説明

逆遺伝学系

本発明は、分節RNAウイルスを生成する種々の逆遺伝学系を提供する。該系は、その発現構築物のすべての増殖のために細菌を必要としない。一局面において、本発明の逆遺伝学系は、少なくとも2種のウイルスゲノムセグメントをコードする非細菌性発現構築物に基づく。この系は、完全なウイルスゲノムの生成のために宿主細胞に移入しなければならない構築物の数を削減する。別の局面において、本発明は、分節RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントを発現するコード配列を含む、非細菌性発現構築物を提供する。本発明は、この非細菌性発現構築物を含む真核宿主細胞も提供する。本発明は、2種類以上のかかる非細菌性発現構築物のセットであって、該セットが完全な分節RNAウイルスゲノムをコードする、セットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は2009年7月31日に出願された米国仮特許出願61/273,151からの優先権を主張し、上記米国仮特許出願の全容は、参照によって本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、逆遺伝学の分野にある。さらに、それは、例えば、種々のウイルスに対する防御用ワクチンの製造に使用される、ウイルスの調製に関する。
【背景技術】
【0003】
逆遺伝学は、細胞培養におけるウイルスの組換え発現及び操作を可能にする。それは、リアソータントな生成を含めて、ウイルスの急速な生成及び/又は変異を可能にするので、ウイルス学及びワクチン製造における強力なツールである。方法は、ウイルスゲノムをコードする1つ以上のプラスミドを宿主細胞に移入し、次いでウイルスを細胞から単離する(又は「回収する」)ことを含む。それは、プラス鎖RNAウイルス[1(非特許文献1)、2(非特許文献2)]、マイナス鎖RNAウイルス[3(非特許文献3)、4(非特許文献4)]及び二本鎖RNAウイルス[5(非特許文献5)]を含めて、多種多様なRNAウイルスの生成に使用することができる。
【0004】
公知の方法の欠点は、それがプラスミドに依拠するというものである。これらのプラスミドの生成は、細菌中でクローン化ステップを実施する必要があり、それを実施し、分節RNAウイルスを検証するには数日又は数週間を要することがある。かかる遅延は、毎年の季節性インフルエンザワクチン製造の予定に支障を来し、世界的流行に対する迅速な応答も妨げる。さらに、細菌の使用は、プラスミドを使用してウイルス生成のために宿主細胞に移入するときに、細菌汚染物質が導入されるリスクを伴う。これらの欠点は、プラスミドの代わりに線状発現構築物を使用することによって、参考文献6(特許文献1)で対処されている。線状発現構築物は、細菌増殖中に使用される増幅及び/又は選択配列を含まず、大抵はウイルス準種(viral quasispecies)の単一代表の分子クローニングをもたらす。かかる線状発現構築物を使用して、宿主細胞に直接移入することができ、はるかに迅速な逆遺伝学系を提供することができる。参考文献6によれば、線状構築物の移入は、ウイルス分離体を受け取る時間内に実施することができ、分子クローニングに必要な時間を省くことができ、最初のウイルス準種集団の有用なメンバーを入手することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/000891号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】RacanielloおよびBaltimore、Science(1981)214:916〜919
【非特許文献2】Kaplanら、Proc Natl Acad Sci USA(1985)82:8424〜8428
【非特許文献3】Fodorら、J. Virol(1999)73(11):9679〜9682
【非特許文献4】Hoffmannら、Proc Natl Acad Sci USA(2002)99:11411〜6
【非特許文献5】Kobayashiら、Cell Host Microbe(2007)19;1(2)147〜57
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
分節ウイルスの場合、参考文献6で使用される方法は、ウイルスセグメント1種当たり1種類の線状構築物を使用する。したがって、この方法による逆遺伝学ウイルス生成は、8種類の構築物を宿主細胞に移入する必要がある。本発明の一目的は、かかる複数の移入を不要にすることである。より一般的には、本発明の一目的は、分節RNAウイルスに対して逆遺伝学を実施する更なる改善された方法を提供することであり、特に、細菌の使用を必要としない更なる方法を提供することである。本発明は、分節RNAウイルスを生成する種々の逆遺伝学系を提供する。該系は、その発現構築物のすべての増殖のために細菌を必要としない。理想的には、細菌を全く必要としない。
【0008】
分節RNAウイルスを生成し、該系は、その発現構築物のすべての増殖のために細菌を必要としない。理想的には、細菌を全く必要としない。
【0009】
第1の態様においては、逆遺伝学系は、少なくとも2種のウイルスゲノムセグメントをコードする非細菌性発現構築物に基づく。この系は、完全なウイルスゲノムの生成のために宿主細胞に移入しなければならない構築物の数を削減する。例えば、単一の構築物を使用して8種のインフルエンザウイルスセグメントをコードし、それによって移入の複雑さを参考文献6の1/8にすることができる。したがって、本発明は、分節RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントを発現するコード配列を含む、非細菌性発現構築物を提供する。本発明は、この非細菌性発現構築物を含む真核宿主細胞も提供する。本発明は、2種類以上のかかる非細菌性発現構築物のセットであって、該セットが完全な分節RNAウイルスゲノムをコードする、セットも提供する。
【0010】
第2の態様においては、逆遺伝学系は、(i)少なくとも1種類の細菌性発現構築物と(ii)少なくとも1種類の非細菌性発現構築物との組合せに基づく。これら2つのタイプの構築物の各々は、少なくとも1種のウイルスゲノムセグメントを生成する。この態様は、逆遺伝学系を調製する細菌を全く使用しないものではないが、それでも強力である。例えば、ウイルスセグメントのサブセットを発現する構築物を細菌中で増殖させ、操作して、利用可能である広範囲の好都合な分子生物学的技術を利用することができる。このサブセットのセグメントは、系統ごとに変化させる必要がめったにないものとすることができる。残りのウイルスセグメントは、非細菌性発現構築物によってコードすることができ、これらの構築物は、細菌的な処置を必要とせずにすぐさま迅速に調製することができる。したがって、この組合せは、労力を対象セグメントにすぐに集中させることができ、既に利用可能である「バックグラウンド」セグメントの既存のセットと構築物を組み合わせることができることを意味する。したがって、本発明は、(i)分節RNAウイルスの1種以上のゲノムセグメントのコード配列(単数又は複数)を含む少なくとも1つのプラスミド、及び(ii)RNAウイルスの1種以上のゲノムセグメントのコード配列(単数又は複数)を含む少なくとも1つの非細菌性発現構築物を含み、細菌性構築物と非細菌性構築物の組合せがRNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントを生成する、発現構築物のセットを提供する。本発明は、構築物のこのセットを含む真核宿主細胞も提供する。
【0011】
第3の態様においては、本発明は、分節RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントのコード配列を含む線状発現構築物を含む、宿主細胞を提供する。この細胞は、細菌性とすることができるが、好ましくは真核生物である。
【0012】
第4の態様においては、本発明は、インフルエンザウイルスの8種の異なるゲノムセグメントのコード配列を含む細菌プラスミドであって、各セグメントの発現が(i)ほ乳動物pol−Iプロモーター又は(ii)バクテリオファージポリメラーゼプロモーターのいずれかによって制御される、細菌プラスミドを提供する。本発明は、この構築物を含む細胞も提供する。この細胞は、細菌性細胞又は真核生物細胞とすることができる。
【0013】
本発明は、さらに、1種類以上の上記発現構築物(単数又は複数)を細胞に挿入するステップを含む、本発明の宿主細胞を調製するプロセスを提供する。
【0014】
本発明は、さらに、RNAウイルスセグメントの発現が発現構築物から生じるような条件下で宿主細胞を培養するステップを含む、本発明の真核宿主細胞におけるRNA発現プロセスを提供する。
【0015】
本発明は、さらに、RNAウイルスセグメントの発現が発現構築物から生じるような条件下で本発明の宿主細胞を培養してウイルスを生成するステップを含む、分節RNAウイルスを生成する方法を提供する。次いで、このようにして生成されたウイルスを宿主細胞又は宿主細胞培養物から精製することができる。本発明は、このプロセスによって得られるウイルスも提供する。このウイルスを使用して、卵又は細胞を感染させて、ワクチン製造用ウイルスを増殖させることができる。したがって、本発明は、培養宿主(例えば、卵又は細胞)を本発明のウイルスに感染させ、ウイルスを増殖させ、次いで増殖ウイルスからワクチンを調製するステップを含む、ウイルスワクチンを調製する方法を提供する。
【0016】
本発明は、分節RNAウイルスゲノムの少なくとも2種の異なるセグメントを発現するコード配列を含むDNA分子(例えば、本発明の非細菌性発現構築物)を調製するプロセスも提供する。該DNAは、少なくとも部分的には化学合成によって調製される。
【0017】
本発明は、分節RNAウイルスゲノムの少なくとも2種の異なるセグメントを発現するコード配列を含むDNA分子(例えば、本発明の非細菌性発現構築物)を調製するプロセスであって、(i)DNA分子の複数の重複断片を合成するステップであって、重複断片が完全なDNA分子に広がっているステップ、及び(ii)断片を連結してDNA分子を生成するステップを含む、プロセスも提供する。次いで、DNA分子を回収し、本発明の逆遺伝学方法に使用することができる。例えば、それを真核細胞に挿入し、分節RNAウイルスを生成させることができる。好ましくは、DNA分子は、その回収と真核細胞へのその挿入との間に細菌細胞に挿入されない。すなわち、構築物は、いかなる中間的な細菌増幅もなしに、ウイルス回収に直接使用される。
【0018】
本発明は、分節RNAウイルスの発現構築物のライブラリーも提供する。各発現構築物は、ウイルスの少なくとも1種のゲノムセグメントのコード配列を含む。ライブラリーは、ライブラリーの一サブセットを選択することによってゲノム全体を表すことができるように、ゲノムの各セグメントに対して少なくとも1つの構築物を含む。一部のウイルスセグメントは、他のものよりも多く示され得る。例えば、インフルエンザウイルスライブラリーは、平均のものよりも多いHA及びNAセグメントを含むことができる。所望の対象ウイルスゲノムを構築するために、各所望のセグメントをコードするライブラリーメンバーを選択し、次いで発現させて、所望のウイルスを生成する。ライブラリーは、骨格ゲノムセグメントと対象のHA及びNAセグメントを迅速に再組み合わせして、有用なワクチン製造用ウイルスを生成するという点で、インフルエンザウイルスについて特に有力である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
非細菌性発現構築物
