説明

透湿度・気体透過度測定装置

【課題】透湿度もしくは気体透過度の測定限界値をより上げることができる透湿度・気体透過度測定装置を提供すること。
【解決手段】水蒸気もしくは試験気体が導入される雰囲気チャンバ11と、真空吸引がなされる真空チャンバ12との間に試料膜Saが挟持される。前記真空チャンバ12内には試料膜Saを透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させて圧力変調を実行する円筒体51によるチョッピング手段CHが配置され、前記円筒体51内に圧力検出手段Gが配置される。前記真空チャンバ13内の吸引を続ける状態において、前記チョッピング手段により変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで前記圧力検出手段Gより抽出する同期検波手段が用いられ、これにより前記試料膜Saの透湿度もしくは気体透過度が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薄膜物質の透湿度や薄膜物質のガス透過度などの気体透過度を測定する透湿度・気体透過度測定装置に関し、特に電子部品用保護膜の透湿度やガス透過度を測定するのに好適な、透湿度・気体透過度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子部品技術の発展に伴い、当該電子部品を保護するための保護膜の封止技術も進展している。例えば有機EL素子や有機太陽電池などの薄膜デバイスにおいては、湿度もしくは気体に対して高いバリア性能を発揮する薄膜封止技術が必要であり、またこれを支えるバリア薄膜の定量的な評価法も必要となる。
【0003】
従来における薄膜の透湿度を測定する手段としては、薄膜を透過する水蒸気量を感湿センサーで検出するLyssy法、薄膜を透過する水蒸気量を赤外線センサーで検出するMocon法、CaCl2 などの吸湿剤の重量増加で、水蒸気量を測定するカップ法、Ca金属膜が、水蒸気によって透明化することを利用して水蒸気を検出するCaテスト法などを挙げることができる。
【0004】
しかしながら、従来の前記した測定法においては、前記した有機デバイス等に要求されるきわめて低い透湿度の薄膜に対しては、その測定感度を十分に得ることができない。なお、前記Caテスト法によれば測定感度は得られるものの、定量評価が困難であるという課題があり、また、前記した測定法のいずれにおいても計測に長時間を要し、さらに測定するガス種に制限があるなどの問題も抱えている。
【0005】
特に有機EL素子の劣化防止のための薄膜封止には、10-3〜10-6g/(m2 ・day)程度の透湿度を有する高性能のバリア膜の定量的な評価が必要である。そこで、試料膜を透過した水蒸気量を、例えば電離真空計で圧力変化として検出するようにした透湿度・気体透過度測定装置が提案されており、これは次に示す特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930871号公報
【0007】
前記した電離真空計は、10-10 Pa程度の圧力まで検出可能な高感度の特性を有しているものの真空チャンバ内で発生する脱ガスが背景ノイズとなり、これが透湿度の測定感度を低下させる要因となっている。
【0008】
図9は、前記特許文献1に開示されている透湿度・気体透過度測定装置の基本原理を模式図で示したものである。符号11は水蒸気もしくは試験気体が導入される雰囲気チャンバであり、符号12は内部に圧力検出手段としての真空計Gが配置された真空チャンバである。そして、前記雰囲気チャンバ11と真空チャンバ12との間には試料膜Saが挟持されおり、前記真空チャンバ12内は図示せぬターボ分子ポンプにより、圧力p0で吸引が継続される。
【0009】
図9における符号Pwは雰囲気チャンバ11内の圧力を示し、pおよびVは真空チャンバ12内の圧力および容積を示している。また符号Sは前記したターボ分子ポンプによる排気速度を示し、Fは試料膜Saを透過する放出ガス量、Qは真空チャンバ12内における放出ガス(脱ガス)量を示している。
【0010】
この測定装置においては、真空チャンバ12内を吸引しつつ、試料膜Saを透過する放出ガス量Fによる圧力を、真空チャンバ12内に収容された前記真空計Gにより測定することで、試料膜Saの透湿度もしくは気体透過度を測定することができる。
【0011】
図9に示す測定装置によると、前記した真空チャンバ12内において、また真空計G自身からも放出ガスQが発生するために、この放出ガス量Qと試料膜Saを透過するガス量Fとが比較的透湿度が低いところでほぼ同一となり、これが透湿度もしくは気体透過度を測定するためのガス量Fの検出限界になる。
【0012】
ところで、室温での単位時間あたりの水蒸気透過量は、次に示す数式1のように表すことができる。なお数式1におけるAは、試料膜Saの面積を示し、rは試料膜の透湿度を示している。
