説明

透明電波吸収体用のFSSにおいて、導電性素子の寸法と導電性素子間の隙間の寸法を定める方法および電波吸収体

【課題】透明で目立ちにくいFSSパターンを得るための、導電性素子の寸法およびその隙間の寸法を定める方法を提供する。
【解決手段】透明電波吸収体用のFSSにおいて、導電性素子の寸法Lおよび導電性素子間の隙間の寸法gを定める方法であって、(I)あるFSSパターンの前記一つの方向に沿った一次元配列を、空間周波数fに対して、コントラストの逆数として数値化する工程と、(II)コントラスト感度関数CSFを用いて、(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度を算出する工程と、(III)寸法gを横軸とし、寸法Lを縦軸とした二次元座標上に、同一の輝度LLefのプロット同士を結んだ限界輝度線Aを示したマップを作成する工程と、(IV)マップから、寸法Lおよび寸法gを定める工程と、を有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電波吸収体に関し、特に、透明電波吸収体のFSSの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線技術の著しい進展は、同時に、無線システムにおいて、干渉や混信などの電波障害を引き起こす可能性を高める結果となっている。例えば、物品に備えられたRFIDタグをリーダライターと呼ばれる無線機器で認識する、UHF帯のRFIDシステムにおいては、リーダライターの識別ゾーンにおける電波障害が普及を妨げる大きな要因となっている。
【0003】
このような無線システムの識別ゾーンにおける干渉や混信等の電波障害を防止するため、透明電波吸収体の使用が提案されている。
【0004】
一般に、透明電波吸収体は、透明吸収層と、該透明吸収層から所定の距離(例えば波長の1/4)だけ離間して設置された透明反射層とで構成される。最近の例では、両層の離間距離を狭めるため、透明吸収層は、透明基板にFSS(Frequency Selective Surface)と呼ばれる周波数選択部材を設置することにより構成される。FSSは、透明導電性素子の繰り返し配列パターンを有する。一方、透明反射層は、透明基板に透明反射膜を設置することにより構成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の構成からも明らかなように、従来の透明電波吸収体は、全体として「透明」な状態となるように構成される。しかしながら、実際に透明電波吸収体を視認してみると、FSSの透明導電性素子のパターン(以下、単に「FSSパターン」と称する)のみが目立って見えることが確認され、すなわち透明電波吸収体は、完全な「透明」ではない。
【0006】
このような問題が生じるのは、従来のFSSでは、FSSパターンの透明性が可視光透過率にのみ着目して設計され、構成されているためである。人間の目は、透過率の小さな差異に対しても感度を有し、そのため、透明電波吸収体の中で、「透明」なFSSパターンが目立って見えてしまう。
【0007】
このようなFSSパターンの際だった視認性は、透明電波吸収体の見栄えを悪くし、その美観を損ねる原因となっている。
【0008】
しかしながら、本願発明者らの知る限りにおいて、「透明で目立たない」FSSパターンを有する透明電波吸収体は、これまでのところ報告されていない。そして、これには、FSSパターンに対して、「透明で目立たない」という状態を示す明確な指標が存在しないことが起因しているものと考えられる。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、透明で目立ちにくいFSSパターンを得るための、導電性素子の寸法およびその隙間の寸法を定める方法、ならびにFSSパターンが目立ちにくく、見栄えが良い透明電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、透明基板上に配置された導電性素子の二次元繰り返しパターンを有する透明電波吸収体用のFSSにおいて、一つの方向における導電性素子の寸法Lおよび導電性素子間の隙間の寸法gを定める方法であって、
当該方法は、
(I)あるFSSパターンの前記一つの方向に沿った一次元配列を、空間周波数fに対して、コントラストの逆数として数値化する工程であって、
(I−1)視距離d、前記隙間の部分の透過率Ti、前記導電性素子の透過率Tcを固定値として、前記FSSパターンの一次元配列から、コントラスト情報Gfを得るステップ、
(I−2)前記コントラスト情報Gfを、フーリエ変換処理し、スペクトル情報Sfを得るステップ、
(I−3)前記スペクトル情報Sfに対して、以下の式(1)で表されるMTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得するステップ、および
【0011】
【数1】

(I−4)前記MTF応答信号を逆数化することにより、空間周波数fに対するRCプロット群を得るステップ、
を有する工程と、
(II)視野角をw、輝度をLkとしたとき、以下の式(2)で表されるコントラスト感度関数CSFを用いて、
【0012】
【数2】

(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度を算出する工程であって、
(II−1)視野角wを固定値として、RCプロット群を構成する各プロット毎に、限界輝度LLを算出するステップ、および
(II−2)算出された各輝度LLを用いて、以下の式(3)
【0013】
【数3】

から、実効限界輝度LLefを算出するステップ、
を有する工程と、
(III)前記隙間の寸法gを横軸とし、前記導電性素子の寸法Lを縦軸とした二次元座標上に、同一の輝度LLefのプロット同士を結んだ少なくとも一つの限界輝度線Aを示したマップを作成する工程であって、
前記工程(I)、工程(II)を、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gが異なる各種FSSパターンについて実施し、これにより、前記マップが作成される工程と、
(IV)前記マップから、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gを定める工程であって、
(IV−1)前記マップ上に、前記透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pを表示するステップ、
(IV−2)前記限界輝度線Aおよび前記範囲Pで囲まれた領域のうち、前記限界輝度線Aよりも左側の領域を選定領域として定めるステップ、および
(IV−3)得られた少なくとも一つの前記選定領域に含まれるように、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gを定めるステップ、
を有する工程と、
を有することを特徴とする方法が提供される。
【0014】
ここで、本発明による方法において、前記FSSパターンの一次元配列から、コントラスト情報Gfを得るステップは、
前記視距離dから、前記FSSパターンの一次元配列を、角度で規定されたFSSパターンGaに変換するステップと、
前記隙間の部分の透過率Tiおよび前記導電性素子の透過率Tcから、以下の式(4)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定するステップと、
【0015】
【数4】

