説明

逆浸透膜淡水化装置及び逆浸透膜淡水化装置の検査方法

【課題】淡水化装置の運転中においても、性能の劣化した逆浸透膜エレメントを特定することが可能な逆浸透膜淡水化装置及び逆浸透膜淡水化装置の検査方法を提供する。
【解決手段】供給水(原水)11をスパイラル状逆浸透(RO)膜12に供給し、中心の集水管13から透過水14を得るスパイラル型の逆浸透膜エレメント15(15−1〜15−6)を連結部16aで複数直列に接続して円筒状の圧力容器16内に収納した逆浸透膜モジュール17と、逆浸透膜モジュール17の集水管13の一方の端部13aにボールバルブ18A、18Bを介して設けられる検知用挿入治具20とを具備してなり、前記検知用挿入治具20は、前記集水管13の中心軸と同一の軸心を有する検知管用穴部21と、前記穴部21に挿抜自在な可撓性を有する挿入検知管22と、該挿入検知管22を封止する封止部であるOリング23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水化装置の運転中においても、淡水の性質を安価に計測することができる逆浸透膜淡水化装置及び逆浸透膜淡水化装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜を用いた淡水化装置では、螺旋状に巻かれた逆浸透膜エレメントが使用される。逆浸透膜エレメントの標準的なサイズは直径約8インチ、長さ約40インチ、重さ約16kgで、このエレメントを例えば4〜8本直列に圧力容器に挿入し、淡水化を行うことが提案されている。
このような装置では、1エレメントあたり10〜25m3/dの淡水を製造できるが、例えば100,000m3/dの生産水量を有するプラントでは、約5,000本程度のエレメントを使用することになる。
【0003】
逆浸透膜エレメントは経年的にあるいは突発的(例えば塩素流入等で)に劣化し、膜面へのスケールや異物の付着、膜材質の劣化により、生産水質が低下あるいは生産水量が低下する、という問題がある。生産水質あるいは生産水量を維持するために、劣化した逆浸透膜エレメントを交換する必要が生じるが、性能が劣化した逆浸透膜エレメントのみを交換できることが望ましい。
【0004】
生産水質の評価は生産水の電気伝導度を計測することで可能であり、生産水量の評価は透過水量を計測することで可能である。ただし、特定の逆浸透膜エレメントの劣化を評価するためには、局所的な生産水の計測値が必要である。
そこで、流量および電気伝導度の一体化センサをROユニットの運転中の逆浸透膜エレメントの浸透管に挿入し、性能の劣化した逆浸透膜エレメントを検出する装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−530082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
性能の劣化した逆浸透膜エレメントからの生産水は、上流の正常な逆浸透膜エレメントからの生産水で希釈されることになるので、計測精度を向上させることが重要となる。しかしながら、特許文献1に開示の装置では、一体型センサは逆浸透エレメントの浸透管の略中央部に保持しないと計測精度に影響を与える虞があるものの、計測精度を向上させる手法については開示がない。また、多数の逆浸透膜を計測する必要があるが、計測業務の労力を軽減する手法についても開示がない。
【0007】
よって、性能の劣化した逆浸透膜エレメントを精度良く、しかも計測員に多大な負荷を掛けないで特定可能な計測技術の確立が望まれている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、淡水化装置の運転中においても、性能の劣化した逆浸透膜エレメントを特定することが可能な逆浸透膜淡水化装置及び逆浸透膜淡水化装置の検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、供給水をスパイラル状逆浸透膜に供給し、中心の集水管から透過水を得るスパイラル型の逆浸透膜エレメントを連結部で複数直列に接続して円筒状の圧力容器内に収納した逆浸透膜モジュールと、逆浸透膜モジュールの一方の端部にボールバルブを介して設けられる、検知用挿入治具とを具備してなり、前記検知用挿入治具は、前記集水管の中心軸と同一の軸心を有する検知管用穴部と、前記検知管用穴部に挿抜自在な可撓性を有する挿入検知管と、該挿入検知管を封止する封止部とを有することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記挿入検知管の先端部のセンタリングを行うセンタリング手段を有することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置にある。
【0011】
第3の発明は、第1又は2の逆浸透膜淡水化装置を用い、逆浸透膜モジュールの一方の端部にボールバルブを介して検知用挿入治具と装着し、前記検知用挿入治具の検知管用穴部内に保持された挿入検知管を、集水管内部に挿入し、各逆浸透膜エレメントの所定位置において、その後先端開口部より各逆浸透膜エレメントにおける透過水を採取し、水質又は流量を検査することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置の検査方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産水の能力の低下の兆候があった際に、検知用挿入治具をエレメントの端部に設置して、計測することで迅速な対応が可能となる。また、検査用治具は必要量を準備することで、経済的でもある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、逆浸透膜淡水化装置の概略図である。
