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50% グルコース、0.01% カザミノ酸 (Difco)、5mM 硫酸マグネシウム、0.40μM 塩化マンガン、5μg/ml トリプトファン)に接種し、更に例えば生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することで、レシピエント菌株からコンピテントセルに誘導することができる。
【0050】
次いで、プロトプラスト懸濁液を、レシピエント菌株のコンピテントセルに添加する。添加するプロトプラスト懸濁液量は特に限定されないが、レシピエント菌株のコンピテントセルに対して1/10000〜10倍、好ましくは1/10〜1倍とすることができる。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出された供与体DNAがレシピエント菌株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。
【0051】
以上のようにドナー菌株とレシピエント菌株との間でLP形質転換が行われると、供与体DNAと宿主DNAとが近接することとなる。また、レシピエント菌株が本来的に有している相同組換えに関与する酵素の作用によって、供与体DNA及び宿主DNAに存在する置換対象領域の外側の領域間で一組の鎖間交換構造が形成され、二重交差の相同組換えが生じる(図2では、相同組換えの態様を点線で示す)。その結果、宿主DNA中の置換対象領域が、供与体DNA中の逆位変異した置換対象領域に置換される。形質転換体は、供与体DNAの逆位変異した置換対象領域の末端に挿入した薬剤耐性遺伝子(図2では、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)、エリスロマイシン耐性遺伝子(Em))又はNEO逆位変異システムにより挿入したネオマイシン耐性遺伝子に基づく薬剤耐性を指標に選択することができる。また、図2に示すように、宿主DNAに存在する他の薬剤耐性遺伝子(例えば、スペクチノマイシン耐性遺伝子)に基づく薬剤耐性により、ドナー菌株自体を排除し、且つ形質転換体のDNA(すなわち、宿主DNA)において、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。あるいは、形質転換体における相同組換えは、逆位変異した置換対象領域を対象としたPCRを行うことで確認することができる。
【0052】
一方、宿主DNA又は供与体DNAにおいて、LP形質転換前に予め置換対象領域外の遺伝子を欠失させておく。次いで、LP形質転換後、形質転換体のDNAにおいて、欠失した遺伝子の存在の有無をPCRにおいて確認することで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。
【0053】
また、供与体DNAによるレシピエント菌株の形質転換効率は、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価することができる。
【0054】
なお、宿主DNAの置換対象領域を逆位変異した場合には、ドナー菌株とレシピエント菌株のLP形質転換により、宿主DNAの逆位変異した置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換される。この場合、得られた形質転換体のDNAにおいて、供与体DNA由来の置換対象領域は、本来の配向で置換されることとなる。
【0055】
本発明に係る第2置換方法では、先ず、供与体DNA及び宿主DNAのうち一方の置換対象領域を逆位変異させ、他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる。言い換えると、第2置換方法では、先ず、置換対象領域が逆位変異した供与体DNAと、置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域が逆位変異した宿主DNAとを準備する。或いは、第2置換方法では、先ず、置換対象領域が逆位変異した宿主DNAと、置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域が逆位変異した供与体DNAとを準備する。
【0056】
本発明に係る第2置換方法では、次に、第1置換方法と同様に、相同組換えが生じる条件下に供与体DNAと宿主DNAとを近接させる。これにより、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間で、一組の鎖間交換構造を形成することとなる。そして、供与体DNAと宿主DNAとの間で二重交差の相同組換えが生じ、供与体DNAの置換対象領域が宿主DNAの置換対象領域と置換されることとなる。
【0057】
第2置換方法において、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある場合、宿主DNAの置換対象領域と供与体DNAの置換対象領域とは非相同であり、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域と供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域とは非相同であるため、相同組換えが生じる条件下にて、置換対象領域の外側の領域が互いに相同な位置関係にある状態で供与体DNAと宿主DNAが近接したとしても、置換対象領域の内部及び置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域に鎖間交換構造を形成することがない。換言すれば、第2置換方法では、供与体DNAにおける置換対象領域の外側の領域と、宿主DNAにおける置換対象領域の外側の領域との間のみが相同となり、限定された置換対象領域の外側の領域で鎖間交換構造を形成することとなる。
【0058】
さらに、本発明に係る第2置換方法においては、第1置換方法と同様に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択することができる。供与体DNA又は宿主DNAにおける選択マーカー遺伝子の存在位置は、第1置換方法と同様に、選択の方法に応じて、適宜決定することができる。特に、宿主DNAの置換対象領域及び置換対象領域の外側の領域以外の位置に選択マーカー遺伝子を存在させると共に供与体DNAの適切な位置に選択マーカー遺伝子を存在させることが好ましい。供与体DNAの選択マーカー遺伝子を存在させる位置は、置換対象領域の内部又は末端が好ましく、特に末端が好ましい。
【0059】
従って、第2置換方法によれば、限定された置換対象領域の外側の領域で相同組換えが生じたものを薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を利用して選択することにより、供与体DNAの置換対象領域を確実に宿主DNAの置換対象領域と置換することができる。また、第2置換方法によれば、置換対象領域が20kbp以上、特に600kbp以上といった長さを有する場合においても、第1置換方法と同様に、置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で一括して確実に置換することができる。第2置換方法で使用することができる逆位変異方法は、上述した本発明に係る第1置換方法で使用することができるものと同様であってよい。なお、本発明に係る第2置換方法において、逆位変異の対象となる置換対象領域の外側の領域のDNAサイズは、各端0.15kb〜500kb、より好ましくは0.5kb〜500kb、更に好ましくは0.5kb〜20kbであり、特に0.5kb〜10kbとすることが好ましい。逆位変異の対象となる置換対象領域の外側の領域が上記範囲のDNAサイズを有することで、置換対象領域を供与体DNAと宿主DNAとの間で一括して確実に置換することができる。
【0060】
本発明に係る第2置換方法における供与体DNAと宿主DNAとの間の組換え方法としては、上述した本発明に係る第1置換方法で使用する組換え方法と同様であってよい。特にLP形質転換方法が好ましい。
【0061】
例示として、図3は、本発明に係る第2置換方法において、枯草菌間における、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNAと宿主DNAとのLP形質転換を模式的に示す。なお、図3において、置換対象領域の外側の領域を「隣接領域(L)」及び「隣接領域(R)」と表記する。
【0062】
図3では、供与体DNAにおいて、NEO逆位変異システムにより置換対象領域並びに隣接領域(L)及び隣接領域(R)が逆位変異されている。一方、宿主DNAにおいて、NEO逆位変異システムにより置換対象領域が逆位変異されている。さらに、NEO逆位変異システムにより構築した供与体DNA及び宿主DNAには、完全なネオマイシン耐性遺伝子NEOが存在する。また、例えば、NEカセットにクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)が組み込まれ、またEOカセットにエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が組み込まれていた場合には、供与体DNA及び宿主DNAには、それぞれクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子(Em)が存在する。さらに、供与体DNAには、これらの薬剤耐性遺伝子と異なる薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子(Tc)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(Sp)等)を、例えば置換対象領域中又は置換対象領域と当該置換対象領域の外側の領域との間に導入することができる。
【0063】
