説明

透光性セラミックスバルブ、放電ランプおよび照明器具

【課題】
消灯中保安上最低限の明るさを保持する手段を提供するとともに機械的強度が大きい透光性セラミックスバルブ、これを備えた高圧放電ランプおよび照明器具を提供する。
【解決手段】
透光性セラミックスバルブ1は、セラミックス母剤に対して蓄光性酸化物蛍光体が5〜50質量%添加した透光性セラミックスにより形成され、少なくとも放電空間1cを包囲する包囲部1aおよび包囲部を気密に封止する封止予定部を具備している。高圧放電ランプが消灯すると、透光性セラミックスバルブ1は、残光により長時間光輝するので、保安上最低限の明るさを保持する手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性セラミックスバルブ、これを備えた高圧放電ランプおよび照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体を所定条件の下で透光性焼結体または透光性蛍光焼結体を得て発光管を形成し、またこの発光管を用いて放電灯とすることは既知である(特許文献1参照。)。特許文献1の記載は、透光性焼結体または透光性蛍光焼結体を得る蛍光体としてマグネットプランバイト構造を有する蛍光体を用いている。
【0003】
一方、透光性セラミックスバルブを用いたメタルハライドランプは、従来の石英ガラスからなる発光管に比べ耐熱性および耐食性に優れていて、より高温で動作させることが可能であることから、高効率、高演色および長寿命という特長を有しているため、急速に普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−322867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蛍光体を所定条件の下で透光性焼結体とした従来技術は、得られる透光性焼結体が発光管として要求される機械的強度の面で実用化に対して十分満足できるものでないという課題がある。
【0006】
近時、CO削減方針の下で、照明分野においては、省エネの観点から、高圧放電ランプのさらなる高効率化が期待されている一方で無駄な照明の消灯が勧められている。しかしながら、消灯中であっても保安上最低限の明るさを保持することも重要である。
【0007】
本発明は、消灯中保安上最低限の明るさを保持して安全を図るとともに機械的強度が大きい透光性セラミックスバルブ、これを備えた高圧放電ランプおよび照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の透光性セラミックスバルブは、セラミックス母材に対して蓄光性酸化物蛍光体が5〜50質量%添加した透光性セラミックスにより形成され、少なくとも放電空間を包囲する包囲部および包囲部を気密に封止するための封止部を具備していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の高圧放電ランプは、封止予定部を封止した本発明の透光性セラミックスバルブ、透光性セラミックスバルブ内に配設されて先端部が放電空間に臨む一対の電極および透光性セラミックスバルブの内部に封入された放電媒体を備えた発光管と;発光管を包囲する外管と;を具備していることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明の照明器具は、照明器具本体と;照明器具本体に配設された請求項1記載の高圧放電ランプと;高圧放電ランプを点灯する点灯装置と;を具備していることを特徴としている。
【0011】
以上の各発明において、透光性セラミックスには、アルミナ、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)およびイットリウム酸化物(YOX)と非酸化物、例えばアルミニウム窒化物(AlN)などとの多結晶または単結晶のセラミックスであって、非蛍光体のセラミックスを選択して用いるものとする。しかし、上記材料の中でも透光性多結晶アルミナセラミックスは、工業的に量産できて比較的容易に入手できるため、透光性セラミックス放電容器の構成材料として実際的に好適である。
【0012】
蓄光性酸化物蛍光体は、SrAl、BaAl、SrSiおよびBaSiなどの酸化物からなる蓄光性蛍光体である。なお、上記の例はいずれも賦活剤がユウロピウムで、所望によりランタノイドの中から選択された希土類金属を共賦活剤とすることができる。また、好ましくは以下の残光特性を有する蓄光性蛍光体が好ましい。すなわち、常用光源D65ランプの発光を照度5000lxで60分間照射した後の蓄光性蛍光体の残光の光度が室内における最低視認レベルである10mcd/m2に達するまでの残光時間が1時間以上である。なお、好ましくは5時間以上である。
【0013】
高圧放電ランプは、発光効率および演色性に優れるメタルハライドランプが好適であるが、これに限定されない。例えば、高圧ナトリウムランプ、水銀ランプおよびキセノンランプなどであってもよい。
【0014】