本発明の第1、第2及び第3の態様は、1種類以上の「非細菌性発現構築物」を利用する。この用語は、構築物が、その中にコードされたウイルスRNAセグメントを真核細胞中で発現させることができるが、細菌中での構築物の増殖に必要な成分は含まないことを意味する。したがって、構築物は、細菌複製起点(ori)を含まず、通常は細菌選択マーカー(例えば、抗生物質耐性マーカー)を含まない。これらの成分は、真核宿主細胞中での所望のウイルスRNAを発現させるのには不要であり、したがって細菌が構築物の増殖に使用されないときには無用である。これらの増殖成分の欠如は、構築物が細菌に導入された場合に、構築物が複製されないことを意味する。
【0020】
非細菌性構築物は、線状又は環状とすることができる。線状構築物は(参考文献6に見られるように)より一般的ではあるが、環状構築物を使用することもできる。環状構築物は、線状構築物を環状化することによって作製することができ、その逆も同様である。かかる環状化方法は、参考文献6に記載されている。環状構築物の線形化は、種々の容易な方法、例えば、1種以上の制限酵素(単数又は複数)を利用して、又は核酸増幅技術を使用して(例えば、PCRによって)(環状テンプレートを含めた)テンプレートから増幅することによって、実施することができる。
【0021】
非細菌性構築物は、1種以上のウイルスRNAセグメント(単数又は複数)のコード配列(単数又は複数)を含む。第1及び第3の態様の構築物は、少なくとも2種の異なるウイルスRNAセグメントをコードする。コードされたセグメントは、発現され、次いで、ビリオンに入れられて組換え発現ウイルスを生成することができるウイルスRNAとして機能することができる。したがって、構築物は、単独で又は別の構築物と組み合わせて、逆遺伝学によってRNAウイルスを生成するのに適している。
【0022】
構築物は、通常は二本鎖DNAでできている。かかる構築物は、好都合には、公知のDNA合成方法及び組立て方法によって作製することができる。現代の技術は、多数のゲノムセグメントを有する場合でも、完全なウイルスをコードする合成DNA分子を提供することができる。例えば、インフルエンザウイルスゲノムの全8種のセグメントを発現する構築物は、DNAの約25,000塩基対(25kbp)を必要とし、これは、現在の構築物合成の能力の十分な範囲内である。例えば、参考文献7は、個々の約5kbpの合成断片の組立てによる32kbp遺伝子の化学合成を報告している。参考文献8は、約5kbp、7kbp、24kbp、72kbp又は144kbp長の中間段階を介した583kbp合成染色体の生成を報告している。更なる詳細については下記を参照されたい。
【0023】
かかる合成法は、構築物を提供する(特に線状構築物を提供する)好ましい方法である。しかし、化学合成を使用する代わりに、構築物のDNAは、RNAウイルスから逆転写によってcDNAを生成することによって調製することができ、次いで余分なDNA配列をそのcDNAに(例えば、ライゲーションによって)連結することができ、又はcDNAをより大きいDNA構築物に組み込むことができる。一部の実施形態においては、酵素的方法と化学的方法の混合、例えば、逆転写とそれに続く末端への化学付加が使用される。
【0024】
非細菌性構築物は、いかなる細菌増殖要素も含まないだけでなく、いかなる細菌DNA修飾も含まないことがある。したがって、構築物は、メチル化アデニン残基を含まなくてもよく、いかなるメチル化シトシン残基もCpGジヌクレオチドモチーフに関連しており、すなわち、グアニジンがその後に続かないメチル化シトシンは存在しない。
【0025】
構築物は、任意の適切な移入方法、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム、遺伝子銃、微粒子銃又は微量注入によって、宿主細胞に導入することができる。移入後、宿主細胞は、構築物中の遺伝子要素(genetic element)を認識し、コードされたウイルスRNAセグメントを発現し始める。
【0026】
構築物合成
上述したように、DNA発現構築物は、化学合成によって少なくとも部分的に調製することができる。構築物は、分節RNAウイルスゲノムの少なくとも2種の異なるセグメントを発現する(好ましくは、分節RNAウイルスの完全なゲノムを発現する)コード配列を含み、好都合には、参考文献8に開示された合成法を使用して調製することができる。
【0027】
上記合成法は、所望のDNA配列を断片に概念的に分解すること(splitting)を含み得る。これらの断片は、さらに1回以上概念的に分解することができ、最終的に、選択されたDNA合成法、例えば、ホスホルアミダイト化学反応によって、調製することができるサイズである断片のセットになる。次いで、これらの断片が合成され、連結されて、概念的な分解段階からより長い断片を生成し、これらのより長い断片は、次いで、全配列が最終的に調製されるまで、連結などされる。このようにして、参考文献8は、50マーのオリゴヌクレオチドを種々の段階で約10組み立てて、583kbpゲノムを調製した。その50マーのオリゴヌクレオチドがカセット5〜7kb長に組み立てられ、これらのカセットが次いで約24kbp断片に組み立てられ、次いでそれらが約72kbp断片、次いで約144kbpに組み立てられ、次いで2つの約290kbp構築物を生成し、それらが最後に連結されて完全なゲノムを生成した。
【0028】
断片は、重複するように設計され、それによって正しい順にそれらを組み立てることができる。例えば、カセットは、少なくとも80bp重複し、それによって約24kbp断片などにそれを組み立てることができた。したがって、この方法は、重複断片が完全なDNA分子に広がっているように、所望のDNA分子の複数の重複断片の合成を含む。各断片の両端は、重複が不要である線状分子の末端断片を除いて、隣接5’又は3’断片と重複する(ただし、環状分子を合成するには、2つの末端断片は重複すべきである。)。各段階の断片は、ベクター中で、例えば、プラスミド又はBAC若しくはYACベクター中で、挿入物として維持することができる。合成プロセス中の断片の組立ては、in vitro及び/又はin vivoでの組換えを必要とし得る。in vitro方法の場合、3’エキソヌクレアーゼによる消化を使用して、断片末端にオーバーハングを露出させることができ、重複断片中の相補的オーバーハングを次いでアニールし、続いて連結修復することができる(「チュウバック(chewback)組立て」)。in vivo方法の場合、重複クローンは、例えば、参考文献8に開示されたTARクローン化方法を使用して、組み立てることができる。(例えば、インフルエンザウイルスゲノムのすべてのセグメントをコードするのに十分容易な)100kbp未満の断片の場合、in vitro組換え方法のみに依拠することが容易に可能である。
【0029】
別の合成法を使用することもできる。例えば、参考文献7は、約5kbp断片が合成され、次いで従来のクローン化方法によってより長い配列に組み立てられる方法を開示している。未精製40塩基合成オリゴヌクレオチドは、自動化PCRに基づく遺伝子合成によって500〜800bpシントンに組み立てられ、これらのシントンは、少数のエンドヌクレアーゼ及び「選択による連結」を使用して連結されてマルチシントン約5kbpセグメントにされる。続いて、これらの大きいセグメントを従来のクローン化によってより長い配列に組み立てることができる。この方法は、完全なインフルエンザウイルスをコードするのに十分容易である32kbpDNA分子を容易に提供することができる。
【0030】
同様に、参考文献9は、全配列に広がっている7つのDNA断片から32kb分子を組み立てた方法を開示している。7つのDNAの端部は、独特の接合部で操作され、それによって隣接断片のみからなる組立てを可能にした。各DNAの端部の相互接続する制限酵素切断部位の接合部は、系統的に除去された組立てである。
【0031】
完全なDNA分子が組み立てられると、それを精製し、DNAが細菌内に存在する中間ステップを必要とせずに、ウイルス生成用真核細胞に直接挿入することができる。
【0032】
これらの方法によって調製されると、本発明のDNA発現構築物は、1つ以上の「水位標(watermark)」配列を含むことができる。これらは、DNA中の情報を確認又はコードするのに使用することができる配列である。それは、非コード配列中にあってもコード配列中にあってもよい。最も一般的には、それは、アミノ酸配列を変えずに、コード配列内の情報をコードする。分節RNAウイルスゲノムをコードするDNAの場合、任意の水位標配列が理想的には遺伝子間の部位に含まれる。というのは、同義コドン変化は、コードされたRNAセグメントに対して実質的な生物学的効果を有し得るからである。
【0033】
プラスミド
本発明の第2及び第4の態様は、プラスミドの使用を含む。これらのプラスミドは、好都合には、細菌中で増殖することができ、したがって細菌複製起点(ori)を含み、通常は細菌選択マーカー(例えば、抗生物質耐性マーカー)も含む。したがって、プラスミドは、上で考察した非細菌性発現構築物から(配列と機能の両方によって)容易に識別される。一般的には、プラスミドは、逆遺伝学の分野で既知であるプラスミドと同じであり得るが、従来技術は、それをウイルス回収のために非細菌性発現構築物と併用することを開示していない。
【0034】
プラスミドは、ウイルス生成が真核宿主細胞中で起こり得、その中で生き残るために必要な遺伝子要素も含む。したがって、プラスミドは、細菌宿主中で増殖、操作及び/又は増幅することができるが真核生物宿主中でウイルスRNAを発現させることもできる、シャトルプラスミドである。
【0035】
プラスミドは、少なくとも1種のウイルスRNAセグメント(第4の態様では8種のインフルエンザウイルスセグメント)をコードし、真核宿主細胞においては、これらのコード配列は、発現され、次いでビリオンにパッケージされて組換え発現ウイルスを生成することができるウイルスRNAとして機能することができる。
【0036】
プラスミドは、任意の適切な移入方法、例えば、電気穿孔法、リポフェクション、遺伝子銃、又は微量注入によって、真核宿主細胞に導入することができる。移入後、宿主細胞は、構築物中の遺伝子要素を認識し、コードされたウイルスRNAセグメント(単数又は複数)を発現し始める。
【0037】
プラスミドが複数のRNAセグメントをコードするときには、各ステップは、プラスミド内組換えを最小化するようにすることができる。複数の同一のプロモーター及びターミネーター(pol−Iとpol−IIの両方)の存在は、このリスクを増加させ得る。細菌増殖中に高コピー数を与えるoriの使用も同様にこのリスクを増加させ得る。したがって、プラスミドは、有利には、細菌中に存在するときには比較的少ないコピー数、例えば、E.coli細胞1個当たり50個未満のコピーを有することができる。種々の低コピー数ベクター、例えば、参考文献10で使用されるベクター、p15a ori又はプラスミドF ori[11]を含むベクターなどが利用可能である。異なる配列を有するプロモーターを使用すること、及び/又は余分なプロモーターを提供する余分なコード領域を含むことを回避することも有用である。これらなどのステップは、プラスミドの安定性を改善することができる。
【0038】
発現構築物
本発明で使用される非細菌性発現構築物及びプラスミド発現構築物は、ウイルスRNAセグメント(単数又は複数)をコードする。これらのコード配列は、適切な真核宿主細胞中で発現されて、ビリオンにパッケージされて組換え発現ウイルスを生成することができるウイルスRNAを提供することができる。
【0039】
