説明

逆方向−キャリア励起子阻止層を有する有機ダブルへテロ構造太陽電池

【課題】逆方向キャリア輸送、カソードで解離した正孔のアクセプタ材料への輸送を利用する励起子阻止層を有する有機感光オプトエレクトロニクスデバイスを得ること。
【解決手段】本発明は、アノードおよびカソードと、前記アノードと前記カソードの間に接続されたドナーアクセプタ接合を形成するドナー型有機材料およびアクセプタ型有機材料と、前記ドナーアクセプタ接合の前記アクセプタ型有機材料と前記カソードの間に接続される励起子阻止層であって、前記カソードのフェルミ準位が前記励起子阻止層のHOMOより1eV以下高い励起子阻止層とを含む感光セルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府権限
本発明は、米国エネルギー省、国立再生可能エネルギー研究所によって裁定された契約書第339-4012の下の政府援助で行われた。本発明において米国政府はいくらかの権利を有する。
【0002】
共同研究合意
本特許請求の発明は、以下、プリンストン大学、南カリフォルニア大学、ユニバーサルディスプレイ社、グローバルフォトニクスエナジー社の大学企業共同研究合意の当事者の、単独または複数によって、これらに代わって、および/またはこれらと共同して行われた。この合意は本特許請求の発明が行われた時点およびそれ以前に有効であって、本特許請求の発明もこの合意の範囲内で着手された活動の結果として為された。
【0003】
本発明は、一般に有機感光オプトエレクトロニクスデバイス材料に関する。もっと具体的に言えば、逆方向キャリア輸送、カソードで解離した正孔のアクセプタ材料への輸送を利用する励起子阻止層を有する有機感光オプトエレクトロニクスデバイスを対象とする。
【背景技術】
【0004】
オプトエレクトロニクスデバイスは、材料の光学および電子特性に依拠して電磁放射を電気的に発生するか、検出するか、あるいは周囲の電磁放射から電気を発生させる。
【0005】
感光オプトエレクトロニクスデバイスは電磁放射を電気に変換する。光起電力(PV)デバイスとも呼ばれる太陽電池は電力を発生するために特に使用される感光オプトエレクトロニクスデバイスの一種である。太陽以外に光源から電気エネルギーを発生できるPVデバイスは、例えば、明かりや熱を供給するために、あるいは電子回路や電卓、ラジオ、計算機または遠隔モニタもしくは通信装置などの機器に電力供給するために電力を消費する負荷を駆動するのに使用することができる。太陽や他の光源からの直接照射が使用できず、あるいは特定の用途の要件に伴いPVデバイスの電力出力をバランスさせる場合に、動作が継続できるように、これらの電力発生用途ではバッテリや他のエネルギー蓄積デバイスの充電を含むことがある。本明細書で使用される用語「抵抗負荷」は、任意の電力を消費または蓄える回路、デバイス、装置またはシステムを指す。
【0006】
感光オプトエレクトロニクスデバイスのもう1つの種類は光伝導セルである。この機能では、信号検出回路は光吸収による変化を検出するためにデバイスの抵抗をモニタする。
【0007】
感光オプトエレクトロニクスデバイスの別の種類は光検出器である。動作中、光検出器は電流を測定する電流検出回路と共に使用され、この電流検出回路は、光検出器が電磁放射に暴露されたときに生じる電流を測定し、印加されたバイアス電圧を有してよい。本明細書で説明する検出回路は、光検出器にバイアス電圧を供給することも、電磁放射に対する光検出器の電子的応答を測定することもできる。
【0008】
これら3つのクラスの感光オプトエレクトロニクスデバイスは以下で定義される整流接合が在るかどうかによって、またデバイスがバイアスまたはバイアス電圧としてやはり既知である外部印加電圧と共に動作させるかどうかによっても特徴付けることができる。光伝導セルは整流接合をもたず、普通、バイアスして動作させる。PVデバイスは、少なくとも1つの整流接合を有し、バイアス無しで動作させる。光検出器は、少なくとも1つの整流接合を有し、常にではないが通常、バイアスして動作させる。一般に、太陽電池は回路、デバイスまたは装置に電力を供給するが、検出回路を制御するための信号や電流を提供せず、また検出回路からの情報の出力も提供しない。対照的に、光検出器または光伝導体は検出回路を制御するために信号や電流を提供し、また検出回路からの情報の出力も提供するが、回路、デバイスまたは装置に電力を供給しない。
【0009】
従来、感光オプトエレクトロニクスデバイスは、多くの無機半導体、例えば、結晶、多結晶およびアモルファスシリコン、ガリウムヒ素、テルル化カドミウムおよびその他で作られている。本明細書で用語「半導体」は、電荷キャリアが熱的、電磁気的励起によって誘起される場合に電気を伝導できる材料を意味する。用語「光導電性」は、一般に電磁放射エネルギーが吸収され、それにより、材料内でキャリアが電荷を伝導できる、つまり輸送できるような、電荷キャリアの励起エネルギーに変換される過程に関する。本明細書で用語「光導電性材料」は、電荷キャリアを発生するために電磁放射を吸収する特性に対して選択される半導体材料を指すのに使用され、光起電力デバイス、光導電デバイスおよび光検出器を含む全ての種類の感光デバイス中のそのような半導体材料を指すのに使用できる。
【0010】
PVデバイスは、このデバイスが入射太陽パワーを有効な電力に変換できる効率によって特徴付けることができる。結晶またはアモルファスシリコンを使用するデバイスが商業用途で広く用いられ、中には23%以上の効率を達成したものもある。しかし、大きな、著しく効率を低下させる欠陥のない結晶を生産する場合に固有の問題のために、効率の良い特に大きな表面積の結晶ベースのデバイスは、生産するのが困難であり、高価なものになる。他方、高効率のアモルファスシリコンデバイスは、今なお安定性に関し問題を抱えている。現在、市販されているアモルファスシリコン太陽電池は安定的な4〜8%の間の効率を有している。もっと最近では、許容範囲の光起電力変換効率を経済的生産コストで達成するために有機太陽電池を使用することに努力が集中している。
【0011】
PVデバイスは、光電流と光電圧の積を最大にするために標準照射条件(すなわち、1000W/m2、AM1.5スペクトルの照射である標準試験条件)の下で発生させる最大電力に向けて最適化することができる。標準照射条件の下でのそのような太陽電池の電力変換効率は、以下の3つのパラメータにより決まる。すなわち、(1)ゼロバイアスの下での電流、すなわち短絡電流Isc、(2)開放条件の下での光電圧、すなわち開放電圧Vocおよび(3)曲線因子ffである。
【0012】
PVデバイスは、これらのデバイスが負荷の両端に接続され、光に照射される場合に、光生成電流を発生する。無限大の負荷の下で照射される場合に、PVデバイスは、その可能な最大電圧、V開放電圧、つまりVOCを発生させる。電気的に短絡された接点に照射される場合、PVデバイスは、その可能な最大電流、I短絡電流、つまりISCを発生させる。電力を発生させるために実際に使用される場合、PVデバイスは、有限な抵抗負荷に接続され、電力出力は電流と電圧の積、I×Vによって与えられる。PVデバイスにより発生する最大の全電力は、本来、積、ISC×VOCを超えることはできない。負荷の値が最大電力を引き出すために最適化される場合に、電流と電圧はそれぞれ値、ImaxおよびVmaxを有する。
【0013】
PVデバイスに対して質の良さを表す数字が曲線因子ffであり、
ff={ImaxVmax}/{ISCVOC}
と定義され、ここでffは常に1未満であり、同様にISCおよびVOCは、実際に使用する場合、決して同時には取得されない。それでもffが1に近づくにつれて、デバイスは、少ない直列または内部抵抗を有するようになり、したがって最適条件の下で負荷に、より大きなパーセンテージのISCとVOCの積を送り出す。Pincがデバイスに入射するパワーである場合、デバイスの電力効率、ηpは
ηp=ff*(ISC*VOC)/Pinc
で計算できる。
【0014】
適切なエネルギーの電磁放射が、有機半導体材料、例えば有機分子結晶(OMC)材料、またはポリマーに入射する場合、光子が吸収され、励起分子状態を生じさせることができる。記号を使ってS0+hνΨS0*と表される。ここで、S0およびS0*は基底および励起分子状態をそれぞれ表し、hはプランク定数であり、νは光子の振動数であり、Ψは状態関数である。このエネルギー吸収は、HOMOエネルギー準位内の束縛状態からの電子の昇位に関連し、その昇位はBボンドであって、LUMOエネルギー準位への昇位でよいし、また等価的に、B*ボンドであって、LUMOエネルギー準位からHOMOエネルギー準位への正孔の昇位でよい。有機薄膜の光導電材料において、生じた分子状態は一般に励起子、つまり準粒子として輸送される束縛状態にある電子‐正孔対であると考えられる。励起子は、対(geminate)の再結合までに測定可能な寿命を有してよい。この再結合は、他の対の正孔または電子との再結合に対して、互いに最初の電子と正孔の間の再結合過程を言う。光電流を生ずるためには、電子-正孔対は、通常2つの異なる、接触している有機薄膜の間のドナーアクセプタ界面の所で分離されることになる。電荷が分離しないと、これらは、クエンチングとしても既知である、入射光より低いエネルギーの光放出により放射を伴うか、あるいは熱の発生により放射を伴わずに、対の再結合過程で再結合する可能性がある。これらの結末のどちらも感光オプトエレクトロニクスデバイスでは望ましくない。
【0015】
