説明

透明樹脂基板の保護膜形成用硬化性樹脂組成物

【課題】表面に付着した皮脂の拭き取り性に優れ、しかも皮脂が表面に付着した場合にも目立ち難く、さらには耐擦傷性にも優れた保護膜を形成し得る硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)分子中にオキセタン環を有するオキセタン化合物、(B)分子中にオキセタン環とラジカル重合性基とを有するオキセタン系ラジカル重合性単量体、(C)分子中に3個以上のラジカル重合性基を有する多官能ラジカル重合性単量体及び(D)光重合開始剤を含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やデジタルカメラなどのモバイル等の表示画面の保護板として使用される透明樹脂基板などにおいて、その表面保護膜の形成に使用される硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタルカメラなどの各種モバイル等の表示画面は、一般に液晶で形成されており、この表面には、割れ防止などの観点からポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)などの透明樹脂基板が設けられており、さらに、その上には、傷つきなどによる視認性の低下を防止するために、ハードコート層が設けられているのが一般的である。
【0003】
しかるに、携帯電話の画面などのディスプレイには指が触れやすく、皮脂が付着し、視認性が低下するという問題がある。ディスプレイに皮脂が付着した場合、ハンカチやティッシュペーパーなどで拭き取る場合は稀であり、多くの場合、指や洋服で2〜3回拭く程度あり、この程度の拭き取りでは皮脂を十分に拭い取ることができず、表面に白く濁った部分が残り、視認性の低下を回避することができていないのが実情である。即ち、従来公知のハードコート層では、このような皮脂の付着に関する問題を解消することができない。
【0004】
また、皮脂による視認性の低下を回避するためには、例えばディスプレイ等の表面に設けられる透明樹脂基板の表面にフッ素系やシリコーン系の膜を形成することが考えられる。このような表面膜は、皮脂をはじくため、拭き取りは容易になるのであるが、はじかれた皮脂が小さな粒状になって白く濁り、逆に目立つようになってしまう。このため、頻繁に拭き取りを行わなければならず、根本的な解決には至らない。
【0005】
さらに、皮脂による視認性の低下を回避するための提案もなされており、例えば特許文献1には、ディスプレイやタッチパネルなどの表示画面の表面に親油性の皮膜を設けることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−353808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている手段は、脂肪酸エステル基などの親油性基を膜の表面に配向させて存在させることにより、膜表面が一定の表面エネルギーを有する親油性となり、この結果、表面に付着した皮脂は、膜表面に薄く拡散し、従って、皮脂による汚れが目立たなくなるというものである。
【0007】
しかしながら、上記のような親油性の膜では、皮脂の拭き取り性が満足のいくものではなく、指や洋服で2〜3回拭いた程度では、皮脂を十分に拭い取ることができないという問題がある。また、ハードコート層としての特性も有しておらず、耐擦傷性が不満足であるという問題もある。さらには、表面に付着した皮脂が拡散して目立たなくなるといっても、皮脂が十分に拡散して目立たなくなるまで長時間を要し、皮脂が付着した時点ではかなり目立ち、視認性の低下を効果的に防止するという点でも改善の余地がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、表面に付着した皮脂の拭き取り性に優れ、しかも皮脂が表面に付着した場合にも目立ち難く、さらには耐擦傷性にも優れた保護膜を形成し得る硬化性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の硬化性樹脂組成物により形成された保護膜が透明樹脂基板の表面に形成されている透明保護パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
(A)分子中にオキセタン環を有するオキセタン化合物、
(B)分子中にオキセタン環とラジカル重合性基とを有するオキセタン系ラジカル重合性単量体、
