説明

逆浸透膜エレメントの再使用方法

【課題】使用済みの逆浸透膜エレメントの発生量の低減を図ることが可能な逆浸透膜エレメントの再使用方法を提供することである。
【解決手段】事業所10においては、同種類の逆浸透膜エレメントを用いて用水処理工程1、プロセス処理工程2および排水処理工程3が行われる。これらの処理工程1〜3において、最も高い分離精度が要求されるのはプロセス処理工程2であり、続いて用水処理工程1、排水処理工程3の順に要求される分離精度が低くなる。逆浸透膜エレメントを、まずプロセス処理工程2において使用する。使用に伴い分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを次に用水処理工程1において再使用する。さらに分離膜精度が低下した逆浸透膜エレメントを、排水処理工程3において再使用し、その後、廃棄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜モジュールに用いられる逆浸透膜エレメントの再使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純水や用水の造水プロセス、食品や薬品等の製造プロセス、生活排水や産業排水等の排水処理プロセス等において、原水から固形物質や溶解性物質を分離するのに分離膜モジュールが多く使用されている。
【0003】
近年では、水道水の浄水処理プロセスに精密濾過膜モジュールや限外濾過膜モジュールが使用され始めた。また、海水淡水化には逆浸透膜モジュールが使用されている。例えば、40000m3 の海水を一日で淡水化する海水淡水化装置の場合、直径約200mm、長さ約1000mm、重さ約20kgの逆浸透膜エレメントが約3000本用いられる。このように処理容量が大型化し、分離膜モジュールの使用量も激増しつつある。
【0004】
また、最近、地球環境保全が大きくクローズアップされ、河川、湖沼等への放流水の水質基準が一段と厳しくなっている。これを解決するため、高度処理法として膜分離技術の利用が欠かせないものとなっている。また、循環型社会の実現に向けて、排水の再利用にも膜分離技術が大きく貢献している。このように分離膜モジュールの用途がますます拡大する傾向にあり、分離膜モジュールのニーズはさらに増すと考えられる。
【0005】
一般に、分離膜を濾過装置として使える形にしたものを分離膜モジュールといい、圧力容器(ベッセル)内に分離膜エレメントが装填された形になっている。分離膜エレメントは、他の濾過フィルタ同様に、使用に伴い除去物質により汚染され、分離精度、分離速度等の分離性能が低下する。このため、適宜、逆流洗浄等の物理的または薬品等による化学的洗浄を行って、分離膜エレメントの性能を回復させている。しかしながら、強力な薬品等を用いた洗浄等により、分離膜の分離精度が徐々に低下し、長くても数年で寿命となる。このため、分離膜モジュール内の分離膜エレメントの交換が必要となる。現在までは、使用済みの分離膜エレメントの発生量が比較的少なかったため、焼却や埋め立てにより処分を行っていた。
【0006】
しかしながら上述したように、分離膜モジュールの使用は、今後、さらに増加すると予想され、それに伴う使用済みの分離膜エレメントの大量発生が見込まれる。地球環境の保全が注目される昨今、使用済みの分離膜エレメントのリサイクルの確立が強く要望されるようになった。
【特許文献1】特開平10−202296号公報
【特許文献2】特開昭51−119685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分離膜エレメントは、分離膜、集水管、外装材およびパッキンから構成される。分離膜、集水管および外装材はプラスチック材料からなり、パッキンはシリコンゴム等からなる。これらの部品がエポキシ樹脂等を主成分とする接着剤により接着され、組立てられている。分離膜エレメントのプラスチック材料は数種類のプラスチックを複合化している場合が多いので、プラスチック材料を原料としてリサイクルするいわゆるケミカルリサイクルは難しく、また、複数の部品が接着剤によって組立てられているため、使用済みの分離膜エレメントを分解し、部品を素材としてリサイクルするいわゆるマテリアルリサイクルが困難である。そこで、使用済みの分離膜エレメントを熱処理し、エネルギーの形態でリサイクルするいわゆるサーマルリサイクルが最適であると考えられる。しかしながら、サーマルリサイクルの方法やシステムがまだ十分に整備されていないため、使用済みの分離膜エレメントのサーマルリサイクルが本格化するには時間がかかるものと考えられる。
【0008】
このように、使用済みの分離膜エレメントのリサイクルに関しては、分離膜エレメントの再使用を促進して、使用済みの分離膜エレメントの発生量を低減することが望まれる。
【0009】
