説明

透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品

【課題】 帯電防止性、透明性に優れ、かつ不純物の少ない透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品の提供。
【解決手段】 透明熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、オレフィン系ポリマーのブロックと親水性ブロックからなる帯電防止剤(B)12〜80重量部を配合してなる組成物であって、かつ周期律表第1属および/または第2属の金属イオンおよびハロゲン系イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの溶出イオンの合計が20ppm以下、かつ発生ガスの合計が100ppm以下であり、さらに樹脂成形品(3mm厚み)とした時の全光線透過率が50%以上であることを特徴とする透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性、透明性に優れ、かつ不純物の少ない透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、成型加工性に優れることより、家電製品、OA機器分野など種々の分野にて利用されている。しかしながら、これら樹脂は表面固有抵抗が高く容易に帯電するため、埃等が付着し外観を損ねたり、特に電気・電子機器部品においては静電気障害を招くなどの欠点を有している。さらに製品によってはPMMAやポリカーボネート樹脂のような透明性が要求される場合がある。
このため、このような透明な樹脂に対して例えば界面活性剤等の帯電防止剤を塗布する、または練り込む方法が行われているが、水洗や摩擦等により樹脂表面の帯電防止剤が除去され、持続的な帯電防止効果が必要とされている。
持続的な帯電防止性能を付与する方法としては、例えばポリオキシエチレン鎖及びスルホン酸塩、カルボン酸塩あるいは第4級アンモニウム塩を含有するビニル系共重合体とアクリル系樹脂を配合すること(特開昭55−36237号(特許文献1)、特開昭63−63739号(特許文献2))、さらにはポリエーテルエステルアミドと他の帯電防止剤(スルホン酸塩等)とを組み合わせること(特開平8−253640号(特許文献3))が提案されているが、透明性と帯電防止性および耐衝撃性、成形加工性の物性バランスにおいて十分ではなかった。
【0003】
また、ポリエーテルエステルアミドを単独あるいは2種以上混ぜ合わせることにより、透明性、帯電防止性、耐衝撃性、成形加工性の物性バランスに優れることが提案されているが、ポリエーテルエステルアミドに由来するアミド成分が不純物となり、特に半導体分野における用途においては、樹脂に含まれる金属イオンなどの溶出イオン由来の不純物が汚染源となり、半導体製造プロセスにおいて悪影響を及ぼすことが懸念されるため、わずかな不純物も含まない材料が求められている。特開2006−52378号(特許文献4)では、アウトガス量が1500μg/g(ppm)以下である帯電防止性の熱可塑性樹脂組成物が提案されているが、当該技術でのアウトガス量はせいぜい数百μg/g(ppm)程度である。
【特許文献1】特開昭55−36237号
【特許文献2】特開昭63−63739号
【特許文献3】特開平8−253640号
【特許文献4】特開2006−52378号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、帯電防止性、透明性に優れ、かつ不純物の少ない透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意検討を行った結果、特定の透明樹脂と、特定の帯電防止剤を混合することにより、透明性を保持しながら、帯電防止性に優れ、かつ不純物の少ない透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に達したものである。
すなわち、本発明は、透明熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、オレフィン系ポリマーのブロックと親水性ブロックからなる帯電防止剤(B)12〜80重量部を配合してなる組成物であって、かつ周期律表第1属および/または第2属の金属イオンおよびハロゲン系イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの溶出イオンの合計が20ppm以下、かつ発生ガスの合計が100ppm以下であり、さらに樹脂成形品(3mm厚み)とした時の全光線透過率が50%以上であることを特徴とする透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物は、透明性、帯電防止性に優れ、さらには低不純物の必要とされる用途に好適に使用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
本発明において使用される熱可塑性樹脂(A)とは、透明性を有する熱可塑性樹脂であり、市販のポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等が例示されるが、特に芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなる(共)重合体であることが好ましい。
【0008】
(共)重合体を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
なお、本発明においては、上記芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共に必要に応じて他の共重合可能な単量体、例えばN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸等を使用することも可能である。
【0009】