ウイルスRNAセグメントの発現は、RNAコード配列の上流のプロモーターによって制御される。動物細胞中でウイルスRNAセグメントを発現するためのプロモーターは、DNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され、通常はpol−Iプロモーターである(下記参照)。別の系も利用可能であるが、in situのポリメラーゼ源に関連する、T7 RNAポリメラーゼなどのバクテリオファージ又は細菌RNAポリメラーゼプロモーターを使用することが知られている[12]。各ウイルスセグメントはそれ自体のプロモーターを有し、これらは互いに同じでも異なってもよい。
【0040】
ウイルスがプラス鎖RNAウイルスである場合、ウイルスセグメントのみをコードする発現構築物を細胞に移入することで十分なことが多い。例えば、ポリオウイルスゲノムをコードするプラスミドの移入は、感染性ポリオウイルスを再生させた[1、2]。マイナス鎖RNAウイルスの逆遺伝学は、余分な難題を生ずる。というのは、アンチセンスウイルスRNAは、通常は非感染性であり、したがって生活環を完成するにはウイルスタンパク質を必要とするからである。したがって、ウイルスポリメラーゼなどのウイルスタンパク質が、タンパク質として、又はin situでのタンパク質発現用遺伝子として、送達されて、細胞に供給される。
【0041】
したがって、特にマイナス鎖ウイルスについては、発現構築物は、真核細胞中でウイルスタンパク質を発現するコード配列を含むことができる。タンパク質発現に適切なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)由来のものが挙げられる。ウイルスセグメントとウイルスタンパク質の同時発現により、宿主細胞中でのウイルスの組換え組立てのために必要な要素のすべてがin situで生成される。RNAコード配列と同じ構築物にタンパク質コード配列を含むことが有用であるが、RNAとタンパク質発現について異なる構築物を使用することもできる。タンパク質コード配列とRNAコード配列が同じ構築物中に存在する場合、それらは異なる配列とすることができるが、そうではなく、2つの異なるプロモーターから発現させて、RNAとタンパク質発現の両方を同じDNA配列から与えることもできる。
【0042】
pol−IプロモーターからウイルスRNAを発現し、同じDNA配列に結合したpol−IIプロモーターからウイルスタンパク質を発現する、双方向的な構築物が当分野で公知である(例えば、参考文献13参照)。2種のプロモーターは、同じ構築物から異なる方向(すなわち、5’から3’と3’から5’の両方)で発現させ、同じ二本鎖DNAの異なる鎖上に存在することができる。共通DNA配列を使用すると、宿主細胞に必要な発現構築物の総数及び/又は長さが低下する。双方向的な発現構築物は、上流のpol−IIプロモーターと下流のpol−Iプロモーターの間に位置する遺伝子又はcDNAを含むことができる。遺伝子又はcDNAをpol−IIプロモーターから転写すると、ウイルスタンパク質に翻訳することができるキャップされたプラスセンスウイルスmRNAが生成する。一方、pol−Iプロモーターから転写すると、キャップのないマイナスセンスvRNAが生成する。
【0043】
発現構築物は、典型的には、各転写単位についてRNA転写終結配列を含む。終結配列は、内因性の終結配列でも、宿主細胞にとって内因性でない終結配列でもよい。適切な終結配列は、当業者に明らかであり、それについては、RNAポリメラーゼI転写終結配列、RNAポリメラーゼII転写終結配列及びリボザイムが挙げられるが、それだけに限定されない。さらに、発現構築物は、特にタンパク質発現に使用される遺伝子の末端に、mRNAの1つ以上のポリアデニル化シグナルを含むことができる。ウイルスRNAセグメントのコード配列は、典型的には、一端がpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−IIプロモーターに隣接し、pol−Iプロモーター配列とターミネーター配列はセグメントコード配列に隣接し、該セグメントのコード配列はpol−IIプロモーター配列とターミネーター配列に隣接する。これらの種々の配列要素の互いの間隔は、ポリメラーゼが複製を正確に開始し終結するのに重要であるが、これを達成することは困難ではない。
【0044】
発現構築物は、真核細胞中での選択のための選択マーカーを含むことができる。
【0045】
発現構築物は、DNA配列の導入を容易にする1つ以上のマルチクローニング部位を含むことができる。
【0046】
別々のコード配列がウイルスRNAとタンパク質に使用される場合、異なる配列を使用することができ、例えば、タンパク質コード配列では特定の宿主細胞に対してコドンを最適化できるのに対して、RNAコード配列は当該ウイルス本来のコドンを使用する。RNAコード配列のコドン最適化は、さほど有用ではない。というのは、RNAは、組換えタンパク質発現に対してではなくビリオンパッケージングに対して最適化すべきだからである。
【0047】
発現宿主がMDCK細胞系などのイヌの細胞である場合、例えば、野生型イヌ遺伝子由来又はイヌウイルス由来のpol−IIプロモーターを使用して、及び/又はヒト細胞よりもイヌ細胞に適したコドンを使用することによって、タンパク質コード領域をイヌの発現に対して最適化することができる。例えば、ヒト遺伝子はPheのコドンとしてUUCをわずかに好むが(54%)、イヌ細胞では優先度がより高い(59%)。同様に、ヒト細胞ではIleコドンに対する過半数を占める優先はないが、イヌコドンの53%はIleに対してAUCを使用する。イヌパルボウイルス(ssDNAウイルス)などのイヌウイルスも、コドン最適化の指針を提供することができる。例えば、イヌパルボウイルス配列中のPheコドンの95%はUUUであり(イヌゲノム中では41%であるのに対し)、Ileコドンの68%はAUUであり(32%に対し)、Valコドンの46%はGUUであり(14%に対し)、Proコドンの72%はCCAであり(25%に対し)、Tyrコドンの87%はUAUであり(40%に対し)、Hisコドンの87%はCAUであり(39%に対し)、Glnコドンの92%はCAAであり(25%に対し)、Gluコドンの81%はGAAであり(40%に対し)、Cysコドンの94%はUGUであり(42%に対し)、Serコドンのわずか1%はUCUであり(24%に対し)、CCCはPheには使用されず、UAGは終止コドンとしては使用されない。したがって、タンパク質コード遺伝子は、その性質がイヌ細胞での発現に対して既に最適化された遺伝子のようにすることができ、それによって発現を促進することができる。
【0048】
RNAポリメラーゼIプロモーター
大部分の逆遺伝学方法は、ウイルスRNAセグメントの転写を駆動するためのRNAポリメラーゼI(RNA pol−I)プロモーターを含む発現ベクターを使用する。pol−Iプロモーターは、修飾していない5’及び3’末端を有する転写物を生成する。これは、多数のウイルス、例えばインフルエンザの完全な感染力に必要である。
【0049】
天然pol−Iプロモーターは、2つの部分から成り、2つの別々の領域、すなわちコアプロモーターと上流プロモーター要素(UPE)を有する。この一般的構成は、大部分の種に由来するpol−Iプロモーターに共通しているが、プロモーターの実際の配列は広範に変わる。コアプロモーターは、転写起点を囲み、約−45から+20まで及んでおり、転写を開始するのに十分である。コアプロモーターは一般にGCが豊富である。コアプロモーターは単独で転写を開始するのに十分であるが、プロモーターの効率はUPEによって極めて大きく増加する。UPEは、典型的には約−180から−107まで及んでおり、やはりGCが豊富である。プロモーターの活性は、前開始複合体を安定化することによって機能し得る遠位のエンハンサー様配列の存在によって更に増大させることができる。
【0050】
pol−Iプロモーターの配列は、ヒト、イヌ及びニワトリを含めて、様々な種で確認されている。Pol−Iプロモーターの活性が狭い宿主域に限定することができる場合、本発明は、典型的には、宿主細胞にとって内因性のpol−Iプロモーターを使用する。
【0051】
しかし、ある状況においては、pol−Iプロモーターは、その天然宿主外で活性であり得る。例えば、ヒトpol−Iプロモーターは、サル細胞で活性であり、一部のイヌ細胞でも活性であり得る。
【0052】
発現構築物は、少なくとも1つのコアプロモーターを含むことができ、好ましくは、それは、少なくとも1つのUPEも含み、1つ以上のエンハンサー要素も含むことができる。天然プロモーターの断片も、その断片が転写を開始することができるという条件で、使用することができる。本発明によって使用することができるヒトpol−Iプロモーターは、配列番号1または配列番号2の配列又はその変種を含むことができる。イヌプロモーターが本発明によって使用される場合、それは、配列番号3、配列番号4または配列番号5の配列又はその変種を含むことができる。逆遺伝学のイヌpol−Iプロモーターは参考文献14および15に開示されている。
【0053】
pol−Iプロモーターは、(i)配列番号1から5のいずれかと少なくともp%の配列相同性を有する配列、及び/又は(ii)配列番号1から5のいずれかの断片を含むことができる。ただし、プロモーターは、対象宿主細胞中の作用的に連結したRNAコード配列の転写を開始し、駆動する能力を有する。pの値は、75、80、85、90、95、96、97、98、99以上とすることができる。断片自体は、発現を駆動するのに十分な長さであり(例えば、配列番号4は、配列番号3の断片である。)、又は断片は別の配列と連結することができ、この組合せは発現を駆動する。対象宿主細胞において発現を駆動するかかるpol−Iプロモーターの能力は、例えば、プロモーターの制御下にあるアンチセンスレポーター遺伝子を用いた上記アッセイを使用して、容易に評価することができる。
【0054】
ウイルス調製
本発明は、改変された又はリアソータントな系統を含めて、ウイルス系統の生成に有用である。この技術をDNA構築物のin vitro操作に使用して、ウイルスセグメントの組合せ物を作製することができ、ウイルスセグメント中のコード配列又は非コード配列の操作を容易にすることができ、変異を導入することなどができる。リアソータントなウイルス系統の生成は、流行に対抗するのにワクチンの迅速な製造が必要である状況において特に有益であるリアソータントな種ウイルスを得るのに必要な時間をかなり短縮することができるので、有用である。したがって、発現構築物を使用して、少なくとも2種類の野生型系統のウイルスセグメント又は該野生型系統由来のウイルスセグメントを発現させることが好ましい。
【0055】
組換えウイルスを製造するために、細胞は、ビリオンを組み立てるのに必要であるウイルスゲノムの全セグメントを発現しなければならない。本発明の発現構築物にクローン化されたDNAは、好ましくは、ウイルスRNA及びタンパク質のすべてを生成するが、RNA及びタンパク質の一部を生成するヘルパーウイルスを使用することもできる。しかし、ヘルパーウイルスを使用しない系が好ましい。
【0056】
本発明の構築物からすべてのウイルスセグメントを提供するために、種々の配列が可能である。第1の態様によれば、すべてのウイルスセグメントは、非細菌性発現構築物にコードすることもできる。ただし、これらの構築物の少なくとも1つは、(参考文献6とは異なり)少なくとも2種のウイルスゲノムセグメントをコードし、理想的には、すべてのウイルスゲノムセグメントは、対象ウイルスを生成する能力を有する宿主細胞を生成するのに単一の非細菌性構築物の移入で十分となるように、該単一の非細菌性構築物にコードされる。対照的に、第2の態様によれば、ウイルスセグメントは、細菌性発現構築物と非細菌性発現構築物に分けられ、細胞中にその組合せたものが存在することによって、すべてのウイルスセグメントを発現する。
【0057】