接点での電界または不均一性により、励起子がドナーアクセプタ界面の所で解離するよりむしろクエンチを引き起こすことがあり、その結果、電流に対し最終的な寄与はなくなってしまう。したがって、光生成された励起子を接点から離しておくことが望ましい。これは、励起子の拡散を接合近くの領域に制限する効果をもつので、付随した電界が、接合近くで励起子を解離することにより自由になった電荷キャリアを引き離す状況を増やすことになる。
【0016】
実質的な容積を占める、内部に発生させた電界を作り出すために、通常の方法は、特に分子の量子エネルギー状態の分布に関して、適切に選択された導電特性をもつ2層の材料を並置することである。これらの2つの材料の界面は光起電力へテロ接合と呼ばれる。従来の半導体理論では、PVへテロ接合を形成する材料は一般にnまたはp型のいずれかであるとして表示されていた。ここでn型は多数キャリアの型が電子であることを表す。これは比較的自由なエネルギー状態に多くの電子を有する材料として考慮されてよい。ここでp型は多数キャリアの型が正孔であることを表す。そのような材料は、比較的自由なエネルギー状態に多くの正孔を有する。バックグラウンドつまり光生成でない多数キャリア濃度の型は、主として欠陥や不純物による意図しないドーピングで決まる。不純物の型と濃度が、HOMO-LUMOギャップと呼ばれる、最高占有分子軌道(HOMO)のエネルギー準位と最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位の間のギャップ内のフェルミエネルギーまたは準位の値を決定する。フェルミエネルギーは、占有確率が1/2に等しいエネルギーの値によって示され、分子の量子エネルギー状態の統計的な占有を特徴付ける。LUMOエネルギー準位近くのフェルミエネルギーは、電子が支配的なキャリアであることを示す。HOMOエネルギー準位近くのフェルミエネルギーは、正孔が支配的なキャリアであることを示す。したがって、フェルミエネルギーは、従来の半導体を特徴付ける主要な特性であり、プロトタイプのPVへテロ接合は従来からpn界面であった。
【0017】
用語「整流」は、とりわけ、界面が非対称の導電特性を有する、つまり界面が好んで一方向の電荷輸送を維持することを意味する。整流は、一般に、適切に選択された材料の間のヘテロ接合に発生するビルトイン電界を伴う。
【0018】
本明細書で用いられるように、また一般的に当業者には理解されるであろうが、第1エネルギー準位が真空エネルギー準位により近い場合には、第1「最高占有分子軌道」(HOMO)または「最低非占有分子軌道」(LUMO)のエネルギー準位は、第2HOMOまたはLUMOエネルギー準位「より大きい」または「より高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は真空準位に対して負のエネルギーで測られるので、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さな絶対値を有するIP(より小さな負であるIP)に対応する。同じように、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さな絶対値を有する電子親和力(EA)に対応する(より小さな負であるEA)。上部に真空準位を伴う従来のエネルギー準位図上で、ある材料のLUMOエネルギー準位は同じ材料のHOMOエネルギー準位より高い。「より高い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位に比べ、このようなエネルギー図の上部により接近して現れる。
【0019】
有機材料の文脈では、用語「ドナー」および「アクセプタ」は、2つの接触しているが、異なる有機材料のHOMOおよびLUMOエネルギー準位の対応する位置を指す。これは、「ドナー」および「アクセプタ」が、それぞれ無機nおよびp型層を形成するのに使用できる不純物の型を指すことがある、無機の文脈におけるこれらの用語の使用とは対照的である。有機の文脈では、もう一方と接触している、1つの材料のLUMOエネルギー準位がより低い場合、その材料がアクセプタである。そうでなければ、それがドナーである。外部バイアスがない中で、ドナーアクセプタ接合の所で電子がアクセプタ材料の中へ移動し、正孔がドナー材料中へ移動することがエネルギー的に好ましい。
【0020】
有機半導体において重要な特性はキャリア移動度である。移動度は、電荷キャリアが電界に応答して導電材料を通って移動できる、この容易さを測定する。有機感光デバイスの文脈では、高い電子移動度により電子で優先的に伝導する材料を含む層が電子輸送層、つまりETLと呼ばれてよい。高い正孔移動度により正孔で優先的に伝導する材料を含む層が正孔輸送層、つまりHTLと呼ばれてよい。必ずではないが、好ましくは、アクセプタ材料はETLであり、ドナー材料はHTLである。
【0021】
従来の無機半導体のPVセルは、内部電界中に設定したpn接合を利用する。Applied Physics Letters 48、183 (1986)、にTangにより報告されたように初期の有機薄膜太陽電池は、従来の無機PVセルに使用されたものと類似のヘテロ接合を含む。しかし、今では、pn型接合の確立に加えてヘテロ接合のエネルギー準位オフセットも役割を果たし得ることが認められている。
【0022】
有機D-Aへテロ接合でのエネルギー準位オフセットは、有機材料中の光励起過程の基本的性質により有機PVデバイスの動作にとって重要であると考えられる。有機材料の光励起で、局在したフレンケルまたは電荷移動励起子が生成される。電気的検出または電流生成が生じるためには、束縛励起子はこれらの構成要素の電子と正孔に解離しなければならない。そのような過程は、ビルトイン電界によって誘起され得るが、有機デバイス中に通常見られる電界(F〜106V/cm)での効率は低い。有機材料中の最も効率的な励起子解離は、ドナーアクセプタ(D-A)界面で生じる。このような界面の所で、低いイオン化ポテンシャルをもつドナー材料が、高い電子親和力をもつアクセプタ材料とヘテロ接合を形成する。ドナーおよびアクセプタ材料のエネルギー準位の一致に依存して、このような界面の所で励起子の解離がエネルギー的に有利になることがあり、アクセプタ材料中の自由な電子ポーラロンとドナー材料中の自由な正孔ポーラロンをもたらす。
【0023】
有機太陽電池は、従来のシリコンベースデバイスと比べた場合、多くの潜在的利点を有する。有機PVセルは軽量であり、材料を使用する際に経済的であり、フレキシブルプラスチックフォイルなどの低いコスト基板上に堆積できる。しかし、一般的な有機PVデバイスの中には、1%以下の桁である、比較的低い外部量子効率を有するものがある。これは、一部、真性光電導過程の2次のオーダーの性質によるものであると考えられる。つまり、キャリア生成は励起子の発生、拡散およびイオン化または収集を必要とする。これらの過程のそれぞれに付随する効率ηがある。添え字を次のように用いることができる。すなわち、電力効率のP、外部量子効率のEXT、光子吸収のA、励起子拡散のED、電荷収集のCCおよび内部量子効率のINTである。この表記を用いると、
ηP〜ηEXT =ηA*ηED*ηCC
ηEXT=ηA*ηINT
【0024】
励起子の拡散長(LD)は、一般的に光吸収長(〜500Å)よりかなり短く(LD〜50Å)、多重または高度に折り返された界面をもつ厚く、したがって抵抗のあるセルか、あるいは低い光吸収効率で薄いセルを使用するかで、どちらともつかないトレードオフが要求されることになる。
【0025】
一般的に有機薄膜中で光が吸収され、励起子を形成する場合、一重項励起子が形成される。項間交差の機構により、一重項励起子が三重項励起子に減衰できる。この過程において、デバイスにとって効率を下げてしまうことになるエネルギーが失われる。項間交差からのエネルギーロスがない場合、三重項励起子は、一重項励起子がもつより一般に長い寿命を有し、したがって長い拡散長をもつので、三重項励起子を発生させる材料を使用するのが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第6657378号
【特許文献2】米国特許第6580027号
【特許文献3】米国特許第6352777号
【特許文献4】米国特許第6420031号
【特許文献5】米国特許第5703436号
【特許文献6】米国特許第6097147号
【特許文献7】米国特許第6451415号
【特許文献8】米国特許公開第2004-0067324A1号
【特許文献9】米国特許公開第2005-0110007A1号
【特許文献10】米国特許第6333458号
【特許文献11】米国特許第6440769号
【特許文献12】米国仮出願第10/857747号
【特許文献13】米国特許公開第2002/0189666A1号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Tang、Applied Physics Letters 48、183 (1986)
【非特許文献2】Peumans等の文献Applied Physics Letters 76、2650-52(2000)
【非特許文献3】Gary L. Miessler、Donald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(2nd Edition)、Prentice Hall、(1998)
【非特許文献4】Maennig等のApplied Physics A 79、1 (2004)
【非特許文献5】Suemori, Applied Physics Letters 85,6269 (2004)
