説明

透明遮熱調光材

【課題】可視光線透過率をほとんど変化させないまま、外的刺激により近赤外線遮蔽性を調整することができる透明遮熱調光材を提供する。
【解決手段】外的刺激を与えることにより光の透過率を変化させることのできる透明遮熱調光材であって、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長400〜800nmの光の透過率の変化をΔTVIS、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長1000〜1800nmの光の透過率の変化をΔTNIRとした場合におけるΔTNIR/ΔTVISの値が1.5以上であって、かつ、外的刺激を与えたときの波長1000〜1800nmの光の透過率が40%以下である透明遮熱調光材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線透過率をほとんど変化させないまま、外的刺激により近赤外線遮蔽性を調整することができる透明遮熱調光材に関する。
【背景技術】
【0002】
光線のなかでも、可視光より長い800nm以上の波長を持つ近赤外線は、紫外線と比較するとエネルギー量が約10%程度と小さいものの、熱的作用が大きく、いったん物質に吸収されると熱として放出され温度上昇をもたらすことが知られている。例えば、車両のフロントガラスや建築物の窓ガラスから入射してくる光線のうち、熱的作用の大きな近赤外線、中でも、1000nm以上の波長を持つ光を遮断できるようにすれば、遮熱性が高まり、内部の温度上昇を抑えることができる。特に近年では、光学フィルタや窓材への応用を目的として、可視光線透過性と近赤外線遮蔽性との両方に優れる透明遮熱材の検討も数多くなされている。
【0003】
無機系の遮熱材としては、例えば特許文献1に、透明樹脂に平均粒径0.05〜4μmの硫化第二銅を分散させた透明樹脂組成物からなるものが開示されている。また、特許文献2には、平均粒子径100nm以下のホウ化ランタン微粒子を含有する近赤外線遮蔽透明樹脂シートが開示されている。
しかしながら、このような無機系の遮熱材では、高い可視光線透過性と、充分な近赤外線遮蔽性とを両立させることは困難であった。また、特有の着色が見られやすく、視認性を必要とする用途に利用する場合、複数の色素を併用する必要が生じるという問題があった。
【0004】
有機系の遮熱材としては、例えば特許文献3に、近赤外線吸収色素としてジチオールニッケル錯体と、550〜620nmを選択的に吸収する色素とを含有する透明樹脂塗膜を基板上に形成してなる近赤外線吸収材料が開示されている。また、特許文献4には、近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物、含フッ素フタロシアニン化合物及びジチオール系金属錯体系化合物を用い、それらをポリエステル等のバインダー樹脂に分散した組成物からなるものが開示されている。
しかしながら、有機系の近赤外線吸収色素を用いた遮熱材では、高い可視光線透過率と、充分な近赤外線遮蔽能を両立させることは困難であった。
【0005】
更に、特許文献5には、黄色系二色性色素、赤色系二色性色素、及び、青色系二色性色素と、近赤外線吸収色素とを用いた調光素子を用いて可視光領域から近赤外領域までの透過率をコントロールすることが検討されているが、充分高い可視光線透過率と近赤外遮蔽能を有する調光素子は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−073653号公報
【特許文献2】特開2005−047179号公報
【特許文献3】特開2002−200711号公報
【特許文献4】特開2005−099820号公報
【特許文献5】特開平5−027270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、可視光線透過率をほとんど変化させないまま、外的刺激により近赤外線遮蔽性を調整することができる透明遮熱調光材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明1は、波長400〜800nmの光の透過率の最小の値が55%以上であり、かつ、波長1000〜2000nmの光の透過率の最大の値が40%以下である透明遮熱材である。
本発明2は、外的刺激を与えることにより光の透過率を変化させることのできる透明遮熱調光材であって、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長400〜800nmの光の透過率の変化をΔTVIS、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長800〜1800nmの光の透過率の変化をΔTNIRとした場合におけるΔTNIR/ΔTVISの値が1.5以上であって、かつ、外的刺激を与えたときの波長1000〜1800nmの光の透過率が40%以下である透明遮熱調光材である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明1の透明遮熱材は、波長400〜800nmの光の透過率の最小の値が55%以上である。55%未満であると、視認性が不充分となったり、特定の色味を帯びることがあり、建築物の窓材や車両のフロントガラス等への応用が困難となる。好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
本発明1の透明遮熱材は、波長1000〜2000nmの光の透過率の最大の値が40%以下である。40%を超えると、充分な遮熱性が得られない。好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0010】