以上のような供与体DNAを有するドナー菌株と宿主DNAを有するレシピエント菌株との間でLP形質転換を行う場合、供与体DNAにおいて、置換対象領域中又は置換対象領域と当該置換対象領域の外側の領域との間に存在する薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子等)に基づく薬剤耐性を指標に、形質転換体を選択する。選択後、さらに得られた形質転換体より、例えばNEO逆位変異システムを利用した場合には、NEカセット又はEOカセットを導入した形質転換体の選択の際の指標となったクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)及びエリスロマイシン耐性遺伝子、及び/又はNEO逆位変異システムにより導入されたネオマイシン耐性遺伝子の欠失に伴う薬剤感受性を指標とした選択を行う。以上のような薬剤耐性又は薬剤感受性を指標とする選択により、図3に示すように、供与体DNA及び宿主DNAに存在する隣接領域(L)及び(R)で鎖間交換構造が形成され、二重交差の相同組換えが生じた形質転換体を選択することが出来る(図3では、相同組換えの態様を点線で示す)。その結果、宿主DNA中の逆位変異した置換対象領域が、供与体DNA中の逆位変異した置換対象領域に置換される。得られた形質転換体のDNA(すなわち、宿主DNA)では、供与体DNA由来の置換対象領域は、本来の配向で置換されている。このように、本発明に係る第2置換方法では、供与体DNAにおいて、置換対象領域に加えて、置換対象領域の外側の領域も逆位変異させることで、相同組換えが生じる位置を当該置換対象領域の外側の領域に限定することができる。また、第2置換方法によれば、供与体DNA由来の置換対象領域を、本来の配向で導入することができる。
【0064】
また、形質転換体において目的の相同組換えが生じたことは、供与体DNA由来の置換対象領域を対象としたPCRを行うことで確認することができる。
【0065】
さらに、宿主DNA又は供与体DNAにおいて、予め置換対象領域の外側の領域より更に外側の領域に存在する遺伝子を欠失させておく。次いで、LP形質転換後、形質転換体のDNAにおいて、欠失した遺伝子の存在の有無をPCRにおいて確認することで、置換対象領域の外側の領域以外の箇所で相同組換えが生じていないことを確認することができる。
【0066】
一方、本発明に係る第2置換方法では、同様に、宿主DNAの置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNAの置換対象領域を逆位変異させることで、薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー遺伝子を指標とした選択を組み合わせることにより、相同組換えが生じる位置を当該置換対象領域の外側の領域に限定することができる。
【0067】
以上のように説明した本発明に係る置換方法によれば、大きなサイズのDNA断片を宿主DNA中に一括して確実に導入することができる。また、本発明に係る置換方法では、置換対象領域内部での相同組換えが生じることなく、供与体DNAの置換対象領域を宿主DNA中に導入することができる。
【0068】
特に、本発明に係る第2置換方法では、相同組換えが生じる位置を、置換対象領域の外側の領域に限定することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下の本実施例におけるDNA断片増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)には、GeneAmp PCR System(アプライドバイオシステムズ)を使用し、PyrobestDNA Polymerase(タカラバイオ)と付属の試薬類を用いてDNA増幅を行った。PCRの反応液組成は、適宜希釈した鋳型DNAを1μL、センス及びアンチセンスプライマーを各々20pmol及びPyrobestDNA Polymeraseを2.5U添加して、反応液総量を50μLとした。PCRの反応条件は、98℃で10秒間、55℃で30秒間及び72℃で1〜5分間(目的増幅産物に応じて調整。目安は1kbあたり1分間)の3段階の温度変化を30回繰り返した後、72℃で5分間反応させることにより行った。なお、PCRにおいて用いたプライマーは、以下の表1に示すプライマーである。
【0071】
【表1】
【0072】
さらに、以下の実施例において、遺伝子の上流・下流とは、複製開始点からの位置ではなく、上流とは各操作・工程において対象として捉えている遺伝子の開始コドンの5’側に続く領域を示し、一方、下流とは各操作・工程において対象として捉えている遺伝子の終始コドンの3’側に続く領域を示す。
【0073】
なお、以下の実施例における各遺伝子及び遺伝子領域の名称は、Nature, 390, 249-256, (1997) で報告され、JAFAN: Japan Functional Analysis Network for Bacillus subtilis(BSORF DB)でインターネット公開(http://bacillus.genome.ad.jp/、2004年3月10日更新)された枯草菌ゲノムデータに基づいて記載している。
【0074】
〔実施例1〕本発明に係る第1置換方法−ドナー菌株(供与体DNA)のゲノム上置換対象領域を逆位変異させた場合
(1) ドナー菌株(E600NR、E250NR、E100NR及びE50NR)の構築
1−1. 逆位変異用カセットプラスミドpBNEC及びpBEOCの構築
図4に示すように、逆位変異用カセットを組込んだプラスミドpBNEC及びpBEOCを以下のように構築した。
【0075】
プラスミドpUB110(Plasmid 15, 93 (1986))を鋳型とし、表1に示したrneof-SE(配列番号1)及びrepUr-Nm(配列番号2)のプライマーセットを用いて、repU遺伝子のプロモーター(Nucleic Acids Res. 17, 4410 (1989))を含む領域(rep断片)(0.4kb)をPCRによって調製した。また、プラスミドpUB110を鋳型とし、表1に示したNmUf-rep(配列番号3)及びNer-XH(配列番号4)のプライマーセットを用いて、ネオマイシン耐性遺伝子の前中部領域(nE断片)(0.6kb)をPCRによって調製した。次いで、得られたrep断片とnE断片とを混合して鋳型とし、上記プライマーrneof-SE(配列番号1)及びNer-XH(配列番号4)を用いたSOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene 77, 61 (1989))を行うことによって、repU遺伝子のプロモーター領域の下流にnE断片が連結したNE断片(1.0kb)を調製した。
【0076】
さらに、プラスミドpC194 (J. Bacteriol. 150 (2) 815 (1982))を鋳型とし、表1に示したcatf-XH(配列番号5)及びcatr-SL(配列番号6)のプライマーセットを用いてクロラムフェニコール耐性遺伝子Cm断片(0.9kb)をPCRによって調製した。
【0077】
次いで、NE断片をSpeI及びXhoIで、Cm断片をXhoI及びSalIでそれぞれ制限酵素処理した後、pBluescript II SK(+)(Stratagene)のSpeI-SalI制限酵素部位に挿入して、プラスミド上でNE断片とCm断片とが隣接するNEカセットプラスミドpBNECを構築した。
【0078】
一方、プラスミドpMutinT3 (Microbiology 144, 3079 (1998))を鋳型とし、表1に示したemf2-SE(配列番号7)及びemr2-XH(配列番号8)のプライマーセットを用いて、エリスロマイシン耐性遺伝子Em断片(1.3kb)をPCRによって調製した。また、プラスミドpUB110を鋳型とし、表1に示したEOf-XH(配列番号9)及びneor-SL(配列番号10)のプライマーセットを用いて、ネオマイシン耐性遺伝子の中後部領域EO断片(0.8kb)をPCRによって調製した。
【0079】
次いで、Em断片をSpeI及びXhoIで、EO断片をXhoI及びSalIでそれぞれ制限酵素処理した後、pBluescript II SK(+)(Stratagene)のSpeI-SalI制限酵素部位に挿入して、プラスミド上でEm断片とEO断片とが隣接するEOカセットプラスミドpBEOCを構築した。
【0080】
1−2. ドナー菌株構築用基準株168EOC株の構築
図5に示すように、ドナー菌株構築の際の基準株を以下のように構築した。
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB FW(配列番号11)及びyxnB/Em R(配列番号12)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(A)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB/Ne F(配列番号13)及びyxnB RV(配列番号14)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(B)をPCRにより増幅した。
【0081】
一方、EOカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したemf2(配列番号15)及びneor(配列番号16)のプライマーセットを用いて、2.1kbのEOカセット(C)をPCRにより調製した。
【0082】
次に、得られた1.0kb断片(A)、1.0kb断片(B)及びEOカセット(C)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnB FW2(配列番号17)及びyxnB RV2(配列番号18)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が、1.0kb断片(A)、EOカセット(C)、1.0kb断片(B)の順に含まれる4.1kbのPCR断片を得た。