【数1】

【0013】
ここで、次に示すような典型的な数値を当てはめて装置の測定限界を計算すると、以下のとおりとなる。すなわち、
1.試料膜の面積A=1.26×10-32
2.真空チャンバ内のガス放出量Q=2.4×10-7J/s
3.ターボ分子ポンプの排気速度S=0.06m3 /s
【0014】
前記した典型的な数値を採用した場合によると、真空チャンバ12内の圧力は、4×10-6Pa程度で限界値となり、これに伴い透湿度の測定は0.1g/(m2 ・day)程度が限界となる。しかしながら、前記した有機デバイス等の保護膜に必要とされる透湿度の測定および評価には、10-3〜10-6g/(m2 ・day)程度までの透湿度の測定を実現させる必要がある。
【0015】
前記したように、10-3〜10-6g/(m2 ・day)程度までの透湿度の定量的な測定を実現させるには、真空チャンバ12内の放出ガス量Qを最低2桁程度下げること、もしくは試料膜Saの面積Aを最低2桁程度大きくする必要がある。しかしながら、図9に示す従来の測定装置においては、真空チャンバ12内の放出ガス量Qを2桁程度下げることは不可能であり、また試料膜Saの面積Aを2桁程度大きくすることについても困難を伴う。
【0016】
すなわち、試料膜Saの面積Aを大きくする場合には、当然ながら測定装置の大型化を伴うことになる。また試料膜Saには測定に際して圧力が加わるために、その面積Aを大きくした場合には圧力により試料膜が破損し、測定が不可能になる。このために現実的には試料膜Saは前記したとおり、φ40(1.26×10-32 )程度のものを使用せざるを得ない。
【0017】
本件出願人は、前記した技術的な問題点を解消するために、前記試料膜Saと圧力検出手段(真空計G)との間に、試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させて圧力変調を実行するチョッピング手段CHと、前記真空チャンバ12内の吸引を続ける状態において、前記チョッピング手段により変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで前記真空計Gより抽出する同期抽出手段とを具備した透湿度・気体透過度測定装置を、特願2009−3422として提案している。
【0018】
図7は、本件出願人が先に提案した透湿度・気体透過度測定装置の基本構成を示すものである。なお、図7においては図9に基づいて説明した各部と同一の機能を果たす部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。この図7に示す構成においては、チョッピング手段CHとして、回転可能に軸支された円盤61が用いられ、当該円盤61には回転方向に複数の開口61aが等間隔に形成されている。そして、前記各開口61aが真空チャンバ容器12の絞り部12cを横切るようにして円盤53が図示せぬモータにより回転駆動されるように構成されている。
【0019】
前記円盤61の回転により開口61aが真空チャンバ容器12の絞り部12cを横切ることによるシャッタ作用により、前記試料膜Saを透過した例えば水蒸気の分子流にチョッピング作用(断続作用)が与えられる。一方、前記チョッピング手段CHにより変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで前記真空計Gより測定値を抽出するヘテロダイン検出を実行し、これにより得られた値に基づいて試料膜Saの透湿度もしくは気体透過度を定量的に得ることができる。
【0020】
図8は、本件出願人が先に提案した図7に示した円盤状のチョッピング手段を用いた測定装置による透湿度の測定下限を示す実測値であり、縦軸に透湿度を横軸に経過時間を示している。これによると透湿度の測定下限は平均化操作なしで、0.5mg/(m2 ・day)程度であり、これが測定限界となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、図7に示した円盤状のチョッピング手段CHを用いた透湿度・気体透過度測定装置における検出感度の上限は、測定装置に付設されるチョッピング手段CHとしての変調用円盤61、および前記円盤61を包囲する真空チャンバ容器12の内壁面の増加に由来する脱ガスの増大が測定時の背景ノイズとなり、これが透湿度等の検出感度に制限を与えることが、発明者らの調査・研究によって見い出されている。
【0022】