前記FSSパターンGaに、前記マイケルソンコントラスト値MCを乗じるステップと、
により算出されても良い。
【0016】
また、前記マイケルソンコントラスト値MCは、0.08〜0.15の範囲であっても良い。
【0017】
また本発明による方法において、前記選定領域は、前記隙間の寸法gがg≧0.05mmを満たす領域にあっても良い。
【0018】
また本発明による方法において、前記透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pは、前記透明電波吸収体の吸収量が10dB以上となるときのFSSパターンの範囲を含んでも良い。
【0019】
また本発明による方法において、前記隙間の部分の透過率Tiは、0.85〜0.90の範囲であり、前記導電性素子の透過率Tcは、0.65〜0.82の範囲であっても良い。
【0020】
また本発明による方法において、前記視距離dは、500mm〜1500mmの範囲であっても良い。
【0021】
また本発明による方法において、前記視野角wは、20゜〜30゜の範囲であっても良い。
【0022】
また本発明による方法において、前記限界輝度線Aは、実効限界輝度LLefが100cd/m以上の場合の限界輝度線であっても良い。
【0023】
また本発明による方法において、前記FSSパターンは、一辺の長さがLの導電性素子と、幅gを有するスリットとの二次元繰り返しパターンで構成されても良い。
【0024】
あるいは、本発明による方法において、前記FSSパターンは、一辺の長さがLの導電性素子と、幅がDの中間部分との二次元繰り返しパターンで構成され、
前記中間部分は、それぞれが幅gを有する2本のスリットと、該2本のスリットの間に挟まれた第2の導電性素子とで構成され、
前記工程(I)〜(IV)において、前記導電性素子の一辺の長さLと前記中間部分の幅Dとの比(L/D)を固定値kとしたとき、第2の導電性素子の幅Mを、
M=L/k−2g
で求めて、同様の操作が行われても良い。
【0025】
また本発明による方法において、前記導電性素子は、矩形状であり、
前記一つの方向に垂直な別の方向に沿った一次元配列に対して、前記工程(I)〜(IV)が繰り返されても良い。
【0026】
あるいは、前記導電性素子は、正方形状であっても良い。
【0027】
さらに本発明では、FSSパターンと呼ばれる、透明基板上に配置された導電性素子の二次元繰り返しパターンを有するFSSを備える透明電波吸収体であって、
前記FSSパターンは、以下の(I)〜(III)に示す評価手法により判断した場合、(IV)に示す判断基準を満たすことを特徴とする透明電波吸収体が提供される:
(評価手法)
(I)前記FSSパターンの一つの次元における配列を、導電性素子の寸法をL、前記導電性素子間の隙間の寸法をg、視距離d=500mmとして、角度で規定されたFSSパターンGaに変換し、
前記隙間の部分の透過率Tiおよび前記導電性素子の透過率Tcから、以下の式(5)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定し、
【0028】
【数5】

前記FSSパターンGaに、前記マイケルソンコントラスト値MCを乗じ、
これにより、前記FSSパターンの前記一つの次元における配列から得られるコントラスト情報Gfを算出し、
前記コントラスト情報Gfをフーリエ変換処理した後、得られたスペクトル情報Sfに対して、以下の式(6)で表されるMTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得し、
【0029】
【数6】

さらに得られた前記MTF応答信号を逆数化することにより、前記FSSパターンについての、空間周波数fに対するRCプロット群を得る。
(II)視野角をwとし、輝度をLkとしたとき、以下の式(7)で表されるコントラスト感度関数CSFを用いて、
【0030】
【数7】

視野角w=20゜として、(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度LLを算出する;この際には、
RCプロット群を構成する各プロット毎に限界輝度LLを算出し、
算出された各限界輝度LLを用いて、以下の式(8)
【0031】
【数8】