照明器具は、高圧放電ランプを光源とする照明器具であるが、その用途は特段限定されない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、透光性セラミックスバルブがセラミックス母材に対して蓄光性酸化物蛍光体を5〜50質量%添加した透光性セラミックスにより形成されていることにより、良好な可視光透過率および機械的強度を備えているので、高圧放電ランプの従来の多結晶アルミナセラミックスからなる透光性セラミックスバルブを代替可能であり、その結果透光性セラミックスバルブは、放電媒体の放電による発光を外部へ導出する過程において、発光のうちの主として短波長側の光、特に紫外線が透光性セラミックスバルブの内面側を照射すると、蓄光性酸化物蛍光体が蓄光する。そして、消灯時には透光性セラミックスバルブの内部に含有されている蓄光性酸化物蛍光体が蓄光を放出することで残光を発して明るく光輝し、そのため周囲を照明し続けるので、保安灯として機能させることができる。このため、省エネおよび安全性維持に寄与する透光性セラミックスバルブ、これを備えた高圧放電ランプおよび照明器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施するための一形態としての透光性セラミックスバルブを備えた発光管を示す図である。
【図2】蓄光性蛍光体の添加量と機械的強度および残光時間との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の高圧放電ランプを実施するための一形態としてのメタルハライドランプを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の透光性セラミックスバルブを実施するための一形態は、透光性セラミックスバルブ1が蓄光性酸化物蛍光体を所定比率含有する透光性多結晶アルミナセラミックスからなる。そして、包囲部1aおよび包囲部1aの両端に連通して配設された一対の小径筒部1b、1bを備えていて、鋳込み成形により一体に成形され、かつ包囲部1aおよび小径筒部1bが連続した曲面を介して接続している。
【0019】
包囲部1aは、放電空間1cを包囲するように膨出している。一対の小径筒部1b、1bは、それぞれの内部が包囲部1aの両端内に連通していて、管軸方向に直線状に延在している。そして、本形態においては、一対の小径筒部1b、1bの端部が封止予定部を構成している。
【0020】
透光性多結晶アルミナセラミックスは、そのセラミックス母材がアルミナであり、母材にマグネシア(MgO)などの結晶添加剤を適量添加するとともに、後述の蓄光性酸化物蛍光体が母材に対して所定比率添加されている焼結体である。
【0021】
透光性多結晶アルミナセラミックス内に含有されている蓄光性酸化物蛍光体は、MAlおよび/またはMSiで表される化合物で、Mはカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)およびバリウム(Ba)のグループから選択される少なくとも1種の金属元素からなる母結晶に対するmol%で0.01〜0.5のユウロピウム(Y)を賦活剤として添加している。また、所望によりランタノイドを共賦活剤として母結晶に対するmol%で0.01〜0.5添加することができる。なお、この種の蓄光性酸化物蛍光体は既知であり、例えばSrAl:Y、BaAl:Y、SrSi:Y、BaSi:Yを選択的に用いることができる。
【0022】
また、蓄光性酸化物蛍光体の添加比率は、アルミナからなる母材に対して5〜50質量%の範囲である。蓄光性酸化物蛍光体の添加比率が5質量%未満であると、消灯時の残光が少なくなりすぎて、所望の残光照明を行うのが困難になる。これに対して、蓄光性酸化物蛍光体の添加比率が50質量%を超えると、消灯時の残光が添加比率に比例的に増大するものの、透光性セラミックスバルブ1の機械的強度が低下しすぎて、所望の寿命特性が得られなくなる。なお、好適には15〜45質量%である。
【0023】
次に、透光性セラミックスバルブの試作例およびその性能を説明する。蓄光性酸化物蛍光体としては、SrAlを母材のAlに対して下表に示す比率でそれぞれ添加し、さらに結晶添加剤としてMgOを添加し焼結して得た透光性セラミックスバルブの残光時間および機械強度の測定結果を説明する。なお、測定は、試作した透光性セラミックスバルブと同じ材料組成のサンプルを同時に作成して行った。測定結果は下表のとおりであった。なお、表中「蛍光体添加比率」は、蓄光性酸化物蛍光体のセラミックス母材に対する添加比率である。機械強度は、3点折曲げ強度である。
【0024】
表1
サンプルNo. 蛍光体添加比率(質量%) 残光時間(h) 機械強度(N)
1 0 0 150
2 5 1 140
3 15 2 135
4 45 7 125
5 60 10 115

次に、図2を参照して透光性セラミックスバルブの母材に対する蓄光性酸化物蛍光体の添加比率と機械強度および残光時間との関係についての調査結果を説明する。調査は、まずセラミックス母材に対する蓄光性酸化物蛍光体の添加比率を0〜60質量%の間で変化させた透光性セラミックスのサンプルを作成し、次に錫ハロゲン化物を主体とする太陽光に近い分光分布特性を有する白色常用光源であるD65形メタルハライドランプ(東芝ライテック株式会社製)を用いて5000lx、60分間光照射後の残光時間を測定し、さらに機械強度評価のために3点折曲げ強度試験を行った。なお、残光時間測定は、消灯時から室内での容易視認レベルである10mcd/m2に達するまでの時間を測定した。