第1の態様でさえも、ウイルスセグメントを1つを超える発現構築物に分けることが有利であり得る。A型インフルエンザウイルスのワクチン生成系統を例にとると、8種のセグメントのうち6種は、典型的には、年ごとに変化せず、季節ごとにこの一定のウイルス骨格に季節性のHAセグメント及びNAセグメントが補充される。この状況においては、1つの構築物に6種の骨格セグメントをコードすること、及び2種の他の可変セグメントを第2の構築物に一緒にコードするか又は第2及び第3の構築物に別々にコードすることが役立ち得る。これによって、より小さい構築物において季節的な変化を実施することができ、骨格構築物を特に骨格発現に対して最適化することもできる。
【0058】
ウイルス
本発明の方法は、任意の分節RNAウイルスを使用して実施することができる。かかるウイルスは、プラス鎖、マイナス鎖又は二本鎖とすることができる。
【0059】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである場合、ウイルスは、Paramyxoviridae、Pneumovirinae、Rhabdoviridae、Filoviridae、Bornaviridae、Orthomyxoviridae、Bunyaviridae又はArenaviridaeからなる群から選択される科に由来することができる。さらに、ウイルスは、Paramyxovirus、Orthomyxovirus、Respirovirus、Morbillivirus、Rubulavirus、Henipaviras、Avulavirus、Pneumovirus、Metapneumovirus、Vesiculovirus、Lyssavirus、Ephemerovirus、Cytorhabdovirus、Nucleorhabdovirus、Novirhabdovirus、Marburgvirus、Ebolavirus、Bornavirus、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、Thogotovirus、Isavirus、Orthobunyavirus、Hantavirus、Nairovirus、Phlebovirus、Tospovirus、Arenavirus、Ophiovirus、Tenuivirus又はDeltavirusからなる群から選択される属に由来するウイルスとすることができる。特定の実施形態においては、マイナス鎖RNAウイルスは、センダイウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ヘンドラウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ヒト呼吸器合胞体ウイルス、トリニューモウイルス、水ほう性口内炎インジアナウイルス、狂犬病ウイルス、ウシ流行熱ウイルス、レタス壊死性黄化ウイルス、ジャガイモ黄萎病ウイルス、感染性造血器壊死症ウイルス、ビクトリア湖マルブルクウイルス、ザイールエボラウイルス、ボルナ病ウイルス、インフルエンザウイルス、トゴトウイルス、感染性サケ貧血ウイルス、ブンヤムウェラウイルス、ハンターンウイルス、Dugbeウイルス、リフトバレー熱ウイルス、トマトスポッテットウイルトウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、柑橘類ソローシスウイルス、イネ縞葉枯ウイルス及びデルタ型肝炎ウイルスからなる群から選択される。好ましい実施形態においては、ウイルスはインフルエンザウイルスである(下記参照)。
【0060】
ウイルスがプラス鎖RNAウイルスである場合、ウイルスは、Arteriviridae、Coronaviridae、Picornaviridae及びRoniviridaeからなる群から選択される科に由来することができる。さらに、ウイルスは、Arterivirius、Coronavirus、Enterovirus、Torovirus、Okavirus、Rhinovirus、Hepatovirus、Cardiovirus、Aphthovirus、Parechovirus、Erbovirus、Kobuvirus及びTeschovirusからなる群から選択される属に由来するウイルスとすることができる。特定の実施形態においては、ウイルスは、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、ポリオウイルス、ヒトエンテロウイルスA(HEV−A)、ヒトエンテロウイルスB(HEV−B)、ヒトエンテロウイルスC、ヒトエンテロウイルスD、A型肝炎ウイルス並びにヒトライノウイルスA及びBからなる群から選択される。
【0061】
ウイルスが二本鎖RNAウイルスである場合、ウイルスは、Birnaviridae、Cystoviridae、Hypoviridae、Partitiviridae、Reoviridae及びTotiviridaeからなる群から選択される科に由来することができる。さらに、ウイルスは、Aquabirnavirus、Avibirnavirus、Entomobirnavirus、Cystovirus、Partitivirus、Alphacryptovirus、Betacryptovirus、Aquareovirus、Coltivirus、Cypovirus、Fijivirus、Idnoreovirus、Mycoreovirus、Orbivirus、Orthoreovirus、Oryzavirus、Phytoreovirus、Rotavirus及びSeadornavirusからなる群から選択される属に由来するウイルスとすることができる。
【0062】
本発明は、急速な変異を起こすウイルスに特に適切であり、組換え手法によってウイルスのより迅速な単離が可能であり、次いでウイルスを更に増殖させて適切なワクチンを得ることができる場合に特に適切である。したがって、好ましい一実施形態においては、ウイルスはインフルエンザウイルスである。
【0063】
インフルエンザウイルス
本発明は、逆遺伝学が十分に特徴づけられたA型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスに用いるのに特に適切である。インフルエンザウイルスは、分節マイナス鎖RNAウイルスである。A及びB型インフルエンザウイルスは、8種のセグメント(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M及びNS)を有し、一方C型インフルエンザウイルスは7種(NAセグメントなし)を有する。上記ウイルスは、通常、複製を開始するのに少なくとも4種類のウイルスタンパク質(PB1、PB2、PA及び核タンパク質)の存在を必要とする。したがって、少なくともこれら4種類のウイルスタンパク質は、タンパク質をコードする発現構築物によって提供されるべきである。
【0064】
A型インフルエンザウイルスの好ましい発現系は、複数の異なる野生型系統に由来するゲノムセグメントをコードする。上記発現系は、PR/8/34系統(A/Puerto Rico/8/34)由来の1種以上(例えば、1、2、3、4、5又は6種)のゲノムセグメントをコードすることができるが、通常、これ/これらは、PR/8/34 HAセグメントを含まず、通常はPR/8/34 NAセグメントを含まない。したがって、上記発現系は、PR/8/34に由来するセグメントNP、M、NS、PA、PB1及び/又はPB2の少なくとも1種類(最大限全6種類)をコードすることができる。
【0065】
A型インフルエンザウイルスの別の有用な発現系は、AA/6/60インフルエンザウイルス(A/Ann Arbor/6/60)由来の1種以上(例えば、1、2、3、4、5又は6種)のゲノムセグメントをコードすることができるが、通常、これ/これらは、AA/6/60 HAセグメントを含まず、通常はAA/6/60 NAセグメントを含まない。したがって、上記発現系は、AA/6/60に由来するセグメントNP、M、NS、PA、PB1及び/又はPB2の少なくとも1種類(最大限全6種類)をコードすることができる。
【0066】
B型インフルエンザウイルスの発現系は、複数の異なる野生型系統に由来するゲノムセグメントをコードすることができる。上記発現系は、AA/1/66インフルエンザウイルス(B/Ann Arbor/1/66)由来の1種以上(例えば、1、2、3、4、5又は6種)のゲノムセグメントをコードすることができるが、通常、これ/これらは、AA/1/66 HAセグメントを含まず、通常はAA/1/66 NAセグメントを含まない。したがって、上記発現系は、AA/1/66に由来するセグメントNP、M、NS、PA、PB1及び/又はPB2の少なくとも1種類をコードすることができる。
【0067】
A/PR/8/34、A/AA/6/60及びB/AA/1/66系統に由来するウイルスセグメント及び配列は、広範に利用可能である。その配列、例えば、GI:89779337、GI:89779334、GI:89779332、GI:89779320、GI:89779327、Gl:89779325、GI:89779322、GI:89779329は、公開データベース上で利用可能である。
【0068】
一部の実施形態においては、そのゲノムがNS1ウイルスタンパク質をコードせず、又はそのNS1タンパク質が切り詰められた、インフルエンザウイルスを提供することが有利であり得る。NS1ノックアウト変異体は、参考文献16に記載されている。切り詰めは当分野で公知であり(例えば、参考文献17および18参照)、NS1の第1のN末端126アミノ酸のみを残す切り詰めを含む。これらのNS1変異ウイルス系統は、弱毒生インフルエンザワクチンを調製するのに特に適切である。
【0069】
インフルエンザウイルス(及びある種の別のウイルス)の逆遺伝学系は、宿主細胞中でアクセサリータンパク質の発現をもたらす発現構築物を含むことができる。例えば、非ウイルス性セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン)を発現することが有利であり得る。
【0070】
上述したように、ウイルスセグメントを幾つかの発現構築物に分解することが有利であり得る。これは、インフルエンザウイルスにも当てはまる。
【0071】
一実施形態においては、第1の非細菌性発現構築物は、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントPB2、PB1、PA、NP及びNSのコード配列を含む。第2の非細菌性構築物は、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントHAのコード配列を含む。NA及びMゲノムセグメントは、(「7:1」系を生成する)第1の構築物若しくは(5:3系を生成する)第2の構築物にコードされるか、又はMセグメントが第1の構築物にあり、NAセグメントが第2の構築物にある(6:2)。A型インフルエンザウイルスの場合、第1の構築物は、理想的には、PR/8/34、AA/6/60又はAA/1/66系統由来のセグメントをコードする。第2の構築物にコードされたセグメントは、第1の構築物のセグメントとは異なる系統(単数又は複数)に由来することができ、それによってインフルエンザワクチン製造前に定期的に実施される系統再構築(reassortment)を容易にすることができる。8種のウイルスセグメントのコード配列の各々は、その発現を駆動するプロモーター、例えばpol−IプロモーターをvRNAとして有する。第1の構築物は、例えば各々がpol−IIプロモーターの制御下にある、少なくともPB1、PB2、PA及びNPウイルスタンパク質を発現するコード配列も含むべきである。有用には、構築物の全長を短縮する(したがって、安定性を高める)ために、少なくともPB1、PB2、PA及びNPセグメントのコード配列は、一端がpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−IIプロモーターに隣接しており、その結果、双方向的な発現によって同じDNAコード配列からウイルスセグメントとウイルスタンパク質を生成することができる。したがって、pol−Iプロモーター配列及びターミネーター配列は、ウイルスセグメントをコードする配列に隣接することができ、これらをpol−IIプロモーター配列及びターミネーター配列によって囲むことができる。線状構築物のペアをpol−I及びpol−IIプロモーターを認識する動物細胞(例えば、MDCK又はPER.C6細胞などのほ乳動物細胞)に移入して、感染性インフルエンザウイルスを生成することができる。