から、実効限界輝度LLefを算出する。
(III)同様の評価を、前記一つの次元と直交する別の次元について実施する。
(IV)得られた両次元における実効限界輝度LLefが、いずれも判断基準LLef≧1000cd/mを満足するかどうかを評価する。
【0032】
さらに本発明では、透明基板上に、所定方向において所定の長さLおよび間隔gをもって設けられる複数の導電性素子を備えた電磁波吸収体であって、
前記長さLと前記間隔gは、前記長さLを縦軸にし、前記間隔gを横軸とした座標において、
所望の電磁波吸収の下限値を示す下限線と、
所望の電磁波吸収の上限値を示す上限線と、
所望の限界輝度値を結ぶ限界輝度線と、
により囲まれた範囲内の値であることを特徴とする電磁波吸収体が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、透明で目立ちにくいFSSパターンを得るための、導電性素子の寸法およびその隙間の寸法を定める方法、ならびにFSSパターンが目立ちにくく、見栄えが良い透明電波吸収体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
まず最初に、本発明の特徴をより良く理解するため、従来の透明電波吸収体の構成について説明する。図1には、従来の透明電波吸収体の断面の一例を示す。また、図2には、従来の透明電波吸収体における吸収層の上面図の一例を示す。なお、両図において、いくつかの部材の寸法は、誇張して示されており、このため、これらの図は、実際のスケールには対応していないことに留意する必要がある。
【0035】
従来の透明電波吸収体100は、吸収層110と、反射層140と、両者の間に空間160を形成するためのスペーサ170とで構成される。
【0036】
吸収層110は、第1の透明基板120上にFSS(周波数選択膜)125を配置することにより構成される。なお、図1の例では、FSS125の上部に、さらに透明保護層135が設置されているが、この透明保護層135の設置は任意である。第1の透明基板120(および透明保護層135)は、例えば、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の透明材料で構成される。
【0037】
一方、反射層140は、第2の透明基板150と、その一方の表面に配置された透明反射膜145とにより構成される。第2の透明基板150は、例えば、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の透明材料で構成される。透明反射膜145は、例えば、透明金属薄膜と透明酸化物薄膜とを繰り返し積層することにより構成される。透明金属薄膜には、例えば、銀が使用され、透明酸化物薄膜には、例えば、酸化亜鉛、酸化インジウム等が使用される。
【0038】
FSS125は、図2に示すように、第1の透明基板120上に、導電性素子126の規則パターン128を配置することにより構成される。本願では、このような導電性素子126の規則パターン128を、以降「FSSパターン」128と称する。この図の例では、導電性素子126は、一辺の長さがLの正方形の形状を有し、各導電性素子126が縦方向(X方向)と横方向(Y方向)に、繰り返し(5回)配置されることにより、導電性素子126の規則パターン128が形成されている。なお、各導電性素子126の周囲は、幅がgの寸法を有する隙間130で囲まれている。導電性素子126は、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)等の透明導電性材料で構成される。
【0039】
このような各透明部材を組み合わせて構成される透明電波吸収体100は、全体としても「透明」である。しかしながら、この「透明」な状態は、可視光に対する透過率が高いという点で「透明」であるに過ぎず、人間の目の知覚性に対しては、「透明」ではない。すなわち、前述のように構成された電波吸収体100を実際に人間が視認した場合、電波吸収体と人間の間の距離(以下、「視距離」という)、電波吸収体が視認される角度(以下、「視野角」という)、環境の照度等の条件によっては、電波吸収体100に含まれるFSSパターン128が目立って見えるようになる。これは、人間の目は、小さな透過率の差異を知覚する能力があり、このため、FSSパターン128の導電性素子の部分の透過率と隙間部分の透過率の違いを識別してしまうためである。
【0040】
また、このように透明電波吸収体100の中で、FSSパターン128が目立って見えてしまうと、透明電波吸収体100の見栄えが悪くなり、その美観が損なわれてしまう。
【0041】
従って、透明電波吸収体の美観を維持するためには、例えば視距離、視野角、環境の照度等の条件に左右されず、その設置される環境において、常に「透明で目立たない」FSSパターンを形成する必要がある。
【0042】
しかしながら、本願発明者らの知る限りにおいて、FSSパターンが「透明で目立たない」ことを表す指標、換言すれば、「目立つFSSパター」/「目立たないFSSパターン」を識別することのできる指標は存在しない。このため、現状では、「透明で目立たない」FSSパターンを設計し、これを形成することは、不可能な状況となっている。
【0043】
本願発明者らは、このような問題の下、鋭意研究開発を推進した結果、後述するように人の知覚能力をベースとした、透明でありながら目立つFSSパターンと、透明で目立たないFSSパターンとを識別する指標を見出した。またそのような指標を用いることにより、透明電波吸収体用の、透明で目立たないFSSパターンを得ることができることを見出した。
【0044】
一般に、あるパターンが本来有するコントラストの知覚性は、そのパターンまでの視距離dに応じて変化する。これは、視距離dによってそのパターンの空間周波数fが変化するためである。図3に、この空間周波数 f の概念を示す。この図の例では、スクリーン1上に2周期の縞模様パターンが描かれており、これが人間の目2の網膜上に結像されている。空間周波数は、この網膜上の単位角度(1°)あたりの繰り返しの数であり、この図の場合のfは、2(サイクル/°)である。この角度は視距離に反比例して変化するため、それに応じて空間周波数も変化する。人間の目が細かい縞模様を識別できないのは、この空間周波数に対する応答を有しており、高い空間周波数のコントラストが著しく低下するためであり、スクリーン上の縞模様パターンが同じでも、視距離によってコントラストが変化して知覚されることに留意する必要がある。
【0045】
このような空間周波数fに対する人間の目の応答は、MTF(Modulation transfer function)と呼ばれる関数によりモデル化できることが知られており(B.Chitprasert,K.R.Rao,"Human Visual Weighted Progressive Image Transmission",IEEE Trans. on Comm.vol.38,No.7,July,1990:非特許文献1)、あるパターンのコントラストを数値化できる。
【0046】
また、そのようなコントラストパターンが網膜に結像したとき、そのパターンを識別できるか否かのパターン知覚性も、周波数特性を有しているが、この周波数特性は、周囲の輝度によって変化し、輝度が高いほど、識別し得る感度は、高くなることが知られている。また、そのような輝度と空間周波数による知覚可能/不可能の閾値は、後述するように、コントラスト感度関数CSFと呼ばれる関数により、数値化することができることが知られている。
【0047】
本願発明者らは、以上のようなパターンの知覚性に関する2つの技術を組み合わせることにより、特定の条件において、対象とするFSSパターンが人間の目で知覚可能であるか、知覚不可能であるかを判断することができることを見出した。
【0048】
すなわち、本発明では、FSSパターンの知覚可能/不可能を判断する指標に基づいて、FSSパターンの導電性素子の長さLおよび導電性素子間の隙間gの寸法を定めることが可能な方法が提供され、これにより、「透明で目立たない」FSSパターンを提供することができる。
【0049】
以下、本発明による、そのようなFSSパターンの導電性素子の長さLおよび導電性素子間の隙間の寸法gを定める方法について説明する。図4には、本発明による方法のフローチャートを示す。また、図5には、そのような方法が適用され得る、本発明による透明電波吸収体の吸収層の一例の上面図を示す。なお、本発明による透明電波吸収体の吸収層は、基本的に図2に示した、従来の吸収層110と同様の構成を有する。従って、図5において、図2の部材と対応する部材には、図2の参照符号に「N」を付した符号が付されている。例えば、本発明による吸収層は、110Nで表され、本発明によるFSSの導電性素子は、126Nで表され、FSSパターンは、128Nで表されている。導電性素子126Nは、一辺の長さがLの正方形状であり、導電性素子126N間の隙間は、gである。
【0050】
なお、この図5では、導電性素子126Nは、5行×5列で配置されているが、実際のFSS125Nにおいて、導電性素子126Nの配列がより多くの行列で構成されることは、当業者には明らかである。また、図5では、導電性素子126Nは、正方形の形状を有するが、導電性素子126Nは、矩形状であっても良い。
【0051】
図4に示すように、本発明の方法は、(I)あるFSSパターンの一次元配列を、空間周波数fに対して、コントラストの逆数(「RCプロット群」と称する。詳細は、以下参照)として数値化する工程(S100)と、コントラスト感度関数CSFを用いて、工程(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるように、限界輝度LLefを算出する工程(S200)と、(III)隙間gを横軸とし、導電性素子の長さLを縦軸とした二次元座標上に、同一の限界輝度LLefのプロット同士を結んだ少なくとも一つの限界輝度等高線Aを示したマップを作成する工程(S300)と、得られたマップから、導電性素子の長さLおよび導電性素子間の隙間gを定める工程(S400)と、を含む。
【0052】
ここで、工程(I)は、視距離d、透明基板の透過率Ti、導電性素子の透過率Tcを固定値として、FSSパターンの一次元配列から、コントラスト情報Gfを得るステップ(S110)と、得られたコントラスト情報Gfをフーリエ変換処理し、スペクトル情報Sfを得るステップ(S120)と、得られたスペクトル情報Sfに対して、MTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得するステップ(S130)と、得られたMTF応答信号を逆数化することにより、空間周波数fに対するRCプロット群を得るステップ(S140)と、を有する。
【0053】
また、工程(II)は、視野角wを固定値として、RCプロット群を構成する各プロット毎に、限界輝度LLを算出するステップ(S210)と、各限界輝度LLを用いて、実効限界輝度LLefを算出するステップ(S220)と、を有する。
【0054】
また、工程(IV)は、工程(III)で得られたマップ上に、透明電波吸収体が適正に作動する、FSSパターンの範囲Pを表示するステップ(S410)と、限界輝度線Aおよび前記範囲Pで囲まれた領域のうち、限界輝度線Aよりも左側の領域を選定領域として定めるステップ(S420)と、少なくとも一つの選定領域に含まれるように、導電性素子の長さLおよび導電性素子間の隙間gを定めるステップ(S430)と、を有する。
【0055】
以下、各工程について詳しく説明する。
【0056】
(工程I)
(ステップS110)
このステップS110では、あるFSSパターンの一次元配列(例えば、図5のX方向の配列)から、コントラスト情報Gfが得られる。
【0057】
まず最初に、基本パラメータが入力され、FSSパターンが特定される。ここで、特定されるFSSパターンは、一次元配列の情報(例えば、図5のX方向、またはY方向に関する情報)であることに留意する必要がある。
【0058】
基本パラメータには、あるFSSパターンの導電性素子の一つの方向(例えば、X方向)の長さLと隙間の寸法g、導電性素子126Nの透過率Ti、第1の透明基板120Nの透過率Tc、および視距離dが含まれる。例えば、第1の透明基板120NがガラスまたはPETフィルムであり、この上にITO膜が形成されている場合、導電性素子の部分の透過率Tcは、約0.65〜0.82の範囲であり、隙間部の透過率は、約0.85〜0.90の範囲である。一方、視距離dは、例えば500mm〜1500mmの範囲である。
【0059】
例えば、このステップ110は、
(a)視距離dを用いて、以下の式(9)により、FSSパターンの一次元配列情報を、角度で規定されたFSSパターンGaに変換するステップと、
【0060】
【数9】

(b)隙間の透過率Ti、および導電性素子126Nの透過率Tcから、以下の式(10)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定するステップと、
【0061】
【数10】

