説明

逆相液体クロマトグラフの制御装置、逆相液体クロマトグラフィの実行方法及び逆相液体クロマトグラフの制御プログラム

【課題】煩雑な作業を行うことなく溶出時間Trが適切となる溶離液条件での逆相液体クロマトグラフィを実行することを可能とする。
【解決手段】実測値記憶部25aが、第1の濃度制御部22aによって有機溶媒の濃度が制御された溶離液を用いて行われる予備の逆相液体クロマトグラフィにおいて測定される試料の溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィにおける溶離液に含まれる有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶する。また、変化率記憶部25bには、有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数T0/Trの変化率が記憶されている。そして、濃度演算部22aが、実測値記憶部25a及び変化率記憶部25bの記憶内容に基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる有機溶媒の濃度を求める。第2の濃度制御部22bは、濃度演算部22aの演算結果に基づいて、有機溶媒の濃度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆相液体クロマトグラフィに関し、より詳細には、逆相液体クロマトグラフィを行う際の条件検討に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カラム内に充填された固定相内に、複数の溶媒が混合された溶離液である移動相に溶解された試料を通過させることによって、試料内の各成分を分離する液体クロマトグラフィが知られている。係るクロマトグラフィにおいては、カラム内に導入された試料内の各成分は、溶離液との親和性やカラムの固定相との相互作用の違いにより、カラムを通過する時間が異なるので、カラムから排出される時点で各成分が分離される。
【0003】
上述のような液体クロマトグラフィにおける分離度RSは、試料が溶出するまでの溶出時間Trが増加するのに伴って単調増加し、溶出時間Trが十分に大きくなると所定の大きさに飽和する。すなわち、溶出時間Trが短い場合には、十分に成分の分離を行うことができないこととなり、他方溶出時間Trを長くし過ぎた場合には、時間及び溶離液が無駄となってしまう。ここで、溶出時間Tは、溶離液の混合比条件によって変化する。したがって、液体クロマトグラフィを行う際には、溶出時間Trが、成分の分離に必要な時間を十分に確保しつつ、時間及び溶離液の無駄が大きくならない程度の長さとなるように、溶離液の混合比条件を調整する必要がある。
【0004】
特許文献1には、予備実験として、液体クロマトグラフィにおいて固定相として用いられる物質を薄層とした薄層クロマトグラフィ(TLC)を行い、溶離液の混合比条件を調整する方法が記載されている。薄層クロマトグラフィは、薄層状の固定相を移動相となる溶離液に浸漬することによって行われ、毛管現象により溶離液が薄層に吸い上げられると共に試料が吸い上げられる作用により試料の溶離液に対する移動度Rを求めることができる。ここで、溶離液が特定混合比である場合に液体クロマトグラフィで測定される溶出指数T0/Tr(T0:溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間)と、薄層クロマトグラフィで測定される移動度Rとは、互いに等しくなるという相関関係を有している。また、溶離液の混合比と移動度Rとの関係は比例関係であり、溶離液の混合比の変化に対する移動度Rの変化率は、試料の種類が変わっても一定である。
【0005】
すなわち、まず予備実験として特定混合比の溶離液を用いて薄層クロマトグラフィを行い、移動度Rを測定する。このとき、溶離液の混合比の変化に対する移動度Rの変化率が一定であるという性質より、横軸を混合比、縦軸を移動度Rとするグラフの直線が一意に定まる。さらに、移動度Rが液体クロマトグラフィにおける溶出指数T0/Trと等しいという関係を考慮すると、かかるグラフから所望の溶出指数T0/Trとなる溶離液の混合比を求めることができる。
【特許文献1】特開2003−240765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、固定相と試料との疎水性相互作用により分離を行う逆相液体クロマトグラフィにおいては、一般的に固定相として、シリカゲル表面にオクタデシル(C18)基を化学結合したオクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)が用いられる。ODSは撥水性が高いために、ODSを薄層として薄層クロマトグラフィを行った場合には、溶離液や試料が薄層内に入って行き難い。よって、逆相液体クロマトグラフィを行う場合には、予備実験である薄層クロマトグラフィを正確に行うことが困難であり、上述の特許文献1に記載の溶離液の混合比条件の調整方法は適用することができない。
【0007】
したがって、現状では、逆相液体クロマトグラフィを行う際に溶離液の混合比条件を調整するには、まず溶離液の混合比を変化させつつ繰り返し予備実験を行い、好適な溶出時間Trとなる混合比を探索する。そのため、作業が煩雑で時間がかかり、溶離液が多量に必要とされるという問題がある、
【0008】