【非特許文献6】Hill等のJournal Applied Physics 86,4515 (1999)
【非特許文献7】Mitsumoto等の Journal of Physical Chemistry A 102, 552 (1998)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の実施形態では、逆方向キャリア励起子阻止層を使用し、カソードからアクセプタへ正孔を輸送する。感光セルは、アノードおよびカソードと、アノードとカソードの間に接続されたドナーアクセプタ接合を形成するドナー型有機材料およびアクセプタ型有機材料と、ドナーアクセプタ接合のアクセプタ型有機材料とカソードの間に接続された、本質的に少なくとも10-7cm2/V-sec以上の正孔移動度を有する材料からなる励起子阻止層とを含み、阻止層のHOMOはアクセプタ型材料のHOMOより高いか等しい。さらに、この材料が少なくとも10-6cm2/V-sec以上の正孔移動度を有することが好ましい。
【0029】
良好な正孔注入を確実にするためには、カソードのフェルミ準位は、励起子阻止層のHOMOより1eV以下高いことが好ましい。再結合損失を最小にするためには、励起子阻止層のHOMOは、アクセプタのLUMOより1eV以下低いことが好ましい。励起子阻止層用の例示の材料は、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)である。
【0030】
図において、正孔は白丸で、電子は黒丸で示した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】アノード、アノード平滑層、ドナー層、アクセプタ層、阻止層およびカソードを含む有機PVデバイスの図である。
【図2A】本発明の実施形態による励起子阻止層の動作原理の図であり、励起子阻止層がカソードの所で解離した正孔をアクセプタへ移動させる。
【図2B】図2Aの動作原理に使用した励起子阻止層を含む、ダブルヘテロ構造デバイスの概略的エネルギー準位図である。
【図3A】解離した正孔をカソードからアクセプタへ移動させるためにRu(acac)3励起子阻止層を使用する例示のダブルヘテロ構造デバイスである。
【図3B】図3Aのダブルヘテロ構造デバイスの概略的エネルギー準位図である。
【図4】以下に示す構造をもつ有機太陽電池の暗所および擬似AM1.5G太陽光源の1 sun(100mW/cm2)強度の下での電流密度対電圧特性のグラフであって、その構造はITO/CuPc(200Å)/C60(400Å)/EBL(200Å)/Ag(1000Å)であり、ここで励起子阻止層(EBL)は、BCP(黒丸)か、Ru(acac)3(四角)のどちらかで構成される。
【図5A】図4と同じ構造をもつデバイスの1sun(100mW/cm2)の擬似AM1.5G太陽光源の下での感度JSC/P0のグラフであって、EBLの厚さは0〜300Åの間で変えた。EBLのないデバイスは「×」の印をつけた。実線は計算で得られたJSC/P0であり、点線は目で追うために引いた。
【図5B】図4と同じ構造をもつデバイスの1sun(100mW/cm2)の擬似AM1.5G太陽光源の下での曲線因子(FF)のグラフであって、EBLの厚さは0〜300Åの間で変えた。EBLのないデバイスは「×」の印をつけた。実線は計算で得られたJSC/P0であり、点線は目安として引いた。
【図6】8、16、32ÅのBCP被覆層厚さを有する200Å厚さの無希釈C60フィルムの紫外光電子スペクトルを示す図である。短い垂直な線はHOMOの位置を示す。フェルミエネルギーEFが束縛エネルギーに対する基準である。挿入図はBCPの化学構造を示す。
【図7】8および16ÅのRu(acac)3被覆層厚さを有する200Å厚さの無希釈C60フィルムの紫外光電子スペクトル(UPS)を示す図である。最上部のスペクトルは200Åの厚さの無希釈Ru(acac)3フィルムのUPSスペクトルである。短い垂直の線はHOMOの位置を示す。フェルミエネルギーEFが束縛エネルギーに対する基準になっている。挿入図はRu(acac)3の化学構造を示す。
【図8】Ru(acac)3の厚さを0〜300Åの間で変えた以下のデバイスの1sun(100mW/cm2)の擬似AM1.5G太陽光源の下での感度JSC/P0のグラフであって、デバイスAは、ITO/CuPc(200Å)/C60(400Å)/Ru(acac)3/BCP(200Å)/Ag(l000Å)で、デバイスBはITO/CuPc(200Å)/C60(400Å)BCP(200Å)/Ru(acac)3/Ag(1000Å)である。実線は目安として引いた。
【図9A】解離した正孔をカソードからアクセプタへ移動させるためにRu(acac)3励起子阻止層を使用する例示の反転させたダブルヘテロ構造デバイスを示す図である。
【図9B】図9Aのダブルヘテロ構造デバイスの概略的エネルギー準位図である。
【図10A】解離した正孔をカソードからアクセプタへ移動させるためにRu(acac)3励起子阻止層を使用し、複合カソードを有する例示のダブルヘテロ構造デバイスを示す図である。
【図10B】図10Aのダブルヘテロ構造デバイスの概略的エネルギー準位図である。
【図11】従来技術による励起子阻止層の動作原理を示す図であり、励起子阻止層はアクセプタからカソードへ電子を移動させる。
【図12】従来技術でゆきわたっている動作原理による、アクセプタからカソードへ電子を移動させるBCP励起子阻止層を図示する概略的エネルギー準位図である。
【図13】本明細書の実験によりはっきりした、BCP励起子阻止層が実際にはカソードからアクセプタへ正孔を移動させることを図示する概略的エネルギー準位図である。
【図14】反射カソードからの距離に対する光電場強度の例示的位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
有機感光オプトエレクトロニクスデバイスが提供される。本発明の実施形態の有機デバイスは、例えば入射電磁放射から使用可能な電流を生成するのに使用することができ(例えば、PVデバイス)、また入射電磁放射を検出するのに使用することもできる。本発明の実施形態は、アノードと、カソードと、アノードとカソードの間に光活性領域とを含んでよい。光活性領域は、電磁放射を吸収して励起子を発生させ、この励起子が電流を生成させるために解離可能である、感光デバイスの部分である。有機感光オプトエレクトロニクスデバイスは、やはり入射する放射をデバイスによって吸収可能とするために少なくとも1つの透明電極を含んでよい。種々のPVデバイス材料および構成が、Forrest等の米国特許第6657378号、Forrest等の米国特許第6580027号およびBulovic等の米国特許第6352777号に説明されており、これらの開示されたPVデバイス材料および構成に対する参照により、これらの特許が本明細書に組み込まれる。
【0033】
図1は、有機感光オプトエレクトロニクスデバイス100を示す。図は必ずしも原寸に比例して描かれていない。デバイス100は、基板110と、アノード115と、アノード平滑層120と、ドナー層125と、アクセプタ層130と、阻止層135と、カソード140とを含んでよい。カソード140は、第1導電層と第2導電層を有する複合カソードでよい。デバイス100は、順に説明した層を堆積することによって製造できる。電荷分離は、主にドナー層125とアクセプタ層130の間の有機へテロ接合で生じる。へテロ接合でのビルトインポテンシャルは、接触してヘテロ接合を形成する2つの材料の間のHOMO-LUMOエネルギー準位差によって決定される。ドナー材料とアクセプタ材料の間のHOMO-LUMOギャップオフセットが、ドナー/アクセプタ界面の所で、界面の励起子拡散長内で励起子の電荷分離を容易にする電界を生じる。
【0034】
図1に図示した層の特定の配置は、単に例示であって、限定するものではない。例えば、層の中には省略できるもの(阻止層など)もある。別の層(反射層または追加のアクセプタおよびドナー層など)が付加されてよい。層の順序も変更できる。特に説明したこれら以外の配置も使用できる。
【0035】
基板110は、所望の構造特性を提供する任意の適切な基板でよい。基板は可撓性か剛性の平面または非平面でよい。基板は、透明、半透明または不透明でよい。プラスチックおよびガラスが、好ましい剛性基板材料の例である。プラスチックおよび金属フォイルが、好ましい可撓性基板材料の例である。基板の材料および厚さは、所望の構造および光学特性を得るために選択されてよい。
【0036】
Bulovic等の米国特許第6352777号は、感光オプトエレクトロニクスデバイスに使用可能な電極または接点の例を提供しており、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書において用語「電極」および「接点」を使用する場合、光生成電流を外部回路に送達し、またはデバイスにバイアス電圧を供給する媒体を提供する層を指す。すなわち、電極または接点は、有機感光オプトエレクトロニクスデバイスの活性領域と、ワイア、リード、トレースまたは他の手段との間で、外部回路へ、または外部回路から電荷キャリアを移動させるための界面を提供する。感光オプトエレクトロニクスデバイスでは、最大量の周囲の電磁放射をデバイス外部から光電導で内部活性領域へ導入可能とすることが望ましい。つまり、電磁放射が、光電導性吸収によって電気に変換可能である光電導層に到達しなければならない。このため、しばしば、電気接点の少なくとも1つが入射電磁放射をほんのわずかだけ吸収し、ほんのわずかだけ反射するものであるべきことが要求される。つまり、このような接点は実質的に透明でなければならない。吸収されずにセルを通過した光が、反射してセルに戻るように、対向する電極は反射する材料でよい。本明細書で使用される、材料層または異なる材料の連続する複数層が、関係の波長で、この層または複数層を介して少なくとも50%の周囲の電磁放射を透過可能にする場合に、この層または複数層は「透明である」と呼ばれる。同様に、関係の波長で周囲の電磁放射の幾分か、しかしその50%未満の透過を可能にする場合、層は「半透明」であると呼ばれる。