この発明は、前記した背景ノイズを低減させるために、脱ガスの発生源であるチョッピング手段の付設に伴う真空チャンバ内の表面積の増大を抑制し、かつ大きな変調圧力を実現することが可能なチョッピング手段を提案するものであり、これにより、透湿度もしくは気体透過度の測定限界値をより上げることができる透湿度・気体透過度測定装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかる透湿度・気体透過度測定装置は、外気から密閉される雰囲気チャンバと、外気から密閉される真空チャンバと、前記雰囲気チャンバと真空チャンバとの間に試料膜を挟持して前記雰囲気チャンバと真空チャンバとを密着固定する固定手段と、前記雰囲気チャンバに接続され水蒸気もしくは試験気体を前記雰囲気チャンバに導入する水蒸気もしくは試験気体の導入手段と、前記雰囲気チャンバと前記真空チャンバとに接続され前記雰囲気チャンバ内と前記真空チャンバ内とをそれぞれ独立に吸引可能な真空発生手段と、前記真空チャンバの内の圧力を検出する圧力検出手段と、前記真空チャンバ内において、前記試料膜と前記圧力検出手段との間に配置され、前記試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させて圧力変調を実行するチョッピング手段と、前記雰囲気チャンバと前記真空チャンバとで前記試料膜を挟持した状態で前記雰囲気チャンバと真空チャンバ内を真空状態とし、前記雰囲気チャンバ内に水蒸気または試験気体を導入して前記真空チャンバ内の吸引を続ける状態において、前記チョッピング手段により変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで前記圧力検出手段より抽出する同期抽出手段とが具備され、前記チョッピング手段は、円筒体により構成されて周側壁に開口が施され、前記円筒体の軸芯が回転可能に支持されると共に、当該円筒体に施された前記開口の回転移動により、前記試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させるように構成され、前記同期抽出手段により抽出された前記圧力検出手段による測定値に基づいて、前記試料膜の透湿度もしくは気体透過度を得ることを特徴とする。
【0024】
この場合、前記圧力検出手段は、前記チョッピング手段を構成する円筒体内に配置されていることが望ましい。また、前記同期抽出手段は、好ましくは、前記チョッピング手段による前記分子流の断続作用に同期して生成されるパルス出力に基づいて抽出指令信号を生成する抽出信号発生手段と、前記圧力検出手段により得られる測定値を前記抽出指令信号の発生タイミングに同期して抽出する乗算手段およびローパスフィルタからなるヘテロダイン検出器とにより構成される。
【発明の効果】
【0025】
前記した構成の測定装置によると、真空チャンバ内において試料膜と圧力検出手段との間にチョッピング手段が配置され、雰囲気チャンバから前記試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させて圧力変調を実行するようになされる。
【0026】
そして、チョッピング手段により変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで、真空チャンバ内の圧力検出手段より抽出することで、真空チャンバに由来するバックグランド圧力(全圧)とは区別した状態で、試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流に基づく圧力を検出(ロックイン検出)することができる。そして、ロックイン検出された圧力値に基づいて、試料膜を透過した水蒸気の透湿度もしくは試験気体の気体透過度を定量的に測定することができる。
【0027】
この場合、前記チョッピング手段は、周側壁に開口が施された円筒体により構成され、前記円筒体の回転による前記開口の回転移動によるシャッタ作用により圧力変調を実行するようになされるので、図7に示した円盤状のチョッピング手段を用いた例に比較すると、チョッピング手段を構成する円筒体内に圧力検出手段としての真空計を配置することができる。この構成により、次に示すような独自の作用効果を得ることができる。
【0028】
(ア)円筒体により構成されたチョッピング手段の採用により、チョッピング手段の表面積を低減させることができる。
(イ)チョッピング手段が小型化されることにより、圧力検出手段としての真空計を配置する真空チャンバ自体が小型化され、真空チャンバの内側面積を大幅に低減させることができる。
(ウ)チョッピング手段部分の構造が単純化されるため、図7に示したような円盤状のチョッピング手段を覆う余分な真空容器部分を不必要にすることができ、真空引きの障害となる隘路がなく、真空ポンプまでのコンダクタンスが大きく改善される。
(エ)構造が簡単であるため、ヒーター等による装置の真空ベークを容易にすることができる。
以上の作用効果が相乗的に作用し、装置検出部の到達圧力特性が大きく改善され、変調圧力測定の障害となる背景ノイズも低減させることができる。これにより透湿度もしくは気体透過度の測定限界値をより上げることができる透湿度・気体透過度測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明にかかる測定装置の全体構成を示した模式図である。