【0072】
別の一実施形態においては、細菌プラスミドは、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントPB2、PB1、PA、NP及びNSのコード配列を含む。非細菌性構築物(好ましくは線状)は、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントHAのコード配列を含む。NA及びMゲノムセグメントは、(「7:1」系を生成する)プラスミド若しくは(5:3系を生成する)非細菌性構築物にコードされるか、又はMセグメントがプラスミドにあり、NAセグメントが非細菌性構築物にある(6:2)。A型インフルエンザウイルスの場合、プラスミドは、理想的には、PR/8/34、AA/6/60又はAA/1/66系統由来のセグメントをコードする。非細菌性構築物にコードされたセグメントは、プラスミドのセグメントとは異なる系統(単数又は複数)に由来することができ、それによってインフルエンザワクチン製造前に定期的に実施される系統再構築を容易にすることができる。8種のウイルスセグメントのコード配列の各々は、その発現を駆動するプロモーター、例えばpol−IプロモーターをvRNAとして有する。プラスミドは、例えば各々がpol−IIプロモーターの制御下にある、少なくともPB1、PB2、PA及びNPウイルスタンパク質を発現するコード配列も含むべきである。有用には、プラスミドの全長を短縮するために、少なくともPB1、PB2、PA及びNPセグメントのコード配列は、一端がpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−IIプロモーターに隣接しており、その結果、双方向的な発現によって同じDNAコード配列からウイルスセグメントとウイルスタンパク質を生成することができる。したがって、pol−Iプロモーター配列及びターミネーター配列は、ウイルスセグメントをコードする配列に隣接することができ、これらをpol−IIプロモーター配列及びターミネーター配列によって囲むことができる。プラスミドと非細菌性構築物は、使用前に別々に維持されるが、その後両方をpol−I及びpol−IIプロモーターを認識する動物細胞(例えば、MDCK又はPER.C6細胞などのほ乳動物細胞)に移入して、感染性インフルエンザウイルスを生成することができる。
【0073】
別の一実施形態においては、非細菌性構築物(好ましくは線状)は、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントPB2、PB1、PA、NP及びNSのコード配列を含む。細菌プラスミドは、A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントHAのコード配列を含む。NA及びMゲノムセグメントは、(「7:1」系を生成する)非細菌性構築物に、(5:3系を生成する)プラスミドに、若しくは(5:1:1:1系を生成する)別々のプラスミドにコードされるか、又はNAセグメントがHAと同じプラスミドにあり、Mセグメントが非細菌性構築物にあり(6:2)、又はNAセグメントが第2のプラスミドにあり、Mセグメントが非細菌性構築物にある(6:1:1)。A型インフルエンザウイルスの場合、非細菌性構築物は、理想的には、PR/8/34、AA/6/60又はAA/1/66系統由来のセグメントをコードする。プラスミドにコードされたセグメントは、非細菌性構築物のセグメントとは異なる系統(単数又は複数)に由来することができ、それによってインフルエンザワクチン製造前に定期的に実施される系統再構築を容易にすることができる。8種のウイルスセグメントのコード配列の各々は、その発現を駆動するプロモーター、例えばpol−IプロモーターをvRNAとして有する。非細菌性構築物は、例えば各々がpol−IIプロモーターの制御下にある、少なくともPB1、PB2、PA及びNPウイルスタンパク質を発現するコード配列も含むべきである。有用には、非細菌性構築物の全長を短縮するために、少なくともPB1、PB2、PA及びNPセグメントのコード配列は、一端がpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−IIプロモーターに隣接しており、その結果、双方向的な発現によって同じDNAコード配列からウイルスセグメントとウイルスタンパク質を生成することができる。したがって、pol−Iプロモーター配列及びターミネーター配列は、ウイルスセグメントをコードする配列に隣接することができ、これらをpol−IIプロモーター配列及びターミネーター配列によって囲むことができる。プラスミドと非細菌性構築物は、使用前に別々に維持されるが、その後両方をpol−I及びpol−IIプロモーターを認識する動物細胞(例えば、MDCK又はPER.C6細胞などのほ乳動物細胞)に移入して、感染性インフルエンザウイルスを生成することができる。
【0074】
しかし、一部の実施形態においては、単一の構築物を使用して、完全なウイルスゲノムをコードする。したがって、本発明は、全8種のA型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントを発現するコード配列を含む、非細菌性発現構築物を提供する。この構築物は、理想的には、例えば22〜26kbpの線状構築物である。8種のウイルスセグメントのコード配列の各々は、その発現を駆動するプロモーター、例えばpol−IプロモーターをvRNAとして有する。構築物は、例えば各々がpol−IIプロモーターの制御下にある、少なくともPB1、PB2、PA及びNPウイルスタンパク質を発現するコード配列も含むべきである。有用には、構築物の全長を短縮するために、PB1、PB2、PA及びNPセグメント(好ましくは、全8種のウイルスセグメント)のコード配列は、一端がpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−IIプロモーターに隣接しており、その結果、双方向的な発現によって同じDNAコード配列からウイルスセグメントとウイルスタンパク質を生成することができる。したがって、pol−Iプロモーター配列及びターミネーター配列は、ウイルスセグメントをコードする配列に隣接することができ、これらをpol−IIプロモーター配列及びターミネーター配列によって囲むことができる。この線状構築物をpol−I及びpol−IIプロモーターを認識する動物細胞(例えば、MDCK又はPER.C6細胞などのほ乳動物細胞)に移入して、感染性インフルエンザウイルスを生成することができる。
【0075】
細胞
本発明は、発現構築物(単数又は複数)の移入後に対象ウイルスを発現することができる任意の細胞において実施することができる。本発明は、典型的には細胞系を使用するが、初代細胞を代替として使用することができる。細胞は、典型的にはほ乳動物のものであるが、トリ又は昆虫細胞を使用することもできる。適切なほ乳動物細胞としては、ハムスター、ウシ、(ヒト及びサルを含めた)霊長類及びイヌ細胞が挙げられるが、それだけに限定されない。腎細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などの種々の細胞型を使用することができる。適切なハムスター細胞の例は、BHK21又はHKCCという名称の細胞系である。適切なサル細胞は、例えば、Vero細胞系のような腎細胞などのアフリカミドリザル細胞である[19〜21]。適切なイヌ細胞は、例えば、CLDK及びMDCK細胞系のような腎細胞である。適切なトリの細胞としては、ニワトリ胚性幹細胞由来のEBx細胞系EB45、EB14及びEB14−074が挙げられる[22]。
【0076】
更なる適切な細胞としては、CHO、293T、MRC5、PER.C6[23]、FRhL2、WI−38などが挙げられるが、それだけに限定されない。適切な細胞は、例えば、American Type Cell Culture(ATCC)collection[24]、Coriell Cell Repositories[25]、又はEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)から広範に利用可能である。例えば、ATCCは、カタログ番号CCL81、CCL81.2、CRL1586及びCRL−1587の多様なVero細胞を供給し、カタログ番号CCL34のMDCK細胞を供給している。PER.C6はECACCから寄託番号96022940で利用可能である。
【0077】
本発明に使用される(特にインフルエンザウイルス増殖に)好ましい細胞は、Madin Darbyイヌ腎臓に由来するMDCK細胞である[26〜28]。本来のMDCK細胞は、ATCCからCCL34として利用可能である。これら又は別のMDCK細胞の派生物を使用することが好ましい。かかる派生物は、例えば、懸濁培養増殖用に適合されたMDCK細胞を開示する参考文献26に記載された(DSM ACC2219として寄託された「MDCK33016」又は「33016−PF」)。さらに、参考文献29は、無血清培養において懸濁増殖するMDCK由来細胞を開示している(FERM BP−7449として寄託された「B−702」)。一部の実施形態においては、使用されるMDCK細胞系は、腫瘍形成性とすることができるが、非腫瘍形成性MDCK細胞を使用することも想定される。例えば、参考文献30は、「MDCK−S」(ATCC PTA−6500)、「MDCK−SF101」(ATCC PTA−6501)、「MDCK−SF102」(ATCC PTA−6502)及び「MDCK−SF103」(ATCC PTA−6503)を含めた非腫瘍形成性MDCK細胞を開示している。参考文献31は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL12042)を含めて、感染に対する感受性の高いMDCK細胞を開示している。
【0078】
ウイルス回収のために1つを超える細胞型の混合物を使用することが可能であるが、単一細胞型、例えば、単クローン細胞を使用することが好ましい。好ましくは、上記細胞は、単一細胞系に由来する。同じ細胞系を、上記ウイルスの連続増殖(subsequent propagation)の下流、例えばウイルス増殖(virus growth)中に使用することができる。
【0079】
好ましくは、細胞は、共通の汚染物質源を回避するために、血清の非存在下で培養される。真核細胞培養の種々の無血清培地、例えば、イスコフ培地、ウルトラCHO培地(BioWhittaker)、EX−CELL(JRH Biosciences)が当業者に既知である。さらに、無タンパク質培地、例えば、PF−CHO(JRH Biosciences)を使用することができる。他の状況では、複製用細胞も通例の血清添加培地(例えば、0.5%〜10%ウシ胎仔血清を含むMEM又はDMEM培地)で培養することができる。
【0080】
細胞は、接着培養又は懸濁培養とすることができる。
【0081】
ワクチン
本発明は、本発明の宿主細胞によって産生されるインフルエンザウイルスを提供する。このインフルエンザウイルスは、種々の方法で、例えばワクチン製造用種ウイルスとして、使用することができる。
【0082】