そこで、本発明の目的は、煩雑な作業を行うことなく溶出時間Trが適切となる溶離液条件で逆相液体クロマトグラフィを実行することができる逆相液体クロマトグラフィの制御装置、逆相液体クロマトグラフィの実行方法及び逆相液体クロマトグラフィの制御プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の逆相液体クロマトグラフの制御装置は、複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行う際に前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する第1の濃度制御手段と、前記予備の逆相液体クロマトグラフィにおいて測定される、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶するための実測値記憶手段と、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数T0/Trの変化率を記憶するための変化率記憶手段と、前記実測値記憶手段に記憶された前記特定濃度に対する溶出指数T0/Trと、前記変化率記憶手段に記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求めるための濃度演算手段と、前記濃度演算手段での演算結果に基づいて、試料の溶出指数T0/Trが前記特定溶出指数T0/Tr0となるようにカラムに送液される前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力するための第2の濃度制御手段とを備えている。
【0010】
また、本発明の逆相液体クロマトグラフィの実行方法は、複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行うことにより、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを求める第1の工程と、前記第1の工程で求められた溶出指数T0/Tr、及び前記予備の逆相液体ロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に基づいて、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する試料の溶出指数T0/Trの変化率を利用することにより、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求める第2の工程と、前記第2の工程で求められた前記特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記有機溶媒の濃度を有する前記溶離液をカラムに送液する第3の工程とを備えている。
【0011】
さらに、本発明の逆相液体クロマトグラフィの制御プログラムは、複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行う際に前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する第1の濃度制御手段、前記予備の逆相液体クロマトグラフィにおいて測定される、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶するための実測値記憶手段、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数T0/Trの変化率を記憶するための変化率記憶手段、前記実測値記憶手段に記憶された前記特定濃度に対する溶出指数T0/Trと、前記変化率記憶手段に記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求めるための濃度演算手段、及び、前記濃度演算手段での演算結果に基づいて、試料の溶出指数T0/Trが前記特定溶出指数T0/Tr0となるようにカラムに送液される前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力するための第2の濃度制御手段としてコンピュータを機能させる。
【0012】
なお、上述のプログラムは、CD−ROM、FD、MOなどのリムーバブル型記録媒体やハードディスクなどの固定型記録媒体に記録して配布可能である他、有線又は無線の電気通信手段によってインターネットなどの通信ネットワークを介して配布可能である。
【0013】
これらの構成によると、予備の逆相液体クロマトグラフィにより任意の特定濃度における試料の溶出指数T0/Trを求めておけば、所望の特定溶出指数T0/Tr0での溶離液の濃度を知ることができる。したがって、煩雑な作業を行うことなく適切な溶出指数T0/Tr0となる溶離液条件で逆相液体クロマトグラフィを実行することができる。
【0014】
本発明の逆相液体クロマトグラフの制御装置では、前記第1の濃度制御手段が、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を一定とするような制御信号を出力してもよい。
【0015】
また、本発明の逆相液体クロマトグラフィの実行方法では、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を一定として前記予備の逆相液体クロマトグラフィを行ってもよい。
【0016】
これらの構成によると、予備の逆相液体クロマトグラフィを簡易に行うことができる。
【0017】
本発明の逆相液体クロマトグラフの制御装置では、前記第1の濃度制御手段が、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を経時的に変化させるよな制御信号を出力してもよい。