上記(共)重合体は、公知の重合法によって製造することができるが、なかでも塊状重合法または溶液重合法が好ましく、さらには連続式の塊状もしくは溶液重合法がより好ましく用いられる。より具体的には、上記各単量体、及び必要であればエチルベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等の溶剤を混合した原料を重合工程に供給し、該単量体を重合する工程および該工程の後、重合体、未反応単量体および/または溶剤を含む混合液を加熱し、同時にまたは加熱後減圧室に導入して未反応単量体および/または溶剤を重合体から分離する分離回収工程、さらに回収工程から排出された重合体を、押出機を通して得ることが好ましい。
【0010】
本発明において使用される帯電防止剤(B)は、オレフィン系ポリマーブロックと親水性ブロックからなるものである。
オレフィン系ポリマーブロックとしては、炭素数が2〜30のポリオレフィン、特にカルボニル基(好ましくはカルボキシル基)、水酸基およびアミノ基の何れかをポリマーの両末端に有するポリオレフィンが好ましく使用できる。また親水性ブロックとしては、親水性ポリマーのブロックであり、ポリエーテルジオールおよびポリエーテルジアミンが使用できる。
なお、このような帯電防止剤(B)としては、例えば三洋化成工業株式会社製ペレスタット 303、同ペレスタット 300、同ペレスタット NC6321として入手可能である。
帯電防止剤(B)の使用割合については、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して12〜80重量部であることが好ましい。帯電防止剤(B)が12重量部未満では十分な帯電防止性が得られず、また80重量部を超えると耐熱性及び剛性が低下するため好ましくない。好ましくは20〜70重量部である。
また、上記帯電防止剤(B)の屈折率は、30℃以下の使用環境下において1.40〜1.60であることが好ましい。帯電防止剤(B)の屈折率が1.40未満または1.60以上では熱可塑性樹脂(A)の屈折率と異なるため透明性が低下する傾向にある。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、周期律表第1属および/または第2属の金属イオンおよびハロゲン系イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの溶出イオンの合計が20ppm以下、かつ発生ガス量の合計が100ppm以下であることが必要である。該溶出イオン量が20ppmかつ該発生ガス量が100ppmを超えると、これらが汚染源となり、該樹脂組成物からなる成形品を半導体製造プロセスにおいて使用する際に悪影響を及ぼすことが懸念されるという問題が発生する。該樹脂組成物の溶出イオン量および発生ガス量を規定量以下に制限する方法としては、使用する熱可塑性樹脂(A)および帯電防止剤(B)からもたらされる上記溶出イオン(発生ガス)等を調整(例えば上記溶出イオン等の少ない重合方法にて製造する、または上記溶出イオン等の含有量の低いものを使用する、さらには上記溶出イオンを水洗等の方法により低減する)することにより、該規定量を制限することができる。
【0012】
さらに、本発明は、上記熱可塑性樹脂(A)と帯電防止剤(B)からなる樹脂組成物であって、且つ樹脂成形品(3mm厚み)とした時の全光線透過率が50%以上であることが必要である。該樹脂成形品の全光線透過率を50%以上とするには、使用する熱可塑性樹脂(A)の種類およびその使用割合、さらに使用する帯電防止剤(B)の種類によって設定することができる。
【0013】
本発明における各成分の混合方法には特に制限はなく、押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等を用いて混合することができる。
【0014】
また、本発明の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物には、公知の添加剤、例えば酸化防止剤〔2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、2、2−メチレンビス−(4−エチル−6−t−メチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、ジラウリルチオジプロピオネート、トリス(ジ−ノニルフェニル)ホスファイト等が例示される。〕、紫外線吸収剤〔p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−4’−n−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等が例示される。〕、滑剤〔パラフィンワックス、ステアリン酸、硬化油、ステアロアミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド、n−ブチルステアレート、ケトンワックス、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド等が例示される。〕等を必要に応じて添加することができる。
なお、これら添加剤についても、本発明にて規定する溶出イオン等を含まないもしくは本発明に悪影響を与えない程度の添加剤を使用することが望ましい。
【0015】
本発明をさらに具体的に説明するために以下に実施例及び比較例を挙げて説明する。しかし、これらによって本発明は何ら制限されるものではない。
【0016】
〔実施例〕
−熱可塑性樹脂(A)−
A−1:容積が20リットルの完全混合型反応槽1基からなる連続的重合装置を用い、スチレン35重量部、メタクリル酸メチル55重量部、エチルベンゼン10重量部、t−ドデシルメルカプタン0.04重量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.015重量部からなる重合原料をプランジャーポンプを用いて13kg/hで連続的に該反応槽に供給して重合を行い、重合温度を調節して反応槽出口における重合転化率を53.5重量%にした。このときの重合温度は150℃であり、また反応槽の攪拌数は150rpmに調整した。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給した後、押出機を経て固有粘度0.50の熱可塑性樹脂(A−1)を得た。この熱可塑性樹脂(A−1)の屈折率は1.53であった。
【0017】