したがって、本発明は、回収されたウイルスを利用してワクチンを製造することができる。
【0083】
(特にインフルエンザウイルス用の)ワクチンは、一般に、生ウイルス又は不活化ウイルスに基づく。例えば、参考文献32の17および18章を参照されたい。不活化ワクチンは、ビリオン全体、ビリオン「成分」(’split’ virion)又は精製表面抗原に基づくことができる。抗原は、ビロソームの形で提供することもできる。本発明は、これらのタイプのワクチンのいずれかを製造するのに使用することができる。
【0084】
不活化ウイルスを使用する場合、ワクチンは、ビリオン全体、ビリオン成分又は精製表面抗原を含むことができる(インフルエンザの場合、赤血球凝集素を含み、通常、ノイラミニダーゼも含む。)。ウイルスを不活化する化学手段としては、有効量の以下の薬剤の1種類以上による処理が挙げられる:洗浄剤、ホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)、バイナリーエチルアミン(binary ethylamine)、アセチルエチレンイミン、又はその組合せ。例えばUV光又はガンマ線照射などの非化学的ウイルス不活化法が当分野で公知である。
【0085】
ビリオンは、ウイルス含有流体、例えば尿膜腔液又は細胞培養上清から、種々の方法によって収集することができる。例えば、精製プロセスは、ビリオンを破壊する洗浄剤を含むスクロース直線勾配溶液を使用したゾーン遠心分離を含むことができる。次いで、必要に応じた希釈の後、抗原を透析ろ過によって精製することができる。
【0086】
ビリオン成分は、「Tween−エーテル」分解プロセス(splitting process)を含めて、精製ビリオンを洗浄剤(例えば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコラート、リン酸トリ−n−ブチル、Triton X−100、Triton Ν101、臭化セチルトリメチルアンモニウム、Tergitol NP9など)で処理して、サブビリオン調製物を生成することによって得られる。例えば、インフルエンザウイルスを分解する方法は当分野で周知である。例えば、参考文献33〜38などを参照されたい。ウイルスの分解は、典型的には、感染性であろうと非感染性であろうと、破壊濃度の分解剤(splitting agent)を使用して、ウイルス全体を破壊又は断片化することによって実施される。破壊は、ウイルスタンパク質の完全又は部分的可溶化をもたらし、ウイルスの完全性を変化させる。好ましい分解剤は、非イオン性及びイオン性(例えば、陽イオン性)界面活性剤、例えば、アルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、NP9、第四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、リン酸トリ−n−ブチル、Cetavlon、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、及びDOT−MA、オクチル−又はノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えば、Triton X−100又はTriton Ν101などのTriton界面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどである。有用な一分解手順は、デオキシコール酸ナトリウム及びホルムアルデヒドの継続的な効果を使用し、分解は、初期のビリオン精製中に(例えば、ショ糖密度勾配溶液中で)起こり得る。したがって、分解プロセスは、(非ビリオン材料を除去する)ビリオン含有材料の浄化、(例えば、CaHPO吸着などの吸着方法を使用した)収集されたビリオンの濃縮、非ビリオン材料からのビリオン全体の分離、密度勾配遠心分離ステップにおいて分解剤を使用したビリオンの分解(例えば、デオキシコール酸ナトリウムなどの分解剤を含むスクロース勾配を使用して)、次いで望ましくない材料を除去するろ過(例えば、限外ろ過)を含むことができる。ビリオンは成分、有用には、リン酸ナトリウム緩衝等張性塩化ナトリウム溶液に再懸濁させることができる。
【0087】
精製インフルエンザウイルス表面抗原ワクチンは、表面抗原赤血球凝集素を含み、典型的にはノイラミニダーゼも含む。精製された形態のこれらのタンパク質を調製するプロセスは、当分野で周知である。FLUVIRIΝ(商標)、AGRIPPAL(商標)及びIΝFLUVAC(商標)製品は、インフルエンザサブユニットワクチンである。
【0088】
別の形態の不活化抗原はビロソーム[39](核酸を含まないウイルス様リポソーム粒子)である。ビロソームは、洗浄剤を使用したウイルスの可溶化、続いてヌクレオカプシドの除去、及びウイルス糖タンパク質を含む膜の再構成によって調製することができる。ビロソームを調製する別の方法は、ウイルス膜糖タンパク質を過剰量のリン脂質に添加して、リポソームの膜内にウイルスタンパク質を含むリポソームを生成することを含む。
【0089】
本発明を使用して、生ワクチンを製造することもできる。かかるワクチンは、通常、ビリオンをビリオン含有流体から精製することによって調製される。例えば、流体は、遠心分離によって浄化し、(例えば、スクロース、リン酸カリウム、及びグルタミン酸モノナトリウムを含む)バッファで安定化することができる。
【0090】
ウイルスは、弱毒化することができる。ウイルスは温度感受性とすることができる。ウイルスは低温に適応することができる。これら3つの特徴は、生ウイルスを抗原として使用するときに特に有用であり、逆遺伝学は、かかる系統を調製するのに特に有用である。
【0091】
HAは、不活化インフルエンザワクチンにおける主免疫原であり、ワクチン投与量は、典型的にはSRIDによって測定される、HAレベルを参照して標準化される。既存のワクチンは、典型的には、1系統当たり約15μgのHAを含むが、例えば小児に対して、又は汎流行状況において、又はアジュバントを使用するときには、より低投与量を使用することができる。1/2(すなわち、1系統当たりHA7.5μg)、1/4、1/8などの分割量が使用され、より高投与量(例えば、3x又は9x投与量[40、41])も使用される。したがって、ワクチンは、インフルエンザ1系統当たり0.1から150μgのHA、好ましくは0.1から50μg、例えば、0.1〜20μg、0.1〜15μg、0.1〜10μg、0.1〜7.5μg、0.5〜5μgなどを含むことができる。特定の投与量としては、例えば、1系統当たり約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.75、約1.9、約1.5などが挙げられる。
【0092】
生ワクチンの場合、投薬は、HA含量ではなく50%組織培養感染量(TCID50)で測定され、1系統当たり10から10(好ましくは106.5から107.5)のTCID50が典型的である。
【0093】
本発明で使用されるインフルエンザ系統は、野生型ウイルスに存在する天然HA、又は改変HAを有することができる。例えば、トリ種においてウイルスを高病原性にする決定基(例えば、HA1/HA2切断部位周囲の超塩基性領域)を除去するようにHAを改変することが公知である。逆遺伝学の使用は、かかる改変を容易にする。
【0094】
ワクチンに使用されるインフルエンザウイルス系統は、季節ごとに変化する。汎流行間の期間では、ワクチンは、典型的には、2つのA型インフルエンザ系統(H1N1及びH3N2)と1つのB型インフルエンザ系統を含み、三価ワクチンが典型的である。本発明は、H2、H5、H7又はH9サブタイプ系統などの汎流行ウイルス系統(すなわち、特にA型インフルエンザウイルスの、ワクチン接種者及び一般ヒト集団が免疫学的にナイーブである系統)を使用することもでき、汎流行系統のインフルエンザワクチンは、一価とすることができ、又は汎流行系統が補充された通常の三価ワクチンに基づくことができる。しかし、季節、及びワクチンに含まれる抗原の性質に応じて、本発明は、HAサブタイプH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15又はH16の1つ以上に対して防御することができる。本発明は、A型インフルエンザウイルスNAサブタイプN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8又はN9の1つ以上に対して防御することができる。
【0095】
汎流行間の系統に対する免疫に適切であるだけでなく、本発明の組成物は、汎流行又は潜在的汎流行系統に対する免疫にも特に有用である。インフルエンザ系統に世界的流行を引き起こす可能性を与えるインフルエンザ系統の特性は、(a)ヒト集団がその系統の赤血球凝集素に対して免疫学的にナイーブであるように、その系統が、現在流布しているヒト系統における赤血球凝集素と比較して新しい赤血球凝集素を含む、すなわち、ヒト集団において10年間明らかでないもの(例えば、H2)、又はヒト集団において以前に全く見られなかったもの(例えば、一般にトリ集団にのみ存在したH5、H6又はH9)、(b)その系統が、ヒト集団において水平方向に伝染する能力がある、及び(c)その系統が、ヒトに対して病原性である。H5N1系統などのH5赤血球凝集素タイプのウイルスは、汎流行インフルエンザに対する免疫に好ましい。別の可能な系統としては、H5N3、H9N2、H2N2、H7N1及びH7N7並びに任意の他の新興の潜在的汎流行系統が挙げられる。本発明は、非ヒト動物集団からヒトに伝播し得る又は伝播した潜在的汎流行ウイルス系統、例えばブタ起源のH1N1インフルエンザ系統に対する防御に特に適している。さらに、本発明は、ヒト及び非ヒト動物のワクチン接種に適切である。
【0096】
その抗原が組成物に含まれることが有用であり得る別の系統は、耐性汎流行系統を含めて、抗ウイルス療法に耐性がある(例えば、オセルタミビル[42]及び/又はザナミビルに耐性がある)系統である[43]。
【0097】
本発明の組成物は、A型インフルエンザウイルス及び/又はB型インフルエンザウイルスを含めて、1つ以上(例えば、1、2、3、4以上)のインフルエンザウイルス系統に由来する抗原(単数又は複数)を含むことができる。ワクチンが1つを超えるインフルエンザ系統を含む場合、異なる系統は、典型的には、別々に増殖され、ウイルス収集及び抗原調製後に混合される。したがって、本発明のプロセスは、1つを超えるインフルエンザ系統由来の抗原を混合するステップを含むことができる。2つのA型インフルエンザウイルス系統と1つのB型インフルエンザウイルス系統に由来する抗原を含む、三価ワクチンは典型的である。2つのA型インフルエンザウイルス系統と2つのB型インフルエンザウイルス系統、又は3つのA型インフルエンザウイルス系統と1つのB型インフルエンザウイルス系統に由来する抗原を含む、四価ワクチンも有用である[44]。
【0098】
インフルエンザワクチンの調製用ウイルスは、卵中又は細胞培養で増殖させることができる。ワクチン用インフルエンザウイルス増殖の現在の標準方法は、有胚SPF鶏卵を使用し、ウイルスは卵内容物(尿膜腔液)から精製される。細胞培養物を使用して、OPTAFLU(商標)製品を製造する。細胞は、好ましくは、ワクチン製造に使用されるウイルスを増殖させる無血清又は無タンパク質培地で培養される。細胞培養は、好ましくは、温度30℃から40℃で行われる。細胞は、ウイルス増殖中に30℃〜36℃又は32℃〜34℃又は33℃の温度で培養することができる。感染細胞をこの温度範囲でインキュベートすると、ワクチンに使用するための改善されたインフルエンザウイルスが生成する[45]。ウイルスは、接着培養又は懸濁培養の細胞で増殖させることができる。マイクロキャリア培養を使用することができる。一部の実施形態においては、細胞は、したがって、懸濁増殖用に改作することができる。細胞培養物での増殖は、ウイルスを生成した逆遺伝学で使用したものと同じ細胞型を使用することができる。