【0083】
さらに、コンピテントセル形質転換法(J. Bacterial. 93, 1925 (1967))によって、得られたPCR断片を用いて、枯草菌168株の形質転換を行った。形質転換後、エリスロマイシン(2μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0084】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnB遺伝子が欠失し、相同組換えによりyxnB遺伝子がEOカセット(C)に置換していることを確認した。以上のように、枯草菌におけるゲノムDNAのyxnB遺伝子部位にEOカセット(C)を挿入した168EOC株を構築した。
【0085】
1−3. ドナー菌株E600NRの構築
図6に示すように、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyvfU FW(配列番号19)及びyvfU/Cm3 R(配列番号20)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyvfU遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(D)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、yvfU/Ne5 F(配列番号21)及びyvfU RV(配列番号22)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyvfU遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(E)をPCRにより増幅した。
【0086】
一方、NEカセットプラスミドpBNECを鋳型として、表1に示したrneof(配列番号23)及びcatr(配列番号24)のプライマーセットを用いて、1.9kbのNEカセット(F)をPCRにより調製した。
【0087】
次に、得られた1.0kb断片(D)、1.0kb断片(E)及びNEカセット(F)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)及びyvfU RV2(配列番号26)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が1.0kb断片(D)、NEカセット(F)及び1.0kb断片(E)の順に含まれる3.9kbのPCR断片を得た。
【0088】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記1-2で得られた枯草菌168EOC株の形質転換を行った。形質転換後、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0089】
得られたクロラムフェニコール耐性株のゲノムDNAを抽出し、PCRにより168EOC株のyvfU遺伝子が欠失し、相同組換えによりyvfU遺伝子がNEカセット(F)で置換されていることを確認した。この株をEOC600Rと命名した。
【0090】
次に、EOC600R株を、1mLのLB培地において37℃で4時間振盪培養した。振盪培養後、得られた培養液100μLを、ネオマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天培地に塗沫し、生育したコロニーを分離した。
【0091】
得られたネオマイシン耐性株のゲノムDNAを抽出し、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyxnB FW2(配列番号17)とのプライマーセット、yvfU RV2(配列番号26)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvfU FW2(配列番号25)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセットをそれぞれ用いて、PCRを行った結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅できた。これらのDNA断片は逆位変異する前のEOC600R株では増幅できなかった。
【0092】
以上の結果から、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域(置換対象領域)が逆位変異されたことが確認された。得られた逆位変異体をE600NRと命名し、後述のゲノム大領域一括置換実験におけるドナー菌株として使用した。なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、E600NRの構築の際の逆位変異効率は、8.33 x 10-7であった。
【0093】
1−4. ドナー菌株E250NR、E100NR及びE50NRの構築
E600NRと同様にして、逆位変異体E250NR(250kbゲノム領域を逆位変異)、E100NR(100kbゲノム領域を逆位変異)及びE50NR(50kbゲノム領域を逆位変異)を構築し、それぞれ後述のゲノム大領域一括置換実験におけるドナー菌株として使用した。E250NRでは、speE遺伝子-yxnB遺伝子間の250kbのゲノム領域が逆位変異されている。E100NRでは、yxjH遺伝子-yxnB遺伝子間の100kbのゲノム領域が逆位変異されている。また、E50NRでは、hutM遺伝子-yxnB遺伝子間の50kbのゲノム領域が逆位変異されている。
【0094】
逆異変異体E250NR、E100NR及びE50NRの構築は、上記1−3で説明したE600NRの構築と同様に行った。なお、表2において、各逆異変異体を構築する上で使用したプライマーを、E600NRの構築に使用したプライマーと対応させて示した。
【0095】
【表2】
【0096】
また、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、E250NR、E100NR及びE50NRの構築の際の逆位変異効率は、それぞれ1.60 x 10-6、1.75 x 10-6及び1.99 x 10-6であった。
【0097】
(2) レシピエント菌株(宿主DNA)の構築
レシピエント菌株構築の親株としては、枯草菌の細胞外プロテアーゼをコードする8種類の遺伝子(aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr、wprA)を欠失させたプロテアーゼ遺伝子8重欠失株を用いた。以下に各プロテアーゼ遺伝子を順次欠失させ、プロテアーゼ遺伝子8重欠失株(ΔP8)を構築した工程、及び構築したΔP8のゲノム上のamyE遺伝子をスペクチノマイシン耐性遺伝子で置換し、レシピエント菌株を構築した工程について説明する。
【0098】
2−1. プロテアーゼ8重欠失株の構築
(a) epr遺伝子欠失用プラスミドの構築
図7に示すように、枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表1に示したeprfw1(配列番号45)及びeprUpr(配列番号46)のプライマーセットを用いて、ゲノム上のepr遺伝子の上流に隣接する0.6kb断片(G)をPCRにより調製した。また、上記ゲノムDNAを鋳型とし、表1に示したeprDNf(配列番号47)及びeprrv-rep(配列番号48)のプライマーセットを用いて、ゲノム上のepr遺伝子の下流に隣接する0.5kb断片(H)をPCRにより調製した。
【0099】
一方、プラスミドpC194(J. Bacteriol. 150 (2), 815 (1982))由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子の上流にプラスミドpUB110(Plasmid 15, 93 (1986))由来のrepU遺伝子のプロモーター領域(Nucleic Acids Res. 17, 4410 (1989))を連結した1.2kb断片のCmカセット(I)を調製した。
【0100】
次に、得られた0.6kb断片(G)、0.5kb断片(H)及びCmカセット(I)の3断片を混合して鋳型とし、表1のプライマーeprfw2(配列番号49)及びCmrv2(配列番号50)を用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が0.6kb断片(G)、0.5kb断片(H)及びCmカセット(I)の順に結合した2.2kbのDNA断片を得た。このDNA断片の末端を平滑化及び5’-リン酸化し、プラスミドpUC118(Methods Enzymol. 153, 3 (1987))のSmaI制限酵素部位に挿入して、epr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprを構築した。
【0101】
なお、上記1.2kb断片Cmカセット(I)は、表1のrepUfw(配列番号51)及びrepUr-Cm(配列番号52)のプライマーセット並びに鋳型としてプラスミドpUB110を用いたPCRにより調製したrepU遺伝子プロモーター領域を含む0.4kb断片(J)と、表1のCmUf-rep(配列番号53)及びCmrv1(配列番号54)のプライマーセット並びに鋳型としてプラスミドpC194を用いたPCRにより調製したクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む0.8kb断片(K)とを混合して鋳型とし、表1に示したプライマーrepUfw(配列番号51)及びCmrv1(配列番号54)を用いたSOE-PCRを行うことによって調製した。
【0102】
(b) 欠失用プラスミドによるepr遺伝子欠失株の構築