【0037】
本明細書で使用される「上部」は基板から最も離れていることを意味し、一方「底部」は基板に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスに対し、底部電極は基板に最も近い電極であり、一般に製造される第1電極である。底部電極は2つの面を有し、底面は基板に最も近く、上面は基板からいっそう離れている。第1層が、第2層上に「配置される」と記述される場合、第1層は基板からさらに離れて配置される。第1層が、第2層に「物理的に接触して」いると明記されている場合を除いて、第1層と第2層の間に他の層が在ることがある。例えば、間に種々の有機層が在るとしても、カソードがアノード上に「配置される」と記述されることがある。
【0038】
電極は、好ましくは金属または「金属代替物」からなる。本明細書で、用語「金属」は、例えばMgなど単元素純金属から成る材料ならびに、例えばMg:Agと表示され、MgとAgを合わせて2つ以上の単元素純金属から成る材料である金族合金も共に含んで使用される。本明細書で用語「金属代替物」は標準的定義内の金属ではないが、一定の適切な用途において望ましい金属様の特性を有する材料を指す。電極および電荷輸送層用の、普通に使用されている金属代替物は、ドープした広い禁制帯幅の半導体、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)、ガリウムインジウムスズ酸化物(GITO)、および亜鉛インジウムスズ酸化物(ZITO)など透明導電性酸化物を含むことになる。特に、ITOは、光学的禁制帯幅約3.2eVを有する高濃度ドープの縮退したn+半導体であり、約3900Åより長い波長に対して透過性を示す。他の適切な金属代替物は透明導電性ポリマーのポリアナリン(PANI)およびその化学的同類である。金属代替物はさらに広範な非金属材料から選択でき、ここで用語「非金属」は、この材料が化学的に未結合の形態中に金属のないものであるという条件で、広範な材料を包含するものとする。化学的に未結合の形態中に、金属単独か合金として1つまたは複数の他の金属と結合して、金属が存在する場合は、この金属は、代わりに金属形態で存在している、あるいは「フリーメタル」であると見なされてよい。したがって、本発明の金属代替物の電極が、ときに「メタルフリー」と呼ばれることがあり、この場合、用語「メタルフリー」は、この未結合の形態中に金属のない材料を含むことを特に意味するものとする。一般的に、フリーメタルは、金属格子全体にわたる電子伝導帯中に自由に動けるたくさんの価電子から生じる金属結合の形態を有する。一方、金属代替物は、いくつかのベース上に「非金属」である金属成分を含むことがある。これらは純粋のフリーメタルでも、フリーメタルの合金でもない。これらの金属形態中に金属が存在する場合、この電子伝導帯は、他の金属特性、高い電気導電度ならびに光放射に対する高い反射率の間を与える傾向がある。
【0039】
有機感光オプトエレクトロニクスデバイス100は、感光オプトエレクトロニクスデバイスの1つまたは複数の透明電極として、Parthasarathy等の米国特許第6420031号に開示されたような高度に透明で、非金属、低い抵抗のカソード、あるいはForrest等の米国特許第5703436号に開示されたような十分効率的で、低い抵抗の金属/非金属複合カソードを含んでよく、これらは共に参照によりそのまま本明細書に組み込まれる。それぞれの種類のカソードは、高度に透明で、非金属、低抵抗のカソードを形成するために銅フタロシアニン(CuPc)などの有機材料の上か、十分効率的で、低い抵抗の金属/非金属複合カソードを形成するためにMg:Ag薄膜層上のいずれかにITO層をスパッタで堆積するステップを含む製造工程で準備するのが好ましい。
【0040】
本明細書で、用語「カソード」は次のような方法で使用される。周囲の放射の下で、抵抗負荷と接続され、外部から印加される電圧のない、例えばPVデバイスなど、非スタック型PVデバイスまたは単一ユニットのスタック型PVデバイスでは、電子は光電導材料からカソードへ移動する。同様に、本明細書で用語「アノード」は、照射の下にあるPVデバイスにおいて正孔が光電導材料からアノードへ移動するように使用され、これは逆に移動する電子と等価である。本明細書で使用される用語、アノードおよびカソードは電極または電荷輸送層であってよいことを留意されたい。
【0041】
有機感光デバイスは、光が吸収され、励起状態または「励起子」を形成し、その後電子と正孔に解離する少なくとも1つの光活性領域を含むことになる。励起子の解離は、通常、アクセプタ層とドナー層の並置によって形成されたヘテロ接合の所で生じる。例えば、図1のデバイスでは、「光活性領域」はドナー層125と、アクセプタ層130とを含んでよい。
【0042】
アクセプタ材料は、例えばペリレン、ナフタレン、フラーレンまたはナノチューブによって構成されてよい。アクセプタ材料の一例は、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリクビス-ベンズイミダゾール(PTCBI)である。代替的にアクセプタ層は、参照によりそのまま本明細書に組み込まれる、米国特許第6580027号に説明されているフラーレン材料で構成されてよい。アクセプタ層に隣接するのは、有機ドナー型材料層である。アクセプタ層とドナー層の境界は、内部に生成された電界を発生できるヘテロ接合を形成する。ドナー層用の材料は、フタロシアニンもしくはポルフィリンまたは誘導体または銅フタロシアニン(CuPc)などそれらの遷移金属錯体でよい。別の適切なアクセプタおよびドナー材料が使用されてもよい。
【0043】
光活性領域中に有機金属材料を使用することにより、このような材料を組み込むデバイスは、効率的に三重項励起子を利用することができる。一重項と三重項のミキシングが有機金属化合物に対して強いので、吸収が、一重項の基底状態から直接、三重項の励起状態へ励起することを含み、一重項の励起状態から三重項の励起状態へ変換することに伴う損失を除くことができると考えられている。一重項励起子と比べて三重項励起子の長い寿命および拡散長は、三重項励起子がドナーアクセプタヘテロ接合に到達するのにデバイス効率を犠牲にせずに、もっと長い距離を拡散できるので、より厚い光活性領域の使用を可能にする。
【0044】
有機スタック層は1つまたは複数の励起子阻止層(EBL)を含んでよい。例えば、励起子阻止層は、技術の背景説明に対する参照によりそれぞれ本明細書に組み込まれる、Baldo等の米国特許第6097147号、Peumans等の文献Applied Physics Letters 76、2650-52(2000)およびForrest等の米国特許第6451415号に開示されている。光生成励起子を解離する界面近くの領域に限り、また感光有機/電極境界の所で寄生の励起子クエンチングを防ぐためにEBLのインクルージョンによって、より高い内部および外部量子効率が達成されてきた。励起子が拡散できる容積を制限することに加え、EBLは、電極の堆積の間に導入される物質に対する拡散障壁としての働きもできる。場合によって、EBLは、それ以外では有機PVデバイスが機能しなくなるおそれがある、ピンホールまたは短絡欠陥を埋めるために十分厚くすることができる。したがってEBLは有機材料上に電極が堆積される場合、脆い有機層に損傷が生じないように保護する働きもできる。
【0045】
EBLでは、EBLの励起子阻止特性は、励起子がブロックされている隣接有機半導体のエネルギーギャップより実質的に大きなLUMO-HOMOエネルギーを有していることから引き出されていると一般に考えられている。したがって、閉じ込め励起子は、エネルギーの考慮からEBL中での存在を妨げられている。一方、EBLが励起子をブロックするのは望ましいが、EBLが全ての電荷をブロックすることは望ましくない。しかし、隣接のエネルギー準位の特性によってEBLは、1つの符号の電荷キャリアをブロックできる。設計により、EBLは2つの他の層、通常、有機感光半導体層と電極または電荷輸送層の間に在ることになる。隣接の電極または電荷輸送層は、文脈ではカソードかアノードのどちらかであることになる。したがって、デバイス内の所与の配置においてEBL用の材料は、所望の符号のキャリアが電極または電荷輸送層への移動の際に妨げられないように選択されることになる。エネルギー準位の位置合わせを適切に行うことで、確実に直列抵抗の増加を防ぎながら電荷移動に際して障壁がないようにする。以下に説明する新しい発見より前では、カソード側EBLとして使用される材料は、電子に対し任意の望ましくない障壁を最小にすることになるように、隣接のETL材料のLUMOエネルギー準位に厳密に一致するLUMOエネルギー準位をもつことが望ましいと一般的に考えられていた。例えば、Lazarev等の2004年4月8日に公開された米国特許公開第2004-0067324Al号を参照のこと。
【0046】