本発明1の透明遮熱材は、近赤外線領域の光透過率を低下させる機能を有する化合物を含有する。なお、本明細書において近赤外線領域の光透過率を低下させる機能を有するとは、近赤外線領域の光を吸収及び/又は反射する能力を顕在的又は潜在的に有する化合物を意味する。
【0011】
上記近赤外線領域の光透過率を低下させる機能を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、硫化銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、銀、ニッケル、クロム等の無機化合物;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ、リン含有酸化スズ、スズ含有酸化インジウム等の無機酸化物;フタロシアニン化合物、イモニウム化合物、シアニン化合物、アミニウム化合物、アゾ化合物等の有機系赤外線吸収剤;近赤外線領域に吸収を有する高分子化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、近赤外線領域に吸収を有する高分子化合物は、それ自体成型性に優れフィルム等へ容易に加工できることから好適である。また、上記近赤外線領域の光透過率を低下させる機能を有する化合物として上記無機化合物や無機酸化物を用いる場合には、これらの微粒子をポリスチレンやポリブチラール等の透明性の高い樹脂に分散して用いる。
特に上記近赤外線領域に吸収を有する高分子化合物中に上記無機酸化物からなる微粒子を分散させることにより、極めて高い赤外線遮蔽性を達成することができる。
【0012】
上記近赤外線領域に吸収を有する高分子化合物としては、例えば、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物が好適である。芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、酸化又は還元反応に伴う電子の授受により、構造変化による優れた光吸収特性の変化を示す。このため、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物の酸化反応物又は還元反応物を用いると、その他の赤外線遮蔽性の層を積層しなくとも、高い可視光線透過率と近赤外線遮蔽性とを両立させることができる。
【0013】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物としては特に限定はされないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン等が好適である。
上記芳香族側鎖を構成する置換基としては特に限定はされないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等の置換されていてもよいフェニル基;ビフェニル基;1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等の置換されていてもよいナフチル基;1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等の置換されていてもよいアントラセン基;1−フェナントレン等のフェナントレン基;1−フルオレン等のフルオレン基;1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
【0014】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物としては、例えば、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好適である。これらの繰り返し単位を有するポリアセチレン系化合物は、ドープの有無による光の透過率変化が、近赤外線領域を含む広域の波長領域において大きなコントラストを示す変化を示すことから、特に優れた遮熱性能を示す。
【0015】
【化1】

式(1)中、R、R、Rは水素、炭素数10以下のアルキル基、又は、炭素数10以下のアルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリアルキルシリル基(アルキル基は炭素数6以下)、炭素数10以下のペルフルオロアルキル基、炭素数5以下のアルキルアミノ基、及び、置換シリル基(SiR基;R、R、Rは、それぞれ水素、炭素数10以下のアルキル基、炭素数10以下のペルフルオロアルキル基、炭素数6以下のアルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、ベンジル基及び置換ベンジル基を示し、R、R、Rのうち少なくとも一つはアリール基、アリールオキシ基、ベンジル基及び置換ベンジル基よりなる群より選ばれる基を示す)を表す。
【0016】
【化2】

式(2)中、R、R、Rはそれぞれ水素、炭素数10以下のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリアルキルシリル基(ただしアルキル基は炭素数6以下)、アミノ基、アルキルアミノ基を表し、少なくとも一つは水素ではなく、それ以外の基は同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0017】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物の重量平均分子量としては特に限定されないが、好ましい下限は3000、好ましい上限は1000万である。3000未満であると、フィルム等を形成できないことがあり、1000万を超えると、成型性に劣ることがある。より好ましい下限は1万、より好ましい上限は500万である。