本発明の目的は、使用済みの逆浸透膜エレメントの発生量の低減を図ることが可能な逆浸透膜エレメントの再使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法は、所定の分離精度が要求されて逆浸透膜エレメントを用いて製品または製品製造の要となる物質を製造するプロセス処理工程、およびプロセス処理工程よりも低い分離精度が要求されて逆浸透膜エレメントを用いてプロセス工程における製造に用いる用水を製造する用水処理工程のうち、プロセス処理工程において使用し分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを、用水処理工程において再使用するものである。
【0011】
本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法においては、所定の分離精度が要求されるプロセス処理工程、およびプロセス処理工程よりも低い分離精度が要求される用水処理工程のうち、高い分離精度が要求されるプロセス処理工程において、まず逆浸透膜エレメントを使用する。使用に伴い、この逆浸透膜エレメントの分離精度が低下すると、用水処理工程において、この逆浸透膜エレメントを再使用する。
【0012】
このように、逆浸透膜エレメントの寿命を各処理工程において独立に評価するのではなく、複数の処理工程における分離精度を踏まえて総合的に評価し、要求される分離精度が高いプロセス処理工程において使用され分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを用水処理工程において再使用することにより、逆浸透膜エレメントを効率良く再使用することが可能となる。それにより、逆浸透膜エレメントの廃棄量を低減することが可能となる。
【0013】
用水処理工程において使用して分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを用水処理工程よりも低い分離精度が要求される排水処理工程において再使用してもよい。
【0014】
この場合、用水処理工程において使用され分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを排水処理工程において再使用することにより、逆浸透膜エレメントを効率良く再使用することが可能となる。それにより、逆浸透膜エレメントの廃棄量を低減することが可能となる。
【0015】
第2の発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法は、逆浸透膜エレメントを用いてそれぞれ所定の処理を行う互いに独立した複数の処理工程のうち、高い分離精度が要求される一の処理工程において使用し分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを、一の処理工程よりも低い分離精度が要求される他の処理工程において再使用するものである。
【0016】
本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法においては、逆浸透膜エレメントを用いてそれぞれ所定の処理を行う互いに独立した複数の処理工程のうち、高い分離精度が要求される一の処理工程において、まず逆浸透膜エレメントを使用する。使用に伴い、この逆浸透膜エレメントの分離精度が低下すると、一の処理工程よりも低い分離精度が要求される他の処理工程において、この逆浸透膜エレメントを再使用する。
【0017】
このように、逆浸透膜エレメントの寿命を各処理工程において独立に評価するのではなく、独立した複数の処理工程における分離精度を踏まえて総合的に評価し、要求される分離精度が高い一の処理工程において使用され分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを要求される分離精度が低い他の処理工程において再使用することにより、逆浸透膜エレメントを効率良く再使用することが可能となる。それにより、逆浸透膜エレメントの廃棄量を低減することが可能となる。
【0018】
他の処理工程において使用して分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを、他の処理工程よりも低い分離精度が要求されるさらに他の処理工程において再使用してもよい。
【0019】
この場合、他の処理工程において使用され分離精度が低下した逆浸透膜エレメントをさらに他の処理工程において再使用することにより、逆浸透膜エレメントを効率良く再使用することが可能となる。それにより、逆浸透膜エレメントの廃棄量を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、逆浸透膜エレメントの廃棄量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第1の実施例を示す図である。図1においては、製造業の1つの事業所の場合について説明する。