材料の励起子阻止特性は、この材料のHOMO-LUMOエネルギーギャップの固有の特性ではないことを理解されたい。所与の材料が励起子ブロッカとして働くことになるかどうかは、隣接の有機感光材料の相対的HOMO-LUMOエネルギー準位に依存し、その上にこの材料のキャリア移動度およびキャリア電導度に依存する。したがって、励起子ブロッカが使用されることがあるデバイス状況に関係なく励起子ブロッカとして分離に関し化合物のクラスを特定することはできない。しかし、本明細書の教示と共に、当技術分野の通常の技術者の一人が、有機PVデバイスを構成するために選択された1組の材料と共に使用される場合に所与の材料が励起子阻止層として機能することになるかどうかを特定することはできる。
【0047】
EBL135はアクセプタ層とカソードの間に配置されてよい。当技術分野で既知のEBL材料の例は、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-ペナントロリン(バソカプロインつまりBCPとも呼ばれる)であり、約3.5eVのLUMO-HOMOエネルギー準位の分離を有すると考えられ、あるいはビス(2-メチル-8-ヒドロキシキノリノアト)-アルミニウム(III)フェノラート(Alq2OPH)である。以下に説明される本発明の前には、BCPは電子をアクセプタ層からカソードで移動させると考えられていた。
【0048】
EBL層135は適切なドーパントでドープされてよい。本発明の電荷移動特性に必ずしも合致するドーパントでないが、例示のドーパントは、3,4,9,10-ペリレントテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PTCDA)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリックジイミド(PTCDI)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリック-ビス-ベンジミダゾール(PTCBI)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(NTCDA)およびこれらの誘導体を、限定しないが含む。
【0049】
堆積させる場合、EBL材料はアモルファスでよい。このようなアモルファス励起子阻止層は、強い光強度の下で特に速い可能性があるフィルムの再結晶化を示すことがある。結果として多結晶材料への形態変化により、考えられる、ショート、ボイドまたは電極材料への貫入などの欠陥を伴う低品質のフィルムになるおそれがある。それに応じて、適切な、比較的大きく安定した分子を用いる、この影響を示しているいくつかのEBL材料へのドーピングが、EBLの構造を安定化し、性能を劣化させる形態変化を防止できるということが見出されている。EBLのそれに近いLUMOエネルギー準位をもつ材料を用いて、所与のデバイス内で電子を移動させているEBLにドーピングすることは、空間電荷の増加を引き起こし性能を低下させることになる電子トラップが、形成されないことを保証する働きもすることをさらに理解されたい。同様に、EBLのそれに近いHOMOエネルギー準位をもつ材料を用いて、所与のデバイス内で正孔を移動させているEBLにドーピングすることは、空間電荷の増加を引き起こし性能を低下させることになる正孔トラップが、形成されないことを保証する働きもすることを理解されたい。さらに、比較的低いドーピング濃度は、孤立したドーパントサイトでの励起子の発生を最小にすることになることを理解されたい。このような励起子は、取り囲んでいるEBL材料によって効果的に拡散を妨げられるので、このような吸収がデバイス光変換効率を減少させる。
【0050】
有機感光オプトエレクトロニクスデバイス100は、やはり透明電荷輸送層または電荷再結合層を含んでよい。本明細書で説明される電荷輸送層は、必ずではないが多くの場合、無機(しばしば金属)であり、かつ光電導上で活性でないように選択されることがあるという事実によってアクセプタおよびドナー層と区別される。本明細書で用語「電荷輸送層」は、デバイス外部への電気接続をもたず、かつ電荷キャリアをオプトエレクトロニクスデバイスの一小区分から隣接小区分へ単に送達する点で、電極と類似であるが、しかし電極とは異なる層を指すのに使用される。本明細書で用語「電荷再結合層」は、タンデム型感光デバイスの間で電子と正孔の再結合を可能とし、かつ1つまたは複数の活性層近傍で内部の光電場強度を増大させることもできる点で、電極と類似であるが、しかし電極とは異なる層を指すのに使用される。電荷再結合層の構造および材料のその開示に対し本明細書に組み込まれる、Forrest等の米国特許第6657378号に説明されているように、電荷再結合層は、半透明金属ナノクラスタ、ナノ粒子またはナノロッドから構成できる。
【0051】
アノード平滑層120は、アノード層とドナー層の間に配置されてよい。この層に対する好ましい材料は、3,4-ポリエチレンジオキオフェイン:ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)である。アノード(ITO)とドナー層の間にPEDOT:PSS層を導入することにより、製造歩留まりの大幅な改善がもたらされる可能性がある。これはITOの平坦化に対する、スピンコートPEDOT:PSSフィルムの能力に帰せられ、そうでないとITOの荒れた面には、薄い分子層を貫通するショートを生じることがある。
【0052】
1つまたは複数の層が、次の層の堆積の前にプラズマで処理されることがある。これらの層は、例えば中程度のアルゴンまたは酸素プラズマで処理されてよい。この処理は直列抵抗を低減するので有益である。特に、PEDOT:PSS層では、次の層の堆積前に中程度のプラズマ処理にかけるのが有利である。
【0053】
図1に図示した簡単な層構造は、限定でない例示として提供されており、本発明の実施形態は様々な種類の他の構造に関しても使用できると理解されたい。説明された特定の材料および構造は、本来、例示であり、他の材料および構造も使用できる。機能デバイスが、説明された、いくつかの層を異なる方法で組み合わせることにより達成されてよい、あるいは、これらの層が設計、性能およびコスト要因に基づいてすっかり除かれる場合もある。特に説明されてない他の層が、やはり含まれてよい。特に説明されたこれら以外の材料も使用できる。本明細書で提供された多くの例では、種々の層が単一の材料を含むとして説明しているが、ホストとドーパントの混合物、またはもっと普通に混合物などの、材料の組合せが使用されてよいことを理解されたい。やはり層はいくつかの副層を有してよい。本明細書でいくつかの層に対して与えられた名称は、厳密に限定しているものでない。光活性領域の一部でない有機層、つまり光電流に対し重要な寄与をする光子を通常吸収しない有機層は、「非光活性層」と呼ばれることがある。非光活性層の例には、EBLおよびアノード平滑層を含む。別の種類の非光活性層も使用されてよい。
【0054】
感光デバイスの光活性層に使用する有機材料には、シクロメタル化有機金属化合物を含んでよい。本明細書で、使用する用語「有機金属」は、当業者には一般に既知であり、例えばGary L. Miessler、Donald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(2nd Edition)、Prentice Hall、(1998)、に与えられている。したがって用語、有機金属は炭素-金属結合を介して金属に結合された有機基を有する化合物を指す。この分類は、アミンの金属錯体、ハライド、シュードハライド(CN等)などのヘテロ原子からのドナー結合のみを有する物質である配位化合物を本質的に含まない。実際に、有機金属化合物は通常、有機化学種への1つまたは複数の炭素-金属結合に加えて、ヘテロ原子からの1つまたは複数のドナー結合を含む。有機化学種への炭素-金属結合は、金属と、例えばフェニル、アルキル、アルケニルなど有機基の炭素原子との間の直接結合を指し、CNまたはCOなどの「無機炭素」への金属結合に対しては言わない。用語シクロメタル化は、金属との結合上に環構造が形成されるように、環員の1つとして金属を含む二座配位有機金属リガンドを含む化合物を指す。
【0055】
有機金属層は、真空蒸着、スピンコーティング、有機気相成長、インクジェット印刷および当業者に既知の他の方法を用いて製造できる。
【0056】
本発明の実施形態の有機感光オプトエレクトロニクスデバイスは、太陽電池、光検出器、光導電体として機能することができる。本発明の有機感光オプトエレクトロニクスデバイスがPVデバイスとして機能する時はいつも、有機光導電層に使用される材料およびその厚さは、例えばデバイスの外部量子効率を最大にするように選択されてよい。本発明の有機感光オプトエレクトロニクスデバイスが光検出器および光導電体として機能する時はいつも、有機光導電層に使用される材料およびその厚さは、例えば所望のスペクトル範囲に対してデバイスの感度を最大にするように選択されてよい。
【0057】
この成果は、層厚さの選択の際に用いることができるいくつかのガイドラインを考慮することにより達成できる。ほとんどの励起子解離は界面の所で生じることになると考えられるので、励起子の拡散長LDが層厚さLよりも厚いか同程度であることが望ましい。もしLDがLより短いと、多くの励起子が解離する前に再結合する可能性がある。PVデバイス上に入射するほとんど全ての放射が吸収されて励起子を生成するように、さらに、全体の光導電層の厚さが電磁放射吸収長さ、1/∀(ここで∀は吸収係数である)程度であることが望ましい。その上に、光導電層の厚さは、有機半導体の高いバルク抵抗率による過度の直列抵抗を避けるために可能な限り薄くすべきである。