図7に示すように、コンピテントセル形質転換法(J. Bacteriol. 93, 1925 (1967))によって、上記(a)にて構築したepr遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔeprを枯草菌168株に導入し、epr遺伝子上流領域又は下流領域の相当する領域間での一重交差の相同組換えによりゲノムDNAと融合した形質転換株を、クロラムフェニコール耐性を指標に取得した。
【0103】
得られた形質転換株をLB培地に接種し、37℃にて2時間培養した後、再度、コンピテンス誘導操作を行うことにより、ゲノム上で重複して存在するepr遺伝子上流領域または下流領域の間におけるゲノム内相同組換えを誘導した。
【0104】
図7に示すように、プラスミド導入の際と異なる領域で相同組換えが起こった場合、プラスミドに由来するクロラムフェニコール耐性遺伝子及びpUC118ベクター領域の脱落に伴ってepr遺伝子が欠失することになる。
【0105】
次に、クロラムフェニコール感受性となった株の存在比率を高めるため、以下の要領でアンピシリン濃縮操作を行った。
【0106】
コンピテントセル誘導後の培養液を、終濃度5ppmのクロラムフェニコール及び終濃度100ppmのアンピシリンナトリウムを含むLB培地1mLに、600nmにおける濁度(OD600)が0.003になるように接種した。37℃にて5時間培養後、培養液を含む混合液に、10,000ppmのアンピシリンナトリウム水溶液を10μL添加して、さらに3時間培養した。培養終了後、2%塩化ナトリウム水溶液にて菌体を遠心洗浄した後、1mLの2%塩化ナトリウム水溶液に菌体を懸濁し、懸濁液100μLをLB寒天培地に塗沫した。懸濁液を塗沫した培地を、37℃にて約15時間インキュベーションした。インキュベーション後、生育した菌株のうち、プラスミド領域の脱落に伴ってクロラムフェニコール感受性となったものを選抜した。
【0107】
選抜した菌株のゲノムDNAを鋳型とし、表1に示すプライマーeprfw2(配列番号49)及びeprrv-rep(配列番号48)を用いたPCRを行うことにより、epr遺伝子欠失の確認を行い、epr遺伝子欠失株を取得した。
【0108】
(c) その他のプロテアーゼ遺伝子の欠失
上記(b)にて構築したepr遺伝子欠失株に対し、次の欠失としてwprA遺伝子の欠失をepr遺伝子欠失と同様に行った。即ち、上記(a)と同様にして、wprA遺伝子欠失用プラスミドpUC118-CmrΔwprAを構築し、構築したプラスミドのゲノムDNAへの導入と、それに続くゲノム内相同組換えによるwprA遺伝子の欠失によりepr遺伝子とwprA遺伝子の2重欠失株を取得した。以降同様の操作を繰り返すことにより、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprEの各遺伝子を順次欠失させ、最終的に8種類のプロテアーゼ遺伝子が欠失したプロテアーゼ8重欠失株ΔP8を構築した。
【0109】
各遺伝子欠失を行う際に用いたプライマーの配列は表1に示されている。また表3において、各遺伝子を欠失させる際に使用したプライマーを、上記(a)及び(b)にてepr遺伝子欠失に用いたプライマーと対応させて示した。
【0110】
【表3】
【0111】
2−2. スペクチノマイシン耐性遺伝子によるamyE遺伝子の置換
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したamyE FW(配列番号90)及びamyE/Sp R(配列番号91)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のamyE遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(L)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したamyE/Sp F(配列番号92)及びamyE RV(配列番号93)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のamyE遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(M)をPCRにより増幅した。
【0112】
一方、プラスミドpDG1727(Gene, 167, 335, (1995))DNAを鋳型として、表1に示したspf(配列番号94)及びspr(配列番号95)のプライマーセットを用いて、1.2kbのスペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)をPCRにより調製した。
【0113】
次に、得られた1.0kb断片(L)、1.0kb断片(M)及びスペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したamyE FW2(配列番号96)及びamyE RV2(配列番号97)のプライマーセットを用いたSOE-PCRを行うことによって、3断片が1.0kb断片(L)、スペクチノマイシン耐性遺伝子領域(N)及び1.0kb断片(M)の順に含まれる3.2kbのPCR断片を得た。
【0114】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、プロテアーゼ8重欠失株ΔP8の形質転換を行い、スペクチノマイシン(100μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0115】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってamyE遺伝子が欠失し、相同組換えによってamyE遺伝子がスペクチノマイシン耐性遺伝子に置換していることを確認した。以上のようにして、レシピエント菌株ΔP8SPを構築した。
【0116】
(3) ドナー菌株とレシピエント菌株との間のゲノムDNAにおける相同領域についての説明
ゲノムDNAにおける、各ドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR及びE50NRの逆位変異領域並びにレシピエント菌株ΔP8SPにて欠失されているプロテアーゼ遺伝子の模式図を図8に示した。図8において、四角で囲まれた、枯草菌の細胞外プロテアーゼをコードする8種類の遺伝子(aprE、nprB、nprE、bpr、vpr、mpr、epr、wprA)がレシピエント菌株ΔP8SPにおいて欠失されている。
【0117】
図8に示すように、上記(1)にて構築したドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR又はE50NRと上記(2)で構築したレシピエント菌株ΔP8SPとの間では、レシピエント菌株ΔP8SPに対して、それぞれドナー菌株のゲノム上において、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kb(E600NR)、speE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb(E250NR)、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb(E100NR)又はhutM遺伝子−yxnB遺伝子間の50kb(E50NR)の領域が逆向きになっており、一方各領域の外側(置換対象領域の外側の領域)については完全に相同な領域である。即ち、ドナー菌株とレシピエント菌株との間では、各領域の外側の領域で相同組換えを起こさせることにより、相互に逆向きの領域については一括して確実に置換することが可能である。この際、ドナー菌株側の当該領域の末端に挿入した選択マーカー遺伝子を利用した選択を行うことにより、効率的に目的とするゲノム大領域が一括置換された菌株を得ることができる。
【0118】
以下(4)〜(7)の節では、特にドナー菌株E600NRに基づいて説明する。
【0119】
(4) ドナー菌株からのプロトプラストの調製
ドナー菌株からのプロトプラストの調製は、Changらの方法(Mol. Gen. Genet. 168, 111 (1979))に従って以下のように行った。
【0120】
ドナー菌株E600NRをLB培地にて生育度(OD600)の値が1程度になるまで37℃で振盪培養した。振盪培養後、培養液1mLから遠心分離によって集めた菌体を20mg/mL リゾチーム (Sigma)を含む 0.5mLのSMMP緩衝液に懸濁し、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、遠心分離によってプロトプラストを集めて0.5mL SMMP緩衝液に再懸濁した。更にその懸濁液をSMMP緩衝液で10倍希釈し、形質転換に使用した。
【0121】
(5) LP形質転換
Akamatsuら(非特許文献2)の方法に従って、LP形質転換を行った。本方法は抽出したDNAではなく、上記(4)のように調製したドナー菌株のプロトプラストを供与体DNAとしてレシピエント菌株のコンピテントセルに与えることによりDNAの損傷を大幅に軽減することが特徴である。コンピテンス誘導したレシピエント菌株ΔP8SPの培養液 1mLに、上記(4)にて調製したドナー菌株E600NRのプロトプラスト溶液0.1mLを加え、以後は通常の形質転換操作を行った。添加されたプロトプラストは浸透圧ショックにより破壊され、培養液中に放出されたゲノムDNAがレシピエント菌株ΔP8SP株のコンピテントセルに取り込まれるものと考えられている。
【0122】
(6) 薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択
薬剤耐性を指標として形質転換体を選択した。図9には、各供与体DNAにおける逆位変異領域(置換対象領域)、及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを模式的に示す。
【0123】