【0018】
また、本発明の逆相液体クロマトグラフィの実行方法では、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を経時的に変化させつつ前記予備の逆相液体クロマトグラフィを行ってもよい。
【0019】
これらの構成によると、溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を一定として予備の逆相液体クロマトグラフィを行う場合のように、試料が溶出されるまでの時間が非常に長くなってしまうのを避けることができる。
【0020】
本発明の逆相液体クロマトグラフの制御装置は、前記変化率記憶手段が、含有成分の組合せの異なる別種類の溶離液ごとに、前記有機溶媒の濃度の変化に対する試料の溶出指数T0/Trの変化率を記憶することが可能であることが好ましい。
【0021】
この構成によると、逆相液体クロマトグラフの制御装置を、含有成分の組合せの異なる多様な種類の溶離液に対して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、本実施の形態にかかる逆相液体クロマトグラフ装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、逆相液体クロマトグラフ装置11は、溶媒Aが貯留された容器12と、溶媒Bが貯留された容器13と、溶媒Aと溶媒Bとが連結された位置に設けられた電磁弁14と、溶離液10が貯留される混合器15と、ポンプ16と、インジェクター17と、カラム18と、検出器19と、フラクションコレクター20とが、この順に配置され経路が形成されている。そして、電磁弁14に逆相液体クロマトグラフ制御装置21が接続されている。
【0023】
容器12には溶媒Aが、容器13には溶媒Bが貯留されている。なお、用いられる溶媒は2種類に限定されず、使用状態・目的に応じて数を増やしてもよい。一般に、溶媒A・溶媒Bには、極性溶媒と有機溶媒との組合せで用いられる。
【0024】
ポンプ16は、逆相液体クロマトグラフ装置11の回路において、混合器15・電磁弁14を介して溶媒A・溶媒Bを汲み上げる。電磁弁14は、逆相液体クロマトグラフ制御装置21からの制御信号により、汲み上げられる溶媒を溶媒A又は溶媒Bから選択する。電磁弁14での各溶媒の選択時間に応じて混合器15内での溶媒A、Bの混合比が決定される。混合器15は、汲み上げられた溶媒A及び溶媒Bが一旦貯留され、溶離液10とされる。この溶離液10は、その有機溶媒の濃度が、後述するように逆相液体クロマトグラフ制御装置21の濃度演算部22a(図2参照)で算出された濃度となる混合比を有するものである。
【0025】
インジェクター17は、試料3を有しており、溶離液10が通過することで試料3が送出されるようになっている。なお、インジェクター17は1本に限定されず、選択的に経路を選ぶことができる並設された複数のインジェクターとし、複数の試料について連続的
に作業を行うことも可能である。
【0026】
カラム18には固定相が充填されており、溶離液10が通過することで逆相液体クロマトグラフが行われる。本実施の形態においては、この固定相としては、ODSが用いられている。なお、カラムは1本に限定されず、選択的に経路を選ぶことができる並設された複数のカラムとし、複数種類の逆相液体クロマトグラフィを行うことも可能である。
【0027】
検出器19は、カラム18にて行われる逆相液体クロマトグラフィの結果の検出を行う。そして、フラクションコレクター20は、複数の試験管を有しており、検出器19の分析結果により、試料3に含まれる成分毎に各試験管に分取されるようになっている。
【0028】
また、逆相液体クロマトグラフ制御装置21は、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどの情報処理装置によって構成されており、図2に示すように、濃度演算部22a、第1の濃度制御部22b、及び第2の濃度制御部22cを有するCPU22と、実測値記憶部25a及び変化率記憶部25bを有するメモリ25と、ハードディスク26と、入出力部28とを備えている。入出力部28には、例えばキーボードやマウスなどから構成された入力部29と、逆相液体クロマトグラフィの実行過程における様々な情報をオペレータに知らせるためのディスプレイ30と、CPU22の第1及び第2の濃度制御部22b、22cからの指示に基づいて電磁弁14の開閉信号を送出する電磁弁操作部31とが接続されている。
【0029】
ハードディスク26には、本実施形態による逆相液体クロマトグラフの制御プログラムを含む各種のソフトウェアが記憶されている。そして、これらのハードウェア及びソフトウェアが組み合わされることによって、上述の各部22a、22b、22c、25a、25bが構築されている。なお、このプログラムは、CD−ROM、FD、MOなどのリムーバブル型記録媒体に記録しておくことにより、任意のコンピュータにインストールすることが可能である。
【0030】