【0018】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物は、酸化剤及び/又は還元剤によってドープ処理されていることが好ましい。ドープ処理の方法及び程度により、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物、ひいては得られる本発明1の透明遮熱材の光透過特性を調整することができる。
【0019】
上記ドープ処理の方法としては特に限定はされず、例えば、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物をトルエン、クロロホルム、四塩化炭素等の適当な溶媒に溶解した溶液中に酸化剤又は還元剤を加えて液相中で接触させる方法;上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物をフィルム状等の所望の形状に成型した成形体を、酸化剤又は還元剤の溶液中に浸漬する方法;上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物をフィルム状等の所望の形状に成型した成型体を、酸化剤又は還元剤を含有する蒸気に接触させる方法等が挙げられる。
【0020】
上記酸化剤としては特に限定されず、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、ヨウ素、塩素、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、塩化銅(II)、塩化スズ(IV)、過塩素酸リチウム、過塩素酸銅等が挙げられる。
上記還元剤としては特に限定されず、例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸、硫化水素、亜二チオン酸、亜二チオン酸ナトリウム、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、塩酸ヒドラジン等が挙げられる。
【0021】
本発明1の透明遮熱材が芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物を含有する場合、他の樹脂成分を併用してもよい。他の樹脂成分としては特に限定はされないが、例えば、ポリスチレンや、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂が好適である。
他の樹脂成分を併用する場合、樹脂成分全体に占める上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物の含有量の好ましい下限は10重量%である。10重量%未満であると、充分な遮熱性能を発揮できないことがある。
【0022】
本発明1の透明遮熱材においては、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物と無機酸化物微粒子とを併用することが好ましい。なかでも、アンチモン含有酸化スズやスズ含有酸化インジウム等の、複数の元素を含有する金属酸化物を用いればとくに高い近赤外線遮蔽性を発現させることができる。
上記無機酸化物微粒子の配合量としては特に限定はされないが、遮熱材を構成する組成全体の重量に対して好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は10重量%である。0.1重量%未満であると、充分な遮熱効果が得られないことがあり、10重量%を超えると可視光線透過性が低下することがある。
【0023】
本発明1の透明遮熱材は、本発明の効果を阻害しない範囲で、安定剤、色素、接着力調整剤等のその他の添加剤を含有してもよい。
【0024】
本発明1の透明遮熱材の態様としては特に限定されず、例えば、本発明1の透明遮熱材のみをフィルム状等の適当な形状に成型したものであってもよいし、透明な基材上に本発明1の透明遮熱材を薄膜状に積層したものであってもよい。また、2枚の透明な基材の間に本発明1の透明遮熱材を薄膜状に介在させてもよい。
【0025】
上記透明な基材としては、可視光線透過性に優れた透明性材料からなるものであれば特に限定されず、例えば、ガラス板;アクリル系、ビニル系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネ−ト系等のホモポリマー、コポリマー、ポリマーブレンドからなる樹脂板状体等が挙げられる。
【0026】
本発明1の透明遮熱材を製造する方法としては特に限定はされず、例えば、上記近赤外線領域の光透過率を低下させる機能を有する化合物、及び、必要に応じて添加される樹脂や添加剤を所定の配合量で配合し混合したものを、離型フィルムや透明の基材等上に塗工して乾燥する方法等が挙げられる。
また、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物を用いる場合には、例えば、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物を適当な方法によりドープした後、これを離型フィルムや透明の基材上に塗工して、乾燥する方法;また、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物をトルエン、クロロホルム、四塩化炭素等の適当な溶媒に溶解した溶液を離型フィルムや透明の基材上に塗工、乾燥して塗膜を形成した後、得られた塗膜にドーピングする方法等が挙げられる。
【0027】
本発明2の透明遮熱調光材は、外的刺激を与えることにより光の透過率を変化させることのできるものである。