(c)得られたFSSパターンGaにマイケルソンコントラスト値MCを乗じるステップと、
を有し、これらのステップ(a)〜(c)を経て、コントラスト情報Gfが取得されても良い。
【0062】
(ステップS120)
次に、得られたコントラスト情報Gfがフーリエ変換処理され、スペクトル情報Sfが得られる。
【0063】
図6には、コントラスト情報Gfをフーリエ変換することにより得られた、スペクトル情報Sfの一例を示す。このスペクトル情報Sfは、図5に示すようなFSSパターン128Nにおいて、L=10mmとし、g=0.2mmとし、視距離d=500mmとし、マイケルソンコントラスト値MC=0.1としたときに得られた結果である。
【0064】
(ステップS130)
次に、得られたスペクトル情報Sfに対して、MTF(Modulation Transfer Function)応答を求める処理が行われる。眼球光学系の空間インパルス応答をPSF(Point Spread Function)と呼び、PSFをフーリエ変換し、これの絶対値を取ったものがMTFである。MTFは空間周波数fにより、以下の式(11)で表される(非特許文献1)。
【0065】
【数11】

これにより、FSSパターンのMTF応答信号が得られる。図7には、前述の図6に示したスペクトル情報Sfを用いて、FSSパターンのMTF応答を求めた結果を示す。通常の場合、この処理により、図7に示すように、複数のピークを有する応答信号が得られる。
【0066】
(ステップS140)
次に、前述のMTF応答信号が逆数化され、この数値群が空間周波数fに対してプロットされる(これらのプロット群を、以下、「RCプロット群」と称する)。
【0067】
このような処理を経て、特定のFSSパターンの一次元配列情報が、コントラストの逆数を示すRCプロット群として数値化される。
【0068】
(工程II)
次に、コントラスト感度関数CSFを利用して、限界輝度LLefが取得される。ここで、コントラスト感度関数CSFとは、ある輝度レベルのコントラスト刺激に対する、知覚感度の周波数特性を意味する。これは、心理物理実験により、以下のような測定を行って求めるのが一般的である。まず、被験者にその輝度レベルを中心に正弦波状に輝度が変化するコントラスト刺激を与え、輝度レベルや振幅を変化させて知覚可能/不可能の閾値のコントラストを測定し、それの逆数を取る、というものである。(すなわち、コントラスト感度関数CSFは、コントラストの逆数の次元を有する。)
このコントラスト感度関数CSFは、以下の数式でモデル化することができる(B.G.J.Barten,"Evaluation of subjective image quality with the square−root integral method",J.Opt.Spc.Am.A No.10,Oct.1990:非特許文献2参照)。
【0069】
【数12】

ここで、fは、空間周波数(サイクル/゜)、wは、視野角(゜)、Lkは、輝度(cd/m)である。
【0070】
(ステップS210)
まず、ステップS210では、視野角w(゜)を固定値として、輝度Lkを変化させ、前述のRCプロット群に一致するようなコントラスト感度関数CSFが求められる。この操作によって得られる輝度を、「限界輝度」LLと称する。なお視野角wは、例えば、20゜≦w≦30゜の範囲である。
【0071】
図8には、前述のRCプロット群と、輝度Lkを変化させた際に得られるコントラスト感度関数CSFとを同一のグラフ上にプロットしたときの一例を示す。この図において、各パラメータは、以下のように設定した:導電性素子の長さL=10mm、隙間g=0.2mm、視距離d=1000mm、視野角w=20゜、マイケルソンコントラストMC=0.1。
【0072】
図8において、黒丸で示すプロット群は、RCプロット群を示しており、曲線B1〜B4は、各輝度Lkにおけるコントラスト感度関数CSFを示している。この図から、輝度Lkの変化とともに、コントラスト感度関数CSFの軌跡が変化することがわかる。すなわち、RCプロット群のあるRC値に軌跡が一致するようにコントラスト感度関数を設定することができる。
【0073】
ただし、高輝度側での軌跡の変化は飽和していき、1000cd/m以上ではほとんど変化しない。従って、あるRC値(この値は空間周波数によって変わる)以上においては、一致させることはできない。ただしこの事実は、本手法の限界を示すものではなく、むしろ、あらゆる条件においてもパターンを知覚できない根拠を与えるものである。
【0074】
なお実際には、RCプロット群の各点に対して、最近接するコントラスト感度関数CSFが設定され、それにより限界輝度LLが算定される。従って、1つのRCプロット群に対して、限界輝度LLの値は、複数存在し、これらをLLと標記する。また、前述のように、CSFの輝度依存性の飽和によって一致できないRCプロットについては、便宜的にある大きな限界輝度(例えば10000cd/m)を当てはめても実用上問題ない。
【0075】
このような限界輝度LLは、いわゆる最小化問題として再帰的に求めることができ、高輝度側で飽和するCSFの特徴から、手法としては変数の上限と下限を許可するBFGS準ニュートン法が適している。ただし、これに限らず、例えば、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク、シニュレーテッドアニール法、またはParticle Swarm Optimization法など、その他の手法が使用されても良い。
【0076】
(ステップS220)
前述のステップS210では、限界輝度LLが算定される。
【0077】
ここで留意すべきことは、コントラスト感度関数CSFは、正弦波状のコントラスト信号に対する応答を示すものであり、高調波を含む刺激には、直接対応していないことである。例えば、図6のスペクトルから明らかなように、FSSパターンのスペクトル情報Sfは、多くの高調波成分を有しており、このスペクトル情報Sfに基づいて得られたRCプロット群と、コントラスト感度関数CSF関数とは、本来、直接比較することはできない。
【0078】
一方、RCプロット群の高調波スペクトルに拡散したエネルギーは、正弦波状のコントラスト信号の単一周波数スペクトルと同様、コントラストの知覚に影響している。従って、これらのRCプロット群の高調波スペクトルの寄与は、各スペクトルの周波数を有する正弦波コントラスト刺激が並列に入力されて起こると考えて良い。このため、実際の限界輝度LLefは、RCプロット群における各RCプロットの限界輝度LLを以下の式(13)で合成することにより、得ることができる。
【0079】
【数13】