まず、レシピエント菌株ΔP8SPの薬剤マーカーであるスペクチノマイシン耐性及びドナー菌株E600NRの逆位変異領域の端に存在する薬剤マーカーであるネオマイシン耐性を指標として形質転換体を選択した。次いで、レプリカ法を用いてドナー菌株E600NRの逆位変異領域の他端にあるクロラムフェニコール(Cm)耐性及びエリスロマイシン(Em)耐性を確認した。選択した形質転換体(50個)は、全てスペクチノマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール及びエリスロマイシンに対して耐性であった。このように、ドナー菌株E600NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、相同組換えによる置換が100%の効率で行われていた。
【0124】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価した。その結果、ドナー菌株E600NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、0.47 x 10-5であった。
【0125】
(7) 形質転換体における相同組換えに関するPCR確認
上記(6)で薬剤耐性が確認された形質転換体からゲノムDNAを抽出して、PCR確認を行った。表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyxnB FW2(配列番号17)とのプライマーセット、yvfU RV2(配列番号26)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvfU FW2(配列番号25)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセットをそれぞれ用いて、PCRを行った結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅できた。これらの断片はレシピエント菌株ΔP8SPでは増幅できなかった。
【0126】
また、図8に示すように、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間に位置するepr遺伝子とvpr遺伝子について、表1に示したeprfw2(配列番号49)とeprrv-rep(配列番号48)とのプライマーセット、及びvprfw2(配列番号84)とvprrv-rep(配列番号83)とのプライマーセットを用いてPCRにより確認したところ、形質転換体のゲノムDNAには、epr遺伝子及びvpr遺伝子が存在することが確認された。以上より、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域がドナー菌株であるE600NR株由来であることが確認された。
【0127】
さらにレシピエント菌株であるΔP8SP株の形質であるaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子の欠失について、表1に示したaprEfw2(配列番号89)とaprErv-rep(配列番号88)とのプライマーセット、mprfw2(配列番号64)とmprrv-rep(配列番号63)とのプライマーセット、wprAfw2(配列番号59)とwprArv-rep(配列番号58)とのプライマーセット、nprEfw2(配列番号79)とnprErv-rep(配列番号78)とのプライマーセット、nprBfw2(配列番号69)とnprBrv-rep(配列番号68)とのプライマーセット及びbprfw2(配列番号74)とbprrv-rep(配列番号73)とのプライマーセットをそれぞれ用いて確認し、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間以外のゲノム領域については、レシピエント菌株であるΔP8SP株と同様であることが確認された(図8参照)。
【0128】
(8) speE遺伝子−yxnB遺伝子間(250kb)、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間(100kb)及びhutM遺伝子−yxnB遺伝子間(50kb)領域の置換
上記(4)〜(7)と同様にして、ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いてレシピエント菌株ΔP8SPのLP形質転換を行い、薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択及び形質転換体における相同組換えに関するPCR確認を行った。
【0129】
ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いたレシピエント菌株ΔP8SPのLP形質転換においてそれぞれ選択した形質転換体(各形質転換体当たり50個)は、全てスペクチノマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール及びエリスロマイシンに対して耐性であった。このように、各ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いて得られたレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、相同組換えによる置換が100%の効率で行われていた。
【0130】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対する形質転換体の出現頻度((形質転換体数)÷(レシピエント菌株生菌数))により評価した。ドナー菌株E250NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、0.84 x 10-5であった。ドナー菌株E100NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、1.85 x 10-5であった。また、ドナー菌株E50NRを用いた際のレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換効率は、2.68 x 10-5であった。
【0131】
さらに、形質転換体における相同組換えについてPCRで確認したところ、ドナー菌株としてE250NR株を用いた場合にはspeE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb、E100NR株を用いた場合にはyxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb、またE50NR株を用いた場合にはhutM遺伝子−yxnB遺伝子間の50kbが、それぞれレシピエント菌株であるΔP8SP株の各々相当する領域と逆向きの状態で置換されることが確認された。なお、形質転換体のゲノムDNAにおける置換対象領域末端確認のためのPCRには、上記(1)の逆位変異確認と同じプライマーを用いた(各プライマーの対応は表2参照)。以下の表4には、各ドナー菌株E250NR、E100NR又はE50NRを用いたレシピエント菌株ΔP8SPの形質転換体において、置換対象領域末端確認のPCRに使用したプライマーセット及びPCR産物のサイズを示す。
【0132】
【表4】
【0133】
また、E250NR株を用いた場合には、形質転換体のゲノムDNAについてepr遺伝子及びvpr遺伝子の存在と、aprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子の欠失とを確認した。さらに、E100NR株又はE50NR株を用いた場合には、形質転換体のゲノムDNAについて8種類のプロテアーゼ遺伝子全てが欠失していることを確認した。それぞれのドナー菌株を用いて作製された形質転換体において、置換対象領域以外のゲノム領域についてはレシピエント菌株であるΔP8SP株と同様であることが確認された(図8参照)。
【0134】
〔実施例2〕 本発明に係る第2置換方法−ドナー菌株(供与体DNA)のゲノム上置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させ、且つ、レシピエント菌株(宿主DNA)のゲノム上置換対象領域を逆位変異させた場合
【0135】
(1) ドナー菌株の構築
1−1. ΔP81菌株及びΔP82菌株の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnB FW(配列番号11)及びyxnB/Sp R(配列番号98)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(O)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、yxnB/Sp F(配列番号99)及びyxnB RV(配列番号14)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnB遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(P)をPCRにより増幅した。
【0136】
一方、プラスミドpDG1727 DNAを鋳型として、表1に示したspf(配列番号94)及びspr(配列番号95)のプライマーセットを用いて、1.2kbのスペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)をPCRにより調製した。
【0137】
次に、得られた1.0kb断片(O)、1.0kb断片(P)及びスペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnB FW2(配列番号17)及びyxnB RV2(配列番号18)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(O)、スペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子領域(N)及び1.0kb断片(P)の順に含まれる3.2kbのPCR断片を得た。