実測値記憶部25aは、逆相液体クロマトグラフ装置11を用いて試料3の分取作業を本格的に開始する前に少量の試料3で行われる予備の逆相液体クロマトグラフィで測定される溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィにおける有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶する。なお、T0は、逆相液体クロマトグラフィにおいて溶離液10がカラム18の空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間であり、Trは、試料3が溶出するまでの溶出時間である。ここで、予備の逆相液体クロマトグラフィにおける特定濃度とは、溶出時間Trまでの間における有機溶媒の濃度の時間積分値、すなわち有機溶媒の積算濃度を、溶出時間Trで割った値であり、溶出時間Trまでの有機溶媒の平均濃度を意味する。実測値記憶部25aに記憶すべきデータは、オペレータによって入力部29から入力されてよい。
【0031】
なお、本実施の形態においては、予備の逆相液体クロマトグラフィは、図3に示すように、溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を一定とするイソクラテックモードで行われる。したがって、図3に示すように、有機溶媒の濃度がB1である溶離液を用いた予備の逆相液体クロマトグラフィでの溶出時間がTr1である場合には、実測値記憶部25aには、特定濃度B1に対する溶出指数T0/Trとして、T0/Tr1が記憶される。
【0032】
変化率記憶部25bは、溶離液における有機溶媒の濃度の変化に対する試料3の溶出指数T0/Trの変化率を記憶している。ここで、溶離液に含まれる有機溶媒の濃度と試料3の溶出指数T0/Trとの関係は比例関係である。すなわち、溶出指数T0/Trの変化率は、図4に示すように、横軸を有機溶媒の濃度、縦軸を溶出指数T0/Trとするグラフを描いた際の直線の傾きで示される。なお、溶出指数T0/Trの変化率は、図4において破線で示すように、試料の種類が変わっても一定である。また、図4において一点鎖線で示すように、含有成分の組合せが異なる別種類の溶離液を用いた場合には別の値をとる。
【0033】
なお、溶出指数T0/Trの変化率は、図5に示すように、事前に、溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度を一定とするイソクラテックモードでの逆相液体クロマトグラフィを複数回行うことによって得られる。すなわち、図5から、有機溶媒の濃度を40%、30%、20%、10%として逆相液体クロマトグラフィを行った際の溶出時間Trは、それぞれaT0、bT0、cT0、dT0となる。よって、有機溶媒の濃度が40%、30%、20%、10%である際の溶出指数T0/Trが、それぞれ1/a、1/b、1/c、1/dとなることが分かる。これにより、図4に示すようなグラフをプロットし、その傾きを求めることで、溶出指数T0/Trの変化率を求めることができる。
【0034】
ハードディスク26には、含有成分の組合せの異なる別種類の溶離液について、それぞれ溶出指数T0/Trの変化率が格納されている。そして、本実施の形態による制御プログラムが実行されるときに、実測値記憶部25aに記憶された特定濃度にかかる種類の溶離液に対する溶出指数T0/Trの変化率だけがメモリ25にロードされる。
【0035】
濃度演算部22aは、実測値記憶部25aに記憶された特定濃度に対する溶出指数T0/Trの実測値と、変化率記憶部25bに記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる溶離液における有機溶媒の濃度を求める。すなわち、例えば、実測値記憶部25aに記憶された溶出指数がT0/Tr1であり、その特定濃度がB1である場合には、横軸を有機溶媒の濃度、縦軸を溶出指数T0/Trとするグラフの直線は、図6に示すように、座標(B1、T0/Tr1)を通り、且つ変化率記憶部25bに記憶された溶出指数T0/Trの変化率に従った傾きを有する直線として同一の溶媒系においては一意に決まる。よって、図6に示す直線の傾きをFとすると、所望の特定溶出指数T0/Tr0が得られる有機溶媒の濃度B0は、以下の(式1)により求めることができる。
【数1】

【0036】
ここで、特定溶出指数T0/Tr0について説明する。一般に、液体クロマトグラフィにおいては、溶出時間Trが4T0であるときに分離度Rが最適となる。したがって、本実施の形態においては、逆相液体クロマトグラフィを行った際に溶出時間Trが4T0となるように調整することとする。ただし、溶出時間Trは、必ずしも4T0に調整しなければならないものではなく、異なる値に調整されてもよい。例えば、図7に示すようなイソクラテックモードで本格的な逆相液体クロマトグラフィを行う場合には、溶出指数T0/Trが0.25となるような有機溶媒の濃度を有する溶離液10を用いると、試料3の溶出時間Trが4T0となる。よって、イソクラテックモードで溶出が行われる場合には、濃度演算部22aは、特定溶出指数T0/Tr0が0.25となるような有機溶媒の濃度B0を求める。
【0037】
また、例えば、図8に示すように、経過時間が1T0となるまでの時間巾「W(wait)」の間は、溶出指数T0/Trが0.2となるような有機溶媒の濃度を有する溶離液10を用い、その後経過時間が4T0となるまでの時間巾「G(gradient)」の間は、溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度が、溶出指数T0/Trが0.2に対応する濃度から0.5に対応する濃度となるまで徐々に変化させて、さらにその後経過時間が6T0となるまでの時間巾「T(top)」の間は、溶出指数T0/Trが0.5となるような有機溶媒の濃度を有する溶離液10を用いるようなグラジエントモードで本格的な逆相液体クロマトグラフィを行うと、試料3の溶出時間Trが4T0となる。よって、このようなグラジエントモードで溶出が行われる場合には、濃度演算部22aは、特定溶出指数T0/Tr0wが0.2となるような有機溶媒の濃度B0w、及び特定溶出指数T0/Tr0tが0.5となるような有機溶媒の濃度B0tを求める。