そこで、このステップS220では、上記式(13)を用いて、実際の限界輝度LLef(以下、「実効限界輝度LLef」という)が算定される。なお、実効限界輝度LLefは、対象とするFSSパターンが知覚可能/知覚不可能となる輝度の閾値を示していることに留意する必要がある。
【0080】
(工程III)
(ステップS300)
次に、ステップS300では、前記工程(I)および工程(II)の処理が、導電性素子の長さLおよび前記導電性素子間の隙間gが異なる各種FSSパターンについて実施される。そして、得られた実効限界輝度LLefを用いて、隙間gを横軸とし、導電性素子の長さLを縦軸とした二次元座標上に、同一の実効限界輝度LLefのプロット同士を結んだ少なくとも一つの限界輝度線Aを示したマップが作成される。
【0081】
図9には、工程(I)〜(III)を経て作成されたマップの一例を示す。このマップは、パラメータ条件として、視距離d=1000mm、視野角w=20゜、マイケルソンコントラストMC=0.125を採用したときに得られたものである。導電性素子126N同士の隙間g(mm)は、0.05mmから1.0mmまで変化させた。また、導電性素子126Nの長さL(mm)は、0〜60mmの範囲で変化させた。
【0082】
図9には、2本の限界輝度線A1、A2が示されている。限界輝度線A1は、実効限界輝度LLefの値が100cd/mとなるプロット同士を結ぶことにより得られたものであり、限界輝度線A2は、実効限界輝度LLefの値が1000cd/mとなるプロット同士を結ぶことにより得られたものである。この図に示すように、限界輝度線Aは、通常の場合、右上がりの直線となる。なお、実効限界輝度LLefの値が1000cd/mを超える場合についても、限界輝度線を算出したが、これらの限界輝度線は、1000cd/mの限界輝度線A2とほぼ一致することがわかった。これは前述の通り、コントラスト感度関数の輝度依存性が、1000cd/mでほぼ飽和するためである。このことから、1000cd/mを超える実効限界輝度LLefにおける限界輝度線は、実効限界輝度LLefが1000cd/mのときの限界輝度線で代用しても良いと言える。
【0083】
また、これらの限界輝度線Aの導出の過程から明らかなように、図9において、限界輝度線A1よりも右下の領域は、輝度が100cd/m未満の環境においても、そのようなFSSパターンが、パターンとして知覚されてしまうことを意味している。一方、限界輝度等高線A1よりも左上の領域は、輝度100cd/m以下の環境においては、そのようなFSSパターンが、人の目に知覚されなくなることを示している。
【0084】
同様に、図9において、限界輝度線A2よりも左上の領域は、輝度1000cd/m以下の環境において、そのような導電性素子配置を有するFSSパターンが、知覚することができないことを意味している。ただし、前述のように、この限界輝度線A2は、実効限界輝度LLefが1000cd/mを超える環境にも適用することができるため、限界輝度線A2よりも左上の領域は、実質的に、いかなる輝度においても、人間の目では知覚することができないFSSパターンの領域を表していると言える。
【0085】
(工程IV)
(ステップS410)
次に、ステップS410では、工程(III)で作成されたマップ上に、透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pが描写される。
【0086】
ここで、そのような範囲Pは、例えば、透明電波吸収体100Nにおける吸収量が10dB以上(例えば、吸収量10dBまたは30dB)となるときのFSSパターンの範囲として、描写されても良い。
【0087】
図10には、前述の図9に示したマップ上に、そのような範囲Pを重ねて表示した状態を示す。この図において、2本の破線P1およびP2で挟まれた領域(ハッチ部分)は、透明電波吸収体100Nにおける吸収量が10dB以上となるときのFSSパターンの領域、すなわち範囲Pを表している。このときの上側の破線P1は、以下の式

Y=39.1*X0.55 (X1)

で近似される曲線である。また、下側の破線P2は、以下の式

Y=18.5*X0.45 (X2)

で近似される曲線である。このときの反射層と吸収層の距離は、27.2mm、シート抵抗は、120Ωである。
【0088】
(ステップS420)
次に、前記マップにおいて、限界輝度線Aおよび前記範囲Pで囲まれた領域のうち、限界輝度線Aよりも左側の領域が、「選定領域」SAとして定められる。
【0089】
この「選定領域」SAは、そのような領域に入るようにFSSパターンを構成した場合、
(1)そのようなFSSパターンは、透明電波吸収体の吸収層として十分に使用することができること、および
(2)そのようなFSSパターンは、限界輝度線Aを形成する実効限界輝度LLef未満の輝度では、知覚することができないこと、
を表している。
【0090】
図11を用いて、この「選定領域」SAについて、具体的に説明する。図11は、前述の図10において、横軸を0〜0.4mmの範囲まで、および縦軸を0〜30mmの範囲まで拡大した図を示す。A1、A2、P1、P2等、図中の符号は、前述の図10の場合と同様である。
【0091】
図11において、太線で囲った部分は、実効限界輝度LLef≦100cd/mの輝度における選定領域SA1を示している。すなわち、この選定領域SA1内に含まれる(g,L)組を有するFSSパターンは、100cd/m未満の輝度では、知覚することができない。同様に、図11において、斜線で示した部分は、実効限界輝度LLef≦1000cd/mの輝度における選定領域SA2を示している。従って、この選定領域SA2内に含まれる(g,L)組を有するFSSパターンは、1000cd/m未満の輝度では、知覚することができない。
【0092】
なお、前述の記載の通り、斜線で示した選定領域SA2は、実効限界輝度LLef>1000cd/mの輝度に対しても、選定領域となる。すなわち、この選定領域SA2内に含まれる(g,L)組を有するFSSパターンは、実質的に、いかなる輝度においても視認することはできない。
【0093】
なお、本発明にとって本質的ではないが、選定領域は、さらに隙間g≧gを満たす領域に限定されても良い。ここでgは、例えば、パターン処理技術の最小加工寸法等、外的要因で定まる隙間gの最小値である。
【0094】
図12には、そのような隙間g≧gを条件として加えた場合の、実効限界輝度LLef≦100cd/mの輝度における選定領域SA1'(図の太線内の領域)と、実効限界輝度LLef≦1000cd/mの輝度における選定領域SA2'(図の斜線の領域)を示す。
【0095】
(ステップS430)
次に、ステップS430では、前述の選定領域SAに含まれるように、FSSパターンの導電性素子の長さLおよび隙間gが設定される。前述のように、FSSパターンの構成が選定領域SAに含まれる場合、これは、限界輝度線Aを形成する実効限界輝度LLef未満の輝度では、知覚することができないことを意味する。従って、この操作により、特定の輝度(実効限界輝度)において、透明で目立たないFSSパターンを得ることができる。
【0096】
以上のように、本発明では、図11(または図12)のような選定領域SA(またはSA')を示したマップを使用することにより、特定の輝度(実効限界輝度)において、対象となるFSSパターンが人間の目に知覚されるかどうかを容易に判断することが可能となる。従って、本発明の方法を利用することにより、「透明で目立たない」FSSパターンを容易に設計したり、形成したりすることが可能となる。
【0097】
前述の説明では、工程(III)において、横軸が導電性素子間の隙間gで表され、縦軸が導電性素子の長さLで表される二次元座標上に、マップが形成される例について説明した。しかしながら、工程(III)で作成される二次元座標は、縦軸が導電性素子間の隙間gで表され、横軸が導電性素子の長さLで表されても良い。この場合、工程(IV)で定められる選定領域SAは、範囲Pと限界輝度線Aで囲まれた領域のうち、限界輝度線Aよりも下側の領域となる。
【0098】
また、前述の記載では、図5に示すような導電性素子126Nの繰り返し配列を有するFSSパターン128Nを例に、透明で目立たないFSSパターン128Nが得られる導電性素子の長さLと、導電性素子間の隙間gについて説明した。しかしながら、本発明の方法は、図5に示した繰り返し配列以外の配列にも適用することができる。
【0099】
図13には、図5とは異なる導電性素子の繰り返し配列を有するFSSパターン228Nを示す。この図の例では、各導電性素子226Nは、2本のスリット221Nを含む中間部分224Nによって離間されており、中間部分224Nは、2本のスリット221Nの間に、別の導電性素子229Nを含む。導電性素子226Nの長さは、Lであり、スリット221Nの幅は、gであり、中間部分224Nの長さは、Dである(従って、別の導電性素子229Nの短辺の幅は、D−2gである)。
【0100】
このような繰り返し配列を有するFSSパターン228Nも、前述のFSSパターン128Nと同様な手順で評価を行うことができる。ただし、別の導電性素子229Nの短辺の長さを、Lとgを使って表す必要がある。ここでは長さの比L/Dを3に固定することによって、229Nの短辺の長さは、L/3−2gで求められる。この配列情報を用いて、FSSパターン128Nと同様に、角度で規定されたパターン情報が得られ、コントラスト情報、スペクトル情報が同様な手法で得ることができ、同様な評価を行うことができる。
【0101】
このアプローチが、他の繰り返し配列を有するFSSパターンにも適用可能なことは、当業者には容易に理解できる。例えば、長さの比L/Dは、3でなくても良い。また、離間するスリットの本数は、3本以上であっても良い。すなわち、本発明では、FSSパターンの形状要素が、パラメータ(L,g)を用いて一意に決定され、スペクトル情報Sfが求められれば、同様な評価を行うことができる。さらに、本手法のパラメータ空間の次元(すなわちパラメータの数)は、2に限定されるものではなく、これは3以上であっても良い。
【0102】
なお、前述のような本発明による方法を利用した解析は、FSSパターンの一次元配列に着目して実施される。従って、実際のFSSパターンの設計の際には、前述の各工程が、別の方向(例えば図5のY方向)におけるFSSパターンの一次元配列に対しても実施される。そして、両方の一次元配列で得られた解析結果から、最終的に、透明で目立たないFSSパターンの二次元配列(すなわち、導電性素子の長さ、および隙間の幅)が定められる。ただし、各導電性素子126Nが正方形状であり、導電性素子間の隙間130Nが横方向(図5のX方向)と縦方向(図5のY方向)で等しい場合、一方の解析を省略しても良いことは、当業者には明らかであろう。
【0103】
(透明電波吸収体)
本発明の別の態様では、透明で目立たないFSSパターンを有する吸収層を備える透明電波吸収体が提供される。
【0104】
図14には、本発明による透明電波吸収体の模式的な断面図を示す。なお、本発明による電波吸収体は、基本的に図1に示した、従来の吸収層110と同様の構成を有する。従って、図14において、図1の部材と対応する部材には、図1の参照符号に「N」を付した符号が付されている。例えば、本発明による電波吸収体は、100Nで表され、本発明による吸収層は、110Nで表され、反射層は、140Nで表され、スペーサは、170Nで表されている。なお、本発明による透明電波吸収体100Nでは、FSS125Nの導電性素子の配置パターンが、透明で目立たないという特徴を有する点が、従来の透明電波吸収体100とは異なっている。
【0105】
なお、このような本発明による透明電波吸収体100Nが、透明で目立たないFSSパターンを有することは、以下の評価方法により、確認することができる。
【0106】
(評価方法)
(A−I)FSSパターンの一つの次元(方向)における配列Grを、視距離d=500mmとして、以下の式(14)により、角度で規定されたFSSパターンGaに変換する。
【0107】
【数14】