(C)分子中に3個以上のラジカル重合性基を有する多官能ラジカル重合性単量体、
(D)光重合開始剤、
を含有してなる透明樹脂基板の保護膜形成用硬化性樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物においては、
(1)前記(A)乃至(C)の3成分の合計量を100重量部として、オキセタン化合物(A)を10〜49重量部、オキセタン系ラジカル重合性単量体(B)を1〜40重量部、及び多官能ラジカル重合性単量体(C)を50〜89重量部の量で含有していること、
(2)前記光重合開始剤は、ラジカル系光重合開始剤とカチオン系光重合開始剤とからなること、
が好適である。
【0011】
また、本発明によれば、透明樹脂基板と該基板上に設けられた表面保護膜とからなる透明保護パネルにおいて、該表面保護膜は、前記の硬化性樹脂組成物を硬化して得られたものであることを特徴とする透明保護パネルが提供される。
【0012】
上記の透明保護パネルにおいては、
(3)前記透明樹脂基板が、ポリカーボネート樹脂基板、アクリル樹脂基板、またはポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の面にアクリル樹脂層が形成された積層板からなること、
(4)前記表面保護膜は、1μmより厚い厚みを有していること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性樹脂組成物は、これを所定の透明樹脂基板表面に塗布し、硬化させることによって表面保護膜を形成するものであり、このような表面保護膜は、後述する実施例に示されているように、皮脂の拭き取り性に優れ、例えばこの表面に付着した皮脂は、指での拭き取りにより、容易に除去することができる。また、従来のハードコート層と比しても同等以上の耐擦傷性を示し、極めて傷つき難いという特性を有している。さらには、表面に付着した皮脂は目立ちにくいという特性をも有している。
【0014】
従って、本発明の硬化性樹脂組成物は、皮脂の付着による視認性の低下や傷付きを防止するための保護膜形成材として有用であり、例えば液晶表示板などの保護板として設けられる透明樹脂基板の表面に、この硬化性樹脂組成物を用いて保護膜を形成し、透明保護パネルとして好適に使用される。このような透明保護パネルは、特に皮脂の付着が問題となる携帯電話の液晶表示部の保護部材として極めて有用である。
【0015】
尚、本発明の硬化性樹脂組成物により形成される保護膜が、耐擦傷性に優れているのは、該組成物中に多官能ラジカル重合性単量体(C)が含まれているため、保護膜が硬質であるためと思われるが、皮脂の拭き取り性に優れており、また表面に付着した皮脂が目立ち難いという理由は解明されていない。例えば、この保護膜の水に対する接触角などは、この保護膜が形成される透明樹脂基板や従来公知のハードコート層などと同程度であることなどから、その表面エネルギーにより拭き取り性が向上しているものではないと思われる。しかるに、この保護膜表面に付着した皮脂が目立ち難いという実験結果などから考えると、オキセタン化合物(A)やオキセタン系ラジカル重合性単量体(B)が組成物中に配合されているため、保護膜の表面にオキセタン環が多く分布しており、このようなオキセタン環の分布が生体由来の油分である皮脂に対しての特異的な性質を示しているためではないかと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性組成物は、オキセタン化合物(A)、オキセタン系ラジカル重合性単量体(B)、多官能ラジカル重合性単量体(C)及び光重合開始剤(D)を必須成分として含むものである。
【0017】
オキセタン系化合物(A);
オキセタン系化合物は、分子中にオキセタン環を少なくとも1個有している化合物であり、特に脂肪族2重結合を有する基などのラジカル重合性基を有していない点で、後述するオキセタン系ラジカル重合性単量体(B)とは異なっている。本発明においては、このようなオキセタン系化合物の使用により、保護膜の皮脂に対する拭き取り性が著しく高められ、しかも付着した皮脂の目立ち難さを付与するものである。
【0018】
このようなオキセタン系化合物には、オキセタン環を1個有する単官能オキセタン化合物、オキセタン環を2個有する2官能オキセタン化合物、及びオキセタン環を3個以上有する多官能オキセタン化合物などがあり、本発明においては、これらの何れも使用することができる。
【0019】
上記の単官能オキセタン化合物としては、例えば下記式(1):
【化1】