【0038】
第1の濃度制御部22bは、予備の逆相液体クロマトグラフィを行う際にカラム18送液される溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する。上述のように、本実施の形態においては、イソクラテックモードで予備の逆相液体クロマトグラフィを行うので、第1の濃度制御部22bは、有機溶媒の濃度が常に一定となるような制御信号を出力する。第2の濃度制御部22cは、濃度演算部22aでの演算結果に基づいて、試料3の溶出指数T0/Trが特定溶出指数T0/Tr0となるようにカラム18に送液される溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する。そして、第1及び第2の濃度制御部22b、22cから出力される制御信号は、いずれも入出力部28から電磁弁操作部31に供給される。
【0039】
次に、本実施の形態における逆相液体クロマトグラフ装置11における処理手順を示すフローチャートである図9を参照しつつ、逆相液体クロマトグラフィの実行方法について説明する。
【0040】
まず、オペレータにより、予備の逆相液体クロマトグラフィを行う旨の指示が入力部29から入力されたか否かを繰り返し判断する(S1)。そして、予備の逆相液体クロマトグラフィの実行指示が入力された場合には(S1:YES)、予備の逆相液体クロマトグラフィが実行される(S2)。このとき、第1の濃度制御部22bは、有機溶媒の濃度が一定に保たれた溶離液10がカラム18に送液されるような制御信号を電磁弁操作部31に出力する。続いて、予備の逆相液体クロマトグラフィにおける試料3の溶出指数T0/Trの実測値及び該クロマトグラフィでの溶離液の特定濃度がメモリ25の実測値記憶部25aに記憶される(S3)。
【0041】
次に、実測値記憶部25aに記憶された特定濃度にかかる種類の溶離液について、有機溶媒の濃度の変化に対する試料3の溶出指数T0/Trの変化率のデータがハードディスク26から読み出され、変化率記憶部25bにロードされる(S4)。
【0042】
続いて、濃度演算部22aが、実測値記憶部25aに記憶された特定濃度に対する溶出指数T0/Trの実測値と、変化率記憶部25bに記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度と試料3の溶出指数T0/Trとの関係を、図6に示すように一対一に定める(S5)。ここで、逆相液体クロマトグラフ装置11で試料3の分取を本格的に行う際の溶出モードが、オペレータにより入力部29から入力されたか否かを繰り返し判断する(S6)。
【0043】
溶出モードが入力された場合には(S6:YES)、濃度演算部22aは、本格的な逆相液体クロマトグラフィを行う際に必要となる特定溶出指数T0/Tr0に対する濃度を、ステップS5で定められた一対一の関係に基づいて算出する(S7)。すなわち、ステップS6において、図7に示すようなイソクラテックモードで溶出を行う旨の指示が入力された場合には、濃度演算部22aは、上述のように、特定溶出指数T0/Tr0が0.25となるような有機溶媒の濃度B0を求める。また、図8に示すようなグラジエントモードで溶出を行う旨の指示が入力された場合には、濃度演算部22aは、上述のように、特定溶出指数T0/Tr0wが0.2となるような有機溶媒の濃度B0w、及び特定溶出指数T0/Tr0tが0.5となるような有機溶媒の濃度B0tを求める。
【0044】
そして、第2の濃度制御部22cが、有機溶媒の濃度がステップS7で求められた濃度Bとなるような溶離液10が所定時間だけカラム18に送液されるような制御信号を電磁弁操作部31に順次出力する(S8)。電磁弁操作部31はこの制御信号に基づいて電磁弁14を開閉させる信号を電磁弁14に供給する。これにより、カラム18内での試料の溶出指数T0/Trを、確実に特定溶出指数T0/Tr0又はその近傍とすることができるので、良好な試料の分離を行わせることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、予備の逆相液体クロマトグラフィをイソクラテックモードで行うので、第1の濃度制御部22bによる制御が簡易化される。
【0046】
さらに、本実施の形態では、含有成分の組合せの異なる別種類の溶離液ごとに、有機溶媒の濃度の変化に対する試料3の溶出指数T0/Trの変化率がハードディスク26に記憶されており、必要な変化率だけを変化率記憶部25bに記憶させることができる。そのため、逆相液体クロマトグラフ制御装置21を、含有成分の組合せの異なる多様な種類の溶離液に対して使用することができる。
【0047】
<第2の実施の形態>
次に、図10を参照しつつ、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10は、本実施の形態にかかる予備の逆相液体クロマトグラフィを説明するためのグラフである。本実施の形態は、予備の逆相液体クロマトグラフィの態様を除いて上述の第1の実施の形態とほぼ同様である。以下の説明において、第1の実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0048】