ここで、対象次元における導電性素子の寸法をLとし、導電性素子間の隙間の寸法をgとする。
【0108】
次に、隙間の部分の透過率Tiおよび導電性素子の透過率Tcから、以下の式(15)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定する。
【0109】
【数15】

次に、前記FSSパターンGaに、前記マイケルソンコントラスト値MCを乗じ、FSSパターンの対象次元における配列から得られるコントラスト情報Gfを算出する。
【0110】
さらに、このコントラスト情報Gfをフーリエ変換処理した後、得られたスペクトル情報Sfに対して、以下の式(16)で表されるMTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得する。
【0111】
【数16】

さらに得られたMTF応答信号を逆数化することにより、FSSパターンについての、空間周波数fに対するRCプロット群を得る。
(A−II)視野角をwとし、輝度をLkとしたとき、以下の式(17)で表されるコントラスト感度関数CSFを用いて、
【0112】
【数17】

視野角w=20゜として、(A−I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度LLefを算出する。この際には、RCプロット群を構成する各プロット毎に限界輝度LLを算出し、算出された各限界輝度LLを用いて、以下の式(18)
から、実効限界輝度LLefを算出する。
【0113】
【数18】

(A−III)同様の評価を、前記一つの次元と直交する別の次元についても実施する。さらに、両次元において得られた実効限界輝度LLefが、いずれも判断基準LLef≧1000cd/mを満足するかどうかを評価する。
【0114】
その結果、いずれの実効限界輝度LLefも判断基準を満足する場合、1000cd/m以下の輝度の環境では、知覚されないFSSパターン、さらには実質的にいかなる輝度でも知覚されないFSSパターンが形成されていると判断できる。
【0115】
このように、本発明では、透明で目立たないFSSパターンを有する透明電波吸収体100Nが得られ、これにより透明電波吸収体100Nの美感が損なわれることが防止される。
【実施例】
【0116】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0117】
(実施例1)
以下の1〜3の処理により、実際に、FSSパターンの選定領域を算定した。
【0118】
(1.限界輝度線を示したマップの作成)
前述の本発明による方法の工程(I)〜(III)を自動計算することの可能なコンピュータプログラムを用いて、限界輝度線のマップを作成した。図15には、そのようなマップを作成する際に使用したコンピュータプログラムの計算チャートを示す。以下、このコンピュータプログラムチャートに沿って、限界輝度線のマップの作成方法を説明する。
【0119】
まず、ステップS1510では、計算のためのパラメータが入力される。具体的なパラメータは、FSSパターンにおける導電性素子の寸法Lと導電性素子間の隙間の寸法gの組み合わせの初期値(g,L)、マイケルソンコントラスト値MC、視距離d、および視野角wである。この他、輝度の初期値として、ある値LL(例えば、LL=1cd/m)が入力される。
【0120】
本実施例では、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=500mm、視野角w=20゜とした。また、FSSパターンの形態として、図5のパターンを採用し、(g,L)=(0.05mm,6mm)とした。
【0121】
次に、ステップS1520では、前述の入力パラメータのうち、視野角wおよびLLを用いて、コントラスト感度関数CSFの初期値が計算される。
【0122】
次に、ステップS1530では、前述の式(9)により、長さに関するパターン情報Grが角度に関するパターン情報Gaに変換される。
【0123】
次に、ステップS1540では、入力されたマイケルソンコントラスト値MCを用いて、パターン情報Gaのコントラスト信号の振幅(すなわち、コントラスト情報Gf)が計算される。
【0124】
次に、ステップS1550では、得られたコントラスト情報Gfがフーリエ変換処理され、スペクトル情報Sfが計算される。
【0125】
次に、ステップS1560では、スペクトル情報Sfに対するMTF応答信号が計算される。
【0126】
次に、ステップS1570では、得られたMTF応答信号の逆数が計算され、RCプロット群が取得される。
【0127】
次に、ステップS1580〜ステップS1610では、得られたRCプロット群の各スペクトルiに対して、その周波数fでコントラスト感度関数CSFが RCと最近接するように輝度が調整され、結果的に限界輝度LLが計算される。この際には、まず1番目のスペクトルのRC値(RC)に対するコントラスト感度関数との差が最小となるように輝度が調整され(ステップS1580)、その時の限界輝度LLが計算される(ステップS1590)。同様に、2番目以降のスペクトルのRC値(RC〜RC)とコントラスト感度関数との差が最小となるように輝度が調整され、そのときの限界輝度LL〜LLが計算される。
【0128】
その後、RCプロット群の全てのスペクトルに対して限界輝度が取得されると、ステップS1610の判断ステップにより、処理は、ステップS1620に進む。ステップS1620では、前のステップで取得された各限界輝度LLから、前述の式(13)を用いて、実効限界輝度LLefが計算される。
【0129】
このような処理を、各(g,L)組について実施した。本実施例では、gの範囲は、0.05mm<g≦1.0mmとし、Lの範囲は、6mm<L≦60mmとした。
【0130】
(2.マップの作成)
次に、横軸を隙間g、縦軸を導電性素子の寸法Lとした座標において、実効限界輝度LLefが等しくなる線を結び、限界輝度線Aを示したマップを作成した。なお、限界輝度線は、実効限界輝度LLefが100cd/mの場合、および1000cd/mの場合について示した。
【0131】
(3.選定領域の算定)
次に、前述のマップに、透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pを表示し、選定領域SAを求めた。なお範囲Pは、透明電波吸収体の吸収量が10dB以上となる領域とした。
【0132】
図16には、本実施例1において得られた選定領域SAを示す。図16において、A1は、実効限界輝度LLefが100cd/mの場合の限界輝度線であり、A2は、実効限界輝度LLefが1000cd/mの場合の限界輝度線である。また、P1とP2の間の領域が範囲Pに相当する。従って、太枠で囲まれた領域は、実効限界輝度LLefが100cd/mの環境における選定領域SA1に相当し、この領域に含まれるFSSパターンは、輝度が100cd/m以下の環境において、知覚することはできない。また、斜線で囲まれた領域は、実効限界輝度LLefが1000cd/mの環境における選定領域SA2に相当し、FSSパターンがこの領域に含まれる場合、実質的にいかなる輝度においても、そのFSSパターンは、知覚することはできないと言える。
【0133】
(実施例2)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=500mm、視野角w=30゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0134】
図17には、本実施例2において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例2では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0135】
(実施例3)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0136】
図18には、本実施例3において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例3では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0137】
(実施例4)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0138】
図19には、本実施例4において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例4では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0139】
(実施例5)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0140】
図20には、本実施例5において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例5では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0141】
(実施例6)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0142】
前述の図12には、本実施例6において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例6では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0143】
(実施例7)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1000mm、視野角w=30゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0144】
図21には、本実施例7において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例7では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0145】
(実施例8)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0146】
図22には、本実施例8において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例8では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0147】
(実施例9)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0148】
図23には、本実施例9において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例9では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0149】
(実施例10)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0150】
図24には、本実施例10において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例10では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0151】
(実施例11)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0152】
図25には、本実施例11において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例11では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0153】
(実施例12)
実施例1と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、FSSパターンの形態として、図13のパターンを採用した。このため、導電性素子の一辺の長さLと中間部分の幅Dの比(L/D)を3に固定し、第2の導電性素子の幅Mを、
M=L/3−2g
の式から求めて、前述と同様の処理を行った。また初期値(g,L)=(0.05mm,9mm)とした。また、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例1と同じである。
【0154】
図26には、本実施例12において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。なお、この実施例12では、g=0.05mmとし、g≧gの条件を加えて、選定領域を算定した。
【0155】
このとき、上側の破線P1は、以下の式で近似される曲線である:

Y=62.0*X0.45 (Y1)

また、下側の破線P2は、以下の式で近似される曲線である:

Y=34.0*X0.46 (Y2)

また、反射層と吸収層の距離は、25.0mmとし、シート抵抗は、100Ωとした。
【0156】
(実施例13)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=500mm、視野角w=30゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0157】
図27には、本実施例13において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0158】
(実施例14)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0159】
図28には、本実施例14において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0160】
(実施例15)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.1、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0161】
図29には、本実施例15において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0162】
(実施例16)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0163】
図30には、本実施例16において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0164】
(実施例17)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0165】
図31には、本実施例17において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0166】
(実施例18)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1000mm、視野角w=30゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0167】
図32には、本実施例18において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0168】
(実施例19)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.125、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0169】
図33には、本実施例19において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0170】
(実施例20)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0171】
図34には、本実施例20において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0172】
(実施例21)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=1000mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0173】
図35には、本実施例21において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0174】
(実施例22)
実施例12と同様の処理により、別の条件におけるFSSパターンの選定領域を算定した。ただし、この実施例では、入力パラメータとして、マイケルソンコントラスト値MC=0.15、視距離d=1500mm、視野角w=20゜を採用した。その他の条件は、実施例12と同じである。
【0175】
図36には、本実施例22において得られた選定領域SA1およびSA2を示す。
【0176】
表1には、各実施例における選定領域を得る際に使用した、FSSパターンの種類(図5または図13)、パラメータの値、および得られた図面をまとめて示した。
【0177】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、透明電波吸収体、特に透明電波吸収体のFSSの構造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】従来の透明電波吸収体の模式的な断面図の一例である。
【図2】従来の透明電波吸収体の吸収層の上面図の一例である。
【図3】空間周波数fを説明する概念図である。
【図4】本発明による透明で目立たないFSSパターンを得るための方法の一例を示したフロー図である。
【図5】本発明による電波吸収体の吸収層の上面図の一例である。
【図6】コントラスト情報Gfのフーリエ変換後に得られるスペクトル情報Sfの一例を示した図である。
【図7】図6に示したスペクトル情報Sfに基づいて、FSSパターンのMTF応答を求めた結果を示した図である。
【図8】一つのRCプロット群と、各種輝度におけるコントラスト感度関数CSFとを重ねて示したグラフである。
【図9】限界輝度線Aを示したマップの一例である。
【図10】図9のマップに、電波吸収体の吸収量が10dBとなる領域を重ねて示した図である。
【図11】図10の横軸および縦軸を拡大したグラフである。
【図12】図10のグラフにおいて、g≧gの条件を加えた選定領域を示した図である。
【図13】FSSパターンの別の構成を示した上面図である。
【図14】本発明による透明電波吸収体の一例を模式的に示した断面図である。
【図15】実施例1における限界輝度線のマップを作成する際に使用したフローチャートである。
【図16】実施例1において得られた選択領域を示した図である。
【図17】実施例2において得られた選択領域を示した図である。
【図18】実施例3において得られた選択領域を示した図である。
【図19】実施例4において得られた選択領域を示した図である。
【図20】実施例5において得られた選択領域を示した図である。
【図21】実施例7において得られた選択領域を示した図である。
【図22】実施例8において得られた選択領域を示した図である。
【図23】実施例9において得られた選択領域を示した図である。
【図24】実施例10において得られた選択領域を示した図である。
【図25】実施例11において得られた選択領域を示した図である。
【図26】実施例12において得られた選択領域を示した図である。
【図27】実施例13において得られた選択領域を示した図である。
【図28】実施例14において得られた選択領域を示した図である。
【図29】実施例15において得られた選択領域を示した図である。
【図30】実施例16において得られた選択領域を示した図である。
【図31】実施例17において得られた選択領域を示した図である。
【図32】実施例18において得られた選択領域を示した図である。
【図33】実施例19において得られた選択領域を示した図である。
【図34】実施例20において得られた選択領域を示した図である。
【図35】実施例21において得られた選択領域を示した図である。
【図36】実施例22において得られた選択領域を示した図である。
【符号の説明】
【0180】
1 スクリーン
2 人間の目
100 従来の透明電波吸収体
100N 本発明の透明電波吸収体
110、110N 吸収層
120、120N 第1の透明基板
125、125N FSS
126、126N 導電性素子
128、128N FSSパターン
130、130N 隙間
135 保護層
140 反射層
145 反射膜
150 第2の透明基板
160 空間
170 スペーサ
221N スリット
224N 中間部分
226N 導電性素子
228N FSSパターン
229N 別の導電性素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に配置された導電性素子の二次元繰り返しパターンを有する透明電波吸収体用のFSSにおいて、一つの方向における導電性素子の寸法Lおよび導電性素子間の隙間の寸法gを定める方法であって、
当該方法は、
(I)あるFSSパターンの前記一つの方向に沿った一次元配列を、空間周波数fに対して、コントラストの逆数として数値化する工程であって、
(I−1)視距離d、前記隙間の部分の透過率Ti、前記導電性素子の透過率Tcを固定値として、前記FSSパターンの一次元配列から、コントラスト情報Gfを得るステップ、
(I−2)前記コントラスト情報Gfを、フーリエ変換処理し、スペクトル情報Sfを得るステップ、
(I−3)前記スペクトル情報Sfに対して、以下の式(1)で表されるMTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得するステップ、および
【数1】