【0138】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記実施例1(2)にて構築したプロテアーゼ8重欠失株ΔP8の形質転換を行い、スペクチノマイシン(100μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0139】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnB遺伝子が欠失し、相同組換えによってyxnB遺伝子がスペクチノマイシン耐性遺伝子に置換していることを確認した。以上のようにして、yxnB遺伝子部位にスペクチノマイシン耐性遺伝子を挿入したΔP81株を構築した。
【0140】
さらに、ΔP81株に対して、スペクチノマイシン耐性遺伝子の挿入と同様に、yxeA遺伝子部位にテトラサイクリン耐性遺伝子を挿入してΔP82株を構築した。なお、テトラサイクリン耐性遺伝子のPCR断片の調製には、pHY300PLK(ヤクルト社)を鋳型として用いた。表5には、テトラサイクリン耐性遺伝子を挿入した際に用いたプライマーを、上記スペクチノマイシン耐性遺伝子を挿入した際に用いたプライマーと対応させて示した。さらに、表5には、テトラサイクリン耐性遺伝子を挿入した際に行ったPCRにより得られるPCR産物のサイズを示す。
【0141】
【表5】
【0142】
1−2. ΔP83菌株の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnA FW(配列番号108)及びyxnA/Em R(配列番号109)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnA遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(Q)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したyxnA/Ne F(配列番号110)及びyxnA RV(配列番号111)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のyxnA遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(R)をPCRにより増幅した。
【0143】
一方、実施例1(1)にて調製したEOカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したemf2(配列番号15)及びneor(配列番号16)のプライマーセットを用いて、2.1kbのEOカセット(C)をPCRにより調製した。
【0144】
次に、得られた1.0kb断片(Q)、1.0kb断片(R)及びEOカセット(C)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したyxnA FW2(配列番号112)及びyxnA RV2(配列番号113)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(Q)、EOカセット(C)及び1.0kb断片(R)の順に含まれる4.1kbのPCR断片を得た。
【0145】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、ΔP82株の形質転換を行い、エリスロマイシン(2μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0146】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってyxnA遺伝子が欠失し、相同組換えによってyxnA遺伝子がEOカセットに置換していることを確認した。以上のようにして、枯草菌のyxnA遺伝子部位にEOカセットを挿入したΔP83株を構築した。
【0147】
1−3. ドナー菌株RSD1、RSD2及びRSD3の構築
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、表1に示したaldY FW(配列番号114)及びaldY/Cm3 R(配列番号115)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のaldY遺伝子の上流に隣接する1.0kb断片(R)をPCRにより増幅した。また、上記ゲノムDNAを鋳型として、表1に示したaldY/Ne5 F(配列番号116)及びaldY RV(配列番号117)のプライマーセットを用いて、ゲノム中のaldY遺伝子の下流に隣接する1.0kb断片(S)をPCRにより増幅した。
【0148】
一方、実施例1(1)にて調製したNEカセットプラスミドpBEOCを鋳型として、表1に示したrneof(配列番号23)及びcatr(配列番号24)のプライマーセットを用いて、1.9kbのNEカセット(F)をPCRにより調製した。
【0149】
次に、得られた1.0kb断片(R)、1.0kb断片(S)及びNEカセット(F)の3断片を混合して鋳型として、表1に示したaldY FW2(配列番号118)及びaldY RV2(配列番号119)のプライマーセットを用いたSOE-PCRによって、3断片が1.0kb断片(R)、NEカセット(F)及び1.0kb断片(S)の順に含まれる3.9kbのPCR断片を得た。
【0150】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたPCR断片を用いて、上記1−2で構築した枯草菌ΔP83株の形質転換を行い、クロラムフェニコール(10μg/mL)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。
【0151】
得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってaldY遺伝子が欠失し、相同組換えによってaldY遺伝子がNEカセットに置換していることを確認した。この株をΔP84株と命名した。
【0152】
次に、ΔP84株を、1mLのLB培地にて37℃で4時間振盪培養した。振盪培養後、得られた培養液100μLを、ネオマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天培地に植菌し、生育したコロニーを逆位変異体として分離した。
【0153】
得られた逆位変異体のゲノムDNAを抽出し、表1に示したaldY FW2(配列番号118)とyxnA FW2(配列番号112)とのプライマーセット、aldY RV2(配列番号119)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセット、aldY FW2(配列番号118)とemf2(配列番号15)とのプライマーセット、及びrneof(配列番号23)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行った。その結果、それぞれ4.6kb、3.3kb、3.6kb及び2.3kbのDNA断片が増幅を確認した。なお、これらの断片は、逆位変異が起こる前のΔP84株では増幅されなかった。
【0154】
以上の結果から、aldY遺伝子−yxnA遺伝子間の120kbのゲノム領域(置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域)が逆位変異されたことが確認された。得られた逆位変異体をRSD1菌株と命名し、以下の実験においてドナー菌株として使用した。なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、RSD1菌株の構築の際の逆位変異効率は、6.77 x 10-7であった。
【0155】
さらに、上記RSD1菌株の構築と同様に、albC遺伝子−yxnA遺伝子間の270kb領域が逆位したドナー菌株RSD2、及びyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の620kbの領域が逆位したドナー菌株RSD3を構築した。表6には、ドナー菌株RSD2及びRSD3を構築した際に用いた各プライマーを、RSD1菌株を構築した際に用いたプライマーと対応させて示した。
【0156】
【表6】
【0157】
なお、逆位変異の効率を、薬剤を含まないLB寒天培地にて出現するコロニー数に対するネオマイシンを含むLB寒天培地にて出現するコロニー数の割合により評価した。その結果、ドナー菌株RSD2及びRSD3の構築の際の逆位変異効率は、それぞれ4.7 x 10-7及び2.36 x 10-7であった。
【0158】
以下の(2)〜(7)の節では、特にドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRに基づいて説明する。
【0159】
(2) レシピエント菌株の構築
本実施例においては、実施例1(1)にて構築したドナー菌株E600NRをレシピエント菌株として使用し、実験を行った。
【0160】
(3) ドナー菌株からのプロトプラストの調製
実施例1(4)と同様にドナー菌株RSD3を用いてプロトプラストの調製を行った。
【0161】
(4) ドナー菌株とレシピエント菌株とのゲノムDNAにおける相同領域についての説明
図10には、各供与体DNAにおける逆位変異領域、各宿主DNAにおける逆位変異領域及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを模式的に示す。図10において、パネル(a)は、ドナー菌株RSD1、RSD2及びRSD3のゲノムDNAにおける逆位変異領域を示す。パネル(b)は、ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。パネル(c)は、レシピエント菌株E100NR、E250NR及びE600NRのゲノムDNAにおける逆位変異領域を示す。さらに、パネル(a)に示す数字の位置は、パネル(b)に示される供与体DNAにおける数字の位置にある遺伝子部位を示す。パネル(c)に示す数字の位置は、パネル(b)に示される宿主DNAにおける数字の位置にある遺伝子部位を示す。