【0099】
方法は、ウイルス又はその抗原を培養流体から収穫及び単離する増殖後ステップを含むことができる。ウイルス又はタンパク質の単離中に、分離、ろ過又は限外ろ過のような標準方法によって、細胞を培地から分離する。次いで、ウイルス又はその抗原を、勾配遠心分離、ろ過、沈殿、クロマトグラフィーなどの当業者に周知の方法に従って濃縮し、次いで精製する。ウイルスは精製中又は後に不活化されることも本発明によれば好ましい。ウイルス不活化は、例えば、精製プロセス内の任意のポイントにおいてβ−プロピオラクトン又はホルムアルデヒドによって行うことができる。
【0100】
宿主細胞DNA
ウイルスが細胞系において単離及び/又は増殖された場合、残留細胞系のDNAの発癌活性を最小化するために、最終ワクチン中の残留細胞系のDNAの量を最小化することが標準的慣行である。したがって、本発明によって調製されるワクチン組成物は、好ましくは、1回の投与量当たり10ng未満(好ましくは1ng未満、より好ましくは100pg未満)の残留宿主細胞DNAを含むが、痕跡量の宿主細胞DNAが存在してもよい。
【0101】
任意の残留宿主細胞DNAの平均長さは、500bp未満、例えば、400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満などであることが好ましい。
【0102】
汚染DNAは、ワクチン調製中に標準精製手順、例えばクロマトグラフィーなどを使用して除去することができる。残留宿主細胞DNAの除去は、ヌクレアーゼ処理によって、例えばDNアーゼを使用することによって、強化することができる。宿主細胞DNA混入を抑制する好都合な方法は、参考文献46および47に開示されており、二段階処理を含み、ウイルス増殖中に使用することができるDNアーゼ(例えば、Benzonase)を最初に使用し、次いでビリオン破壊中に使用することができる陽イオン洗剤(例えば、CTAB)を使用する。β−プロピオラクトンなどのアルキル化剤を用いた処理を使用して、宿主細胞DNAを除去することもでき、有利にはビリオンを不活化することもできる[48]。
【0103】
薬学的組成物
本発明によって製造されたワクチン組成物は薬学的に許容される。それは、通常、抗原に加えて諸成分を含み、例えば、典型的には、1種類以上の薬学的キャリア(単数又は複数)及び/又は賦形剤(単数又は複数)を含む。以下に記載するように、アジュバントを含むこともできる。かかる成分の徹底した考察は参考文献49から得られる。
【0104】
ワクチン組成物は、一般に、水性形態である。しかし、一部のワクチンは、乾燥形態、例えば、注射用固体、又はパッチにおける乾燥調製物若しくは重合調製物の形態とすることができる。
【0105】
ワクチン組成物は、チオメルサールなどの防腐剤を含むことができる。しかし、ワクチンは、水銀材料を実質的に含まない(すなわち5μg/ml未満)、例えばチオメルサールを含まないことが好ましい[37、50]。水銀を含まないワクチンがより好ましい。コハク酸α−トコフェロールを水銀化合物の代替として含むことができる[37]。防腐剤を含まないワクチンが有用である。
【0106】
張度を制御するために、ナトリウム塩などの生理学的塩を含むことが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、1から20mg/mlで存在することができる。存在することができる他の塩としては、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、無水リン酸二ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0107】
ワクチン組成物は、一般に200mOsm/kgから400mOsm/kg、好ましくは240〜360mOsm/kgの重量オスモル濃度を有し、より好ましくは290〜310mOsm/kgの範囲である。重量オスモル濃度は、ワクチン接種に起因するとう痛に影響しないと以前に報告されたが[51]、それでも重量オスモル濃度をこの範囲に維持することが好ましい。
【0108】
ワクチン組成物は、1種類以上のバッファを含むことができる。ワクチン組成物のpHは、一般に、5.0から8.1、より典型的には6.0から8.0、例えば6.5から7.5、又は7.0から7.8である。
【0109】
ワクチン組成物は、好ましくは、無菌である。ワクチン組成物は、好ましくは、非発熱性であり、例えば、1回の投与量当たり<1EU(エンドトキシン単位、標準測定値)、好ましくは1回の投与量当たり<0.1EUを含む。ワクチン組成物は、好ましくは、グルテンを含まない。
【0110】
本発明のワクチン組成物は、特に成分ワクチン又は表面抗原ワクチンの場合、洗浄剤、例えば、(「Tween類」として知られる)ポリオキシエチレンソルビタンエステル界面活性剤、(オクトキシノール−9(Triton X−100)又はt−オクチルフェノキシポリエトキシエタノールなどの)オクトキシノール、臭化セチルトリメチルアンモニウム(「CTAB」)、又はデオキシコール酸ナトリウムを含むことができる。洗浄剤は、わずかに痕跡量で存在することができる。したがって、ワクチンは、オクトキシノール−10及びポリソルベート80の各々1mg/ml未満を含むことができる。痕跡量の他の残留成分は、抗生物質(例えば、ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)とすることができる。
【0111】
ワクチン組成物は、単一の免疫処置のための材料を含むことができ、または、複数回の免疫処置のための材料を含むことができる(すなわち、「複数回投与量」キット)。防腐剤の包含は、複数回投与量の構成において好ましい。防腐剤を複数回投与量組成物に含むことの代替として(又はそれに加えて)、組成物は、材料除去用の無菌アダプタを有する容器に含ませることができる。
【0112】
インフルエンザワクチンは、典型的には、投与体積約0.5mlで投与されるが、半分の投与量(すなわち約0.25ml)を小児に投与することができる。
【0113】
本発明の組成物(又はキット成分)に適切な容器としては、バイアル、シリンジ(例えば、使い捨て充填済みシリンジ)、経鼻噴霧器などが挙げられる。これらの容器は、無菌とすべきである。バイアルは、単一投与量のワクチンを含むことができ、又は1回を超える投与量(「複数回投与量」バイアル)、例えば10回分の投与量を含むことができる。好ましいバイアルは、無色ガラスでできている。バイアルは、特に複数回投与量バイアルの場合、その内容物の無菌取り出しを可能にするキャップを有することができる。容器には、例えば小児への送達を容易にするために、半分の投与量を示す印を付けることができる。例えば、0.5mlの投与量を含むシリンジは、0.25mlの体積を示す印を付けることができる。
【0114】
ガラス容器(例えば、シリンジ又はバイアル)を使用する場合、ソーダ石灰ガラスではなくホウケイ酸ガラスでできた容器を使用することが好ましい。
【0115】
成分がシリンジに充填される場合、シリンジは、それに取り付けられた針を有することができる。針が取り付けられていない場合、別個の針を、組立てて使用するためのシリンジとともに供給することができる。かかる針は、さやに収めることができる。安全針が好ましい。1インチ23ゲージ、1インチ25ゲージ及び5/8インチ25ゲージ針が典型的である。
【0116】
アジュバント
本発明のワクチン組成物は、有利には、アジュバントを含むことができる。上記アジュバントは、上記組成物を投与された被験体において誘発された(液性及び/又は細胞性)免疫応答を増強するように機能することができる。好ましいアジュバントは、水中油型エマルジョンを含む。種々のかかるアジュバントが公知であり、それらは、典型的には、少なくとも1種類のオイル及び少なくとも1種類の界面活性剤を含み、オイル(単数又は複数)及び界面活性剤(単数又は複数)は生分解性(代謝性)及び生体適合性である。エマルジョン中の油滴は、一般に直径5μm未満であり、理想的にはサブミクロンの直径を有し、これらの小さいサイズは、マイクロフルイダイザーを使用して得られ、安定なエマルジョンを生成する。220nm未満のサイズの滴は、フィルター滅菌にかけることができるので好ましい。
【0117】
本発明に有用である特定の水中油型エマルジョンアジュバントとしては、以下が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0118】
・スクアレン、Tween 80及びSpan 85のサブミクロンエマルジョン。エマルジョンの組成は、体積で、スクアレン約5%、ポリソルベート80約0.5%及びSpan85約0.5%とすることができる。重量では、これらの比は、スクアレン4.3%、ポリソルベート80 0.5%及びSpan 85 0.48%になる。このアジュバントは「MF59」として知られ[52〜54]、参考文献55の10章及び参考文献56の12章により詳細に記述されている。MF59エマルジョンは、有利には、クエン酸イオン、例えば10mMクエン酸ナトリウムバッファを含む。
【0119】
・スクアレン、DL−α−トコフェロール及びポリソルベート80(Tween 80)のエマルジョン。エマルジョンは、リン酸緩衝食塩水を含むことができる。それは、Span 85(例えば、1%)及び/又はレシチンを含むこともできる。これらのエマルジョンは、スクアレンが2%から10%、トコフェロールが2%から10%及びTween 80が0.3%から3%を含むことができ、スクアレン:トコフェロールの重量比は好ましくは≦1であり、これはより安定なエマルジョンを与える。スクアレンとTween 80は、体積比約5:2又は重量比約11:5で存在することができる。1つのかかるエマルジョンは、Tween 80をPBSに溶解させて2%溶液とし、次いでこの溶液90mlを(DL−α−トコフェロール5gとスクアレン5ml)の混合物と混合し、次いで混合物をマイクロ流体化することによって、作製することができる。得られたエマルジョンは、例えば、平均直径が100nmから250nm、好ましくは約180nmである、サブミクロンの油滴を有することができる。エマルジョンは、3−de−O−アシル化モノホスホリルリピドA(3d−MPL)を含むこともできる。このタイプの別の有用なエマルジョンは、ヒトへの投与量1回分当たり、スクアレン0.5〜10mg、トコフェロール0.5〜11mg及びポリソルベート80 0.1〜4mgを含むことができる[57]。
【0120】
・スクアレン、トコフェロール及びTriton洗浄剤(例えば、Triton X−100)のエマルジョン。エマルジョンは、3d−MPLを含むこともできる(下記参照)。エマルジョンは、リン酸塩バッファを含むことができる。
【0121】
・ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80)、Triton洗浄剤(例えば、Triton X−100)及びトコフェロール(例えば、コハク酸α−トコフェロール)を含むエマルジョン。エマルジョンは、これら3成分を約75:11:10の質量比で含むことができる(例えば、ポリソルベート80 750μg/ml、Triton X−100 110μg/ml及びコハク酸α−トコフェロール100μg/ml)。これらの濃度は、抗原からのこれらの成分の任意の寄与を含むべきである。エマルジョンはスクアレンを含むこともできる。エマルジョンは、3d−MPLを含むこともできる(下記参照)。水相は、リン酸塩バッファを含むことができる。
【0122】