(I−4)前記MTF応答信号を逆数化することにより、空間周波数fに対するRCプロット群を得るステップ、
を有する工程と、
(II)視野角をw、輝度をLkとしたとき、以下の式(2)で表されるコントラスト感度関数CSFを用いて、
【数2】

(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度を算出する工程であって、
(II−1)視野角wを固定値として、RCプロット群を構成する各プロット毎に、限界輝度LLを算出するステップ、および
(II−2)算出された各輝度LLを用いて、以下の式(3)
【数3】

から、実効限界輝度LLefを算出するステップ、
を有する工程と、
(III)前記隙間の寸法gを横軸とし、前記導電性素子の寸法Lを縦軸とした二次元座標上に、同一の輝度LLefのプロット同士を結んだ少なくとも一つの限界輝度線Aを示したマップを作成する工程であって、
前記工程(I)、工程(II)を、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gが異なる各種FSSパターンについて実施し、これにより、前記マップが作成される工程と、
(IV)前記マップから、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gを定める工程であって、
(IV−1)前記マップ上に、前記透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pを表示するステップ、
(IV−2)前記限界輝度線Aおよび前記範囲Pで囲まれた領域のうち、前記限界輝度線Aよりも左側の領域を選定領域として定めるステップ、および
(IV−3)得られた少なくとも一つの前記選定領域に含まれるように、前記導電性素子の寸法Lおよび前記導電性素子間の隙間の寸法gを定めるステップ、
を有する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記FSSパターンの一次元配列から、コントラスト情報Gfを得るステップは、
前記視距離dから、前記FSSパターンの一次元配列を、角度で規定されたFSSパターンGaに変換するステップと、
前記隙間の部分の透過率Tiおよび前記導電性素子の透過率Tcから、以下の式(4)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定するステップと、
【数4】

前記FSSパターンGaに、前記マイケルソンコントラスト値MCを乗じるステップと、
により算出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイケルソンコントラスト値MCは、0.08〜0.15の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記選定領域は、前記隙間の寸法gがg≧0.05mmを満たす領域にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記透明電波吸収体が適正に作動するFSSパターンの範囲Pは、前記透明電波吸収体の吸収量が10dB以上となるときのFSSパターンの範囲を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記隙間の部分の透過率Tiは、0.85〜0.90の範囲であり、前記導電性素子の透過率Tcは、0.65〜0.82の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記視距離dは、500mm〜1500mmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記視野角wは、20゜〜30゜の範囲であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記限界輝度線Aは、実効限界輝度LLefが100cd/m以上の場合の限界輝度線であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記FSSパターンは、一辺の長さがLの導電性素子と、幅gを有するスリットとの二次元繰り返しパターンで構成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記FSSパターンは、一辺の長さがLの導電性素子と、幅がDの中間部分との二次元繰り返しパターンで構成され、
前記中間部分は、それぞれが幅gを有する2本のスリットと、該2本のスリットの間に挟まれた第2の導電性素子とで構成され、
前記工程(I)〜(IV)において、前記導電性素子の一辺の長さLと前記中間部分の幅Dとの比(L/D)を固定値kとしたとき、第2の導電性素子の幅Mを、
M=L/k−2g
で求めて、同様の操作が行われることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記導電性素子は、矩形状であり、
前記一つの方向に垂直な別の方向に沿った一次元配列に対して、前記工程(I)〜(IV)が繰り返されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記導電性素子は、正方形状であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
透明基板上に配置された導電性素子の二次元繰り返しパターンを有するFSSを備える透明電波吸収体であって、
FSSパターンは、以下の(I)〜(III)に示す評価手法により判断した場合、(IV)に示す判断基準を満たすことを特徴とする透明電波吸収体:
(評価手法)
(I)前記FSSパターンの一つの次元における配列を、導電性素子の寸法をL、前記導電性素子間の隙間の寸法をg、視距離d=500mmとして、角度で規定されたFSSパターンGaに変換し、
前記隙間の部分の透過率Tiおよび前記導電性素子の透過率Tcから、以下の式(5)で表されるマイケルソンコントラスト値MCを算定し、
【数5】

前記FSSパターンGaに、前記マイケルソンコントラスト値MCを乗じ、
これにより、前記FSSパターンの前記一つの次元における配列から得られるコントラスト情報Gfを算出し、
前記コントラスト情報Gfをフーリエ変換処理した後、得られたスペクトル情報Sfに対して、以下の式(6)で表されるMTF応答を求める処理を実施して、MTF応答信号を取得し、
【数6】

さらに得られた前記MTF応答信号を逆数化することにより、前記FSSパターンについての、空間周波数fに対するRCプロット群を得る。
(II)視野角をwとし、輝度をLkとしたとき、以下の式(7)で表されるコントラスト感度関数CSFを用いて、
【数7】

視野角w=20゜として、(I)で得られたRCプロット群に一致するコントラスト感度関数CSFが得られるような限界輝度LLを算出する;この際には、
RCプロット群を構成する各プロット毎に限界輝度LLを算出し、
算出された各限界輝度LLを用いて、以下の式(8)
【数8】

から、実効限界輝度LLefを算出する。
(III)同様の評価を、前記一つの次元と直交する別の次元について実施する。
(IV)得られた両次元における実効限界輝度LLefが、いずれも判断基準LLef≧1000cd/mを満足するかどうかを評価する。
【請求項15】
透明基板上に、所定方向において所定の長さLおよび間隔gをもって設けられる複数の導電性素子を備えた電磁波吸収体であって、
前記長さLと前記間隔gは、前記長さLを縦軸にし、前記間隔gを横軸とした座標において、
所望の電磁波吸収の下限値を示す下限線と、
所望の電磁波吸収の上限値を示す上限線と、
所望の限界輝度値を結ぶ限界輝度線と、
により囲まれた範囲内の値であることを特徴とする電磁波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2010−62471(P2010−62471A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228929(P2008−228929)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】