本実施の形態においては、第1の濃度制御部22bは、予備の逆相液体クロマトグラフィが、図10に示すようなグラジエントモードで行われるように、カラム18送液される溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する。すなわち、経過時間が4T0となるまでの間に、溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度が0%〜100%まで徐々に変化し、その後有機溶媒の濃度は100%に保たれる。そして、実測値記憶部25aには、このようなグラジエントモードで行われた予備の逆相液体クロマトグラフィで測定された溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィにおける有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶する。ここで、上述のように、特定濃度とは、溶出時間Trまでの間における有機溶媒の濃度の時間積分値を溶出時間Trで割った値である。
【0049】
なお、溶出時間Trまでの間における有機溶媒の濃度の時間積分値とは、積算濃度であるので、図11(a)において斜線で示す部分の面積となる。したがって、かかる時間積分値を溶出時間Trで割った値を特定濃度B1とすると、図11(a)の斜線で示す部分の面積が、特定濃度B1で時間Trだけイソクラテック溶出を行った際の積算濃度である図11(b)において斜線で示す部分の面積と等しくなる。
【0050】
そして、第1の実施の形態と同様に、濃度演算部22aが、実測値記憶部25aに記憶された特定濃度に対する溶出指数T0/Trの実測値と、変化率記憶部25bに記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる溶離液10における有機溶媒の濃度を求め、第2の濃度制御部22cは、濃度演算部22aでの演算結果に基づいて、カラム18に送液される溶離液10に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する。したがって、第1の実施の形態と同様に、カラム18内での試料3の溶出指数T0/Trを、確実に特定溶出指数T0/Tr0又はその近傍とすることができるので、良好な試料3の分離を行わせることができる。
【0051】
また、本実施の形態では、予備の逆相液体クロマトグラフィをグラジエントモードで行うので、イソクラテックモードで予備の逆相液体クロマトグラフィを行う場合のように、試料3が溶出されるまでの時間が非常に長くなってしまうのを避けることができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。例えば、逆相液体クロマトグラフ装置11の具体的な構成は様々な形態に変更することができる。また、変化率記憶部25bは、有機溶媒の濃度の変化に対する試料3の溶出指数T0/Trの変化率を1種類の溶離液だけについて記憶可能であってもよい。また、逆相液体クロマトグラフ制御装置21のハードウェア構成は任意に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる逆相液体クロマトグラフ装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す逆相液体クロマトグラフ制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す逆相液体クロマトグラフ装置で行われる予備の逆相液体クロマトグラフィを説明する図である。
【図4】図2に示す変化率記憶部に記憶される有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数の変化率をグラフで示した図である。
【図5】図2に示す変化率記憶部に記憶される有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数の変化率を求める方法を説明する図である。
【図6】図2に示す濃度演算部における濃度の演算方法を説明する図である。
【図7】図1に示す逆相液体クロマトグラフ装置で本格的に試料の分取を行う際の溶出モードの一例であり、イソクラテックモードを示す図である。
【図8】図1に示す逆相液体クロマトグラフ装置で本格的に試料の分取を行う際の溶出モードの一例であり、グラジエントモードを示す図である。
【図9】図1に示す逆相液体クロマトグラフ装置における処理手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施の形態にかかる予備の逆相液体クロマトグラフィを説明する図である。
【図11】図10に示す予備の逆相液体クロマトグラフィを行った際の特定濃度を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
10 溶離液
11 逆相液体クロマトグラフ装置
18 カラム
21 逆相液体クロマトグラフ制御装置
22a 濃度演算部(濃度演算手段)
22b 第1の濃度制御部(第1の濃度制御手段)
22c 第2の濃度制御部(第2の濃度制御手段)
25a 実測値記憶部(実測値記憶手段)
25b 変化率記憶部(変化率記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行う際に前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する第1の濃度制御手段と、
前記予備の逆相液体クロマトグラフィにおいて測定される、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶するための実測値記憶手段と、