【0025】
図2において、横軸は(セラミックス母材に対する)蓄光性酸化物蛍光体の添加比率(質量%)を、縦軸は左側が機械強度(N)、右側が残光時間(h)を、それぞれ示す。図から理解できるように、残光時間は、上記添加比率に正比例して変化し、添加比率5質量%以上であれば残光時間1時間以上が得られ、添加比率50質量%で残光時間8時間が得られる。これに対して、機械強度は添加比率の増加に応じて負の相関を示し、添加比率50質量%以下であれば、実用強度であると認められる120N以上が得られることが分かった。以上の結果から、添加比率が5〜50質量%の範囲内で実用的な残光時間と機械強度を得ることができ、また15〜45質量%の範囲でより一層良好な残光時間と機械強度を得ることができることが分かった。
【0026】
図3は、本発明の高圧放電ランプを実施するための一形態としてのメタルハライドランプの正面図である。本形態において、メタルハライドランプは、図1に示す発光管ITを具備している。発光管ITは、透光性セラミックスバルブ1、一対の電極2、2、一対の電流導入導体3、3、一対の封止部4、4および透光性セラミックスバルブ1の内部に封入された放電媒体を備えている。
【0027】
一対の電極2、2は、タングステンを主成分として形成され、それぞれ電極軸部2a、先端部2bおよび電極マウントサブコイル2cを備えている。電極軸部2aは、小径筒部1b、1b内に挿通されている。
【0028】
一対の電流導入導体3、3は、それぞれニオブ棒状体3aおよびモリブデン棒状体3bからなる。ニオブ棒状体3aは、その先端が小径筒部の内部に挿入され、基端が小径筒部1bから外部へ突出している。モリブデン棒状体3bは、ニオブ棒状体3aの先端に突合せ溶接されており、その先端に電極軸部2aの基端を突合せ溶接して、電極2を支持している。
【0029】
一対の封止部4、4は、小径筒部1bの封止予定部に形成され、いずれもDy−SiO−Al系のフリットガラスを加熱して溶融し、固化することにより形成されている。そうして、一対の封止部4、4は、透光性セラミックスバルブ1の小径筒部1b、1bの端面側の部分と、これに対向する電流導入導体3、3と、の間に介在して透光性セラミックス気密容器1を気密に封止していて、電流導入導体3、3のニオブ棒状体3aが透光性セラミックスバルブ1の内部に露出しないように小径筒部1b、1b内に挿入されている部分の全体を被覆している。以上の封止により、電極2を透光性セラミックスバルブ1の所定の位置に固定している。
【0030】
放電媒体は、発光金属のハロゲン化物および始動ガスおよびランプ電圧形成媒体を含んでいる。ランプ電圧形成媒体としては、水銀または可視域の発光が少なくて、蒸気圧が比較的高い金属のハロゲン化物を第2のハロゲン化物として用いることができる。
【0031】
第2のハロゲン化物は、主として発光金属のハロゲン化物を第1のハロゲン化物としたとき、これと区別される意味であって、主としてランプ電圧形成作用に優れている。例えば、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなるグループの中から選択された1種または複数種のハロゲン化物を第2のハロゲン化物として用いることができる。
【0032】
さらに、ハロゲン化物は、蒸発する分より過剰に封入するのが一般的であり、その場合、一部が安定点灯時に小径筒部1b、1b内に形成されるわずかな隙間内に液相状態で滞留している。そして、点灯中下側となる例えば小径筒部1b内に液相状態で滞留している放電媒体の表層部付近に最冷部が形成される。
【符号の説明】
【0033】
1…透光性セラミックスバルブ、1a…包囲部、1b…小径筒部、1c…放電空間、2…電極、2a…電極軸部、2b電極先端部、2c…電極マウントサブコイル、3…電流導入導体、4…封止部、IT…発光管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス母材に対して蓄光性酸化物蛍光体を5〜50質量%添加した透光性セラミックスにより形成され、少なくとも放電空間を包囲する包囲部および包囲部を気密に封止するための封止予定部を具備していることを特徴とする透光性セラミックスバルブ。
【請求項2】
封止予定部を封止した請求項1記載の透光性セラミックスバルブ、透光性セラミックスバルブ内に配設されて先端部が放電空間に臨む一対の電極および透光性セラミックスバルブの内部に封入された放電媒体を備えた発光管と;
発光管を包囲する外管と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項3】
照明器具本体と;
照明器具本体に配設された請求項1記載の高圧放電ランプと;
高圧放電ランプを点灯する点灯装置と;
を具備していることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−171055(P2011−171055A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32489(P2010−32489)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】