【0058】
したがって、これらの競合するガイドラインは、結果として、感光オプトエレクトロニクスセルの有機感光層の厚さを選択する際にトレードオフになる可能性がある。このように、一方では、吸収長さと同程度か、より長い厚さが、最大量の入射放射を吸収するために望ましい(単一セルデバイスに対し)。他方では、光導電層の厚さが増えるので、2つの望ましくない効果が増加する。1つは、有機半導体の高い直列抵抗により、増えた有機層厚さがデバイス抵抗を増加させ、効率を低下させる。もう1つの望ましくない効果は、光導電層の厚さの増加により、励起子が電荷分離界面での効果的な電場から離れたところに生成されることになり、その結果、対再結合の確率が増加し、再度、効率が下がるという公算を増大させることである。したがって、デバイス全体に対し高い外部量子効率をもたらす方法で、これらの競合する効果の間のバランスをとるデバイス構成が望ましい。
【0059】
有機感光オプトエレクトロニクスデバイスは、光検出器としても機能できる。光検出器としてデバイスは、例えば、参照によりそのまま本明細書に組み込まれる、Forrest等の2005年5月26日に公開された米国特許公開第2005-0110007A1号に説明されているように、有機多層デバイスでよい。この場合には、外部電界が、一般に分離された電荷の取り出しを容易にするために印加される。
【0060】
集光器またはトラップ構成が使用され、有機感光オプトエレクトロニクスデバイスの効率を上げることができる。そこでは光子が薄い吸収領域を介して何回も通過させられる。共に参照によりそのまま本明細書に組み込まれる、Forrest等の米国特許第6333458号およびPeumans等の米国特許第6440769号は、吸収を上げるためと、収集効率を増加させる集光器を使用するために光学的な幾何学的配置を最適化することによって、感光オプトエレクトロニクスデバイスの光変換効率を高める構造上の設計を用いることでこの課題に取り組んだ。このような感光デバイスに対する幾何学的配置は、入射放射を反射キャビティまたは導波路構造内でトラップすることによって、またそれにより感光材料を介する多重反射により光を再循環することによって材料中を通る光学路を実質的に増加させる。したがって、米国特許第6333458号および米国特許第6440769号で開示された幾何学的配置は、バルク抵抗の実質的な増加を引き起こすことなくデバイスの外部量子効率を増す。このようなデバイスの幾何学的配置に含まれているのは、第1反射層と、光学的マイクロキャビティの干渉効果を防止するために、あらゆる寸法において入射光の光学的コヒーレンス長より長くなければならない透明絶縁層と、透明絶縁層に隣接する透明第1電極層と、透明電極に隣接する感光へテロ構造と、反射もする第2電極とである。
【0061】
デバイスの所望の領域中に光エネルギーをフォーカスするためにコーティングが使用されてよい。参照によりそのまま組み込まれる、2004年6月1日出願の米国仮出願第10/857747号は、このようなコーティングの例を提供している。
【0062】
有機光起電力(PV)セルは、これらの処理が比較的容易であることおよび可撓性基板との適合性により低コストの太陽エネルギー変換を提供する潜在能力を有する。これらデバイス中の光生成プロセスは、励起子または束縛電子-正孔対のドナーアクセプタヘテロ接合(DA-HJ)での解離に依拠する。しかし、励起子は、再結合前にこの界面へ拡散できるように、DA-HJの十分近くに生成しなければならない。このいわゆる「励起子拡散のボトルネック」を回避するために、小さな分子量の有機半導体ベースのPVセル中で、入り混じったDA材料、長い励起子拡散長をもつ材料を使用し、または直列接続で多数のデバイスを接続することによるなどの、異なる方法が使用されてきた。これら種々の方策を利用するこのようなデバイスの性能が、最近では飛躍的に向上してきて、AM1.5G擬似太陽光源の下で5.7%ほどの高い電力変換効率(ηp)に達している。
【0063】
高効率低分子ベースデバイスは、しばしばアクセプタ型分子層とカソードの間に挿入された励起子阻止層(EBL)を含む。EBLはカソード堆積の間の光活性層への損傷を防ぎ、それによってアクセプタ/カソード界面での励起子クエンチングを解消することを含め多くの機能を果たす。この材料は太陽スペクトルにわたって透明で、光活性領域と金属界面の間のスペーサとして働き、光誘起電荷輸送が生じる活性DA界面での吸収を増やすことを可能にするものでなければならない。さらにEBLは、低いセルの直列抵抗および高い応答性を確保して電荷を移動しなければならない。これら条件の全てを満たす材料の場合に、EBLは、DA-HJの所に入射光の最高強度領域を配置するためにやはり十分厚くなければならない。この領域は、金属カソードから、波長を有機材料の屈折率の2倍で割り(λ/2n)、ほぼ整数倍した距離の所に位置し、これは入射した光電場強度がなくなるという静電的境界条件から必要になる。波長、光強度と、反射金属カソードからの距離の間の関係に対する例が、図14に示されている。EBLの厚さをDA-HJとカソードの間で調整することによって光電場強度のピーク位置が最適化されてよい。
【0064】
やはり、厚いEBLが、実際に低密度の電気的ショートを有する大面積デバイスを製造するのに重要である。バソカプロイン(BCP)が、低分子量有機PV中のEBL材料として一般的に使用されてきた。しかし、BCPの大きなエネルギーギャップと抵抗のため、厚い層として使用することを不適合にしており、増大したセルの直列抵抗がデバイス性能を劣化させる。低い直列抵抗を維持するためのEBLへのドープは、より厚いEBL層を使用可能にする効果的な解決策であることが証明された(Maennig等のApplied Physics A 79、1 (2004)を参照のこと)、厚い3,4,7,8ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド層を用いた例として(Suemori,Applied Physics Letters 85,6269 (2004)を参照のこと)。
【0065】
本明細書で説明した研究以前は、BDPはダメージ媒介の電子電荷輸送によりEBL材料として有効であると考えられていた。デバイス1100中の原理的なキャリア輸送の例が図11に図示されており、そこでは光生成電子が、EBL1135を介するダメージ媒介電荷輸送1271によってアクセプタ1130からカソード1140および負荷90に移動している。図12に図示したようにAgカソード層1140の形成がBCPのEBL1135内にダメージを発生させ、これが電子をアクセプタ1130からカソード1140へ移動可能にしていると考えられてきた。図12でもアノード1115およびドナー1125が図示されている。例えば、BCPのダメージ誘起電子輸送の例として、Forrest等の2002年12月19日に公開された米国特許公開第2002/0189666A1号を参照のこと。
【0066】
BCPのダメージ誘起で決まる電子輸送という考えは、ドーパントの選択(もしあれば)および使用されるかもしれない他の材料の選択(例えばBCPの代わりに)を含む、いくつかの実用的な帰結を有していた。しかし、キャリア輸送がカソード誘起ダメージにより決まるので、BCPは、比較的浅いダメージ効果により厚い層に対して不適合であるとみられ、その結果、厚い層に対し高抵抗になった。この知見が、EBLの厚さについて制限として働き、ピーク光強度の位置が調整できるはずである、その範囲が制限されている(例えば、図14)。さらに、BCPベースのEBLは、ほとんどの反転デバイス(基板近くにカソードをもつデバイス)に対して、カソード上に堆積されるEBLが損傷を受けず、したがって薄い場合でさえ高抵抗になってしまうので不適合であると見られた。
【0067】
本明細書で説明した研究が、BCPを介するダメージ誘起電子輸送の広くゆきわたっている原理が間違いである可能性を明らかにした。以下に説明し、図13に図示した新しい結果は、EBL1335が、実際は、アクセプタEBL界面の所に生じた電子-正孔再結合と共に、ダメージ媒介電荷輸送1372を介して解離した正孔をカソード1140からアクセプタ1130へ移動させるということをあらわにしている。ダメージ状態がBCP内の電荷輸送に対し係わっているということについての一般的な原理は正しいことがわかったが、輸送されるキャリアの特定が間違っていたようだ。
【0068】
カソードの所で解離した正孔が、再結合するためにアクセプタに運ばれるという知見は、われわれにデバイス設計に対するいくつかの基本原則を再度取り上げさせた。特に、アクセプタとカソードの間でEBL層として使用できると検討されなかった材料の新しいクラス全体が、現在検討可能になった。さらに、ドーパントがEBLに添加される場合(例えばアモルファス状態を維持するために)、ドーパントの選択は、正孔の輸送を補完するようさらに最適化し得る。
【0069】
図2A、2Bは、本発明の実施形態によるデバイス200の動作を図示する。正孔がカソード140で電子と解離し、アクセプタEBL界面の所で再結合するためにEBL135を通って移動する。デバイスは、標準(上部がカソード)または反転(底部がカソード)デバイスでよいので、デバイス200の向きは重要ではない。
【0070】
この新しい動作原理を適用し、材料のエネルギー準位特性が図2Bに明示したように選択されてよい。
【0071】