式中、Rは、水素原子、アルキル基またはアリール基であり、
は、水素原子またはアルキル基である、
で表される化合物を例示することができる。かかる式(1)において、基R及びRにおけるアルキル基は、直鎖及び分岐の何れであってもよく、特に炭素数10以下のものが好適である。また、基Rのアリール基としてはフェニル基が好適である。本発明において、特に好適な単官能オキセタン化合物の具体例としては、以下のものを例示することができ、これらは何れも市販されている。
3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン
(R=H、R=エチル基)
3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン
(R=フェニル基、R=エチル基)
3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン
(R=2−エチルヘキシル基、R=エチル基)
【0020】
また、2官能オキセタン化合物としては、例えば下記式(2)または(4)で表される化合物が挙げられる。
【化2】

式中、Rは、前記一般式(1)で示した基であり、
は、メチレン、エチレン、プロピレン等のアルキレン基である。
【化3】

式中、nは、1乃至3の整数であり、
Arは、アリーレン基、例えばp−フェニレン基、ビフェニレン基で
ある。
【0021】
上記の式(2)で表される2官能オキセタン化合物としては、基Rがエチル基であり、基Rがメチレン基であるジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテルが好適である。
【0022】
また、式(3)の2官能オキセタン化合物としては、Arがp−フェニレン基であり、nが1である1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼンが好適である。また、Arがビフェニレン基であるものは、宇部興産株式会社よりOXBPの名称で市販されており、このような2官能オキセタン化合物も好適に使用することができる。
【0023】
また、下記式(4)で表される炭酸エステル型の2官能性オキセタン化合物は、宇部興産株式会社よりOXTPの名称で市販されており、このような2官能性オキセタン化合物も使用することができる。
【化4】

式中、Phは、p−フェニレン基である。
【0024】
さらに、多官能オキセタン化合物としては、下記式(5)で表されるフェノールノボラックオキセタンを例示することができ、このような多官能オキセタン化合物も、本発明では好適に使用することができる。
【化5】

【0025】
また、オキセタン化合物としては、前述したオキセタン化合物の分子にシロキサン構造が組み込まれたケイ素系オキセタン化合物や、フルオロアルキル基等が導入されたフッ素系オキセタン化合物も知られているが、本発明では、このようなケイ素原子やフッ素原子を有するオキセタン化合物の使用は望ましくない。これらの原子が分子中に導入されているオキセタン化合物を用いた場合には、形成される保護膜は、皮脂をはじきやすくなるため、拭き取り性は良好となるが、付着した皮脂が目立ち易くなってしまい、視認性の低下が顕著となってしまうためである。
【0026】
オキセタン系ラジカル重合性単量体(B);
本発明において、オキセタン系ラジカル重合性単量体は、分子中に少なくとも1個のオキセタン環と、少なくとも1個のラジカル重合性単量体を有するものであり、前述したオキセタン化合物(A)と後述する多官能ラジカル重合性単量体(C)との間のバインダー的機能を有するものであり、オキセタン化合物(A)を硬化膜中に安定に取り込み、前述した抜き取り性や目立ち難さの特性を維持しつつ、膜の耐擦傷性や強度を高めるための成分である。
【0027】
このようなオキセタン系ラジカル重合性単量体(B)において、ラジカル重合性基は、(メタ)アクリル基やビニル基、ビニルエーテル基のように脂肪族系不飽和結合を有する基である。かかる重合性単量体(B)としては、式(1)乃至(5)で表されるオキセタン化合物の分子に、ラジカル重合性基が導入された構造を有するもの、例えば、式(1)における基Rがビニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、或いは(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性基であるもの、或いは式(1)、式(2)中の基Rがアルケニル基や(メタ)アクリル基であるもの、基Rがアルケニレン基であるもの、さらには、式(3)〜(5)のオキセタン化合物の分子末端がアルケニル基や(メタ)アクリル基となっているものなどである。
【0028】
本発明において、特に好適なオキセタン系ラジカル重合性単量体は、下記式(6):
【化6】

式中、Rは、アルキル基又はアルケニル基であり、
Aは、(メタ)アクロイル基である、
で表される化合物、例えば3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンメタクリレート(R=エチル基、A=メタクリロイル基)である。
【0029】
即ち、上記のオキセタン系ラジカル重合性単量体(B)は、紫外線照射により後述する多官能ラジカル重合性単量体と共重合して硬化物(保護膜)を形成するが、この際、該単量体中のオキセタン環がオキセタン化合物のオキセタン環と反応し、硬化物中にオキセタン化合物が取り込まれるものと考えられる。
【0030】
多官能ラジカル重合性単量体(C);
本発明において、多官能ラジカル重合性単量体(C)は、分子中にラジカル重合性基を3個以上有するものであり、保護膜を硬質とし、耐擦傷性を向上させてハードコート性を付与するとともに、保護膜が形成される透明樹脂基板との密着性を高めるための成分である。
【0031】
このような多官能ラジカル重合性単量体(C)としては、ラジカル重合性基である(メタ)アクロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート誘導体が好適に使用される。このような(メタ)アクリレート誘導体は、例えば下記式(7)で表される。
【化7】

式中、R及びRは、水素原子、メチル基またはエチル基であり、
は、3価以上の有機残基であり、
aは、平均して0〜3の数であり、
bは、3以上の整数である。
【0032】
上記の(メタ)アクリレート誘導体の具体例としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーポリアクリレート(b≧9)、ウレタンオリゴマーポリメタクリレート(b≧9)を例示することができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0033】
光重合開始剤(D);
本発明において、光重合開始剤の適当な例としては、これに限定されるものではないが、例えば、ビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のラジカル系光重合開始剤を挙げることができる。
【0034】
また、上記のラジカル系光重合開始剤と共に、光カチオン重合開始剤を併用することが好ましい。この光カチオン重合開始剤は、紫外線等の光照射により酸を発生する化合物であり、例えばジアリールヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、スルホン酸エステル化合物、及びハロメチル置換−s−トリアジン誘導体などが知られている。
【0035】
上記のジアリールヨードニウム塩化合物は、例えば下記一般式(8)で表される。
【化8】