本発明2の透明遮熱調光材は、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長400〜800nmの光の透過率の変化をΔTVIS、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長1000〜1800nmの光の透過率の変化ΔTNIRとした場合におけるΔTNIR/ΔTVISの値が1.5以上である。1.5以上であることにより、可視光領域の光透過率の変化に対し充分に大きな近赤外線領域の透過率の変化が得られることになり、視認性や見た目の色味の変化は小さいのに対し、近赤外線領域の透過率が大きく変化する遮熱調光材とすることができる。また、視認性が大きく変化しないことから、車両のフロントガラス等に好適に応用することができる。ΔTNIR/ΔTVISの値が2以上であるとより好ましい。
尚、本明細書においてΔTVISとは変化の前後で最も低い透過率の値を比較した場合の変化の値を意味し、ΔTNIRとは変化後の透過率が最も低くなる波長での変化の値を意味する。
【0028】
本発明2の透明遮熱調光材は、外的刺激を与えたときの波長1000〜1800nmの光の透過率が40%以下である。40%を超えると、充分な遮熱性を発揮できない。
【0029】
本発明2の透明遮熱調光材は、外的刺激を与えたときの波長400〜800nmの光の透過率が50%以上であることが好ましい。50%を下回ると、視認性に優れないことや、特定の色味を感じることがある。より好ましくは55%以上、更に好ましくは55%以上である。
【0030】
本発明2の透明遮熱調光材は、外部刺激により光の透過率を変化させることができる化合物を含有する。上記外部刺激としては、例えば、電圧、電流等の電気的刺激や、光、熱、圧力等が挙げられる。なかでも、制御が容易であることから電気的刺激が好ましい。
【0031】
上記外部刺激により光の透過率を変化させることができる化合物としては特に限定はされないが、例えば、上述した芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物が好適である。芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物は、例えば電気的刺激を加えたり、加熱、加圧、光照射等を行ったりして外部刺激を与えることにより大きな構造変化を示し、その結果、近赤外線領域において大きく透過率が変化する一方で、可視光領域においては透過率の変化が小さい。
【0032】
本発明2の透明遮熱調光材が上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物を含有するものであって、外部刺激として電気的刺激を用いる場合には、本発明2の透明遮熱調光材は、更に、導電性化合物を含有することが好ましい。
【0033】
上記導電性化合物としては特に限定はされず、例えば、イオン伝導性物質、電子伝導性物質等が挙げられる。
上記イオン伝導性物質としては、イオン伝導性を示す物質であれば特に限定はされず、例えば、支持電解質である塩類、酸類、アルカリ類や、イオン性液体が挙げられる。
上記塩類としては特に限定はされず、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩;4級アンモニウム塩、環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、過塩素酸リチウム、ホウフツ酸テトラエチルアンモニウム、ヨウ化リチウム等が好適である。
上記酸類としては特に限定はされず、例えば、硫酸、塩酸、リン酸類、スルホン酸類等の無機酸;カルボン酸類等の有機酸が挙げられる。
上記アルカリ類としては特に限定はされず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
上記イオン性液体としては常温で液体でありかつイオン伝導性を示す物質であれば特に限定はされず、例えば、4級アンモニウム塩や環状4級アンモニウム塩が挙げられ、具体的には、陽イオンがN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムで、陰イオンがテトラフルオロホウ酸イオン又は(CFSOであるもの等が挙げられる。
これらのイオン伝導性物質は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記イオン伝導性物質は、有機極性溶媒中に分散された溶液状態で用いられてもよい。
上記有機極性溶媒としては特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルホスフェイト、ポリエチレングリコール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0035】
上記イオン伝導性物質は、繰り返し単位中に極性基を有する高分子化合物(以下、単に極性基含有高分子化合物ともいう)に分散された状態で用いられてもよい。
上記極性基含有高分子化合物としては特に限定はされないが、例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロイピレンオキサイドなどのポリエーテル類やポリカーボネート、フッ素系高分子等が挙げられる。
上記イオン伝導性物質を上記極性基含有高分子化合物に分散させる方法としては特に限定はされないが、例えば、上記有機極性溶媒中に上記極性基含有高分子化合物と上記支持電解質を溶解させ混合する方法や、溶解させて混合した後に固化させる方法等が挙げられる。
【0036】
上記電子伝導性物質としては特に限定はされず、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の従来公知の共役系ポリマー等が挙げられる。