従来設計と違う第1変更点はアクセプタ130のHOMOに対するEBL135のHOMO位置である(ΔE2)。従来技術の設計では、EBLは励起子クエンチングを防ぐのに主に正孔ブロックに頼るように設計されたので、アクセプタのHOMOはEBLのHOMOより高い(より小さい負)必要があった。しかし、本発明の実施形態は主に正孔輸送を利用するので、EBL135のHOMOはアクセプタ130のHOMOより高いか、または同等に設定できる。
【0072】
従来設計と違う第2変更点は、少なくとも10-7cm2/V-sec以上の正孔移動度をもつEBL材料を選択することである。BCPなどの材料中のダメージ誘起キャリア輸送では、材料の移動度自体には頼らないが、EBLを介するキャリア輸送のためにダメージのない材料が選択された場合は、キャリア移動度は考慮すべき重要なことになる。しかし、カソードの所での正孔解離の現象が認識されなかったので、従来技術から起きることは、正孔よりむしろ、電子の移動度を最大化することになる。この少なくとも10-7cm2/V-sec以上の比較的高い正孔移動度は、デバイス性能を劣化させることになる、励起子拡散のボトルネックを超えるEBL抵抗率によって支配されるのを回避するための閾値として与えられる。少なくとも10-6cm2/V-sec以上などのより高い移動度が好ましい。
【0073】
従来設計と違う第3変更点は、カソード140のフェルミ準位(EF)とEBL135のHOMOの間のエネルギー準位差(ΔE1)である。従来技術では、フェルミ準位の位置はEBLからカソードへの電子の注入に対し最適化された。この新しい知見を適用することで、フェルミ準位が、カソードからEBLへの正孔の注入のためにさらに最適化されてよい。良好な正孔の注入のために、カソードのフェルミ準位は、励起子阻止層のHOMOより1eV以下高いことが好ましい。カソードのフェルミ準位がEBLのHOMOより高くないことはさらに好ましい。これは、カソードの仕事関数が、EBLのイオン化ポテンシャルより1eV以下小さいとも表現でき、ここでイオン化ポテンシャルは真空準位とHOMOの間のエネルギー差である。
【0074】
従来設計と違う第4変更点は、アクセプタ130のLUMOとLUMO135のHOMOの間のエネルギー準位差ΔE3である。従来技術では、EBLのHOMOはアクセプタからEBL(励起子ブロックの手段として)への正孔の注入をブロックするように選択されたので、この差は一般的に非常に大きい。しかし、本発明の実施形態ではEBLを介するアクセプタへの正孔輸送を使用するので、より大きな差ΔE3は、結果として電子正孔の再結合(例えばフォノン生成)に対しエネルギー損失を生じる。したがって、正孔/励起子をブロックするために従来技術のように大きなΔE3を使用するよりむしろ、この差ΔE3は最小化することが好ましい。励起子阻止層135のHOMOは、アクセプタ130のLUMOより1eV以下低いことが好ましい。
【0075】
EBL135に使用される材料は、ドーパントおよび不純物のない状態で少なくとも10-7cm2/V-sec以上の正孔移動度を有することが好ましい。しかし、それは、EBL135がドープされないということではない。例えば、前述したように、EBL135は、再結晶化防止に役立つようドープされてよい。
【0076】
EBL135が励起子をブロックし正孔を移動させる限り,EBL材料の電子関連特性は必須ではない。励起子が通過できず、したがってカソード140の所でクエンチ不能である限り、多少の電子輸送は容認し得る。例えば全ての再結合がアクセプタEBL界面の所で生じる必要はなく、再結合はEBL自体の中でも生じることがある。
【0077】
図2Aでは、デバイス200は、光起電力を示唆する抵抗負荷90に接続されて図示されているが、負荷があるのは単に説明のためである。実際には、デバイス200は、光伝導セル(この場合、デバイスは光吸収によるデバイス両端の抵抗の変化をモニタする信号検出回路に接続されることになる)、または光検出器(この場合、デバイスは、検出器が光に露出された時に生成する電流を測定する電流検出回路に接続されることになり、またバイアス電圧がデバイスに対して印加されることがある)を含む任意の種類の感光セルであってよい。これは他の図の中のデバイスに対しても当てはまる。
【0078】
平滑層120などの介在ずる層が図2Aには示されていないが、他の層が存在することもあり得る。これは他の図の中のデバイスに対しても当てはまる。
【0079】
実験
本発明の実施形態に対する好ましいパラメータを満たす実験的デバイス構造300が、図3Aおよび3Bに図示されている。C60はアクセプタ330として、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac)3)はEBL材料335として、およびAgは電極340として選択された。さらにITOがアノード315として使用され、CuPCがドナー325として使用され、基板310はガラスである。BCPベースデバイスと比較して、EBL335の厚さは、電力変換効率の損失なしに増やすことができる。
【0080】
BCPとRu(acac)3ベースデバイスの間の阻止層性能の差を理解するために紫外線光電子分光法(UPS)が使用されC60/EBL界面の所で最高占有分子軌道(HOMO)準位のオフセットエネルギーを測定し、BCP内の電荷移動がAgカソード堆積の間に引き起こされたダメージによることを示す以前の研究を確認し、一方、Ru(acac)3の小さなイオン化ポテンシャルがタイプIIC60/Ru(acac)3HJへの正孔の移動を可能とし、そこで光生成電子との再結合が生じることがある。
【0081】
図4は、以下の構成のデバイスに対する暗所および1sun(100mW/cm2)AM1.5G擬似太陽光源の下での電流密度-電圧(J-V)特性を示し、その構成は、ITO/CuPc/C60/EBL(200Å)/Ag(ITO:インジウムスズ酸化物、CuPc:銅フタロシアニン)、ここでEBLはBCP(黒丸)かRu(acac)3(四角)のいずれかから成る。暗所のJ-V特性を古典的なp-n接合ダイオード理論に合わせると、直列抵抗Rs=40.6Ωcm2およびRs=3.6Ωcm2および理論係数n=2.2±0.1およびn=1.9±0.1が、それぞれBCPおよびRu(acac)3デバイスに対して推定できる。BCPおよびRu(acac)3デバイスの1sun照射下での感度は(Jsc/P0に等しく、ここでJscは短絡電流密度、P0は入射光強度である)は、それぞれの曲線因子FF=0.29±0.02およびFF=0.58±0.03と共に、(0.07±0.01)A/Wおよび(0.09±0.01)A/Wである。開放電圧Voc=(0.52±0.02)Vが両方のデバイスに対して得られた。これらの特性から、結果として、セルの電力変換効率ηp=(VocJscFF)/P0は、それぞれ200Å厚さのBCPおよびRu(acac)3EBLデバイスに対してηp=(1.1±0.1)%および(2.7±0.2)%である。
【0082】
図5Aおよび5Bは、図4のデバイス構成に対するEBL厚さの関数として感度とFFをそれぞれ示す。EBLが無いデバイスは、C60表面上へのAg堆積の間に誘起された欠陥とともにC60/Ag界面でのクエンチングにより、感度もFFも共に低いことに注意されたい。BCPおよびRu(acac)3デバイスは厚さ100Åの所で性能のピークを示している。しかし、BCPデバイスの感度およびFFは、より大きなEBL厚さに対して急激に低下し、その一方でRu(acac)3デバイスの感度は、厚さが増えると共にDA界面での光強度の低下によりもっとゆっくり落ちる。この効果は他で導入したモデルを用いて正確に予測される(図5Aの実線)。EBL厚さ<50Åで光学モデルから外れるのはC60/Ag界面での励起子のクエンチングによる。
【0083】
HOMOのエボリューション、またはC60とEBLの間の有機界面のイオン化ポテンシャルを、これら2つのダブルへテロ構造のPVセルを理解する手段として調べるために紫外線光電子分光法(USP)が使用された。厚さ200ÅのC60フィルム上のBCP被覆のUPSスペクトルのエボリューションが図6に示されている。整然としたC60フィルムのUPSスペクトル(図6の一番下のスペクトル)および、(6.2±0.1)eVおよび(6.5±0.1)eVのBCPに生じたHOMO準位は、それぞれ以下の文献値と一致する(Hill等のJournal Applied Physics 86,4515 (1999)、Mitsumoto等の Journal of Physical Chemistry A 102, 552 (1998)を参照のこと)。図6に見られるように、C60上のBCPの堆積量を増加すると、高い束縛エネルギーの方へスペクトルがしっかりシフトすることになる。これはバンドの曲がりか広いエネルギーギャップのBCP層内の電荷のいずれかによって引き起こされる。8および16ÅのBCP被膜厚さのUSPスペクトルをガウス分布に合わせることにより、HOMO準位が高い束縛エネルギーの方に〜0.3eVオフセットすることが推測でき、真空準位がC60/BCP界面の所で整合していることを示す。BCP被覆32Åの堆積上で、UPSスペクトルは、整然としたBCPのスペクトルと似ており、C60が完全にカバーされていることを示す。
【0084】
整然としたRu(acac)3のスペクトル、およびC60/Ru(acac)3HJのエボリューションは、図7に見られる。Ru(acac)3のHOMO準位は(4.9±0.1)eVと測定される。C60上に薄膜Ru(acac)3が堆積すると、バンドの曲がりあるいは電荷の効果による、別のスペクトルのしっかりしたシフトが観察される。Ru(acac)3のHOMOは、(1.3±0.1)eVであり、C60のそれより小さく、これはC60/Ru(acac)3界面で、適切な界面の双極子の存在のない、真空準位の整合を示す。