【図2】図2は、その要部概略図である。
【図3】図3は、連結部の概略図である。
【図4】図4は、実施例2に係る逆浸透膜淡水化装置の要部概略図である。
【図5】図5は、センタリング部材の斜視図である。
【図6】図6は、他のセンタリング部材の斜視図である。
【図7】図7は、各エレメントと生産水との関係図である。
【図8】図8は、各エレメントと電気伝導度との関係図である。
【図9】図9は、各エレメントと電気伝導度との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0015】
本発明による実施例に係る逆浸透膜淡水化装置について、図面を参照して説明する。図1は、逆浸透膜淡水化装置の概略図である。図2は、その要部概略図である。図3は、その連結部の概略図である。
図1に示すように、逆浸透膜淡水化装置は、供給水(原水)11をスパイラル状逆浸透(RO)膜12に供給し、中心の集水管13から透過水14を得るスパイラル型の逆浸透膜エレメント(以下、「エレメント」という)15(15−1〜15−6)を連結部16aで複数直列に接続して円筒状の圧力容器16内に収納した逆浸透膜モジュール(以下、「モジュール」という)17と、逆浸透膜モジュール17の集水管13の一方の端部13aにボールバルブ18A、18Bを介して設けられる検知用挿入治具20とを具備してなり、前記検知用挿入治具20は、前記集水管13の中心軸と同一の軸心を有する検知管用穴部(以下「穴部」という)21と、前記穴部21に挿抜自在な可撓性を有する挿入検知管22と、該挿入検知管22を封止する封止部であるOリング23とを有するものである。
なお、図1中、符号11aは濃縮水、19は生産水取り出し管を図示する。
【0016】
エレメント15−1〜15−6の各々は、集水管13の周囲に、スパイラル状のメッシュスペーサを有するスパイラル状の逆浸透(RO)膜12が巻装されている。そして、供給される所定圧力の原水(供給水)11をメッシュスペーサにより逆浸透膜12間に導き、逆浸透作用により逆浸透膜12を透過した透過水(淡水)14を集水管13に集め、後方(図1中右)側へ送り、外部に取り出すものとなっている。なお、濃縮水11aも後方側から取り出すものとなっている。
【0017】
図2に示すように、逆浸透膜モジュール17の集水管13の一方の端部(本実施例では右端部)には、第1のボールバルブ18Aが設けられている。また、検知用挿入治具20の前端部(図2では左端部)には、第2のボールバルブ18Bが設けられている。そして、第1及び第2のボールバルブ18A、18B同士を図示しない締結手段で接合するようにしている。
なお、本実施例では、2つのボールバルブを用いているが、1つのボールバルブをモジュール側の集水管端部に設置して、この設置されたボールバルブに検知用挿入治具を装着するようにしてもよい。
【0018】
そして、検知用挿入管22を用いて検査する際には、第1及び第2ボールバルブ18A、18Bを開き、検知用挿入治具20と集水管13との内部を連通するようにしている。
【0019】
また、図3に示すように、集水管13同士を連結する連結部15は、その端部が拡径されており、その内部30にOリング23を介して、集水管13の内径d1と同一径d2の連結用内管32が配設されている。そして、この連結用内管32が面一となり、透過水14の流れを円滑にしている。
【0020】
ここで、挿入検知管22は、可撓性を有する例えばテフロン(登録商標)チューブやビニールホース等を用いることができる。
挿入検知管22を挿入する際には、検知用挿入治具20の後端(右)部から挿入して、Oリング23の封止部で封止状態となったときに、第1及び第2のボールバルブ18A、18B同士を開くようにしている。
その後、挿入検知管22は、第2のボールバルブ18B及び第1のボールバルブ18Aを通過して、集水管13内に挿入される。そして、集水管13の所定位置まで挿入された後には、その先端開口部22aより各逆浸透膜エレメント15の各位置における透過水14を採取し、水質又は流量を検査する。
【0021】
第1及び第2のボールバルブ18A、18Bは、弁体が球状で、弁軸を90度回転することで、バルブの開閉を行うものであり、第1及び第2のボールバルブ18A、18Bを開放することで、挿入検知管22を集水管13の内部に挿入可能としている。
なお、淡水化装置の運転中には、集水管内部には圧力がかかっているので、ボールバルブ及び挿入治具には圧力変動に耐え得る手段が講じられている。
【0022】
透過水14の水質の検査は、挿入したサンプル水を図示しない電気伝導度計測器により各位置における電気伝導度を計測する。
【0023】
また、挿入検知管22の内部に光ファイバを別途挿入して、各位置における屈折率変化を計測するようにしている。
【0024】
図7〜9に生産水の各エレメントにおける透過水の異常があった場合の流量、電気伝導度の計測結果の一例を示す。