上記式中、R〜R10は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子を除く)、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基であり、Mは、ハロゲン化物イオン、p−トルエンスルホナートイオン、パーフルオロアルキルスルホナートイオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートイオン、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、ヘキサフルオロアルセナートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオンである。
【0036】
このようなジアリールヨードニウム塩化合物の具体例としては、ジアリールヨードニウムのクロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタンフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、或いはヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。また、かかる塩を形成するジアリールヨードニウムの適当な例としては、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等を挙げることができる。これらの中でも前述した重合性単量体成分に対する溶解性などの観点から、p−トルエンスルホナートが好適である。
【0037】
また、スルホニウム塩化合物の例としては、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルスルホニウム等のスルホニウムの塩、例えばクロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタンフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、或いはヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。
【0038】
スルホン酸エステル化合物の例としては、ベンゾイントシレート、α−メチロールベンゾイントシレート、o−ニトロベンジルp−トルエンスルホナート、p−ニトロベンジル−9,10−ジエトキシアントラセン−2−スルホナートなどを挙げることができる。
【0039】
ハロメチル置換−s−トリアジン誘導体の例としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン等を挙げることができる。
【0040】
即ち、上記のような光カチオン重合開始剤を使用すると、紫外線等の光照射により発生した酸の作用により、オキセタン環の酸素原子にカチオン(H)が結合し、>OHが形成され、この>OHの酸素原子と隣接している炭素原子との結合が切断され、該炭素原子に他のオキセタン環の酸素原子(O)が結合し、オキセタン環同士の結合が生じ、この反応が順次繰り返され、オキセタン化合物(A)が硬化物(即ち保護膜)中に安定に取り込まれるのである。
【0041】
本発明において、オキセタン化合物を保護膜中に安定に取り込み、該オキセタン化合物に由来すると思われる皮脂の拭き取り性や皮脂が目立たなくなるという性質を十分に発揮させるという観点から、上述したラジカル系光重合開始剤と光カチオン系ラジカル重合開始剤とを併用することが好適である。
【0042】
<硬化性組成物の調製>
本発明の硬化性組成物は、上述した(A)乃至(D)成分を均一に混合することにより調製されるが、皮脂の拭き取り性や皮脂の付着防止性を高め、付着した皮脂の視認性を低下させ、さらには保護膜の耐擦傷性を高めるためには、(A)乃至(C)成分の合計量100重量部当り、オキセタン系化合物(A)を10〜49重量部、オキセタン系ラジカル重合性単量体(B)を1〜49重量部、及び多官能ラジカル重合性単量体(C)を50〜89重量部の量で配合することが好ましい。さらに、重合開始剤(D)の量(ラジカル系光重合開始剤と光カチオン系ラジカル重合開始剤との合計量)は、(A)乃至(C)成分の合計量100重量部当り1乃至10重量部の範囲がよく、特にラジカル系光重合開始剤は、前記(B)及び(C)成分の合計量100重量部当り1乃至10重量部の範囲にあるがよく、また、光カチオン系ラジカル重合開始剤は、前記(A)及び(B)成分の合計量100重量部当り1乃至10重量部の範囲で使用されるのが好適である。
【0043】
また、本発明の硬化性組成物は、必要により希釈剤として有機溶媒を使用し、適度な粘度に調整して使用に供することができる。このような有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、セロソルブアセテート系の溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、及びこれらの混合溶媒を例示することができる。
【0044】
また、本発明の硬化性組成物中には、この組成物を硬化して得られる保護膜の優れた特性を損なわない範囲において、それ自体公知の各種添加剤、例えば粘度調整剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤などを配合することも可能である。