【図2】図1に示す測定装置において用いられるロックイン検出手段の一例を示したブロック図である。
【図3】この発明にかかる測定装置のロックイン検出動作を説明する模式図である。
【図4】チョッピング手段により圧力変調された状態を示す特性線図である。
【図5】この発明にかかる測定装置における透湿度の測定限界値を検証した特性線図である。
【図6】この発明にかかる測定装置におけるチョッピング手段の基本構成を示した模式図である。
【図7】先に出願した測定装置のチョッピング手段における基本構成を示した模式図である。
【図8】図7に示す測定装置による透湿度の測定限界値を検証した特性線図である。
【図9】従来の測定装置の基本構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明にかかる透湿度・気体透過度測定装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1は測定装置の全体構成を模式的に示したものであり、これはチャンバ部1、試験気体導入部2、第1の真空排気系3、第2の真空排気系4に大別することができる。
【0031】
前記チャンバ部1は、チャンバ内が外気から密閉された雰囲気チャンバ容器11、同じくチャンバ内が外気から密閉された真空チャンバ容器12、前記雰囲気チャンバ容器11と真空チャンバ容器12を覆う漏洩防止チャンバ容器13を備えている。そして、前記雰囲気チャンバ容器11と真空チャンバ容器12との間には、試料膜Saを挟持して前記雰囲気チャンバ容器11と真空チャンバ容器12とを密着固定する例えばOリング等を含む固定手段が具備されている。
【0032】
前記真空チャンバ容器12は絞り部12cを介して上下に連通され、第1真空チャンバ12aおよび第2真空チャンバ12bに分けられている。そして、第2真空チャンバ12b内にはチョッピング手段CHを構成する円筒体51が、軸芯に形成された支軸52によって回転可能になされた状態で配置されている。
【0033】
図2にも示されているとおり、前記チョッピング手段CHを構成する円筒体51には、その周側壁に開口51aが施され、前記円筒体51に施された前記開口51aの回転移動により、前記開口51aがシャッタとしての機能を果たすように作用する。これにより、前記試料膜Saを透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流がチョッピング(断続)され、その結果、圧力変調がなされる。
【0034】
また、前記チョッピング手段CHを構成する円筒体51内には、圧力検出手段(例えば電離真空計)Gが配置されており、前記したチョッピング手段CHにより圧力変調がなされた真空圧を測定するようになされる。
【0035】
一方、前記した試験気体導入部2は、前記雰囲気チャンバ容器11内に水蒸気もしくは試験気体を導入するためのものであり、導管piおよび開閉弁A,Bを介して純水が貯留された水槽21に連通するルートと、導管piおよび開閉弁A,Cを介して試験気体の貯留容器(ボンベ)22に連通するルートとが形成されるように構成されている。
【0036】
また、前記した第1の真空排気系3には、ターボ分子ポンプ31および油回転ポンプ32が具備されており、開閉弁D,Eの開弁により前記雰囲気チャンバ容器11内を例えば2kPa程度に吸引できるように構成されている。さらに開閉弁Fの開弁により漏洩防止チャンバ容器13内の吸引もなされるように作用する。
【0037】
また、前記した第2の真空排気系4にも、ターボ分子ポンプ41および油回転ポンプ42が具備されており、開閉弁Hの開弁により前記真空チャンバ容器12内を吸引するように作用する。この場合、第2の真空排気系4は、前記雰囲気チャンバ容器11内の吸引圧力よりも、より高真空の状態に真空チャンバ容器12内を吸引するようになされ、前記雰囲気チャンバ内に水蒸気または試験気体が導入されて透湿度等が測定される期間において、前記真空チャンバ12内の吸引を続けるように動作する。
【0038】
図2は前記したチョッピング手段CHおよび圧力検出手段(例えば電離真空計)Gを含む同期抽出手段(ロックイン検出手段)の構成をブロック図で示したものである。前記チョッピング手段CHは前記したとおり、円筒体51により構成されており、この実施の形態においてはその周側壁の対向する位置に、円形の開口51aがそれぞれ施されている。そして、前記円筒体51は、その軸芯を中心にしてアクチェータ(例えばモータ)52により回転駆動されるように構成されている。
【0039】