A−2:重合原料を、スチレン13重量部、メタクリル酸メチル67重量部、エチルベンゼン20重量部、t−ドデシルメルカプタン0.15重量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)0.02重量とした以外は、熱可塑性A−1。このときの重合温度は150℃であり、また反応槽の攪拌数は150rpmに調整した。重合に続いて、反応槽から連続的に抜き出された重合液を脱揮発分装置に供給した後、押出機を経て固有粘度0.52の熱可塑性樹脂(A−2)を得た。この熱可塑性樹脂(A−2)の屈折率は1.51であった。
【0018】
A−3:ポリメチルメタクリレート (住友化学株式会社製 スミペックスMGSS)
A−4:ポリスチレン (日本ポリスチレン株式会社製 G690N)
A−5:ポリカーボネート (住友ダウ株式会社製 カリバー200−20)
A−6:窒素置換した重合反応器に、純水130重量部及びロジン酸カリウム0.3重量部を仕込んだ後、攪拌下に65℃に昇温した。その後メチルメタクリレート70重量部、スチレン30重量部及びt−ドデシルメルカプタン0.35重量部からなる混合モノマー溶液及び不均化ロジン酸カリウム2重量部を含む乳化剤水溶液30重量部を各々4時間に亘って連続添加した。その後重合系を70℃に昇温し、2時間熟成を行い共重合体ラテックスを得た。その後、該ラテックス100重量部(固形分)に対し塩析剤として硫酸マグネシウム2.5重量部を使用して塩析した後、共重合体粒子の1.5倍体積の水を加えて攪拌してから脱水して洗浄した後、乾燥し、熱可塑性樹脂(A−6)を得た。
【0019】
−帯電防止剤(B)−
B−1:ペレスタット 303(三洋化成工業株式会社製 屈折率:1.490)
B−2:ペレスタット 300(三洋化成工業株式会社製 屈折率:1.490)
B−3:ペレスタット NC6321(三洋化成工業株式会社製 屈折率:1.516)
B−4:ペレスタット NC7530(三洋化成工業株式会社製 屈折率:1.536)
B−5:ポリエチレンオキサイド (住友精化株式会社製 炭素数:8〜10)
【0020】
〔実施例1〜5、比較例1〜7〕
上記各成分につき、表1に示された配合割合で混合し、40mm二軸押出機を用いて220℃で溶融混練し、ペレットを得た。
また、得られたペレットにつき東芝機械製IS−90B射出成形機を用い、シリンダー設定温度220℃にて各試験片を作成し、次の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0021】
全光線透過率:厚さ3mmの試験片を用いて、(株)村上色彩技術研究所製反射・透過率計HM−150で測定した。
帯電防止性:厚さ3mmの射出成形された角試験片を用い、1ヶ月間23℃、湿度50%RH下で状態調整し、水洗処理前後の表面固有抵抗値を東亞電子工業(株)製ウルトラメガオームメーターSN8210にて測定した。単位:Ω。
耐熱性:ISO−75に準拠して、1.8MPaにおける荷重たわみ温度を測定した。温度℃。
剛性:ISO−178に準拠して、曲げ弾性率を測定した。単位:MPa。
溶出イオン量:5cm×5cm×0.3cmの試験片を60℃の温浴に24時間浸漬し、温浴中に溶出したイオン量をICP−MS分析により定量した。周期律表第1属および/または第2属の金属イオンおよびハロゲン系イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの合計量の合計を求めた。単位:ppm。
発生ガス量:ガスクロマトグラフィーを用い、150℃にて30分ホールドさせたときの発生トータルガス量を求めた。単位:ppm。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
上記のとおり、本発明の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物は、透明性、帯電防止性に優れ、かつ不純物の少ないものであり、低不純物性が要求され、かつ透明性と帯電防止性の必要とされる電気・電子分野にて好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、オレフィン系ポリマーのブロックと親水性ブロックからなる帯電防止剤(B)12〜80重量部を配合してなる組成物であって、かつ周期律表第1属および/または第2属の金属イオンおよびハロゲン系イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオンの溶出イオンの合計が20ppm以下、かつ発生ガスの合計が100ppm以下であり、さらに樹脂成形品(3mm厚み)とした時の全光線透過率が50%以上であることを特徴とする透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
帯電防止剤(B)の屈折率が1.40〜1.60である請求項1記載の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
透明熱可塑性樹脂(A)が、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体等の中から選ばれた1種以上の単量体を重合してなる(共)重合体からなる請求項1記載の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(共)重合体が、塊状重合法または溶液重合法により得られたものである請求項3記載の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
透明熱可塑性樹脂(A)が、ポリカーボネート樹脂である請求項1記載の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の透明持続性帯電防止熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2007−277446(P2007−277446A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107242(P2006−107242)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】