図7は各エレメントと生産水との関係図、図8及び9は各エレメントと電気伝導度との関係図である。
【0025】
図7は、エレメント15が6本(15−1〜15−6)ある場合、正常な場合(実線)、左から15−1〜15−6とし、生産水の流量が徐々に増加している。
これに対し、一点鎖線の場合には、エレメントの3番目の透過水の流量が1/3となった場合であり、二点鎖線の場合には、エレメント15の6番目の透過水の流量が1/10となった場合を示す。
【0026】
図8は、エレメント15が6本(15−1〜15−6)ある場合、正常な場合(実線)、左から15−1〜15−6とし、生産水の電気伝導度が徐々に増加している。
これに対し、一点鎖線の場合には、エレメントの1番目の塩濃度が2倍となった場合であり、二点鎖線の場合には、エレメント15の2番目の塩濃度が5倍、4番目の塩濃度が3倍となった場合を示す。
【0027】
図9は、エレメント15が6本(15−1〜15−6)ある場合、正常な場合(実線)、左から15−1〜15−6とし、生産水の電気伝導度が徐々に増加している。
これに対し、鎖線の場合には、エレメント15の6番目の透過水の流量が1/10となった場合を示す。これは、図7の二点鎖線の場合の電気伝導度を計測したものである。
【0028】
このように、本発明によれば、生産水を生産しつつ、透過水の水質を検査することが可能となる。
【0029】
本発明では、従来のようにすべてのエレメントに対して、計測機器を備える必要がなく、検知用挿入治具20は必要に応じて、準備しておけばよいので、経済的である。
すなわち、生産水が一定以上確保されているモジュールに対しては、計測する必要がないものの、生産水の能力の低下の兆候があった際に、本発明の検知用挿入治具をエレメントの端部に設置して、計測することで迅速な対応が可能となる。また、検知用挿入治具20は必要量を準備することで、経済的でもある。
【実施例2】
【0030】
本発明による実施例に係る逆浸透膜淡水化装置について、図面を参照して説明する。図4は、実施例2に係る逆浸透膜淡水化装置の要部概略図である。図5はセンタリング部材の斜視図である。図6は他のセンタリング部材の斜視図である。
本実施例では、検知用挿入治具20の穴部21を拡大し、挿入検知管22の先端部22aのセンタリングを行うセンタリング手段41を有している。
本実施例のセンタリング手段41は、挿入検知管22から支持体41Bに支持され弾性変形可能な羽部材41Aが4本設けられており、挿入検知管22の挿入の際に、その中心を保持しつつ移動するようにしている。
また、支持体として、バネ部材等の弾性変形可能な部材を用いるようにしても良い。
【0031】
これは集水管13の中心部とその壁面部とでは、水質及び圧力変動が大きいので、特に流量の計測の場合には、その計測精度が高まることとなる。この結果、水質異常を適切に検知することが可能となる。
【0032】
また、図6に示すように、センタリング手段を円筒型の金属多孔質体42としている。金属以外に、樹脂性の多孔質体としてもよい。
いずれにせよ、透過水14が内部を流れるようにして、生産能力を低下させないようにしている。
【符号の説明】
【0033】
11 供給水(原水)
12 スパイラル状逆浸透(RO)膜
13 集水管
14 透過水
15 逆浸透膜エレメント(エレメント)
16 圧力容器
16a 連結部
17 逆浸透膜モジュール(モジュール)
18A、18B ボールバルブ
20 検知用挿入治具
21 検知管用穴部(穴部)
22 挿入検知管
23 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給水をスパイラル状逆浸透膜に供給し、中心の集水管から透過水を得るスパイラル型の逆浸透膜エレメントを連結部で複数直列に接続して円筒状の圧力容器内に収納した逆浸透膜モジュールと、
逆浸透膜モジュールの一方の端部にボールバルブを介して設けられる、検知用挿入治具とを具備してなり、
前記検知用挿入治具は、
前記集水管の中心軸と同一の軸心を有する検知管用穴部と、
前記検知管用穴部に挿抜自在な可撓性を有する挿入検知管と、
該挿入検知管を封止する封止部とを有することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記挿入検知管の先端部のセンタリングを行うセンタリング手段を有することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置。
【請求項3】
請求項1又は2の逆浸透膜淡水化装置を用い、
逆浸透膜モジュールの一方の端部にボールバルブを介して検知用挿入治具と装着し、
前記検知用挿入治具の検知管用穴部内に保持された挿入検知管を、集水管内部に挿入し、各逆浸透膜エレメントの所定位置において、その後先端開口部より各逆浸透膜エレメントにおける透過水を採取し、水質又は流量を検査することを特徴とする逆浸透膜淡水化装置の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−130842(P2012−130842A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283810(P2010−283810)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】