【0162】
さらに、図11には、具体的にドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRの置換しようとする領域近傍のゲノム構造を模式的に直線で表した。
【0163】
図10及び11に示すように、レシピエント菌株E600NRでは、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の領域が逆位変異されている。一方、ドナー菌株RSD3では、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の外側それぞれ10kb離れた位置にあるyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の領域が逆位変異されている。RSD3株とE600NR株との間で、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域(置換対象領域)が相互に逆向きの位置関係にある場合、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びyvbT遺伝子−yvfU遺伝子間の10kb領域(置換対象領域の外側の領域)は互いに相同な領域となり、それ以外の領域はすべて逆向きとなる。即ち、後述する薬剤耐性を指標とした選択を組み合わせることにより、上記2つの10kb領域間に限定した二重交差(一組の鎖間交換構造の形成及び二重交差の相同組換え)によるyvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域を置換することが可能となる。
【0164】
(5) LP形質転換
実施例1(5)と同様に、ドナー菌株としてRSD3株、レシピエント菌株としてE600NR株を用いてLP形質転換を行った。
【0165】
(6) 薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択
薬剤耐性を指標として形質転換体を選択した。まず、ドナー菌株であるRSD3株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(192株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD3株及びレシピエント菌株であるE600NR株の双方の逆位対象領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体59株を選択した。
【0166】
選択した形質転換体59株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、59株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD3ゲノムとレシピエント菌株E600NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0167】
また、形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD3とレシピエント菌株E600NRを用いた際の形質転換効率は、1.22 x 10-5であった。
【0168】
(7) 形質転換体における相同組換えに関するPCR確認
上記(6)で選択した形質転換体からゲノムDNAを抽出し、2つの10kb相同組換え領域(置換対象領域の外側の領域)の両端及び置換対象領域内部のテトラサイクリン耐性遺伝子両端のゲノム構造を確認するため、表1に示したyvfU FW2(配列番号25)とyvfU RV2(配列番号26)とのプライマーセット、yxeA FW2(配列番号106)とtetr(配列番号105)とのプライマーセット、tetf(配列番号104)とyxeA RV2(配列番号107)とのプライマーセット、yxnB FW2(配列番号17)とspr(配列番号95)とのプライマーセット、spf(配列番号94)とyxnB RV2(配列番号18)とのプライマーセット、yvbT FW2(配列番号130)とyvbT RV2(配列番号131)とのプライマーセット、及びyxnA FW2(配列番号112)とyxnA RV2(配列番号113)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRを行った。PCRの結果、上記各プライマーセットを用いることで、それぞれ予想通りに2.6kb、2.6kb、2.6kb、2.2kb、2.2kb、3.0kb及び3.0kbのDNA断片の増幅を確認した。
【0169】
また、図12には、ドナー菌株RSD3のゲノム構造及びレシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。図12において、上部に示したyvbT遺伝子−yxnA遺伝子間の領域が、ドナー菌株RSD3のゲノム構造を示す。また、下部には、レシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。
【0170】
形質転換体のゲノムDNAにおいて、図12に示すyvfU遺伝子−yxnB遺伝子間に位置するepr遺伝子及びvpr遺伝子について、表1に示したeprfw2(配列番号49)とeprrv-rep(配列番号48)とのプライマーセット及びvprfw2(配列番号84)とvprrv-rep(配列番号83)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRにより確認したところ、epr遺伝子及びvpr遺伝子の双方の遺伝子が欠失していることが確認された。従って、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間の600kbのゲノム領域がドナー菌株であるRSD3株由来であることが確認された。
【0171】
さらに、図12に示すように、レシピエント菌株であるE600NR株の形質であるaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子が形質転換体のゲノムDNAに存在することを、表1に示したaprEfw2(配列番号89)とaprErv-rep(配列番号88)とのプライマーセット、mprfw2(配列番号64)とmprrv-rep(配列番号63)とのプライマーセット、wprAfw2(配列番号59)とwprArv-rep(配列番号58)とのプライマーセット、nprEfw2(配列番号79)とnprErv-rep(配列番号78)とのプライマーセット、nprBfw2(配列番号69)とnprBrv-rep(配列番号68)とのプライマーセット、及びbprfw2(配列番号74)とbprrv-rep(配列番号73)とのプライマーセットをそれぞれ用いてPCRにより確認した。その結果、形質転換体のゲノムDNAにおいて、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間以外のゲノム領域についてはレシピエントであるE600NR株と同様であることが確認された。
【0172】
(8) speE遺伝子−yxnB遺伝子間(250kb)、及びyxjH遺伝子−yxnB遺伝子間(100kb)領域の置換
上記(2)〜(7)と同様にして、ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRとのLP形質転換及びドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRとのLP形質転換について、薬剤耐性を指標とした形質転換体の選択及び形質転換体における相同組換えに関するPCR確認を行った。
【0173】
ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換では、ドナー菌株であるRSD2株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(192株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD2株及びレシピエント菌株であるE250NR株の双方の逆位対象領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体110株を選択した。選択した形質転換体110株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、110株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD2ゲノムとレシピエント菌株E250NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0174】
また、ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRを用いた際の形質転換効率は、2.97 x 10-5であった。
【0175】
一方、ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換では、ドナー菌株であるRSD1株のyxnB遺伝子部位に挿入したスペクチノマイシン耐性遺伝子を利用してスペクチノマイシン耐性株(178株)を選択した。次に、レプリカ法を用いて、RSD1株及びレシピエント菌株であるE100NR株の双方の逆位変異領域の両側にあるマーカー遺伝子(クロラムフェニコール、エリスロマイシン及びネオマイシンの各耐性遺伝子)が全て欠失し、薬剤感受性となった形質転換体106株を選択した。選択した形質転換体106株については、テトラサイクリン耐性を調べた結果、106株全てがテトラサイクリン耐性であった。このように、スペクチノマイシン耐性株を選択後、クロラムフェニコール、エリスロマイシン又はネオマイシンの感受性を指標に選択した株では、ドナー菌株RSD1ゲノムとレシピエント菌株E100NRゲノムとの限定された領域間での相同組換えにより置換対象領域が100%完全置換されていた。