【0085】
UPSの結果は、2つのダブルHJPVセルの図3Bおよび図13にあるエネルギーダイアグラムを示唆する。ここで、HOMOエネルギーはUPS測定から得られ、それに対し最小非占有分子軌道(LUMO)エネルギーは、各材料の光学的エネルギーギャップを用いて推定される。BCPデバイスの場合(図13)、Agカソード堆積はBCP層を介するキャリアのダメージ媒介電荷輸送を可能にする。前に示したように、ダメージ深さは〜100Åであり、厚いBCP EBLを用いると、結果として光電流は減ってしまう(図5A参照)。C60とEBLの間でLUMO-LUMOオフセットは、2つの材料に対し、C60/BCPで〜(1.5±0.1)eV、C60/Ru(acac)3で〜(1.7±0.1)eVとほぼ同じであることに注意されたい。したがって、光生成された電子が、Ru(acac)3層を介して移動することはありそうにない。さらに、Ru(acac)3の正孔伝導度は、電子の値を超える、2桁大きい値のσh=2.2×10-7S/cmであると測定される。しかし、エネルギーの整合からは、正孔はAgカソードからRu(acac)3層へ注入でき(図3B)、C60/Ru(acac)3界面で電子と再結合する前に移動することが、示唆される。
【0086】
このプロセスを確認するために、以下の層構成を有する2つのデバイスの性能を比較した。すなわち、デバイスA:ITO/CuPc/C60/Ru(acac)3/BCP/AgおよびデバイスB:ITO/CuPc/C60/BCP/Ru(acac)3/Ag。これら2つのデバイスの感度が図8に示されている。Ru(acac)3/BCP EBLから成るデバイスAは、300Åまでの厚さのRu(acac)3のためのBCP EBLだけを含むデバイスと同等の感度を有する。デバイスBは、任意のRu(acac)3層の厚さに対してデバイスAよりも3桁低い感度を有する。これは、Agカソード堆積の間のBCP層へのダメージがRu(acac)3キャップによって妨げられたため、光生成電子がカソードへ移動することができないためである。それに対し、BCPは図13で示唆したように、デバイスA内のダメージ誘起欠陥状態を介して正孔をRu(acac)3層へ移動させることができる。
【0087】
EBL特性を調べるために、シート抵抗15Ω/□をもつガラス基板上に商業的にプリコートされた厚さ1500ÅのITOの層上に小さな分子量のPVセルが作製された。溶剤で洗浄したITO表面が、基板を高真空チャンバ(〜3×10-7Torr)に入れる直前に、5分間紫外線/O3処理され、ここで、熱蒸着によって有機層とAgカソードを堆積させた。石英モニタを使ってフィルム厚さと成長速度を決定した。堆積前に有機材料を真空温度勾配昇華法を用いて3回浄化した。デバイスの構成は、厚さ200Åのドナーの層、CuPc、厚さ400ÅのC60アクセプタ層、およびBCP(図6に挿入)またはRu(acac)3(図7に挿入)からなるEBLからなる。最後に厚さ1000ÅのAgカソードは、1mm直径開口のシャドーマスクを通して蒸着した。J-V特性は暗所とAM1.5G擬似太陽光源(Oriel Instruments)の下で、HP4155B半導体パラメータ分析器を用いて測定した。照射強度は較正済みの広帯域パワーメータを用いて測定した。UPSで調べた有機材料は超高真空有機分子ビーム蒸着法によって、in-situで堆積させた厚さ500ÅのAg層でコーティングした高濃度ドープn-Si(100)基板上に成長させた。光子源としてVGUPS/2ランプ(Thermo VG Scientific)からのHeI放射(21.22eV)を使用し、スペクトルはマルチチャネル半球型VGCLAM4電子エネルギー分析器によって集められた。UPS測定の分解能は0.1eVである。
【0088】
実際に作製していないが図9Aおよび9Bは、反転デバイス90を示す。基板901は透明でもそうでなくてもよい。同様に図10Aおよび10Bは複合カソード1040を使用するデバイス1000を示す。前述したように任意の種類の複合カソード1040が使用されてよい。この例では複合カソードは薄い金属カソード1041と非金属カソード1042とを含む。非金属カソード1042については、表面処理してない(ITO*) 室温スパッタされたITOが金属カソードとつり合う仕事関数を達成するために使用される。ITO*に対する仕事関数は4.0eV〜4.3eVと低くてよい。比較のために、商業的に得られるITOおよびアノードに使用されるITOは、仕事関数4.8eVを得るように表面処理(例えば、UV-オゾン、酸素プラズマ)された。デバイス1000は、透明アノードおよび基板で示されているが、反射アノード(例えば、金)、介在層または基板材料が使用されてよい。同様に、図9では、透明カソード(例えばITO*)および基板が使用されてよく、またアノードが反射型(例えば、金)で作られるか、反射層が追加されるかのいずれでもよい。
【0089】
最後に、効率的な有機ダブルヘテロ構造太陽電池が、電荷輸送のためにカソード誘起ダメージに頼らない励起子阻止層を使用して示されてきた。実験により、300Åまでの厚さのRu(acac)3に対し高い電力変換効率を得られることが見出された、それに対しBCPベースデバイスは、厚さが厚い所で、感度も曲線因子も共に急速に落ち込む。Ru(acac)3励起子阻止層は、金属の堆積誘起ダメージよりむしろエネルギー準位の整合によっているので、その厚さは、入射光強度が最大となる領域に電荷生成層を配置するように最適化設計でき、それにより有機太陽電池に使用される特性的に薄い有機層で電力変換効率を最大化し、大面積デバイス内の電気的ショートの可能性も低減される。
【0090】
本発明が、特定の例および実施形態に関して説明されてきたが、本発明が、これらの例および実施形態に限定されないことを理解されたい。当業者には明らかであるように、特許請求された本発明は説明された特定の例、および好ましい実施形態からの多くの変形形態を含んでよい。
【符号の説明】
【0091】
90 反転デバイス
90 負荷
100 有機感光オプトエレクトロニクスデバイス
110 基板
115 アノード
120 アノード平滑層
125 ドナー層
130 アクセプタ
130 アクセプタ層
135 LUMO
135 阻止層
140 カソード
200 デバイス
310 基板
315 アノード
325 ドナー
330 アクセプタ
335 EBL材料
340 電極
901 基板
1000 デバイス
1040 複合カソード
1041 金属カソード
1042 非金属カソード
1100 デバイス
1115 アノード
1125 ドナー
1130 アクセプタ
1135 EBL
1140 カソード
1140 Agカソード層
1271 ダメージ媒介電荷輸送
1372 ダメージ媒介電荷輸送

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードと、
前記アノードと前記カソードの間に接続されたドナーアクセプタ接合を形成するドナー型有機材料およびアクセプタ型有機材料と、
前記ドナーアクセプタ接合の前記アクセプタ型有機材料と前記カソードの間に接続される励起子阻止層であって、前記カソードのフェルミ準位が前記励起子阻止層のHOMOより1eV以下高い励起子阻止層とを含む感光セル。
【請求項2】
前記カソードの前記フェルミ準位が、前記励起子阻止層の前記HOMOを超えない高さである、請求項1に記載の感光セル。
【請求項3】
前記励起子阻止層の前記HOMOが、前記アクセプタ型有機材料のHOMO以上の高さである、請求項1に記載の感光セル。
【請求項4】
前記励起子阻止層の前記HOMOが、前記アクセプタ型有機材料のLUMOより1eV以下低い、請求項1に記載の感光セル。
【請求項5】
前記励起子阻止層が、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)を含む、請求項1に記載の感光セル。
【請求項6】
前記励起子阻止層が、本質的に、少なくとも10-7cm2/V-sec以上の正孔移動度を有する材料からなる、請求項1に記載の感光セル。
【請求項7】
前記励起子阻止層が、本質的に、少なくとも10-6cm2/V-sec以上の正孔移動度を有する材料からなる、請求項1に記載の感光セル。
【請求項8】
前記材料が、ダメージ-媒介電荷輸送の無い状態で、少なくとも10-7cm2/V-sec以上の前記正孔移動度を有する、請求項6に記載の感光セル。
【請求項9】
前記材料が、ドーパントおよび不純物のない状態で少なくとも10-7cm2/V-sec以上の前記正孔移動度を有する、請求項8に記載の感光セル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−23405(P2012−23405A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237036(P2011−237036)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2008−516912(P2008−516912)の分割
【原出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(502023332)ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (20)
【Fターム(参考)】