また、前記圧力検出手段Gは、前記したとおりチョッピング手段CHを構成する前記円筒体51内に収容されており、したがって前記開口51aが回転移動することによるシャッタ作用により、前記試料膜Saを透過した例えば水蒸気の分子流にチョッピング作用(断続作用)が与えられる。これにより、前記圧力検出手段Gは、前記チョッピング手段CHにより変調された圧力を測定することになる。
【0040】
前記モータ52からは所定の回転角ごとに、図2にイメージで示すパルス出力(a)が発生するようになされており、これにより前記円筒体51に形成された開口51aが真空チャンバ12における絞り部12cを横切るごとに1パルスを発生するように作用する。このパルス信号は波形成形回路53に供給されて波形成形がなされる。前記波形成形回路53は、一般的にPLL回路が用いられ、このPLL回路により前記したモータ52からの前記パルス出力に同期した波形成形信号が生成される。
【0041】
前記波形成形回路53からの信号は、移相回路54に与えられ当該移相回路54により波形成形回路53からの前記信号の位相が調整され、乗算手段55に供給される。すなわち、移相回路54により位相が調整された前記信号は乗算手段55の乗算制御信号として利用される。なお、前記した波形成形回路53および移相回路54を抽出信号発生手段と称呼する。
【0042】
一方、前記した圧力検出手段Gより得られる圧力検出信号、すなわち図2にイメージで示す変調圧力信号(b)は、プリアンプ56により増幅され、バンドパスフィルタ57を介して高調波成分が取り除かれ、前記した乗算手段55に加えられる。前記乗算手段55においては、ローパスフィルタ58と組み合わされることで、前記した抽出信号発生手段からの乗算制御信号に同期して、圧力検出手段Gにより得られた変調圧力信号を同期検波するヘテロダイン検出器として動作する。
【0043】
前記ローパスフィルタ58の出力端Outにもたらされる検出信号は、後で詳細に説明するとおり、真空チャンバ12に由来するバックグランド圧力とは区別された、前記試料膜Saを透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流に基づく圧力値となる。したがって、得られた値に基づいて試料膜Saの透湿度もしくは気体透過度を定量的に得ることができる。
【0044】
図3は、図1および図2に示した測定装置のロックイン検出動作をさらに詳細に説明する模式図である。なお、図3に示す模式図においては、すでに説明した図1および図2に示す測定装置の各部に相当する部分を同一符号で示している。
【0045】
そして、図3における符号Pwは雰囲気チャンバ11内の圧力を示し、p1およびV1は第1真空チャンバ12a内の圧力および容積を示している。またFは試料膜Saを透過する放出ガス量、Q1は第1真空チャンバ12a内における単位時間あたりの放出ガス(脱ガス)量を示している。
【0046】
さらに、p2およびV2は第2真空チャンバ12b内の圧力および容積を示しており、Q2は第2真空チャンバ12b内、および真空計Gからの単位時間あたりの放出ガス(脱ガス)量を示している。加えて、前記真空チャンバ内は図示せぬターボ分子ポンプにより、圧力p0で吸引が継続される。この時のターボ分子ポンプの排気速度をSで示している。またチョッピング手段CHが開いたときのコンダクタンスをScで示している。
【0047】
図3の模式図に示す各パラメータを用いて、前記チョッピング手段CHが開閉動作したときの変調圧力量を考察すると次のとおりとなる。すなわち、変調度Schにおける圧力の応答時間は、次に示す数式2に示すとおりとなる。
【数2】

【0048】
チョッパの周期Tより十分長い時間にわたる圧力p1の平均を/p1(p1+オーバラインで標記)、同じく圧力p2の平均を/p2(p2+オーバラインで標記)、チョッパの時間平均コンダクタンスを/Sch(Sch+オーバラインで標記)とすると、次の数式3のように示される。
【0049】
【数3】

【0050】
図4は、チョッピング手段CHの動作周期をT、チョッパの開口時間をτ(但し、τ<<T)としたときの、変調を受ける第1真空チャンバ12a内の圧力p1、第2真空チャンバ12b内の圧力p2、コンダクタンス変調Schの関係を示したものである。
図4に示されたように、チョッパの開口時に、前記p1は急激に低下し、前記p2は瞬時に増加する。その後p2は真空ポンプにより、(S/V2)p2のレートで除々に圧力が減少していく。
【0051】
チョッパ開口直後の圧力p2の上昇p20は、周期Tにわたり、第1真空チャンバで発生あるいは流入したガス量(Q+F)Tを用いて、次に示す数式4のように表すことができる。
【数4】

【0052】
その後のp2(t)の時間減衰は、V2(dp/dt)=Q−Sp2を解いて、次に示す数式5のように表現することができる。
【数5】

【0053】
したがって、p2の値を前記したようにロックイン検出(同期検波)することにより、バックグランド圧力とは区別された前記分子流に基づく圧力を検出することが可能となる。
【0054】