【0037】
上記導電性化合物は、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物と混合した単層構造体としてもよく、導電性化合物を含有する層とポリアセチレン系化合物含有層とを積層した積層構造体としてもよい。このような単層構造体や積層構造体を一対の透明電極基材の間に介在させることにより、容易に電気的刺激を与えることができる。
【0038】
上記導電性化合物を含有する層は、上記イオン性導電性物質を上記極性基含有高分子化合物に分散させて膜状に形成したり、上記電子伝導物質を膜状に形成したりすることにより得ることができる。
【0039】
本発明2の透明遮熱調光材は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂を併用したり、安定剤、色素、接着力調整剤等のその他の添加剤を含有したりしてもよい。更に、本発明1に用いた無機酸化物等を併用してもよい。
【0040】
本発明2の透明遮熱調光材の製造方法としては特に限定はされないが、例えば電気的刺激による透明遮熱材の場合には、上記外部刺激により光の透過率を変化させることができる化合物と上記導電性化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液を、塗工、乾燥して膜状に形成したものを一対の透明電極間に介在させる方法や、外部刺激により光の透過率を変化させる化合物を適当な溶媒に溶解させた溶液を膜状に形成したものと、上記導電性化合物を膜状に形成したものを積層し、一対の透明電極間に介在させる方法等が挙げられる。
【0041】
上記溶媒としては、上記高分子化合物を溶解させることができ、かつ、上記外部刺激により光透過率を変化させる化合物や導電性化合物の分散性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン系化合物である場合には、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。
【0042】
本発明の透明遮熱材及び透明遮熱調光材の用途としては特に限定はされず、例えば光学部品用フィルタ、表示パネル前面用フィルタ、建築部材、窓材等に好適に用いることができる。中でも、優れた透明性と遮熱性を兼ね備えることから、車両や建築物の窓材として、好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、可視光線透過率をほとんど変化させないまま、外的刺激により近赤外線遮蔽性を調整することができる透明遮熱調光材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(参考例1)
(1)モノマーの合成
1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(関東化学社製)(237mL)を窒素置換したフラスコに入れ、約150mLのヘキサンをアスピレーターで除去し、THF約150mLを−20℃で滴下した。フェニルアセチレン(20.0mL)をTHF20mLに溶かした溶液を滴下し、−10℃で一時間静置した後−65℃まで冷却し、カリウムt−ブトキシド(20.5g)をTHF約60mLに溶かした溶液を滴下し、−10℃で1時間攪拌した。
その後、−50℃でクロロジメチルフェニルシラン(関東化学社製22.3mL)を滴下し、室温で一晩静置した。ヘキサンとTHFを留去した後、KOH(12g)のエタノール(180mL)溶液をフラスコに加え、60℃で1時間攪拌し、氷冷しつつ水を添加して反応を停止した後、ジエチルエーテルで抽出し、水で洗浄、硫酸ナトリウムで一晩乾燥させた。ジエチルエーテルを留去し、カラムクロマトグラフィーで精製、ジメチルフェニルシラン置換フェニルアセチレンモノマー(0.80mL)を得た。
【0046】
(2)ポリマー(ポリ[o−ジメチルフェニルシリル]フェニルアセチレン)の合成
窒素下、(1)で得られたモノマー0.80mLと、蒸留トルエン1.60mLとを加えたものをモノマー溶液とし、80℃で15分ほどエージングした。同様に窒素下、塩化タンタル(V)(関東化学社製、36mg)とテトラブチルスズ(関東化学社製)トルエン溶液(0.2M)1.0mLに蒸留トルエン2.0mLを加えたものを触媒バッチとし、80℃で15分程度エージングした。
モノマー溶液から2.0mLを抜き取り、触媒バッチに打ち込み重合反応を進行させた。2時間放置後、トルエン/メタノール(4:1)溶液0.5mLを加えて反応停止させた。反応物にトルエンを50mL加えて溶解し、メタノール4Lに注いで再沈殿させた。濾過後真空乾燥機で乾燥させることで最終的に、ポリ[o−ジメチルフェニルシリル]フェニルアセチレン250mgを得た。重量平均分子量は、16万であった。
【0047】
(3)透明遮熱材の調製
得られたポリ[o−ジメチルフェニルシリル]フェニルアセチレン100mgをトルエン10mLに溶解させ、得られた溶液をITOが蒸着されたガラス板よりなる透明電極基板のITO層上に800rpm(10秒間)の条件にてスピンコートにより塗布し、乾燥してポリアセチレン化合物のフィルムを形成した。ポリアセチレン化合物のフィルムの厚みは1700Åであった。得られた成型体を、濃硝酸飽和の蒸気中に25℃で1分間接触させ透明遮熱材を得た。
【0048】
(4)透明遮熱材の光透過率特性
得られた透明遮熱材の光透過率特性を、分光光度計(島津製作所社製、商品名「UV−3101PC」)を用いて観察した。波長と透過率について、観測した結果を表1に示す。
得られた透明遮熱材は視認性がよく、かつ、遮熱性にも非常に優れたものであった。
【0049】
【表1】

【0050】
(実施例2)