前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数T0/Trの変化率を記憶するための変化率記憶手段と、
前記実測値記憶手段に記憶された前記特定濃度に対する溶出指数T0/Trと、前記変化率記憶手段に記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求めるための濃度演算手段と、
前記濃度演算手段での演算結果に基づいて、試料の溶出指数T0/Trが前記特定溶出指数T0/Tr0となるようにカラムに送液される前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力するための第2の濃度制御手段とを備えていることを特徴とする逆相液体クロマトグラフの制御装置。
【請求項2】
前記第1の濃度制御手段が、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を一定とするような制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の逆相液体クロマトグラフの制御装置。
【請求項3】
前記第1の濃度制御手段が、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を経時的に変化させるよな制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の逆相液体クロマトグラフィの制御装置。
【請求項4】
前記変化率記憶手段が、含有成分の組合せの異なる別種類の溶離液ごとに、前記有機溶媒の濃度の変化に対する試料の溶出指数T0/Trの変化率を記憶することが可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の逆相液体クロマトグラフの制御装置。
【請求項5】
複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行うことにより、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを求める第1の工程と、
前記第1の工程で求められた溶出指数T0/Tr、及び前記予備の逆相液体ロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に基づいて、前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する試料の溶出指数T0/Trの変化率を利用することにより、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求める第2の工程と、
前記第2の工程で求められた前記特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記有機溶媒の濃度を有する前記溶離液をカラムに送液する第3の工程とを備えていることを特徴とする逆相液体クロマトグラフィの実行方法。
【請求項6】
前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を一定として前記予備の逆相液体クロマトグラフィを行うことを特徴とする請求項5に記載の逆相液体クロマトグラフィの実行方法。
【請求項7】
前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を経時的に変化させつつ前記予備の逆相液体クロマトグラフィを行うことを特徴とする請求項5に記載の逆相液体クロマトグラフィの実行方法。
【請求項8】
複数の成分からなる溶離液を用いて予備の逆相液体クロマトグラフィを行う際に前記溶離液に含まれる有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力する第1の濃度制御手段、
前記予備の逆相液体クロマトグラフィにおいて測定される、溶離液がカラムの空隙に流入し始めてから流出し始めるまでの時間T0及び試料が溶出するまでの溶出時間Trにより定まる溶出指数T0/Trを、該クロマトグラフィでの前記溶出時間Trまでの間における前記有機溶媒の濃度の時間積分値を前記溶出時間Trで割った値である前記有機溶媒の特定濃度に関連付けて記憶するための実測値記憶手段、
前記溶離液における前記有機溶媒の濃度の変化に対する溶出指数T0/Trの変化率を記憶するための変化率記憶手段、
前記実測値記憶手段に記憶された前記特定濃度に対する溶出指数T0/Trと、前記変化率記憶手段に記憶された溶出指数T0/Trの変化率とに基づいて、特定溶出指数T0/Tr0が得られる前記溶離液の前記有機溶媒の濃度を求めるための濃度演算手段、及び、
前記濃度演算手段での演算結果に基づいて、試料の溶出指数T0/Trが前記特定溶出指数T0/Tr0となるようにカラムに送液される前記溶離液における前記有機溶媒の濃度を制御する制御信号を出力するための第2の濃度制御手段としてコンピュータを機能させるための逆相液体クロマトグラフの制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−292378(P2008−292378A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139727(P2007−139727)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(391048533)山善株式会社 (11)