・スクアラン、ポリソルベート80及びポロクサマー401(「Pluronic(商標)L121」)のエマルジョン。エマルジョンは、リン酸塩緩衝食塩水pH7.4中で処方することができる。このエマルジョンは、ムラミルジペプチドの有用な送達ビヒクルであり、「SAF−1」アジュバントにおいてスレオニル−MDPと一緒に使用された[58](Thr−MDP0.05〜1%、スクアラン5%、Pluronic L121 2.5%及びポリソルベート80 0.2%)。それは、「AF」アジュバントのようにThr−MDPなしで使用することもできる[59](スクアラン5%、Pluronic L121 1.25%及びポリソルベート80 0.2%)。マイクロ流体化が好ましい。
【0123】
・スクアレン、水系溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテル親水性非イオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(12)セトステアリルエーテル)及び疎水性非イオン界面活性剤(例えば、モノオレイン酸ソルビタン、「Span 80」などのソルビタンエステル又はマンニドエステル)を含むエマルジョン。エマルジョンは、好ましくは、熱可逆性であり、及び/又は200nm未満のサイズの油滴少なくとも90%(体積)を有する[60]。エマルジョンは、アルジトール、凍結防止剤(例えば、ドデシルマルトシド及び/又はスクロースなどの糖)及び/又はアルキルポリグリコシドの1つ以上を含むこともできる。エマルジョンは、TLR4作動物質を含むことができる[61]。かかるエマルジョンは凍結乾燥させることができる。
【0124】
・スクアレン、ポロクサマー105及びAbil−Careのエマルジョン[62]。アジュバントワクチンにおけるこれらの成分の最終濃度(重量)は、スクアレン5%、ポロクサマー105(Pluronicポリオール)4%及びAbil−Care85(Bis−PEG/PPG−16/16 PEG/PPG−16/16ジメチコン;カプリル酸トリグリセリド/カプリン酸トリグリセリド)2%である。
【0125】
・オイル0.5〜50%、リン脂質0.1〜10%及び非イオン界面活性剤0.05〜5%を含むエマルジョン。参考文献63に記載のように、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン及びカルジオリピンである。サブミクロンの液滴サイズが有利である。
【0126】
・サポニン(例えば、QuilA又はQS21)とステロール(例えば、コレステロール)がらせん状ミセルとして会合したエマルジョン[64]。
【0127】
一部の実施形態においては、エマルジョンは、送達時に必要に応じて抗原と混合することができ、したがってアジュバントと抗原は包装されたワクチン又は配布されたワクチンにおいて別々に保持され、使用時にすぐに最終処方にすることができる。別の実施形態においては、エマルジョンは、製造中に抗原と混合され、したがって組成物は、液体アジュバント形態で包装される。
【0128】
処置方法及びワクチン投与
本発明は、本発明によって製造されたワクチンを提供する。これらのワクチン組成物は、ヒト又はブタなどの非ヒト動物被験体への投与に適している。本発明は、本発明の組成物を上記被験体に投与するステップを含む、被験体における免疫応答を引き起こす方法を提供する。本発明は、医薬品として使用するための本発明の組成物も提供し、被験体における免疫応答を引き起こす医薬品の製造のための本発明の組成物の使用を提供する。
【0129】
これらの方法及び使用によって生じる免疫応答としては、一般に、抗体応答、好ましくは防御抗体応答が挙げられる。
【0130】
本発明の組成物は、種々の方法で投与することができる。最も好ましい免疫経路は、(例えば、腕又は脚への)筋肉内注射によるものであるが、他の利用可能な経路としては皮下注射又は鼻腔内が挙げられる[65〜67]。
【0131】
本発明によって調製されたワクチンを使用して、小児と成体の両方を処置することができる。
【0132】
処置は、単回投与計画でも複数回投与計画でもよい。複数回投与は、一次免疫計画及び/又は追加免疫計画に使用することができる。複数回投与は、典型的には、少なくとも1週間間隔(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間など)で投与される。
【0133】
本発明によって製造されたワクチンは、他のワクチンと実質的に同じ時間で(例えば、ヘルスケア医療従事者又はワクチン接種センターに同じく医学的相談又は訪問中に)患者に投与することができる。
【0134】
同様に、本発明のワクチンは、抗ウイルス化合物、特にインフルエンザウイルスに対して活性な抗ウイルス化合物(例えば、オセルタミビル及び/又はザナミビル)と実質的に同じ時間で(例えば、ヘルスケア医療従事者に同じく医学的相談又は訪問中に)患者に投与することができる。
【0135】
全般
「含む(comprising)」という用語は、「including」及び「consisting」を包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、専らXから成ることができ、又は追加の何かを含むことができる(例えば、X+Y)。
【0136】
「実質的に」という語は「完全に」を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に」という語は、本発明の定義から省略することができる。
【0137】
数値xに関する「約」という用語は、任意であり、例えばx±10%を意味する。
【0138】
別段の記載がない限り、2種類以上の成分を混合するステップを含むプロセスは、特定の混合順を必要としない。したがって、成分は、任意の順番で混合することができる。3成分がある場合、2成分を組み合わせることができ、次いでその組合せ物を第3の成分などと組み合わせることができる。
【0139】
動物(特にウシ)材料を細胞培養に使用する場合、伝達性海綿状脳症(TSE)、特にウシ海綿状脳症(BSE)のない供給源から得るべきである。概して、動物由来の材料が全くない状態で細胞を培養することが好ましい。
【0140】
発明の実施の形態
インフルエンザウイルス源は、HA及びNAセグメントについてはS−OIV系統A/California/4/09であり、残りの6種の骨格セグメントについてはPR/8/34である。これら8種のセグメントをコードするDNA配列が調製され、各セグメントは、一端がヒトpol−Iプロモーターに、もう一端がpol−Iターミネーターに隣接する。これらのpol−I要素は、CMV由来のpol−IIプロモーター、pol−IIターミネーター配列及びpolAシグナルで囲まれている。pol−Iプロモーターは、忠実な野生型vRNA末端を有するマイナスセンスウイルスRNAセグメントの転写を駆動する。pol−IIプロモーターは、ウイルスタンパク質をコードするmRNAの転写を駆動する。各セグメントのDNAセグメントが連結されて、約24kbpの単一線状DNA分子となり、それは、リアソータントなインフルエンザウイルスゲノム全体をコードする。この分子の合成全体は、参考文献8のGibson等によって開示された一般的方法に従う。
【0141】
線状DNA構築物は、MDCK33016細胞の培養物に移入される。この細胞系は、インフルエンザウイルス逆遺伝学回収用のヒトpol−Iプロモーターを認識することが見いだされた。移入された細胞をインキュベートすると、リアソータントなインフルエンザウイルスが培地中にすぐに出現する。この系統(「RG−lin−CA−1」)は、従来の方法によって精製することができ、ワクチン製造用の種として使用することができる。
【0142】
本発明を単なる例示によって記述したが、本発明の範囲及び精神内で改変がなされ得ることが理解されるであろう。
【0143】
参考文献
【0144】
【化1】

【0145】
【化2】

【0146】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分節RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントを発現するコード配列を含む、非細菌性発現構築物。
【請求項2】
前記構築物が細菌複製起点と細菌選択マーカーの両方を欠く、請求項1に記載の構築物。
【請求項3】
前記構築物が線状である、請求項1又は請求項2に記載の構築物。
【請求項4】
A型又はB型インフルエンザウイルスの全8種のゲノムセグメントを発現するコード配列を含む、任意の先行する請求項のいずれかに記載の構築物。
【請求項5】
任意の先行する請求項のいずれかに記載の非細菌性発現構築物を含む、真核宿主細胞。
【請求項6】
(i)A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントPB2、PB1、PA、NP及びNSのコード配列を含む第1の非細菌性発現構築物、及び(ii)A型又はB型インフルエンザウイルスゲノムセグメントHAのコード配列を含む第2の非細菌性構築物を含む、発現構築物のセット。
【請求項7】
前記第1の非細菌性発現構築物又は前記第2の非細菌性発現構築物が、さらに、NAゲノムセグメント及びMゲノムセグメントを含む、請求項6に記載のセット。
【請求項8】
(i)分節RNAウイルスの1種以上のゲノムセグメントのコード配列(単数又は複数)を含む少なくとも1つのプラスミド、及び(ii)該RNAウイルスの1種以上のゲノムセグメントのコード配列(単数又は複数)を含む少なくとも1つの非細菌性発現構築物を含み、細菌性構築物と非細菌性構築物の組合せが該RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントを与える、発現構築物のセット。
【請求項9】
請求項8に記載の構築物のセットを含む、真核宿主細胞。
【請求項10】
分節RNAウイルスの少なくとも2種の異なるゲノムセグメントのコード配列を含む線状発現構築物を含む、宿主細胞。
【請求項11】
インフルエンザウイルスの8種の異なるゲノムセグメントのコード配列を含む細菌プラスミドであって、各セグメントの発現がほ乳動物pol−Iプロモーターによって制御される、細菌プラスミド。
【請求項12】
請求項11に記載のプラスミドを含む、真核宿主細胞。
【請求項13】
請求項5、請求項7又は請求項10に記載の宿主細胞を調製するための方法であって、請求項1から4、請求項6又は請求項9に記載の構築物、セット又はプラスミドを前記細胞に挿入する工程を含む、方法。
【請求項14】
分節RNAウイルスを生成するための方法であって、該RNAウイルスセグメントの発現が起きて該ウイルスを生成するように、請求項5、請求項8、請求項10又は請求項12に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、方法。
【請求項15】
分節RNAウイルスゲノムの少なくとも2種の異なるセグメントを発現するコード配列を含むDNA分子を調製するための方法であって、該方法が、(i)該DNA分子の複数の重複断片を合成する工程であって、該重複断片が完全な該DNA分子に広がっている工程、及び(ii)該断片を連結して該DNA分子を生成する工程を含む、方法。
【請求項16】
前記細胞がMDCK細胞である、請求項5、請求項8、請求項10又は請求項12に記載の宿主細胞。

【公表番号】特表2013−500712(P2013−500712A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522275(P2012−522275)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002137
【国際公開番号】WO2011/012999
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】