【0022】
事業所10で行われる製造工程は、用水処理工程1、プロセス処理工程2および排水処理工程3の各工程を含む。これらの処理工程1〜3では、同種類の逆浸透膜エレメントを装填した逆浸透膜モジュールを使用する。
【0023】
用水処理工程1においては、逆浸透膜モジュールを用いて工業用水や井戸水を精製し、生産に供する用水を製造する。
【0024】
プロセス処理工程2においては、逆浸透膜モジュールを用いて、分離された透過側または濃縮側の物質を製品として製造するか、または製品製造の要となる物質を製造する。透過側の物質から製造される製品として、例えば清涼飲料水、しょう油等があげられる。また、濃縮側の物質から製造される製品として、例えば酵素タンパク等があげられる。一方、製品製造の要となる物質として例えば無菌水、超純水等があげられる。
【0025】
排水処理工程3においては、逆浸透膜モジュールを用いて、各工程から排出される排水を放流水基準を満足する水質まで浄化するか、または再利用できる水質まで浄化する。
【0026】
なお、図中の実線の矢印4は製造工程の流れを示しており、用水処理工程1、プロセス処理工程2および排水処理工程3の順に行われる。
【0027】
上記の3つの処理工程1〜3において、プロセス処理工程2は製品に直接関わるため、一般的に最も高い分離性能、特に分離精度が要求される。その次に高い分離精度が要求されるのは用水処理工程1である。最後に、比較的分離精度が低くてもよいのが排水処理工程3である。
【0028】
使用に伴う分離精度の低下により、プロセス処理工程2に使用することができなくなった逆浸透膜エレメントであっても、用水処理工程1または排水処理工程3において要求される分離精度を有していれば、用水処理工程1または排水処理工程3に使用可能である。また、用水処理工程1において要求される分離精度を満たしていない逆浸透膜エレメントであっても、排水処理工程3において要求される分離精度を有していれば、排水処理工程3に使用可能である。したがって、用水処理工程1、プロセス処理工程2および排水処理工程3の各工程において逆浸透膜エレメントを以下のように使い回すことが可能である。
【0029】
図中の破線の矢印5は、製造工程における逆浸透膜エレメントの流れを示している。まず、プロセス処理工程2において新しい逆浸透膜エレメントを使用する。分離精度の経時的な低下により、プロセス処理工程2における使用が困難となった逆浸透膜エレメントを、次に用水処理工程1において使用する。用水処理工程1における使用により、更に分離精度が低下した逆浸透膜エレメントを、最後に排水処理工程3において使用し、その後、廃棄する。このように、プロセス処理工程2において使用不可能となり寿命を迎えた逆浸透膜エレメントを、用水処理工程1および排水処理工程3の順で再使用することにより、逆浸透膜エレメントの寿命が延び、使用済みの逆浸透膜エレメントを有効利用することが可能となる。それにより、逆浸透膜エレメントの廃棄量を抑制することができるとともに、製品の製造コストを抑えることができる。
【0030】
上記の実施例で示すように、本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法は、各処理工程において同種類の逆浸透膜エレメントが使用される場合に、分離精度の低下のため高い分離精度が要求される処理工程において使用不可能となった逆浸透膜エレメントを、廃棄することなく、それよりも低い分離精度で分離可能な処理工程において再使用するものである。このように、逆浸透膜エレメントの寿命を各処理工程において独立に評価するのではなく、各処理工程の分離精度を踏まえて総合的に評価することにより、逆浸透膜エレメントを効率的に再使用することができる。その結果、逆浸透膜エレメントの寿命が延長され、使用済みの逆浸透膜エレメントの発生量が低減されるので、地球環境の保全が図られる。
【0031】
なお、図1においては、本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法を、1つの事業所10の3つの処理工程1〜3に適用した例を示したが、これ以外にも、2つの処理工程または4つ以上の処理工程において適用することも可能である。この場合、図1の場合と同様に、高い分離精度が要求される処理工程から順に、逆浸透膜エレメントを再使用する。
【0032】
また、本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法は、1つの事業所における複数の処理工程に限らず、さらに広範囲において適用することが可能である。例えば複数の事業所を含む企業内で行われる処理工程において適用してもよく、あるいは、複数の企業を含む業界内で行われる処理工程において適用してもよい。
【0033】
図2は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第2の実施例を示す図である。