一方、ロックインアンプでの検出振幅Δp2は、次に示す数式6として表すことができるので、これに前記した数式4および数式5を代入することで、数式7を得ることができる。
【数6】

【数7】

【0055】
また、前記数式7に示したロックイン検出時のΔp2と、数式3に示した全圧/p2(p2+オーバラインで標記)との関係を比較すると、全圧/p2においては、第1真空チャンバ12a内において発生する放出ガス量Q1と、第2真空チャンバ12b内において発生する放出ガス量Q2とが加算され、これが背景ノイズとして検出限界を低下させることになる。
【0056】
これに対して、ロックイン検出時のΔp2については、第2真空チャンバ12b内において発生する放出ガス量Q2は、背景ノイズとしての影響を与えないことになる。換言すれば、比較的容積が嵩む真空計Gが収容される第2真空チャンバ12b内において発生する放出ガス量Q2は、定常的な量である限り測定限界を低下させる要因にはならない。
【0057】
実際の測定においては、真空引きに要する測定準備時間が有限であること、圧力変調を起こすための機械動作にともなう熱的変動を完全には除去しきれないことから、完全に定常的な前記Q2は実現できず、これが残留する背景ノイズの原因となる。この残留ノイズは前記Q2を減らすことでさらに低減可能であり、同時にこれは測定準備時間を短縮することにつながる。
【0058】
なお、前記したロックイン検出においては、第1真空チャンバ12a内において発生する放出ガス量Q1と、試料膜Saを透過する放出ガス量Fとは区別をすることができないものの、第1真空チャンバ12aは小容量に形成することができるので、放出ガス量Q1はそれに応じてきわめて少なくさせることが可能である。したがって、変調圧力成分をロックイン検出するこの発明にかかる測定装置によると、前記した理由による効果が相乗的に働いて保護膜の透湿度の測定限界を大幅に上げることが可能となる。
【0059】
また、前記した数式7からは、第2真空チャンバの体積V2、検出周波数Tに対し、ポンプ流量を調節することにより、検出感度を最大化できることが理解できる。
【0060】
図5は、この発明にかかる測定装置において、真空チャンバによる放出ガスの影響の度合いを検証した実験結果を示している。すなわち、この実験においては、試料膜Saとして、0.5mm厚のPET板〔透湿度は0.2g/(m2 ・day)程度〕を用いている。そして、2kPaの水蒸気圧が雰囲気チャンバに導入され、真空チャンバ内を前記したターボ分子ポンプにより吸引しつつ、17000秒の経過時に水蒸気を導入し、21600秒(6時間)後以降は、水蒸気の供給を遮断して空気圧とした場合の全圧および変調圧力の変化特性を示している。
【0061】
なお、図5において白丸(○)で示す線図は全圧(Pa)をログスケールであらわしたものであり、黒丸(●)で示す線図は変調圧力(Pa)を示している。また三角(▲)で示す線図は、水蒸気導入雰囲気チャンバ11内の水蒸気圧力を示している。
【0062】
図5に示す特性線図から理解できるとおり、水蒸気圧力を加えた時に、全圧は10-6乗台の背景圧力から一桁程度の上昇を起こす。一方変調圧力は10-10 乗台から3桁以上の変化を示す。後者は背景圧力変動に非敏感であり、試料を通過してきた水蒸気量と全圧よりも良い相関を示す。この結果、前記した測定結果の例によると、10-4g/(m2 ・day)程度まで、透湿度の測定限界を上げることが可能となる。
【0063】
なお、図5に示す例は水蒸気を対象とした保護膜の透湿度の測定限界について検証したものであるが、水蒸気以外の気体を対象とした透過度を測定する場合においても同様の作用効果を得ることができる。
【0064】
図6は、この発明にかかる測定装置におけるチョッピング手段の基本構成を示した模式図であり、これは本件出願人が先に出願した図7に示す測定装置におけるチョッピング手段との構成上の比較を明瞭にするものである。なお、図6においては図1に基づいて説明した各部と同一の機能を果たす部分を同一符号で示しており、したがってその詳細な説明は省略する。
【0065】
図6に示す円筒体51を利用したチョッピング手段と、図7に示す円盤61を利用したチョッピング手段とにおいて、それぞれに同一径の開口51aおよび61aを形成させた場合においては、図6に示すチョッピング手段は、図7に示すチョッピング手段に比較してチョッピング手段自体とこれを収容する真空チャンバ容器の内壁の面積を極端に低減できることが理解できる。
【0066】
しかも、図6に示す円筒体51を用いたチョッピング手段によると、すでに説明した実施の形態のように円筒体51内に真空計Gを収容することができるので、脱ガスの発生面積を縮小し、これに伴い背景ノイズを低減させて測定限界を上げることができることなど、すでに説明した発明の効果の欄に記載した独自の作用効果を得ることができる。
【0067】