【0176】
また、ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換効率を、形質転換に用いたレシピエント菌株の生菌数に対するスペクチノマイシン耐性且つエリスロマイシン感受性の形質転換体数を指標として評価した。ドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRを用いた際の形質転換効率は、2.36 x 10-5であった。
【0177】
図10に示すように、上記(2)〜(7)と同様にして、ドナー菌株としてRSD2株、レシピエント菌株としてE250NR株を用いた場合には、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びalbC遺伝子−speE遺伝子間の10kb領域に限定された領域での相同組換えの結果、speE遺伝子−yxnB遺伝子間の250kb領域の置換が起こることを確認した。さらに、得られた形質転換体のゲノムDNA中のプロテアーゼ遺伝子については、epr遺伝子及びvpr遺伝子は欠失しており、またaprE遺伝子、mpr遺伝子、wprA遺伝子、nprE遺伝子、nprB遺伝子及びbpr遺伝子は存在することを確認した。
【0178】
さらに、図10に示すように、ドナー菌株としてRSD1株、レシピエント菌株としてE100NR株を用いた場合には、yxnB遺伝子−yxnA遺伝子間の10kb領域及びaldY遺伝子−yxjH遺伝子間の10kb領域に限定された領域での相同組換えの結果、yxjH遺伝子−yxnB遺伝子間の100kb領域の置換が起こることを確認した。さらに、得られた形質転換体のゲノムDNA中のプロテアーゼ遺伝子については、8種類全てが存在することを確認した(図12参照)。
【0179】
なお、上記形質転換体(ドナー菌株RSD2とレシピエント菌株E250NRとの形質転換体、又はドナー菌株RSD1とレシピエント菌株E100NRとの形質転換体)のゲノムDNAにおいて、2つの10kb相同組換え領域の両端及び置換対象領域内部のテトラサイクリン耐性遺伝子両端のゲノム構造を確認するためのPCRにおいて使用した各プライマーを、上記(7)において形質転換体(ドナー菌株RSD3とレシピエント菌株E600NRとの形質転換体)のゲノムDNAにおいて、yvfU遺伝子−yxnB遺伝子間領域置換の確認に用いたプライマーと対応させて、以下の表7に示した。また、プロテアーゼ遺伝子有無の確認のために行ったPCRには、上記(7)で用いたものと同じプライマーを用いた。
【0180】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、NEO逆位変異システムを示す。
【図2】図2は、本発明に係る第1置換方法において、NEO逆位変異システムにより構築したドナー菌株とレシピエント菌株とのLP形質転換を模式的に示す。
【図3】図3は、本発明に係る第2置換方法において、NEO逆位変異システムにより構築したドナー菌株とレシピエント菌株とのLP形質転換を模式的に示す。
【図4】図4は、逆位変異用カセットを組込んだプラスミドpBNEC及びpBEOCの構築を示す。
【図5】図5は、実施例1におけるドナー菌株構築用基準株168EOC株の構築を示す。
【図6】図6は、EOC600R株の構築を示す。
【図7】図7は、epr遺伝子欠失株の構築を示す。
【図8】図8は、実施例1における各ドナー菌株E600NR、E250NR、E100NR及びE50NRの逆位変異領域並びにレシピエント菌株ΔP8SPにて欠失されているプロテアーゼ遺伝子を示す。
【図9】図9は、実施例1における各供与体DNAにおける逆位変異領域、及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。
【図10】図10は、実施例2における各供与体DNAにおける逆位変異領域、各宿主DNAにおける逆位変異領域及び各ドナー菌株とレシピエント菌株との形質転換体における相同組換えを示す。
【図11】図11は、実施例2におけるドナー菌株RSD3及びレシピエント菌株E600NRの置換しようとする領域近傍のゲノム構造を示す。
【図12】図12は、実施例2におけるドナー菌株RSD3のゲノム構造及びレシピエント菌株E600NRの逆位変異領域を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
配列番号1〜131は、プライマーである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させる第1工程と、
供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、
第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【請求項2】
上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項3】
上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、請求項1又は2記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項4】
上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項5】
上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項6】
供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる第1工程と、
供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、
第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【請求項7】
上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、請求項6記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項8】
上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、請求項6又は7記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項9】
上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項10】
上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法で置換対象領域が置換された形質転換体。
【請求項1】
供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させる第1工程と、
供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、
第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【請求項2】
上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項3】
上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、請求項1又は2記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項4】
上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項5】
上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項6】
供与体DNA及び宿主DNAの一方の置換対象領域を逆位変異させ、且つ、供与体DNA及び宿主DNAの他方の置換対象領域及び当該置換対象領域の外側の領域を逆位変異させる第1工程と、
供与体DNAと宿主DNAとの間の組換えを行う第2工程とを含み、
第2工程では、宿主DNAの置換対象領域が供与体DNAの置換対象領域に置換されることを特徴とする、宿主DNAの置換方法。
【請求項7】
上記第2工程後に、供与体DNA及び/又は宿主DNAに存在する選択マーカー遺伝子を指標に、供与体DNAの置換対象領域を有する形質転換体を選択する工程を含むことを特徴とする、請求項6記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項8】
上記供与体DNAがプロトプラストであり、且つ、上記宿主がコンピテントセルであることを特徴とする、請求項6又は7記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項9】
上記宿主が枯草菌であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項10】
上記供与体DNAの置換対象領域が20kb以上のDNAサイズであることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の宿主DNAの置換方法で置換対象領域が置換された形質転換体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−204218(P2006−204218A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22196(P2005−22196)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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