(1)モノマーの合成
窒素下、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)496mgにトリエチルアミン500mLを加え、フェニルアセチレン19.4mLをシリンジで添加し、溶液が黒くなるまで4〜5分程度攪拌した。そこにp−ブロモヨードベンゼン50.0gをトリエチルアミン200mLに溶かしたものを水浴で冷却しつつ添加して反応を進行させ、黄色に懸濁させた。ロータリーエバポレーターにてトリエチルアミンを除去した後、エチルエーテル750mLにて抽出した。再びロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、ブロモ置換ジフェニルアセチレンを得た。
別の反応装置を窒素で置換後、1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(関東化学社製)114mLをシリンジで添加し、アスピレーター減圧下でドライヤーで加熱しつつ約75mLのヘキサンを留去した。窒素置換後、−30℃まで冷却してから75mLのエチルエーテルをゆっくり加え、そこに先に得られたブロモ置換ジフェニルアセチレンを150mLのエチルエーテルに溶解したものを滴下して反応を進行させ、溶液を紅茶色に変化させた。
その後、すぐに150mLのエチルエーテルで薄めたクロルトリメチルシラン(関東化学社製、17.1mL)を滴下して黄白色に懸濁しはじめたので、0℃まで温度を上げた。氷冷しつつ水を添加して反応を停止させた後、エチルエーテル500mLにて抽出した。ロータリーエバポレーターにて溶媒除去後、カラムクロマトグラフィーにて精製、トリメチルシラン置換ジフェニルアセチレンモノマー0.61mLを得た。モノマーは固化しないよう40〜50℃にて油浴した。
【0051】
(2)ポリマー(ポリ[1−フェニル−2−(m−トリメチルシリル)フェニルアセチレン])の合成
窒素下、n−ドコサン(関東化学社製)180mLに、(1)で得られたモノマー0.61mLと蒸留トルエン1.59mLとを加えたものをモノマー溶液とし、80℃で15分ほどエージングした。同様に窒素下、塩化タンタル(V)(関東化学社製、36mg)とテトラブチルスズ(関東化学社製)トルエン溶液(0.2M)1.00mLに蒸留トルエン2.00mLを加えたものを触媒バッチとし、80℃で15分程度エージングした。
モノマー溶液から2mLを抜き取り、触媒バッチに打ち込み重合反応を進行させた。2時間放置後、トルエン/メタノール(4:1)溶液0.5mLを加えて反応停止させた。反応物にトルエンを50mL加えて溶解し、メタノール4Lに注いで再沈殿させた。濾過後真空乾燥機で乾燥させることでポリ[1−フェニル−2−(m−トリメチルシリルフェニル)アセチレン]320mgを得た。重合平均分子量は、140万であった。
【0052】
(3)透明遮熱調光材の調製
得られたポリ[1−フェニル−2−(m−トリメチルシリル)フェニルアセチレン]0.2gを、40mLのトルエンに溶解させ、得られた溶液をITOが蒸着されたガラス板よりなる透明電極基板のITO層上にスピンコートし、乾燥して厚さ2500Åのポリアセチレン系化合物含有層を形成した。
次に、過塩素酸リチウム2.14gを炭酸プロピレン100mLに溶解して電解質溶液を調整した。この電解質溶液にポリエチレングリコール(分子量30万、和光純薬社製)5gを加えてゲル状にし、ポリアセチレン系化合物含有層に塗布することで電解質層を形成した。更に、その上から対向電極基板を積層して、透明遮熱調光材を得た。
【0053】
(4)透明遮熱材の光透過率特性
得られた透明遮熱材の光透過率特性を、分光光度計(島津製作所社製、商品名「UV−3101PC」)を用いて観察した。電圧印加の前後における光の透過率について、400nm〜1800nmの波長領域で200nm間隔毎の波長について観測した。結果を表2に示す。
なお、光透過率の測定は、電圧印加開始後60秒後に行った。
得られた透明遮熱材は、電圧を印加する前後での視認性が大きくは変化せず、電圧印加の前後でいずれも良好な視認性を示し、かつ、優れた遮熱性を示すものであった。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、可視光線透過率をほとんど変化させないまま、外的刺激により近赤外線遮蔽性を調整することができる透明遮熱調光材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外的刺激を与えることにより光の透過率を変化させることのできる透明遮熱調光材であって、
外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長400〜800nmの光の透過率の変化をΔTVIS、外的刺激を与えないときと外的刺激を与えたときとの波長1000〜1800nmの光の透過率の変化をΔTNIRとした場合におけるΔTNIR/ΔTVISの値が1.5以上であって、かつ、外的刺激を与えたときの波長1000〜1800nmの光の透過率が40%以下である
ことを特徴とする透明遮熱調光材。
【請求項2】
外的刺激が電気的刺激であることを特徴とする請求項1記載の透明遮熱調光材。

【公開番号】特開2011−34116(P2011−34116A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250021(P2010−250021)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2005−284641(P2005−284641)の分割
【原出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】