なお、前記した実施の形態においては、チョッピング手段CHを構成する円筒体51内に真空計Gを収容しているが、真空計Gは円筒体の外側に配置し、試料膜Saと真空計Gとの間に、チョッピング手段CHを構成する円筒体51を介在させるようにしても良い。
【0068】
また、図示したチョッピング手段CHにおいては、円筒体51の周側壁の対向する位置に、円形の開口51aがそれぞれ施されているが、前記開口の数や開口の形状については、任意に設定することができる。
【0069】
さらに、図示した真空チャンバは、絞り部12cを介して第1真空チャンバ12aと第2真空チャンバ12bに別けられているが、これは必ずしも絞り部12cを設ける必要はなく、チョッピング手段CHを試料膜Saと真空計Gとの間に配置することで、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 チャンバ部
2 試験気体導入部
3 第1真空排気系
4 第2真空排気系
11 雰囲気チャンバ容器
12 真空チャンバ容器
12a 第1真空チャンバ
12b 第2真空チャンバ
12c 絞り部
13 漏洩防止チャンバ容器
21 水槽
22 ボンベ
31 ターボ分子ポンプ
32 油回転ポンプ
41 ターボ分子ポンプ
42 油回転ポンプ
51 円筒体
51a 開口
52 モータ
53 波形成形回路(PLL回路)
54 移相回路
55 乗算手段
56 プリアンプ
57 バンドパスフィルタ
58 ローパスフィルタ
A〜F,H 開閉弁
G 圧力検出手段(真空計)
CH チョッピング手段
Sa 試料膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気から密閉される雰囲気チャンバと、
外気から密閉される真空チャンバと、
前記雰囲気チャンバと真空チャンバとの間に試料膜を挟持して前記雰囲気チャンバと真空チャンバとを密着固定する固定手段と、
前記雰囲気チャンバに接続され水蒸気もしくは試験気体を前記雰囲気チャンバに導入する水蒸気もしくは試験気体の導入手段と、
前記雰囲気チャンバと前記真空チャンバとに接続され前記雰囲気チャンバ内と前記真空チャンバ内とをそれぞれ独立に吸引可能な真空発生手段と、
前記真空チャンバの内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記真空チャンバ内において、前記試料膜と前記圧力検出手段との間に配置され、前記試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させて圧力変調を実行するチョッピング手段と、
前記雰囲気チャンバと前記真空チャンバとで前記試料膜を挟持した状態で前記雰囲気チャンバと真空チャンバ内を真空状態とし、前記雰囲気チャンバ内に水蒸気または試験気体を導入して前記真空チャンバ内の吸引を続ける状態において、前記チョッピング手段により変調された変調圧力を、前記変調動作に同期したタイミングで前記圧力検出手段より抽出する同期抽出手段とが具備され、
前記チョッピング手段は、円筒体により構成されて周側壁に開口が施され、前記円筒体の軸芯が回転可能に支持されると共に、当該円筒体に施された前記開口の回転移動により、前記試料膜を透過した水蒸気もしくは試験気体の分子流を断続させるように構成され、 前記同期抽出手段により抽出された前記圧力検出手段による測定値に基づいて、前記試料膜の透湿度もしくは気体透過度を得ることを特徴とする透湿度・気体透過度測定装置。
【請求項2】
前記圧力検出手段が、前記チョッピング手段を構成する円筒体内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された透湿度・気体透過度測定装置。
【請求項3】
前記同期抽出手段が、前記チョッピング手段による前記分子流の断続作用に同期して生成されるパルス出力に基づいて抽出指令信号を生成する抽出信号発生手段と、
前記圧力検出手段により得られる測定値を前記抽出指令信号の発生タイミングに同期して抽出する乗算手段およびローパスフィルタからなるヘテロダイン検出器と、
により構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された透湿度・気体透過度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185760(P2011−185760A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51674(P2010−51674)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(504265754)財団法人山形県産業技術振興機構 (60)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)