さらに、保護膜の防汚性を高めるための添加剤として、シリコーン系たフッ素系の防汚剤が知られているが、既に述べたように、この種の添加剤は、保護膜における皮脂を目立ちやすくする傾向があるため、本発明においては、この種の添加剤の配合は避けることが望ましい。また、それ以外の添加剤としても、分子中にケイ素原子やフッ素原子を有するものの使用は避けるのがよい。
【0045】
<透明保護パネル>
上述した本発明の硬化性組成物は、透明であり且つ耐擦傷性に優れ、しかも皮脂の拭き取り性が良好であり、付着した皮脂が目立ち難いという特性の保護膜を形成することができるため、透明樹脂基板の表面に設ける保護膜材料として使用される。例えば、透明樹脂基板の表面に本発明の硬化性組成物により保護膜が形成された透明保護パネルは、携帯電話やデジタルカメラなどのモバイルの液晶表示画面やタッチパネルの上に設けられる保護部材として有効に利用される。
【0046】
このような保護膜が表面に形成される透明樹脂基板としては、一定の強度及び透明性を有している限り特に制限されず、それ自体公知の透明樹脂から形成されていてよいが、表面保護層との密着性などの観点から、一般的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル系樹脂やポリカーボネート(PC)などから形成される。例えば、この透明樹脂基板は、PPMAなどのアクリル系樹脂基板、ポリカーボネート樹脂基板、或いは、ポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の面上にアクリル樹脂層を積層させた積層樹脂基板などであってよい。さらに、透明樹脂基板の厚みは、特に制限されず、この透明保護パネルの用途に応じて適宜決定されるが、通常、携帯電話やデジタルカメラなどのモバイルの表示画面に適用される場合には、0.1乃至5mm程度の厚みである。
【0047】
また、かかる透明保護パネルにおいて、上記の硬化性組成物から形成される保護膜は、透明樹脂基板の表面に直接設けることもできるし、従来公知のハードコート層を透明樹脂基板の表面に設け、このハードコート層上に設けることもできる。このようなハードコート層は、硬質の樹脂層であり、例えば本発明で(C)成分として使用されている多官能ラジカル重合性単量体を含む硬化性組成物を硬化することにより形成される。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いての保護膜の形成は、該組成物を透明樹脂基板(或いはハードコート層)の表面に塗布し、紫外線等の光を照射して該組成物の塗布層を硬化させることにより形成される。このような保護膜は、例えば反射防止膜のような膜よりも厚く形成され、一般に2μm以上の厚みを有するのがよい。保護膜の厚みがあまり薄いと、皮脂の拭き取り性が十分に発揮されず、また耐久性も低くなるおそれがあるからである。
【0049】
上記のようにして得られる透明保護パネルは、携帯電話やデジタルカメラ或いはカーナビ等のモバイルにおける液晶表示板など、皮脂の付着による視認性の低下が要求される部分の保護パネルとして特に有効に使用される。
【実施例】
【0050】
本発明の優れた効果を、以下の実施例及び比較例により説明する。
尚、以下の実験例において得られた保護皮膜の特性は、次の方法により評価した。
【0051】
<密着性>
ニチバン製セロテープ(24mm幅)を用いての碁盤目試験により、JISK5600に基づいて評価した。
【0052】
<表面硬度>
吉光精機製硬度計C-2210を用い、鉛筆として三菱Uniを用いての鉛筆硬度で評価した。この硬度が硬いほど、耐擦傷性が良好である。
【0053】
<耐擦傷性>
日本スチールウール(株)製の試験機 BONSTER No.0000を用い、800g/cmの圧力で100往復したときの傷の発生の有無を目視で判定した。
【0054】
<皮脂拭き取り性>
鼻の付け根部分の皮脂を中指につけ、それを保護膜の表面につけ、この保護膜についた皮脂を、人差し指で外に押し出すように拭き取り、保護膜に残った皮脂の度合いを目視で評価する。評価基準は、以下の通りである。
◎:ほとんど皮脂が残らない。
○:皮脂が少し確認できる。
×:保護パネル上に皮脂が白く広がる。
【0055】
また、以下の実験例で、硬化性組成物の調製に用いた各種材料は、以下の通りである。
【0056】
オキセタン化合物(A);
オキセタンA1:
ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル
(東亜合成株式会社製OXT−221)
オキセタンA2:
1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}
ベンゼン
(東亜合成株式会社製OXT−121)
オキセタンA3:
3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン
(東亜合成株式会社製OXT−101)
【0057】
オキセタンモノマー(B)(オキセタン系ラジカル重合性単量体);
オキセタンモノマーB1:
3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンメタクリレート
(宇部興産株式会社製OXMA)
【0058】
多官能モノマー(C)(多官能ラジカル重合性単量体);