【0034】
図2に示すように、企業20は、第1、第2および第3の事業所21〜23を含む。各事業所21〜23は、同種類の逆浸透膜エレメントを用いて処理を行う。各事業所21〜23において行われる処理のうち、最も高い分離精度が要求されるのは第2の事業所22の処理である。その次に高い分離精度が要求されるのは第1の事業所21の処理であり、比較的分離精度が低くてもよいのが第3の事業所23の処理である。このことから、図中の破線の矢印25で示すように、第2の事業所22において使用した逆浸透膜エレメントを、次に第1の事業所21において使用し、さらに第3の事業所23において使用した後、廃棄する。これにより、逆浸透膜エレメントを効率的に再使用することが可能となる。
【0035】
図3は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第3の実施例を示す図である。
【0036】
図3に示すように、業界30は、第1、第2および第3の企業31〜33を含む。各企業31〜33は、同種類の逆浸透膜エレメントを用いて処理を行う。各企業31〜33において行われる処理のうち、最も高い分離精度が要求されるのは第2の企業32の処理である。その次に高い分離精度が要求されるのは第1の企業31の処理であり、比較的分離精度が低くてもよいのが第3の企業33の処理である。このことから、図中の破線の矢印35で示すように、第2の企業32において使用した逆浸透膜エレメントを、次に第1の企業31において使用し、さらに第3の企業33において使用した後、廃棄する。これにより、逆浸透膜エレメントを効率的に再使用することが可能となる。
【0037】
図2および図3に示すように、本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法を広範囲において適用することにより、逆浸透膜エレメントの再使用が促進され、使用済みの逆浸透膜エレメントの発生量をさらに低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、逆浸透膜エレメントを用いた処理工程等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第1の実施例を示す図である。
【図2】図2は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第2の実施例を示す図である。
【図3】図3は本発明に係る逆浸透膜エレメントの再使用方法の第3の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 用水処理工程
2 プロセス処理工程
3 排水処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の分離精度が要求されて逆浸透膜エレメントを用いて製品または製品製造の要となる物質を製造するプロセス処理工程、および前記プロセス処理工程よりも低い分離精度が要求されて逆浸透膜エレメントを用いて前記プロセス工程における製造に用いる用水を製造する用水処理工程のうち、前記プロセス処理工程において使用し分離精度が低下した前記逆浸透膜エレメントを、前記用水処理工程において再使用することを特徴とする逆浸透膜エレメントの再使用方法。
【請求項2】
前記用水処理工程において使用して分離精度が低下した前記逆浸透膜エレメントを前記用水処理工程よりも低い分離精度が要求される排水処理工程において再使用することを特徴とする請求項1記載の逆浸透膜エレメントの再使用方法。
【請求項3】
逆浸透膜エレメントを用いてそれぞれ所定の処理を行う互いに独立した複数の処理工程のうち、高い分離精度が要求される一の処理工程において使用し分離精度が低下した前記逆浸透膜エレメントを、前記一の処理工程よりも低い分離精度が要求される他の処理工程において再使用することを特徴とする逆浸透膜エレメントの再使用方法。
【請求項4】
前記他の処理工程において使用して分離精度が低下した前記逆浸透膜エレメントを、前記他の処理工程よりも低い分離精度が要求されるさらに他の処理工程において再使用することを特徴とする請求項3記載の逆浸透膜エレメントの再使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−302362(P2008−302362A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245372(P2008−245372)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【分割の表示】特願平10−317346の分割
【原出願日】平成10年11月9日(1998.11.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】