多官能モノマーC1:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(新中村化学工業株式会社製A−DPH)
多官能モノマーC2:
ウレタンオリゴマーポリアクリレート(b=15)
(新中村化学工業株式会社製U−15HA)
多官能モノマーC3:
ウレタンオリゴマーポリアクリレート(b=15)
(根上工業製UN3320HC)
多官能モノマーC4:
ペンタエリスリトールトリアクリレート
(共栄社化学製PE−3A)
【0059】
ラジカル重合開始剤(D);
光開始剤DL:
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(チバジャパン社製イルガキュア184)
カチオン開始剤DC−1:
ジアリールヨードニウム塩
(チバジャパン社製イルガキュア250)
カチオン開始剤DC−2:
スルホニウム塩
(旭電化工業社製アデカオプトマーSP−150)
カチオン開始剤DC−3:
スルホニウム塩
(旭電化工業社製アデカオプトマーSP−170)
カチオン開始剤DC−4:
スルホニウム塩
(旭電化工業社製サンエイドSI−60L)
カチオン開始剤DC−5:
スルホニウム塩
(旭電化工業社製サンエイドSI−80L)
【0060】
希釈溶媒;
メチルイソブチルケトンとイソプロパノールとの1:1(重量比)混合溶媒
【0061】
防汚性付与剤;
フッ素系:住友スリーエム社製ノベックFC−4430
シリコーン系:共栄社化学製グラノール450
【0062】
<実験例1〜11>
表1に示す組成で硬化性組成物を調製し、この硬化性組成物をアクリル板(三菱レイヨン製アクリライトL)の表面に塗布し、紫外線照射により硬化させて厚みが3μmの保護膜を形成した。
この保護膜について、前述した方法に従って各種特性を評価し、その結果を併せて表1に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
また、実験例5(本発明の範囲外の比較例である)の硬化性組成物を上記アクリル板の半面に塗布して上記と同様にした対照用保護膜を形成すると同時に、これに隣接して、残部の半面に実験例1〜4の各硬化性組成物を塗布して上記と同様にして保護膜を形成し、皮脂の視認性を確認するための試験片を作製した。
この試験片を用い、鼻の付け根部分の皮脂を中指につけ、この指を押し付けることにより、対照用保護膜と実験例1〜4の保護膜との境界線を跨ぐようにして皮脂を付着せしめた。付着した皮脂を目視で観察したところ、対照用保護膜上の皮脂は明瞭であったが、実験例1〜4の保護膜はほとんど目立たなかった。
【0065】
また、実験例5の硬化性組成物にフッ素系或いはシリコーン系の防汚性付与剤が添加された実験例6或いは実験例7の硬化性組成物を用いて対照用保護膜を形成して上記と同様の試験を行ったところ、やはり、対照用保護膜上に形成された皮脂は明瞭に観察されたが、実験例1〜4の硬化性組成物により形成された保護膜上の皮脂はほとんど目立たなかった。
【0066】
さらに、実験例1〜実験例4の硬化性組成物のそれぞれに、フッ素系或いはシリコーン系の防汚性付与剤を添加したところ、その添加量が多くなるにしたがい、皮脂拭き取り性が低下していき、特に防汚性付与剤が(A)乃至(C)成分の合計量100重量部に対し、0.1重量部を超えると、皮脂拭き取り性が大きく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子中にオキセタン環を有するオキセタン化合物、
(B)分子中にオキセタン環とラジカル重合性基とを有するオキセタン系ラジカル重合性単量体、
(C)分子中に3個以上のラジカル重合性基を有する多官能ラジカル重合性単量体、
(D)光重合開始剤、
を含有してなる透明樹脂基板の保護膜形成用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)乃至(C)の3成分の合計量を100重量部として、オキセタン化合物(A)を10〜49重量部、オキセタン系ラジカル重合性単量体(B)を1〜40重量部、及び多官能ラジカル重合性単量体(C)を50〜89重量部の量で含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記光重合開始剤は、ラジカル系光重合開始剤とカチオン系光重合開始剤とからなる請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
透明樹脂基板と該基板上に設けられた表面保護膜とからなる透明保護パネルにおいて、該表面保護膜は、請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られたものであることを特徴とする透明保護パネル。
【請求項5】
前記透明樹脂基板が、ポリカーボネート樹脂基板、アクリル樹脂基板、またはポリカーボネート樹脂層の少なくとも一方の面にアクリル樹脂層が形成された積層板からなる請求項4に記載の透明保護パネル。
【請求項6】
前記表面保護膜は、1μmより厚い厚みを有している請求項3または4に記載の透明保護パネル。

【公開番号】特開2009−126894(P2009−126894A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301210(P2007−301210)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】